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みんなでプラス > “性暴力”を考える Vol. 81~ > 【性暴力を考えるvol.83】本で伝えたい “あなたを守る” 法知識
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2020年6月5日
【性暴力を考えるvol.83】本で伝えたい “あなたを守る” 法知識
きのう6月4日、法務省では 性犯罪をめぐる刑法の見直しについて、専門家や被害者の支援団体の代表などをメンバーとした検討会が始まりました。この検討会の委員のひとりで、長らく性暴力の被害者支援に関わってきた弁護士の上谷さくらさんと、同じく弁護士で 被害後の法的な手続きについてセミナーを開くなど、被害者のサポートにあたっている岸本学さん(vol.56で詳しく紹介しました)が、先月末に本を出版しました。

その名も『おとめ六法』。デートDVからセクハラ、マタハラ、離婚まで、女性が人生の中で直面しうる さまざまなトラブルに巻き込まれた場合、どのように対処すればいいか、憲法・刑法・民法などの「六法」をはじめ、ストーカー規制法や男女雇用機会均等法など、あらゆる法律を用いて解説しています。挿絵は、女性に人気のイラストレーター・Cahoさんが手がけました。「万が一のときの道しるべになるような本」を目指したという3人に、書籍に込めた思いを聞きました。

(さいたま局 記者 信藤敦子・NHKグローバルメディアサービス ディレクター 飛田陽子)


※この記事では、被害の内容や被害後の対応について具体的に触れています。フラッシュバックなどの症状のある方はご留意ください。
“性犯罪被害だと知ってほしい”

(2020年5月28日出版『おとめ六法』より)

『おとめ六法』では、日常生活で起こりうるトラブルの事例を挙げ、それが法律上、どのように捉えられるのか、また、自分の身をどう守るためにはどうすればいいか、具体的に説明しています。

(CASE) 学校の体育準備室でボールを片付けていたら、担任の先生が入ってきて洋服の上から胸をさわり「内緒だよ」と言った。その後もたびたびさわられている。

(ANSWER) 教師という立場を利用し、暴行や脅迫によってわいせつな行為をすると、強制わいせつ罪にあたります。13歳未満の場合、「暴行・脅迫」は必要ありません。13歳以上でも、いきなり胸をさわることは「わいせつ行為=暴行」と考えられています。

(『おとめ六法』より)


弁護士として多くの性犯罪被害者と向き合ってきた上谷さんと岸本さんがこの本を書いた最大の理由は、性被害に遭うリスクが高い女性たちに、被害がただの「トラブル」ではなく、「犯罪の被害」だということを知っていてほしいからだといいます。

私が相談を受けたいろいろなケースを振り返ると、心の中で「もう少し法律や制度が一般の人にもっと知られていたらな」と思うことが少なくありません。決して 知らないことを責めるつもりはないのですが、性被害の場合は、被害者が “抵抗できなかったのは自分のせい“ “断れなかった自分が悪い“ などと考えて、 それが「犯罪被害」であることに気づくことができなかったという人がとても多いんです。そして、裁判で争わずに当事者間で話し合い、相手から被害弁償金などを受け取る「示談」を、“売春のような悪いこと”だと捉え、そのようなことはしたくないと思う人は少なからずいます。

犯罪・事件として訴えるかどうかは、被害者自身が決めていいことです。ただ、最初から 自分が受けた性被害は「犯罪被害」であることを理解したうえで “私は犯罪・事件として訴えない“と自分で考えて決めるのと、犯罪被害であることを知らずに 被害そのものを“なかったこと”にしたり、“自分も悪かった”と自身を責めたりするのとでは、その後、心身にあらわれる影響や回復の道のりが大きく違うと思います。犯罪被害であることを知ってもらうためにも、いまの法律ではどうなっているのかをあらかじめ知っておくことは重要だと考え、基本的な法知識をこの本につめ込みました。


現在の日本の社会状況は、まだまだ女性にとって厳しいものがあると考えています。私が相談を受けてきたケースだけでも、男性に比べて女性の方が、性犯罪の被害をより多く受けています。その背景に、日々の暮らしの中で、女性が男性よりも弱くて不利な立場に追いやられている実態があることは否めないと思います。大学入試や就職試験、職場の昇進などで男性の方が優位だったり、家庭でも夫より妻の立場が弱かったりすることがあります。女性たちは、一生の中で理不尽な状況に置かれることが少なくありません。私には7歳になる娘がいますが、この子が大人になるとき、今より少しでもよい社会を残せないか…と考えています。

一方で、多くの女性たちが現状を変えようと声をあげ始めています。理不尽な現状を打破しようとする人たちに、法律の知識は“武器”として使えるものではないかと考えました。たとえ、その法律が「建て前」であったとしても、法律は法律です。法にのっとって権利を主張すれば、社会は無視できません。さらに法律の不備の多さが分かれば、それを改善するよう、さらなる声をあげることができるようにもなります。この本が その一助になればと思っています。

性被害に遭ったら “証拠”が大切


本では、レイプなどの性被害に遭ったとき、その場で何をしておけば 後々助けになるのか、細かく説明しています。

気持ち悪いと思いますが、なるべくシャワーを浴びたり口をゆすいだりはしないでください。そのとき着ていた洋服も捨てないでください。体内、体の表面、衣服に、体液など犯人のDNAが残っている可能性があります。それらは有力な証拠になります。(中略)急いでワンストップ支援センターや捜査機関で検査をしてもらいましょう。刑事事件の証拠として役立つ可能性があります。

また、記憶にあることはメモに残しておきましょう。時間、場所、犯人の特徴(体格、洋服の色、顔の特徴など)など、思いつくことを書いてください。できれば、信頼できる家族や友人にメールなどで共有しておくのが望ましいです。もちろん、誰にも言いたくなければ、自分あてにメールしておくのでも大丈夫です。このメモは、事件後できるだけ早い段階で残す方が、刑事事件や民事訴訟になった場合の証拠価値が高くなります。

(『おとめ六法』より)


上谷さんによると、被害のあと、すぐには性犯罪・事件として訴え出ることを判断できなくても、できるだけ多くの証拠や情報を残すことができれば、時間が経過してからでも対処できるケースはあるといいます。

性犯罪・事件として訴えるためにはどんな証拠が必要か、いざというときに分からなかったという人がほとんどです。被害を裏づけるモノや情報をどれだけ残せるかによって、その後にできることが変わってきます。できることの選択肢をたくさん持ってもらうために、証拠となるモノを一つでも多く得るために具体的にどのようなことをすればいいか知っておいてもらいたいです。
被害を打ち明けられたら できること


さらに、『おとめ六法』には、性被害に遭った本人だけではなく、被害を打ち明けられた人ができることや、どう考えて行動すればいいのか、「親」「友だち」「交際相手」それぞれの視点からポイントが書かれています。

自分の子どもから性被害を打ち明けられたら…
絶対に怒らないことが重要です。子どもは勇気を出して親に打ち明けています。「そんな短いスカート履いているから」等、子どもに落ち度があるような言い方はやめましょう。(中略)まずは「よく話してくれたね」とねぎらい、「あなたはなにも悪くないのだから、安心して話してね」と言ってあげてください。(中略)親が動揺する場合もあります。その場合でも、(中略)子どもが嘘(うそ)をついていると決めつけるようなことは絶対言わず、子どもの言い分に耳を傾けてください。

友だちから性被害を打ち明けられたら…
友だちのペースに合わせて、話をよく聞いてあげてください。心配かもしれませんが、事件のことを根堀り葉堀り聞かないでください。(中略)正義感が先走り、「警察に行くべきだ」「泣き寝入りすると、犯人はまた別の人を襲う」「示談などもってのほか。裁判で徹底的に闘って」などの意見を述べるのは控えましょう。深く傷ついていて、警察に行くことも考えられない人もいます、また、自己肯定感が低下していたり、世の中の人がすべて敵に見えたりしている場合もあります。「私は味方だよ」と伝え、友達の気持ちに寄り添ってください。

交際相手から性被害を打ち明けられたら…
キスや性交渉に拒絶反応を示すこともありますが、それは性被害に遭った人に多く見られる症状です。「自分は加害者とは違う」「守ってあげたいのに、なぜ自分を受け入れないのか」などと責めないでください。カウンセリングに付き添ったり、ゆっくりと話を聞いたりして、気持ちに寄り添うようにしましょう。

(『おとめ六法』より)


岸本さんは、この本を通して性被害を打ち明けられたときの正しい対応を知ってもらうことで、被害に遭った人の落ち度を責める“セカンドレイプ(二次被害)”を減らしたいと考えています。

被害を打ち明けられた際にどのように対処するかは、被害者の心身の回復に少なからず影響を与えます。「どうしてそんな場所に行ったのか」「あなたにも隙があったのではないか」などといった発言が、被害者に助けを求めることをためらわせたり、被害後のつらさから立ち直ることを遅らせたりしてしまいます。しかし、現状は、こういう対応をしてしまう人のほうが多いと感じています。打ち明けられた側が被害者の落ち度を指摘したり、責めたりしてしまうのは、「(被害者が)これから二度と被害に遭うことがないように」との願いからだと思いますが、そのことで被害者は自分を追いつめ、さらに深い心の傷を負ってしまいます。性暴力はそれ自体が許されざる卑劣な行為で、被害に遭うことは、決して被害者自身のせいではないのです。そのことを多くの人に知ってもらいたいと切に願います。
“みんなを取り残さない”ために まずは“おとめ”から

(2020年5月28日出版『おとめ六法』)

日常生活でさまざまな“トラブル”に巻き込まれることや、性犯罪の被害に遭うことは、決して 女性だけの問題ではありません。なぜ『“おとめ”六法』なのか。上谷さんと岸本さんは、いまの日本社会で女性たちが置かれている立場に寄り添う視点を持つことが、誰も取り残さない社会を作る一歩になるといいます。

男性やLGBTQ+の人たちにとっては、本で紹介されている事例を自分の身に置き換えてみて、“自分も同じような目に遭っている”と感じる問題と、“全く知らなかった”という問題があるのではないでしょうか。いまの日本では、女性には各ライフステージで必ず何かあると言っていいほど、トラブルに遭遇するリスクが、男性に比べて多いと思います。例えば、女性たちは、学生のときにデートDVや痴漢の被害、就職してからはセクハラ、結婚後にはDV被害や離婚したい気持ちがあっても、十分な収入がなくてすぐには動けない…など。世の中で女性が遭遇しうる、それぞれのトラブルの事例について知り、女性以外の人たちも自分だったらどうするか、ひとりひとりがご自身なりの対応を考えるきっかけにしてほしいです。みんなが考え始める中で、女性のみならず男性もLGBTQ+の方々も、生きづらさを感じることの少ない社会にしていけると思います。

男性もLGBTQ+の人たちも、現代の日本社会の中で生きづらさを抱え、中には、「自分たちの問題が置き去りにされている」と感じる人がいると思います。ですが私は、女性を取りまく生きづらさと、男性やLGBTQ+の人たちの感じている生きづらさは切り離せない関係にあると考えています。男性が中心となって作ってきた社会行動や規範意識が、あらゆる人たちに生きづらさをもたらしている側面があるのではないでしょうか。まずは女性が直面している理不尽さを打ち破っていくことが、すべての人にとって生きやすい社会を作ることにつながると思います。



性犯罪被害、パワハラや詐欺被害といったトラブルについても踏み込んだこの書籍。合計65枚のイラストをすべて手がけたのは イラストレーター、Cahoさんです。描きおろす中で、特に考えたのは、「本を読む人のトラウマになったり、読んでいるうちに怖くなったりしないよう、テーマに沿いながらも柔らかい印象が持てるようなイラストを心がけること」だったといいます。

挿絵の依頼を受けたときは、女性が日々の暮らしで巻き込まれうるトラブルについて、私自身知らなかったことも多く、とても驚きました。たいへん勉強になりましたし、また、自分や大切な人を守ってくれる“お守り”になるような本だと感じました。近寄りがたいテーマかもしれませんが、もっと早く知っておけばよかったと思える内容がたくさんつまっています。少しでも多くの方に手に取っていただけるよう、イラストは一つ一つ、出版社の方々と悩みながら描きました。 いつ、どんなときに何が起こっても不思議じゃない。そんな世のなかで 勇気をもって生きる“お守り”として みんなに読んでほしいと思います。


みなさんは、『おとめ六法』について どう思いますか。記事への感想や意見を、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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