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宮田裕章さんと考える データとわたしたちの社会
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2020年10月14日
それでも夜は明ける ~対談・宮田裕章さん×石井光太さん<後編>~
 9月30日放送の「“夜の街”と呼ばれて ~新宿 歌舞伎町~」を見た石井さんと宮田さんによる対談企画。前編では居場所を求めて集まる夜の街で働く人たちの苦境、現在のホストクラブが抱える負の側面、コロナ禍で絶たれた人のつながりなどが話し合われ、一面的には語れない歌舞伎町の姿が見えてきました。後編では現在の難局を乗り越えるための街ぐるみの取り組みや、これからの支えあいの在り方、さらにドキュメンタリーの役割にも話は及びました。

(対談取材:今氏源太)

新宿区とホストクラブの対話
宮田:歌舞伎町のある新宿区では、経済と感染予防を両立するための模索が街ぐるみで行われています。今回の番組でも新宿区長とホストクラブの経営者たちが話し合う場面がありましたが、良いシーンでした。



石井:新宿区長が本当に素晴らしいと思ったのは、行政として自分たちの政策だけを押し付けるのではなくて、相手の立場に立つことができたのではないかなと思いますね。

宮田:対話の場でしたよね。まず経営者という社会と接点を持たなければいけない人たちに対策への理解を得る。そうすると経営者が大切にしていることは従業員のホストたちにとっても大切なことですから対策が広がっていく。つながりを作りながら前向きに感染対策を行ったと思います。

石井:テレビだと区長の後ろにいた人とか画面には出てこないような、保健所の担当者や現場の方々ですよね。そういった人たちがお店ときちんと話をしたり、クラスターが起きたときにもきちんと対応したというのがとても大きかったんだと思います。



宮田:私は感染実態の調査や政策的な取り組みを行ってきましたが、接待を伴う飲食店もそうじゃないところも対策をやっていればかなり感染は下がるんですよね。飲食が悪いとか夜の街そのものが悪いというわけではなくて、まずはきちんとみんなで基本をやりましょう、と伝えてきました。最近まで新宿区全体が悪者という印象もあり、行政は焦っていたんでしょうね。今のところですけれども現在の小康状態まで持っていったのは彼らの尽力によるところがあります。

大切な人を守りたい気持ちは共通する
石井:ホストクラブの感染対策でいうとオーナークラスの人は本当に考えていますね。いろいろなホストクラブから話を聞いたなかですごく印象的だったのが「自分たちにとって社会からの批判はどうでもいい。守らなければいけないのはお店を信頼して来てくれるお客さんだ」という言葉です。彼らは10代の時から表の社会で生きることを捨てて歌舞伎町に来て、ずっと刹那的な存在として闇の深淵(しんえん)も知りながら20年30年と生きてきた。今さら社会に支援を求めるつもりなんてないし、社会からいくら嫌われても構わないという覚悟はある。ただし、そんな自分たちを信頼し、応援してくれているお客さんだけは守りたいって言うんです。夜の街でのつながりで生きているからこそ、そこで信頼を失ったら自らの存在価値自体もなくなってしまうんですよね。



石井:実はそのオーナーの店でクラスターが発生してしまったんですが、保健所からはひぼう中傷される恐れがあるので公表する必要はないと言われているのに、真っ先にホームページで公表したんですよね。なんですぐに公表したの?と聞くと、営業再開後に来てくれた100名以上のお客さんには連絡がついて事情を説明できたんだけど、3名のお客さんとだけは連絡がとれなかったからだと。その人たちに迷惑かけてしまったら2度と来てくれないし信頼を失ってしまうからだというんです。一般的な飲食店から考えればやりすぎなくらいにも思えますよね。

宮田:番組で取り上げたホストたちも一生懸命マスクつけて感染対策をしていました。その努力は絶対に無駄ではないですね。

石井:確かに僕たちと夜の街には大きな隔たりはあるんだけれども、大切な人に感染させたくないとか、危険にさらしたくないという気持ちは一緒じゃないですか。その点では完全にイコールになると思うんです。僕たちが考えなければいけないのは、全然違うところで生きているとしても、必ずどこかで一致するところがあるということです。違うところを探して批判するのではなく、一致するところがひとつでもあればそこで一緒に何かをやっていくという考え方が大切なのだと思います。

宮田:お互いに何を大事にするのかということを理解して、相手が大切にするものを一緒に大切にするということですね。

お金が必要、だけではない
宮田:私がもうひとつ番組で印象に残っているのはシングルマザーの女性です。シングルマザーの貧困率というのは日本では非常に高くて、平均的な家族モデルからこぼれ落ちてしまったときに急に生活が立ちいかなくなってしまう、今の日本の課題を象徴していると思いました。

石井:そうですね。いろいろな理由で育児困難になった女性たちを取材したことがあるんですけど、共通していたのは困難な状況になったときに真っ先に男が逃げてしまうんです。すると就労に不利な条件を持っている女性だけでは、子供を支えられなくなってしまいます。

宮田:普通の職で稼ぐことがなかなか難しい場合、夜の街がどうしても選択肢に入ってくる。それは歌舞伎町だけの問題ではなく社会という視点で見ても、風俗産業で働くことを前提にしないと生きていけない人たちがいるということですね。



石井:こうした女性をどう支援するかと考えたときに金銭的なサポートさえあればいいのかというとそれだけではないと思います。実は一部には生活保護をもらいながら風俗で働く女性もいるんです。彼女たちは「お金もほしいけど、それ以上に自分が必要とされる場がほしいから働いているんだ」と言います。ただ家に居続けるよりキャバクラでもスナックでも風俗でもいいから働いて、自分が輝ける場所が必要なんです。その気持ちはすごくわかります。

宮田:そうですね。日本の今の生活保護制度には、単に命を失わないというだけで支えている側面があります。そこから出ようとすると今度はお金を借りることが難しくなるなど、制度から抜けづらい仕組みになっています。



石井:一次的な緊急支援、つまり「命を助ける支援」というのはずっと足りないといわれてきましたが、貧困者支援、虐待防止などを支えるネットワークはかなり増えてきています。現に、ホームレスの数、自殺者の数、少年事件の数なんかは減少している。十分とは言いませんが、支援の環境は少しずつ整ってきている。しかし次のステップとなる二次的な自立支援、つまり命を助けた後に、「その人たちが社会で活躍できるようにする支援」はまだまだです。命を助けても、その人たちが社会に居場所を見つけられなければ、生殺しにしているのと同じです。再犯の問題、貧困の世代間連鎖の問題も同じ。社会的に弱い立場の人を社会に結びつけることがうまくいっていないことを意味します。個人的には、一次的な緊急支援だけでなく、二次的な自立支援の充実が必要になっているように思います。これからの時代、支援のベクトルをどこに向けるのか、2020年以降の支援のステージを考えていく必要があると思います。

宮田:“命を消さない”という目標だけではなくて“命輝く”を目指すということですね。一人ひとり輝けるようにどうするかっていったところまで含めた社会や支援の支え方を考えていかないと、負のスパイラルを止められないですね。まさにSDGsも“命を消さない”というところから始まった目標ですが、次のステップでは1人ひとりが輝くという視点が必要になるでしょう。1人ひとりが豊かに生きるということを支える中で、だれも取り残さないという世界の実現に近づくことができると考えています。

辛い過去も、その人らしさ
石井:社会からドロップアウトした経験や過去の傷も含めて生きていくための仕組みが大切です。一時代前は建設や料理などの職人の仕事が「更生の場」としての意味合いを持っていました。職人の世界には、ある種の不良気質みたいなものがあったりします。親方を筆頭にしたひとつの軍団みたいな組織があって、親方は「べらんめえ」口調だけど、手に職を持って富と名声を勝ち得ているので魅力がある、とか。そこに若い人たちが憧れを持ってついていく。元不良みたいな人たちからすれば、それまでの人生と同じようなスタイルで正業に就いて輝くことができる。でも、今はそういう空気が社会から減ってしまっています。料理店なんて全自動化されて、セントラルキッチンでつくったものをレンジでチンして提供するみたいな。服装も言葉遣いもすべてマニュアル化されている。手に職なんてつかないし、雇用形態だって悪いまま。つまり、それ以前の生き方のままでは、正業に就いて社会で活躍しにくいんです。自己肯定感という言葉はあんまり好きじゃないんですが、やはり自尊心を保てる仕組みが非常に失われてしまっていると思いますね。



石井:ただ、そんな中でも、過去の経験や傷を生かして輝いている人はたくさんいます。僕の知り合いの女性は、虐待や弟からの性被害の経験があり、その後風俗で働くようになって心を病んで自殺寸前までいきました。でも、30代後半になって保育園で働き始めて人生が変わるんです。仕事の何が生きがいになったかというと、虐待された子供のことが理解できるというんですね。自分にもその経験があるからです。

宮田:自分の経験をバネにする人は大学の研究者にもたくさんいます。

石井:いますよね。不登校だったからその経験を活かすために教師になる人もいるし、体が弱く入退院をくり返していたから看護師になったとか。つまり自分にとってマイナスの部分でも社会に出たときにそれを生かせる。それはやはり人間の強さだと思います。僕はこれを「当事者パワー」と呼んでいるんですけど、失敗したとか不幸な生い立ちがあったとかそういうことも含めてそれを生かせるような社会を目指していかないといけないと思います。

現場で感じた葛藤も撮れ
(番組ディレクター 菊地 啓) 実は私自身、かつて歌舞伎町で4年ぐらい働いていたことがありまして。

宮田:そうだったんですか。

菊地 啓ディレクター

菊地:はい。思い入れの強い街です。今回取材した方々は、歌舞伎町とあまり関わりのない人たちが自分たちのことを好き勝手に語っていることに傷ついたり、怒ったりしていました。ただ、現場でホストクラブが必要だと訴えるホストたちやお客さんの声を聞いて、彼らに共感しながらも、一方で先ほど(前編で)話されていたホストクラブの負の側面や業の深さというのも知って、それでもホストが必要なのかと、答えのない問いに悶々(もんもん)とするところがありました。コロナ禍でいやおうなくこうしたことが問われ始めてると感じています。

宮田:コロナとデジタル化というふたつのうねりによって、今全ての職種が問われているんですよ。その仕組みって要りますか?その会社って要りますか?その仕事って要りますか?そこから問いを立て直していかないと次の社会では生き残れないという、結構厳しい波がまさに来ています。

石井:東日本大震災もそうだったと思うんですけど、時代が変わる時は考えても簡単に出ない答えを、それでも探し続けるしかない。ひとつひとつ自分なりの答えを見つけて、その中で生きていくしかない。それしか方法はないと思います。

菊地:今の僕にできることは現場で生きている人の姿を素直に伝えていくしかないなと思って今回取材をしました。

石井:メディアの仕事というのはそういうものだと思います。今回取り上げた夜の街がまさにそうですが、現実ってものすごく複雑で多面的なものなんです。しっかりと現実と向き合ったら、答えなんて簡単に出るはずがないんですよ。現実の前で懊悩(おうのう)することこそが、答えを出すより、はるかにリアルに迫れるということがある。だからこそ、オールVTRにするときは、もっとディレクターが一人称で内面を語るということが僕は必要だと思います。現場で直面した矛盾や答えの出ない苦悩をそのまま提示して放送する。これが問題提起となり、様々な議論を呼び起こすことできれば、社会を変えていくことにつながるんじゃないでしょうか。

宮田:NHKとして中立で客観的なものを撮ってきたというより、ひとりの人間として現地を見てきたという方が面白い部分もありますよね。主観をあえて持ちこみ、葛藤にあがきながら中に入って映したものは考えさせられますよね。



石井:そうですよね、スタジオの専門家がこうですと言うよりも、そのVTRの方が深かったりしますからね。夜の街には独特な魅力がありますよね。菊地さんには取材者として、どんどんその沼にはまっていただきたいと思います(笑)

宮田:ありがとうございました。

それでも夜は明ける ~対談・宮田裕章さん×石井光太さん~前編は こちら
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0015/topic010.html

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2020年10月10日
それでも夜は明ける ~対談・宮田裕章さん×石井光太さん<前編>~
 新型コロナの流行に伴い、政府や自治体が警戒を呼びかけ続けたのが、いわゆる”夜の街”と呼ばれる歓楽街。世間からの風当たりは強まり、客足は激減し、今も先の見えない苦境に立たされています。9月30日放送の「“夜の街”と呼ばれて ~新宿 歌舞伎町~」では老舗ホストクラブや風俗店で働く女性らの生きる姿を1か月に及ぶ密着ドキュメントで追い、放送後多くの反響が寄せられました。今回は長年にわたって歌舞伎町の取材を続ける作家・石井光太さんと宮田さんによる対談を実施。番組の感想に始まり、ホストビジネスの光と影、メディアの役割、さらにこの難局を乗り越えるためには何が必要なのかー。白熱した2人の対話を前後編でお届けします。

(対談取材:今氏源太)


「ホストってなくなると思う?」
宮田:まず番組をご覧になって石井さんはどう思われましたか?

石井:今回の番組は歌舞伎町で働く人たちが助け合いの中で頑張って生きる姿を描きましたが、それがある種の疑問を投げかけたのではないかと思います。本人たちが一生懸命生きていて、それが正しいとか間違いとかではない。でも世間からの風当たりなど、直面する課題はある。これからどうしていけばいいのかを問うような形で番組が終わるじゃないですか。見た人それぞれが多分考えるだろうし、それがホストクラブや水商売、あるいは社会をどう変えていくのかという議論につながっていくと思うんですよね。もし僕たちがスタジオ出演するとああですねこうですねと言ってある種の結論づけをしてしまう部分があるんです。VTRだけの構成にすることで疑問を投げかけるだけにすることができますし、それがVTRだけでしかできないことじゃないかと思いますね。
もうちょっと放送時期が早い方が良かったのかなと思うんですけれども。

宮田:夜の街と言われ、感染拡大の中心とされた報道が一段落したあとですからね。

石井:夜の街へのバッシングが強かった時期から2か月ぐらい経っていますからね。その時だったらもっと意味があったと思うんですけれども。

宮田:石井さんにとって印象的なシーンはありましたか?

石井:そうですね。ヘアメイクの女性のシーンはいろいろなものを象徴していたと思います


ホスト・渦巻レオンさんのヘアセットをするシーン
ヘアメイク女性「ホストってなくなると思う?」
渦巻さん「なくならないと思うよ、俺は。だってオアシスだもん、ホストって」

石井:まず、あのノリじゃないとホストなんてできっこないんですよ。あの軽いノリをお客さんは欲するんですよね。仕事帰りのお客さんに「じゃあ飲もうぜ」「難しいことはもういいじゃん」って。何も考えないで楽しむっていう、もの凄く刹那的な男と女がいる密室という空間がホストクラブの一番の醍醐(だいご)味なんです。逆にそうでなければホストクラブじゃないんですよね。
元々夜の街自体、居場所のない人たちがどうしても集まってきやすいんです。例えば家庭環境が非常に悪い中で育って18~19歳で東京に出てきて。そういった人からするとホストクラブで働くことで、一般的な雇用ではかなわない、お金を持てるチャンスがつかめます。ある種の弱者の居場所という見方があり、今回はそこにスポットを当てて実際にホストの言葉とかお客さんの言葉を受け止めた印象がありました。

女性に重い金銭負荷をかけるホストたち
石井:ただし夜の街というのはそれだけではなくて、ホストクラブのシステムというのは非常に残酷な面もあるんです。

宮田:石井さんはホストクラブの歴史を紐解いた著書を新たに出版するなど、歌舞伎町の背景について非常に造詣が深いですね。この点、詳しくお聞かせください。



石井:例えば昔のホストクラブだとお酒の値段というのは一般的な居酒屋の3倍くらいでした。それが今は10倍くらいに跳ね上がっているんですよ。普通に遊べば一晩で10 万円以上あっという間にいってしまいます。例えば、昔からホストクラブのお客さんの主な客は風俗で働く女性が多いですが、今の時代の風俗っていうのは全然稼げないんですよ。20年くらい前は、デリバリーヘルスとかファッションヘルスで働いていれば、頑張れば月収100万弱くらいはいきました。

宮田:昔はブランド品をたくさん身に着けていましたよね。確かに今の夜の街で働く女性たちにはそんな印象はありませんね。

石井:人にもよりますが、今では月収20~30万の子も珍しくありません。昔からすると稼ぎが3分の1とか4分の1くらいになっていて、30~40代の人だと生活するのがやっとということもあります。こういう女性たちは育った家庭環境など様々な理由から社会に居場所が作れず、今も安心できる家庭がなかったり、仕事の話ができるような友だちがいない人も少なくないです。1日中働いて疲れやストレスがたまってしまうぎりぎりのなかで、どうやって発散するかといえばホストクラブで大騒ぎしたり自分がお姫様の状態になってスカっとして、それで翌日また風俗で働いていけるというようなことなんですよ。ある種の麻薬のように散財してうっぷんを晴らせるから風俗業界で仕事をつづけられるという方々がいるんですよね。
ただそこでホストは女性たちに、ひと昔前と比べると何倍もの負荷をかけて、さらにアフターに連れて行っておごらせることもあります。今のホスト業界の構造はとにかく女性をつぶしてしまうほどの負荷をかけていると、ホストクラブのオーナーたちは言うんです。昔だったら1人の女性が来たら少なくとも何年間かは通えるくらいにして、そんなにとらなかったんですよね。

宮田:営業負荷をものすごくかけるということですね。

ホストバブルの影で・・広がる潜在的な歪み
石井:なぜそうなっているかというと、実はコロナ前のときには日本の歴史上1番のホストバブルだったんです。20年前は歌舞伎町に100軒弱ホストクラブがあったんですけれども今ではネットに載っているだけで約240軒以上です。

宮田:そんなにあるんですか!?


石井さんは長年にわたり歌舞伎町の取材を続け、
ホストクラブの歴史をまとめた新刊を先月発表した。

石井:歌舞伎町のホスト街ってわずか300メートル× 300メートルくらいの狭いエリアですからね。そこにとにかくホストクラブが溢れかえっている。店は少しでも人気ホストがほしいですから、多額の支度金を出して引き抜きをし合っている状態です。一方で、女性のお客さんの数はそんなに大きく増えてなく、特に風俗で働く女性はあまり稼げていないですから、1人あたりに負荷をかけるしかないんですね。

宮田:なるほど。例えるならガチャ課金を軸にしたモバイルゲームにも近いかもしれないですね。最初は無料で遊べますといって裾野を広げたあとに、より熱中する数%の人が毎月大金を課金することで売り上げを稼いでいます。一部の人からまとまって稼ぐ構造になっているんです。



石井:そうですね。あるいはアイドル商法と同じなんですよ。テレビで見て興味をもったファンを取り込んで、CD、握手券、グッズ、ファンクラブ会員費、ツアーなど様々なものを売り込む。 ただ大きく違うのは、アイドルの場合はファンの人数の母数が違うので1人から取るお金はそんなに多くなくていいんですよね。

宮田:番組ではホストがお客さんをとにかく楽しませる、まさに笑顔を売るさまが印象的でした。その一方で本人たちはきれいなところしか実は見ていないという側面もあるわけですよね。歌舞伎町のど真ん中にいるようで暗部の部分を見ないで働いているような人たちもいるわけですね。

石井:いますね。ホストたちが「俺たちはオアシスだ」と言っている気持ちもわかるんですよ。見えない構造ができてしまっているし、女性たちがホストを必要としているので。



宮田:女性たちのニーズがあり、ホスト本人たちにも悪意がないからといってシステム全体が正当化されるわけではないという、ここは独立して考える必要があるんでしょうね。

石井:お客さんの女性たちはずっとつらい境遇の中で生まれ育っている人も少なくないので、自分たちはこれで幸福なんだと言いますよ。だけどやはりその子たちの10年後20年後30年後を考えたときに、社会全体として本当にいいのか。その女性たちにとって果たして本当にいい場所なのかって言われたらそうではないかもしれないですよね。

宮田:印象的なシーンの話に戻りますが、ヘアメイクの女性が「ホストってなくなると思う?」と問いかけたときにホストの男性は「なくならないと思う」と言っていましたが、それに対して女性は返事をしませんでした。多分この女性はホストクラブのお金のシステム全体のこととか、どれくらいの女性が不幸になっているかとかを知っているのでは思いました。それらを含めて考えると少なくとも今のままじゃいけないっていうことを多分感じているのだろうなと私は受け取りました。

人のつながりが断たれたときに
宮田:このコロナ禍において、夜の街の方々から石井さんはどんなお話を聞かれてきたのでしょうか?

石井:いろいろな方を取材しましたけれども、ギリギリの綱渡り状態で生きてきている人が思っていたよりもはるかに多いという印象を強く感じました。今までギリギリの綱渡りをしている人たちばっかり追いかけてきたつもりですが、さらにこんなにいるのかと。



宮田:経済が止まった瞬間に生活の危機に直面した人が急に出てきたということですか?

石井:経済というよりも「人のつながり」でした。例えばある風俗店で働く女性の話ですが、店から大切に扱われて、男性客からは「かわいい」「癒される」とチヤホヤされていた。歌舞伎町こそが自分が輝ける場所だと思っていた。それなのに、コロナ禍で店から「寮を閉めるから出て行け」と言われて追い出され、ホームレスになってしまったんです。仕方なく、いつも優しくしてくれていた内勤の男性や、男性客にSNSで助けを求めた。そしたら、全員から「タダでセックスさせないと泊めない」と冷たく言われた。今までは男性客の方から「おごるからプライベートで会おうよ」と言われていたのに、弱い立場になった瞬間に一気に足元を見られて搾取される存在になった。彼女はショックで手首を切ってしまいました。もともと風俗という一種の虚飾の世界でなんとか生きていたのに、コロナでそれが揺らいだ瞬間に人と人とのつながりが急変してしまう。厳しすぎるリアルを突きつけられてしまう。それで、元気だった女性がわずか数日で自殺未遂をしてしまうまでになった。こういう子を見ていると、人間とはこんなにも脆く壊れてしまうのかというのは感じましたね。

宮田:番組でも、出てくる人々はお金よりも生きる場所が必要だと語っていましたよね。実家に帰るとか、行政の支援とか、お金は最終的にはいろいろな手段で何とかなる 。ただ人とのつながりの中で生きている点が失われることを皆さん恐れています。

石井:そうなんです。システムの話とはある意味逆説的なんですけれども、彼女たち彼らにとって実はお金っていうのは二の次でそれよりもやっぱり人なんですよ。風俗やホストクラブといった空間がつくりだす関係性の中で、彼らは生きている。それなのに、コロナ禍でその空間に亀裂が生じると、関係性が急に変わってしまう。先ほどの風俗の女性であれば、いきなり周りの全員から食い物にされてしまう。その時に自分が虚構の中で生きてきたということを初めて知るわけです。その絶望たるやすごいですよ。夜の街はこれほどまでに、人と人とのつながりがあるようでないのか、というのはやっぱり感じてしまいます。

「一瞬の輝き」の先を問う
宮田:長い目で見たときのサスティナビリティ、長期的な幸福とは矛盾している部分がありますね。今回の番組でもホストたちが今この瞬間を楽しむ、一瞬の輝きを追い求めるような姿があるんですけれども、果たしてそれだけでいいのだろうかということにもつながってくるんですね。

石井:そうなんです。少なくとも今を生きるという意味では彼ら彼女らには必要な場所ではありますが。

宮田:ただし一時的な拠り所だとして、それがある種の依存による快楽とは違わないのかという問いは常に必要だということですよね。



石井:ホストクラブに来る女性たちが長い目で見て損をしない仕組みがどうやったらできるだろうかということを考えていかないといけないと思います。料金面一つとっても、普通の居酒屋の2倍~3倍くらいであれば女性一人の負荷も減ります。そうすれば、ホストクラブしか息抜きの場がない女性が一晩で生活を破綻させられるような料金を払わなければならなくなることは減ります。もちろん、それ以外にも指名制度やアフターの習慣など様々なものを変えていく必要はありますが、構造自体を変えていくオーナーやお店が出てきて、そこの人気が出てみんなが追従しながら徐々に変わっていくということに期待するしかないかなと思います。

宮田:そのお客さんが笑顔で居続けられるための支えとしてのホストクラブみたいな形になって広く認められるようになれば業態そのものが革新されていきますよね。

石井:今回の番組では歌舞伎町のお金の仕組みは描かないで構成されていました。それはそれでひとつの方法だとは思うんですけど、夜の街とは何かといった議論を正当にするためには、やはりホストクラブの持つ負の側面にも目を向けないといけないと思いますね。

宮田:コロナ禍で人々が夜の街と呼び続けた場所、そこが単なる感染リスクの高い場所ということではなくて、一人ひとりの人生があり、様々な人たちが肩を寄せて生きているわけですよね。風当たりが強いなかで見えづらくなってしまったこの分断とどう向き合うか。完全にフラットな目線というのはないのですが、フラットに見えるように努力しながら問題を投げかけたところが今回の番組のひとつの意義だったんじゃないかなと思います。

(後編では、現在の難局を乗り越えるための取り組みや、支援の在り方、さらにドキュメンタリーの役割について、更に深い対話をお届けします。)

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2020年9月26日
1人ひとりの想い・価値が響き合う社会へ ~宮田裕章さんがめざす「共鳴する未来」とは~
 新型コロナの影響を受けてリモートワークやオンライン会議などデジタル活用は広がりをみせ、さらに菅新政権によるデジタル庁の計画など、社会全体が「データ駆動型社会」に大きく歩みを進めています。そんな中、今月宮田さんは初の著書『共鳴する未来』を執筆しました。「単にテクノロジーやビッグデータを使って利便性が高まるだけでなく、社会のしくみそのものから考えなおすべき変化の時期にきているのです。そのひとつが、お金だけではない様々な価値を大切にしながら社会そのものを動かしていくという“共鳴する未来”なのです」。共鳴する未来を実現するためには何が大切なのか、宮田さんの考えを聞きました。

(番組ディレクター 今氏源太)


「欲望の資本主義」から「共鳴する未来」へ
 アフターコロナ、データ駆動型社会、持続可能な開発目標・・。これからの社会の在り方を標ぼうした様々な言葉が生まれ、実現への試行錯誤が続いています。今後どのような暮らしを実現したいのかは1人ひとり異なりますが、宮田さんはデータを使ってより良い社会をつくるという信念を通して積み重ねてきたおもいを “共鳴する未来”という言葉で表現しました。



 私は1年にわたって宮田さんとともに番組の取材・制作を行っていますが、共鳴=響き合うという語感には宮田さんの様々な考えが新鮮な手触りのまま込められていると感じました。一体なぜこのタイトルにしたのか?まずはそこから質問を始めました。

慶應義塾大学 宮田裕章教授(以下、宮田)
「書籍のタイトルですが、20回くらいリライトしたと思います。これまでも多くの人が『お金より大事なものはある』と言ってきました。しかしそうした価値を実際に形にしたり、共有しようとするには結局お金を使うしかなかったわけですよね。産業革命以降は経済合理性っていうところで世の中の大半が動いたし、理念とか主張のようなものがあったとしてもそれだけではお金は回りませんでした。

お金の合理性という単一の欲望の渦の中に人々を巻き込み、みんなが同じ未来に向かうこれまでの資本主義は限界にさしかかっていることが世界経済フォーラムでも指摘されています。そうした中で、新たな軸で世界を駆動させることに注目が集まっています。それがデータを用いて社会を動かすことです。例えば石油や天然ガスなどのエネルギー源をみてみると、採掘権や利権を巡って多くの国や企業が争ってきました。限りある資源を奪い合い、他を排除して自らがより多くを所有する『排他的所有』によって競争に勝つことが重要だからです。
一方で、データは一度使ってもなくならない資源です。またひとつのデータよりもビッグデータのように何十万、何百万と数が増えるほど、様々な利活用が可能になります。ひとりの個人や企業が独占するよりも互いのデータをシェアすることで新しい価値を生み出す『共有財』という特徴があるのです。

全ての人の人権が守られたり、格差が解消された世界を望む人もいれば、美しい環境のなかで生活したい人がいたり、あるいは健康を最重視した生き方をしたい人がいたり、未来をどう良くしたいかは多様な願いがあるはずです。データが社会の隅々にまで入り込むことでこうした多元的な豊かさを具体的に示すことができ、それを原動力に社会を動かしていくことができます。お金以外の様々な価値が互いに響き合うのが私の考える共鳴する未来です。単に仕組みのデジタル化とか効率化をすることがデータ駆動型社会の本質ではないのです」

20年前に考えたコンセプトが、カタチを帯び始めている
 私が初めて宮田さんの考えを聞いたとき、「立場の弱い人や困っている人に手をさしのべられるのがデータの持つチカラ」と言っていたことが今でも印象に残っています。手をさしのべるという表現に、無機質で手触りのないデータのイメージが覆りました。宮田さんはこうした考えは若い頃から一貫して自身の中で紡がれてきたといいます。



宮田さん
「共鳴する未来という着想のコンセプト自体は20年前からずっと考えていました。実は書籍内のとある箇所は20年前に書いた文章をまるごと使っています。表記はされていないので誰にもわからないと思いますが。
当時まだ大学生だった頃、社会における本質とはなにかを考えていました。憲法学やメディア論など、データサイエンスや医療以外の学問も幅広く学ぶなかで、シェアドバリュー(共有する価値)によって人々の手で社会を作り上げていくことが大切なのだとたどり着きます。しかし当時の教授やお偉いさんたちは『若造が何を言っているんだ』『証明してみせろ』という反応だったので、じゃあやってやろうと 笑。
医学を軸に実践を紡いできたつもりですが、実践に熱心になりすぎると元々の自分の志はなんだったか、昔考えていたことを結構忘れるんですよね。今回改めて当時の文章を引っ張り出してみたら、今読んでも新鮮さがあると思ったんです。自分でも少し驚きました。

データを用いた新しい価値の具体化を、技術や文化がトライアンドエラーを繰り返しながら徐々に現実社会で顕在化してきています。近年で大きなインパクトがあったのは例えば中国の信用スコアです。日本では負の側面ばかりが強調されがちですが、信用というものをデータで可視化することによってお金とは違う尺度で社会が回ることを証明した重要な実例だと思います。

2019年2月12日「個人情報格付け社会 ~恋も金回りもスコア次第!?~」で
中国の信用スコアを取り上げた

新型コロナによって健康と経済の狭間で多くの人が今も苦しんでいます。世界中で『お金がすべてじゃない』とたくさんの人が実感をしたのではないでしょうか。またアメリカではブラック・ライブス・マターなど、人権や平等への強い願いがムーブメントを巻き起こしています。フランスは環境政策に力を入れようとしていますし、ドイツは一部の州でベーシックインカムの導入が決まり、命と経済の間でどう幸福を実現するかに価値を置こうとしています。こうした多元的な価値が立ち上がる今、これらをデータで可視化してつなげることで、それぞれを尊重しながら社会を回していくことが可能になっていくと思っています

強欲な企業だろうと、ソーシャルグッドが必須になる
 では、共鳴する未来を実現するためにはこれから何が必要なのでしょうか。現実ではGAFAなどITメジャーは個人情報を独占、収集や分析によって巨額の富を築いており、欲望の資本主義そのものの姿にも思えてしまいます。しかし一方で、個人のデータは簡単に使用できなくなるような規則が広がったり、公共目的に限って共有することができるなど、データを取り巻く状況は確実に変化をしていると宮田さんは言います。

宮田さん
「データ駆動型社会の初期では、データを独占して富を独占するというまさにGAFA型のモデルが世界に広がりました。それが2018年にEUでGDPR(EU一般データ保護規則)というルールができたことによって、個人のためのデータ保護が強化され、企業は同意がないデータ利用がしづらくなっています。個人のデータは企業のものではなく個人のものであるという考えです。
これからどんな変化が起こるかというと、企業はデータを使うためにユーザーから信頼を得ないといけないということです。1人ひとりのより良い暮らしやソーシャルグッドにどう貢献できるのかをまず示して、そのあとで経済的な富も得るという順番で企業活動は進むことになるでしょう。単にお金儲けだけを考えている企業は人々から信頼されず、データを使うことが困難になりますし、逆に言えば強欲的な企業であってもソーシャルグッドを実現しないとデータを使ったお金儲けもままならなくなるということです。

本来企業とは経済活動を通して社会に何かの貢献をするための組織であり、お金というのはあくまでもその手段のひとつでした。それが近年は株主のために短期的な利益を目指さないといけないプレッシャーや、時価総額の最大化が目的になり、持続可能ではない経済活動を実施しているケースが少なくありません。CSR(企業の社会的責任)として寄付などの社会貢献を行う動きはこれまでもありましたが、バランスをとるための表面的な対処という批判もありました。社会や世界に貢献しながら健全な利潤を生む、その説明責任がデータを使うためには求められるようになってきているのです」

政府であってもデータを使うことは容易ではない
宮田さん
データを使うために欠かせない信頼作りは企業だけでなく国にも当てはまります。今日本ではデジタル庁創設が話題になっていますが、そのきっかけになった出来事のひとつが特別定額給付金の配布です。個人の口座データなどが使えないので国は一律10万円を国民に配るために事務コストが1500億円もかかっているんですよ。



これを解決するのに政府が言ったのはマイナンバーと銀行口座を紐付けさせてくださいというわけですよね。しかしそれだけ言われたら普通嫌だよってなりますよね。なんで我々の個人情報を把握されないといけないのだと。
政府はデータを集めることでどんな公共的なメリットがあるのかをしっかり示さなくてはいけないはずです。例えばですが、税金を不当に納めていない人を発見でき、そこで得た分を補償に回すことができるなどです。

今までの日本はIT推進を道路行政のようにやってきました。道路は事前に目的を理解してもらえなくてもつくればあとから様々な利用方法を考えられるのですが、、ITは目的がないままシステムを作ると全く使い物にならないんです。なんのために国民のデータが必要なのか、WHYをしっかりと示しながらデータを使わない限り、デジタル庁は上手くいかないと思います。一番大事なことはデジタル化をどう進めるかではなくて、行政の役割とはなにかというところから考えることです

1人ひとりの選択が世界とつながっている
 共鳴する未来には企業や行政だけでなく、私たち1人ひとりの行動も大切だと宮田さんは言います。自らが望む暮らしはどのようなものなのか、そのために毎日どんな行動を積み重ねていけるのか。人々が『つながる社会』だからこそ小さな積み重ねを意識することで未来の行き先は大きく変わると、可能性を感じています。

宮田さん
「新型コロナによって1人ひとりの行動が社会に与える影響というのがよくわかったと思います。みんなが身勝手に外を出歩いたり三密を無視してしまうと人がわっと増えて感染者が急増してしまうかもしれない。すると健康リスクだけでなく経済までもが止まってしまうかもしれない。
これは感染症だけの話ではなくて、環境問題も教育も人権も全てつながっているんだと思います。1人ひとりがどういう製品を選ぶのか、どういうところに遊びにいくのか、どういうことを学ぶのか、どういう仕事をするのか。これらすべてが世界とつながっているんです。すでに人々は共鳴し、響き合っているのです。1人ひとりの「生きる」ということが世界の豊かさにつながっています。

経済合理性に貢献するためだけの歯車となって人々が生きたり、労働を捧げるのではなくて、人々がどう生きたいのかというのがまず先にあり、それらが重なりながら能動的に未来を作っていく時代になるでしょう。それが共鳴する未来であり、その実現のために今後も取り組んでいきたいと思います



 宮田さんの取材を続けてきた私にとっても宮田さんの見識は深く、難解に感じることも少なくありません。しかし今回の書籍を通して宮田さんの未来に込めるおもいを一段深く理解することができました。全ての人がデータによる恩恵を受けながら“共鳴する未来”で暮らせるようになるには多くのハードルがあります。ただひとつ言えるのは、こうした個人データは私たち自身の日々の行動によって生み出されるものです。いくら国や企業がテクノロジーを推し進めようとも、資源となるデータを生み出すのは私たちであり、最終的にサービスを利用するのも1人ひとりの消費者です。そういう意味ではデータの「生産者」とも言えます。データ駆動型社会は未来ではなく、すでに私たちが深く関わっており、その主役であるとも言えるかもしれません。そうであれば、共鳴する未来は単なる理想論ではなく、私たちの日々の選択や社会参加が大きなカギを握っているのだと思いました。
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2020年9月5日
Google×宮田教授 ネット医療情報に「信頼」を
 「ウイルス予防に緑茶や紅茶がおすすめ」「水道水に混入して人体に悪影響が出る」など新型コロナに関するデマ・科学的立証のない情報が今も数多く出回っています。一方で学術研究によって日々発表される最新論文の中にも、誤ったデータが使用されていたり、発表後に取り下げ・修正されるものが世界で相次ぎ、専門家であっても正しい情報を把握することは容易ではありません。
 今宮田さんはGoogleをはじめとした民間企業や医療従事者らとチームを組み、正しい医療情報のネット発信に取り組んでいます。「今後も多くの真偽情報が出てくるなかで、不確かな情報が大量に拡散されてしまう“インフォデミック”をいかに防ぎ、どう社会を良くしていけるか。難題だからこそ、情報を扱う企業やアカデミアの協力・連携のチカラが試されています」。新型コロナが加速させる「Data for Social Good(社会課題解決のデータ利用)」の可能性が模索されています。

(番組ディレクター 今氏源太)


ネット上に不足する、信頼できる医療情報
「コロナ禍においては信頼できる医療情報へのアクセスが今まで以上に重要です。一方で一般ユーザーが検索するキーワードと医療機関が発信する情報には差があり、このギャップをどう乗り越えていくかが大きなカギです」

 7月、宮田さんはあるプロジェクトのキッフオフミーティングに参加しました。慶應大学医学部チーム、医療専門家、医療系メディアなど14人の参加者に向かってプロジェクトの意義を話すのはGoogleのチームです。



 「COVID-19情報アクセス改善ワーキンググループ」と名付けられたこのプロジェクト。ネット検索における医療情報アクセスをより良くするために始動しました。
 日本でも利用者の多い検索エンジンであるGoogle。ユーザーが検索ワードを入力すると、ネット内の膨大な情報から独自のアルゴリズムでひとりひとりに適切だと思われる情報を表示、羅列します。しかし検索エンジンはその性質上、そもそもネット空間上に適切な情報が存在しない場合は、求める情報に誘導することはできません。
 国内のコンサルティング会社が行った調査によると、「これまで一度でも新型コロナウイルス感染拡大に関するフェイクニュースを見聞きしたことがある」と回答した人はおよそ73%。さらに「フェイクニュースを見聞きした情報媒体」については「Googleなどのインターネットの検索エンジン」が36%で最多でした。



 ネット空間全体に不正確な情報ばかりが増大し、信頼できる情報が枯渇してしまってはインフォデミックを防止することはできません。こうした積極的な情報発信のために宮田さんをはじめ異業種が連携した異色のプロジェクトチームが編成されたのです。

検索データ×AI分析によるGoogle新サービス
 Googleが今回新たに開発したのが「クエスチョンハブ」という検索ワードの分析ツールです。画面を開くと「コロナ予防飲み物」「免疫力を上げる食べ物コロナ」などの言葉がずらり。これはユーザーが検索したものの、対応する適切な答えや情報がないとGoogleのアルゴリズムが判断した「未回答ワード」の一覧です。


Googleの新ツール「クエスチョンハブ」画面

 普段私たちがGoogle検索を使うとき、ユーザーは何が知りたいのか、さらにネット上のHPや記事などのコンテンツにはなんの情報が載っているのか、AIによって「意味」の理解が行われています。
 例えば「渋谷 コーヒー」と検索したとき、コーヒーが飲みたいのか、コーヒー豆や調理道具がほしいのかなどいくつかの意味が考えられます。AIは検索ワードだけでなく、位置データ、スマホ利用者かパソコン利用者かなど様々な要素を使ってユーザーが求めている情報を予測します。そしてネットから意味が合うコンテンツを探し出し、最も適切だと考えられた結果を表示しているのです。
 クエスチョンハブが示すのは、こうした意味のマッチングが不十分で、質問に関連する答えがない可能性があると判断された言葉です。ワード一覧は毎日更新され、医療系メディアなどコンテンツを発信する企業から利用申請を受けて、使用の許可を判断します。

テクノロジーを使ったソーシャルグッドを目指す
 Googleはこれまでも日本で医療情報検索の改善に取り組んできました。2017年には検索アルゴリズムをアップデートしてより信頼できる医療情報が結果の上位に表示させる改善を実施。チームの統括をするダンカン・ライトさんによれば現在20~30の“コロナテック”に関するプロジェクトが動いているといいます。テクノロジーを使って感染拡大を抑えることができるのか、今回のプロジェクトでもできる限りの協力をしたいと意気込んでいます。



Google 検索パートナーシップ東アジア統括部長 ダンカン・ライトさん
「Googleを使ったコロナに関する検索が日々大量に行われています。治療法や症状以外にも薬剤の名前、最新の研究結果、民間の療法についてなども多く検索されており、『コロナ アロマ』『食べるコロナワクチン』などのワードがクエスチョンハブに上がっています。私たちは信頼性が高い情報をユーザーに届けるためにも、現在の未回答ワードをリストアップし、宮田先生をはじめ専門家の皆さんが中心となってどんなコンテンツが必要か考えています。今の状況を踏まえながら、どういう優先順位で情報を発信していくかがカギです。私たちにとってもユニークな取り組みであり、大きな一歩を踏み出していると思っています」

 取り上げるべき未回答ワードや、書くべきコンテンツの中身に関してGoogleからは意見を言わず、あくまでもクエスチョンハブを提供して情報をオープンにするのが役割だといいます。人々の価値観が多様化する中で、ありとあらゆる言葉が検索エンジンで調べられるようになった今、クエスチョンハブはウェブ検索そのものをより良くするための挑戦だとダンカンさんは言います。

Google 検索パートナーシップ東アジア統括部長 ダンカン・ライトさん
「検索エンジンで調べられる全キーワードの15%は過去に一度も検索されたことのない言葉です。毎日色々な人が色々な言葉を入力しています。目指すのはウェブ全体の環境を整え、ユーザーにとって必要な情報がさらに届きやすくなるように、エコシステムを改善することなのです。今後は医療だけでなく様々な分野にも応用していくとともに、担当する東アジアの10か国以上でも展開していきたいと考えています。
Googleの企業理念は“情報を整理して誰もが使えるようにする”ことです。今回のプロジェクトはこの理念とも親和性の高い取り組みだといえます」


 個人の検索データを使って、どこにどういった広告を出すことが効果的か詳細な分析を行い、企業からの広告料を得て巨額の利益を上げているGoogle。一方で検索エンジンによって私たちは知りたいことをいつでもどこでも調べることができ、とても便利になりました。ITプラットフォーマーとして社会を変えるほどの影響力を持つからこそ、ビジネス目的を越えたソーシャルグッドを生み出す取り組みは非常に意義があると感じました。

不安をあおらない中立的な情報が求められる
 クエスチョンハブで上がった未回答ワードに対して、医療専門家によってウェブ記事の制作が行われています。いかに信頼のできる医療情報を作り上げるかは、専門家であっても簡単ではない作業です。
 この日、医療情報サイト・メドレーを監修する医師の園田唯さんは“コロナとうがい薬”をテーマにした原稿の最終確認を行っていました。8月の大阪府知事による記者会見で、ヨードの入ったうがい薬がコロナ感染拡大防止に有効だと発表され、真偽を巡ってクエスチョンハブでも多くの関連ワードが確認されていました。



メドレー 監修・医師 園田唯さん
「記者会見をみたとき、正直良い印象はありませんでした。医療者の間ではヨードのうがいについて、風邪の予防効果があまり高くないというデータは割と知られています。なぜコロナだけに有効だと言えるのか、なにを根拠にしているのかがわかりませんでした。また、もし買い占めなど需要の急増が起これば普段からヨードを必要としている医療機関などに在庫が行き届かなくなるリスクがあり、客観的な視点からの情報発信が必要だと思いました」

 園田さんは複数の医師と協力し、会見の基になった学術研究を紐解き、さらに過去の論文や発表など18本を参照。ヨードは殺ウイルスに有効である一方、新型コロナの予防に効果があるかは不明だという内容で記事を作成しました。ひとつの論文や意見に縛られず、複数の出典や視点を通して言えること・言えないことを正しく見定めることが、医療情報の発信には大切だといいます。



メドレー 監修・医師 園田唯さん
「医療者の中にも考え方が偏った人はいます。我々は必要以上に不安をあおったり、書き手の意思が入りすぎないよう、中立的な立場を意識して記事を書くようにしています。ヨードのうがいに批判的な意見も多いですが、そこに対してもすぐに同調せず、証拠や研究結果を調べていくことが重要です。きちんと吟味された情報を出さないと我々が新たな誤解やインフォデミックを生んでしまう可能性だってあるのです」

 プロジェクトメンバーで医療情報サイト・メディカルノートの運営を行う井上祥さんは、日々大量の論文が発表されるなかで正しい最新情報を的確に把握することは医療者であっても難しいと言います。



メディカルノート 代表取締役 井上祥さん
「すでに世界中には数千本のコロナに関する論文が発表されています。しかし中には世界的に権威のある論文サイトに掲載されたにもかかわらず、まったくの嘘情報を基に執筆されていたり、発表後に撤回をされたものまであるのです。ウイルスの実態がわからないなかで少しでも有意義な情報を早くだそうとするあまり、査読や情報の確認がおろそかになったのだと思います。私たちはその時々でわかっていることを発信しながら、更新があった場合はつど追加情報を加えていくなど工夫をしています」

 井上さんたちは今後もクエスチョンハブを活用しながら、新型コロナの影響を受けた医療全体に関する情報発信も行っていこうと考えています。

メディカルノート 代表取締役 井上祥さん
「例えばコロナによって、人間ドックや内視鏡検査の数が大きく減っています。感染予防を考えると今は検査を受けない判断も必要ですが、がんや重病の早期発見がしづらくなる可能性があります。また足が遠のいたままインターネットの情報だけで自己診断をしてしまい、病状が進行する人もいるかもしれません。受けるべき検診は不要不急と思わず、きちんと受けてほしいというメッセージも発信していこうと考えています」

「信頼」がないと情報を扱えない時代になりつつある
 今回のプロジェクトに参加する宮田さんは、「データが社会の課題を解決する」良い事例だと評価します。ITプラットフォーマーにとってもユーザーから信頼を得ながら、安心してサービスを使ってもらえるよう、関係性作りが見直されている時期に来ていると言います。

慶應義塾大学 宮田裕章教授
「世界中の人がその便利さからGAFAなどのITサービスを利用し、個人情報など多くのデータをなかば自然と提供していました。一方で、知らない間に企業間でデータが取引されていたり、フェイクニュースやひぼう中傷を拡散する装置になっていたりなど、負の側面を抱えている事実に人々が気づいています。データは誰のものか、今世界中で議論が起きてるようになっています。便利だったら他は何をしてもいい、という時代ではなくなったのです。そのサービスが個人の健康や幸せに寄与したり、より暮らしやすい社会をつくることに貢献しているかどうか、注視されています。今後は信頼ができると人々が判断したサービスだけがデータを集めることができ、生き残る時代になるでしょう。Data for Social Goodは私たちとITプラットフォーマーの関係性を考える意味でも重要な視点なのです」
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2020年8月29日
【厚労省とLINE調査】その先の流行と向き合うために
 LINEを活用した厚生労働省の「新型コロナ対策のための全国調査」。その5回目の調査が8月12日-13日に実施され、およそ1498万人が回答しました。宮田さんは集まった回答データの分析を担当、「PCR検査では見えない第2波の感染状況」「職種や年齢ごとのリスク対策の実態」などをより細かく解き明かそうとしています。8月21日に公表された集計結果で、宮田さんが特に注目するのが、予防行動の重要性です。「予防行動によって感染を抑える効果の大きさがビッグデータからも示された。無理に気を引き締め続けるのではなく、かといってもういいやと諦めてしまうのでもなく、ポイントを抑えて取り組み続けることが重要」と宮田さんは強調します。

(番組ディレクター 今氏源太)

宮田さんがLINEの回答ビッグデータを分析し続ける理由
Q.3月に第1回調査が行われた当初は、国内の感染実態がまだ把握できておらず、不透明な状況でした。全国・地域ごとの発熱者の傾向がLINEの回答ビッグデータによって初めて明らかになり、大きなインパクトがありました。現在の日本ではPCR検査数も当時から増えています。それでもLINEで調査を継続することにどんな意義があるのでしょうか?

宮田:確かにPCR検査数は増えましたが、それに伴って把握される感染者数も大幅に増加したのが第2波のデータ的特徴です。検査は特定の年代や濃厚接触者、クラスターへの積極的調査などが中心であり、自治体や地域ごとの感染状況を正確に捉えることまでをカバーできていません。
一方でLINE調査では発熱を中心とした健康情報アンケートの集計なので、あくまでも感染実態の間接指標です。ですが、第2波の全体像を捉えるには様々な角度のデータが重要です。まだ見えていない実態は何なのか。氷山の水面下を少しでも浮かび上がらせるためには有意義な方法だと思っています。



もうひとつ、今回の調査で重要なのはリスク対策に関してです。第1波では緊急事態宣言下、活動の自粛やStay Homeなど経済を犠牲にする接触制限が中心でした。それから現在に至るまで、リスク対策と暮らしや経済活動を両立した方法が模索されています。実際にはどれくらい対策ができているのか、皆さんの努力はどれほどの効果があるのか。データで確認することで社会は前に進むことができるのです。

地方で症状が微増する傾向 リスクは人口密集都市だけでない
Q.厚労省の公表では、地域ごとの発熱率データ(37.5℃以上が4日間続いた人の割合)が第1回調査(3月31日-4月1日)と今回の第5回調査(8月12日-13日)を比較して示されました。全国の1892の市町村単位で細かく発熱の様子が色分けされています。このデータから読み取れることはなんでしょうか?

宮田:都道府県単位よりもさらに細かく分析をすることで、それぞれの市町村で把握されている感染者数と症状のある人の割合にかい離がないか、あるいは隠れクラスターなどまだ顕在化していないリスクがないかなど、参考になればと思っています。第1回の調査と比較すると地方での発熱率が微増している可能性があります。
また都道府県別にみると東京や神奈川、大阪など11の都道府県では統計的に有意に(誤差ではなく)低い割合となりました。一方で岩手県のみ発熱率の割合が上がっており、ほかの市町村を含めて地方での感染拡大には今後も警戒が必要です。



地域ごとの事情はそれぞれ異なるため、微増の要因を全て把握することは難しいです。ただ、これまで感染者数を低く抑えていた地域の場合、もう大丈夫ではないかと予防行動を緩めてしまう可能性があります。ソーシャルディスタンスがとりやすい環境の場合、つられて手洗いやマスク着用などがおろそかになってしまうかもしれません。そうした状況で市中感染が起こると一気に広がってしまう可能性があり、油断はできないのです。
また感染が少数だった地域ほど、新たな感染者が目立ってしまい、周囲が批判したり、糾弾する可能性もあります。中には体調が悪いにも関わらず自ら言い出せずに、感染の連鎖が続いてしまうことも考えられます。感染自体を否定的に考えるのではなく、体調が悪い人がいたら早期に検査を行う、周囲と接触を避けるためのサポートなどに繋げていくことが大事なのです。

若者で症状が微増、65歳以上は減少
Q.さらに年代別の発熱率データも細かく公表されました。第2波では20代から40代で多くの感染者が見つかりました。LINE調査からはどのような傾向がわかったのでしょうか?



宮田:3-4月のときと比較して15歳から45歳までの世代で症状のある人の割合が増えています。陽性者が多く見つかっていることからも、感染が若い世代で広がっている傾向がここにも表れています。また45歳から65歳ではほぼ横ばい、65歳以上では割合が減っていることがわかりました。重症化リスクの高い高齢者は特に気をつけて行動するなど、リスク対策への高い意識が割合を下げた要因として考えられます。

Q.おおむね現在把握されている感染者の傾向に近いと言えそうでしょうか?

宮田:はい。私が気になったのは若い世代や高齢者で増減があるものの、年齢別の傾向としては第1波とは変わっていない点です。つまり第1波のときも同じ傾向が当てはまるとすれば、当時も感染者の多くは活動的な若い世代が中心だった可能性があります。PCR検査によって把握された感染者の数は大きく増えましたが、それに合わせて若い世代への風当たりも強くなっています。しかし陽性者数だけをみて一部の人々や世代に責任を押しつけるのではなく、社会全体で対策をより効果のあるものにしていくことを考えることが重要です。

予防行動の実施割合が低下
Q.感染状況と合わせて重要なのが予防行動の実態です。ワクチンがない今、感染を抑えるカギを握るのがマスク着用、3密の回避、体調管理といったリスク管理を継続し続けることだと思いますが、データからどういった実態が浮かびあがってきたのでしょうか?

宮田:職種ごとに計8つの予防行動の実施状況を収集し、前回の第4回調査(5月1日-2日)と比較しました。すると全体的に予防行動の実施割合が減少していました。オフィスワークや外回りなどを中心にテレワークの割合は大きく減っており、経済活動の再開に伴った象徴的な変化です。



またマスク着用に関しては飲食業の中でも特に接待を伴う店で実施割合が低く、タクシードライバーでは密閉密接対策の割合が下がっているなど、職種による課題も見えました。確かに接待の場面ではマスクやフェイスガードなどで顔を覆うことを嫌がる事業者や従業員がいるかもしれません。

Q.新型コロナが長期化する今、周囲を見渡すと対策ができている人とそうでない人、「気の緩み」と「予防の習慣化」が混在しているように感じます。予防のガードを上げ続けることは難しいのでしょうか?

宮田:予防行動はひとりひとりの健康に確実に繋がります。今回、職場で対策を行っていると回答した方々と、行っていないと答えた方々を比べると、対策を行っている方々のほうが、職種問わず発熱者の割合が低いというデータも出ました。予防行動の大切さがビッグデータによってあらためて示されています。
対策の工夫は立場や環境によってそれぞれですが、気の緩みと糾弾してしまうよりも予防行動がしやすい仕組み作りなど、多くのサポートが必要だと思います。

罰則だけでなく、行動を後押しする仕組みを
Q.予防行動は成果が見えにくく、本当に意味があるのか、やらなくても変わらないのではないか、と思ってしまう方もいらっしゃると思います。個人の努力に任せるだけではなく、仕組みでサポートすることは大切ですね。例えばどういった方法が考えられますでしょうか?

宮田:例えば福岡県では県のガイドラインに基づいた感染対策を徹底して行っている場合、休業を要請しないという方針を発表しました。罰則を設けるのではなく、対策ができている人は営業が続けられる仕組みです。行政にとっても支払う追加給付金が軽減できますし、経済活動を続けながら感染を抑えようという積極的な取り組みだと思います。

また、感染対策の「見える化」も始まっています。神奈川県は飲食店情報のポータルサイトと協力して、対策を実施している店舗の情報がユーザー画面に表示される試みをしています。安心して食事を楽しめるようにするだけでなく、対策を行っている店舗はみなさんに選ばれやすくなる後押しにもつながります。今後は検索をした際に上位に表示されるようアルゴリズムを改善するなど、さらなる工夫もできるでしょう。

今改めて「持ちこまない」「うつさない」「広げない」
Q.予防行動で大切なのは自らが感染しないことに加えて、周囲に感染を広げない共助の考えだと思います。私たちが今あらためて学ぶべきことはどんなことでしょうか?

宮田:海外の最新研究では一度新型コロナにかかった人でも再感染する可能性があると発表されました。さらなる研究が必要ですが、一度感染した人には免疫がつき、その後は安心して暮らせるとはいえないのです。感染2回目のときは症状が出づらく、自分では気づかずに周囲にウイルスを拡散させてしまう恐れがあることも可能性として示されています。まだ新型コロナの全貌は見えておらず、今後良い方向か悪い方向か、どちらに状況が転じていくかはなんとも言えないのです。もちろん日本に第3波、4波が来る可能性は充分にあります。



ワクチンがない中で私たちが取り組み続けるべきなのは、ウイルスを「持ちこまない」「うつさない」「広げない」を意識した予防行動です。もし持ちこまれてしまっても他人にうつさない、もしうつってしまったら周囲に広げないことが大切です。個人だけではなく組織でもこの3つを取り入れてもらうだけで、結果は変わってくると思います。 また、手指の消毒は今後もずっと行ってほしいです。私は手洗いやアルコール消毒を意識するようになってから風邪を引かなくなっています。予防行動によってコロナ以前では得られなかった健康の成果を感じている人も少なくないのではないでしょうか。

絶対にうつらないことは不可能ですし、うつってしまった人を責めてはいけません。健康と経済活動を両立し、暮らしを守るためも、正しい予防行動の「日常化」を改めて実現していくことが必要だと感じています。

(厚生労働省による第5回「新型コロナ対策のための全国調査」公表内容はこちら↓) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13101.html
※NHKサイトを離れます
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2020年8月22日
「VR爆心地」に浮かんだヒロシマの日常
 7月29日に放送したクローズアップ現代+「戦後75年 吉永小百合 戦争を語り継ぐ」の放送1か月前の打合せで、出演者の宮田さんから番組の根幹に関わる指摘を受けました。

慶應義塾大学 宮田裕章教授
「“われわれは戦争をいかに語り継いでいくべきか?”というけれど、“戦争は語り継ぐべきものである”ことを前提としてしまっていて、それでは若い世代の視聴者の心には響かないのではないか。外部から強制されるのではなく、“戦争についてもっと知りたい、伝えたい”という内なる動機に基づいた“学び”なくしては、戦争はますます語り継がれないものとなってしまうのではないか?」

 戦後75年のいま、親だけでなく祖父母の世代も戦後生まれで、生々しい戦争体験にふれる機会が乏しい “第4世代”と呼ばれる層が年々増えています。こうした世代の若者たちは戦争をどうとらえ、今後どう語り継いでいくのか…。宮田さんからの“宿題”を胸に、私たちが取材したのが、広島県立福山工業高校です。VR技術を使った“学び”を通して戦争体験の継承を行うというユニークな取り組みがいま、世界的にも高く評価されています。彼らの活動を取材しました。

(番組ディレクター 上田ひかり)


精緻に組み上げられた“かつての広島の日常”


 広島県立福山工業高校の計算技術研究部。主にVR映像の製作を中心に活動するというこの部活動では、部員たちがみずから、最新のVR技術を用いて、原子爆弾が落とされる前の広島の町並みを忠実に再現しています。プロジェクト名は「VR爆心地」。ゴーグルをつけると、視界いっぱいに昔の広島市の風景が広がりました。



 CG(コンピューター・グラフィックス)技術を使って3D空間に建物を1から描き起こし、プログラミング技術でより細かく作り込んでいきます。金属のでこぼことした質感や、年月を経てあせた看板の色なども想像しながら付け足すという繊細さ。何人かで1つの建物を競争で製作し、最も丁寧に作られているものが町並みに採用されるため、生徒たちはCG作りに真剣に取り組み、切磋琢磨(せっさたくま)し合っています。
 VR作りで大切にしているのが「生活感」。原爆が投下される直前まで営まれていた、当時の普段の暮らしをリアルに想像できるよう、手触り感のあるCGをそこかしこに組み込んでいます。

 例えばこちら。「街の巡査が自転車の盗難が相次いだことから、建物の影からこっそり見張っていて犯人を摘発していた」という逸話に基づき、自転車がおかれた場所まで忠実に再現しています。



 こちらは町を流れる元安川の水中から見上げた様子。VRで川に向かって歩いていくと水の中に入ることができるのです。奥にうっすらと見える窓のついた建物が現在の原爆ドーム。一体なぜこんな細かいところまで?



 実は当時この川では子どもたちはボート遊びやエビとり、魚釣りをして遊んでいたそうです。「その頃は元安川の水は今よりもずっと澄んでいて、潜っても遠くまで見渡せた」という元住民の証言が強く印象に残り、「澄んだ川の水も再現しよう!」というアイデアが生まれたのです。これも、当時の子どもたちが見ていたであろう“日常の光景”です。

よみがえった原爆ドームの元の姿


 最も生徒たちが力を入れた建物が、現在の原爆ドームである広島県産業奨励館。完成するまで、5か月を要したというこだわりです。
 まず設計図をもとに、3か月かけて正確な形を作り上げていきました。全体が3階建てで、真ん中の部分だけ5階まであり、テラスが備え付けられていたという、広島市内でも傑出したモダンな建物。図面だけでわからない見た目は、当時の絵葉書なども参考にしました。



 CGは「ポリゴン」と呼ばれる、細かな平面の貼り合わせで構成されています。広島県産業奨励館は、外見だけで7万5000枚、内部も含めると13万枚にのぼるポリゴンを組み上げました。これらを1枚1枚、位置を微調整し、色づけを行い、VRが快適に動くように不必要なデータを取り除く「間引き」を行う…。バランス感覚の求められる、緻密で膨大な作業が続きました。これを、先輩が後輩に技術を伝えながら、高校生だけで行っているというのが驚きです。



 内部の細かな構造を作り込む上で欠かせなかったのが、元住民の証言です。建物に入ると2つのらせん状の階段が1階から3階までをつないでいて、その手すりでは近所の子供たちがよく遊んでいたそうです。また2階から先は、一般人は立ち入り禁止で、軍の関係者だけが入ることができたといいます。父親がこの建物に勤めていたという女性は、階段を全部上り切った先にあるテラスで、父の仕事の終わるのを待ちながら、よく夕涼みをしていた、テラスへと続く階段部分がとても狭く、人が1人通るのがやっとだった、という思い出を語ってくれました。生徒たちはこうした生活実感も、可能な限りCGの作り込みに取り入れていきました。



 現在このVRは、センサーの稼働範囲である、教室の中の広さ程度しか歩きまわることができません。今後さらに高性能のシステムへの移植を行い、体育館程度の広さを実際に歩き回れるようにする計画だといいます。
 また、新たな資料が見つかったり、証言が得られると、現在ある建物を1から作り直し、かつての町並みにさらに近づける努力も続けています。広島県産業奨励館も、すでに5回程度のリメイクを経ていると言います。現在も、修復作業、調整作業は続いているそうで、町並み再現への情熱は尽きることがありません。

テクノロジーが支える「自発的な学び」


 生徒たちはパソコンに向かってCGを作るだけではありません。調査活動は緻密で多岐にわたります。たとえば地形の調査。当時と現在では橋の位置が異なっていたり、埋め立てや護岸工事を経て川沿いの地形が変わっていたりと、昔と今を単純に比較することが難しくなっています。そのため、当時の航空写真といまの航空写真、聞き取りで得た昔の地図を何回も見比べ、さらに実際に現地で測量も行いながら、道の幅や長さ、建物の大きさなどを調整していきます。VR映像はパソコンで起こしたものと実際に人間の目で見たもの微妙なズレが大きな違和感となってしまうため、こうした補正が重要だそうです。

 さらに、被爆体験者の手記を全てパソコンに打ち込み、当時の電話帳のデータも手分けして入力。後輩たちが将来さらにVRの町並みを充実させ、当時の町についてより深く学ぶための手がかりを、共有するための作業です。

 「原爆投下前の広島の町について、相当詳しくなりました」と胸を張る生徒たち。しかし実は、入部当初、生徒のほとんどが原爆投下の日時さえ知らなかったと言います。大半の入部希望理由は「学校公開で体験したVRのデモがおもしろかったから」というものです。


2年生・臼井 和海くん 祖父母も60代で身近な人から戦争体験を聞く機会がなかった

 しかし、このプロジェクトに関わっている中で少しずつ意識が変わっていったと語ります。2年生の臼井くんは「戦争というと、原爆というイメージが強かった。しかし、町作りに関わる中で、広島市に住んでいたひとがこれだけ亡くなった、生活が失われたということを実感でき、考え方も変わった」と言います。



 どうして生徒たちは活動にのめり込んだのか。顧問の長谷川勝志さんは「自分なりのこだわりを持ってVR作りと向き合うことで、先輩たちから受け継がれてきた思いにも触れ、やがて能動的に取り組んでいくようになる。つまり小さな継承活動が毎日行われているんです」と言います。自分なりのこだわりを持つことで、自分だけの疑問や気になることが生まれ、さらに知りたくなるという好循環が生まれているのです。


「ボート遊びとかされたんですか?」生徒の問いかけに当時の思い出を語る濱井徳三さん

 元住民の思い出を聞き、質問をする生徒たちは自然で、誰かに強いられて戦争を学習するような雰囲気がありません。実際に昔遊んだ場所で生徒たちに思い出を語る元住民の表情は明るく、次から次へと思い出が湧き出てくるようです。


「国民学校で1番賢かった」という濱井さんの逸話に生徒からも笑みがこぼれる

 「戦争を知らない若者」というフレーズは使い古されていますが、実際には、戦後生まれは誰もが、本当には戦争を知りません。しかし、この部活動に参加する生徒たちは元住民の思い出に出てくる建物も正確に理解しています。曲がり角の位置を示したり、建物の裏の抜け道を尋ねたり、2畳の狭い店の位置までも把握しています。まるで昔から住んでいる町の話をお互いに確認し合っているようです。生徒たちが自分のふるさとの町並みに愛着を持ってくれていることで元住民はどんどん嬉しそうに、楽しそうに思い出を語り、打てば響くような反応が生徒から返ってきます。自分の意志と興味で戦争体験を学ぶとはこういうことなのか…と、私は取材の中で一番の衝撃を受けました。

 高校を卒業すると、生徒たちはコンピューターなどの技術を生かせる職場に就職したり、またCGクリエイターを目指して進学する生徒もいるといいます。「テクノロジーが学びを支え、社会課題を解決する」ことを肌身で感じ学んできた生徒たちの、これからの活躍にもぜひ期待したいと思いました。

宮田さんが考える「テクノロジーと学び」
データやテクノロジーは時に手触り感のない単なる情報という印象をイメージしますが、宮田さんは “記憶の継承”にも貢献できると、大きな可能性を感じているといいます。

慶應義塾大学 宮田裕章教授
「これまでも人類は、戦争や災害から学んだ記憶をいかに風化させないかということに取り組んできました。古くは石碑に刻んだり、物語を語り継いだり、そして映像に残したり、といった形です。そうした中で新しいテクノロジーがその媒体となることは、歴史の経緯を踏まえてもとても自然だと思います。VRを通じて、かつての日常を再現することにより、日常を壊すという戦争の悲惨さを実感し、その体験を共有することができます。他者が大事にするものを、一緒に大事にするということは、社会を創るうえでも大切な視点です。そうした点からもVRは現実のような臨場感を持って、過去や立場の違う人達とつながり、思いを共有するという点で大きな可能性があると思いました。またこうした取り組みを通じて、福山工業高校の皆さんが、『戦争のことを知ることが、未来にどうつながるのか?』『平和の理解を深めることで、今を生きる私たちがどう豊かになるのか?』ということを自分たちの言葉で紡いでいくことに、新しい可能性と未来への希望を感じます。VRに込められた広島県立福山工業高校の皆さんの情熱と完成度の高さに、改めて敬意を表したいと思います。」
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2020年8月8日
長引くコロナ禍の先にある豊かさを探して
 新型コロナの流行発生からおよそ半年、ワクチン開発など、科学はウイルス克服に向けた多くの知見を重ねており、私たち市民もひとりひとりができる感染対策を日々実践しています。しかし「医療と経済のバランス」「新しい日常」の具体的な形はまだ多くの人が模索をする最中であり、先の見えない不安な日々がすぐに終わりそうにはありません。
 私たちは6月、宮田さんとともにBS1スペシャル「新型コロナウイルス 科学はこうして闘った」を制作・放送しました(対談収録は6月22日)。沖縄県感染症対策専門家会議の高山義浩さん、政治学・行政学が専門の東京大学の牧原出さんをゲストに、これまでに世界の科学が果たしてきた役割を振り返りながら、withコロナ時代をどう生きていけばいいのか知恵を出し合いました。放送当時から感染状況は大きく変化し、予断を許さない状況が続いています。しかしこのときに交わされた2時間に及ぶ対話には、冷静さを失わずにこれからの豊かな暮らしを前向きに考えるためのヒントが詰まっていました。放送では紹介できなかったやりとりも含めて、お届けしたいと思います。

(番組ディレクター 今氏源太)

科学はご神託ではない
 収録前打合せに集まった出演者の宮田さん、高山さん、牧原さん。3人は会議室に集まるや・・早々に議論を開始。世界最新の事例や分析を繰り出す宮田さん、沖縄の医療現場の実態を語る高山さん、日本の行政システムに鋭く切り込む牧原さん。「その話は後ほど・・」「熱量を是非スタジオに残しておいてください・・」など慌てるスタッフに脇目も振らず、話が続きました。


左:宮田「スウェーデンは集団免疫を目指しながら経済活動を進めていますが、思ったほど経済が回復しない可能性が高そうです」
右:高山「沖縄で医療、商業、観光などが直接対話する場を設けています。地元の人が納得しながら感染予防を進めたいのです」
中:牧原「日本政府の対応は常に一歩遅れており“うしろのめり”が目立っていますね」

 スタジオ収録。前半のテーマは「新型コロナと対峙してきた科学・科学者の役割」についてです。番組放送後には、医学的な助言を行ってきた厚生労働省感染症対策専門家会議が廃止され新たに分科会が立ち上がるなど、政治と科学の関わりについては様々な議論が今も続いています。宮田さんたちは「科学は絶対ではない」という点に関してそれぞれの考えを交わしました。

宮田:感染拡大の初期、科学者から今後の被害について「何も対策をしなければ最悪の場合42万人が亡くなる」という予測がされました。しかしその後、数字が1人歩きして、「実際には起こらなかったではないか」「不安をあおった責任をとれ」などの批判が起きました。私たちが知っておくべきことのひとつは「科学は予言ではない」ということです。この予測の最大の役割というのは、提示された数字を受けて、「私たちが感染を拡大しないような行動をとって未来を変える」ことなんですよね。ここがすごく大事です。

感染症内科医・沖縄県専門家会議メンバー 高山義浩さん(以下 高山):科学を使いこなすためには「対案がある」ということが非常に重要です。ところが今回、政府に提言するような研究グループが複数なかった点が残念です。感染症の対策というのは、正解は1つじゃなくて、いくつもあるはずなんです。いくつかの研究グループから提言されたものの中から政治が決断をするというプロセスを踏めば、今どんな対策がとられているのか、私たち市民にはもっとわかりやすかったかもしれない。
特定の研究者に責任を負わせたり、批判する風潮についても、対案が複数なかったことが原因だと思います。提言がひとつしかないとそれはまるで絶対的な正解かのような、ご神託のようになってしまいかねません。



宮田:科学は絶対的な神託ではないですよね。世界の場合だとマスクが象徴的な事例だと思います。当初WHOは「マスクによる感染予防効果の証拠はない」と言っていたのですが、実証を積み重ねていく中で指針を大転換し、今は着用を推奨しています。データを見ながらどんどん対応が変わっているし、逆に新たな科学的知見が増えれば私たちの行動の自由が今よりも幅広く担保されるかもしれません。あくまでも現実をどう見るかというシナリオであったり、あるいは一部の見方による仮説でしかないんですよね。

東京大学先端科学技術研究センター教授 牧原出さん(以下 牧原):感染症対策によって人々の健康を守る「生命の価値」と、経済や財産を守る「財の価値」。この2つの価値を政治がどう配分するかを決めるという意味では、まるで政治学のモデルケースのような、答えなき難題がずっと続いているように思えます。
気をつけなければいけないのは、政治では自分たちに都合のいい科学的提言があると思うと、この意見でいこうという流れが生まれます。安易にそうならないようにするためにも本当に全国各地で熟議を重ねながら、いちばん良い最適なバランスを作っていかなければいけないと思いますね。

闘っているのは科学ではなく、私たち自身
宮田:これまで多くの人たちがイメージする科学というのは、ある限られた科学者が進むべき道を照らして、その正解に沿ってみんなが歩いていくということではないでしょうか。でも科学ってもともと不確実な世界に対して、どう歩んでいけばいいのかの「手がかり」を与えるものなんですよね。

高山:科学は解決の手がかりを提示はしてくれるんですけれども、それを人々が継続して取り組むために必要なのは「文化」だと思っています。例えば私は内科医として糖尿病の患者さんにライフスタイルの変更を提案することがしばしばあります。そのとき、単に検査データだけ示しても患者さんは納得しません。患者さんが生活改善で取り組む努力をデータで評価しながら応援し、さらに、治ったら何がしたいか、そのためには今何をするべきかなど、病気を克服していくプロセスを物語にして伝えていく。生活の中での文化を身につけることの大切さは、公衆衛生の場合も同様だと思いますね。



牧原:特にSNSを見ると色々な人が議論をしています。批判や非難につながった例もありますが、中には感染実態に関する計算をしたりしながら、それを的確にほかの人が受け止めたり、論争を誰かまとめてたり、開かれた議論の場として機能していることも多く見受けられます。
気が緩むことを責めるのではなく、この病気に対するリテラシーをネットや対話を通じて1人1人が付けながら暮らしのバランスを考えていく。それは決してできないことではないなと思います。

宮田:今後、重症者がどこでどのように増えるのか、季節によってウイルスの毒性がどう変化するかなど、わからないことだらけです。一方で多様な人たちによって、すべき対策やリスクが違うことも徐々に見えてきています。1人1人の道を照らしながら人生に寄り添っていくことが科学の新しい役割になってきてると考えています。ウイルスとの闘いは、一番楽観的なシナリオでも、年内は対峙し続ける必要があります。この期間に対する覚悟は、やはり我々は今、あらためて持つべきだと思いますね。

高山:闘っているのは科学ではなくて「私たち自身」なんですね。科学はあくまでツールであって、決断するのは私たちの価値観だっていうところは忘れないようにしたいです。これからも闘い続けるのは私たち自身です。

地域の連帯なら、できるはず
 番組収録が行われた6月下旬から国内の感染状況は大きく変化しました。東京や大阪など多くの自治体で1日当たりの新規感染者数は最多を更新。各地で重症患者の増加や医療体制のひっ迫も起き始めるなど予断を許さない状況となっています。
 最も深刻な県のひとつが、高山さんが暮らす沖縄県です。米軍基地内や繁華街でクラスターが発生すると、10万人当たりの新規感染者数が東京を抜いて全国最多にのぼる週もあり、現在沖縄は独自の緊急事態宣言下で対応を行っています。

高山:沖縄では感染症対策と並行して観光再開に踏み切ることを県民の判断として決めました。そのときにウイルスを持ってる人たちが県外から入ってくることは前提だと思わなければいけません。流入は仕方がないこと。観光客がきっかけで感染者が出ることがあるかもしれないけど、大事なのは感染を県内で広げないことです。特に最終防衛ラインは致死率の高いお年寄りを守り続ける、というところに目標を定めています。



 高山さんは、現場の最前線で医療を行うだけでなく、沖縄県の感染症対策専門家会議メンバーとして県のガイドライン作成にも携わりました。大切にしたのは医療や行政だけでない、様々な人との対話を重ねることだといいます。

高山:沖縄県は人口140万で小さな県です。大都市や国だと表面的な議論で終わってしまうところがありますが、率直に意見を言い合えるのが地方自治の良さでもあります。
これまで、今後の生活をどうすべきかについて、医療と観光の分野横断的な検討会を開催しました。具体的な対策がすでに始まっています。他にも例えば学校の休校や再開について、学校関係者だけじゃなくて生徒たちの意見も聞いてみようとか、あるいは文化の再開について、語り部であるおじいやおばあの話も聞いてみようとか、そういった対話の中でみんなの納得感を高めていく。
トップダウンでこれが危ないというのではなくて、住民参加型でオープンな議論をすることで、住民もついてくるのではないでしょうか。地方自治ならみんなで「呼吸を合わせる」ことができると思っています。

世界の仕組みそのものが問われはじめている
 新型コロナは単にウイルスの脅威だけでなく、私たちの社会が抱えるひずみそのものを浮かび上がらせています。収録の後半では眼前に突きつけられた課題に加えて、「これから私たちはいかに豊かな暮らしを築いていけるか」も、大きなテーマになりました。



宮田:歴史を振り返ると、産業革命が起きて経済合理性の中で社会システムが作られていき、この数百年、世界を駆動してきたのは経済でした。しかし「経済だけで本当に社会はいいんだろうか」という問いは、近年ずっと起きてきました。例えばコロナの前の世界の大きな問いは異常気象や温暖化など地球環境でした。
そして今、新型コロナウイルスが流行したことによって、環境もあれば、教育もあれば、あるいは民主主義の中での自由と公権力との制約のバランスをどう考えるか。こういったものがまさに、資本主義だけではなくて、社会のバランスの中でどう向き合っていくかというようなフェーズに世界は来ており、各国が模索しているのではないかと思いますね。

牧原:コロナ前から格差社会で非常に人々の不満が高まったり、そういった不満を排外主義に振り向けて支持を集めるポピュリズムが広がっています。アメリカやヨーロッパや南米でコロナ下の感染対策や経済規制によってこの不満がますます高まり、政治がどう怒りをおさめるかが、すごく難しくなっているんだと思いますね。



宮田:アメリカはまさに資本主義だけじゃなくて、民主主義そのものを根本から今問い直すような運動、ブラック・ライヴズ・マターに直面していますよね。新規感染者が後を絶たず、さらには失業保険の申請が4200万人にも及ぶ中、それらの傾向が特に黒人で多く起きています。非常に人種的な格差があったわけです。さらに声を上げる人々はアメリカの歴史を振り返って、合衆国憲法の権利章典のときから、黒人たちは権利を持ってなかったと主張しています。自由やアメリカンドリームのゆがんだ部分と向き合いながら、どう新しい社会を創るのか。
これは対岸の火事では全くなくて、日本もこれからライフスタイル、国の在り方、生活の在り方を見直すまさに重要な時期に来ており、アメリカの事例を捉えるというのはすごく大事だなと思います。

世界も人も密接につながっているからこそ…
高山:これから大事にしていくのは、「へこたれない」ということだと思います。病気になった患者さんを応援していくことが私たち医者の大事な仕事であるように、大きな変化が起きる中で、これをチャンスにして人生を豊かにすることができないだろうかと、ポジティブに受け止めることが大事だと思います。
そして、コロナによって世界中が密接につながっていることがわかりました。わかった以上、これを機会にもっとお互いが仲良くしようとかですね、どうしたら協力し合えるのかとか、そうした世界との対話も、もっとしていきたいです。



牧原:およそ400年前にロンドンでペストの大流行があったとき、ある作家は「これだけの猛威を振るったにもかかわらず、感染が収束すると全てが元に戻った」という言葉を批判的な意味を込めて残しています。そうだとして、今回の場合もコロナ以前に戻りたいという動きがさらに働く可能性があります。
大事なのはやはり熟議ですよね。時間をかけて今後のことを決めていくのが大事で、特定の人が一挙に決めるとか、ちょっと耳障りのいいことを言ってそれで決まるということにはならないと思います。分野や人の違いを乗り越えて何が可能かということを、お互い投げかけ合うことが大事だと思います。

宮田:ペストには別の側面もありました。当時、教会による支配や封建制度が大きく揺らぐ中で大流行が起き、やがて変化を求める人々によってルネサンスという文化運動に発展。徐々に次の文化・文明につながっていったのです。
社会システムの大きな転換点にある中で、コロナとどう向き合うか。そして科学やデータをどう使っていくか。世界ではデジタル化(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいますが、もしコロナが来なくてもこの10年で世界を変える大波だというふうに言われていました。その変化のスピードはさらに加速していくでしょう。デジタルを使ってひとりひとりがつながる世界だからこそ、多様なライフスタイルであったり、ひとりひとりが自分らしく生きることができる社会の在り方を考える時期にきていると思います。



 収録の最後に3人が強調したのは、「希望」でした。今も多くの人を苦しめる新型コロナウイルスですが、それぞれが前向きな可能性を見いだし、その先にある豊かさを実現していこうとしている姿が印象的でした。「変化を誰か他人に任せるのではなく、自分たちの手で作り出そう」という意志にあふれていました。
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2020年8月1日
主婦の日常は・・家事、子育て、アプリ開発!? ~“協働”のシビックテック~
 市民自らがデータを武器に新たなサービスを作る“シビックテック”。新型コロナウイルスからわたしたちの暮らしを守る新たな取り組みとして注目されていますが、その主役はプログラマーやITエンジニアなど技術者だけではありません。主婦や学生、高齢者など、IT技術にまったく詳しくなくても、自らが持つ問題意識や能力を地域の問題解決に生かすことができるのがシビックテックの大きな特徴です。
 宮田さんは「シビックテックに参加するには一定以上の技術がないと難しいと思われがちですが、そんなことはありません。大切なのは技術ではなく、地域の課題やニーズをどう解決していきたいかという1人1人の気持ちだと私は思います。身近になりつつあるIT技術を使って、シビックテックという形で個人が社会と関わっていくことは、これからの豊かな生き方を実現するうえでの1つの選択肢になっていきます」と話しています。
 さまざまな立場の人による“協働”が、今後の持続可能なシビックテックの在り方を示そうとしています。
(報道局ネットワーク報道部 斉藤直哉)

アプリ開発者を訪ねてみたら
 新型コロナウイルスへの対策としてシビックテックによって数多くのサービスが生み出されています。外出自粛のなかで活路を見出そうと新たにテイクアウトを始める飲食店と市民をつなぐ「テイクアウトマップ」もその1つです。

 日本各地で同様のマップが開発されていますが、そのうちの1つ、千葉県流山市のテイクアウトマップは緊急事態宣言が発表されて間もない4月上旬にリリースされ、現在は市内におよそ500ある飲食店のうち150ほどの店舗が参加するなどして利用が広がっています。



 ほかの地域からも注目を集めているというこのアプリについて話を聞こうと、開発者の自宅を訪ねました。閑静な住宅地の1軒を訪ねると、アプリを開発した白澤美幸さんがお子さんとともに出迎えてくれました。



 白澤さんは小学4年生と6年生の子どもと夫の4人暮らしで、数年前に流山市に引っ越してきました。現在は実家の手伝いをする以外は主婦として子育てと家事に励んでいます。
 アプリを開発したきっかけの1つが、学校が休校になり、主婦として毎日の食事づくりの負担が増えたことだったといいます。



流山テイクアウトマップの開発者・白澤美幸さん
「子どもたちが1日中家にいて外出もできないので、朝・昼・晩すべての食事を作らなくてはいけなくなって、飽きないように毎日メニューを考えるのが大変で困っていました。そのときに知り合いから地域の飲食店が外出の自粛で経営が大変になっているって聞いて、それだったらお店の料理をテイクアウトで買いたいと思ったけれど、全然どこにお店があるか知らなかったので、私もその情報をアプリで簡単に知ることができたら便利だと思いました」

開発は子どもが寝たあとで
 白澤さんは以前IT関連の企業に勤めていましたが、営業の仕事だったためシステム開発やITの詳しい技術については知識や経験がまったくありませんでした。結婚して主婦になってからも、SNSやメールは普段から使っていますが、アプリやシステムを開発した経験はこれまでまったくなかったといいます。
 ただ、ボランティアなど地域に貢献したいという思いから以前からシビックテックに関心があり、関係するイベントを手伝うなどしていました。そのつながりから、ITの知識がなくても簡単にアプリ開発ができるツールを教えてもらい、みずから目の前の課題を解決しようと立ち上がりました。



 利用したのはオンラインのモバイルアプリ開発ツール。表計算ソフトでデータを加工するだけで簡単にモバイルアプリを作ることができるというもので、白澤さんは知り合いからネットで教えてもらいながら初めて利用しましたが、詳しい知識がなくても簡単に取り組むことができたといいます。実際にテイクアウトマップの開発にあたっても、プログラムを打ち込むような作業はなく、文字や画面のデザインをメニューから選んだり、表示させたい店舗の情報を入力したりするだけで、実際にサービスを提供できるまでのシステムが構築できたといいます。



流山テイクアウトマップの開発者・白澤美幸さん
「私はプログラムとか全然わからないけれど、画面のボタンを押すだけで開発できるツールだったので簡単にできました。日中は子どもが家にいたり家事をしたりで開発の時間はあまり取れず、子どもが食事をしている間とか、夜な夜なリビングでテレビを見ながらとかでパソコンに向き合っていました。集中して一生懸命作業したのは最初の2日くらいで、仲間とこのサービスを思い立ってから5日でリリースすることができました」

 開発を始めた4月はじめは新型コロナウイルスの影響で学校が休校になり、家族の毎日の食事の準備だけでなく、子どもたちが課された宿題をこなしているかをチェックしたり、分散登校の準備をしたりするなど、主婦として目まぐるしい毎日だったといいます。それでも白澤さんはリビングや食卓でノートパソコンを広げ、少しの空いた時間で作業にあたりました。



小学6年生の長男
「お母さんはご飯食べるのも忘れて作業に没頭していたり、ご飯食べたあともオンラインで打合せしていたりして辛そうにしていたときもあって、頑張ってって思っていました。お母さんが作ったアプリをたくさんの人が使っているのは自慢に思っています。」

非エンジニアが中心の開発チーム


 今回のテイクアウトマップのプロジェクトは白澤さんのほかに4人のメンバーが参加していて、一般の企業につとめていたり地元で英会話教室を開いたりしていたりと、いずれも専業のITエンジニアではありませんでした。
 白澤さんが中心となってアプリを開発する一方で、ほかのメンバーがSNSでアプリの宣伝をしたり、表示される店舗のデータを整えたりするなどの作業を分担したほか、アプリのデザインや使い勝手についてそれぞれ意見を出しながら改善を重ねていったといいます。



 新型コロナウイルスの影響で作業はすべてSNSを介したオンライン。記者が取材に訪れた6月中旬、いったん感染の拡大が収まったこともあり、チーム全員が初めてオフラインで顔を合わせました。5人で集まるのは初めてでしたが、それぞれが地域のイベントなどで知り合いだったりしていて、終始和やかな雰囲気で今後の展開などを話し合っていました。

チームメンバーの女性
「メンバーそれぞれが個別に地域の市民活動などに携わっていて、それで緩くつながっていました。みんながITをつくる側だと利用者の目線が抜けてしまうことがありますが、このチームの強みはサービスをつくる側と利用する側の両方の気持ちが分かるので、使いやすいアプリにできたと感じています。固定されたメンバーではないので、これからも参加したいという人がいたら自由に参加してもらいたい」

 アプリでは、テイクアウトを提供している飲食店の場所などの情報を一覧で表示していて、飲食店ごとのメニューなどのデータは飲食店側で簡単に編集できるようになっています。アプリのリリースにあわせて流山市や商工会議所が宣伝などをバックアップしたことで、いまでは多くの飲食店が参加していて、随時情報が更新されています。



テイクアウトマップに参加した飲食店の店主
「公開までのスピードや対応がすごく早かったですし、アプリを見て初めて訪れてくれたお客さんも結構いましたので、飲食店としてはとてもいいサービスだと思っています。やはり、普段から食べに来られていたりする市民の方の目線で作られているから使いやすいというか広がっているのかなと感じています」

空いた時間で社会貢献
 白澤さんはテイクアウトマップだけではなく、子どもたちの宿題や予定を把握できるスケジュール管理のアプリも開発し、市内で同じく子どもを持つ親たちに試験的に提供しています。今後もできる範囲で地域の課題解決に取り組みたいと話しています。



流山テイクアウトマップの開発者・白澤美幸さん
「シビックテックというとすごい技術を持つエンジニアさんがたくさん活躍されているけど、私がつくったような簡単な技術でも『これが欲しかったんだ』と地域の人がすごくありがたがってくれたので、エンジニアではない人でも地域への貢献ができるんだと思いました。そのなかで、時間割のアプリもそうですが、一般の主婦や子育てしている人の視点が新しいきっかけになっています。幼い子どもを抱えているとなかなかボランティアに参加するのは難しいですが、シビックテックだったら自分の好きな時間にできる範囲で作業ができることがメリットなので、若い世代の方には浸透しやすいと思います」

社会も多様、シビックテックも多様であるべき
 エンジニアの知識や技術がなくても活躍できるシビックテック。白澤さんのように簡単な技術でアプリを開発する活動も広がっていますが、市民としてふだんの暮らしの中で培ってきた知識や経験を、問題解決のアイデアに反映させていくような貢献こそ、シビックテックに欠かせないといいます。
 日本で初めてのシビックテックの団体として、2013年から金沢市で活動している「Code for Kanazawa」の代表、福島健一郎さんに話を聞きました。



Code for Kanazawa代表・福島健一郎さん
「社会の問題を解決するのがシビックテックであるならば、エンジニアだけが思っている課題を解決するのではいけない。社会が多様であるならば、シビックテックもまた多様であるべきです。私たちの団体でもエンジニアではない多くの方が参加してくれていますが、プロジェクトのリーダー役や宣伝担当などを精力的に行ってもらっています。シビックテックは自分事でないと意欲が持続しないので、本当に問題意識のある人が中心にならなければいけない」

「してほしい」ではなく「一緒にしましょう」
 「Code for Kanazawa」では複数のプロジェクトごとにエンジニアや市民が関わっていて、現在はのべ100人ほどが参加していますが、その8割ほどがIT技術に詳しくない学生や主婦などのいわゆる非エンジニアだといいます。




 非エンジニアの方の活躍により重要なサービスが次々に生まれています。Code for Kanazawaが2016年から奥能登地方の2市2町で運営している子育て情報アプリ「のとノットアローン」は、これまでは回覧板や公民館の掲示板でしか知ることができなかった、小さな子どもを連れて行ける地域のイベントやお祭りの情報をスマートフォンのアプリで一覧で見られるようにしたサービスですが、このアプリの開発も地域で子育てをする女性たちが中心になってプロジェクトが進められたといいます。

Code for Kanazawa代表・福島健一郎さん
「はじめは地域のお母さんたちが私たちのところに来て『困っているので、こうゆうサービスを作ってほしい』という話をされました。そこで私たちは『一緒に作りましょう』といって参加してもらいました。プロジェクトにあたっては、エンジニアが使いがちな専門用語が分からなかったり、反対にエンジニアが地域の事情に詳しくなかったりと、お互いにマインドが異なることはありましたが、私のような調整役が通訳として入って、お互いに歩み寄っていくことで、よりよいものになったと思います」

参加した母親たちによる「のとノットアローン」のアイデアシート
ここからアプリ開発が始まった
 
ヒーローはエンジニアだけじゃない
Code for Kanazawa代表・福島健一郎さん
「プログラムを書いたりアプリを開発したりするのは大変な作業なので、エンジニアはシビックテックではヒーローだと思っています。ただ、ヒーローはエンジニアだけではありません。地域の問題を解決したいと思う1人1人が重要な役割を果たすことが求められています。もしシビックテックに関心があれば、お住いの地域でどんなプロジェクトが始まっているのかを調べてもらうとともに、普段使っているスマートフォンやアプリとはどうゆうものなのかといったITの知識についても少し知ってもらうと、より理解が深まって自分が貢献できることが見つかるかもしれません」

 シビックテックで重要なのは、プログラムを魔法のように操って夢のサービスを実現するエンジニアだと思われがちですが、実際の社会はそんなに単純ではないと福島さんは語ってくれました。複雑な社会だからこそ、多様な人が多様な視点や能力で参加することが持続可能なシビックテックには欠かせません。

 宮田さんは、シビックテックの多くは最先端のテクノロジーではなく、すでに普及しているITやサービスを地域のニーズとうまくマッチングさせて地域の課題を解決していると話していて、大事なのはどれだけ最先端のテクノロジーを使うかではなく、1人1人が地域の問題をどう解決していきたいという気持ちだと指摘しています。

慶應義塾大学 宮田裕章教授
「誰もが参加できることと、みんなで課題解決そのものを考えることが民主主義にとって一番大切な部分であって、どんな社会問題を解決すべきかというアジェンダセッティング(課題設定)を一部の特別な集団だけ行うのではなく、市民を介して行っていくことができるようになることはテクノロジーが持っている大事な可能性の1つです。これまでは、地域の回覧板のようにコミュニケーションの手段が限られていると、個人が周囲に与えられる影響は小さなものでしたが、ITやサービスの進歩によって、自分の好きなことや関心のあることでほかの人とつながって、それが一緒に新しいことを始める力になったり、関心がなかったほかの人も巻き込んだりして、新たな社会の力につなげていくことができるようになってきています。シビックテックのように、1人1人が大事にしたいことを大事にするその延長線上で能動的に社会に影響を及ぼしあうことは、個人の豊かな生き方を実現する手段になっていくと思います」

宮田さんの注目する「シビックテック」についてのご感想・ご意見は、下の「コメント」からお寄せください。
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2020年7月25日
シビックテックと民主主義
「私は“データを駆使して誰も取り残さない社会を作る”ことを常に考え、実現を目指しています。シビックテックはこの考え方に非常に近く、withコロナ時代の大きなうねりとして、とても注目しています。」

宮田さんがこう語るのは7月8日の放送回でも取り上げた市民がテクノロジーを使って社会課題の解決を目指す「シビックテック」の可能性です。

「シビックテックの最大の武器はずばり“多様性(ダイバーシティ)と包摂(インクルージョン)”へのアプローチです。現在の民主主義がつくる社会システムは選挙で選ばれた政治家や行政担当者によるトップダウンの仕組みが主ですが、この場合『多くの人が困っていることはこれ』と人々の平均に向けた対策になりがちです。私はこれを最大幸福=最大公約数と考える仕組みと呼んでいるのですが、これだけでは、より多様な立場であったり、社会の平均とは異なる事情を抱える人を包摂してサポートすることが難しいという欠点があります。そこで行政官だけでなく、市民自身が社会システム作りに参加し、さらにテクノロジーを使うことでより手の届かなかったサポートを実現していくことができます。シビックテックは、日本だけでなく今、全世界で起きている民主主義をより強力に刷新する動きなのです。」

日本のシビックテックの動きをけん引する存在として注目されているのが、シビックテックの市民団体・一般社団法人Code for Japanの代表・関治之さん。宮田さんも「まさにこれからシビックテックが羽ばたくとき」と活躍に期待を寄せるキーパーソンです。
日本で今広がりを見せるシビックテックの動きについて、関さんにインタビューした記事はこちらです↓
「“ともにつくる” コロナ時代を支えるシビックテックの潮流」

今回、宮田さんが取り上げた「シビックテック」についてのご感想・ご意見は、下の「コメント」からお寄せください。
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2020年7月15日
市民と行政で作る“新しい公共” ~シビックテックストーリーin浜松~
7月8日の放送で取り上げた市民がテクノロジーを使って社会課題の解決を目指す「シビックテック」の取り組み。宮田さんは「国によるデータを使ったコロナ対策を“大きな公共”だとすると、シビックテックのような市民が中心になった仕組み作りは“小さな公共”と言えます。これから重要なのは地域別・個別で小さな公共を組み合わせながら感染対策と経済活動を両立させること。シビックテックの特徴であるデータを市民と共有しながら新しいサービスを作る方法は公共の考え方そのものが大きく変わり始めていることを感じます」と今後のデータ活用のひとつとして大きな期待を寄せているようです。宮田さんが言う公共の考え方の変化とは一体どういうことなのか、浜松市の行政と市民が協力して市のコロナ情報サイトや飲食テイクアウトアプリをつくるプロジェクトを見ていくと“新しい公共”の輪郭が見えてきました。

(番組ディレクター 土生田晃)



「住民に泣きついた」市役所職員が語る胸の内
3月28日、静岡県浜松市内で初めて新型コロナウイルスの陽性患者が発覚しました。
同日、浜松市役所のホームページには住民のアクセスが殺到。しかし市役所は、感染情報がまとまったサイトを整備出来ずにおり、住民が情報にたどり着けない事態に陥っていたのです。

浜松市・情報政策課 村越功司さん
行政のチカラだけで市民に情報を素早く届けることに難しさを感じていた


浜松市・情報政策課 村越功司さん
「時間もない、ノウハウもない、職員もちょうど年度末で繁忙期のため人手もいない。しかも市でサイトを作るとしたら、まず予算を確保し、次に業者を選定、そして開発といった具合で、 “これまで”の行政のやり方では完成が秋になってしまう」

住民が一目で感染情報を把握できるサイトが作れない…。市役所職員・村越功司さんはどうすれば良いか悩む中、注目をしたのがシビックテックでした。その理由には東京都が3月初旬に公開した「新型コロナウイルス感染症対策サイト」の存在がありました。感染情報をわかりやすく見ることができるこのサイトがシビックテックによって作られたものだったのです。すぐに村越さんはIT技術に関する市内の勉強会の主催者に声をかけました。今後の行政サービスを作る上で参考になるのでは思い、2年前からこの勉強会に足を運んでいたのです。

浜松市・情報政策課 村越功司さん
「『東京都が公開したサイトの浜松版は作れる?』と泣きついたというのが事実です。スピード感を持って対応するには、これまでの行政のやり方では難しい。それは頭では分かっていたんですけど、『じゃあどうすれば?』と頭を悩ませていました。その時、1つの道筋となったものが東京都のサイトの作り方、シビックテックだったんです」

東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイト
市民エンジニアの手によって都の持つ検査などのデータを見やすいデザインに整えた


“市民エンジニア”が団結して灯ったシビックテックのともしび
市役所職員・村越さんが連絡をしたのは、市内でITエンジニアとして働く小木悠斗さん。
小木さんは約20名が参加する「JAWS-UG浜松」というITコミュニティの主催者。コミュニティ自体は市内で働く20代から50代のエンジニアで構成され、新しい技術を共有したり、趣味で作ったアプリを見せ合うなど、仕事とは関係のない繋がりでした。勉強会に顔を出していた村越さんからの突然の連絡に、小木さんの返答は二つ返事で“やりましょう”。無償で引き受けることになりました。

ITエンジニア・小木悠斗さん
普段は企業向けシステムの製作や管理を担当している


ITエンジニア・小木悠斗さん
「今まではメンバーと一緒にプライベートな時間で好きに勉強して、趣味でアプリなど作って満足していたんです。ですが、得た技術を生かせる場ってなかなかなかったんですよね。今回の件で、『やっと生かせる場ができた』という思いがあって、そういう意味では今回がシビックテック初体験でした。この街に住んでいる以上、何かしたいと思っていたので」

村越さんからの連絡を受けたその日、小木さんは「JAWS-UG浜松」のメンバーである“市民エンジニア”たちと特設サイトの製作に乗り出しました。まず小木さんたちは、村越さんたち市役所側に行政データの整理をお願いしました。実は、サイトに載せるための陽性患者数や検査数は、これまで市のHPでバラバラに公開され、数字も表記が複雑で見づらく、市民にとってわかりづらい状態になっていました。小木さんたちは行政データをひとまとめにした状態で提供してもらい、特設サイト上でまとめて見ることができるようにしました。また今後は行政データをサイトに簡単に反映させることができ、日々の更新も簡単にできるようにシステムを組みました。
その他にも、小木さんたちは浜松市内に住む約2万人の外国人のために、「英語」や「ポルトガル語」、「やさしいにほんご」といった言語対応にも力を入れました。
住民に必要な情報は何か?使いやすい仕様とは何か?作り手でもありユーザーでもある市民エンジニアたちは、自らの意見をどんどん反映させていき、その自発的な動きに村越さんは驚きを隠せなかったといいます。

浜松市・情報政策課 村越功司さん
「皆さん本業がありますので、夜からオンライン上で繋がってスタートするんですが、その熱量が凄かったです。特にリーダーがいるわけでなく、誰かが『これをやって』と投げかけたら、それを誰かが自然と拾って解決していく。仕事の割りふりを事前に決める行政の働き方とは全く違うスピード感で、“出来る人がやる”という熱量とスピードに圧倒されてしまいました」

東京都の対策サイトをベースに浜松市民に使いやすいようアレンジした

市内で暮らす多くのブラジル人に向けてポルトガル語も対応


対策サイトの製作でシビックテックに初めて出会い、人生のライフワークとなった人もいます。黒柳仁さんは、職場は浜松市ですが住まいは市外。地元ではないけれど自分が何かの力になるならば…20年以上エンジニアとして顧客の要望に答えてきた黒柳さんは、誰かのために自身の持つ技術を使ってみたいと考えるようになり、小木さんから今回のプロジェクトを聞いて参加してみることにしました。自分の住む街に関係なく、同じ目的意識の仲間と繋がり社会参加できるのがシビックテックの大きな魅力だといいます。

ITエンジニア・黒柳仁さん
コロナ禍をきっかけにシビックテックという新しい社会参加を知った


ITエンジニア・黒柳仁さん
「今は54歳ですが、この年になってもパソコンさえあれば誰かに貢献できることが今回の一件で分かりました。しかも、会社も世代も違うエンジニアたちと同じ目的で繋がることで、僕の知らない技術やアイデアに出会えてすごく刺激的だったんです。自分の住む街ではなく近隣の街でこんな経験ができるなら、定年を迎えても色んな場所でシビックテックを続けていこうと思っています。」

多くの市民が協力しあい、製作からわずか4日間で公開にこぎつけた浜松版対策サイト。
しかも、この出来事をきっかけに浜松では“市民発のサービス”が次々と芽吹いています。

主役は市民エンジニアではなく“市民”
対策サイトの製作に携わったITエンジニアの松井英俊さんは、シビックテックをさらに街のために生かせないかと考えました。すぐに頭に浮かんだのは、営業自粛せざる得ない状況に追い込まれていた友人の飲食店オーナー。そこで松井さんは“あるアプリ”を製作。どのようなものかというと、店にとっては無料でテイクアウトメニューが掲載でき、そして住民にとっては市内の店とメニューがまとまって見やすい、店と住民の両者が活用できる「テイクアウトマップ」です。わずか一週間で製作をしました。

ITエンジニア・松井英俊さん
「東日本大震災の時に自分は二十歳ぐらいで、何かしたいって思ってたけど結局できなかったんです。ボランティアに行ったとしても、自分に何ができるか正直分からなかったので体が動かなかった。今は当時と違ってエンジニアとしての技量があるので、少し時間を割けば誰かの力になれると思ったんです。」

松井英俊さんがつくったテイクアウトマップ
参加店舗は69か所、掲載メニューは300以上


飲食店オーナーの伊藤良介さんは、友人である松井さんが作ったアプリの参加店舗を募りました。掲載料のかかる大手グルメサイトのような“多くの情報で溢れかえる場所”より、飲食店が無料で自由に活用できる浜松市に特化したものを作れないかと考えていた伊藤さん。松井さんのおかげで、企業や自治体に頼るのではなく、自分たちでもサービスを作れるという気付きがあったといいます。

(左)伊藤良介さん (右)松井英俊さん
参加店舗は69か所、掲載メニューは300以上


飲食店オーナー・伊藤良介さん
「近隣のお店さんはライバルみたいなものだったけど、街が生き残るために初めてちゃんと協力し合って、掲載する店がいくつも集まったんです。松井くんのおかげで、自分たちで動けたという実感があって、なんか『浜松の一員になれた』という気がしました」

シビックテックは市民エンジニアだけで行うものでなく、“お困りごとの当事者”と繋がることで、国や自治体が対応しきれなかった部分に応えることが可能になる。
松井さんはテイクアウトマップの作成や運営について、エンジニア志望の地元の若者を巻き込みました。そこには、自身がこれまで得られなかった“社会に貢献できる”という実感を、地元の若者にも味わってほしいという思いがあったといいます。

ITエンジニア・松井英俊さん
「自分は以前、大きい企業に勤めていたんですけど、そこで組織に必要とされているか分からなくなって、仕事に熱量持てなくなったんです。結果、仕事を辞めてプラプラしてるような時期が長く続いちゃって。そういった意味では今回、自分の持っているIT技術って、最先端のものでなくても地元のような小さな単位だったら役に立つんだなって分かりました。やっぱり自分が生まれ育った地域に貢献できたら誇りになるし、自分もそうだったので若い子たちにも経験してほしい」

人と人を繋げるシビックテックは“新たな公共”
コロナ禍をきっかけに芽生えた、自発的な市民エンジニアの動き。
市役所職員・村越さんは行政のあり方そのものを見直すきっかけになっていると実感しています。それは、サービスを“用意する”のではなく、“共に作る”にシフトするということ。村越さんたち市役所では今、企業が持っている技術を市民エンジニアに解放する動きも行なっています。個人で開発することが難しい企業の技術を、市役所が仲介することで市民エンジニアが使えるようにしているのです。

浜松市役所の村越さんとチームの皆さん
行政と市民の新しい関係づくりに今後も挑んでいく


浜松市・情報政策課 村越功司さん
「市役所の役割は、行政サービスを提供するだけでなく、シビックテックの舞台を用意したり、市民エンジニアをサポートすることも重要になってくると思っています。ただ注意しなくてはいけないことが、市民を“安い下請け”と勘違いしてしまうこと。本来は行政が担わないといけない部分を善意で担ってくれている点で、我々はそこに最大限のサポートと敬意を示さなければならない。市民を助け、そして助けらえれ、そんな新しい関係性が“新しい公共”のひとつのあり方なんじゃないかと思っています」

信頼を通したデータ活用が次の社会を作る
宮田さんはシビックテックによる新しい公共の可能性を、単に今まで手の届かなかった地域課題の解決だけではないと言います。それはデータを提供する側と提供されたデータを使う側の間に欠かせない「信頼関係」作りです。

慶應義塾大学 宮田裕章教授
「今、わたしたち市民は国やGAFAなどのITメジャーに情報を提供し、その代わりに様々なサービスを受けています。そのこと自体はしばらく続きそうですが、一方で提供した情報が他の営利目的等で使用されていないか、プライバシーは正しく守られているかなど不安に感じることも少なくありません。しかし次の社会を考えると、今後は国であろうと大手企業であろうと人々からの信頼を得られないまま勝手にデータを使用し続ければどんどんユーザーは離れていくでしょう。データを使う側は、わたしたち個人や社会全体の役に立てる目的であることをわかりやすく伝え、時には取り組み自体を一般公開して透明性を示すこと(オープンソース)も重要になると思います。利益を上げたり経済を回すことも重要ですが、この信頼作りに今まで以上に多くの労力を使う必要があります。わたしたち市民としては、信頼をもとにデータを利活用することが当たり前だという価値観がシビックテックのように市民側から広まることで大手企業や行政にも大きな影響を与えるはずです。現に浜松市の取り組みでは行政と市民が上下関係ではなく協力し合う立場です。こうした新しい関係性がコロナ禍で芽吹いていることは次の暮らしやすい社会に向けた大きな前進だと感じています」
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2020年7月8日
自治体×IT企業“感染予報マップ”に挑む
日本で新型コロナウイルスの感染拡大が起き始めた当初から、慶應義塾大学の宮田さんは神奈川県やLINE社と連携し、1人1人の市民の健康状態に応じて必要な医療や生活の情報を提供する「パーソナルサポート」を立ち上げ、ビッグデータを用いた感染症対策に取り組んできました。
そして今、感染拡大の第2波への備えなど長期化するウイルスとの戦いに向けて、ビッグデータを応用した新たなシステム「コロナ警戒マップ」の開発に取り組んでいます。
「コロナ警戒マップ」とはどんな取り組みなのか。ビッグデータを分析することで、人々の行動変容にどうつなげていけるのか。

感染リスクを“予報”する


宮田さん
「天気予報のようなかたちで、1人1人が集めるデータで、1歩先の未来が見える」

いまだ終息がみえない新型コロナウイルスとの戦い。宮田さんが、目下取り組んでいるのが目に見えない感染リスクを“予報”する「コロナ警戒マップ」の開発です。

神奈川県やIT大手のLINEと連携。県民1人1人にLINEを通じて年齢や職業、発熱やのどの痛みなどの体調、感染予防行動の有無、住んでいる地域の郵便番号、それに陽性患者との接触歴などを回答してもらい、それらの情報を匿名化してビッグデータとして分析します。
ことし3月から行ってきたパーソナルサポートの取り組みでも同様のデータを蓄積していて、すでに70万人以上の県民が回答しています。そのなかには、医療機関で新型コロナウイルスの感染を診断された人のデータも蓄積されていて、それらの回答の傾向を分析することで、まだ陽性と診断されていない人が潜在的にウイルスに感染しているリスクを、回答された体調や行動の特徴から統計的に割り出します。
匿名化された1人1人のデータから推定された感染リスクを居住地域ごとに積み重ねていくことで、どの地域で潜在的な感染リスクの高い人が増えているのかという動向を地図として可視化することができ、コロナ警戒マップとして1週間に1度、LINEやホームページを通じて県民にフィードバックする予定です。



定期的にコロナ警戒マップを配信することで、人々が外出する前にマップを確認し、目的地周辺で感染リスクが増えている場合には、より厳重な感染予防対策をしたり、外出をとりやめたりといった行動を促すことができるといいます。
回答する人が多ければ多いほどデータの精度、つまり“予報”の精度が高まると期待されています。

いま必要なことは行動の変容


先月9日、宮田さんは神奈川県庁を訪ね、「コロナ警戒マップ」について黒岩知事とLINE執行役員・江口清貴さんと意見を交わしました。

宮田さんは、人々が地域全体で「行動変容」を起こせば、感染が再び拡大することを回避できる可能性はあると指摘しました。

宮田さん
「いま一番大事なことは、もう一回感染拡大を起こさないということ。リスク予防行動、つまりマスクを着けて3密を回避するといった行動をある程度取っていれば、緊急事態宣言や休業要請の再発動を避けることができるシナリオはあるんじゃないかと思います。そのためには、地域全体で行動を改善していくということが求められている。ワクチンが開発されるまでは、感染が拡大したあとになって休業要請などの対策をするのではなく、その手前で気を引き締めたり、行動を改善したりして事態を安定させていくほうが好ましい」

黒岩知事
「私たちが行っている警戒アラートの取り組みもその発想だ。もう一度、緊急事態宣言のような厳しい対策が発動されないよう、私たち県が早め早めに注意を呼びかけようと考えている。みんなもう二度とあんな厳しい外出自粛とか、休業要請は耐えられないと思っているのではないか」

感染の再拡大を防ぐには、一人一人が感染を避けるための行動を意識して実践することが欠かせません。コロナ警戒マップを、「行動の変容」にどうつなげていけるのか。

江口さん
「いままでは神奈川県全体で患者が何人出ましたという、県全体の情報になっていたので、県民1人1人が自分事としては捉えられなかったと思う。このシステムである程度細かく情報を提供することで、このエリアに出かけるときは普段よりも気をつけようとか、自分事として捉えてもらえ、その少しの行動の差がその後の感染予防に重要になってくる。いかに自分事と捉えて、自分の行動変容につなげて、病気から自分を守るかということがポイントです」

黒岩知事
「自分の置かれている状態をデータで客観的に見ることができれば、そのデータを基盤にして自分をコントロールしていくことができる。民主的なプロセスとして人々にデータを還元して、ともに解決していこうという考え方だが、いままさにそういった新しい健康の時代が来たということを感じる」

今こそITの力が試されている
長期化が見込まれるウイルスとの戦いのなかで、データを活用して対策を図っていくためには、これまでのように行政だけが取り組むのではなく、技術をもつIT企業や研究者がお互いに連携し合うことが欠かせないという指摘も出されました。



黒岩知事
「データ、ビッグデータがいままさに鍵を握っていると思う。これからの時代はウイルスは必ずどこかにいて、でもどこにいるかは分からないから1人1人が用心をしていくしかない。自分の身は自分で守ってほしいというメッセージをずっと出しているが、そのためにも、感染リスクがあるエリアがどこにあって、自分に危機が迫っているということを感じてもらえれば、みんなが主体となって用心しながら自分の健康を守っていくという流れをつくることができる」



江口さん
「これからの時代はいままでの常識が通用しないから、試行錯誤を繰り返していくしかない。自分たちのようなIT企業が行政とコラボレーションして、PDCAサイクルをぐるぐる回していくということをやり続けていかなければならない時代になったと思う。コロナ警戒マップにしても、1つのキラーアプリで解決するということはなくて、複数の取り組みを組み合わせていって、面的に対策を行っていくということをやらなくてはいけない」



宮田さん
「官や学だけではなく、民間との連携のなかで一緒にサービスをつくっていかないと課題解決ができない時代になっている。今回、みなさんは素晴らしい早さで対応してくれている。コロナとの戦いはまだまだこれからが長いので、データを使って人々に寄り添って、1人1人が行動するためのサポートをしていきたい。民主国家で人々のデータを使わせてもらうにはトラスト(信頼)が欠かせない。データの活用が人々にとっての価値や行動にどうつながるのかをお示しして、信頼につなげていくことが重要になると思う」

新たな社会像を示せるか
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、私たちの社会は大きな変化を余儀なくされています。テレワークやソーシャルディスタンスが当たり前になるなかで、その行動の指針としてのデータの活用がますます重要になってきています。

データによって地域の感染リスクを可視化し、人々に還元することで行動の変容を促そうという宮田さんたちの取り組みが、どんな社会をもたらすことができるのか。今後も注目したいと思います。

コロナ警戒マップの取り組みを含む、データを活用した新型コロナウイルス対策の詳細については、8日(水)午後10時放送のクローズアップ現代+で詳しくお伝えします。

宮田さんたちの取り組みについてのご感想・ご意見は、下の「コメント」からお寄せください。
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