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“校則が厳しい学校”の改革日記①|発足!ルールメイキング委員会

東京・渋谷から電車を乗り継ぎ2時間ちょっと。

JR両毛線の無人駅「山前駅」を降りて、さらに車で10分。

民家を抜けると、畑の向こうに青空に映える白い校舎が見えてきた。栃木県立足利清風高等学校だ。

ずらりとならんだママチャリ。

校内に響く、部活に励む生徒たちの声。

なぜか5分ほど進んでいる時計塔。

妙な懐かしさと、“清風”の名のとおり爽やかな空気がただようこの学校で、きょうから“校則見直し”の活動が始まる……私は期待と緊張、いや、ほとんどがワクワクした気持ちで、飛び上がりそうだった。

これはNHKのディレクターである私が、この春から足利清風高校で行われる校則見直しの活動にボランティアで参加しながら記録していく、日記のようなシリーズです。どんな風に校則が変わっていくのか(変わらないのか)。生徒や先生の皆さんにどんな変化や成長が起きるのか。足利清風高校・ルールメイキング委員会の奮闘の日々をつづっていきます。

「藤田さんも応募しませんか」

栃木県立 足利清風高等学校

それは取材相手の社交辞令だったかも知れない。ただ、私は本気で飛びついてしまった。

私はクローズアップ現代+で“校則改革”をテーマに去年2月から取材を続けていた。その日は教育フィールドで20年の歴史がある「認定NPO法人カタリバ」が取り組む“みんなのルールメイキングプロジェクト”について担当者から話を聞いていた。

ディレクターの藤田です 活動は主にオンラインで行っています

全国から「校則を見直したい」という学校を募集。生徒と教員が話し合いながら校則を考えていく活動をサポートする。教育研究者や哲学者、ワークショップデザイナー、弁護士など多彩な人材が基本プログラムを考え、NPOから“コーディネーター”と呼ばれる支援者が各学校に入り、お手伝いする仕組みだ。経済産業省の「未来の教室」実証事業にも選ばれ、ことしは全国11の中学高校、さらには福井県や広島県など自治体単位で参加しているところもある。

2020年度参加校の広島県・安田女子中学高等学校

去年の参加校の生徒からは「人生で一番成長した」「変えられないと思っていたものを、変えられた」などの感想が寄せられていて、ぜひ取材したいと思っていた私。
そんなとき担当者から、突然、こんな誘い文句をささやかれたのだ。

「いま、コーディネーターをやってくれる人を一般募集しているんです。藤田さんもよかったらどうですか」

高校生の成長を間近で見てみたい。取材者だからと距離を置くのではなく、課題解決に一緒に取り組んでみたい。何よりも新しいことに挑んでみたい――。

社会人になって初めて履歴書を書き、面接を受けた。

[ 検討の結果、藤田様にコーディネーターとして参画いただき… ]

今年5月、メールで届いた十数年ぶりの合格通知。

上司の了解をもらい、業務時間外のボランティアで活動する日々が始まった。社会人11年目。仕事に慣れてきたものの少し行き詰まりを感じていた私にとっても、大きな挑戦だ。

「うちの校則、ちょっと厳しすぎるかも…」 教師歴28年 ベテラン先生の本音

そんな私の個人的な挑戦はちっぽけなことで、学校にとってはもっと重大な挑戦だと、すぐに知ることになった。

私がコーディネーターとして参加することになった栃木県立足利清風高校。普通科・商業科・情報処理科があり536人が通う。進学する生徒は7割、就職する生徒は3割。いわゆる地域の“中堅校”だ。

「うちの学校の校則は、私も厳しすぎるなと思っています」

生徒指導部長、つまり校則を取り締まるトップである教師歴28年の小瀧智美先生は、最初の打ち合わせで率直な気持ちを教えてくれた。足利清風高校は15年前に商業高と女子高が統合して生まれた。現在の校則は商業高の校則がベースになっているそうだが、すぐに就職する生徒が多かったこと、そして“ちょっとやんちゃな生徒が多かった”こともあり、ほかの高校と比べても校則が厳しく、それが現在も続いているというのだ。

足利清風高校の代表的な校則

・下着の色は白かベージュ
・ツーブロック(奇抜な髪型)禁止
・おだんごや編み込みは禁止
・前髪は眉毛にかかる程度まで
・セーターは4月以降着用禁止(セーター姿での登下校も禁止)
・スカートはひざまずいて地面につく長さ
・地毛が明るい、くせ毛のものは「地毛申請書」を写真付きで提出
・校内の自動販売機は、授業間の10分休憩では購入禁止
・スマートフォンは校内で使用禁止。登校したら担任に預ける

数えてみると約90項目あった。確かに厳しそうだ。特に髪型などの外見のルールは細かく決められている。何のためにある校則なのか、小瀧先生に理由を尋ねた。

・下着の色は、女子のシャツから透けて見えて犯罪に巻き込まれないように
・おだんごやツーブロックは“おしゃれ”にあたり、学業には必要ないから
・服装の規定は、卒業後すぐ就職しても苦労しないようにマナーを学ぶため
・地毛申請は、生徒が染髪してきたときの指導でトラブルが起きないように
・自動販売機の購入時間制限は、過去に授業に遅刻した生徒がいたため

コロナ禍で変貌する社会 校則見直しの決断へ

教師歴28年 小瀧智美先生

理由を聞いて納得する部分もあるが、多様性が重んじられる現代には合わない部分もあるのではないか。思い切って小瀧先生に聞いてみると「実は私も違和感を持ちながら指導していたんです」と、本音を明かしてくれた。

生徒指導部長 小瀧智美教諭:

「人権上よくない校則もあると思っています。世間では“ブラック校則”なんて言われていますが、その校則がありますからね。例えば下着については、わざわざ色を指定しなくても、そんなに派手な下着はつけてこないと思います。髪型も“おだんごのほうが涼しい”という生徒の話も分かります。でも…私は生徒指導部長という立場だし、こういうルールだと決まっている以上、指導しないといけない。先生たちの中には“校則をゆるくすると学校が荒れる”という考えを持っている人もいて、簡単には変えられない。ずっと葛藤してきました」

校則を見直すうえでの“壁”。それは教育現場が経験してきた苦い歴史にある。

校則が全国的に厳しくなったのは1980年代、校内暴力が吹き荒れた時代とされる。教員が生徒から殴られる事件が相次ぎ、“ツッパリ”が社会現象と化した。そうした事態を沈静化させるため、“服装の乱れは心の乱れ”として校則で厳しく取り締まるようになっていった。

1980年代の“中学生”

窓ガラスを割って盗んだバイクで走り出すようなことは減った現代でも、校則で細かく生徒を管理する傾向は続いた。

ルーズソックス、腰パン、携帯電話…新たな文化が生まれるたびに新たな校則が定められ、制限は増した。荻上チキ氏らが2018年に実施した調査では「下着の色の指定」「整髪料の使用禁止」など多くの項目で、若い世代ほど経験者が多いことが分かっている。 (「ブラック校則をなくそう!プロジェクト」より)
2017年、大阪府立高校の元女子生徒が「髪の毛が生まれつき茶色いのに学校から黒く染めるよう強要され不登校になった」と主張し、府に220万円余りの賠償を求めた訴訟が注目され、校則を見直す機運が高まったが、教員の中にはかつての苦い記憶から校則を変えることに抵抗がある人も少なくないという。

足利清風高校でも“校則を見直す必要はない”と考える先生はいるそうだ。それでも小瀧先生が校則見直しに踏み切ったのには、3つ理由があった。

ひとつは学校評価アンケートの声だ。生徒や保護者向けに毎年アンケートを行っているが、生徒指導の項目は「時代に合っていない」「昭和のようだ」と厳しい評価が寄せられていた。“開かれた学校”を掲げる現代の教育現場において、こうした声は見過ごせなかった。

そしてコロナ禍。オンライン化が急速に進むなど社会情勢が目まぐるしく変化する一方で、学校は“昭和のまま”でよいのか。突然の一斉休校で学校活動が長期間ストップする中、いやおうなしに考えさせられたという。

最後に背中を押したのが、このプロジェクトとの出会いだった。オンラインが当たり前になったことで忙しい先生たちも勉強会への参加が比較的容易になったなか、目にとまったこのプロジェクト。オンライン説明会に顔を出してみると、同じ思いを持つ教員が大勢いることを知り、さらに“校則見直しの活動が生徒の成長につながる”という考え方に触れて「やってみる価値がある」と感じたという。

小瀧智美教諭:

「生徒どうしが自分たちのルールについて語り合ったり、先生に意見をぶつけたり。分からないときは外部の専門家を訪ねたり。そうしてルールを作り上げる過程は、まさに今の教育に求められている“主体的に行動できる生徒”を育てることだと思ったんです。清風高校の生徒は“いい子”が多いんですが、自分から意見を言う子は少ないと感じていました。それは私たちが厳しい校則で押さえつけて、何も言えない雰囲気にしてきたことも原因かもしれません。そんな学校を変えて、生徒も成長できるなら…」

先輩教師たちが築いてきた歴史、自身の28年のキャリア……立ち止まって見つめ直すことは容易ではなかったと思うが、小瀧先生は決断した。

違和感はひとりだけじゃなかった

小瀧先生の孤軍奮闘の日々が始まった。

同じ思いを持っている教員はいないか、まずは仲間を探した。
「実は私も違和感があった…」
「まさか小瀧先生がそんな風に思っていたとは…」
若い教員から初めて本音を打ち明けられた。振り返れば教員どうしで校則について話す機会さえあまり持っていなかった。生徒指導部長である小瀧先生に遠慮したこともあったかもしれない。ひとりひとりに声をかけ、4人の仲間が見つかった。

生徒側には“風紀委員会”のメンバーに声をかけた。ふだんはルールを守るよう呼びかける側の生徒たちだからこそ、思うところがあるのではと考えた。強制ではなかったが、14人が加わってくれた。

NPOから派遣されるコーディネーターとして、NPO職員の古野香織さんとボランティアの私。ことし6月、ついに足利清風高校・ルールメイキング委員会が立ち上がったのだった。

ふだんは“教師と生徒”という関係だが、ここでは対等に、横に座る。

「まずは、どんな校則を見直したいか、書き出してみましょう」

私たちコーディネーターからの投げかけには、生徒も先生も同じように考え、語り合う。

最初はぎこちない生徒たちだったが、「先生の前だからって遠慮しなくていい。変だなと思う校則は率直に書いてほしい」という言葉で、“ここはそういう場なんだ”と思い切ってくれた。

「前髪が眉毛にかからない程度だと、ぱっつんしかできなくて困る…」
「ポニーテールはいいけど、おだんごはダメって、線引きが分からない」
「見た目でコンプレックスがあったとしても、今の校則だと隠せない」
「社会人になったらメークするのがマナーなのに、なぜ高校生はダメなのか」
「商業科がある高校なのにアルバイトのハードルが高くて、仕事の経験がつめない」

せきを切ったように出てきた検討項目は数十に及んだ。
“なかなか意見を言わない”と思われていた生徒たち。実は“意見を言う場がない”だけだったのかもしれないと気づかされた。

「先生も怖いし、勇気がいる」

初日の活動の最後。全員で車座となった。

「どんな思いで参加したのか」「何を大切に活動したいか」。

これから1年かけて校則を見直していくうえで、全員の思いを共有しようとした。

「自分も納得いかない校則があります。それを変えることで、自分だけでなく生徒みんなが楽しい学校生活が送れるようにしたいです」
2年生の針ヶ谷侑大さんはバスケット部に所属しながら合間をぬって参加。周囲の声も背負って活動したいと語った。

「校則は“校則だからしかたない”と、変えられないものだと思っていました。でも、それを変えられるのなら挑戦してみたいと参加しました」
1年生の石山茶那さんは、この場を通じて自分も成長したいと願っていた。

小瀧先生の順番がきた。

直前の生徒たちの言葉を受け止めるように、少し沈黙した小瀧先生。

……語られたのは、生徒に弱みをさらけ出すことをいとわない言葉だった。

小瀧智美教諭:

「生徒の中で校則に疑問や不満がある人はいっぱいいるだろうなと、私が生徒指導部長を任された4年前から、ずっと思っていました。でもみんなに不満があっても、私を含め学校側は“校則を変えるなんてダメに決まっている”みたいに頭から否定して、何もみんなのことを受け入れてこなかったこともあっただろうなと、反省しています。学校の何かを変えるのは先生もすごく勇気がいることなんです。勇気がいるし、もし何か変わったとき、例えば学校が荒れたりしないか、すごく怖い。それは絶対に嫌だと思ったから、不満があるだろうなと思いつつ、その場をやり過ごしてきた自分がいたかなと思っています。だからこそ今回、こうしてみんなと集まって語り合う機会を与えてもらえて、すごくありがたいです」

かつては、違和感があっても“校則だから”と諦めていた生徒や先生たち。そんな校則を、本当に変えられるかもしれない……その希望と、成し遂げたいという強い思いを、皆が持つことになった一日だった。

6月から本格始動したルールメイキング委員会。あれから毎週、放課後に集まって2時間近い活動を重ねている。全校生徒にアンケート調査をしたり、全校集会で呼びかけたり。校則はどのような経緯で生まれたのか、他校はどうなっているのか調べるなど活動は多岐にわたる。私もオンラインを中心に参加し、ひとりの33歳・社会人として一緒に考え悩む、充実した日々を送っている。

この記事を書いている10月は、中間テストの期間で小休止中。生徒のみんなの顔が見られず少しさみしい。今日まで、数え切れないほどの出来事や変化があった。不定期になるが、この場を借りて少しずつ報告していきたい。校則見直しを通じて、学校や生徒はどう成長していくのか。一緒に見守っていただけたらと願う。

このテーマについて、皆さんのご意見や体験談を募集しています。
「実際に校則を改革した」「自分たちの学校の校則を改革したい」など、こちらの投稿フォームから声をお寄せください。

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担当 藤田Dの
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この記事の執筆者

報道局 社会番組部 ディレクター
藤田 盛資

2011年入局、金沢局と首都圏局を経て現職。
「教員の働き方」や「校則改革」など学校現場を取材。

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