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【毎週金曜日に更新中】
Vol. 41~のトピック一覧はこちら
【vol.80】刑法を知っていますか③ 伊藤詩織さん 動画に込めた思い
【vol.79】刑法を知っていますか② 被害者たちが願う刑法改正
【vol.78】刑法を知っていますか① YES以外はすべてNO ~スウェーデンの“希望の法”~
【vol.77】「フラワーデモ1年 前へ 踏み出した一歩」
【vol.76】フラワーデモの歩み 『おはよう日本』で伝えます
【vol.75】自分の思い “表現する”ことで 前へ
【vol.74】本で振り返る フラワーデモの1年
【vol.73】新型コロナ ストレス危機③ 世界でDV増加懸念
【vol.72】新型コロナ ストレス危機② DV・虐待・・・ LINEで相談できます
【vol.71】新型コロナ ストレス危機① DV・虐待対策を緊急要望
【vol.70】子どもも大人も!ネット動画で学ぶ“性”
【vol.69】データで捉える 全国“ワンストップ” 支援状況
【vol.68】娘が夫から被害に 母親の苦悩
【vol.67】男性の性被害 全国の相談窓口
【vol.66】“男性の性被害” 先入観を持たないで
【vol.65】小児性犯罪と児童ポルノの闇
【vol.64】逆転有罪判決 声 あげ続けてきた人は・・・
【vol.63】フラワーデモを取材して
【vol.62】いまこそ考えたい 子どもたちと性暴力
【vol.61】3/8(日)は“オンライン”フラワーデモ
【vol.60】大好きな日本で 性被害に… (後編)
【vol.59】大好きな日本で 性被害に… (前編)
【vol.58】見過ごされてきた災害時の性被害
【vol.57】なぜ 私が “性暴力”を取材するのか
【vol.56】弁護士に聞く「痴漢です!」声を上げた その後は・・・
【vol.55】スタジオゲストに聞く!「痴漢問題は日本社会の縮図」
【vol.54】“次は私?” に込めた思い
【vol.53】クロ現+「痴漢被害の実態」のダイジェスト
【vol.52】本当に、「たかが痴漢」でしょうか?
【vol.51】“私は見て見ぬふりしない”
【vol.50】データが浮き彫りに!知られざる痴漢被害の実態
【vol.49】試験の朝、痴漢に・・・ 通報した勇気
【vol.48】子どもの頃の被害と生きるために
【vol.47】受験生を痴漢から守りたい!#withyellow運動
【vol.46】痴漢 皆さんの声② 相談したけれど・・・
【vol.45】痴漢 皆さんの声① 打ち明けられなかった理由
【vol.44】高校生の思いが生んだ 痴漢抑止バッジ
【vol.43】一徹さんと考える 「性的同意」とは?
【vol.42】痴漢を見過ごしてきた社会
伊藤詩織さんの性的被害 認める判決
【vol.41】#性被害者のその後④ 治療で“新しい自分”を
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2020年5月15日
【性暴力を考えるvol.80】刑法を知っていますか③ 伊藤詩織さん 動画に込めた思い
シリーズ「刑法を知っていますか」第3回は、「性的同意」(性行為に対する同意)について考えるアニメーション動画を紹介します。制作したのは、自ら性暴力の被害を公表したジャーナリストの伊藤詩織さんら4人の女性です。2017年に改正された刑法について、法務省が近々 見直しに向けた議論を始めるのを前に「動画を公開したかった」という伊藤さん。制作に込めた思いを聞きました。

(報道局首都圏センター ディレクター 宣 英理)



(ジャーナリスト 伊藤詩織さん)

“YesはYes NoはNo” 「性的同意」を伝える動画
伊藤さんたちが制作したアニメーション動画「YesはYes NoはNo」は、3月にYouTubeに公開されてから4万回以上再生されています(5月15日時点)。1分30秒ほどの動画は、一緒に車に乗ったり、一緒にお酒を飲んだり、手をつないだり、キスをしたりなどの行為はどれも、「性的同意」にはあたらない、性行為の意思を互いに確認したことにはならないと伝えています。

「YesはYes NoはNo」は、「Yesとはっきり言うことが同意を意味し、それ以外はすべてNo、拒絶を意味する」といいます。たとえ暴行・脅迫などがなくても、「相手の自発的な同意のないままに性行為をすることは犯罪」ということを刑法で定めてほしい、という気持ちをこのタイトルに込めたといいます。


(「YesはYes NoはNo」より)
動画が掲載されたサイトはこちらです。
https://vimeo.com/418436941
(※NHKサイトを離れます)

Q:なぜ この動画を制作されたのでしょうか。

企画をスタートしたのは、2年くらい前だったと思います。言葉やドキュメンタリーでは伝えづらい性暴力の実態を、わかりやすく伝えるために、アニメーションでやってみてはどうかと考えました。でも、「性的同意」そのものについて理解してもらいにくく、資金提供や制作に賛同してくれる仲間がなかなか見つかりませんでした。ですが、もともと性をテーマにした作品を手がけてきたイラストレーターの小林エリカさんとの出会いがあり、具体的に話が進み、その後、ミュージシャンの寺尾紗穂(てらおさほ)さん、アニメーションをつけてくれた ふるやまなつみさんが仲間に加わってくださいました。

ことし2020年は刑法見直しの議論が行われる年にあたります。そこで普段、性犯罪などの問題に無関心な人たちも含めて社会に広く、法改正の必要性を わかりやすく訴えなければならないと考え、急いで制作に取り組みました。


(動画制作の様子 左から ふるやまなつみさん 寺尾紗穂さん 小林エリカさん 伊藤詩織さん 写真提供:Yuta Okamura/Hanashi Films)

「同意のない性交」 罪に問いにくい日本の刑法
Q:伊藤さんは、現在の性犯罪をめぐる刑法に どんな課題があると考えていますか?

課題の一つは、2017年に刑法が改正されたとき、「同意」に関する部分については何も改正されなかったことです。レイプの被害を証明するには、「自分が性行為に同意していなかった」ことに加えて、「相手から どれくらい脅迫や暴行を受けたのか」を示さなくてはなりません。それも、抵抗できない状況につけこんだことが立証できるくらい著しく被害を受けていないと、なかなか被害を認めてもらえないんです。「不同意性交はレイプである」ということ、「相手が明らかな同意を示さないまま行った性行為は違法である」ということを、新しく刑法に盛り込んでほしいと思います。

私自身、5年前に受けた被害をめぐって、昨年12月、民事裁判の1審で、“合意がなかった”と判断され、被害が認められました(詳しくは、こちらの記事をご覧ください)。しかし、刑事事件では不起訴になりました。もし刑法の中に、動画で紹介しているイギリスのように「相手の同意がないまま性行為をすることは違法である」という記載があったら、刑事事件でどうなっていたんだろうと考えます。正直に言えば、残念です。今はまだ、性的同意について「考えてくれる」、「守ってくれる」ような刑法ではないけれど、その改正が早く行われてほしいと思います。

もう一つの課題は、日本の性的同意年齢(性行為に同意する能力があるとみなされる年齢)が13歳とされていることです。その歳で性行為の結果、妊娠し出産したとしたら、母親として 子どもをしっかり育てられると言い切れるでしょうか。私はアフリカのシエラレオネで性暴力の取材をした際に、13歳で被害に遭い 妊娠した少女が、学校へ行けなくなって泣いていた姿を、今でも忘れられません。他の先進国、たとえばイギリスやカナダでは、性的同意年齢は16歳とされています。これと比べても、かなり低い年齢です。ぜひ改善してほしいです。


(「YesはYes NoはNo」より)

また、今回、動画には盛り込めなかったのですが、時効についての問題もあります。強制性交等罪の公訴時効は10年とされています。そのため、例えば7歳のときに被害を受けたら17歳までに警察に届けなくては罪に問えないという壁があります。時効が短すぎます。この点についても改正されなければならないと思います。

2人きりで食事、飲酒 「同意」と思われても仕方ない?
Q:動画では、「性的同意」について、特に詳しく伝えています。なぜでしょうか?

以前、NHKの『あさイチ』という番組で、性的同意について特集されたことがありました。 その中で、「二人きりでお酒を飲む、二人きりで車に乗る」という行為について、『“性行為の同意があった”と思われても仕方がないこと』と回答する人が20%~30%近くいたと思うんです。それがすごくショックだったんですよね。


(2017年6月21日放送『あさイチ』「無関係ですか?性暴力」より)

そもそも性的同意について、みんなの意識の中にないのかもしれないなと感じました。私も思い返してみると、性的同意について学校で教わったことはありませんでした。また、一度大学でお話をする機会があったとき、学生に聞いても性的同意についての教育はなかったと言っていました。法改正をしたとしても、「性的同意とは何か」、そこの認識の共有がなければ意味がありません。一人一人が性的同意の意味を知る必要があると思います。

性犯罪では、被害を受けた人に対して、「どうしてそんな格好をしていたのか」「どうしてその場所にいたのか」といった質問が投げかけられることが少なくありません。本当は「合意があったのかどうか」という話になるべきなのに、その前後の行動が問われてしまう。他の犯罪では、どうでしょうか。例えば、お財布を道端で盗まれた人に、「どんな高価なスーツを着ていたのか」「その洋服を着ていたからお財布をとられたんだろう」といった質問はないと思うんですよね。でも、性犯罪の場合はそれが起きてしまう。

性的同意があったのかどうかが非常に大切なんです。そういったことをきちんと考えてほしいし、教育を通して伝えていく必要があると思っています。でも、学校での性教育を変えていくには、ものすごく時間がかかるので、まずは家庭やコミュニティーの中で話していくきっかけになるものを作れればと思ったんです。

「性的同意」はとてもシンプル
Q:海外では、「性的同意」について、どのような伝え方がされているのでしょうか?

例えば、イギリスでは、警察が「性的同意」を説明する動画(*)を作っているんです。棒人間で繰り広げられるシンプルなアニメーションなんですが、「性交」を「紅茶」に置き換えて説明しています。寝ている人には紅茶を勧められないし、寝ている人は紅茶を欲しいと言えないだとか、最初に紅茶を欲しいと言っても その後 紅茶を欲しくないと言うかもしれないなど、話しづらいセックスの話を わかりやすく伝えています。
(*イギリスのテムズバレー警察署が地元の性暴力被害者支援のNPOなどと制作した動画「Tea and Consent」。掲載されているサイトはこちらです。※NHKサイトを離れます)

私たちの日常でも、「何が同意なのかわからない」という声が聞こえてきます。本当はすごくシンプルな話だと思うんです。相手の意思を尊重すること、飲酒をして答えをクリアに示せない状態であれば同意を取れる状態ではないということを、全ての人の意識の中に置いておいてほしいです。

「被害者の“イメージ”を取り払いたい」
Q:動画を制作する中で、表現でこだわったところはありますか?

いくつかあります。一つ目は、主人公の性別です。なるべくニュートラルに、性別がわからないようにしたいなというのが、最初にみんなで話し合ったことでした。性犯罪の被害者は、女性だけではありません。日本では2017年の刑法改正で、ようやく男性も被害者だと認められるようになりました。

二つ目にこだわったのは、主人公の格好です。性被害を受けたとき、被害者が身に着けていた服装について、「性被害に遭ったのは、露出の多い服だったから」と言われることが少なくありません。でも、実際に被害は日常の延長線で起きやすいんです。ジャージを着ている時に被害に遭うこともあれば、プールで水着の時に被害に遭うことだってあります。そこで、いろんなパターンを描こうという話になりました。


(「YesはYes NoはNo」より)

三つ目は主人公の顔です。表情も意識しました。動画に「NOと言えない立場だったり」というシーンがありますが、相手が自分より上の立場の人だったら、自分が嫌がっていることを顔に出しづらい、というケースはすごく多いと思うんです。

一般的に被害者のステレオタイプ化されているイメージがありますよね。例えば、被害を受けそうになった時には泣き叫ぶんじゃないかとか、必ず何かリアクションをするはずなんじゃないかとか。しかし、スウェーデンのレイプクライシスセンター(レイプ被害者などの支援を行う機関)の調査で、被害者の7割が、被害に遭ったとき 体が凍りついて反応できなかったという統計があります。だから、表情はなるべくニュートラルにしたかったんです。


(「YesはYes NoはNo」より)

法律だけでなく、意識にも変化を
動画の終わりで、伊藤さんたちは、多くの国では 同意のない性行為は犯罪になるものの、「日本の刑法では、(相手に)暴行・脅迫(を用いたこと)が証明できたとき、(相手を)心神喪失・抗拒不能(にした)と認定できたときしか 犯罪と認められない」と指摘し、刑法見直しに向けて、性的同意が無視されない刑法を求めるために「声をあげよう」と呼びかけています。


(「YesはYes NoはNo」より)

Q:動画は、刑法の見直しに向けて「声をあげよう」という呼びかけで締めくくられています。どんなメッセージを込めましたか?

日本の刑法は、2017年に110年ぶりに大幅に改正され、ことしはそれを見直すチャンスの年です。「声をあげよう」と呼びかけたのは、直接的なアクションを起こしてほしい、刑法の課題について 自分事として捉えて、刑法を変えるために 見直しを求める電子署名に参加するなど、何かアクションに移してほしいと思っています。


(動画について話し合う伊藤さん 写真提供:Yuta Okamura/Hanashi Films)

なぜアクションが大切かというと、いつ自分や自分の大切な人に性暴力がふりかかるかわからないからです。私自身、自分の身に起きるなんて思ってもみませんでした。日頃から、この問題を「自分事」として考え、自分や大切な人が性暴力に遭ってしまったときに その人たちを守るためにも、アクションに移してほしいと思っています。

私が最初に声をあげた理由は、自分が被害を受けた後、体や心のケアをしっかりしてくれるようなサポートにつながることができず、性暴力の被害者支援態勢のぜい弱さに衝撃を受けたからです。ほかの人、特に私よりも若い世代に、同じような経験や思いをしてほしくなかった。だから、アクションに出たのです。

最後にもう一つ。刑法が被害者を守る方向に改正されたとしても、一人一人の意識の中に、性的同意への理解がなかったら、意味がない法律になってしまいます。この動画を通じて、性的同意を真剣に考えるきっかけを一人でも多くの人に提供できたらと思っています。


伊藤さんがこの動画の制作を始めたのは2月、自身の民事裁判の1審の判決が出て わずか2か月後のことでした。自らの痛みを抱えながらも、社会を変えるために絶えず声をあげ、アクションを起こし続けてきました。今後も、性被害に遭う人を一人でも減らすために、さまざまなテーマの動画を制作していく予定だそうです。子どもの頃から 子どもにも権利や尊厳があること、そして、自分の体を守ることがいかに大切であるかを知ってもらえるような教育的な内容や、性被害に遭った人がどのような困難に直面するかについて伝えるものにしたいと考えているということです。

伊藤さんたちのアクションに頼るばかりでなく、性暴力を許さない社会をつくるために 私たち一人一人がどのように考え、どう行動へつなげていくかが問われているように感じました。


みなさんは、「性的同意」について、どのように考えますか?日本では「同意がなかった」ということに加えて、「暴行や脅迫を加えて抵抗できない状況につけこんだ」ことが証明されなければ罪に問うことができません。こうした刑法について、どう思いますか?見直しが必要だと考えますか?
ご意見や思いを、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
#性暴力#MeToo#Withyou
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2020年5月8日
【性暴力を考えるvol.79】刑法を知っていますか② 被害者たちが願う刑法改正
性犯罪をめぐる刑法は、2017年に110年ぶりに改正され、3年後の ことしをめどに見直しを検討することが盛り込まれました。被害の実態が踏まえられていないという指摘があがる中、法務省は、専門家や被害者の支援団体などをメンバーとした検討会を立ち上げ、近々、議論を始める予定です。

シリーズ「刑法を知っていますか」第2回は、ことし 性犯罪の刑法を見直す検討会のメンバーの一人、性犯罪被害の当事者を支援する「一般社団法人 Spring(スプリング)」の代表理事 山本潤さんと、広報担当 佐藤由紀子さんに話を聞きました。

「毎日のように性被害は起こり、苦しむ被害者が後をたちません。被害に遭った当事者は全てのエネルギーが枯渇している状態です。その状態で勇気を振り絞って訴えても加害行為が処罰されにくいというこの現実を、社会全体で変えなければなりません」と話す二人。現在の刑法について、どんな点を課題に捉え、どう変えていきたいと考えているのでしょうか。

(報道局社会番組部 ディレクター 村山かおる)


「私たちのことを 私たち抜きで決めないで」3年かけ 届いた思い

(<右>Spring代表 山本潤さん <左>広報担当 佐藤由紀子さん 写真提供:Spring)

Q:ことし3月、山本さんは、刑法や心理学の専門家、精神科医らとともに、法務省の検討会の17人のメンバーのひとりに選ばれました。知らせを聞いたとき、どんな気持ちでしたか?

(Spring代表理事 山本潤さん  写真提供:Spring)

山本さん

「ここまで、長かった・・・」というのが正直な思いでした。2017年、刑法の性犯罪規定は、法定刑を引き上げる厳罰化や 被害者に男性も含めるなど110年ぶりに大幅改正されました。 しかし、被害当事者や支援者の声が十分に反映されたとは言えず、性暴力の被害に遭った人が法的に“被害者”と認められるためには まだまだ高い壁がありました。

Springは、2017年の刑法改正を受け、性被害の実態に即した刑法への さらなる改正を求める目的で立ち上がりました。それから3年ちかく、ロビー活動を行って、関係省庁や議員ら、のべ500人に被害者の声を届け続けてきました。また、昨年12月には森法務大臣に、刑法改正を求める9万人以上の署名とともに要望書を手渡し、刑法改正に向けて検討会や審議会を早急に実施するとともに、被害者の生の声を反映するよう求めました。

現在、刑法改正を求める署名には10万人以上が賛同し、性被害当事者らを中心に行っているOne Voiceキャンペーン*にも、性暴力のない社会を求める多くのメッセージが寄せられています。「私たちのことを、私たち抜きで決めないでください。」3年間、そう訴え続けてきただけに、今回、被害当事者が刑法改正に向けた意思決定の場に入れたことは とてもうれしいです。
(*One Voice キャンペーン…現在の刑法の見直しを求めて、Springが立ち上げた運動。「One Voice」と印刷された紙に、性暴力について思うことや刑法改正について 一人一人が望むことを書き出した声を集め、政府に届ける)


(One Voiceキャンペーン 写真提供:Spring)

改正されても・・・ “被害の実態”に即していない刑法

(法務省「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ取りまとめ報告書」)

Q:検討会に先立ち、法務省は2018年4月に作業グループ「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」を設置して、法律の施行状況の調査や、被害者・専門家へのヒアリングなどを行い、ことし3月、報告書をまとめました。この報告書の内容について、どのように捉えていますか?

(Spring広報担当 佐藤由紀子さん 写真提供:Spring)

佐藤さん

実態調査ワーキンググループのヒアリングには、私たちSpringの被害当事者のスタッフたちも参加しました。当日は私も、「自分の声を被害実態に即した刑法改正に生かしてほしい」という思いで臨みました。

大勢の法務省職員の方を目の前に、自分の体験を語ると同時に、当事者だから見える現状の問題に触れて発言することは とても勇気のいることでした。ヒアリングの最中は「法務省の方に、私たちの思いは届くのだろうか」「他人事にされないだろうか」と不安になりましたが、「私のできることは精いっぱいやった、あとは信じるしかない」という気持ちに変わっていきました。

自分の被害を語ることは、私の予期せぬところでフラッシュバックを呼び起こすことにもつながります。それでも私は自分の被害を“その後を生きる中で隠さなければならない苦痛に満ちた体験”のままにしたくありませんでした。Springで活動を始めて半年が過ぎた頃、ある仲間のスタッフが私にこう言いました。「私は自分の被害を社会資源にしたいと思っているの」。彼女のこの言葉を聞いて、ただちに「私も!」と思いました。人が目を背けたくなるような性被害に遭っても、その体験をしたからこそ 見える風景があります。


(刑法改正を呼びかけるイベントで寄せられた声 写真提供:Spring)

その後、公開されたワーキンググループの議事録を読み、被害者心理を熟知した精神科医や、臨床心理士、公認心理士、そしてワンストップセンターの支援員の方や弁護士の方から、実際に直面している現場の声や、加害者の更生に携わる専門家の方々の声も幅広く寄せられたことを知り、とても心強い気持ちになりました。これから始まる検討会で議論される上で、重要な土台にしてほしいと思います。

一方、法務省が取りまとめた報告書の「不起訴事件調査」(下表)を見て、被害当事者の声をもっと反映した刑法改正が欠かせないという思いを、いっそう強くしました。強制性交等罪において不起訴処分(嫌疑不十分)と判断された理由として、「暴行・脅迫があったと認めるに足りる証拠がない」の項目では、全体の137件のうち115件、約84%に上っています。多くの場合、被害者の供述に疑問が残ると判断されたことが分かります。


(法務省「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」 報告書概要 第2調査結果 ~不起訴事件調査~」より。詳しくは こちらから ※NHKサイトを離れます)

こうした実態がある中で、現在の刑法のように、「相手が性行為に同意していなかった」ことに加えて、「暴行や脅迫があった」ことをしっかり証明しないと性暴力の罪に問えない、というのは被害実態とかけ離れていると感じます。

実態に即した刑法にするため 変えたいこと
刑法改正に向けた議論が始まるのを前に、3月、Springは他の市民団体とともに、「暴行・脅迫要件の緩和・撤廃(不同意性交に関する規定の創設)」や、公訴時効の撤廃または廃止など、10にのぼる内容について検討してほしいという要望書を、森法務大臣に提出しました。


(「性犯罪に関する刑法の改正を求める要望書」刑法改正市民プロジェクト)

Q:法務省の作業グループの実態調査でも指摘されている、「暴行・脅迫要件の緩和・撤廃(不同意性交に関する規定の創設)」について、どう考えますか?

佐藤さん

性暴力を犯罪として処罰するには、「相手が同意していないこと」だけでなく、「暴行や脅迫を用いた」または「相手が抵抗できない状態になっていて それにつけこんだ」ことが立証されなければなりません。しかし、「他人から見れば抵抗できたように思える状況でも、実際は違う」という実態があります。被害者が驚がくし、その恐怖のあまりフリーズ(体が動かなくなる)してしまうことや、上司と部下、教師と生徒、医者と患者なとの上下関係で優位な立場の者に対しては抵抗しにくいのです。

立場的に優位な人から性暴力を受けると、所属先で自分の居場所がなくなったり、これまで築いてきた人間関係から切り離されたりするという恐れから 助けを求めることが難しく、孤立しやすい現状があります。また、私たちは社会のあらゆるシーンで、相手にはっきり「NO」と伝えることよりも、少しオブラートに包んで伝えることをよしとされがちな社会で生きています。「今日は体調が悪いから」「あす早いから、もう帰らなくちゃ」などの言葉が、性被害者の精いっぱいの「NO」なのです。


(去年 沖縄で開催された刑法改正を呼びかけるイベントで話す山本さん 写真提供:Spring)

山本さん

私は、同意のない性交について、日本の司法の世界でも、社会でも共通の認識が得られていないことが問題だと思っています。 被害者にとっては、「同意がなかった」というのは「無理やり性交された」ということだけではないのです。 それは、自分の意思や気持ちが無視され、加害者がしたいことを好きにできる“モノ”として扱われたのと同じことなのです。それゆえに、被害者の衝撃は深く苦しみは長いのです。

諸外国では同意のない性交を性犯罪とする新たな法律を制定しています。 イギリスでは 170年以上前から同意なき性交は性犯罪と考えられ、2003年の性犯罪法で同意についてより詳しく、被害者が選択をする自由と能力がある状態と定義しました。 ドイツは相手の認識可能な意思に反した場合、スウェーデンでは相手の積極的同意がなければ犯罪としています。※スウェーデンの刑法について 詳しくはVol. 78

日本でも、不同意性交が行われたことが推測できるように、加害者が脅したり だましたり 不意をついたりしたか、被害者が眠っていたり 酔ってめいていしたりするなど意識がなかったか、また、疾患や障害などで ぜい弱な状況に置かれていることに加害者が乗じたか、などの要件を追加する必要があると思います。

その時に「嫌だったら抵抗するだろう」という他者的な視点、男性のまなざしで見ていないかに注意することが大切です。加害者の中には「夜道を歩いている女性は レイプされてもしかたがない」と考え、性加害を正当化しようとする人もいます。

1960年代に発行された法律家向けの『注釈刑法』には 「暴行・脅迫にたやすく屈する貞操のごときは保護されるに値しない」と記されていました。この古い認識は、いまだに社会に残っているのではないでしょうか。被害者は、できる限りの抵抗をしたかもしれないのです。 これ以上、ひどい目に遭わないために黙って耐えたかもしれないのです。 抵抗しないことで自分の身を守った被害者の行動を、私たちは正しく評価する必要があります。 そして、同意のない性交とは何か、何をしてはいけないと刑法に定めるのかを議論する必要があります。

検討会で “性暴力のリアル”を伝えたい

(山本さん<中央> Springのメンバーと共に 写真提供:Spring)

Q:刑法の見直しを議論する検討会では、どんなことを伝えていきたいですか?

山本さん

前回の刑法改正が議論されたとき、私は法制審議会のヒアリング対象者として、自分の被害経験やその後どんな人生を歩んできたかを話しました。しかしそこにいた専門家たちのなかには、“被害者と会うことさえ初めて”と思われる立場の人もいました。頭ではわかっていても、被害当事者の生の声で聞くことで、本当の実態は伝わると思います。実際、Springの活動で多くの方と対話をしてきましたが、私たちの声を届けることで、法改正の必要性を感じてくれる方が多いです。検討会でも、その“リアル”を伝えていくことが自分の使命だと感じています。

刑法の見直しを議論する検討会では、法改正の必要性のほか、再犯防止策の強化や被害者支援の充実などをめぐって 意見が交わされる見通しです。当事者たちが、はかりしれない苦悩と向き合うなかでぶつかってきた さまざまな課題や、その解決のために必要と感じていることが、多くの人たちに届く機会となるよう、私たちも見守っていきたいと考えています。

みなさんは、性犯罪に関する刑法について、どう思いますか? 「改正が必要」と考える場合、何をどのように変える必要があると思いますか?
下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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2020年5月1日
【性暴力を考えるvol.78】刑法を知っていますか① YES以外はすべてNO ~スウェーデンの“希望の法”~
「性犯罪をめぐる刑法は実態に即していない」との指摘があがる中、法務省は、専門家や被害者の支援団体などをメンバーとした検討会を立ち上げ、近々、刑法の見直しについて議論を始める予定です。「みんなでプラス 性暴力を考える」では、シリーズで、刑法について さまざまな視点から考えます。

第1回は、2018年に北欧スウェーデンが踏み切った刑法改正についてです。スウェーデンでは「性的同意のない性行為はすべて違法」となります。これに対し 日本では、2017年に110年ぶりに刑法が大幅改正されたものの、性的暴行の罪に問うには「相手が性行為に同意していなかった」ことに加えて、「暴行や脅迫があったかどうか」を証明することが必要です。以前は日本と同じように、性的暴行の罪に問うには複数の条件が必要だったというスウェーデン。なぜ、どのように法改正に踏み切ったのでしょうか。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200326/k10012349711000.html

性犯罪をめぐる スウェーデンの法改正や日本の刑法について、みなさんはどう考えますか?
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2020年4月24日
【性暴力を考えるvol.77】「フラワーデモ1年 前へ 踏み出した一歩」
「フラワーデモ」が始まって4月で1年。性暴力の被害者や支援者が花を手に集まる中、自分のつらい経験や思いを語る人々の姿を、私たちは1年近くにわたって見つめてきました。フラワーデモの歩みと、このデモをきっかけに 一歩前へ踏み出した人々を追いました。

●テキストはこちら

●『おはよう日本』で4月22日(水)に放送しました。(NHKプラス)
※NHKプラスの「見逃し番組配信」は放送後1週間限定です。視聴にはID登録が必要です。

記事・放送への感想や、「フラワーデモ」についての思いや考えを、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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2020年4月21日
【性暴力を考えるvol.76】フラワーデモの歩み 『おはよう日本』で伝えます
去年4月、性暴力に抗議する目的で始まった「フラワーデモ」。性暴力の被害者や支援者らが花を手に 自分の経験や思いを語り合う集会が、どのように生まれ、どう全国に広がってきたのか。私たちは、1年近くにわたって、各地のフラワーデモを取材し、呼びかけ人の方々や、デモで声をあげ始めた被害者の方たちに話を聞いてきました。

性暴力の被害者が非難されがちな日本社会で、なぜ フラワーデモの参加者は顔をさらして次々と声をあげ始めたのか。そして、その切実な姿と声は人々の意識にどのような変化をもたらしているのか。あすの『おはよう日本』でお伝えします。

放送予定:2020年4月22日(水)午前7時台
<総合>『NHKニュース おはよう日本』けさのクローズアップ
(※ニュースのため 直前に変更されることがあります。)

これまで、「みんなでプラス 性暴力を考える」で紹介したフラワーデモの呼びかけ人の北原みのりさん、痴漢被害に遭い つらい思いをひとりで抱え込んできた ゆいさん(※)、性暴力の被害者のカウンセリングを長年 行ってきた信田さよ子さんも取材しました。 (※ゆいさんについて詳しい記事はこちらから。)

※フラワーデモ に関する過去の記事はこちら
【Vol.74】 本で振り返る フラワーデモの1年
【Vol.63】 フラワーデモを取材して
【Vol.21】 北原みのりさんに聞く! フラワーデモのいま

みなさんは フラワーデモについて、どう思いますか? あなたの考えや意見を 下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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2020年4月17日
【性暴力を考えるvol.75】自分の思い “表現する”ことで 前へ
「#性被害から前を向くために私は」「#性被害から回復へのあゆみ」。この春、ツイッターで生まれた、2つのハッシュタグです。埼玉県に暮らす大学4年生、菜緒さん(仮名・22)が、SNSで出会った仲間たちと一緒に考えました。

中学生のときから高校を卒業するまで痴漢の被害に遭い続けてきた菜緒さんは、大学に入ってから、心身に不調をきたして周りの環境にうまく適応できなくなる「適応障害」と診断され、休学を余儀なくされました。しかし、昨年、トラウマ治療を受けてPTSDを克服。今、警察官をめざして、勉強を続けています。長い間、性被害に苦しんできた菜緒さんの背中を大きく押したものは何か。“前向き”になれるようになるまでの歩みを追いました。

(さいたま放送局 記者 信藤敦子)




去年9月、「みんなでプラス 性暴力を考える」に菜緒さんが寄せたメールです。その後、さいたま市内で取材に応じてくれた彼女は、初めは緊張からか、少しかたい表情でしたが、時折見せるやさしい笑顔が印象的でした。

菜緒さんは、以前、「みんなでプラス」で紹介した「#性被害者のその後」のハッシュタグの記事を読んだのをきっかけに、自分の被害経験について伝えたいと思ったそうです。

誰にも話せなかった痴漢被害

(菜緒さん・仮名)

埼玉県の私立中学に通っていた菜緒さんは、当時、身長が130センチくらい。「周りから見えないからか、週に1度は必ず被害に遭っていた」といいます。スカートのファスナーを開けて、手を入れてこられたことも。ある時期は、20代後半から30代の眼鏡をかけたサラリーマン風の同じ男から、手をつかまれて、服の上から性器を触らされる被害に繰り返しあったそうです。乗る車両を変更したりしましたが、男は彼女を探しだし、近寄ってきました。2時間近く早い始発の電車で通学するようになるまで、被害は続いたといいます。



また、中学校に向かう通学路で、40代半ばの男に道を案内してほしいと声をかけられ、身体を触られたこともありました。怖くて動けなくなりましたが、他の生徒の姿が見えた瞬間、とっさに逃げ出したといいます。校門に先生がいたので、「変な人がいた」と伝えたものの、振り返るとすでにいなくなっていました。

理解してくれなかった大人たち
被害のあと、女性の担任に伝えました。すると、「刃物を持っていたら危ないから、むやみに抵抗しちゃだめよ」と言われたといいます。

「抵抗しなきゃ やられっぱなしになる。一体どうすればよかったのだろう…。」 菜緒さんは戸惑いながらも、担任から被害届を出すように言われたので、母親に相談しました。すると、思ってもみない反応が返ってきます。

「仕事があるから、警察には行けない。」

忙しいときに そんな相談をしてくるなと 母親にしかられた末、菜緒さんは1人で交番に行きました。さらに、そこでも、大きな苦痛を味わったといいます。

「男性の警察官に話すのも嫌だったのに、『どこを触られたの?』としつこく何度も聞かれて。自分が責められているようにも感じて、すごく気分が悪くなりました。被害届は受理されたと言われたけど、それっきりです。」



菜緒さんが何よりも つらかったのは、被害のことを知った大人が、誰一人として、何もしてくれなかったことだといいます。

「誰も信じてくれないし、誰も守ってくれない。悲しみと同時にあきらめのようなものを感じました」

こうした“二次被害”を受けた頃を境に、菜緒さんは学校の成績が下がり、友達と口論してしまうなど、周りとのコミュニケーションがうまくいかなくなることが多くなったそうです。

適応障害、PTSD… 治療で “回復”へ
大学生になってからは被害に遭わなくなりましたが、理系の学部だったため、周りは男性ばかり。その環境になかなか慣れず、相手と話していても、つい攻撃的になってしまい、友達を作るのが苦手でした。それでも同じ大学に通う男性と交際を始めますが、相手に身体を触られる度に、被害がよみがえるようになりました。



大学の窓口で紹介されたクリニックを受診すると、適応障害と診断されました。背景には過去の性被害が関係しているだろうと言われて、驚いたといいます。「大学になじめず、人間関係がうまくいかないことが、被害とつながっているとは思いませんでした。」

大学2年の冬に休学し、父親の実家がある地方で暮らす中、体調は少しずつ回復しましたが、被害のフラッシュバックはなかなか消えませんでした。去年の春、PTSDと診断され、5月から4か月間、性被害のPTSD治療に効果があるとされる「持続エクスポージャー療法(PE)」を受けました。PEは専門家のもとで繰り返し自身の被害と向き合うことで、症状を改善するという治療法です。被害者が避けていたトラウマにあえて向き合うことが求められるため、覚悟を伴うといわれています。

「治療はしんどいものでしたが、次第に世界が変わっていきました。まず、周囲に反発する気持ちが消えていきました。そして、被害を1つの過去の出来事として、本棚に本を出し入れするように自分でコントロールできるようになりました。つらい作業でしたが、やるのとやらないのとでは、その後の生きやすさが全然違うなと感じました。」(菜緒さん)

その日の取材の最後に、「言い足りないことはありますか?」と尋ねると、伏し目がちだった顔を上げて、「痴漢は触られた“だけ”じゃないということを、もっと知ってほしい。必ず、その後の人生に影響が出てくるから。私のような思いをする人が出ないでほしいです」と話してくれました。その言葉がとても力強くて、私はもっと菜緒さんのことが知りたくなりました。

押し殺してきた思い ダンスで吐き出す
それからも、メールや電話でやりとりをしながらさまざまな話をする中で、PTSDの治療を受ける前から、菜緒さんを根底から支えてきたものがあることを知りました。それは、4歳の頃、サーカスなどのエンターテインメントの世界を描いたアニメを見て、あこがれて、自分から飛び込んだモダンバレエなどの踊りの世界です。痴漢の被害に繰り返し遭い、心と体が疲弊していたときにも続けていたといいます。


(モダンバレエを踊る菜緒さん)

「中学校は担任が苦手で行きたくなかったけど、部活があるから、と自分に言いきかせて行っていました。自分の苦しみや怒りを自分の体の動きで表現できるようになり、踊っているときは全てを忘れられました。つらいときも、踊りが支えてくれたんです。」

被害に遭い、さらに、周りの大人たちから心ない対応をされるたことで傷ついた感情を、菜緒さんは普段は押し殺していました。しかし、踊ったり体を動かしたりするときだけは、胸に秘めていた感情を、少しずつ外にはき出していたそうです。

去年8月、モダンバレエのコンクールの曲目に、菜緒さんが自ら選んだ、あるドラマのテーマ曲は、心の奥深くに潜んでいた感情をこれまで以上に外へ押し出してくれたといいます。そのドラマは、性被害に遭った経験をもつ女性が警察官として活躍するというストーリーでした。

「力が全身からみなぎるような曲だったんです。自分の被害と直接関係ないのに、練習で踊っていたら何度も涙がこみ上げてきました。」


(モダンバレエを踊る菜緒さん)

別の曲にも、刺激を受けました。ディズニーのアニメーション「アラジン」を実写化した映画で、ヒロインのジャスミンが歌い上げる「スピーチレス 心の声」という曲。初めて聞いたとき、体が震えたといいます。

「『私はもう黙らない』という、強いメッセージの曲。黙らなくていいんだと思ったら楽になった。このヒロインのような強い人になりたいなと思いました」。

去年の終わり、菜緒さんは長いつきあいのあるモダンバレエの先生に、初めて被害のことを告白しました。すると先生は、「あなたは何も悪くない。だから、堂々としていたらいい」と、背中を押してくれたといいます。

「中学生の時にこう言ってくれる大人が周りにいてほしかった。そうしたら、ここまで長い間、引きずらなかったと思います。」

語れなかった思いを フラワーデモで言葉に
モダンバレエと並んで、菜緒さんを“前向き”にさせてくれたもの。それは、性被害に遭った人たちとの出会いでした。




(菜緒さんが見つけた「#性被害者のその後」の呼びかけツイート)

SNSを始めて、たまたま見つけた「#性被害者のその後」(※)。昨年9月に被害経験をもつ女性が作ったハッシュタグで、そこには性被害に遭った人たちが日々、被害後の日常を投稿していました。「被害を受け、黙っていたのは私だけじゃない、被害は隠すことじゃないんだ」と思ったといいます。(※このハッシュタグに関する記事はこちらから

そして、今年2月。菜緒さんは、さいたま市で行われた性暴力に抗議する集会「フラワーデモ」に参加しました。駅前の百貨店の前に、被害者や支援者ら20人以上が集まっている様子をみて、思わず泣き出しそうになったそうです。そして、それぞれの経験や思いをマイクを通して語る姿を見ているうちに、いてもたってもいられなくなりました。


(東京のフラワーデモの会場の様子。2019年4月)

「最終的には80人くらい集まったのですが、痴漢の被害を受けた方たちも話していました。この場では、痴漢が性犯罪として重く受けとめられているんだと感じ、自分も話してみようと思いました。」

しかし、いざ話すとなったら、いろんなことを思い出して、涙が止まらなくなったといいます。

「涙につまって何を言っているのか、分からなくなりました。でも、顔を上げたら、うなずきながら見守ってくれている人たちばかりで、最後まで話すことができました。中学生の時に、親に被害のことを話して突き放されたこと、さらに親友から『勘違いじゃないの』と言われていたことも、いろいろな記憶が噴き出してきました。泣き疲れるくらい、ずっと泣いていました」。



ものの5分ほどの時間が、長く感じられたといいます。そして、話し終わったときに、そばにいた人から「あなたの勇気に」と黄色いチューリップを手渡されました。

語ることができた思いを文字に… “仲間”とともに前へ

(菜緒さんが「#性被害から前を向くために私は」で呼びかけたツイート)

今年3月、菜緒さんはツイッターで知り合った人たちと、新しいハッシュタグを2つ作りました。「#性被害から前を向くために私は」と「#性被害から回復へのあゆみ」。ツイッターで、こう呼びかけました。

「みなさんが踏み出した第一歩、聞かせてください。お出かけ、編み物、昼寝など、回復に直接繋がらなくても、やってみて効果がありそうと思ったものならなんでもいいです」

「『前を向く』や『回復』といっても、目線を少しだけ上げることだったり、自分をいたわることだったり、人によってさまざまです。自分なりの解釈をしてもらえたらと思いました。」

踊りがあったから、ひとり抱え込んできた気持ちを表に出し、“前を向こう”という思いにたどり着けたという菜緒さん。他のみんなも、もし治療以外にも “何か”があれば、自分の思いを外に少しずつでも吐き出せる場があれば、“前向き”な気持ちになれるのではないかと思ったそうです。



2つのハッシュタグには、性暴力の被害に遭った人たちから投稿が集まり始めています。

「うつくしいヒト、コト、モノにふれるようにしています」

「お洒落(しゃれ)な空間へ行く いろいろな人と会って話して楽しんでみる。  
無理して笑わない。そのままの私自身と向き合ってくれる人を信じてみる」

「被害からもうすぐ5か月。今までお菓子やカップ麺で済ませていたけど、最近やっと料理を作り始めた」


「立ち上がろうとしている人の、ささやかな助けになれば」。ハッシュタグは、菜緒さんの思いを超えて、徐々に広がっています。

被害者に寄り添う 警察官になりたい


この4月、大学4年生になった菜緒さんは、いま、公務員試験の勉強に励んでいます。第一希望は、警察官です。それを聞いた当初、私は正直、驚きました。中学生のときに一人で被害届を出しに行き、嫌な思い出しかないはずの警察官になぜ、なりたいのか…。菜緒さんはまっすぐ前を向いて教えてくれました。

「二次被害を減らしたい。私のような思いをする人を少しでもなくしたいんです。」

性被害を受けた自分だからこそ、できることがあるのではないかという菜緒さん。来月に迫る採用試験に向けて、準備を進めています。体力テストに備えて、「毎日20回」を目標に腕立て伏せに取り組むなど、体も鍛えているそうです。

どんな警察官になりたいのか、尋ねると。

「性被害について、偏見をもっている人はまだまだ多いです。警察に来るまでの間に、被害者はたくさんたくさん傷ついています。だからこそ、偏見を持たずに、優しく寄り添えるような警察官に、私はなりたい。」(菜緒さん)

去年の秋に初めて会ったときに比べて、次第にたくましくなっていく姿に、頼もしさを感じるとともに、確かな回復への歩みを見せてもらった気がしました。あとになって教えてくれたのですが、実は最初の取材のあと、数日間は気分が落ち込んだそうです。それでも、「話すことはエネルギーを使うし疲れるけど、黙っていることに比べたら全然苦しくない」と話す姿に、いつからか、私の方が力をもらっていました。

今もモダンバレエを週4日、習っている菜緒さん。新型コロナウイルスの影響で、今は練習はお休みですが、そのスタジオで会う中学生や小学生を見て、いつも思うことがあるそうです。「彼女たちが私と同じような目に遭わない世の中になってほしい。」

会う度に、力強くなっていく菜緒さんの思いが、少しでも多くの人に届いてほしいです。
#性暴力#MeToo#Withyou
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2020年4月10日
【性暴力を考えるvol.74】本で振り返る フラワーデモの1年
駅前や公道などの“町なか”で、花を持って集まり、性暴力被害の当事者や支援者らが体験や思いを語りあうことで性暴力に抗議する「フラワーデモ」。昨年4月11日に東京と大阪で始まり、月を追うごとに その輪は全国すべての都道府県に広がっていきました。この1年間の歩みをまとめた書籍『フラワーデモを記録する』が あす4月11日に出版されます。

この本を手がけたのは、作家の北原 みのりさんと ともにフラワーデモを呼びかけた編集者の松尾 亜紀子さんです。この1年間、フラワーデモの運営と進行を務めてきた松尾さんは、出版にあたり、ブログにこう記しています。

「実は、フラワーデモのこの1年がなんだったのか、私にもまだわかっていないのです。だからこそ、今後続けていくためにも、かかわった人たちで記録を残したいと思いました。」

“性暴力を許さない社会”をつくるために、各地で声をあげ続けているフラワーデモ。1年目の記録となるその書籍について お伝えします。

(NHKグローバルメディアサービス ディレクター 飛田陽子)


“高い空と 広い場所を”  社会に声を届けるために

(2019年4月11日 東京駅前行幸通りで開かれたフラワーデモの様子)


 2019年4月11日、夜の東京駅前行幸通り(ぎょうこうどおり)。鉛のように重たく閉じていた目の前の扉が、ゆっくりと開いていく音を聞いたように思った。東京の夜空のもと、初めて出あった人たちの前で、女性たちが、マイクを手にして過去の痛みの経験を次々に語りはじめたのだ。あの晩、日本の#MeTooが大きく動いたのだと思う。

(『フラワーデモを記録する』はじめに―痛みの声が聞かれるまで より 文・北原みのり)


フラワーデモは、昨年3月に 相次いだ性暴力に対する無罪判決に抗議することが目的で始まりました。当初 決まっていたのは、性暴力の被害に遭った人に寄り添う気持ちを表すために “花を持って集まる”ことだけでした。集会を呼びかけるツイートには、「声をあげなくてもOKです。現状を変えるため、集まって抗議の気持ちを示すことから始めませんか。」と書かれました。


(第1回の集会を呼びかけるツイート)

しかし、呼びかけ人の北原さんや松尾さんにとって 思いもよらないことが起こります。予定されていた主催者側10人のスピーチが終わっても、その場に集まっていた500人の参加者が誰一人 帰ろうとしなかったのです。そして、突然、ひとりの女性が「私も話したい」と手を挙げて、自分の被害を語り始めたのをきっかけに、ひとり、またひとりと、続いたのです。書籍の中で、北原さんはその時の様子をこう綴(つづ)っています。


 あの日、幼い頃から性暴力を受け続けてきた女性がいた。成人してから記憶が蘇(よみがえ)り、そのトラウマのため就学や就職もままならず、ようやく手にしたアルバイト先で今セクハラにあっている、と。「なぜ被害者が転々としなければいけないのか」と訴える声に花を持つ人の輪が静かに揺れるように泣いた。語らなければいけない痛みの記憶、語らなければなかったことにされるあの日のこと、あの晩語られたすべては、あなたの話でありながら、それはすべて私の話のように胸に落ちてきた。声が次の声を呼ぶように、私たちは止まらなくなっていた。

(『フラワーデモを記録する』はじめに―痛みの声が聞かれるまで より 文・北原みのり)




(2019年4月11日 平日にもかかわらず 500人ほどが駆けつけた)

実は、北原さんと松尾さん、初めは、裁判所の前でデモを開くことを検討していたそうです。しかし、「裁判所の前で無罪判決に抗議すると、抗議をぶつける相手が限定されてしまう。そうではなく、性暴力が許されるこの社会全体を変えたい」という思いから、「私たちには高い空と広い場所が必要だ」と考えました。そして選んだのが、東京駅前から皇居を結ぶ行幸通りの広場。もし 北原さんと松尾さんがこの場所にしようと決断していなければ、痛みの声が被害当事者の方から自発的にあがることは なかったかもしれません。

“私たちの町でも!” 各地の主催者の思い
初回の4月は東京・大阪だけの開催だったフラワーデモは、5月には福岡が加わって3都市、6月には北海道や鹿児島などを含む12都市で開かれ、今年3月までにすべての都道府県で運営組織が立ち上がりました。書籍で特に目を引くのは、地方各地でフラワーデモを呼びかけ、主催した人たちによる手記です。それぞれに、強い覚悟を感じます。

福岡


(福岡会場のようす)


 性暴力事件の無罪判決が出るたび、驚きと激しい憤りが募っていた2019年3月。どうせ日本はそんな国…と諦めモードで気を落ち着けようとしても、絶望的な気持ちとフツフツ湧いてくる怒りは、どうにも止まらなかった。だから、フラワーデモの呼びかけを知った時、暗闇に一筋の光を見る思いだった。(中略)

 無罪判決の一つが出た福岡にも、同じ思いの人間が一人はいるよ!と伝えたくなった。カレンダーで11日をチェック。6月×。7月まで待てない。じゃあ5月!友人にフラワーデモに賛同するスタンディングをしたいと話すと、「行くよ!」と即答してくれた。呼びかけて誰も来なければそれでいい。

(『フラワーデモを記録する」より 文・黒瀬まり子)



三重



 フラワーデモ三重のきっかけは、身近な地域に自死した性被害者の方がいたことを知ったことだった。壊れそうな震える足で東京のOne Voiceフェス(※)に行った。
 山本潤さんがお話の冒頭に『自死した性被害者の方々にお悔やみを申し上げます』と言われていて、やっと人の心に出会えたようにほっとした。北原みのりさんとフラワーデモ長野発起人の方の話を聞きながら、性被害で十年帰れずにいた郷里と繋(つな)がれたようで泣きながら聞いた。その夜、帰って翌日フラワーデモ三重を立ち上げた。(中略)
 当事者の思いを全国と地元と繋がれて、性被害者の命を救うようだった。

(『フラワーデモを記録する』より引用 文・長田伊央)


※OneVoiceフェス・・・現在の刑法の見直しを求める全国キャンペーン。10代の時に父親から性暴力の被害を受けた経験をもつ 山本潤さんが代表理事を務める一般社団法人「Spring」が主催。フラワーデモと連携している。

私は昨年5月から 各地でフラワーデモの取材を続けています。デモが東京や大阪などの大都市だけでなく、地方各地にも広がっていったことは、社会が性暴力の問題に目を向ける きっかけの一つになったと感じています。フラワーデモの運営組織がすべての都道府県で立ち上がった今年3月、愛知県で、実の娘に性的暴行した罪で無罪判決が言い渡されていた父親に、名古屋高等裁判所は一転して懲役10年の実刑を言い渡しました。
※この「逆転有罪判決」については vol.64で伝えています

フラワーデモを みんなの“居場所”に
しかし、地方都市の主催者の中には、自分の暮らす地域でフラワーデモを呼びかけたことで、心ない誹謗(ひぼう)中傷を受けたという人もいます。これまで三度の性暴力被害に遭いながら、 10年以上にわたって、“なかったこと”にして生きてきたという田嶋 みづき(群馬県)さんです。

群馬

 実は初開催の9月11日当日まで、私の心は不安でいっぱいでした。
 なぜなら、その数週間前、フラワーデモ群馬のTwitterアカウント宛てに嫌がらせリプ(返信)が相次いだこと、また知人から「フラワーデモみたいな攻撃的な活動はやめろ」と言われたことが私の気持ちを重くそして苛立(いらだ)たせていたからです。

(『フラワーデモを記録する』より 文・田嶋みづき)


“性暴力に声をあげること”への批判にさらされながらも、田嶋さんは自分の町でフラワーデモを開催。そして、自らマイクを手に持ち、被害の経験や性暴力に対する思いをスピーチしました。そのときの様子は、当日、NHK『ハートネットTV』で全国に伝えられました。


(フラワーデモ群馬でスピーチする田嶋みづきさん)

募る不安を押し殺してフラワーデモを開催した田嶋さんに、参加者からは、「よくやってくれた!」「ありがとう」「まさか群馬で開催されるとは思ってもみなかった」という言葉が届いたそうです。手記には、今の思いを寄せています。


 性暴力を語れない日本のこの空気を変えることが最も重要だと思うのです。
 そのためにはまず一人一人の語る言葉に耳を傾けること、黙って佇(たたず)む人や自宅から応援してくれる人にも、寄り添う姿勢がこの社会を変えることに繋(つな)がるのではないでしょうか。
 名前も住んでいる場所も知らない人がマイクを持ち、自身の辛(つら)い過去の体験を語る。終わった後私たちは手を取り握手をする時もあれば抱きしめ合うこともある、そして次の月、再び同じ場所で会う。
 名前は知らないけれど。
 もし、フラワーデモを“居場所”と感じてくれる人がいたら私はそれだけで幸せです。(中略)
 性暴力がこの世からなくなるその日まで私は闘い続ける。共に闘える仲間がいるから、もう「なかったこと」にはしない。

(『フラワーデモを記録する」より 文・田嶋みづき)





『フラワーデモを記録する』の利益はすべて、各地のフラワーデモの運営や被害当事者団体Springの活動のために使われる予定です。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「緊急事態宣言」を受けて、書店の営業を見合わせている地域がありますが、オンラインショップなどから購入することができるということです。

現在、フラワーデモを駅前や公道などで開催するのが難しい状況が続いています。しかし、今後も取り組みは続いていきます。町なかで 性暴力の被害について声をあげ始めた人たちの声をしっかり受けとめ、“性暴力を許さない社会”を実現するために、私たちは取材し、伝え続けていこうと思います。

※あす4月11日のフラワーデモは、茨城・津(三重県)・高松(香川県)・高知で、プラカードを持ってサイレント スタンディングを行う定です。それぞれの詳しい時間と場所については、フラワーデモの公式HPおよび各会場のツイッターアカウントを参照ください。 また、ツイッターでは、19:00~20:00の間、各地のフラワーデモ公式アカウントが「ツイッターデモ」を開催します。「#0411フラワーデモ」のハッシュタグをつけてつぶやけば、個人のアカウントからも参加可能です。いずれも、急きょ予定が変わることもあるので、ご注意ください。

記事について、また、フラワーデモについて、どのように感じますか?あなたの思いや意見を、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
#性暴力#MeToo#Withyou
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2020年4月9日
【性暴力を考えるvol.73】新型コロナ ストレス危機③ 世界でDV増加懸念
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、各国で外出制限が行われる中、DVの増加が懸念されています。国連のグテーレス事務総長は「すべての国の政府に対し、新型コロナウイルスの感染対策を実行する際に女性に対する暴力の防止に重点的に取り組むよう求める」として、各国に早急に対策を取るよう求めています。

国連の機関の指摘や、ヨーロッパ各国、アメリカ・カナダ、南アフリカの状況についてはこちら↓↓

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200407/k10012371791000.html?utm_int=news-international_contents_list-items_004

【緊急募集】みなさんは、休校や在宅勤務などで 自宅で過ごす時間が増える中、どんなストレスを抱えていますか? 悩んだり、困ったりしていることはありますか? また、どのようにストレスと向き合っていますか? ご意見募集ページから お寄せください。
#性暴力#MeToo#Withyou
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2020年4月8日
【性暴力を考えるvol.72】新型コロナ ストレス危機② DV・虐待・・・ LINEで相談できます
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛が要請される中、ストレスによる家庭内の問題が深刻化することが懸念されています。危機感を抱く弁護士らのグループが、DVや虐待についての不安や悩みをLINEで受け付ける相談窓口を開設しました。

このLINE相談窓口を立ち上げたのは、離婚問題などに取り組む弁護士の団体「オンネリ」です。相談は毎日午前10時から午後10時まで受け付けています。団体のLINEアカウント「@744iaull」か、下のQRコードから連絡してください。団体のアカウントを友だちに追加すると、相談できます。


(※NHKサイトを離れます)
上記のLINE相談窓口の受け付けは、5月31日で終了しました。再開が決まり次第、改めてお知らせします。急ぎ、相談を希望される方はこちらから。(6月1日 追記)


(「友だち追加」すると届くメッセージ)

相談に対応しているのは、11人。東京多摩地区の弁護士10人と元調停員1人です。全員、この分野の専門家で、DV専門相談の研修を受けていたり、子どもの権利に取り組んでいたりします。現在は、交代で相談の対応にあたっていて、メッセージをやりとりして悩みを聞き、状況によっては必要な支援の選択肢を提示します。

「オンネリ」代表理事の弁護士・鳥生尚美(とりゅう なおみ)さんは、2月末に政府が新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、在宅勤務の推奨を呼びかけたり、学校の臨時休校を要請したりする状況を見て、普段からDVや虐待などの危険にさらされている家庭環境にある人たちへの影響を心配したと言います。これまで多くのDVの事件などを担当する中で、被害を受けている人たちにとって、家族と一緒にいることが どれほど大変なことであるかを見てきたためです。


(弁護士・鳥生尚美さん)

「多くの被害者たちは、加害者である配偶者が帰宅する時間が近くなるとドキドキして、帰宅後は顔色をうかがい、おびえながら生活しています。外出自粛で加害者と一緒にいる時間が増えることで、DVを受ける機会が増えるというだけでなく、こうした緊張状態が続くことが心配でした。また、休校になると、家でごはんを食べさせてもらえない子どもや、虐待を受けている子どもたちの状況も より深刻になるのではないかと思いました。」

そうした不安を抱いていた矢先、海外でDVの報告件数が増えていることをニュースで知りました。外出制限が続くフランスでは、パリとその周辺の3つの県で、警察に報告された配偶者間の暴力の件数が1週間で36%増加。パリ市はDVの被害者が一時的に避難するための施設を新たに準備するなど、対策に乗り出しているということでした。

日本で、同じような家庭状況に置かれている人たちに対してできることはないか。鳥生さんは仲間の弁護士と相談し、緊急で「LINE相談窓口」を開設することに決めたそうです。家族から被害を受けている人たちは、家から電話をかけることは難しいと考え、スマートフォンなどからのメッセージのやりとりで相談ができる、LINEを使うことにしました。開設を決めた翌日、鳥生さんは、団体のSNSでこう呼びかけています。


(LINE相談を呼びかける「オンネリ」のツイッター)

「大人も子どももストレスを感じる生活で、DVや子どもへの虐待が増えることを懸念しています。 外に出ることが難しく、また、加害者と一緒に家にいる状況では電話での相談も難しい。 ということで、明日から、【緊急!DV・虐待LINE相談】を行うことにしました。 弁護士及び元家裁調停委員が、LINEで直接ご相談をお受けします。 当面、相談受付時間は、午前10時~午後10時。相談員が交代で対応します。」

(「オンネリ」のツイッターより)



3月30日に受け付けを開始してから、早速、相談が寄せられています。中には、身体的な暴力や、モラルハラスメントの被害を受けたという訴えもあるそうです。

今後、外出自粛で、収入が減ったり、仕事がなくなったりするなど、「経済的なストレス」を抱える人たちが増えていったとき、家庭内の暴力などの問題がより深刻になる可能性もあります。鳥生さんたちは、もし自分の受けている行為が、DVなのか、虐待なのか分からなかったとしても、困っていることがあれば、まずは一言でいいので連絡をしてほしいと言います。


※虐待・DVに関する相談窓口・支援団体は他にもあります。
「ハートネット 虐待・DV『相談窓口・支援団体』」をご覧ください。


4月30日(木)放送の『クローズアップ現代+』では、新型コロナウイルスの感染拡大で募るストレスの影響と対策について お伝えする予定です。


みなさんは、休校や在宅勤務などで 自宅で過ごす時間が増える中、どんなストレスを抱えていますか? 悩んだり、困ったりしていることはありますか? また、どのようにストレスと向き合っていますか? ご意見募集ページから お寄せください。


急ぎ、相談を希望される方は…
●DV相談+(プラス) https://soudanplus.jp (※NHKサイトを離れます)
・24時間対応電話 0120-279‐889
・SNS、メール、チャット相談も可、外国語対応

●24時間こどもSOSダイヤル  https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm(※NHKサイトを離れます)
0120-0-78310
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2020年4月6日
【性暴力を考えるvol.71】新型コロナ ストレス危機① DV・虐待対策を緊急要望
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて 自宅で過ごす時間が増える中、ストレスや経済状況の悪化に伴い、家庭内の性暴力や、虐待、DV(ドメスティックバイオレンス)が増える恐れがあるとして、先月30日、国に対策を求める要望書が提出されました。

対策を求めたのは、全国のDV被害者の支援団体で作るNPO法人「全国シェルターネット」です。すでに団体のもとには、「夫が在宅勤務になり、子どもも休校になったため、ストレスがたまり、夫が家族に身体的な暴力をふるうようになった」、「夫から妻や子どもへの暴力が増え、妻も子どもへの暴力をしてしまう状況が起きている」といった声が届いているそうです。

また、相談や支援につながりにくいという課題も見えてきています。「新型コロナの影響を気にして、電車に乗るのも怖く面談に来られない」、「相談中の被害者が、夫と子どもが家にいるので、電話での相談が困難と思われ、連絡が途絶えている」「女児は児相に保護されたが、部屋が足りず、男児は児相に保護されないでいる」といった声も寄せられているということです。


(NPO「全国女性シェルターネット」が国に提出した要望書)

団体は要望書で、すでに起きている状況や 寄せられている相談内容を明記するとともに、次のことを求めました。

▼感染が拡大する状況でもDVや虐待の相談窓口を閉鎖しない
▼電話相談の回線、DVシェルター、児童を保護する施設などを増やすなどの体制整備をする
▼相談窓口が開いていることを周知する
▼直ちに一時保護につながるよう、支援につなぐ体制の情報を共有し、命にかかわる事態を防ぐ
▼一時保護期間が2週間としている都道府県が多いが、柔軟に期間延長をする など



(NPO法人 全国女性シェルターネット 共同代表・北仲千里さん)

全国女性シェルターネットの共同代表・北仲千里(きたなか ちさと)さんは、今の状況を、過去の震災後と重ね合わせ、一刻も早く 支援体制を整える必要があると言います。

「阪神淡路大震災や東日本大震災などでは、避難生活を長い期間にわたって強いられた中、大勢の人がストレスを抱え、多くの被害が発生しました。もし、今後も外出の自粛が続けば、事態はますます悪化していくことが予想されます。国と話し合い、新型ウイルス対策の状況をふまえて、柔軟に対応しながら、支援を途切れさせないための対策を練っています。

悩みを抱えている人は、誰かに相談することを あきらめないでほしいです。」


※虐待・DVに関する相談窓口・支援団体は 「ハートネット 虐待・DV『相談窓口・支援団体』」をご覧ください。

今月30日(木)放送の『クローズアップ現代+』では、新型コロナウイルスの感染拡大で募るストレスの影響と対策について お伝えする予定です。


【緊急募集】みなさんは、休校や在宅勤務などで 自宅で過ごす時間が増える中、どんなストレスを抱えていますか? 悩んだり、困ったりしていることはありますか? また、どのようにストレスと向き合っていますか? ご意見募集ページから お寄せください。
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2020年4月3日
【性暴力を考えるvol.70】子どもも大人も!ネット動画で学ぶ“性”
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、自宅で過ごす時間が増えている人は多いのではないでしょうか。この機会に、ネット動画で“性”について学びませんか?

幼い子どもや10代の若年層が性暴力に苦しんでいる実態を解決したいと、この問題に取り組んでいるNPOが今、「正しい性の知識」や「性暴力の相談先などの情報」を伝える子ども向けのネット動画を次々と公開しています。今回はその中から、2つのNPOのアニメ動画を紹介します。大人にとっても大切な情報がつまっています。

■ “ガマンしなくていい”性暴力の事例 伝える「ミーの悩み」

NPO「3keys(スリーキーズ)」が10代向けに制作した「ミーのなやみ」。羊の子「ミー」が主人公の1分ほどのアニメで、家族や恋人など身近な人から被害を受けやすい性暴力の事例を具体的に分かりやすく伝えています。たとえば、「下着姿や裸の写真を撮られる」「むりやりキスや性行為をされる」など。さらに、こうした行為は、「ガマンしなくてもいいもの」と伝え、動画の終わりに、子どもたちが相談できる窓口や機関を紹介しています。

【家族・親戚編 性的虐待】


【恋人・パートナー編 性的暴力】

上の2つの動画が掲載されたNPOのサイトはこちらです。
https://3keys.jp/mee/
(※NHKサイトを離れます)


自分を責めてしまう 子どもたちの認識を変えたい

(NPO「3keys」代表理事 森山誉恵さん)

この動画を制作したNPO「3keys」は、児童養護施設などで過ごす子どもたちの学習支援や、支援サービス情報などをまとめた10代向けのサイトの運営などを行っています。代表理事の森山誉恵(たかえ)さんは、こうした活動を行う中で、親から性虐待を受けていても、「自分が悪いからガマンしないといけない」「誰にも相談してはいけない」と考え、自分を責め、ひとりで抱えこんでしまう子どもに、たくさん出会ってきたといいます。

子どもたちがこうした“間違った認識”を持ってしまう理由は、“性暴力とは何なのか、学校や家庭できちんと学ぶ機会がほとんどない”ことにあると考え、「ミーのなやみ」を作ったそうです。


(「ミーのなやみ」より)

無意識の偏見 取り払うきっかけに
動画を作るにあたって心がけたことは、「重すぎず、軽すぎない」内容にすることだったといいます。年齢や性別に関係なく、多くの子どもたちが、見やすいものにすることを大切にしたそうです。「性虐待は女の人が受けるもの」「ぼくはお兄さんだから我慢しなくては」と、子どもたちが思ってしまわないように年齢や性別がわかりづらい羊のイラストを使いました。また、“加害者は男性、被害者は女性”といった偏見をとっぱらうために、あえて同性の加害者から被害を受けているような場面も入れています。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、自宅で過ごす時間が多い今こそ、森山さんは ぜひ多くの人に見てほしいと言います。

「親や恋人と長時間一緒に自宅で過ごす環境では、性暴力が起きるリスクが高まるのではないかと懸念しています。リスクにさらされている人は、自分が相手から されている行為は性暴力だと気づき、誰かに相談してほしいと思います。

大人の世代でも、正しい性の知識を学んだ経験をもつ人はそう多くありません。“子どもへの教育のため”とか“これは愛情だ”などという認識で、悪気なくやっている行為が、実は子どもにとっては性暴力にあたることもあります。この動画をきっかけに、無意識に持っている性暴力に対する考え方を、とらえ直してもらえればと思います。」


■ ポジティブに性を学ぶ 動画「AMAZE」

アメリカのNGOが子どもや保護者向けに作った性教育の動画「AMAZE」。10以上の言語に翻訳され世界中で活用されています。日本では、性教育に取り組んでいるNPO「ピルコン」が、クラウドファンディングで資金を募り、翻訳しています。毎週、新たな動画を2本ずつ公開。5月末までに45本すべてがそろう予定です。

次の動画は、13歳以上に向けて、「コンドームの正しい使い方」について伝えたものです。自分とパートナーの健康を考えるためにも、性別を問わず学んでみようと呼びかけます。

【コンドーム:上手な使い方 使う前に知っておきたいこと】

上の動画が掲載されたNPOのサイトはこちらです。
https://pilcon.org/activities/amaze/pregnancy
(※NHKサイトを離れます)

こちらの動画は、「相手に確認する前に体を触っちゃだめ」「触られたいかを決めるのは自分だけ」など、「同意」とは何かについて伝えています。
【同意とコミュニケーション 同意ってなに?】

上の動画が掲載されたNPOのサイトはこちらです。
https://pilcon.org/activities/amaze/relationship
(※NHKサイトを離れます)


これらの動画は、ご覧いただくと分かるとおり、とても明るい印象を与えます。日本語の翻訳を手がけるNPO「ピルコン」の代表・染矢明日香(そめや あすか)さんと金夏琳(キム・ハリム) さんは、この動画をきっかけに、性を「ポジティブ」にとらえてほしいと話します。

「みなさんや私たちの多くは、おそらく幼い頃から受けてきた性教育を通して、性について、“やっちゃだめ、話しちゃいけない、恥ずかしいもの”など、ネガティブなものとして、とらえてきたと思います。

それに対し、AMAZEの動画は、“何よりも自分と相手を大切にしよう”、“いつでもNOと言っていい”、“自由でありのままの自分でいることって すてきだよね”と、性についてだけでなく、人間関係について、楽しく、包括的に、分かりやすく伝えようとしています。性教育は、こういったポジティブなメッセージが含まれていることが伝わったら、うれしいです。」


親子で見て“対話”も

(AMAZE上映会のトークイベントには、タレント・エッセイストの小島慶子さん<中央>と、ハフポスト日本版編集長の竹下隆一郎さん<右>が参加。 写真提供:ピルコン)

今年2月には、この動画の上映会が東京都内で開かれ、保護者や教育関係者らがオンラインなどで参加しました。保護者からは、「映像がとてもポップで見やすい。でも大切なことをしっかり伝えているので、親子で見て対話をするなど、活用したいと思います」といった感想も寄せられたそうです。

専門家は… “お互いを尊重する”関係性を考える機会に

(齋藤 梓さん 目白大学 人間学部心理カウンセリング学科 専任講師)

性暴力などの被害者の心のケアにあたっている公認心理師・臨床心理士の齋藤 梓(あずさ)さんは、インターネット上に誤った情報が氾濫し、学校や家庭で性について学ぶ機会が少ない中、子どもたちが簡単にアクセスできる動画は重要な役割があるといいます。

「本来は、“お互いを尊重する関係性”や“NoやYesを言い合える関係性”を育む、段階的で包括的な性教育が必要です。こうした動画を通して、今、被害に遭っている子どもたちが“自分の身に起きていることは性暴力”と気づき、誰かに相談することができれば、と願います。政府も動き出しているようですが、まだまだ時間がかかりそうです。

また、今まで子どもたちにとっての「性のお手本」は、さまざまなアダルトビデオなどでした。私自身、臨床で「相手が喜ぶと思ってアダルトビデオのとおりにやったら、相手が泣き出した」という子や、無理な行為を強要されて傷ついた子に会ってきました。自覚なく相手の心や身体を性的に傷つける(=性加害をしてしまう)子どもが減って、また、自分の身体も大切に思え、嫌なことを嫌だと思え、そう相手に伝えられる、必要ならば逃げられる子どもが増えるといいと思います。」



3月下旬に内閣府が公表した 全国の「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」の支援状況の調査結果によると、昨年6月から8月の3か月間に面談に訪れた被害者のうち、19歳以下は約4割を占めました。新たな被害を生まないためにも、こうしたネット動画を通して、“性”の正しい知識と相談窓口の情報が、子どものみなさん、大人のみなさんに広く伝わることが大切と感じます。

みなさんは、性について学ぶネット動画について、どう思いますか? おすすめの動画はありますか? また、休校や在宅勤務などで 自宅で過ごす時間が増えて、悩んでいたり、困ったりしていることはありませんか? ご意見や思いを、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
#性暴力#MeToo#Withyou
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2020年4月1日
【性暴力を考えるvol.69】データで捉える 全国“ワンストップ” 支援状況
先日、内閣府男女共同参画局は 性犯罪・性暴力の被害の相談に応じている全国の「ワンストップ支援センター」を対象に行った 支援状況などに関するアンケート調査の結果を公表しました。

ワンストップ支援センターは2018年10月に各都道府県に最低1か所設置するという目標を達成し、現在、全国に49か所あります。調査は、各センターで昨年6月1日から8月31日までに対応した相談(電話相談・面談)について行われました。

この調査で明らかになった被害の実態と今後の課題について、性暴力などの被害者の心のケアにあたっている公認心理師・臨床心理士の齋藤 梓(あずさ)さんと、今回の調査報告書のとりまとめに関わった性暴力被害者支援センター・ふくおかのセンター長の浦尚子(うら ひさこ)さんに聞きました。

(「クローズアップ現代+」ディレクター 村山かおる 神津善之 飛田陽子)

※気になる項目をタップしてください。(データはすべて、令和2年3月「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターを対象とした支援状況等調査」より)




相談件数は 3か月間に のべ1万件近く

※メール相談の件数は、メール相談を実施しているセンターで、かつ調査期間中にメールでの相談対応があった12か所から挙げられた数値です。

昨年6月から8月までの3か月間に、全国のセンターに寄せられた相談件数は、のべ9,450件でした。 性暴力被害者のケアに詳しい齋藤 梓さんによると、性暴力以外の犯罪被害者の相談にも応じている被害者支援センターの全国の年間の総相談件数は32,783件で、そのうち性犯罪は17,689件(2018年度)。それから考えると、「3か月間だけで、のべ9,450件というのは大きな数字」だといいます。


(齋藤梓さん 目白大学 人間学部心理カウンセリング学科 専任講師。公益社団法人被害者支援都民センターで殺人や性暴力被害等の犯罪被害者、遺族の精神的ケア、トラウマ焦点化認知行動療法に取り組む。法務省「性犯罪の罰則に関する検討会」2014~15年に参加。)

齋藤さん

ワンストップ支援センターへの相談につながっている方が多いこと自体はよかったと感じています。一方で、この数字は“氷山の一角”であり、まだ相談できずに苦しみを抱えている被害当事者の方がたくさんいらっしゃることを、私たちは忘れてはいけないと思います。性暴力は、自分の身に起きた被害を“被害”と捉えることが難しい暴力です。さらに、痴漢や盗撮など、“性交を伴っていない被害”も存在することを考えると、性暴力の被害者は実はもっとずっと多いです。


被害者の性別 男性は少ない けれど…


被害者の性別は、女性は電話相談で87.7%、面談で97.8%。一方、男性は電話相談で10.4%、面談は2.2%でした。

※男性の性被害に対応しているセンターについては、vol.67を参照ください。

齋藤さん

男性被害の相談の割合は少しずつ増えているのかもしれないと感じていますが、まだまだ「ワンストップ支援センターは女性の相談を受けている」というイメージが根強くあるのだと思います。また、支援機関では、男性や性的マイノリティーの相談者を想定した研修が不足しており、対応が不十分であるという実態もあります。性暴力は、すべての人が被害者になる可能性があります。男性被害者の相談のハードルを下げるための取り組みが必要だと思います。


被害者の年齢 子どもの被害が多い


被害者の年齢については、「20歳台」が最も多く(「不明」を除く)、電話相談24.2%、面談31.3%でした。また、面談では「19歳以下」の被害者は、全体の約4割を占め、さらに中学生以下に限っても、全体の約2割でした。

齋藤さん

子どもの被害は、実はとても多いのだろうと推測されます。子どもの被害は、加害者が子どもをだましたり、巧みな言動で子どもに言うことを聞かせたり、子どもの依存心を利用したりするなど、暴行脅迫が伴わないことが多くあります。さらに、被害者が13歳以上で、加害者がその子どもの監護者(共に生活し日常の世話や教育を行う大人)でない場合、警察に届け出ても、暴行脅迫があったと認められない限り、犯罪として扱われにくい可能性があります。そのため、子どもたちがどのような被害に遭っているのかをしっかりと精査し、性暴力からどのように子どもたちを守っていくのか、真剣に考え、法律や施策を整えていくことが必要です。

また、周囲の大人は 子どもから被害を打ち明けられたときに、「そんなことがあるはずない」と子どもの言葉を否定してしまうことがあります。多くの人が、「性暴力は現実にあり得ることだ」という認識を持ち、被害の相談を受けたときに適切に対応することが大切だと思います。


※子どもから被害を打ち明けられたときの対応については、vol.33の動画を参照ください。

加害者との関係 ほとんどは “顔見知り”


加害者との関係については、電話相談、面談ともに、「友人・知人」が最も多く、次に「職場・バイト先関係者」となっています。電話相談では、次いで、「知らない人」、「親」の順。面談では、次いで「親」、「知らない人」の順でした。加害者の多くが“顔見知り”であることが改めて分かりました。 (“顔見知り”からの性暴力については、『クローズアップ現代+』(2019年7月30日放送)でお伝えしました。)

齋藤さん

職場やバイト先関係者、学校や大学の教員、コーチなど、上下関係が存在する中で性暴力は発生しやすいです。一方で、“一見 対等に見える” 友人や知人、交際相手、SNSなどで知り合った人とのあいだでも、被害が発生することがあります。この場合は、”事前の会話や関係性の中で上下関係を作りあげ、相手が断れない状況を作り上げて追い込んでく“というプロセスを経ている場合が多いです。顔見知りからの性暴力の場合、明らかな暴行や脅迫がないために犯罪として認識されづらい現状があります。また、周囲の人が被害者から相談を受けても、「あなたも悪かったのでは」などと言い、”二次被害“を与えてしまうことも、深刻な課題です。

家庭内で発生する被害は、世間が思っているよりも多いということも、多くの人に知ってほしいです。今回の調査結果では、親からの被害は約10%でしたが、「その他家族・親族」からの被害も存在しています(電話相談:4.5%、面談:6.2%)。子どもと共に生活して、日常の世話や教育などを行っている監護者以外の家族からも、子どもたちは被害に遭っているのです。
ワンストップ支援センターの支援体制 見えてきた課題

(性暴力被害者支援センター・ふくおか 浦 尚子センター長)

今回の調査から見えてきたワンストップ支援センターの支援体制の課題について、結果の分析や報告書のとりまとめに関わった性暴力被害者支援センター・ふくおか センター長の浦 尚子さんは、次のように指摘します。

浦さん

●相談のハードルを下げる取り組み
これまでワンストップ支援センターは、被害から間もない人の相談を中心に対応することが想定されてきました。しかし今回の調査では、被害から時間がたっている人も、センターを必要としていることが明らかになっています。被害からセンターへの電話相談に至るまでの時間として一番多かったのが「1年から10年未満」(15.2%)で、「72時間以内」(14.7%)と同じぐらいでした。



私自身、福岡のフラワーデモに参加して一番感じたことが、“被害から時間がたっても苦しみを抱え続けている方が たくさんいる”ということです。性暴力の被害は、それだけ重いことで 相談の一歩を踏み出すまでに時間がかかることが少なくありません。

加えて、調査結果を見て、もっと若い世代や男性被害者、性的マイノリティーからの相談を受けとめやすくするための工夫が必要だと感じました。電話や面談だけでなく、SNSやメールによる相談に対応するなど、相談のハードルを低くするための取り組みが求められます。

●ワンストップ支援センターの周知
そもそも、「ワンストップ支援センターという相談窓口がある」ということを普段から知っておいてもらうための取り組みも必要です。福岡県では、2年後からすべての公立小中高校に“性暴力対策アドバイザー”を派遣し、センターの存在を伝えていくことが決まりました。今年度は試験的に100校で実施します。多くの方に、普段から、「性的に嫌な思いをしたら、ワンストップ支援センターへ」という知識を持ってもらいたいと思います。

●相談員の確保と育成
そうした取り組みを通じて、今後 性暴力被害の相談が増えていったときに、ワンストップ支援センターに問われるのは 相談対応や支援の質を下げないことです。しかし、今回の調査では、全国のセンターで働く相談員の3分の1が、「無給・交通費程度」の待遇で働いていることが分かりました(1,034人中 313人)。福岡も含め どこのセンターでも、相談員の確保や育成が課題になっており、なんとか体制を維持するのに必死です。すべての被害者に向き合い、適切な支援を届けていくためにも、国には処遇の改善や体制整備の強化をお願いしたいです。今回の調査のように、現場の実態把握が継続されていくことで、ニーズに即した支援が充実していくことを期待しています。

●“性暴力の問題”に関心をもつ社会に
被害に遭った人の中には、「あなたにも落ち度がある」「もう忘れた方がいい」といったことを周囲に言われて、被害に遭った方が二重・三重に苦しむことが多くあります。そういう事態をなくすためにも、支援に関わる現場だけでなく、より広く、社会全体に性暴力の問題に関心を持ってもらいたいです。

※あなたの地域の「ワンストップ支援センター」はこちらから


各地のワンストップ支援センターを取材させてもらうと、相談に対応されている人たちの真摯(しんし)な姿勢に触れるとともに、どこのセンターも “現場の工夫とふんばりで、支援体制をなんとか維持している状況”と感じます。性暴力の被害に遭ったときに受けられる支援の内容や質に地域差が生じないような体制の改善が早急に求められていると感じました。

全国のワンストップ支援センターの調査結果について、みなさんはどう感じましたか? あなたの思いや意見を、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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2020年3月27日
【性暴力を考えるvol.68】娘が夫から被害に 母親の苦悩
ことし1月。私たち取材班のもとに、30代女性から衝撃的な経験談がメールで届きました。

「去年12月、夫が3歳の娘に 性虐待を疑う行為をしているのを、偶然 目にしてしまいました。娘は泣きながら私に告白してきました。次の日に支援センターに電話し、娘はその日のうちに児童相談所に引き取られました。」

私は、すぐに女性に連絡をとり、会いに行きました。“娘が性被害に遭った。その加害者は、自分の夫。” すさまじい現実を ある日 突然 突きつけられ、穏やかな生活が一瞬にして壊されてしまった、という女性。その苦悩や悲しみ、そして娘を思う母親としての“強さ”は、想像をはるかに超えるものでした。

(報道局社会番組部 ディレクター 村山かおる)

被害を目にしたのは 自宅のリビング

(メールを寄せてくれたエリさん<仮名>)

投稿を寄せてくれたエリさん(仮名)が、その現場を目撃したのは、昨年末のことでした。エリさんは、夫と娘を家に残して 近所に買い物に出かけ、予定よりも早く、30分ほどで帰宅。そして、リビングで目にしたのは、下着姿であおむけになった娘(当時3歳)と、その前に下半身を露出して立つ夫の姿でした。

「一瞬、時が止まりました。とっさに娘を抱きかかえあげ、夫を問いただしました。夫はあたふたと下着をはき、『ごめん』とひと言 返すのみ。“とんでもないことが起きてしまった。” そう感じました。」

エリさんは、娘を抱えたままリビングを離れて、ふたりきりになり、娘が傷を負っていないか、体をくまなく確認しました。幸いにも、目に見える傷はありませんでしたが、泣きながら 父親にされたことを話す姿から、「すぐに夫と離れなくては」と思いました。

しかし、専業主婦で自身の収入はなく、また、身内に相談することもできず、その日のうちに家を出ることはかないませんでした。ひと晩、夫とは別の部屋で娘と一緒に寝ましたが、夫が部屋に入ってこないかという恐怖と、娘の将来への不安で一睡もできなかったといいます。

「誰に相談したらいいのか分からない・・・。」そのとき、ふと思い出したのが、少し前にテレビ番組で知った「性暴力ワンストップ支援センター」の存在です。翌朝、さっそく最寄りの支援センターに電話をかけると、ただちに来所するよう勧められ、娘を連れて向かいました。

何を選択しても“地獄”

(エリさんが児童相談所から受け取った一時保護通知書)

ワンストップ支援センターで相談員に経緯を話すと、すぐさま児童相談所を紹介され、そのまま向かいました。車のなかで、娘は不安そうに「どこへ行くの?」と尋ねてきたといいます。“この子は自分の身に起きたことをちゃんと分かっている”と感じたエリさんは、答えました。

「これから あなたをどう守るか、みんなで相談するんだよ。」

このやりとりが、娘と別れる前の最後の会話になりました。事情を聞いた児童相談所は、その場でエリさんの同意を得た上で、娘の「緊急一時保護」を決め、2か月間、施設で保護することになったのです。一時保護施設の詳しい場所については、娘の安全を守る目的から、エリさんにも伝えられませんでした。

娘の保険証と医療証を預けることとなり、車へ取りに戻ったエリさんは・・・。

「保険証と医療証を手にした時、娘は自分の目の前から本当にいなくなったってしまうのだと実感しました。自分の親や周りの人たちにどう話したらいいのか、これから私たち親子はどうなってしまうのか・・・。車の中で泣き崩れました。こんな事になるのなら、ここに来る前に、娘の好きな お菓子をコンビニで たくさん買ってあげれば良かった・・・。とても悔やみました。」

この2か月後、一時保護期間が終わるのを前に、エリさんは児童相談所と相談の上、娘を児童養護施設に入所させることに決めます。派遣の仕事を始めたばかりで安定した収入が得られていないため、やむを得ませんでした。養護施設から、面会ができるのは「娘が施設に慣れてから」と言われています。

娘と会えなくなって3か月、不安と寂しさを抱えながら、エリさん自身も家族3人で暮らしていた家を出て、今はひとりでアパートを借りています。

「家庭内の性虐待の被害を知ったとき、支援機関に言うべきか言わないべきか。母親にとって どちらを選択しても“地獄”です。支援施設に話したら、今の私のように家族はバラバラになります。でも、家族だけの“秘密”にして、あのまま夫と3人で同居を続けていたとしたら、娘は心と体がいつかぼろぼろに壊れてしまいます。さらに、事実をのみ込めずに精神的なダメージを受けている私と、共倒れしてしまう、と思いました。」

第一に考えたのは娘のこと

(エリさんの待ち受け画面は笑顔の娘の写真)

エリさんにとっては、どれも“地獄”の選択でした。しかし、一貫して大切にしてきたのは、娘の思い、そして将来でした。

エリさんが、被害が発覚した翌日に、ワンストップ支援センターに電話をかけることができたのも、「娘が勇気を出して発してくれたSOSから決して目を背けてはいけない」という、強い思いからでした。さらに、児童養護施設に娘を預けることを選んだのも、娘が今後、長年にわって受け続けるかもしれない精神的な影響を最小限に抑えたいという気持ちからです。「父親からされたことがフラッシュバックしないか」「思春期になって自分がされた行為の意味を知ったとき娘はどうなってしまうのか」ということが何よりも心配だったエリさんは、今しばらくは、性虐待に詳しい専門のカウンセラーが常に目を配ってくれる児童養護施設で暮らしたほうがいいだろうと考えました。

「性被害に遭った子どもに現れる症状がどんなものかを知らず、どう対応すればいいかも分からない人たちと接しながら暮らし続けたら、娘をどんどん傷つけるだけだと思いました。この数か月、数年のことよりも、その後の何十年のことを考えなければなりません。だから、まず、娘の安全を確保して、早いうちから専門の人たちに娘の心のケアをしていただくことが一番大事ではないかと思います。」

一日でも早く 娘と暮らすために…
児童擁護施設に入所する日、エリさんは、娘のお気に入りの服やお箸(はし)セットと、新品の靴下などをそろえて、施設に届けました。そして、「必ず迎えに来ると、娘に伝えてください」と施設のスタッフに伝えました。それが、その時のエリさんにとって、 “母親としてできる唯一のこと” でした。


(エリさんが娘のために準備した靴下)

今、娘の様子については、児童相談所の職員を通じて、たびたび電話で教えてもらっています。

「入所初日は泣いていたそうですが、今では 施設のスタッフのみなさんにかわいがられ、他の子どもたちとも仲良く遊ぶなど、元気でいるようです。ほっとしました。

1日でも早く、安定した収入を得られるようになって、娘と暮らしたいと考えています。1年後を目標にしています。」


“行動”の原動力になったのは・・・
エリさんが、悩みながらも、「娘のことを最優先に考えて」行動することができたのは、性暴力の被害を受けた人の“その後”をわずかながらでも知っていたからだといいます。

きっかけは、『クローズアップ現代+』や『ハートネットTV』などの番組でした。性暴力の被害に遭った女性が「母親に打ち明けたものの受けとめてもらえず、よけいに傷ついた」と話していたこと、また、被害から何十年たってもトラウマに苦しんでいる、といった別の女性の経験談を聞いたエリさん。「自分が何を失ったとしても、娘につらくて悲しい思いだけはさせてはいけない」と考えたといいます。

さらに、「自分の選択は間違っていない」と思い続けることができたのは、ワンストップ支援センターの支援員にかけられた言葉でした。

「身近で性暴力が起きたら、普通は精神的ショックで動けなくなる人が多いんです。でも お母さんは、本当に行動が早かったし、その行動は決して間違っていないです。児童相談所で保護をする方法でしか 娘さんは守ることはできません。あとになって振り返った時に、娘さんはお母さんに必ず“ありがとう”って感謝すると思います。」

“誰の身近でも起きうる”ことを知ってほしい
エリさんは、この3か月の間に起きたことについて、その時々の思いといっしょに、具体的にしっかり語ってくれました。

「自分の娘が性暴力の被害に遭うこと、ましてや家庭内で被害に遭うとは思ってもみませんでした。 以前は “まったく遠い世界のこと”、“他人事” と感じていました。身近で起きた自分の経験を知ってもらうことで、被害者本人や家族がどんな状況に置かれるのか、もし身近に 被害に遭った本人や家族がいたら どんなふうに接したらいいか、考えるきかっけにしてもらえればと思います。」


昨年6月に立ち上げたこの「みんなでプラス 性暴力を考える」には日々、被害に遭った方々や、そのご家族、友人が、勇気と覚悟をもって それぞれの経験や思いを寄せてくださいます。みなさんの「声」を取材して、記事や番組で伝え続ける中で、その「声」が新たに誰かに届き、力になっているということを、エリさんの話を聞いて、私自身、改めて感じました。これからも、性暴力の実態や対策について伝え続けていきます。

みなさんは、家庭内の性暴力について、どう思いますか?
記事への感想や、差し支えなければ ご自身の体験などを、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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2020年3月19日
【性暴力を考えるvol.67】 男性の性被害 全国の相談窓口
以前、「みんなでプラス 性暴力を考える」で男性の性被害の実態について伝えたところ、取材班のもとに「男性が被害に遭ったとき、どこに相談すればいいのか分からない」という声が多く届きました。

性暴力の被害に遭った人たちが安心して相談し 適切な支援を受けられるように、すべての都道府県に「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」が設置されています。男性の性被害の相談にも対応しているのか、各都道府県の担当者に取材したところ、多くのワンストップ支援センターが男性被害者の相談を受け付けていることが分かりました。

(報道局 社会番組部 ディレクター 神津善之)


男性も まず ワンストップ支援センターへ 
行政が関与している「性犯罪・性暴力ワンストップ支援センター」は、すべての都道府県にあわせて49か所(千葉県・愛知県に2か所、その他の都道府県に各1か所)。このうち、41のセンターが、相談者の性別にかかわらず 電話や面接による相談を受け付けていて、被害者が男性でも女性でも、ほぼ同じように支援を行っている、という回答でした。

残りの8つのセンターでは、電話を受け付けた窓口で、個別の状況に応じてさらに詳しく話を聞いたり、別の相談機関の情報を提供したりするなど、支援につながるように対応しているということでした。(※2020年3月現在。)

▼あなたの地域のワンストップ支援センターの情報はこちらです。
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0006/topic038.html

男性からの相談に積極的に取り組むセンターも
「性暴力の被害に遭うのは女性」というイメージが社会に根強い中、男性が被害を相談することには特有の難しさもあります。“性別を問わず対応している”といっても、男性が被害を受けたというと驚かれないだろうか・・・、女性の相談員だと話しづらいのではないか…など、不安を感じる人も多いかもしれません。

「女性には話しづらい…」という相談者に向けて、男性相談員が対応している時間帯を設定したり、男性や性的マイノリティーの人に向けた専門相談ダイヤルを開設したりしている自治体もあります(下記)。

宮城県
性暴力被害相談支援センター宮城 けやきホットライン
<相談受付日時>
・月~金 10:00~20:00
・土 10:00~16:00 ※男性相談員も対応しています。
(祝日、年末年始を除く)

<相談電話番号>
0120-556-460《宮城県内限定のフリーダイヤル》

平成26年のセンター開設時から、土曜日は男性相談員も対応しています。(平日でも男性相談員が対応可能な場合あり。)医療面では、泌尿器科、外科と連携しています。
神奈川県
かながわ性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センター「かならいん」
男性及びLGBTs被害者のための専門相談ダイヤル

<相談受付日時>
毎週火曜 16:00~20:00 ※男性相談員が対応しています。
(祝日、年末年始を除く)

<相談電話番号>
045-548-5666

2019年10月に男性相談員が対応する男性やLGBTsの被害者専門相談ダイヤルが新設されました。

「ワンストップ支援センター」の従来のダイヤルでも、相談者の性別・セクシュアリティにかかわらず受け付けています。(女性相談員が24時間365日対応。)
岐阜県
ぎふ性暴力被害者支援センター
<相談受付日時>
24時間 365日
毎月第2,第4火曜16:00~20:00 ※男性相談員も対応しています。
(祝日は除く)

<相談電話番号>
058-215-8349

<相談メール>
ホームページ内の相談フォームから送信
http://www.onestop-gifu.org/(NHKサイトを離れます)

男性の相談員を希望する場合は、電話に出た女性相談員にその旨を伝えてください。電話をしづらい方は、ホームページ内の相談フォームから相談内容を送ってください。医療面では泌尿器科医との協力態勢が整えられています。


男性にとって、相談しやすい窓口とは?
ワンストップ支援センターの現状を見ると、男性の被害の相談も受け付けているセンターが大半である一方、男性被害者に対する専門的な支援態勢を十分に整えているセンターはまだ多くありません。

各都道府県の担当者に取材をする中で、「男性被害者の支援を専門的に行うことができる態勢をつくるには、予算や人員の確保の面で課題がある」という声や、「支援センターの協力医は産婦人科だけ。泌尿器科や肛門外科の医師などとの連携を検討しているが、まだ目途が立っていない」といった話も聞きました。

また、男性の相談員がいる支援センターでも、女性が相談しやすいように「女性の相談員が対応する」ことを広報していたり、すべてのセクシュアリティの人が相談しやすいように あえて相談員の性別を明示していなかったりと、さまざまな考えのもとに、「男性の相談員がいる」という情報を周知していない場合があることも分かりました。

さらに、取材の中で度々聞いたのが、男性被害者への対応に課題を感じながらも「実際の相談数が少ないため、どのようなニーズがあるのか分からない」という声。被害に遭った男性たちが具体的にどのような対応を必要としているのか、支援する側もはっきり分からずにいるという現状がありました。


今回の取材を通じて「性暴力の被害に遭うのは、性別やセクシュアリティに関係ない」、「男性も被害に遭う」という認識は、支援の現場には広がっているのではないかと感じました。そこから、どのように男性被害者への支援態勢を拡充させていけばいいのか。被害に遭った男性たちの声ひとつひとつに耳を傾けながら議論を進めていくことが、とても重要なのではないかと思います。
※男性の性被害 ほかのトピックはこちら
【Vol.15】 埋もれてきた男性被害
【Vol.28】 セクハラ被害の実態は
【Vol.29】 性的虐待、レイプドラッグ… 寄せられる悲痛な声
【Vol.30】 被害に遭った男性のみなさん そばにいるみなさんへ
【Vol.66】 “男性の性被害” 先入観を持たないで・・

男性が性暴力の被害に遭ったとき、どのような相談・支援の態勢があれば、相談しやすいと思いますか?「こんな窓口があったら話しやすい…」、「こんなふうに対応してもらえたら・・・」など、みなさんの考えや意見を、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
#性暴力#MeToo#Withyou
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2020年3月19日
【性暴力を考えるvol.66】“男性の性被害” 先入観を持たないで
「被害者は女性だけではない、加害者は男性だけではない、ということを多くの人に知ってもらいたいです。 女性を守る!ではなく、被害者を守る!という意識で、性別関係なく、この問題について考える世の中になってほしいと思います。」

「みんなでプラス 性暴力を考える」に寄せられた、男性被害者からのメールです。男性は現在、都内の企業で会社員として働き、ごく普通の生活を送っていますが、小学校3年生のころから 繰り返し痴漢などの性被害に繰り返し遭ってきたといいます。

投稿のきっかけを尋ねると、「“性暴力の被害者は女性だけ”-。そういう先入観が根強い社会に 違和感を覚えたから」という答えが返ってきました。ここ数年、性暴力に関する報道を目にするようになったといっても、“女性が男性から被害を受けた話”ばかり。「それでは、性暴力の問題そのものではなく、“女性 対 男性” の問題として捉えられてしまうのではないか」と感じているといいます。

性暴力は性別を超えた問題であることを多くの人たちに知ってもらえたらと、取材に応じてくれました。

(クロ現+ ディレクター 飛田 陽子)

声をあげづらい 男性被害者

(メールを寄せてくれたショウタさん<仮名>)

メールを寄せてくれた31歳のショウタさんが初めて性被害に遭ったのは、小学校3年生のとき。バス停で、姉と一緒にバスを待っていたときのことでした。隣に並んでいた見知らぬ大人の男性が いきなりショウタさんの耳の穴に指を入れてきたといいます。男性は外国人でした。突然のことにびっくりして動けずにいると、今度はお尻を触ってきました。その状況に気づいていた お姉さんも恐怖でいっぱいに・・・。2人はバスがやって来て 男性が行為をやめるまで、声をあげることも、周囲に助けを求めることもできませんでした。その後も、親に報告するべきことなのかどうかも分からず、結局打ち明けなかったといいます。

その後、ショウタさんは中学、高校、大学時代に、そして社会人になってからも、たびたび痴漢被害に遭いました。しかし、被害の度に 加害者の腕を押し返すなどの抵抗はしましたが、声をあげることは一度もできませんでした。自分のからだを見知らぬ人から触られることに対する恐怖に加えて、自分が男性であることが大きく影響していたといいます。

「世間に根強いのは、“痴漢の被害者=(イコール)女性”というイメージ。駅に貼られている“痴漢撲滅キャンペーン”のポスターの多くが、被害者を女性のイラストで表現していますよね。そんな社会の雰囲気の中では、男性である僕が声をあげても、周りの人たちにはなかなか信じてもらえないだろうなという不安があって…。どうしても、声をあげる勇気が持てませんでした。」


(駅構内に貼られた痴漢撲滅キャンペーン・ポスター)

女性の加害者に “抵抗できない” つらさ
男性であるがゆえに被害を打ち明けられないと感じていたショウタさん。特につらかったのは、女性から痴漢被害を受けたときだったといいます。



どうしても忘れられない女性加害者からの被害が2つあります。1つめは、大学生のとき、終電間際まで卒業研究に取り組んでいた日の帰りの電車でのことでした。立っていると、後ろにやってきた20代後半ぐらいの女性から、突然抱きつかれ、からだ全体をまさぐるように触られたといいます。女性は酔っぱらっていましたが、「酔っているからといって、こんなことをされていいわけがない」と感じたショウタさんは、一瞬 抵抗することを考えます。しかし、「もし、女性に逆上されたりしたら、周りの人たちは、自分のことを“加害者”と思ってしまうのではないか・・・。」そんな恐怖が頭をよぎり、結局、最後まで抵抗できずに、加害行為に耐え続けるしかありませんでした。世間が抱く“痴漢の加害者=男性”というイメージにもショウタさんはさいなまれ、声をあげることができませんでした。

2つめの被害は、社会人になってからでした。電車のドア付近に寄りかかって、両手でスマートフォンを操作していると、正面に立っていた60代くらいの女性が、ショウタさんの着ていたニットの左右の袖口から両手を滑り込ませてきて、さすり始めたといいます。その行為は、ショウタさんが電車を降りる2つ先の駅まで続きました。夕方で乗客の多い時間帯でしたが、誰も助けてくれませんでした。

「たぶん周囲には、家族か 年の離れたカップルに見えて、僕が被害に遭っていることに誰も気づかなかったのだと思います。本当はいやでいやでたまらないのに無抵抗でいるのは、本当につらく 悔しかった。もし、周りが被害だと気づいて、また、僕が女性だったとしたら、誰か助けてくれたのではないだろうか・・・。そう思って、電車を降りてから 泣きました」

軽視されてしまう 男性被害者の思い


当時、さらにショウタさんを精神的に追い込んだのは、痴漢被害に遭ったことを周りに打ち明けたときの反応でした。親しい男友だちの数人のほとんどから、「えー、うらやましい」「(加害者は)若い女性だったんでしょ?いいじゃん」と言われたといいます。自分が被害を受けてどんなにつらい思いをしたか、なかなか理解してもらえませんでした。

その後、痴漢被害だけでなく、職場の年上の女性からセクハラ被害にも遭いました。その時も、やはり苦しみの深さを周りには分かってもらえませんでした。被害そのものや、その場で声をあげられないことの苦悩を真正面から受けとめてもらうことができず、繰り返し ひどく傷ついたショウタさん。その後、精神科を受診し、「適応障害」と診断されるほどに追いつめられました。医療機関に頼るだけでなく、自分の苦しみを理解してくれるような相談窓口を探しましたが、なかなか見つけられなかったといいます。

「性暴力被害の相談を受けつけているような窓口でも、ほとんどは、女性被害者が対象。男性の相談を受けつけているところがあっても、自分で調べた限り、対応は『平日昼間の数時間だけ』という状況でした。僕のようにフルタイムで働いている男性にとっては、とても十分な支援態勢とは思えません。男性被害者の存在が脇に置かれているように感じて、息苦しかったです。」

※男性の性被害の相談窓口については、vol.67を参照ください。

“どうか、先入観を持たないで”

(「被害に遭うのも 加害者に疑われるのも怖いため 電車は “気を張る空間”」というショウタさん)

ショウタさんは、男性の性被害について ひとりでも多くの人に知ってもらいたいと、5年前、思い切った行動に出ます。転職した今の会社で最終面接を受けたときのこと。社長から「あなたが熱く語りたいことを語ってください」と言われ、ふと 心にため続けてきた思いが湧き上がってきたといいます。そして、一つの質問を社長たちに投げかけました。

「突然ですが、クイズです。痴漢・プロポーズ・セクハラ・ナンパ。これらに共通することは何でしょう?」

正解は、「“男性が行う”と思われているもの」。いずれも単語そのものには男性の意味合いは含まれていませんが、 “男性の行為”として連想されるものです。もし女性が同じことを行った場合には、「逆プロポーズ」 「逆ナン」のように、単語の頭に「逆」をつけて表現されることがあります。

ショウタさんは面接で、自ら作った この“クイズ”をきっかけにして、自分が小さいころから繰り返し性被害に遭ってきたことや、世間が思い描く”被害者像“や”加害者像“とのギャップに苦しみ、口を閉ざし続けてこなければならなかった生きづらさについて 一気に語りました。男性でも性被害に遭うこと、男性被害者ゆえの苦悩があることを、正しく知ってもらいたい、という強い願いからでした。

社長は、クイズの答えに対して、「そうか、なるほどね!」と応え、ショウタさんの気持ちも受けとめてくれたといいます。

「もし、性被害の話題を見聞きしたら、 “先入観”がじゃまをしていないか、少しでも意識してほしいと思います。被害者が女性であれ、男性であれ、 “傷ついた人に寄り添う”という気持ちを軸に持ってほしいです。」

ショウタさんは私と同世代。同じ時代に同じくらいの年数を生きていても、ショウタさんは、私はほとんど言われたことのない言葉をかけられながら育ってきたことが分かりました。

それは「女性には、優しくしなさい」という言葉です。女性の私は、そのフレーズにこれまで違和感を覚えたことは一度もありませんでした。でも、男性の身で頻繁に性被害に遭っているショウタさんにとって、この言葉の裏には「男性には、優しくしなくてもよい」、「男性よりも女性に、優しくしなさい」という意味が隠れているように感じられるだけでなく、自分のつらさをも埋もれさせてしまうように聞こえる言葉だといいます。

性暴力を許さない社会を作るためには、傷つけられた人の目線で、語られた言葉をありのまま“信じる”ことが必要不可欠だと、改めて思います。また、自分の発する言葉に“無意識の先入観”が含まれていないか、その言葉によって ほかの誰かの口を閉ざさせてしまっていないか、何度も繰り返し省みなければならないと感じました。

※男性の性被害 ほかのトピックはこちら
【Vol.15】 埋もれてきた男性被害
【Vol.28】 セクハラ被害の実態は
【Vol.29】 性的虐待、レイプドラッグ… 寄せられる悲痛な声
【Vol.30】 被害に遭った男性のみなさん そばにいるみなさんへ
【Vol.67】 男性の性被害 全国の相談窓口

男性の性被害について、また、世間に根強い“被害者=女性”“加害者=男性”のイメージについて、みなさんはどう考えますか?
あなたの思いや意見を、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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2020年3月13日
【性暴力を考えるvol.65】小児性犯罪と児童ポルノの闇
「児童ポルノは加害の引き金になる。」
去年11月に出版された「『小児性愛』という病―それは、愛ではない」(ブックマン社)からの言葉です。

この本は、1月23日に放送した『クローズアップ現代+ データが浮き彫りに!知られざる痴漢被害の実態』のスタジオ出演者の1人で、長年、性加害者の再犯防止プログラムに携わる斉藤章佳さん(40)の著書です。子どもへの性加害を行う「小児性犯罪者」150人以上が語った言葉などから、彼らの実像を明らかにしています。数々の性犯罪者を診てきた斉藤さんからしても、小児性犯罪者の更生の難しさは、“別格”といいます。

新型コロナウイルスの影響による臨時休校で、子どもの安全が問われている今、斉藤さんの著書とインタビューを通して、小児性犯罪と児童ポルノの闇について考えます。

(さいたま放送局 記者 信藤敦子)

※この記事は、小児性犯罪の実態や加害者の心理について詳しく触れています。被害をイメージした画像やイラストもあります。フラッシュバックなどの症状のある方はご留意ください。

治療につながるまで14年

(斉藤章佳さんの著書)

著書のベースになっているのは、斉藤さんの勤務する榎本クリニック(東京都豊島区)で、去年5月までの13年間で受診し「小児性愛障害」と診断された小児性犯罪者117人のデータです。出版社によると、子どもを対象とした性的嗜好(しこう)のある「小児性犯罪者」について、これだけの規模でデータがまとめられた本は、ほとんどないということです。

117人のうち、初診時の年齢は30代が最も多く、34%を占めます。次いで20代が25%、40代が24%と、20~40代が8割を超えています。最少年齢は17歳、最高年齢は62歳ということですが、これはあくまで初診時の年齢であって、初めて子どもに加害行為をした年齢ではありません。



斉藤さんの調べでは、さまざまな性加害者が問題行動を始めてから治療につながるまでの期間の平均は、盗撮は7.2年、痴漢は8年でしたが、小児性犯罪では14年と、大幅に跳ね上がります。その原因を斉藤さんは、「被害に遭った子ども自身が何をされたか自覚しづらいため、問題行為が周囲に発覚しにくいからではないか」と指摘しています。

児童ポルノが引き金に
本の中で衝撃を受けたのは、冒頭でも紹介した「児童ポルノは加害の引き金になる」という一節です。榎本クリニックで診断された、子どもへの性加害経験のある患者の95%以上が、子どものわいせつな写真や動画のみならず、マンガやアニメなども含め、なんらかの児童ポルノを自慰行為に使用したことがあるそうです。

また、斉藤さんがクリニックで「小児性愛障害」と診断がついた小児性犯罪者は、「児童ポルノが加害行為の引き金になったか」という問いに対し、80%以上が「引き金になった」と答えています。



本の末巻の対談で登場するケンタロウさん(仮名・50代)は、大学生の時、成人男性が思春期前の少年に性虐待を行う内容のコミックを、書店の成人雑誌コーナーで初めて見て、「これだ!」と体中に電撃のようなものが走ったといいます。

「これが自分の求めていたものだ、自分はこのために生きるんだ!というのが一瞬にしてわかったという感じです。いまでも一番ときめくのは、思春期前、小学6年生くらいの男の子です。」(「『小児性愛』という病―それは、愛ではない」より)

ケンタロウさんはその後、2000年に強制わいせつ未遂で逮捕・起訴されるまで、複数の男児への性加害行為を繰り返していたそうです。

“児童ポルノ天国”の日本

(斉藤章佳さん/精神保健福祉士・社会福祉士)

実際に児童ポルノの影響で、子どもたちへの加害行為に及ぶか及ばないかの差はあるということですが、重要なことは小児性犯罪者に限らず、多くの性加害者の中に「児童ポルノが、自分の性嗜好(しこう)に気づくきっかけになった」という人が、決して少なくないということだそうです。しかも、彼らにとっては実物の写真や動画だろうと、アニメやマンガだろうと、区別はないといいます。また、児童ポルノが自らの性嗜好(しこう)を正当化する言い訳にもなっていたと答えています。

一方、恐ろしいことに、性加害者の中には「児童ポルノは加害行為の抑制になる」と考えている人が少なくないそうです。斉藤さんは本の中で、加害者たちの実際の発言を紹介しています。

▼「児童ポルノがあるから、現実の子どもに行かなくてすんでいるんだ。なければ、子どもへの性犯罪はもっと増えているはずだよ。」
▼「現実とファンタジーの区別はついている。児童ポルノを愛好しているからといって、実際の子どもを襲うことはない。」
▼「現実の子どもには害がないのだから。全く問題がないよね。」


斉藤さんに言わせると、日本は“児童ポルノ天国”だといいます。日本の今の法律では、子どもを性的な対象として描いていても、マンガやアニメなどの“二次元”の創作物であれば、処罰には当たりません。むしろ市場には氾濫しています。こうした状態こそが “天国”として、欧米諸国から奇異の目で見られているゆえんでもあります。この問題に関して、「表現の自由」を訴える人も多く存在しますが、斉藤さんは苦言を呈します。

「児童ポルノが性加害の引き金になっている実態がある中で、子どもを性的な対象として描いている創作物が、“守られるべき表現の自由”に果たして値するのでしょうか。」

児童ポルノが加害行為の抑制になるわけではなく、むしろパンドラの箱を開いているといえます。児童ポルノを通して、彼らは『子どもは性的な存在である』というメッセージを受け取り、学習し、加害行為とともに認知をゆがめていくのです。たとえ1例でも加害行為につながり、1人でも被害者が出ているのであれば、児童ポルノの罰則や規制についてもっと真剣に議論するべきです。」

小児性犯罪者の半数以上は いじめを経験
斉藤さんは本の中でもう一つ、興味深いデータを紹介しています。小児性犯罪者117人に学生時代のいじめ被害について聞いたところ、半数以上の54%が「ある」と答えたといいます。



斉藤さんは、小児性犯罪者特有の傾向だと指摘します。

「多くが学校内でかなり激しいレベルのいじめに遭っていました。これは痴漢や盗撮、強姦など他の性犯罪の加害者にはなかった傾向です。」

中には、同性間の性的ないじめを受けた被害者もいて、女子生徒の前でズボンを脱がされたり、同級生の前で自慰行為を強要されたり、性器をもてあそばれるなどして、不登校になった人もいるそうです。

「恨みの感情が、自分より弱い者を虐げたいという欲求に変換されることがある。いじめの被害経験者が、小児性犯罪者につながる理由の1つになっているのではないか。」

こうしたことを受け、斉藤さんは、教育現場との連携に力を入れていきたいとしています。

「いじめが起きた際に、なるべく早い段階で発見し、被害者を適切にケアすることで、子どもたちを未来の加害者にしないための教育ができる可能性があります。また、加害者の早期発見・早期介入も重要な課題です。」

0歳から12歳の男児被害も


斉藤さんは、小児性犯罪の被害者に関する重要なデータも提示しています。前述のケンタロウさんのように、男児を加害対象にしている小児性犯罪者は相当数いるという事実です。

「大型商業施設では、男子トイレの個室にスマホのゲームなどでおびき寄せて連れ込み、巧妙にパンツを脱がせて写真を撮ったり、性器を触らせたり触ったり。中には、口淫(こういん・口を使って性器を刺激)させるケースもあります。本命は女の子ですが、女の子は日ごろから注意喚起されていて声をあげられるリスクが高いため、あえて男の子を狙っているという人もいます。男の子の方が被害に遭うことについて周りも認識していないし、本人も警戒していないので、被害自体が明るみになりにくく埋もれやすい傾向があります。」

斉藤さんの診てきた小児性犯罪者の中には、「男の子の方がかわいい」という人もいるそうです。男の子の方が無邪気で素直だからという理由のようです。

本の中には、強制わいせつの被害者数の20年間(平成7年~26年) の推移が、性別および年齢層別にグラフで示されています(「法務省商務総合研究部報告55(※NHKサイトを離れます)『法務省:性犯罪に関する総合的研究 より 性犯罪の動向』(P.14 2-1-13図)」引用)。それを見てもわかるように、強制わいせつの被害に遭った男の子は、0歳から12歳までが ほとんど半数以上を占めています。 

「身体がまだ小さいうえに体力もないため加害行為をしやすいというのは もちろんあるでしょうが、女児でも男児でもどちらでもいいという理由で被害に遭うのは、第二次性徴(思春期に性ホルモンが増えやすくなるなどの体の発達)が始まる前のこの年代だけでしょう。」

これはぜひ男の子の保護者の方々に広く知っておいてほしい事実です。

休校期間は 子どもたちが狙われるリスクが高い…
斉藤さんは、最近、小児性愛障害の治療グループで、幼い子どもが行方不明になった事件をテーマにとりあげて話したとき、大きな衝撃を受けたそうです。心を痛めるニュースだったにも関わらず、みな一様に『興奮した』と言ったというのです。

「彼らにとっては、被害に遭った子どもの痛みを想像するよりも、自分の性的ファンタジーを想起する対象だったということでしょう。」

また、先日のセッションでも、小児性愛障害の一人が「コロナの時期は危ないよね」とつぶやいたら、周りのみんなもすごい勢いでうなずいていたと言います。

「確かにそうですよね。この休校期間、保護者は子どもたちを家に置いておくことはできずに 公園などで遊ばせておくはずです。子どもたちも いつもはいない時間帯に地域のいたるところにいます。一方、加害者もテレワークなどで自宅にいて、自由が利く時間が多い。

つまり、あまり考えたくはないですが、今こそ、小児性愛障害の人たちが加害行為に及ぶリスクが高まる期間であると想像できます。」

※休校中、子どもを守るために、親や周りの大人はどんなことに気をつければいいのか。「心構えのポイント」については「Vol.62 今こそ考えたい 子どもたちと性暴力」を参照ください。

取材を通して、小児性犯罪者のあまりにひどい認知の歪みに戦慄を覚えると同時に、子育てをする一人の親として、こういう加害者から子どもを守るために何が出来るのだろうと考え込んでしまいました。

みなさんは、子どもを対象にした性犯罪について、どう思いますか?
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2020年3月13日
【性暴力を考えるvol.64】逆転有罪判決 声 あげ続けてきた人は・・・
「被害者の心理に基づいた正しい判決。どうして1審でこの判決が出なかったか、問題にしていきたい。」
(被害者団体代表 山本潤さん)

「被害を受けた彼女に、“よく頑張ったね”と言いたい。同じような被害を受けた人を勇気づける裁判だった。」
(名古屋フラワーデモ呼びかけ人 具ゆりさん)

愛知県で実の娘に性的暴行をした罪に問われた父親が無罪とされた裁判の2審の判決。名古屋高等裁判所は、1審とは逆に有罪と判断し、父親に懲役10年を言い渡しました。

昨年3月、「娘は抵抗できない状態(抗拒不能)ではなかった」として下された1審の無罪判決は、社会に大きな衝撃を与え、性暴力に抗議する「フラワーデモ」のきっかけにもなりました。

きのう、判決の前から、裁判所の前には花を手にした人々が集まりました。東京から駆けつけたフラワーデモの呼びかけ人で作家の北原みのりさん、被害者団体代表の山本潤さん、無罪判決に抗議の声をあげ続けてきた人たち・・・。ひとりひとり どのような思いで、この日を迎え、判決を受けとめたのか、話を聞きました。

(クロ現+ ディレクター 飛田 陽子)


“感じない”ようにしていた 無罪判決への絶望

(名古屋高等裁判所前)

3月12日 午後2時。名古屋高等裁判所の前には、平日にも関わらず、被害者や支援者およそ30人が集まりました。赤ちゃんを抱っこしたお母さんや 家族連れの姿もありました。

性暴力被害者団体の代表・山本潤さんは、「#MeToo #WithYou」と書かれたプラカードを手に震える声で語り始めました。

「よく 記者さんたちから、『1審の無罪判決をどう思いましたか?』と聞かれます。きょうこの場に立って初めて思うのですが…絶望していました。でもそのことを、感じないようにしていたんだと思います。」

「きょう初めて絶望を感じた」という言葉が重たく響きました。自身も実父から性暴力を受けた経験をもつ山本さんにとって、1審の無罪判決は “他人ごと”ではありませんでした。“つらいと感じないように”しなければ自分を保てなくなってしまうほど、山本さんの心を苦しめていたのです。


(被害者団体代表 山本潤さん)

山本さんは、隣で一緒に涙を浮かべる北原さんやフラワーデモ運営メンバーの皆さんを見つめて、こう付け加えました。

「でも、今この場には、フラワーデモの皆さんが集まってくださって、傷ついた気持ちを聞いてくださる方がいる。だから、(1審の無罪判決に絶望したという)気持ちを感じられるようになったのだと思っています。」

相次ぐ性暴力の無罪判決に抗議の声をあげるために立ち上がり、全国47都道府県に広がったフラワーデモ。痛みの声に耳を傾け、「あなたの気持ちに寄り添う」という心は、この日、裁判所の前にも しっかりと息づいていました。スピーチが終わると、山本さんや北原さんらは裁判の傍聴へ。私は外で、みなさんが笑顔で帰ってくることを祈りながら、ほかのスタンディング参者の方々と一緒に判決が出るのを待ちました。

響く 安堵(あんど)と希望の声

(判決を待つ人々と報道陣)

それから1時間後。「逆転有罪」の一報が、その場に響き渡りました。

“よかったよかった!” “やったー!” “これを当たり前にしよう!”
あちこちで交わされる喜びの声。押し寄せた報道陣のなかにも、安堵(あんど)の表情を浮かべながら、ペンを走らせている人たちがいました。

ほどなくして、裁判所から出てきた山本さんや北原さんたち。春の日ざしに照らされて、その表情はとても晴れやかでした。


(名古屋高等裁判所)

2審では、「被害者の娘が中学2年生の頃から、意に反して 父親から性行為を繰り返し受けてきたことや、経済的な負い目を感じていたことを踏まえれば、抵抗できない状態だったことは優に認められる」と判断されました。

そして、1審の無罪判決について、「有罪の要件である『抵抗できない状態(抗拒不能)』について、被害者の人格を完全に支配するような状態まで求めていて、要件を正当に解釈しなかった結果、誤った結論になっている」と全面的に覆しました。

この判決について、北原さんは「性暴力とはどういうことか、被害者から見える世界はどんなものなのか、理解している判決だった」と報道陣に語りました。

北原さんから、メッセージをいただきました。



判決のあと、山本潤さんは、報道陣からの「これから何を求めるか」という問いに、こう答えました。

「加害者が望んでいるのは 誰も何も言わないことです。だから、ひとりひとりが、何でもいいから、性暴力や無罪判決に関して思ったことを発信してほしいと思います。それが性暴力を許さない社会を作っていける唯一の道だと思っています。」


(フラワーデモ呼びかけ人のみなさんと 山本潤さん<左から2人目>)

”その日” がくることを信じて
昨年、フラワーデモが始まったころ、北原さんやデモに関わる人々は、一部の弁護士などから「法を知らないやつらの感情的な抗議だ」と批判されるなど、誹謗(ひぼう)中傷にさらされていました。それでも声を上げ続けてきた皆さんの思いが無駄にならない判決が出て、ほっとしています。この判決によって、被害に遭った女性の苦しみに少しでも光がさすことを願っています。

色とりどりの花をあしらった「勝訴」の紙を手にした皆さんを見て、わたしは、「今日は、これまで無罪判決に抗議の声を上げ続けたすべての人のための日だ」と感じました。“これは おかしい“と声をあげてきた人たちの熱意と連帯がなければ、きょうの結果は違っていたかもしれません。

各地でフラワーデモを呼びかけ、運営してきた人たち。緊張しながらフラワーデモへ足を運んだ人たち。SNSを通じて 応援と共感の声を寄せた人たち。全員で目指してきた“この日”が、やっと訪れました。

しかし、この判決は決して“ゴール”ではありません。どこかで性暴力が起きた時、加害者の責任を正しく問うことができる社会を作らなくてはなりません。

“相手とどんな関係性であったとしても、あなたが望まない性的な言動はすべて性暴力。” 

それが当たり前になる、“その日” がくることを信じて、これからも 皆さんと一緒に歩み、発信し続けます。

※ニュース記事はこちら
※クローズアップ現代+「性暴力 無罪判決の波紋」(2019年5月16日)の内容はこちら


逆転有罪判決について、みなさんはどう感じましたか?思いや意見を聞かせてください。下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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2020年3月11日
【性暴力を考えるvol.63】フラワーデモを取材して
性暴力の根絶を訴える「フラワーデモ」。去年3月、性暴力をめぐる裁判で無罪判決が相次いだことをきっかけに、翌4月に東京と大阪で始まり、その後、各地に広がっています。

3月8日(日)、国連が定める「国際女性デー」にあわせて予定されていた全国一斉開催は、新型コロナウイルスの影響で中止になったものの、38の都道府県の47か所で開かれ、一部はインターネットで中継されました。

各地のフラワーデモを取材したディレクターたちが、現場で感じたことを お伝えします。


・東京 “社会を変えることのできる連帯”
・長野 “地方の声” を届けたい
・名古屋  “あきらめてこなかったか” 問い直すきっかけに
・福岡 “男性の僕” が取材する理由
・沖縄 “もう黙らない” 確信に満ちた声


東京 “社会を変えることのできる連帯”

(クロ現+ ディレクター 飛田陽子)



(東京駅前にて フラワーデモ呼びかけ人の北原みのりさん<中央・左>、松尾亜紀子さん<中央・右>、支援団体代表や地方各地のフラワーデモ呼びかけ人の方々)

東京では初めて、インターネットで配信する“オンラインデモ”が行われました。デモの会場で“話す人”とネットを通じて“見る人・聞く人”の間に物理的な距離が生じる中、いつもの雰囲気と少し変わるだろうか…。気にしていましたが、始まってみれば、いつもと同じように、性暴力に対して「NO」を突きつけながら、“被害に遭った人に寄り添う”志を共有する、力強いフラワーデモでした。

配信・中継会場になった東京駅前に集まったのは、報道陣を含めて100人足らず。いつもよりも少なめでしたが、ネット配信を通じて5000人以上の人が参加したそうです。1年近くにわたって みなさんがフラワーデモを通じて訴え続けてきた“性暴力を撲滅する”という強い意思は、デモの形が変わっても、まったく揺らぎませんでした。それだけ 多くの人々が「性暴力をとりまく現状を変えたい」一心で連帯しているのだと実感しました。この連帯は、これまで さまざまな やりかたで性暴力と闘い続けてきた すべての人たちの成果であり、社会を変える可能性をもった、大きな力だと思います。

私は、紡がれた数々の声を“伝える側”の立場ですが、声をあげる みなさんを心から尊敬し、感謝しています。フラワーデモを取材するようになってから、私自身にも大きな変化がありました。これまで、受け入れがたいことが自分の身に起きたとき、「黙って その場をやり過ごすことが賢い生き方だ」と言われ、実際、そのように行動したこともありました。でも、みなさんの声を聞くにつれ、それは間違いだったと気づきました。「いやなことは、いや」「おかしいと思うことは、おかしい」。何度もフラワーデモに通ってやっと、そう思えるようになりました。

一方で、まだまだ、心の声を押し殺し ひとりきりで苦しみを抱え続けている人がいます。必死の思いであげた声をかき消され、取り残されてしまう人がたくさんいます。そうした方々をひとりにしないために、何ができるのか。性暴力のない社会を、どう作っていくのか。これからも、皆さんと一緒に考えていきたいです。

※東京のフラワーデモのニュース記事はこちら


長野 “地方の声” を届けたい

(長野放送局 ディレクター 小田 翔子)



(長野駅前にて 長野フラワーデモ呼びかけ人の水野美穂さん<後列・左から4人目>)

新型ウイルスの影響が広がる中、長野では、発起人の水野美穂さん(53)が、「たとえ誰も来なくても一人で立とう!」と通常通りの開催を決定。マスクを付けるなど感染予防を徹底した上での参加を呼びかけました。当日の夜、会場のJR長野駅前に12人が集まり、黙って立ち続ける “サイレント・スタンディングデモ”を行いました。

長野のフラワーデモは、去年6月、「長野でも行動を起こしたい」と、自ら痴漢の被害に遭った経験を持つ水野さんが たった一人で長野駅前に立ったのが始まりです。その後 回を重ねるごとに人数が増え、多いときには20人が集まるように。11月には参加者の1人が松本市でもデモを始めるなど、その輪はじわじわと広がりました。

取材する度に、参加者が口をそろえて話してくれたのは、「長野には特有の事情、土地柄がある」ということです。例えば、法事などの集まりで、男性がお酒を飲んで楽しんでいる裏で 女性たちは食事の用意に追われるなど、日常での男女の役割分担が硬直化していると言います。しかも、コミュニティが狭く、閉鎖的で、そもそも被害を訴えにくいし、そうした状況を変えていこうという意見すら口に出しにくい雰囲気があるというのです。「フラワーデモ」は東京や大阪など大都会の話だと思っていた人も多く、長野でデモが行われた当初は、「よくやってくれた」といった歓迎の声が聞かれました。

人通りの多い日曜夜の長野駅前。買い物帰りの人々やこれから飲み屋に繰り出そうという人々が、フラワーデモを横目で見ては、通り過ぎていきました。「ちらっとでも見たら、こういう動きが長野でも起きていることを知ってもらえるから。」と、水野さんは言います。「今すぐに変えるのは難しいと思う。でも、気づいてもらわないと変わらないから、声をあげることを やめない。知ってもらうことが第一歩」と、穏やかな表情ながら、強い決意に満ちた姿が印象的でした。水野さんたちの声がもっと広く届くまで取材を続け、この声を発信し続けたいと思います。


名古屋  “あきらめてこなかったか” 問い直すきっかけに

(名古屋放送局 ディレクター 朝隈芽生)


名古屋は朝からの雨が降りやみ、穏やかな気候のなか行われました。デモは30分間と通常より短縮された時間ではありましたが、集まった人たちは およそ130人。報道陣も10社近くが集まり、これまでに増して注目が集まるなか開催されました。

名古屋のフラワーデモが始まって1年間、参加者の間で一貫して共有されていたのは、同じ愛知県内で去年3月、実父から性的虐待を受けながら無罪判決が出た裁判への「怒り」です。この日、スピーチの場に立ったのも、実父から性虐待を受けた経験を持つ29歳の女性。無罪判決に触れたときに感じた怒りやショック、そして「加害者も被害者も生み出さない社会になってほしい」との願いを語りました。

さらにこの日、小学生の時に顔見知りの男性から被害を受けたという中学1年生の女性もスピーチを行いました。彼女が懸命に紡ぐ言葉にうなずきながら真剣に耳を傾け、温かい拍手を送る人々の様子は、加害者や社会への「怒り」を明確に表していながら、同時にとても優しい空間でした。


(名古屋市の久屋大通公園にて デモの最後に行われた”スタンディング”)

フラワーデモを取材者として見つめてみて気づかされたのは、「性被害を受けた人は か弱い人」「性暴力に対して怒ることができるのは身も心もタフな女性」など、私たちは知らず知らずの間に性暴力被害に遭った人々を固定化されたイメージに当てはめ、そこに当てはまらない人たちの声を聞くことをおろそかにしてこなかったか、ということです。そして私自身も、そのイメージに自分を当てはめることで、性暴力について語ることをあきらめてこなかったか、問い直すきっかけになったと強く感じています。

フラワーデモが示した性暴力への新しい「怒り」の表明の仕方は、性暴力被害に遭った人に一人で闘うことを強いてきたこれまでの社会を変えるきっかけになりました。その場所に立ち会えた経験を忘れずに、これからも性暴力のない社会のために何ができるか、考えていきたいと思います。

※名古屋のフラワーデモのニュース記事はこちら


福岡 “男性の僕” が取材する理由

(福岡放送局 ディレクター 山本諒)



(小倉駅前にて 福岡フラワーデモ呼びかけ人の黒瀬まり子さん<前列・右から2人目>)

新型ウイルスの影響が広がる中、福岡では、マイクなどを使っての抗議を行わず、プラカードを掲げて意思を表現する “サイレント・スタンディング”の形で行われた。

僕が性暴力のテーマに関心を持ったのは昨年。ニュースで報じられていた、SNSで知り合った男性についていく少女たちが気になり 番組を制作した時、その問題の根底に、親や知り合った男性からの性暴力があり、見過ごせない問題だと感じた。しかも、そうした性暴力を被害者は明るみにできず、表に出しても「みずから見知らぬ男性と会った少女にも落ち度があるのでは」と“自業自得”と批判される風潮に違和感を抱いた。

3月8日、僕はフラワーデモを初めて取材した。ニュースなどで存在は知っていたが、“男性性”を理由にこれまで足を運んでこなかった。上記の番組を制作した時、同僚から質問された言葉がひっかかっていたのだ。「どうして男なのに“女性の問題”を取材するの?」その質問に違和感を抱きながらも、はっきりと答えられなかったのは、「同性の取材者の方が、被害者は共感や安心できるのでは」と心のどこかで思っていたからだ。

「性暴力は男性/女性の問題ではない。社会全体の問題として一緒に考えましょう」。後押ししてくれたのは、主催者の1人、黒瀬まり子さんの言葉だった。今の社会に違和感を抱く一人の人間として取材しようと思った。

今回、たまたま通りかかり、デモに参加したという女子大生から「直接的な被害経験はないが、飲み会で男の先輩にお酌をしてほしいと頼まれ、いまだにこんなことが行われていることにうんざりした」という話を聞いた。そういった現場に遭遇したことがあるし、見て見ぬふりをしていたことに気がついた。

性暴力のタネはごく身近にあり、誰もが関与している問題。男性だからと取材をためらっていたことを恥じ、これからも違和感に愚直に反応し、取材を続けようと思う。


沖縄 “もう黙らない” 確信に満ちた声

(沖縄放送局 ディレクター 二階堂はるか)



(那覇市の県民広場にて)

沖縄のフラワーデモは、去年8月に那覇市で始まり、8回目を迎えた。今回は、那覇市以外にも、沖縄本島北部や南部などの市町村も加わり、合わせて4か所で開催され、約250人が参加した。「初回のフラワーデモとは全然違う」と思った。

初回は、参加者の中に「言ってもいいのだろうか・・・」といった迷いや不安、緊張があったように感じられ、恐る恐るといった面持ちで、下を向く人たちが多かったようにみえた。だが、今回のフラワーデモは違った。参加者たち一人一人の声が力強かったのだ。「私たちが声をあげることは間違っていない」と、確信に満ちた表情や言葉で溢れていたように感じた。「もう一人じゃない」「もう黙らない」。そういう確信した力強さが、確かにあったのだ。

前に立つ人の話を何度もうなずきながら聞く人たち、まっすぐな まなざしを向けて話を聞く人たち。語られる言葉も、被害内容だけでなく「次の世代にこれ以上、同じようなことを引き継ぎたくない」「一つ一つの積み重ねが社会を変える」といった未来へ向けた決意の言葉が多かった。

沖縄のフラワーデモは今回で一区切りとなる。残念ながら この社会には、まだまだ性暴力への無理解や批判がある。そうした言動に、私自身これから先も傷つくこともあると思う。しかし、フラワーデモの場で、自分と同じ考えを持つ人たちに出会った。一人じゃないと思えた。寄り添ってくれる人がいると感じた。一人一人の声でも、それが積み重なり 社会を変えることができるかもしれないという希望も持てた。きっともう大丈夫。そしてもう黙らない。

この社会は、少しずつだけれども、上がった声を聞く力を持ち始めていると私は信じたい。夜8時。フラワーデモが終わった会場は、話し足りない人たちでしばらく にぎわっていた。曇りの予報だった那覇だが、空は雲ひとつなく、満月が見えた。



「性暴力を許さない」と声をあげる人たちから、私たちは多くのことを教えていただいています。性暴力のない社会をつくるために、被害に遭った方々の思いに寄り添いながら、何を考え、どう行動するべきか? これからも取材を続け、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。

あなたの声を聞かせてください。「フラワーデモ」や この記事の感想・ご意見などを、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
#性暴力#MeToo#Withyou
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2020年3月9日
【性暴力を考えるvol.62】いまこそ考えたい 子どもたちと性暴力
新型コロナウイルス感染予防のために、全国規模で学校を休みにする措置が世界で広がっています。ユネスコ=国連教育科学文化機関によれば、学校に通えなくなっている子どもや若者は2億9050万人。これに関してユネスコは、休校によって学びの機会が失われるだけでなく、自宅で1人で過ごすことで子どもたちが危険にさらされるリスクが高まると指摘しています。

休校中、親、そして周りの大人は、どんなことに気をつければいいのか? 性暴力など犯罪の被害者の心のケアにあたっている公認心理士・臨床心理士の齋藤 梓(あずさ)さんに、家庭での心構えのポイントを聞きました。

(クロ現+ ディレクター 飛田陽子 さいたま放送局 記者 信籐敦子)


“大人に余裕がない状態”は危ない

(齋藤梓さん 目白大学 人間学部心理カウンセリング学科 専任講師。公益社団法人被害者支援都民センターで殺人や性暴力被害等の犯罪被害者、遺族の精神的ケア、トラウマ焦点化認知行動療法に取り組む。法務省「性犯罪の罰則に関する検討会」2014~15年に参加。)

Q: 休校が続くなか、親や周りの大人たちは、どのようなことに気をつけたらいいでしょうか?

齋藤さん

まず、知っておいてほしいことは、“子どもが家に一人でいる”ということが知られることは、性別にかかわらず、性犯罪を含め さまざまな犯罪に巻き込まれるリスクにつながる、ということです。

スマートフォンやインターネットに触れる時間が長くなり、さまざまな情報に触れたり、知らない人とつながったりしてしまう可能性もあります。また、加害者は見知らぬ人だけではなく、見知った人、例えば近所の人が加害者になることも多いです。そのため、次のようなことは有効と思います。

  • 予定のない誰かが訪ねてきたり、家族以外から電話がかかってきたりしても、出ないように伝える。
  • 何かあった時には、すぐに連絡を取ることができる大人の(できれば複数の)連絡先を伝えておく。
  • 110番の使い方を相談しておく。
  • 近所の交番の位置を一緒に確かめておく。
  • スマートフォンの使い方やインターネットを使うときの注意を再確認しておく。

また、保護者の方の中には、今回のことで 感染症の不安を抱えるだけではなく、臨機応変な対応を迫られたり、職場での働き方が変わったり、暮らしに影響を受け、心に余裕がなくなっている人は少なくないと思います。こうした“大人に余裕のない状態”は、要注意です。

ただでさえ、性被害に遭った子どもたちは、家族に被害を打ち明けづらいということがほとんどです。社会に不安が蔓延しているとき、大人に余裕がなくなっているときには、子どもたちは いっそう「親も大変そうだから がまんしなきゃ」「こんな時に、言えない」と口をつぐんでしまいます

また、子どもたちの中には、家庭内で親などから性虐待を受けている子もいます。ただでさえ社会から、虐待されている実態が見つかりにくいのに、学校や教育関連の施設の閉鎖が長引いて 家族以外の大人と接する機会が減ることで、実態がさらに見えにくくなってしまうことを懸念しています。


子どもたちを守るためにできること


Q: 子どもたちを守るために、親、あるいは 周りの大人たちは 何ができますか?

齋藤さん

大人か子どもかにかかわらず、性暴力は人に相談することが難しいという現状があります。“被害に遭ったことを自分だけで抱え込まなければならない状況が続くこと”は、その後の回復を妨げてしまいます。社会全体が慌ただしい こういう時だからこそ、お子さんや近くの子どもさんに「もし困ったり、悩んだりしていることがあったら、なんでも言ってね。どんなに忙しい時でも、必ずあなたの話を聞くよ」と伝えてあげてほしいと思います。

もし、お子さんが性暴力などに巻き込まれてしまった場合、親御さんも周りの大人もショックを受けます。そのため、保護者の方を含め 周りの大人も、一人で抱え込まずに、性被害について専門的な知識を持っている支援センターやカウンセラーにご相談いただくと良い(※)と思います。

※あなたの地域にある性暴力被害の相談窓口「ワンストップ支援センター」については、こちらを参照ください。被害に遭った方だけでなく、身近な人からの相談も受け付けています。


内閣府の調査(2018年)では、無理やりに性交などされた人の約6割が、「誰にも相談していない」と答えています。このような時だからこそ、子どもが“話したい”と言ってきてくれたときに、その言葉にしっかり耳を傾けることができるよう、子どもと会話する時間をつくることも大切と思います。

子どもを性暴力から守るために何が必要、大切だと思いますが?
みなさんの考えや思い、悩みなどを、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
#性暴力#MeToo#Withyou
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2020年3月6日
【性暴力を考えるvol.61】3/8(日)は“オンライン”フラワーデモ
今週8日(日)は、国連が定める「国際女性デー」です。世界各地で、女性が達成してきた成果を認識し、さらなる権利の向上や社会参加を盛り立てていくための行事や催しが開かれます。

日本では この日、性暴力の根絶を訴える「フラワーデモ」が開催されます。人々が性暴力に抗議するため、自身の性被害や考えについて街頭でスピーチする このデモは、昨年の春に東京と大阪で立ち上がりました。1年間で全国各地に広がり、参加者は延べ1万人を突破。「性暴力を許さない」という人たちの思いが、大きなうねりに発展しています。

当初、全国47都道府県で開かれる予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、地域によっては中止されることになりました。その代わりに、東京から初めて“オンラインデモ”が開催されます。

呼びかけ人の一人で、全国各地のフラワーデモの会場を訪れてきた作家の北原みのりさんに、フラワーデモの意義と“オンラインデモ“について、お話を聞きました。

(クロ現+ ディレクター 飛田陽子 さいたま放送局 記者 信籐敦子)


全国に広がったフラワーデモ

北原 みのり さん

Q:フラワーデモが始まってから、まもなく1年を迎えます。全国にフラワーデモが広がったことについて どのように感じていますか?

北原さん

日本では#MeToo(性暴力を告発する運動)が始まらないと言われていました。それは女性たちの力がなかったからではなく、#MeTooの声を潰す力があまりに強い社会だったからなのだと思います。

被害者は話せなかったのではなく、社会に聞く力がなかったのだとフラワーデモを通して 私は学びました。#MeTooを支える#WithYou(あなたと共にある、あなたの声を信じる)が必要だったのだと知りました。

多くの地域のフラワーデモが、「たった一人でも立つ」と決めた女性たちによって始まっています。私たちが街に立って声をあげ続け、声が次の声を呼ぶように急速に広まっていった背景には、やはり壮絶な性暴力の現実があるのだと実感します。

この社会を変えていきたい、そういう強い思いと共に、声をあげるのは無駄ではないと信じられる社会を私たち自身がつくってきたことに、大きな意味と意義を感じます。


初めての“オンラインデモ”
8日(日)夕方6時から、北原さんたちは初の“オンラインデモ”を予定しています。スマートフォンやパソコンでインターネットに接続すれば、参加することができます。



Q: “オンラインデモ”は これまでフラワーデモの会場に来ることができなかった、あるいは、フラワーデモが初めてという方にとっては参加しやすいかもしれません。開催を前に、今のお気持ちは?

北原さん

1年前の4月11日、フラワーデモ東京で「私たちの声は間違っていない。私たちの声を世論にしていこう」という約束をしました。その約束を、私たちは自らの力で かなえつつあるのではないでしょうか。

初めてのオンラインデモという試みに多くの方と一緒に声をあげられることを期待します。そしてまた、必ず集まりましょう。性暴力のない社会、安心して生きられる社会の空気を 一緒につくりましょう。


“オンラインデモ”では、ツイッターを通じて声を募っています。8日夕方の5時半以降、#オンラインフラワーデモ というハッシュタグをつけて投稿した つぶやきは、配信中に一部 紹介される可能性があるということです。

各地で開かれるフラワーデモの詳しい場所や時間については、フラワーデモの公式HPやツィッターアカウントを参照ください。

北原 みのり さん
フェミニスト・作家。著書に「メロスのようには走らない」「奥様は愛国」など。フラワーデモ呼びかけ人の一人。

※以前、北原さんを取材したインタビュー記事を「性暴力を考える Vol.21」はこちらです。 https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0006/topic021.html


フラワーデモや“オンラインデモ”について、みなさんの考えや思いを、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。


#性暴力#MeToo#Withyou
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2020年3月1日
【性暴力を考えるvol.60】大好きな日本で 性被害に… (後編)
昨年、都内のシェアハウスで出会い、親交を深めてきた韓国出身のソユンさん(仮名・28)と、熊本から上京したリョウスケさん(仮名・21)。二人は いま、ともに向き合い続けていることがあります。それは、ソユンさんが過去に受けた性暴力による苦しみ。リョウスケさんと出会う前、新卒で入社した関西の会社で、男性社員から体を執拗(しつよう)に触られるなどの被害に遭いました。ソユンさんはいま、つらいPTSDの症状を抱えながら、男性を相手に民事訴訟を起こし、闘い続けています。(前編はこちら

後編は、そんなソユンさんの姿をそばで見続けてきたリョウスケさんが、彼女をどのように支えてきたのか、伝えます。以前は、性暴力は「まったくの他人事だと思っていた」というリョウスケさん。身近な女性の苦しみに触れ、彼自身も傷つき、悩み苦しみ、「そばにいる自分には何ができるだろう」と考えるようになったといいます。

(クロ現+ディレクター 飛田陽子)


上京して気づいた“性暴力”の身近さ


高校を卒業するまで、熊本で暮らしてきたリョウスケさん。それまで、“性暴力”が周りで起きていると感じるような経験をしたことがありませんでした。しかし、去年、就職のために上京するなり、あるものを目にして、性暴力の問題が自分の生活圏内に一気に入ってきたような感覚にとらわれたと言います。女性専用車両です。

「僕の地元には、女性専用車両はありませんでした。だから、その車両の前にずらっと並ぶ女性たちの姿を初めて見た時はびっくりしました。こんなにも多くの人が女性専用車両を必要としているなんて・・・。痴漢被害が深刻なんだと思いました。痴漢だけではなく、もしかして “自分が思っているよりも、性暴力はめちゃくちゃ身近なところに はびこっているのでは?”と、心がチクチクしました」

“まぶしいくらい明るい”ルームメイトが…

(去年からシェアハウスで約20人の男女と暮らすリョウスケさん)

リョウスケさんの心に芽生えた違和感は、ルームメイトのソユンさんの被害を知ったことで確信に変わります。リョウスケさんより数か月遅れてシェアハウスに入居した7歳年上のソユンさんは、リョウスケさんにとって “気さくに話しかけてくれるお姉さん”。第一印象は、“まぶしいくらいに明るい人”だったといいます。共通の趣味もあり、二人はすぐに仲良くなりました。そんなソユンさんが、性被害に遭ったことや、つらいPTSDの症状にさいなまれていることを打ち明けてきた時、リョウスケさんは衝撃を覚えました。

「泣きながら過去の被害を教えてくれたソユンさんを前に、こんな すてきな人が、過去につらい経験を抱えていたのか…と驚きました。被害に遭ったことで仕事や生活する環境を変えなければいけなくなるなんて、それは、一人で背負っていくには大変すぎるのではないかと感じました。」

どうしたら 支えられるだろう?


リョウスケさんは、ソユンさんの痛みを思いやるのと同時に、男性の振る舞いが人を苦しめていることに、同じ男性として“絶望感”を抱いたといいます。それでも、同じ屋根の下に暮らす者として、何か自分にできることはないか考え始めました。しかし、男性の自分が支えようとすること自体が、“エゴ”ではないのか。ソユンさんにとって、負担になってしまわないか―――。迷い、悩みました。

ありのままの自分を受けとめようとしてくれるリョウスケさんとの出会いに救いを感じていたソユンさんは、その気持ちを伝えました。

「リョウスケみたいな人は なかなかいない。私、あなたにすごく助けられているよ。」

他でもないソユンさん自身から“すごく助けられている”と言われたことで、リョウスケさんは、積極的にソユンさんが調子の悪いときに付き添ったり、料理などの家事を代わったりするようになりました。そして、自分と同じように性被害を打ち明けられた人がどんな対応をしたのか、また、性暴力被害をめぐる日本の現状について、ツイッターやインターネットなどで調べたりするようになりました。

それは、ソユンさんが「当事者の私より調べている」と感じるほどの勢いだったといいます。リョウスケさんにとって、“遠いものだった”性暴力は、すっかり“自分ごと”になっていました。

“想像以上に根強い” 男尊女卑


そんな矢先、二人が一緒に電車に乗っていた時のこと。ソユンさんが、見知らぬ男に顔から上半身の写真を瞬間的に続けて20枚以上 撮られたことがありました。男の行動に気づいたソユンさんが震えながらも必死に「何してるんですか?」と声をあげ、男のスマホに保存された写真を見ると、自分だけではなくほかの女性を盗撮したと思われる画像も複数ありました。リョウスケさんは男が逃げないように、しっかり両腕を押さえて捕らえました。電車を降り、駅員さんに伝えた上で、交番に連れて行きましたが、警察は“からだの特定のパーツを撮ったわけではないから”と、3人の目の前で盗撮されたソユンさんの写真を削除してしまい、被害届を受理しようとしなかったといいます。

「相手の同意なく、顔から胸までを勝手に撮影していたのに“犯罪”にならないのか?」「ソユンさんは、自分の顔や体を盗撮された上に、とても怖くて嫌な思いをしたのに、なぜ“被害”だと認められないんだろう…。」リョウスケさんの心が、再び ざわつきました。

「被害に遭った人の目線に立つと、日本って なんて生きづらい場所なんだ、と驚きました。もちろん、性別にかかわらず被害に遭う人もいると思いますが、僕が思っていた以上に、いまも男尊女卑のような感覚が社会に根強く残っているんじゃないかと考えました。」

裁判の行方は…
判決の日が近づいてくると、ソユンさんは「家にいると ふさぎ込んでしまう」と口にすることが増えました。不安が強くなっていると感じ、リョウスケさんは一つの提案をします。

『判決の翌日は、どんな結果であろうとも、一緒に出かけよう。』

「無理に連れ出して大丈夫かな・・・という気持ちもあったけど、気分転換ができる予定を作っておいた方がいいかなと思って。“どこか行きたいところは?”と尋ねて、ソユンさんの気持ちを確認しました。」

そうして迎えた判決の日、リョウスケさんは仕事のため、どうしてもソユンさんと一緒にいることができませんでした。代わりに、「帰ってきてから、一緒に判決文を読もう」と声をかけて、仕事に向かいました。

午後、ソユンさんのもとに、裁判の判決がメールで届きました。2年以上にわたった訴訟の結果は、「請求棄却」。敗訴でした。被害に遭った時、ソユンさんは近くにいた人に助けを求めることができる状況だったのに、そうした行動に出なかった、ということなどが指摘され、“証拠不十分”とされました。


(ソユンさんの判決文より)

「私がその場で声をあげられなかったのは、何が起きたのかも分からず困惑してパニックに陥ったからなのに。被害から5年たっても、あの時に感じた苦痛は少しも消えていないのに。それが理解されなかった・・・悔しい。」

裁判で、被害は“なかったこと”にされてしまったことに呆然(ぼうぜん)とするソユンさん。その隣で、リョウスケさんもまた、じくじたる思いを抱えていました。その晩、リョウスケさんは、せめて自分の身近な人たちだけにでも、ソユンさんをはじめ、性暴力被害を経験した人たちが苦しみ続けていることを伝えたいと、ツイッターでつぶやきました。翌日、当初の予定どおり、二人は出かけました。


(リョウスケさんのツイッターより)

大好きな日本で性被害に遭ったことは とても つらく悲しかったものの、どこまでも温かく強く支えられる経験もしたというソユンさん。痛みを抱えながら性暴力と向き合う中で 出会ったリョウスケさんに、心から感謝しています。

「被害の後、私は自分自身を弱りきった存在としてしか見ることができなくなった。私がどんなにネガティブなことを言っても、リョウスケは私が本来もつポジティブな部分を見つめようとしてくれた。ただ話を聞いてくれるだけじゃなくて、苦しんでいる私にとって何が最もいいのかを考えて、一緒に行動してくれる。手を引いて伴走してくれるような人がいると、私もつらくても段々前向きになれる。リョウスケの存在は私にとって、優しさを超越した、大きな力。」

“闘い続けることで 壊れてほしくない”

(判決の日、“気分転換のため あえて出かけることにした”という二人)

いま、ソユンさんは 控訴に向けて準備を進めています。東京での仕事の合間を縫って、改めて自分の身に起きたことの経緯をまとめたり、夜行バスで関西に行き、弁護士と繰り返し話したりしています。しかし、先の見えない裁判に疲弊が募り、韓国の実家に帰ることも考えています。

ソユンさんが帰国を決心したとしても、リョウスケさんは支え続けたいと考えています。

「自分を奮い立たせて闘ってきたソユンさんを、これからも応援したいと思っています。でも、苦しむ姿を近くで見てきた者としては、闘い続けることで これ以上壊れてほしくない。日本で性暴力と向き合い続けることが負担になるぐらいなら、彼女にとって安心できる場所にいてほしい。」

ソユンさんと過ごした日々を通じて、性暴力が被害者に与える痛みの深さと、被害者に寄り添う社会の必要性を強く感じたというリョウスケさん。今後は、被害を受けた人たちのケアや支援について学ぶと同時に、感じ、考えたことを周囲の人たち、特に、自分と同じ男性へ伝えていきたいと考えています。

取材の間、リョウスケさんは、自分の対応や接し方がソユンさんにとって適切なのかどうか、ずっと試行錯誤を続けているという印象でした。一方でソユンさんは、リョウスケさんについて、被害や裁判のことを語るときとは全く違う やわらかな表情で話してくれました。その表情は、被害を受けて深く傷つけられたソユンさんの心に寄り添い、どうしたら痛みを少しでも取り除くことができるのか 考えようとするリョウスケさんの真摯な姿勢が引き出したものだと思います。

裁判は続き、これからも二人の前には困難が立ちはだかるかもしれません。それでも、二人がたどってきた、そして、これから たどる道筋に、“すべての世代・性別で性暴力がない未来”につながる手がかりがあると信じています。これからも、応援していきます。


身近な人から性暴力被害を打ち明けられたことはありますか? そのとき、どんな言葉をかけましたか? 被害を打ち明けられたら、どのように寄り添いたいと思いますか?
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2020年2月29日
【性暴力を考えるvol.59】大好きな日本で 性被害に… (前編)
もうすぐ進学や就職のシーズン。新たな生活の場で、新しい出会いを経験する人は多いと思います。韓国からやってきたソユンさん(仮名・28)と、熊本から上京してきたリョウスケさん(仮名・21)も、そうでした。昨年、都内の同じシェアハウスに入居してから、親交を深めてきました。

二人は いま、ともに向き合い続けていることがあります。それは、ソユンさんが過去に受けた性暴力による苦しみ。リョウスケさんと出会う前、新卒で入社した関西の会社で、男性社員から体を執拗(しつよう)に触られるなどの被害に遭いました。その後、PTSDを発症し、5年以上にわたって つらい症状に苦しみ続けています。

一方、性暴力について「まったくの他人事だと思っていた」というリョウスケさん。身近な女性の苦しみに触れたことで、リョウスケさん自身も傷つき、悩み苦しみ、「そばにいる自分には何ができるだろう」と考えるようになりました。

二人は、「被害者と加害者だけでなく、そばにいる人も含め みんなで性暴力について考えていきたい。自分たちが経験し、感じてきたことが、ほかの誰かのヒントになれば」と、話を聞かせてくれました。2回にわたって伝えます。前編は、ソユンさんの被害についてです。

(クロ現+ディレクター 飛田陽子)


社員懇親会の海水浴で…


「被害に遭って、私は“迷子”になりました。自分のことがよく分からなくなって、普通の生活が送れないくらい、自分をコントロールできない時期もありました。」

ソユンさんが語る、自分が“迷子”になってしまった被害。それは5年前、日本の大学を卒業し、関西の会社で働き始めたときに起きました。



入社1年目の夏、ソユンさんは社員同士の親睦のために企画された海水浴に参加しました。みんなと泳いでいると、他部署の30代の男性が近くで背泳ぎをしているのが見えました。あいさつを交わす程度には面識があったので、ソユンさんは、自分は背泳ぎをしたことがないと話しかけました。すると、男性はソユンさんの肩をつかんで あおむけにし、背中を支えて浮かばせてくれました。そこまでは、ソユンさんはただただ目の前に広がる青空の美しさを楽しんでいたといいます。しかし、その直後、違和感を覚えることが起きました。男性が会話の合間に、ソユンさんの背中を何度もなでるように触ってきたのです。

「ここまでボディタッチする必要ある?それとも、私が過敏なだけ?なんかイヤだな。」不穏な気持ちの中、自問自答しながら、ソユンさんは「帰る準備をしなきゃ」と水面に浮かんだ状態から起き上がりました。しかし、男性は再びソユンさんの肩をぐっとつかんで あおむけにして、会話を続けながらソユンさんの背中や腰などを繰り返し触ってきたといいます。なぜ、自分は触られ続けているのか・・・。理解が追いつかず、パニックに陥ったソユンさんは、男性の声が聞こえなくなったといいます。



浜辺に上がってからも、ソユンさんは海の中で起きたことを“なかったこと”にして、平気なふりをして過ごしました。帰りぎわ、みんなで乗ってきたワゴン車に乗ろうとすると、男性が「韓国のことで、ソユンさんに聞きたいことがあるんだ」と、一番後ろの座席にソユンさんを押し込み、その隣に座りました。車が出発すると、男性は酎ハイを飲み始め、ソユンさんの体を触ってきました。背中、胸の下、腰、お尻、太もも…。どうしてこんなことが起きているのかと、ソユンさんは困惑と恐怖でいっぱいで、声が出ませんでした。男性の手をたたいたり、つねったり、懸命に抵抗しましたが、相手の動きは止まりません。車内の仲間は気づいていない様子でした。やがて男性の手は、太ももから股の内側にまで入ろうとしてきました。ソユンさんは「お願いします、だめです、やめてください」と小声で訴えることしかできませんでした。

車がサービスエリアに停まったとき、ソユンさんはトイレに入った女性の先輩を追いかけて、車中で起きていたことを打ち明けました。驚いた先輩は、男性から離れた席にソユンさんを座らせてくれました。しかし、男性が先に車を降りた際、窓越しにソユンさんに向かって、にこやかな笑顔で握手を求めてきました。「いやあ、ソユンさん最高だったわ。めっちゃ かわいいわ。ありがとう。」

「その時、周りの人たちが見ていたこともあって、私は握手に応じてしまったんです。『いえいえ、こちらこそありがとうございます』とまで言ってしまいました。もちろん、ショックでつらくて、喜んでいたなんてことは一切ありません。でも、怒れなかった。その日から、なぜ あのような対応をしてしまったのか、自分のことがひどく嫌いになりました。」

“僕の後輩だから 許してやって”

「黙ったままでは また同じことが起きるかもしれない」(ソユンさん)

被害に遭って しばらくは、“なかったこと”にしようと、平穏を装っていたソユンさん。しかし、その後、次第に情緒不安定に。仕事に集中できず、記憶があいまいになるなど、それまで普通にしてきたことが思うようにできなくなり、勝手に涙がこみ上げてくることもありました。その一方で相手の男性は、すれ違いざまにニヤニヤと見つめてきたり、向こうから必要以上に話しかけてきたり。海水浴の日に男性がソユンさんにした行為を、ソユンさんがどれだけ嫌がっていたのか、そして今なお どれだけ傷ついているのか、まったく気にかけていない様子だったといいます。

「黙ったままだったら、また同じようなことが起きるかもしれない。」恐怖を感じたソユンさんは、直属の上司に相談しました。しかし、会社のセクハラ対策委員会が本格的に動き出すまでに数か月かかりました。ヒアリングでは、ソユンさんは 被害について正確に理解してもらうために、どこをどんなふうに触られたのか、絵を描いて具体的に説明したこともありました。しかし、男性は「よく覚えていない」の一点張りだったといいます。結局、ソユンさんは男性が書いた形式的な反省文を渡されただけ。男性は、部署は異動と減給になりましたが、停職などの処分は下されませんでした。



その間にソユンさんの心身の不調は深刻になり、仕事を休みがちになりました。会社にカウンセリングに通わせてほしいと申し出ても、「外部に話が漏れるのは…」と初めは消極的でした。また、「被害をセクハラ事件として公にし、厳しく処分してほしい」と、ソユンさんは何度も会社に訴えました。しかし、会社が社内で公表することはなかったといいます。大きな衝撃を受けたのは、取締役の一人から言われた言葉です。「彼は、僕の(大学の)後輩なんです。どうか、許してやってもらえませんか」

「セクハラや性被害に対する認識があまりにもなさすぎる。本人ではなく、取締役が代わりに許しを求めてくるという状況が理解できませんでした。『私が韓国人だから? 』、『日本の会社はみんなこうなの?』…。被害そのものの つらさに加えて、被害の事実が受けとめられず、厳しく対処されないことによる不安感に、次第に苦しめられるようになりました。」

その後、ソユンさんはPTSDと診断されます。その後、不本意でしたが、自分から会社を辞めました。不眠と過眠で生活リズムが不規則になり、自分のことを“誰も守ってくれない、どうでもいい存在”と考えたり、毎日のように“死にたい”と感じたりするようになっていました。

“傷つけられた尊厳”を取り戻すために
それでも、どうしても自分の受けた被害を“なかったこと”にしたくありませんでした。被害から3年、ソユンさんは、男性を相手に民事訴訟を起こすことを決断します。最初に相談した弁護士からは、「道のりは決して楽ではない」「示談にして、裁判をあきらめた方がいい」と言われたといいます。でも、きっと自分の味方になってくれる弁護士はいるはずだと信じ続け、ひとりで韓国領事館にも相談するなどして、被害者側の弁護にあたっている弁護士の紹介を受けました。それから1か月ほどかけて 被害の経緯を陳述書にまとめて、裁判にのぞみました。


(ソユンさんの陳述書)

2か月に1度開かれた法廷では、加害者側の弁護士が“ソユンさんのPTSD発症と男性の行為に因果関係はない”と指摘してくるなか、被害の詳細や人間関係について、何度も詳しく説明を求めれたことは大きな苦痛だったといいます。仕事を失い、経済的にも追い詰められていたので、裁判費用はカードローンを組むなどして、なんとか工面しました。「傷つけられた尊厳を取り戻したい。」その一心でした。

“自己破滅的だった私”を変えた出会い
ソユンさんは、会社を退職してから、去年 転職のために上京するまでの暮らしを、「自己破滅的だった」と振り返ります。PTSDの症状に襲われながら、裁判に出す陳述書の用意や、相手側の弁護士とのやりとりに追われ、食欲はなくなる一方で、お酒を飲み過ぎるように・・・。一時、体重は40キロ台に激減しました。精神的には、自己嫌悪がひどくなり、自分から悪臭が出ているような錯覚に陥り、耐えられない気持ちになるなど、散々な日々が続いていました。

そんな荒れた生活に変化の兆しがみえたのは、東京に来て、シェアハウスで暮らし始めてから。一人でいると気持ちがふさぎ込んでしまうのではと考え、ソユンさんは新たな生活の場に10代から40代までさまざまな年齢の男女20人が暮らすシェアハウスを選びました。そこでリョウスケさんと出会ったのです。


(取材中も、ソユンさんに体の向きや目線を合わせて話を聞くリョウスケさん)

ソユンさんの周りには、ソユンさんがセクハラ被害に遭って会社を辞めたことを打ち明けると、悪気はないものの「話が重すぎる。聞かないほうがよかった」と言う人もいました。でも、リョウスケさんの反応は違いました。

「リョウスケは何も言わずに話を聞いてくれて、私の気持ちをそのまま受けとめてくれました。年下で弟のようだけど、信用できる人と感じるようになりました。」

ソユンさんは、リョウスケさんに話を聞いてもらうようになってから、徐々に健康だったときの生活リズムを取り戻しました。一方、リョウスケさんは、身近な人から性暴力被害について打ち明けられたのは全く初めての経験でした。

リョウスケさんの目に、被害に苦しみ続けるソユンさんの姿はどう映り、彼女をどのように支えてきたのか。そして、ソユンさんの裁判の行方は。それを二人はどう受けとめたのか――。続きは、明日の「後編」で伝えます。


性暴力の被害を打ち明けた時、どんな言葉をかけられたら、どんなふうに接してもらえたら、救われると思いますか?みなさんの考えや思い、記事への感想を 下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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2020年2月28日
【性暴力を考えるvol.58】見過ごされてきた災害時の性被害 
  • 避難所のリーダーに、「(夫を亡くして)大変だね。タオルや食べ物をあげるから、夜◯◯に取りに来て」と言われ、取りに行くと、あからさまに性行為を強要されました。(震災で夫を亡くした女性)

  • 仮設住宅にいる男性がだんだんおかしくなって、女の人を捕まえては暗い場所で裸にする。周りの人も、“若いから仕方がないね”と、見て見ぬふりをして助けてくれませんでした。(20代女性)

  • 複数の男性に暴行を受けました。騒いで殺されても、海に流され津波のせいにされる恐怖があり、その後、誰にも言えませんでした・・・。(避難所のリーダーなどに暴力を受けた女性)
これは、東日本大震災の後、避難所や仮設住宅などで性暴力を受けた女性たちの証言。同じ女性として信じたくない、信じられない思いですが、実際にあった出来事です。もし、自分自身や家族、大切な人が、災害時にこのような被害を受けたら・・・。皆さんは、声をあげることができるでしょうか。

まもなく、東日本大震災から9年。今月、24時間の無料電話相談「よりそいホットライン」では、2013年から2018年の5年間に女性専用ラインに寄せられた36万件余りの相談について内容を分析しました。その結果、被災3県(岩手、宮城、福島)からの相談の5割以上が、性暴力被害に関する内容であることが明らかになりました。

分析結果から見えてきた被災地の性暴力の実態と、この問題に向き合い続けてきた3人の女性に話をお聞きしました。      

(大型企画開発センター 統括プロデューサー 小原美和)


女性専用ホットラインの半数以上が、性暴力の相談

(国の補助事業 24時間無料電話相談「よりそいホットライン」)

「よりそいホットライン」(NHKサイトを離れます)は、東日本大震災を契機に、様々な生活困難を抱える人たちの悩みを傾聴しながら、具体的な問題解決を図ることを目的に、2012年3月に開設されました。代表的な相談内容は、「家族問題」「心と体の悩み」「人間関係」「仕事の悩み」。相談者のおよそ6割が女性。中でも、女性特有の相談として圧倒的に多いのが、DVやレイプ、性的虐待など、性暴力の被害です。

今回、過去5年間(2013年~2018年)に女性専用ラインに寄せられた相談を集計したところ、被災3県(岩手、宮城、福島)からの相談の5割以上が性暴力に関する相談で、10代~20代の若年層の被害も、全体の4割に上りました。


(相談窓口に寄せられた被害者の状況を記したメモ)

「よりそいホットライン」事務局長の遠藤智子さんによると、震災による環境の変化などが背景にあるDVや性暴力の被害は、その後も変わらず続いているそうです。被害を受けた女性の中には、誰にも相談できず、長い間ずっと一人で苦しんでいる人が多く、東日本大震災から9年たって、ようやく相談の電話をかけてくる人も少なくないと言います。そうした現状を踏まえ、遠藤さんは、今後の対策を呼びかけています。


(「よりそいホットライン」事務局長の遠藤智子さん)


「別の場所で災害が起きるたびに、そのニュースや情報を目にして、被害を受けた経験を思いだし、不安や恐怖からフラッシュバックや不眠に苦しむ女性もいて、電話相談が増加する傾向があります。 窓口では、相談内容に応じて警察や病院・民間支援団体を紹介するなど、関係機関につなぐよう対応していますが、今後は、女性や子どもたちが『震災弱者』とならないよう、日頃から社会全体が暴力の根絶に取り組むことが重要だと考えています。」(遠藤さん)


阪神淡路大震災で “デマ”とされた性暴力被害

(阪神・淡路大震災直後の避難所)

実は、災害時の性暴力については、25年前の阪神淡路大震災の時から問題提起されていました。声をあげた一人が、神戸で女性や子どもの支援を続けているNPO法人「ウィメンズネット・こうべ」代表の正井禮子(れいこ)さんです。きっかけは、生活全般に関する悩みを聞くために始めた「女性のための電話相談」だったと言います。


(NPO法人「ウィメンズネット・こうべ」代表 正井禮子さん)

「電話相談を始めたら、次々とDVに関する相談が寄せられました。被災して仕事がうまくいかない夫が、殴ったり 蹴ったり、暴力を振るうのがつらいという相談です。さらにその後、女性のための小さな集会を開いた時に、仮説住宅に住むシングルマザーの女性から性暴力被害について打ち明けられました。参加者の一人が、警察にすぐに届けたのかと聞いたところ、その女性は『ここでしか生きていけない時に、誰にそれを語れというのですか』と、涙を流したのです。大災害で大変な時に性被害が起きるのは許せないし、被害者はどれほど深く傷つくことだろうと、その姿が忘れられなくて・・・。」 (正井さん)


避難所を回っていた保健師さんや、他の市民グループの相談窓口にも、同じような性被害の声がいくつも寄せられていましたが、当時は性暴力専門の相談機関もほとんどなく、被害を受けた女性は、声をあげることすらできない現状がありました。そこで、正井さんたちは、複数の支援団体と協力して、『私たちは暴力を許さない』という集会とデモ行進を行いました。


(性暴力の根絶を訴えながら、神戸市内を歩く女性たち 1996年 撮影)

ところが、当時は警察への被害届も少なく客観的資料も乏しかったため、一部のメディアから“デマ”として報じられ、正井さんたち支援者にも批判の声があがったそうです。

「バッシングされた時は本当にショックで、震えが止まりませんでした・・・。『被災地でレイプがあったと いうことが真実ならば、その情報を全国に流したことはセカンドレイプになる』と書かれているものもあったんです。声をあげることが被害者を傷つけることになるのかと、混乱しました。とても怖くなって、その後 長い間、性暴力について語ることはできませんでした。」(正井さん)


全国の支援者や専門家が協力!「日本初の調査」へ
2011年3月11日、東日本大震災発生。するとその直後から、正井さんのもとには、次々と協力を申し出る連絡が・・・。阪神淡路大震災の経験を無駄にせず今後の対策につなげていこうと国内外の専門家やNPO等の団体が協力して、女性のための支援ネットワークを結成。日本国内で初めて、「災害時の女性や子どもに対する暴力」の実態調査が行われました。


(東日本大震災「災害・復興時における女性と子どもへの暴力」調査報告書 2013年 編集:東日本大震災女性支援ネットワーク調査チーム 吉浜美恵子・ゆのまえ知子・柘植あづみ・正井禮子・池田恵子)

調査結果では、10代から60代までの女性や子どもたちが、さまざまな場所で、DVや性暴力の被害を受けていたことが明らかになりました。さらに、関係者が注目したのは「対価型(見返り要求型)の暴力」です。震災や津波などで夫や家族を亡くす、失業する、家財を失うなど、弱い立場の女性に支援をする対価として、性行為を要求するという事例が複数報告されたのです。


(「災害・復興時における女性と子どもへの暴力」より)

調査に協力した静岡大学教育学部・同総合防災センター教授の池田恵子さんは、「災害時は、平常時の社会的構造の問題が顕在化する」と指摘します。また、海外では、早くから災害時の暴力について調査や研究が進み、具体的な対策が打たれてきましたが、日本では、東日本大震災まで、そういう議論がほとんど行われてこなかったと言います。


(静岡大学教育学部・同総合防災センター教授の池田恵子さん)

「災害時は、雇用や所得などの経済的格差が広がるうえ、介護や子育てなどの役割を担うことが難しい状況も加わり、弱い立場にある人たちがますます弱くなる。誰かに依存しなければ災害状況下を生き延びていけない人々には女性や子どもが多く、その格差が、暴力につながる余地を生んでいるのです。

どんな事件が、どのような場所で、どのような状況で起こっているのかを詳細に知ることは、具体的な対策に結び付けるために非常に重要です。災害に強い社会を作るという意味でも、大きな教訓が得られたのが、東日本大震災だったと思います。」
(池田さん)


同じような被害が繰り返されないために。調査チームがまとめた報告書には、次のような具体的な対策案や提言が盛り込まれ、国へ届けられました。
  • 災害直後からの暴力防止の啓発・相談支援の充実
  • 避難所の改善(プライバシーの確保等)
  • 被害者への支援・連携体制づくり(行政・警察・医療・女性支援センターなど)
  • 防災・災害対策における女性の参画と男性との協働(意思決定の場の男女平等)


女性や多様な視点が、災害に強い社会を作る
その後、国の防災基本計画や、内閣府の「防災・復興取組指針等」にも、災害時の安全性の確保や、復興過程における女性の参画を促進することが明記されました。熊本地震発生後は、災害直後からDVや性暴力防止の啓発活動が進められたほか、女性の意見や視点を取り入れた防災計画や避難所運営の見直し、女性の防災リーダーの育成に力を入れる自治体も現れています。

25年前、この問題について声をあげた正井さんは、取材の最後にこう語って下さいました。

「いま、全国各地で広がっているフラワーデモに初めて参加した時、被害を受けた女性が『ここで話せて良かった・・』と涙を流しながら話しているのを聞いて、安心できる場所があれば声をあげられる。25年前に語って良かったんだ、と思うことができました。

被害を受けた人達が、きちんと声をあげて訴えることができる社会であってほしい。男女がお互いを尊重しながら多様な視点で意見を出し合い考えていくことが、誰もが安心して暮らせる、尊厳を持って暮らせる社会につながると信じています。」
(正井さん)



(神戸で開催されたフラワーデモ 2019年12月11日)


今回、特集制作の取材のため、全国各地の支援者や専門家の方々にご連絡をとり、貴重なご意見や証言を多数聞かせていただきました。取材のたびに、「ようやくこの問題を取り上げてくださるんですね。ありがとうございます」と声をかけていただき、胸が詰まりました。取材者として、長く見過ごしてきたことに申し訳なさと悔しさで いっぱいです。

阪神淡路大震災から25年。被害を受けた人の代弁者として、いち早く声をあげ対策を求めてきた正井禮子さんのもとには、今でも「性暴力があったなんて、いい加減なことを言うな!」という批判が寄せられるそうです。逆風にさらされながらも「埋もれた声」を掘り起こし、社会に届けてくださった先人の皆さんの血のにじむような努力と情熱に、感謝の言葉しかありません。この灯火を消さないように、私たち自身も、粘り強く伝え続けていきたいと思います。


阪神淡路大震災から続いてきた、「災害時の暴力」の実態と対策については、こちらの特集番組で放送します。ぜひ、ご覧ください。

3月1日(日)午前10時05分~10時53分 総合
証言記録 東日本大震災
「埋もれた声 25年の真実 ~災害時の性暴力~」https://www.nhk.or.jp/ashita/bangumi/

再放送:6月21日(日)午前10時05分~10時48分 総合
再々放送:6月26日(金)午前1時~1時43分(※木曜深夜)


みなさんは、“災害時の性暴力”について、どのように考えますか。
実際に見聞きした体験や、記事や番組をご覧になった感想などを、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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2020年2月21日
【性暴力を考えるvol.57】なぜ 私が “性暴力”を取材するのか
初めまして。NHK沖縄局ディレクターの二階堂はるかです。昨年から、性暴力の被害者、支援者、専門家や裁判などの取材をしています。(昨年10月に沖縄ローカル番組で放送

実は私自身、性暴力の被害者です。でも、これまで積極的に取材をしようと思ったことは、ほとんどありませんでした。というのも、自身の被害を記憶の奥底にしまい込み、長い間 “なかったこと”にしてきたからです。被害を思い出すと、嫌悪感だけでなく、自己否定されたような気持ちになり、考えない方が自分の心の安定を守ることができたからです。

そんな私が性暴力の問題と向き合うようになったのは、ある出来事がきっかけでした。なぜ性暴力の取材を始めたのか、そして、取材を通して何を思い、感じているのか、書いてみたいと思います。

(二階堂はるか 沖縄局 ディレクター)


●取材先の男性から 突然・・・ 


かつて私は、ある取材の中で、一人の男性に話を聞こうとしていました。当時取材は難航しており、もし男性の証言を得ることができれば、いままで誰も聞き出せていない言葉を引き出して番組で伝えることができるかもしれない…。私は取材に熱が入っていました。

相手の心を開き、内に秘めた思いを聞くために、私は男性のもとを何度も訪れました。仕事や日常の話をしたり、一緒にお昼ご飯を食べたり、まずは仲良くなって信頼を得ようと思いました。男性は最初はマスコミを警戒していましたが、次第に打ち解け、時折、胸の内も明かしてくれるようになりました。私は、「もう少し時間をかけて話をすれば、カメラ撮影にも応じてくれるかもしれない」と取材者として胸が高鳴りました。

そんな矢先、男性から夕食の誘いがありました。男性は既婚者で、男性の同僚も同席するとのことだったので、「より仲良くなれるチャンスだ」と思い、迷わず行きました。食事の席は、しばらくはいたって普通の雑談でした。しかし、お酒の酔いが回ってきたのか、男性が卑わいな言葉を投げかけるようになりました。不愉快な気持ちがしましたが、笑って流していれば そのうち終わるだろうと思っていました。しかし、次第に行動はエスカレート。私の腕や足などに体を執ように密着させてきたのです。こちらの同意なくして身体のプライベートな領域を侵害される気持ち悪さ。このまま何をされるか分からない怖さ。突然の不快な行動をしてくる相手への不信感。私は「いやいやいや」などと言いながら距離を取りましたが、男性の行動は続きました。その場にいた男性の同僚は見て見ぬふり・・・。その場から逃げ出したい気持ちでした。

しかし私は最後まで、「やめてください」の一言を言うことができませんでした。「不安」がよぎったのです。もし ここで相手を不愉快に思わせてしまったら、それまで時間をかけて ようやく胸の内まで語ってくれるようになったのに、口を閉ざしてしまうかもしれない。いままでのように取材ができなくなってしまうかもしれない・・・。取材者として、そうなることだけはどうしても避けたかったのです。そこで私は、自分の不快な感情を押し殺し、その状況を耐え抜くことを選びました。

●募る 自責の念と屈辱感
ようやくお開きになり、お酒を飲まなかった私は、男性とその同僚をそれぞれの自宅まで送り届けることになりました。車に乗り、私は前の座席に、男性は後部座席に転がりこむように座り、すぐに眠りにつきました。私は安心しました。酔った勢いで何をされるか分からない・・・。その恐怖から、「送り届けるまで そのまま寝続けますように」という思いでいっぱいでした。しかし、街灯ひとつない道を走っている時、突然、寝ていた男性が起き上がり、席の後ろから私に抱きついてきたのです。自分より何倍も力の強い相手に何をされるかわからない恐怖・・・。私は体が硬直し、頭が真っ白になりました。幸いにも、男性の同僚が阻止してくれましたが、私はただ茫然と座っていることしかできませんでした。



次第に息苦しくなり、車の外に出ました。小雨が降り始めていました。「私は一体何をしているんだろう・・・」。ふと我に返ると足が震え、その場に座り込んでしまいました。嫌だと相手にはっきり言えず、自分を守れなかった・・・。自業自得だと思いました。また、被害に遭ったことへの衝撃、恐怖、悲しみ、相手への嫌悪感、不信感、怒りはもちろん大きかったのですが、何より、「同意なく勝手に性的に侵害してもいい対象」、「何をしてもいい人間」と思われたこと、人間として雑に扱われ 見下されたこと、相手の中に潜む 自分に対する差別意識を痛烈に感じたことが、ただただ悔しかったのです。
●心に芽生えた“怒り”


上司に相談し、男性への取材は、身の危険に及ぶリスクを考え、中止になりました。取材のチャンスを手放してよかったのか。もし自分が女性でなかったら、何事も起きず、そのまま取材を続けられたのだろうか。いずれにせよ、すべての原因は自分にあり、自分に否があったんだと自らを責める日がしばらく続きました。

でも、ある時ふと疑問がわきました。「なぜ私は、自分ばかりを責め続けているのだろう。不快な思いをさせたのは相手の側なのに、私だけが本当に“悪い”のだろうか…」。

そして、突然、心の奥底に閉まっていた過去の記憶がよみがえってきました。中学時代、男性教師から膝の上に乗るよう指示されたり、胸ポケットに手を突っ込まれたりするなど、たびたび体に触れられたこと。友人と一緒に女性教師に相談したものの、「あの先生がそんなことをするはずがない」と信じてもらえず、“なかったこと”にされたこと。高校時代には、登校途中、目の前に現れた男から突然性器を見せられたこと。本屋で本を探している時、制服のスカートの中を盗撮されたこと。社会人になってから、帰宅中の夜道、突然後ろから見知らぬ男に襲われそうになったこと…。それぞれ別々の記憶として刻まれていた出来事が、「性暴力」という、ひとつの線で初めてつながりました。

それまで私は、被害に遭うたびに、その原因を自分に求め、自分を責めていました。「自分が悪いのだから」と思い、親や周りの人たちに相談しようと思ったことはほとんどありませんでした。そして被害という認識も持たず、「大したことはない」と思うようにして、深く考えることはありませんでした。でも、それらの被害がすべて、「性暴力」という言葉でつながったとたん、自分の中に初めて怒りが芽生えました。どんな状況であれ、相手がどんな立場の人間であれ、加害していい理由なんて何ひとつもないのではないか。責任を問われるのは、恥ずべきなのは、被害を受けた自分ではなく、加害者の側ではないのか、と。

●性暴力を語り始めて気づいたこと


被害を受けた自分は悪くないと思えるようになってから、被害をことさら隠すこともないかもしれないと思い、信頼できる周囲の人たちと話す時に、性暴力の話題に触れ、自分の被害を言える範囲で少しずつ伝えてみることにしました。打ち明けてみて驚いたのが、被害に遭っている人たちが想像以上に身近に多くいる、ということです。「取引先の人に性行為を強要させられた」「幼い頃、スポーツ教室の先生に触られた」「被害内容は言えないが自分も当事者」など、「実は…」と自らの被害について語ってくれたのです。「男性の友人が被害にあった」という男性もいました。

普段の生活では性暴力について語る機会はほとんどないため、「被害は身近にはない」と思ってしまいますが、実はそうではなく、身近にあるという実態をただ「知らない」だけだったということに、この時気づかされました。さらに驚いたことに、被害を打ち明けてくれた人の多くに共通していたのが、「被害を誰にも話したことがない」ということ。私と同じように、被害に遭った自分が悪い、恥だと思い、誰にも打ち明けずに一人で抱えていたのです。

なぜ、被害を受けた側なのに自分が悪いと思ってしまうのだろう。多くの人がそう思うのならば、もしかして そう思わせている何かしらの要因があるのではないか。ならば、それは一体何なのか・・・。私は性暴力の実態を取材しようと決めました。

●誤った認識が生み出す悪循環
取材を通して、被害者や支援者、精神科医や心理学者、弁護士や警察、加害者心理の研究者など、さまざまな人たちと出会いました。そして、痛切に問題だと感じたことがあります。それは、性暴力の被害者が自らを責め、口を閉ざしてしまう背景のひとつを、社会が作り出しているということです。

「嫌だったのなら声をあげたり体を動かしたりして、必死に抵抗するはずだ」「抵抗しないのは同意があるということ」「嫌よ嫌よも好きのうち」など、被害者に対する誤った認識が存在し、それが間違っているにも関わらず、まるでそれが正しいことのように社会にまん延していること。そして、なぜか性暴力の問題になると、被害者が周囲に相談したとしても、「なぜ抵抗しなかったの」「なぜついていったの」「あなたも誘っていたんでしょう」などと、加害者の責任が追及されるよりも前に、被害者の落ち度を探し、責め、責任を被害者に転嫁するような価値観が社会に根強くあるということです。

被害がなかなか語られないことで、誤った価値観は否定されることなく むしろ広がり、それゆえ さらに語りにくい環境を作り出す…という悪循環が存在しているように感じます。

なぜ、そもそも誤った価値観が生まれているのか。それを考えることが、性暴力も問題の本質を見いだすことにつながるのではないかと思っています。明確な答えはまだ私自身 分かりません。ですが、考え続け、実態を訴え続けていくことが、この社会の悪循環を断つひとつの方法だと私は思いました。

●放送後に寄せられた言葉


性暴力の番組を制作する中で、さまざまな言葉に出会いました。「自分の子どもが もし被害に遭ったら…と考えたら いたたまれない」「自分の家族も被害に遭っているのだろうか」「自分も家族と性暴力について話してみた」など。自分は被害に遭ったことはないが、性暴力の実態を理解しよう、想像しよう、寄り添おうと思う人が意外にも多かったのです。取材についても、性暴力は人権問題なのだからといって積極的に後押ししてくれました。性暴力について思いを語り合わないから互いの考えを知らないのであって、もしかして理解ある人は意外と多いのかもしれないと思いました。

温かい言葉が多かった一方で、性暴力の実態を伝える難しさを感じた反応がありました。被害者が語った被害内容があまりにも衝撃的で、誇張して話しているのではないかと感じたというのです。性暴力の実態があるという事実に思いを寄せるよりも前に、その現状自体を疑う気持ちがある人がいることに、悲しくなりました。なぜ、素直に被害者の証言を受け入れられないのか。なぜ被害者のあら探しをしようとするのか。そうした感情の根底には何があるのか。それを見つめることが、性暴力にまつわる偏見を少しでも解消していく第一歩につながるのではと思います。

●最後に

沖縄のフラワーデモ 那覇市 2019年9月11日 

全国で性暴力の根絶を訴える「フラワーデモ」が広がっています。来月8日には、全国47都道府県で実施される予定です。性暴力への共感や、声をあげようという動きは確実に広がっているし、語り続けることで、社会に根づく偏見も少しずつ変わっていくのではと少しばかり希望を持てるようにもなりました。そして、語るということが、偏見を生み出す社会の悪循環をたつひとつの方法だとも思います。

確かに、心無い言葉を向ける人もいます。理解しようとしない人もいるかもしれません。そうした人たちの言動に傷つくことも度々あります。ただ、それ以上に、味方になってくれる人、理解しようとしてくれる人は、想像以上にいるのではないかと思います。一人に相談してダメでも、もう一人に声をかけてみてください。それがダメならもう一人に。ただ、語ることが全てではありません。語らないことも自分を守る上での大切な選択肢の一つです。語れないからといって自分をまた責める必要はありません。自分の選択を最も尊重してほしいなと思います。

社会はまだ捨てたものじゃない。私自身そう思いました。少なくとも、この「みんなでプラス 性暴力を考える」のページには、多くの人たちから、たくさんの温かい言葉が寄せられています。また、「性暴力」の実態を取材して伝え続けようと考えている私たちもいます。「そういえば、そういう人たちもいるなぁ」と、心のどこか片隅に置いておいていただけたら、取材者として うれしい限りです。

被害者が責められてしまう社会の根底に何があると思いますか。みなさんの考えや思い、記事への感想を、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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2020年2月14日
【性暴力を考えるvol.56】弁護士に聞く「痴漢です!」声を上げた その後は・・・
もし「痴漢です」と声を上げたら、その後に何が起きるのか。どう対応すればいいのか――。

Vol.49「試験の朝、痴漢に・・・ 通報した勇気」では、実際に痴漢の被害届を出した真由さん(仮名)のケースを紹介しました。そもそも痴漢被害は、声を上げるまでに、相当の勇気や負担を伴うもの。多くの人にとって、その後の警察とのやりとりや手続きは“未知の領域”です。

今回は、性犯罪などの加害者側の弁護は請け負わず、被害者側の弁護やサポートに徹しているという弁護士・岸本 学さんが開くセミナーを訪ね、話を聞きました。

(クロ現+ディレクター 飛田陽子)


“声を上げても報われない・・・”が通報につながらない

(弁護士 岸本学さん。民間企業や金融庁を経て弁護士に。2015年から独立。)

定期的に都内で、「痴漢被害を受けたときにできること」をテーマにしたセミナーを開催している岸本さん。取材したこの日も、自身が痴漢被害に長く悩まされてきた経験を持つ人から、「もし被害を目撃したら、どんな対応をとるのが理想的なのか、弁護士の意見を知りたい」という人まで、いろいろな立場から関心をもつ さまざまな世代の男女が集まっていました。岸本さんは参加者に向けて、まず、痴漢被害に遭った人にかかる負担の大きさについて語りました。

岸本さん

「痴漢の被害に遭った人が、もし加害者を捕まえようとしたら、加害者に抵抗されたり、逆上されたりするかもしれないというリスクがありますよね。被害者からすれば、『痴漢です』と声を上げること自体が大きな負担だと思います。そしてもし、捕まえることができたとしても、駅や警察でどんな風に対応してもらえるかは、担当者によってムラがあるのが現実です。いまツィッターなどのSNSには、実際に警察で長時間拘束されたり、何度も執拗(しつよう)に被害の再現をさせられたり、『被害届を出して事件化する(刑事手続きをする)のを見送る』ことに納得するよう説得されたりしたという人たちの声が頻繁に上がっています。私が対応してきたケースでも、実際にそういう目に遭った人がいました。ただでさえ声を上げることに苦労するのに、声を上げても その先で報われるか分からないということ自体が 痴漢被害の通報のしにくさを助長しているのではないかと考えています。」

警察に被害届が受理されたら どうなるの?


警察に痴漢の被害届を出して受理された場合、実際どのようなことが起きるのか。セミナーで岸本さんが解説した内容と個別にお聞きした話をもとに、要点をまとめました。



①刑事手続きは どんな流れ?
警察が事件化の方針を決定すれば、被害者は警察が用意した被害届に署名・押印(指印)します。そして、被害者と被疑者それぞれに対して事情聴取が行われ、供述調書が作成されます。その後は具体的にどのようなことになるのでしょうか。



岸本さん

「特に知ってもらいたいのは、『ほとんどの場合 被疑者は一度 釈放される』ということ。痴漢加害者に疑われたらどうなるのか、といった情報をまとめてあるホームページなどで“留置所に連れて行かれると、しばらく家に帰れない”など、不安をあおる情報をよく見かけますが、私の知る限り、長期勾留になるケースは少数派だと思います。

捜査にかかる期間はケースバイケースですが、最近は科学的な証拠を採るための『微物検査』の数が増えていて、検査結果が出るまでに1~2か月以上 待たされるということも珍しくありません。」



「加えて、同じ『痴漢』でも、被害の内容によって、どう裁かれるのかが変わります。衣服の上から身体に触る、相手の性器を押し付けられるといった被害は各都道府県の『迷惑防止条例違反』として裁かれますが、服の下に手を入れて身体に直に触れるなどあまりに悪質だと、刑法の『強制わいせつ罪』に問うことになります。ほかにも、衣服に体液をかけられたなどの被害は『器物損壊罪』にあたりますが、体液が皮膚についていれば『暴行罪』です。盗撮被害は『迷惑防止条例違反』ですが、“のぞき”は、撮影していないということで迷惑防止条例違反ではありません(軽犯罪法違反に問うケースはあり)。

何の罪に問うのか次第で、その後の展開は大きく異なります。迷惑防止条例違反の場合、起訴になっても、被疑者が痴漢行為を認めていれば、略式手続き(公判手続きを開かずに書面審理で罰金などを決定する刑事特別手続き)で罰金のみで終わり、という顛末(てんまつ)がほとんどです。いずれの場合でも、刑事手続きを進めていく中で、加害者側が裁判をせずに当事者間の合意で解決する『示談』を申し出てくることもあります。」
②「お金で解決」していいの…? 示談について

(セミナーで話す岸本さん)

ふつうに生活する中で、自分が「示談交渉」の当事者になることは なかなか想像しにくいのではないでしょうか。また、実際に当事者になった場合、「お金で解決する」というイメージが拭えなかったり、示談に応じて不起訴になれば 相手に“前科”が残らないため、「なかったことになる」と感じたりする人も少なくないと思います。もし示談の申し出があったら、どんなことを考えて判断すればいいのでしょうか。

岸本さん

「私は、示談に応じることをネガティブにとらえる必要は決してないと思います。現状の法制度では、被害者が加害者から直接『償い』を受けるためには『金銭』を受け取るほかはなく、事実上、示談が成立しなければ被害者が金銭的な償いを受けることは困難だからです。

痴漢の疑いをかけられた被疑者の中には、痴漢行為を否認しているのにも関わらず、手早い解決を求めて示談を申し出てくる場合があります。そのような場合、できれば、被疑者側の弁護士に会う前に、ご自身も弁護士を探して相談してほしいと思います。被疑者側が提示してくる示談金額についても、『こんなものか』と鵜呑(うの)みにしないでほしいです。

以前、私が引き受けたケースで、示談金額が5万円ということがありました。相場というものはありませんが、50万円以上で合意に至るケースがほとんどですので、堂々と5万円を提示してくる相手に『そこまで被害者を軽く見ているのか』と衝撃を受けました。不慣れな示談交渉にひとりで挑み 相手の都合の良いように言いくるめられてしまう前に、被害者も専門家の力を頼ってほしい。また、示談では『被害が発生した路線の不使用』や『接近禁止』『口外禁止』『個人情報詮索の禁止』を合意条項の中に取り込むことも可能です。相手に求めたいことは自分の弁護士になんでも伝えてほしいと思います。」


③被害者も弁護士を頼めるの? 経済的支援は?

(大手検索エンジンで「痴漢 弁護士」と検索したときの結果。2020年2月9日閲覧)

インターネットで「痴漢 弁護士」と検索すると、痴漢の疑いをかけられた被疑者側の相談に応じている弁護士事務所の広告や情報が上位に表示されます。また、“えん罪”に対応する保険まで生まれています。岸本さんの事務所に相談にきた依頼人の中には、なかなか被害者に寄りそってくれる弁護士情報がない中で ようやくたどり着いたという人が多いようです。被害を受けた側に差し伸べられる手が少ないこの状況・・・。どうしてなのでしょうか。また、被害者が弁護士を頼む場合、経済的負担は大きくないでしょうか。

岸本さん

「まだまだ全体としては、痴漢被害者側の弁護に力を注いでいる弁護士が少ないのが現実です。数が少ないので、やっていても、忙殺されていてインターネットで広く情報発信する余力がないという場合も多い。弁護士の仕事の中では報酬水準が低い部類に入ることもあって、これまであまり注力されてこなかったのではないかと思います。でも、このままでは、いつまでも社会は変わりません。

私はかつて企業法務の仕事をしていました。そのときよりも、被害に遭った人が前を向いていくためのお手伝いをしている今の方が、仕事にやりがいを感じます。こうした思いを共有する弁護士がひとりでも増えてほしいと思います。

もし痴漢被害に遭い、弁護士を頼みたい場合、まず各弁護士会が設置している犯罪被害者向けの無料相談窓口に相談することもおすすめします。

一方、被害者からすると、弁護士を頼むことになると費用面の心配があると思います。でも、日本弁護士連合会(日弁連)の『委託法律援助制度』があります。これは、痴漢や性犯罪を含む一定の犯罪被害者を対象に、弁護士に支払う報酬の一部を日弁連が援助してくれる制度です。預貯金額が300万円以下の人なら利用でき、弁護士に仕事を依頼する時点で支払う着手金を一時肩代わりしてもらえます。そして示談不成立の場合や示談が成立しても示談金額300万円未満の場合は、着手金の肩代わり分の返還が免除されますので、実質”成功報酬”のみで弁護士を利用することができます。」


④第三者はどう関わればいいの?


痴漢被害を目撃した時の理想的な対応について、岸本さんが大切なポイントとしてあげるのは、「記録保全」。被害に遭っている人の中には、その場にいる人にさえ被害を知られたくないという人もいるため、「まずは被害に遭っている人の気持ちを尊重することを優先してほしい」としながらも、記録することは重要だと言います。

岸本さん

「第三者がスマートフォンで撮影した動画は、痴漢被害の証拠になり得ます。その場合、証拠の力を高めるのは ①犯罪性 と ②犯人性 が記録されていることです。

①犯罪性とは、被害の瞬間が映っていること。
②犯人性は、加害者が特定できる情報です。満員電車で加害者の顔を撮影できる状況でなくても、服装や腕時計、持ち物など、何か“その人を示すもの”が撮れていれば十分だと考えます。

勝手に動画を撮影することは盗撮にあたるのではないかと心配する人もいると思いますが、目の前で発生している犯罪の証拠を記録するためであれば盗撮にはなりません。ただし、撮影した動画をいつまでも手元に残していたり、勝手に拡散したりするようなことは『犯罪の証拠を記録するためではない』と見なされかねないため、決しておすすめできません。」


一番望ましいのは、痴漢被害そのものが発生しないこと…それに変わりはありません。でも、あらかじめ、「痴漢です」と声を上げた後に起きることを知識として持っていれば、いざというときの参考になり、身近な人に被害を打ち明けられたときにかける言葉も変わるかもしれないと今回の取材を通して感じました。痴漢を疑われた被疑者の目線ではなく、被害に遭った人の視点から見える世界の中に、痴漢問題の解決につながるヒントが眠っているはずです。これからも取材を続けたいと思います。

※岸本さんが開催しているセミナーは、今後も開催される予定です(不定期・場所は都内)。詳しい情報は、岸本さんのTwitterアカウントを確認ください。

あなたは、痴漢被害を警察に通報、あるいは被害届を出したことはありますか?その後、どうなりましたか?どんなことを感じましたか?
下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。

※過去の“痴漢”に関するトピック
Vol.19 想像してほしい “声を上げられなかった”私の気持ち
Vol.23 “痴漢をさせない” ために…何が必要だと思いますか?
Vol.42 痴漢を見過ごしてきた社会
Vol.44 高校生の思いが生んだ 痴漢抑止バッジ
Vol.45 痴漢 皆さんの声① 打ち明けられなかった理由
Vol.46 痴漢 皆さんの声② 相談したけれど…
vol.47 受験生を痴漢から守りたい!#withyellow運動
vol.49 試験の朝、痴漢に・・・ 通報した勇気
Vol.50 データが浮き彫りに!知られざる痴漢被害の実態
Vol.51 “私は見て見ぬふりしない”
Vol.52 本当に、「たかが痴漢」でしょうか?
Vol.55 スタジオゲストに聞く!「痴漢問題は日本社会の縮図」
#性暴力#MeToo#Withyou
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2020年2月7日
【性暴力を考えるvol.55】スタジオゲストに聞く!「痴漢問題は日本社会の縮図」
1月23日に放送したクローズアップ現代+『データが浮き彫りに!知られざる痴漢被害の実態』にスタジオ出演した精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さん(40)。800人以上の痴漢加害者の再犯防止プログラムに関わってきた専門家として、番組では、「99%の痴漢は男性なので、痴漢は男性問題」と指摘しました。詳しいインタビューを掲載します。 

(さいたま放送局 記者 信藤敦子)


※このインタビューは、痴漢被害の実態や加害者の心理について 詳しく聞いています。被害をイメージした画像やイラストもあります。フラッシュバックなどの症状のある方はご留意ください。
加害者は計画的に犯行を行う

(斉藤章佳さん。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。著書に『男が痴漢になる理由』など。)

―痴漢の加害者の心理とは、どういうものなのでしょうか?

サラリーマンが大多数をしめる痴漢にとっては逮捕されないことが最も大事なミッション。彼らにとって仕事を失うことと、家庭を失うことはアイデンティティーの崩壊を意味します。だからこそ、ターゲットの選定から、すぐ逃げられるようにドアが開くところ、もしくは、階段に近い車両を選ぶなど、そういう研究は惜しまない。他にも、路上痴漢の場合、履く靴は足音が聞こえにくいスニーカーとか、走りやすいものを選ぶ。服装も夜間だと認識しにくい色のものを選ぶなど、さまざまな工夫することも特徴の1つです。中には、加害行為に及ぶときの服装やバッグを決めている人もいます。

性犯罪を行う人に共通しているのは、非常に計画的にやること。むらむらして衝動的にやるのではなく、被害者やその周囲の状況や場所、時間帯などの条件を相当緻密に選んで、行動しています。交番の前では絶対に行動を起こしません。それくらい自分が捕まらないための研究をしているわけです。

―あくまで自分が逃げやすいということを優先する?

そうです。被害者も、そのときは痴漢だとわからなかったが、後々考えるとそうだと気づくケースがある。彼らは被害者のことをかなり勉強しているから、被害者が被害を認識できることにタイムラグがあることも知っています。だから、すれ違いざまにわからないように触るということもあるんです。

彼らは法律についてもよく勉強しています。例えば、痴漢の初犯は裁判になっても執行猶予が付くとか、刑事事件に強い弁護士に頼めば、“なかったこと”にできるかもしれないとか、その辺はよく知っています。

そもそも性犯罪の加害者は、その場の状況や空気をうまくコントロールしている印象があります。性犯罪は、その場を支配する力が非常に強い犯罪なのです。

“透明人間”になりたがる加害者


―「誰かに見られている」という意識が働くと、犯行の抑止につながる?

自分の存在が周囲に気づかれるのが加害者は一番嫌なことです。なぜ嫌かというと、彼らは「透明人間」になろうとする。自分自身の存在を消して、ばれないように問題行動を続けるのが重要なのです。自分の存在に気づかれてしまうと行動できなくなるわけだから。私が関わっている痴漢加害者の再犯防止プログラムの中では、例えば通勤カバンに鈴をつけてもらう場合がある。理由は簡単で、電車の中で自分の存在に気づいてもらうためです。

また、東京では見かけませんが、名古屋では電車の中に大きな鏡が設置されている。実は、鏡は痴漢の抑止になるとも言われています。なぜなら、加害者の存在がいろんな方面から見えてしまうから。存在に気づかせるようなアプローチは、再犯防止プログラムの中では、重要視されています。

加害者に都合のいい「認知の歪(ゆが)み」
―加害者には、「認知の歪(ゆが)み」があると言われますが。

痴漢行為自体が、加害者にとっては“1つの物語”になっています。「自分に痴漢をされたい人」を探す旅をしている、というと変ですが、そういうゲーム性の中にある。レジャー感覚で行動を起こす人もいます。ですので、非常に勝手ですが、彼らは痴漢を許してくれそうな、もしくは望んでいると思えそうな人を探して、犯行に及んでいる。

「認知の歪(ゆが)み」の定義は、本人が問題行動を繰り返すために、本人にとって都合のいい認知の枠組みのこと。具体的には、被害者が怖くて声が上げられないことを彼らは錯覚して、「この人は痴漢されることを望んでいるんだ」という受けとめ方をする。こう思わないと、結局、葛藤や罪悪感が生まれ、自分が問題行動を続けられないからです。



―加害者は成功体験を積んでいくうちに、のめり込んでいくのでしょうか?

行為のエスカレーションですね。回数を繰り返すほど頻度も増えるし、よりハイリスクな状況で痴漢行為をするようにもなります。一般的には逮捕されることで行為は止まると思いがちですが、実は逮捕されることで、さらに問題行動を高進させるタイプもいる。要は、前回は運が悪くて、やり方がまずかったから、次のときには別のやり方を考えようとする。逮捕という事実ですら認知の歪(ゆが)みで都合のいいように捉えて、次の問題行動につなげるタイプの人もいます。

痴漢行為を支えている要因は、大きくは3つあります。1つには「ドーパミン仮説」。人間は、興奮する行動や気持ちいい行動を繰り返します。痴漢行為は、成功すると脳の報酬系にその快感が刻み込まれ1回が2回に、2回が3回にと反復するようになります。非日常的な行動であるがゆえにドーパミンが分泌されやすい。だからこそ、成功すればそれを学習し正の強化となり、繰り返します。2つ目が「認知の歪(ゆが)み」。彼らから見て、痴漢を許してくれそうな人を探していく。初めからそうではなくて、最初は“たまたま触れたから”で始まるケースが多く、その後は恐る恐る“捕まったらどうしよう”と考えながらやるわけですが、成功体験を繰り返す中で、被害者は怖がって声をあげないだけなのに、「求めている」「気持ちよくなっている」と錯覚するわけです。その中で、彼らが見ている現実が、そのまま認知の歪(ゆが)みとして内面化される。まさに、痴漢行為は「学習された行動」なんです。3つ目は、「男尊女卑的な価値観」です。

日本は“痴漢天国”


―なぜ、痴漢被害は減らないのでしょうか?

加害者への再犯防止プログラムが足りないですね。日本は“痴漢大国”だと思います。こういうことは加害者の人は言わないですけど、私はそう思います。被害者支援は、予算が少ないなどの問題があるにせよ今いろんなところで行われるようになってきました。これはとても大事ですが、そもそも1人の加害者が生み出す被害者の数は相当あります。当院のデータでは、痴漢加害者が問題行動を始めてから、専門治療につながるまで平均8年かかっています。この8年間の間に膨大な被害者が出ています。だからこそ被害者支援はもちろん重要で、その一方で加害者が再犯せずに生きるように再教育していくことも重要。そこが圧倒的に足りていないと思います。

―触ってもいいと思わせてしまう社会の構造もある?

時々男性側から「(痴漢されても)減るもんじゃない」という言葉を聞くことがありますが、それは相手(被害者)を「物」として見ているから出てくる発言です。人間である相手に対して不適切な表現です。セクハラなどでも、この表現はよく使われているように感じます。 痴漢にしても、その他の性犯罪にしても、被害者を人として認識していない、対等な人として尊重せず認めていないからこそ出てくる表現だと思います。

また、痴漢行為を行う人たちは、その行為について大きな抵抗を持ってないです。「これくらいならストレス発散でやっても許される」という感覚でやっている人が多い。これは、社会に根深くある男尊女卑や女性蔑視の考え方が、痴漢の加害者たちの価値観の根底にあると考えています。クリニックに来ている加害者は、そもそもなぜ痴漢行為を繰り返し、やめられなくなって、ここに来ているのか。彼らが持っている、日本社会の中で共有されている そうした価値観が根底にあり、痴漢行為という逸脱行動となり、繰り返すようになった背景があるわけです。



痴漢問題を語る際に、男性の性欲の問題に矮(わい)小化されるケースが多い。男は性欲をコントロールできないものであるという価値観を社会が共有しています。でも実際はそうではない。例えば、友だちの前でいきなり自慰行為をするかというと、しない。痴漢加害者も交番の前では行動を起こしません。つまり、男性はちゃんと性欲をコントロールできるんです。「男性は、性欲をコントロールできない動物ではない」ということを、男性側からきちんと言っていくべきです。「性欲をコントロールできない」というのは男性を侮辱する言説です。なのに、なぜこの言説がなくならないのか。おそらく、世間にそういう価値観があることで得をしている人がいるんだろうと思います。

痴漢被害をめぐる裁判でも性欲の話は出てきます。性欲の問題に矮(わい)小化したほうが、加害者にとって都合がいいんです。そもそも「男性の性欲は、コントロールできる」という前提で話すべきです。痴漢行為は、支配欲や優越感、非日常的な達成感がその背景にある、複合的な快楽が凝縮した行為なんです。

そして、このような男尊女卑的な価値観が根深い日本社会そのものを変えていかないと、根本的な問題の解決にはつながらないと思います。

誰もが痴漢になりうる社会
―こうした価値観がある社会では、誰もが痴漢になりうるということでしょうか?

加害者臨床をやる前は、私は「自分は痴漢をする人間では絶対にない」と思っていました。でも、現場で800人以上の痴漢の治療に関わって、考えが変わりました。

加害者には、4大卒で妻子がいて、サラリーマンという普通の真面目な人が非常に多い。彼らから、「通勤電車の中で、唯一のストレス発散として痴漢行為を繰り返している」という話を聞いたとき、私も極限まで追い込まれたら、もしかすると・・・と感じました。



実際に、自分の中にも加害者性はあります。例えば、他人を傷つけることで自分自身が優越感を感じたり、また、他者を追い詰めることで自分が優位に立ち、結果的に自分を取り戻したり。そういう「加害」欲求は多かれ少なかれ誰にでもあることです。なぜ いじめがなくならないかを考えたとき、人間は人をいじめることに快感を感じている部分があるからです。話は戻りますが、たまたま彼らは、非常に精神的に負荷がかかったときに加害者性を制御できずに、痴漢行為という問題になっただけであって、私自身追い込まれたときに、そういう心理状態になってしまうかもしれません。これは加害行為だけでなく、自分自身に攻撃性が向き、うつ状態から自殺を選択する可能性だってあるわけです。

このことを特に男性には知ってもらいたいです。また、「もしかしたら自分もやってしまう可能性がある」と考えることで、当事者性が出てくる。自分ごととして捉えることが、痴漢問題を撲滅していくうえでの第一歩だと思います。

―痴漢の問題には、日本社会の問題が凝縮されているように感じます。

同感です。男尊女卑の考え方も、長時間労働などの働き方も、満員電車も、自分は関係ないと見て見ぬふりをする「傍観者効果」も。満員電車の中に日本の問題がすべて詰まっていると考えています。

痴漢の話題を振ったときに男性が嫌そうな反応や、「それよりも えん罪が」と反発や抵抗をしめすこと自体、その中に非常に重要な大切なことが隠されていることの示唆だと思います。普段、仕事の話はできるのに、ジェンダーの問題になると、急に小学生くらいの反応しか返せないことがある。別に男性側の責任を追及されているわけではないのに、はぐらかしたり、あげ足をとったり、“われ関せず”と見て見ぬふりをしてしまうことがあります。そうした態度をとってしまうこと自体に、また、その防衛的反応に、男性たちが気づかないと、この対話は永遠に成り立たないと感じています。こういうタイプの人には、根気よく対話を続けていくしかないかなと思います。



逆説的ですが、男性は男らしさにこだわるところがすごくある。以前、男性学の田中俊之先生と対談したときに、痴漢行為ができる状況にいたのにやらなかったことを、「損した。次、チャンスが来たら、男ならやるべきだ」という捉え方をする男性たちが少なくないという話になりました。また、こうした“男らしさのとらわれ”からやっている人は、かなりいる。でも、痴漢をすることは、別に男らしさではないですよね。

女性も女らしさに、知らないところで縛られていると思うのですが、男性もその呪いに縛られている。痴漢防止に向けて、男らしさを逆説的に使ったアプローチがとれないかと、考えています。例えば、痴漢被害を目撃したら被害者を助ける行為こそが“男らしさ”だと呼びかけるとか。見て見ぬふりをしないことが本当の男らしさだとか。ジェンダー問題の解決にもつながっていくヒントがあるのではと思っています。


(駅構内に貼られた痴漢抑止のポスター)

当事者意識が抑止に
―痴漢被害をなくすためには何が必要だと思いますか?

初診のときに、必ず「あなたは、逮捕されていなければ、ずっと続けていましたか?」という質問をします。ほぼ100%、「はい」と言います。つまり、まったく発覚せずに続けられるのであれば、続けたいというのが彼らの本音です。逮捕という形で介入があって初めて、その問題に向き合わざるを得なくなる。被害者に声を上げることを求めるのは酷です。せめて「サイレント・マジョリティ」といわれている第三者が声を上げていくことで、「痴漢を許さない」というメッセージを加害者たちに向けて送る1つのきっかけになるし、社会がそういう空気をつくっていく必要があると思います。

―警察庁の調査(2011年)では、痴漢を目撃したときの行動として「どのような行動もとらなかった」という人が45%に上ります。周りが見て見ぬふりをしないことは、加害を生まない点で大事?



理想的には、被害者が声を上げることに頼らない痴漢対策ができれば一番いいと思っています。もちろん、不当なことをされたら拒否するという意思表示は大事だと思いますが、満員電車の多くは、被害者と加害者と、それ以外の第三者なわけです。ですから、周りが見ていて、何かおかしいなと思ったときに「大丈夫ですか?」と声をかけられるような、そういう社会であってほしい。

そういう意味では、今回の番組でも紹介した、暗数(警察などに認知されていない犯罪の件数)が多い痴漢問題を可視化する「痴漢レーダー」の取り組みは、いわゆるサイレント・マジョリティの人たちに、「痴漢は社会問題である」ということを認識してもらうことにつながるので、とても有効だと思います。


(痴漢被害を登録できるアプリ「痴漢レーダー」)

―痴漢被害を見かけたとき、私たちができることは何でしょうか?

第三者の方が行動に出ることは、とても勇気がいると思います。特に電車の中は密集した空間で、一触即発みたいな空気がある。さらに、加害者、被害者、周囲の自分たちも、自ら名乗り出なければ、個人を特定されない環境にいるわけです。そうした中で、介入するのはかなり困難です。もちろん、実際に介入したり、加害者を捕まえたりすることは すばらしいと思いますが、全員の人にそれを求めるのは厳しいと思います。

まずは、もう少し身近に痴漢の問題を感じて、当事者としての意識を持ってもらうことが大事だと思います。「自分は加害者や被害者にならない」のではなくて、「自分もいつ加害者になるかもしれないし、被害者になるかもしれない」というふうに、まず認識を変えること。想像力を働かせれば、そんなに難しくないと思います。

そして、もし被害現場に居合わせたときは、加害者側に介入することは難しくても、被害者側に「大丈夫?」と声をかけることは、できると思います。そこが次のステップかなと思います。

当事者意識を持ち、もし困っている人がいたら「大丈夫?」と声をかけること。それができれば、満員電車の中にも社会にも、これまでとは少し違う、新しい空気が流れ始めるのではないかと思います。

みなさんは 痴漢の問題について、どう思いますか。
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2020年2月6日
【性暴力を考えるvol.54】“次は私?” に込めた思い
#amInext (次は私?) というハッシュタグを知っていますか?
作ったのは、性暴力の撲滅をめざす南アフリカの女性たち。「被害を受ける側に非がある」という偏見が性暴力を助長しているという考えの下、このハッシュタグを使って性被害の実態を発信しています。いま、取り組みはアフリカ全土のみならず、世界中に広がり始めています。

「次は私?」という問いかけに どんな思いが込められているのか。リーダーの女性を取材した『国際報道2020』の特集記事です。
https://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/archive/2020/01/0123.html

「“次は私かも・・・”という意識をもって行動を起こそう」と呼びかける#amInext。このハッシュタグについて、マポノポノさんたちの取り組みについて、みなさんはどう感じますか。
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2020年1月31日
【性暴力を考えるvol.53】 クロ現+「痴漢被害の実態」のダイジェスト
1月23日(木)に放送した 「データが浮き彫りに! 知られざる痴漢被害の実態」のダイジェストはこちらです。
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4376/index.html

放送中・放送後に番組の感想や意見をたくさん お寄せいただき、ありがとうございました。私たちは、ひとつひとつに目を通しています。これからも取材を続けていきたいと思っています。

引き続き、みなさんの声を聞かせていただけたら うれしいです。下の「コメントする」か ご意見フォームから お寄せください。
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Vol.46 痴漢 皆さんの声② 相談したけれど…
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Vol.52 本当に、「たかが痴漢」でしょうか?
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2020年1月24日
【性暴力を考えるvol.52】本当に、「たかが痴漢」でしょうか?
「痴漢されても減るもんじゃないし」- 皆さん、このフレーズを聞いた経験はありますか。
痴漢は、被害者の心を傷つけ すり減らす、卑劣な行為です。
今回、被害に遭った方の取材を通し、そのことを改めて強く感じました。

(アナウンサー 合原明子)



都内に住む ゆいさんは、電車通学を始めた12才の時から毎週のように痴漢の被害に遭うようになります。痴漢の年齢は20代から60代まで さまざまでしたが、大体が普通のサラリーマンだったといいます。


(ゆいさん/左 合原アナウンサー/右)

100回を超える痴漢に遭いながらも、一度も声を上げられなかったという ゆいさん。理由の1つが、何を考えているのか分からない異常な人が横にいるという怖さだったといいます。

「いつも乗っている電車のはずなのに、自分だけが違う世界に飛ばされてしまうような感覚になった。」

いかに被害者が孤独な中で戦わなくてはならないかということを象徴する言葉だと感じました。

そして、もう1つ、理由としてあげたのが、電車内の独特の雰囲気。朝の満員電車には、皆、ストレスを感じながらも我慢して乗っています。そうした中、「痴漢です」と声を上げて電車を止めることは、許されないことのように感じたといいます。



さらに、思春期の ゆいさんは、親に相談することもできませんでした。自身が性的に見られていること、子供だけど子供ではない年頃になっていることを親と共有することが恥ずかしかったそうです。

周りに助けを求められない中での精一杯の防御法は、寝たふりをすること。「自分はこんなことで傷ついてなんかいない」と言い聞かせ、気持ちに蓋をすることでしか、自分を守ることができなかったそうです。「抵抗しなかったからといって痴漢行為を受け入れているわけでは決してない」と強い言葉で話してくれました。

痴漢被害が続く中で、ゆいさんは次第に、被害に遭う自身の体を汚らわしいと思うようになります。高校に進む頃には、自己肯定感が低くなり、自分のことが嫌いになったといいます。体調不良により 電車に乗って登校することが難しくなるまでに、精神的にも肉体的にも追い詰められました。しかし、当時は痴漢被害が原因とは分からず、「学校に行けない自分が悪いんだ」と自分を責めて苦しみ続けたといいます。

“ゲーム感覚” “少しでも触れたらラッキー”、そんな加害者の思いとは対照的な、被害者の苦しむ姿。こんなことがあっていいのかと話を聞きながら強い怒りがこみ上げました。

そして、残念なことに、痴漢被害者に対する世間の見方も厳しいままです。ゆいさんが被害のつらい経験をSNSで発信した時の人々の反応は、「被害妄想ではないのか」、「痴漢される側に問題があるのではないのか」、「服装を変えてはどうか」…。

“どうして何も分かってもらえないんだろう”と、とても悲しい気持ちになったといいます。



今回の取材で さまざまな被害の話を伺う中、突然、自分自身の過去の被害の記憶がよみがえり、戸惑いました。被害は大学生の時。10年以上前の記憶です。一度思い出すと、季節や天気、電車の車両や被害の様子など、はっきりと思い出せるのに、被害に遭ったという事実そのものが記憶から欠落していました。決して、大した被害ではなかったということではありません。「なかったこと」にしないと心の平穏が取り戻せず、無理やり記憶に蓋をしていたからでした。悲しい記憶です。

そして、被害者側がそうしなくてはならない状況が、10年以上たった今も変わっていないことにやるせなさを感じます。

これ以上、同様の被害を生まないためにできることは、「孤独の中、戦っている被害者がいないか、目を向けること」だと思います。

電車の中で改めて周りを見てみると、実に多くの人がスマートフォンを見ています。痴漢の被害に遭って つらい思いをしている人がいても気づくことが難しい状況です。私も例外ではありません。自戒も込めて、1人1人が社会を変えるのだという意識を強く持ち、周りに目を配る意識を持ちたいと思いました。

痴漢被害をなくすために、私たちは何ができると思いますか。
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2020年1月23日
【性暴力を考えるvol.51】“私は見て見ぬふりしない”
以前、「性暴力を考えるVol.23」で紹介した、ボタン一つで痴漢被害の場所や内容をネット上に登録し、共有できるサービス「痴漢レーダー」。これまでに集まった2000件超の被害情報のうち、約3割が「目撃者」からの登録だといいます。痴漢被害を目にした人は、どんな思いで登録をしているのか――。目撃者として登録した人のひとりに話を聞きました。

(クロ現+ディレクター 飛田陽子)

たまたま 乗り合わせた通勤電車で…

(「痴漢レーダー」に目撃者として登録したエミリさん)

「けさ 職場に向かう途中で、痴漢を目撃しました」。目撃者として「痴漢レーダー」に被害情報を登録したエミリさん(仮名・30代)から 私たちが連絡を受けたのは12月のある木曜日。詳しくそのときの状況を教えてもらうと、エミリさんは 偶然乗り合わせた電車の中で、痴漢被害に遭った女性が 加害者と思われる男性と膠着(こうちゃく)状態になっている現場に居合わせたといいます。

「触ってないって言ってんだろ!」とどなる男性と、うつむきながら 男性のカバンをぎゅっとつかんで離そうとしない女性。エミリさんは、まず、女性に「大丈夫ですか?」と声をかけました。そして、「…痴漢ですか?」と問いかけると、女性がこくりと うなずいたといいます。すると再び、「自分は触っていない」とどなる男性にエミリさんは「触ったかどうかは、調べればちゃんと分かるはずです。次の駅で一緒に降りてください」と伝え、本来 降りる予定ではなかった駅で、2人と一緒に降りました。

私たちとエミリさんは、性暴力の被害を受けた人たちが自らの「その後」をSNSにつづる #性被害者のその後 というハッシュタグを通じて出会い、定期的にやりとりを続けていました。エミリさん自身も、過去にさまざまな性暴力の被害に遭い、回復の道のりを歩んでいる最中です。そんなときに痴漢被害に遭った女性と加害者と思われる男性との間に入ることは、とても勇気のいることだったはずです。なぜ、行動に出たのか、理由を尋ねると、エミリさんは「とっさに体が動いたんです」と苦笑しながら話してくれました。

「今ここで彼女を見捨てたら、私は一生後悔すると思いました。また、誰にも助けてもらえなかった過去の自分自身を“救うため”でした。自分が被害を受けた当時、誰かにこんな風に助けてもらいたかったと思う行動を 自らとったんです。」

声を上げても…“もし えん罪だったら”と語る警察官に落胆


2人を連れて電車を降りた後、エミリさんは、警察に被害届を出しに行く女性に付き添いました。いつもどおり出勤するはずだった職場には、半休を申し出ました。派遣社員として、時給で働いているエミリさんにとっては大きな損失です。それでも、「ご迷惑をおかけして、ごめんなさい」と泣き続ける女性をひとりにしたくない。何より、心を奮い立たせて男性のカバンをつかんだ女性の勇気を、無駄にしたくない。その一心で、自らも警察からの質問に答えました。しかし、エミリさんの話をひと通り聞いた警察官は、痴漢を事件にすることの難しさについて説明し始めたといいます。

「痴漢っていうのは、“(体に)当たっている”って言われればそうかもしれないし、“触っている”って言われればそうかもしれないっていう、ラインを見極めるのが難しい事件になってきます。そこを加味した上で判断します。」

エミリさんが、「立証が難しいからといって事件にしないという判断をすぐに出すのはやめてほしい」と懸命に訴えると、警察官は「まずは科学捜査の鑑定に出すことになる」とその後の流れについて説明しながらも、こう述べたといいます。

「もしかしたら(痴漢行為をしたのは)彼ではないっていう可能性も否定できないんですよ。要は、朝の時間帯は みんなスーツを着ているから、捕まえたものの、最終的に どの人(が本当に痴漢をしたの)か分かんないってこともある。それでもし えん罪で捕まったら、その人は被害者になっちゃうわけじゃないですか。」

まだ事件にするかどうかの判断も出ていないうちに、“えん罪”の可能性を持ち出す警察官の態度・・・。エミリさんは強い違和感を覚えました。

「一生懸命に声を上げた被害者がいて、やっと警察署に着いて、まだ何の捜査もしていない段階で、『えん罪の可能性があるから事件にならないかも』と言われて…。そんな理屈が通るのか、と思いました。『えん罪があるかもしれないから捜査しない』ということなら、殺人や窃盗も 何ひとつ捜査できなくなると思うんです。痴漢もれっきとした性犯罪なのに、そう捉えられていないような・・・。扱いがすごく軽いんだなと落胆しました」

あまりにも冷たい周囲

(エミリさんが「痴漢レーダー」に登録した内容)

その後、捜査の公平性を守るために、エミリさんと被害に遭った女性は引き離されました。そのため、今回のことが最終的にどのような結果を迎えたのか、すぐに知ることはできません。しかし、警察の対応に憤りを覚えたエミリさんは、この日のことを“なかったこと”にしたくないと、「痴漢レーダー」に被害を登録しました。

登録する上で、痴漢被害そのものに加えて、どうしても書き残しておきたいことがありました。それは、“周りの乗客が見て見ぬふり”をしていたことです。エミリさんが男性と女性の間に入るまで、電車内にはたくさんの乗客がいました。しかし、誰ひとりとして声をかけようとする人はいなかったといいます。

「女性をちらっと見るような人はいたのですが、面倒くさそうな冷たい雰囲気を感じました。まるで痴漢のカバンをつかんだ女性のほうが“迷惑を引き起こした側”という感じで…。周りの人たちの冷たさも含めて、これが今の日本の現状で、現実に起きたことなのだ、ということを記録しておきたいと思いました」



つらい痴漢の被害に遭っても、“周囲が見て見ぬふり”する光景を、エミリさんはこれまでにも見てきました。今回、満員電車の中で孤立する女性を見て思い出したのは、かつての自分が受けた痴漢被害のこと。エミリさんが胸や太ももを触られていることに気づきながらも、「やめなさい」と加害者に言ってくれる人は一人もいませんでした。また、生理で貧血がつらかったとき、電車で座ってうとうと寝ていたら、目の前の男性に「若い女が座っているな、立て!」と突然 頭をたたかれたこともありました。そのときも、誰ひとりとしてエミリさんの体調がすぐれないことに気づいてはくれませんでした。小さくも根深い絶望の数々が、エミリさんの心に影を落とし続けてきました。

「痴漢は“触ったぐらいで”、なんてよく言われますが、公共の場所で同意なく、勝手に自分の体を触られるって、ものすごく怖くて屈辱的なことなんです。じゃあ どうして被害者は“助けて”とか“やめて”と言えないのか・・・。それはまず、“声を上げても、周りが助けてくれるとは限らない”という不安や諦めがあるからだと思うんです。かつての私自身がそうで、ずっと一人で耐えていました。周りが痴漢を見かけたら助けるということが前提になっている社会であれば、被害に遭っても声を上げやすくなると思うんですが…。」


(エミリさん)

エミリさんの話を聞きながら、私は悩ましい気持ちになりました。確かに、痴漢被害を見て見ぬふりせず、周囲の人が助ける状況が“当たり前”になることが理想です。でも、エミリさんのように、会社を休んでまで、それを実践できる人がどれだけいるでしょうか。実践できたとしても、事情聴取を担当した警察官のように、痴漢被害を“軽いもの”として取り扱うような人に出くわしてしまったら、結局 何にもならないのでは・・・?むしろ、何度も 傷ついてしまうのでは・・・? そんな気持ちを素直に打ち明けると、エミリさんは、「そうですよね」と優しく笑いながらも、こう話してくれました。

「今は第三者が痴漢を捕まえることに、やりがいもなければ見返りもないですよね。私もきょう、職場では、“ただ遅刻した人”みたいな扱いになりました。課長には何があったのか報告しましたが、“すげえ”の一言で終わって、スルー。お給料も半分になってしまったし、少し虚しさが残りました。でも、今後また痴漢被害に遭っている人を目撃したら、絶対に同じ行動をとります。みんなにもそうしてほしい。どんな痴漢行為であっても、犯罪なんです。」

みんなの意識を変えよう

(片山玲文さん/左、ウ・ナリさん/右)

ボタン一つで痴漢被害を登録できるアプリ「痴漢レーダー」を開発したITベンチャーの片山玲文(れもん)さんとウ・ナリさんによると、開発当初は、目撃者などの第三者が登録できる機能はなかったそうです。そうした機能を加えたきっかけは、ある男性ユーザーが、ツイッターで“介入する勇気が持てなくても、ボタンなら押せるから、みんなで押そう”と呼びかけていたことだったといいます。

「性被害だけでなく、ハラスメントやいじめもそうだと思いますが、みんなの意識が変わる方が、被害をなくすための一番の力になっていくんだろうなと思います。」(ナリさん)

「被害者と加害者がいて、すぐに何か行動を起こすことができるのは、そこに居合わせた人たちだと思うんです。第三者の意識や目が変わることは、無意味じゃない。痴漢の問題を大きく前進させてくれると思います」(片山さん)

片山さんとナリさん、そして、エミリさんが話してくれたように、“痴漢を許さない社会”のキーマンとなるのは、「第三者」だと強く感じます。今は、エミリさんのような「かつての被害者たち」が中心になって、勇気を振り絞って社会の意識を変えようとしているように感じます。しかし前述したとおり、エミリさん自身、かつて性暴力の被害に遭い、今も苦しみから回復の道のりを歩んでいる最中です。痴漢目撃者としての今回の対応はトラウマを抱える心身にさらに強い負荷をかけたのか、エミリさんはしばらくの間、かなりつらそうな様子でした。そんな姿を見るにつけ、いつまでもエミリさんのような人たちの志に感服しているだけでは不十分だと感じるようになりました。痴漢の被害を目撃したときに、とっさに彼女のような勇気ある行動をとることは難しいかもしれません。でも、「痴漢レーダー」を使ってみる、「立ち位置や座る位置を変わると申し出る」、「根拠もなく “えん罪かもしれない・・・”と思わない」…どんなことからでも構いません。ひとりひとりの小さな行動の変化が、「痴漢を“他人事”」と捉えている人たちの意識をやがて変えていく…。そんな希望を持たずにはいられません。

今夜1月23日(木)よる10時の『クローズアップ現代+』は、「痴漢レーダー」に寄せられた被害情報から明らかになった実態と抑止対策について伝えます。

あなたは、痴漢被害を目撃したら どうしますか?
下に「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。

※過去の“痴漢”に関するトピック
Vol.19 想像してほしい “声を上げられなかった”私の気持ち
Vol.23 “痴漢をさせない” ために…何が必要だと思いますか?
Vol.42 痴漢を見過ごしてきた社会
Vol.44 高校生の思いが生んだ 痴漢抑止バッジ
Vol.45 痴漢 皆さんの声① 打ち明けられなかった理由
Vol.46 痴漢 皆さんの声② 相談したけれど…
vol.47 受験生を痴漢から守りたい!#withyellow運動
vol.49 試験の朝、痴漢に・・・ 通報した勇気
Vol.50 データが浮き彫りに!知られざる痴漢被害の実態
#性暴力#MeToo#Withyou
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2020年1月22日
【性暴力を考えるvol.50】1月23日(木)放送 クロ現+『 データが浮き彫りに!知られざる痴漢被害の実態』
ボタン一つで被害の場所や内容を登録できるアプリ「痴漢レーダー」。被害情報が登録された現場に、専門家と向かうと、意外な盲点が見えてきました。

この半年でアプリに集まった2000件超の情報から 埋もれてきた痴漢被害の実態を明らかにし、対策を伝える「クローズアップ現代+」は、1月23日(木)放送です。ぜひご覧ください。

専門家:立正大学 教授 小宮 信夫さん(犯罪機会論)
日本人として初めて英国ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」座長、東京都「非行防止・犯罪の被害防止教育の内容を考える委員会」座長などを歴任。犯罪者の「動機」よりも「機会」に着目し、環境づくりによって「犯罪に手をつける機会」を減らしていく試みを提唱している。


痴漢が発生しやすい場所や環境について、あなたはどう考えますか?
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※過去の“痴漢”に関するトピック
Vol.19 想像してほしい “声を上げられなかった”私の気持ち
Vol.23 “痴漢をさせない” ために…何が必要だと思いますか?
Vol.42 痴漢を見過ごしてきた社会
Vol.44 高校生の思いが生んだ 痴漢抑止バッジ
Vol.45 痴漢 皆さんの声① 打ち明けられなかった理由
Vol.46 痴漢 皆さんの声② 相談したけれど…
vol.47 受験生を痴漢から守りたい!#withyellow運動
vol.49 試験の朝、痴漢に・・・ 通報した勇気
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2020年1月21日
【性暴力を考えるvol.49】試験の朝、痴漢に・・・ 通報した勇気
大事な試験の日の朝に満員電車に乗っていたら、洋服に精液がかけられていた-。あなたなら、どうしますか?

「恐怖と動揺の中、迷ったものの、泣きながら駅員さんに話し、警察を呼んで、被害届を出すことを決めました。」

先月、「みんなでプラス 性暴力を考える」に投稿を寄せてくれた、埼玉県の大学3年生、真由さん(21・仮名)。1人でも多くの人に知ってほしいと、体験を話してくれました。

(さいたま放送局記者 信藤敦子)

気づかなかった犯行


大学まで片道2時間かけて通学をしている真由さんの投稿です。被害に遭った日は、必修科目の試験を受ける予定でした。12月の寒い朝、さいたま市内の駅から電車に乗った真由さん。通学に使っていたのは、朝夕のラッシュ時の混雑が激しいことで有名な埼京線でした。その日も、全く身動きがとれなかったといいます。

「車内は激混みで、何とか手すりにつかまって、ドアにもたれて車窓を見ていました。」

真由さんは友人にプレゼントされたお気に入りの白のボアのブルゾンと、黒いボトムスを履いて、授業の資料が入ったカバンを前に抱えていました。電車に乗って10分ほど経過したとき、上着の裾がめくれるような感覚があったといいます。

「超満員の埼京線では、足にカバンが当たったり、服がめくれたりするのは日常茶飯事。この日もどうすることもできず、乗り換える駅までそのままでした。服がめくれた以外の違和感は何もありませんでした。」

「通報する」と決めた勇気
やっとのことで目的の駅に着いて降りると、白いブルゾンの裾が腰の部分までめくれていました。戻そうと後ろに手を伸ばすと、ぬるっとしたものが付いたというのです。

「なんだろう?と思って脱ぐと、右腰の部分に白い液体がべったり付いていました。驚いてにおいをかぐと、すごく嫌なにおいがしたんです。もしかして・・・と思いましたが、試験があるので、そのまま次に乗る電車のホームに向かいました。」

真由さんは、乗り換えるホームにあった売店で除菌シートを買って、手に付いたものをぬぐい、ブルゾンを脱いで手に抱えて、ひとまず大学に向かいながら、スマートフォンで「電車 精液 痴漢」などと検索すると、精液をかけられる被害を受けて通報したという人の書き込みが出てきました。


(同じような痴漢被害を受けたという人の書き込み)

「やはり痴漢だったんだ。通報するべきかもしれない・・・」。高校生のとき、盗撮被害に遭い、泣き寝入りした経験がある真由さん。2駅ほど進んだところで、大学に連絡。事情を伝えると、試験を別の日に受けられる配慮をしてくれるといわれました。「通報しよう。」意を決して、真由さんは被害に気がついた駅に戻り、通りがかった女性の駅員に被害を伝えました。自然に涙があふれ出てきました。

「大事な試験の日に、何でこんな目に遭うのか。怖くてつらくて、たまりませんでした。お気に入りの服がだめになってしまったことも悲しかったし、知らない人に性的な目で見られていたことも 何もかもがショックでした。」

通報してから起きること

(真由さん)

駅の事務室で待っていると、女性警察官が来て、優しく声をかけてくれました。泣いている真由さんの話をうなずきながら丁寧に聞いてくれて、その場で証拠採取もしたといいます。

「拭いた除菌シートをそのまま持っていたので、DNA鑑定に回すと言われて、渡しました。」これが後々、功を奏すことになります。

その後、パトカーで警察署に行き、1日がかりで調書の作成や写真撮影が行われたそうです。「怖くて悔しくて、ずっと泣いていたこともありますが、駅員や警察官はどの方も対応が親切で、嫌な思いはまったくしませんでした。」

早朝に家を出たのに、事情聴取を終えて警察署を出たときは、もうすっかり日が暮れていました。年末の寒い夜。まだ2、3回しか着ていなかった白いブルゾンは、証拠として提出してしまったので、真由さんは警察署の名前が入ったジャンバーを借りて、羽織って帰りました。
「当たり前ですけど、ものすごく目立って。電車内でじろじろ見られて、すごく恥ずかしかったことを今でも覚えています。」

冷ややかな家族の反応
くたくたになって自宅に着いた真由さん。家族に被害を打ち明けると、思ってもみない反応が返ってきたといいます。

「兄弟から、『いつもそんな格好をしているから狙われるんだよ』と言われました。大きめの白いジャケットに黒いボトムスで、露出は全くありませんでした。悔しくて思わず、『普通の格好だよ!』と反論しました。まさかそんな風に言われるとは思わず、とてもショックでした。」



追い打ちをかけるように、普段電車を使わない母親からも、「ぼーっとしているからよ」「その場で声をあげればよかったのに」と責められたといいます。

「一番寄り添ってほしかった家族に、『つらかったね』とひとこと言ってほしかった。どんな格好をしていても、されていいことでは決してないと思う。着たい服を着て、何が悪いのでしょうか。」真由さんは、そのときの経験からスカートが履けなくなってしまいました。

DNAの結果が出た!

(真由さん)

去年11月。真由さんの携帯電話に、見知らぬ番号から電話がかかってきました。調べると被害届を出していた警察署からで、すぐにかけ直しました。すると、DNA検査の結果が出たというのです。被害から2年がたち、半分諦めかけていたところでした。割り出された犯人は、30代後半の会社員の男性で世帯持ち。真由さんが電車に乗った駅から、ずっと狙っていたというのです。しかも犯人は前にも同じような痴漢行為をしていました。

「怖いし、忘れたいと言う気持ちもありましたが、一方で見つからなかったらどうしようという不安も大きかった。待っている間は、このまま泣き寝入りしちゃうのかなと思っていたので、犯人が見つかったのは素直にうれしかった。」

警察から、「逮捕してほしいですよね」と尋ねられた真由さんは、迷わず「はい」と答えたといいます。

「前にも同じことをされている人がいて、私がまた被害に遭った。それは加害者が反省していないということだと思うし、またやると思います。私と同じようにひどい目に遭う人がこれ以上出てほしくない。」

被害のあと、真由さんはさまざまな後遺症に悩まされ続けました。埼京線には怖くて乗れなくなり、路線を変えて、通学することを余儀なくされました。定期券を買い換え、2時間かかる大学までの通学時間がさらに延びてしまったといいます。さらに、男性に後ろに立たれることに恐れを感じるようにもなりました。真由さんは警察に、「自分と同じように後遺症を抱える人がこれ以上出ないように、必ず逮捕してほしい」と伝えたと言います。捜査は現在も進んでいます。

社会で甘く見られている痴漢


痴漢が社会で甘く見られていることが、被害がなくならない原因の1つだと、真由さんは考えています。

「満員電車に乗っているから仕方ない、と言う人もいるのかもしれませんが、仕方ないで片づけられる話ではないと思います。」

800人以上の痴漢の加害者の再犯防止プログラムに携わってきた精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんは、精液をかけるという行為を繰り返す人は一定程度いるとした上で、「自分がやった加害行為によって、被害者が電車に乗れなくなったり、生活に支障をきたしたりするということを、加害者はそれを知ってやっていることが多い。その被害者の人生や記憶へのマーキングといえる加害行為で、ある種の支配欲が背景にあると考えられる」と話していました。


今回の取材を機に、2年前に被害を受けたあと初めて埼京線に乗ってみたという真由さん。「時間帯が違ったので、何とか乗れました」とホッとした様子で話してくれました。どれだけの恐怖を感じ、日常で不便を強いられてきたのだろうかと、笑顔の裏にある不安な日々を思わずにはいられませんでした。

一方、犯罪行為をゲームのように考え、抵抗できない車内で、一生心に残るかもしれない加害行為を繰り返すことは断じて許せません。誰もが安心して電車に乗れるような社会にするために、そろそろ本気で痴漢対策を考えるときが来ているのではないかと思いました。
1月23日(木)よる10時からの『クローズアップ現代+』は、埋もれてきた痴漢被害の実態と対策について詳しく伝えます。
(放送予定は急きょ変わる可能性があります。あらかじめご了承ください)

あなたは、痴漢被害について、どんな経験がありますか?真由さんのように通報することについて、どう考えますか?
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2020年1月17日
【性暴力を考えるvol.48】子どもの頃の被害と生きるために
先日、名古屋で開かれたフラワーデモのスピーチの場に初めて立った女性がいます。名古屋在住のなみさんは、小学生のときに父親から性虐待を受けました。被害から長い苦しみの歳月を経て、ようやく前向きに生きようと思えるようになったという なみさん。きっかけとなったのは性暴力を受けた当事者との語らいや、全国各地で毎月11日に行われているフラワーデモでした。

性暴力によってもたらされる「痛み」とともに生きるサバイバーたち。日々複雑に揺れ動く感情と思いを抱えながら、自分の人生をどう取り戻そうとしているのか、一人の女性の語りからヒントを探ります。

(名古屋放送局ディレクター 朝隈芽生)

「触るぞ」と言われて…
なみさんが性虐待を受けたのは小学校低学年のとき、加害者は実の父親です。性虐待が行われたのは、両親となみさん、そして幼い弟の4人で就寝中のことでした。母親は病気がちな弟の世話にかかりきりのことが多く、なみさんは常に寂しい気持ちを抱えていたといいます。その気持ちを紛らわせるかのように、父親に身を寄せると、父親からは「そういう風に近づいたら触るぞ」という言葉が返ってきたといいます。

「まだ、小さかったので、父親の言う『触るぞ』の意味が分かりませんでした。分からぬまま、わたしは『いいよ』と、答えてしまいました。自分が『いいよ』と言ってしまったことに、強い自責感と、自分の身体がひどく汚れたような嫌悪感がありました」

当時、なみさんは幼いながらも父親から受けたことを誰にも話すことは許されないと思ったといいます。それでも、勇気を出して母親に打ち明けました。すると、母親は「体を触るのをやめてあげて」と父親に伝えてくれたものの、父親は「コミュニケーションの一環だろ!」とどなり、母親と なみさんを委縮させたといいます。

「その時の、お母さんの諦めてしまったような顔は忘れられません。わたしも、諦めるしか方法がないと思いました。諦めることは、母親を守ることでもあるように感じてしまいました。母親を守ることは、深い孤独と絶望との引き換えでした」  

それ以降、母親が なみさんの性虐待の訴えに向き合ってくれることはなくなり、なみさんも性虐待のことについて口を閉ざすようになりました。



沈黙の時を経て、ようやく自覚した「怒り」
なみさんが再び性虐待の経験に向き合うようになったのは、被害から長い年月が経過した2年ほど前です。きっかけは、自分と同じように、性暴力を受けた経験のある人たちとの出会いでした。子どもの頃に被害を受けてからずっと、性虐待のことを「つらい」と思うことさえ禁じていたという なみさん。しかし、名古屋で開かれていた性暴力被害を受けた人たちが集まる自助グループにつながり、当事者の人たちと話す機会を得たことで、「つらい」という気持ちを認めてもいいんだと思えるようになったといいます。なかでも なみさんにとって大きかったのが、自助グループを通じて出会った ある性暴力サバイバーの女性が結婚や出産を経て幸せに生きている姿を目の当たりにしたことでした。

「それまで自分が被害に遭った年ごろの女の子と接することも難しく、結婚や出産は自分にとってタブーだと思っていたけど、いろんな生き方を見て “自分も幸せになってもいい”と思えるようになりました」

さらに、なみさんは、名古屋で行われたフラワーデモにも参加。参加者たちがスピーチする様子を聞くうちに、だんだん性虐待を行った父親や 最後まで守ってくれなかった母親への怒りを自覚しはじめたといいます。そして、去年の夏。なみさんは母親に長文のメッセージを送りました。性虐待を受けた子どもの頃、助けてくれなかったことで抱いた諦めや無力感が何をもたらしたかということ。そして、もう今後は関わりを持たず、実家にも帰らないという宣言でした。

人との縁を切らなくて済むように
そうしたなか、なみさんは新たな試みをはじめようとしています。それは、近親者から性虐待を受けた当事者のための自助グループ。実の親から性虐待を受けた人だけが集まる自助グループが身近に欲しいと感じていた なみさんは「名古屋にないなら、自分でつくってしまおう」と、立ち上げを決意したといいます。グループの名前は「きらず」。きらずとは「おから」を指す言葉。なみさんはこの名前について込めた思いについて次のように語ってくれました。

「性虐待を受けた自分自身を切り離さなさなくてもいいように、人との縁を切り離さないように名付けました。また、おからが卯(う)ノ花や、おからドーナッツのように いろいろな料理に調理されるように、性被害の過去を持ちながらでも、なりたい自分になれますようにとの願いを込めています。」

「他人と自分と縁を切らなくてもいいように」との願いは、何よりも なみさん自身の経験から、強く感じていることです。これまで親しい友人にも、自分が性虐待のサバイバーであるということを言えずに、一時は罪悪感やうしろめたさを抱え、人と疎遠になりがちだったという なみさん。自助グループを通して本音で話せる味方を得ることで、人との縁を「きらず」に自分らしい人生を歩みたいと考えています。

また、なみさんは「本当は親とも仲良くしたかった」と話してくれました。親との連絡を断ってから半年、今では母親ともう一度話したいという気持ちになることもあるといいます。もし、機会が訪れるなら関係を修復することができればと願っています。

“聞き手” から ”語り手”へ
そして、ことし1月、なみさんは初めてフラワーデモで自身の思いを語りました。スピーチにあたっては、何か月も前から話す文章を考え、当日、約80名の参加者の前に立ちました。なみさんが身につけていたのは花柄の着物。「お守りになるように」と友人がこの日のために用意してくれた、特別な衣装です。

愛知県内では、父親が当時19歳だった実の娘に性的暴行をした罪に問われた裁判に多くの注目が集まっています。名古屋のフラワーデモでも この事件に関心を持つ多くの人たちが、なみさんの言葉に真剣に耳を傾けました。なみさんはスピーチで、フラワーデモをきっかけに性暴力に抗議をする気持ちがわき上がってきたこと、性被害者が罪悪感を抱えて生きざるを得ない社会を変えたいという思いを語りました。


(フラワーデモでスピーチする なみさん)

「安心して話せる場所がここにあるということ、そのことは被害者にとって、被害体験を自分から切り離し、被害を過去に変えて、人生を歩み直していくうえで必要なことだと思います。(中略)まだまだ、回復の過程ではありますが、悲しみだけで過ごしていた時間が少なくなっていくにつれて、社会の構造に疑問を持つようになりました。性被害の当事者が性被害に遭ったことに対して、罪悪感を持たずにいられるような社会になること、性被害をうけたことを相談された人が、被害の最小化や “無かったこと”にしない社会の雰囲気を作ることを望みます。」

性虐待のサバイバーとしてできること、そして、自分がやりたいことは何なのか、考えながら過ごしてきたという なみさん。「誰も助けてくれない」という孤独感を抱きがちな性虐待の被害者の気持ちを誰よりも理解できる自分だからこそ、スピーチで「1人じゃない」というメッセージを伝えたかったといいます。それは、かつてのなみさんがフラワーデモで受け取ったメッセージでもありました。

スピーチを終えると、なみさんは参加者の中にいた知人たちに駆け寄り、笑顔で言葉を交わしていました。フラワーデモや自助グループなどを通して出会った人たちや、なみさんにとって大切なこの日を見届けようと集まってくれた古くからの友人たちです。去年、ようやく性虐待に遭った過去を友人たちに打ち明けることができたという なみさん。「応援してほしい」という なみさんの気持ちを尊重し、フラワーデモに駆けつけてくれた仲間たちに、感謝の気持ちを述べていました。これまで自身の被害について周囲に打ち明けるなかで、性虐待を受けたことによる罪悪感や恥、孤独感が伝わらずに、一時はもどかしい思いや悲しい気持ちにさいなまれることもあったといいます。それでも、自助グループを立ち上げようとしたり、フラワーデモでスピーチしたりしながら、周りの人たちとの向き合い方を今も模索しています。

取材の最後に、なみさんは自分のいまの気持ちを次のように表してくれました。
「性虐待はとてもつらいできごとだったけれど、悪い思い出として ふたをするだけではなく、性虐待の被害に遭ったことで出会えた人がいたこと、できた経験があることを前向きにとらえたいと思っています。」


(なみさん)

取材を通して、なみさんが悩んだり迷ったりしながらも人生を模索する姿は、性暴力被害に苦しむ他の誰かにとっても希望の光になりうるのではないかと感じました。被害者は決して“弱い”存在であり続ける必要はなく、むしろ そういった人たちの“強さ”に、私たちはもっと目を向けていくこと。それが、性暴力のない社会へのヒントになりうるのではないでしょうか。

記事への感想や、性暴力について あなたの考えや思いを聞かせてください。
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2020年1月10日
【性暴力を考えるvol.47】受験生を痴漢から守りたい!#withyellow運動
「みんなでプラス 性暴力を考える」のページには連日、痴漢被害に遭った経験をもつ方々から、「つらかったことは、周りの人が助けてくれなかったこと。助けてほしかった」という声が数多く届きます。以前、「性暴力を考えるVol.23」で紹介した、痴漢行為を受けた人や目撃した人が被害をネット上に登録して、ユーザーみんなで情報共有できる「痴漢レーダー」。このサービスを開発した女性たちが、来週に迫る1月18日のセンター試験に合わせて、“周りの人たち”が実践しやすい取り組みを始めます。その名も“#withyellow運動”。どんな取り組みなのか、開発者の2人に話を聞きました。

(クロ現+ディレクター 飛田陽子、さいたま放送局記者 信藤敦子)


「もしもの時は助けるよ」の意思表示
先月23日。“痴漢レーダー”の運営会社が、公式Twitterでこんなつぶやきを投稿しました。


(”痴漢レーダー”ツィッターより)

つぶやきにもあるとおり、毎年、受験シーズンが近づくと、掲示板やSNSで「この時期は痴漢し放題。受験生は試験に遅刻したくないから、声を上げないはずだ」などの卑劣な投稿を目にします。実際、受験シーズンに痴漢が増えているのかどうかは確認されていません。

しかし、“痴漢レーダー”開発者のひとりである片山玲文(れもん)さんは、受験生やその家族がただでさえ緊張の日々を過ごしているこの時期に、声を上げづらい状況につけ込んだ痴漢行為を娯楽のように捉えている物言いがはびこること自体、許してはいけない大きな問題だと感じ、本格的な大学入試シーズンの皮切りになる1月18日のセンター試験の初日に、”#withyellow運動”を始めることを思いつきました。具体的に何をするのか。その内容はとてもシンプルなものです。

① なにか黄色のものを身につけて、最寄り駅の駅構内に行ったり、電車に乗ったりして、「痴漢を許さない」という意思表示をする。

② 手持ちのスマートフォンに“痴漢レーダー”のアプリをダウンロードしておき、 自分の近くで被害が登録された時には、被害に遭った人を助ける行動を取る。
(「もしもの時は助けます」と画面表示できる機能を開発中。)




(“痴漢レーダー”HPより)

片山さんは、周りの人たちが一丸となって「痴漢行為を許さない」という姿勢を示すことが、痴漢抑止につながると考えています。

 

「痴漢から あなたを守りたい人がいる」を可視化したい!
アプリを利用するだけでなく、黄色を身につけようと呼びかけるのは、なぜでしょうか? “痴漢レーダー”のもう一人の開発者、ウ・ナリさんは、痴漢の被害者や目撃者がSNSやインターネットにあげる投稿を見ていて気になることがあったからだと語ります。

 

片山さんとナリさんのねらいどおり、電車の中や駅構内で黄色を身に着けていることが 痴漢問題を許さないメッセージとして浸透すれば、痴漢被害に遭いやすい人は、確かに少しは不安が解消されるかもしれませんし、助けを求めやすくなったり、声を上げやすかったりする雰囲気を作ることができるかもしれません。

#withyellow運動のハッシュタグが生まれてすぐ、SNSには、「加害を狙う者たちに対しても 『見てるぞ お前ら』 という警告として働くようになる。ぜひ広めたい」、「黄色のものを身につけてスマホを手にしてるオバはんがいたら、あなたを守りたい人です。」など、運動に共鳴する人の声が拡散されました。なかには、黄色い腕章を買いに行き、自ら黒マジックで #withyellowと記入して電車に乗ってみたという人も…。

(ツィッター より)

“痴漢レーダー”を開発し、“#withyellow運動”を呼びかけている片山さんとナリさんは、この運動を、「痴漢問題を啓発するための通年のキャンペーンに育てていきたい」と話しています。受験シーズンの後は、入社・入学や、就職活動や内定式の時期などに合わせて展開していく予定ということです。

1月23日(木)放送予定の『クローズアップ現代+』(総合よる10時~)では、“痴漢レーダー”に登録された被害データから明らかになった痴漢被害の実態について詳しく伝えます。
(放送予定は急きょ変わる可能性があります。あらかじめ ご了承ください。)

あなたは、“痴漢”や“#withyellow運動”について、どう考えますか?
下に「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。

※過去の“痴漢”に関するトピック
Vol.19 想像してほしい “声を上げられなかった”私の気持ち
Vol.23 “痴漢をさせない” ために…何が必要だと思いますか?
Vol.42 痴漢を見過ごしてきた社会
Vol.44 高校生の思いが生んだ 痴漢抑止バッジ
Vol.45 痴漢 皆さんの声① 打ち明けられなかった理由
Vol.46 痴漢 皆さんの声② 相談したけれど…
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2020年1月6日
【性暴力を考えるvol.46】痴漢 皆さんの声② 相談したけれど・・・
前回に続き、掲載の許可をいただいた皆さんの「声」から、これまで埋もれてきた痴漢被害の実態を伝えます。今回は、ゲームセンターや人通りの多い住宅街など、誰にとっても身近な場所での被害。さらに、被害の後すぐに親や上司など、信頼している人に相談したものの、その対応に深く傷ついたといいます。

もし、あなたの家族や友人が痴漢に遭ったら、どんな言葉をかけるか…。想像しながら読んでいただければと思います。

※この記事では、性暴力の実態を伝えるため、被害の具体的な内容に触れています。フラッシュバックなどの症状のある方はご留意ください。
住宅街で何度も痴漢に 家族の対応は・・・


女性はその後も、下校中や犬の散歩中にすれ違った男性に卑わいな言葉をかけられたり、道路上で停車中の男性から陰部を見るよう言われたり、バイクに乗った男性に胸をたたかれたりといった被害に遭いました。塾帰りにバイクに乗った男性に家を突き止められた上、稲刈り後の田んぼの中に突き飛ばされそうになったり、テスト勉強中、夜間に不審者に家に侵入されかけたりしたこともありました。しかし、最初に祖母から自衛を求められて以来、痴漢を「犯罪」と捉えずにいたためか、こうした恐ろしいことが起こっても両親は一度も警察に届けることはなかったと言います。さらに こう話してくれました。

「折に触れ 友人に体験を話してきましたが、驚かれるだけで、警察に届けたのかと聞く人はいなかったように思います。犯人が捕まることはなく、自分の中で未消化なため、思い出すと体がこわばり、いまだに一人で歩くことに恐怖を感じます。」

母親に“なかったこと”にされた ゲームセンターでの痴漢被害
同じように、親に打ち明けたのに対応してくれず、かえって傷ついたという方もいます。



女性が経験したゲームセンターでの被害は、周りに人気がなく、一人でゲームをしているときに後ろから男に胸をもまれるという痴漢被害でした。その時は何をされているか分からず、ぼう然としてしまい、その男が去った後に、ようやく胸をもまれたと気づいたそうです。その直後、母親にすぐ相談しましたが、驚いただけで、お店の人に言うことも、警察に言うこともせず家に帰ったそうです。女性は、「家に帰った後、すごく苦しかったんです」と話してくれました。

「一人でさみしく切なく、“気持ち悪かった、悲しい、胸を知らない男の人に触られた“という嫌な気持ちになったことを覚えています。『一人ぼっちだなぁ、家族なんて頼れない、こういう時どうしたらいいの』という思いに駆られました。その時以来、ゲームセンターに一人で行くことはほぼ無くなり、外を一人で歩くことへの恐怖心、自分を大事にしなくなるなど色々起きました。当時テレビで流れていた曲を聴くと、その時の記憶がよみがえり、その曲が嫌いになるという事も起きました。被害に遭った当時、母親には、つらかったね、放っておいてごめんね、と寄り添ってほしかったです。」

上司から “自己責任”と責められ・・・


上司のこの対応があり、「自己責任」と言われることが怖くなった女性。その後、被害の感覚がよみがえるような悪夢を見るなど不安定な状態が続きましたが、親にも、友人や知り合いにも言えなかったと言います。また、「性暴力とは、もっとひどいことをされるもの。自分がされた痴漢被害は、深刻なものではない」と考えることもあったと言います。

彼女と電話やメールでやりとりした際、私たち取材班は、「同意のない、対等でない、強要された性的な行為は、すべて性暴力」という、取材を通して教えてもらった言葉を伝えました。すると女性は、こう返してくれました。

「性暴力の被害者は、“被害者”なのに非難され、偏見の目で見られることが多いです。これが同じシチュエーションで、ナイフで刺された被害者ならば、非難されることはないでしょう。番組やホームページを拝見し、性交渉を伴わない被害を“性暴力”として投稿していいのか悩みました。しかし、自分自身、吐き出したい気持ちがあったのだと思います。第三者からの言葉の暴力についても同様です。被害に遭ったあと、しばらくは一人で恐怖と闘っている気分でした。」



3人に話を聞いて感じたことは、「最初に痴漢被害を打ち明けられた人の対応が、いかに重要か」ということです。勇気や覚悟をもって伝えても、取り合ってもらえなかったり、逆に非があるような言い方を一度されたりすると、被害者は、その後なかなか話せなくなってしまいます。それゆえ、被害が繰り返されても表に出ず、“なかったこと“になり、いつまでも痴漢を軽く扱い続ける“負のスパイラル“に陥ってしまうのではないかと感じました。

いま、被害者たちが声を上げ始め、痴漢被害をなくすための新たな技術が開発されるなど、社会は少しずつ変わりつつあります。痴漢撲滅をめざす取り組みの最前線を、今月放送予定の『クローズアップ現代+』で伝えます。

あなたは“痴漢”について どう考えますか?
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2019年12月27日
【性暴力を考えるvol.45】痴漢 皆さんの声① 打ち明けられなかった理由
警察庁によると、去年の痴漢の検挙件数は全国で約3000件。でも、2010年に行われた調査では、痴漢の被害にあった人の約9割が「警察に通報・相談していない」と回答しています。

これまで番組に寄せられた痴漢被害に関する「声」からも、警察どころか、親や友達をはじめ 「誰にも相談していない」ケースがほとんどだということが見えてきました。今回、「痴漢被害から何十年もたった今、初めて話すことができた」とメールを寄せてくださった中から 掲載の許可をいただいた方々に、誰にも言えなかった事情などを聞きました。

※この記事では、性暴力の実態を伝えるため、被害の具体的な内容に触れています。フラッシュバックなどの症状のある方はご留意ください。
“自分がされたことは 親に言ってはいけない”


この女性に電話で話を聞くことができました。被害現場は、都内の電車内。下着の中に手を入れられ、いじられるように触られた記憶があるそうです。びっくりして体が固まり、身をよじるしかなかったといいます。はっきり理解できなかったものの、自分がされたことは異常なことで、「親に言ってはいけない」と思い、誰にも言えず、ひとりでその後の登下校にも耐えていたと言います。

あのとき、どうしたら自分は親に話すことができたのか・・・。被害から50年近くたった今、女性は次のように考えていると話してくれました。

「小さい頃から、年齢に合わせて子どもに教えることが必要だと思います。 “痴漢とはこういう行為。あなたも被害に遭うかもしれない。けれど、それはあなたが悪かったからじゃない。だから、もし遭ったら、信頼できる大人に話しましょうね”。」



“痴漢されるほうが悪い” 親には相談できない・・・
一方、「自分が怒られるかもしれない」と思い、親に話せなかったという投稿もありました。



ふだんから親には相談事がしづらかったという声もありました。





“誰も助けてくれなかったから 声を上げることを諦めた”


新聞を広げたふりをして近づいてくる、複数の人に触られるなど、痴漢被害はほぼ毎日だったそうです。しかし女性は、「やめて」と言ったり、抵抗したりすることはできなかったと言います。

「自分は物事をはっきり言えるタイプですが、痴漢被害のときには何も言えなかったです。『誰も助けてくれない』ことが毎日のように続き、“自分には価値がない“、”痴漢をされることは当たり前“という考えになり、声を上げることさえ諦めるようになりました。その後、被害の情景や感覚がフラッシュバックし、夜中に目覚めることが何度もありました。突然の怒り、不安、いたたまれなさ、恐怖、情けなさが永遠と再生されます。」



被害を目撃しても “行動をとらなかった” 約45%


警察庁の調査(2010年実施)によると、痴漢の被害を目撃したことがある人のうち、45.2%の人が「どのような行動も取らなかった」と回答しています。その理由として挙げられていたのは、「犯人との確証が持てなかった」(57.9%)、「関わり合いになるのが面倒だ」(36.8%)、「急いでいたので時間をとられるのがいやだった」(31.6%)です(複数回答)。


(駅構内に貼られた痴漢抑止ポスター)
“痴漢は犯罪” それが当たり前になるように
取材していて驚くのは、多くの方が、何十年たっても被害を克明に思い出すほど深い傷となっているにもかかわらず、「痴漢なんて軽いことで声を上げるなんて…」と考え、大人になってからも誰にも話していないことです。被害者も周囲も黙認してしまう現状を変えるため、“痴漢があるのは当たり前”という考えを変えなくてはいけないという意見を寄せてくれた方もいます。



学生時代に何度も痴漢被害に遭いながら、 “誰もが通る道”と軽視してきたというこの女性。最近、痴漢への認識が変化したとメールで教えてくれました。

「痴漢というと、軽い罪というイメージがありませんか?いたずらだとか、出来心だとか。でも、痴漢は人のプライドを踏みにじり、重ねてきた大切な人生を壊すことでもあることを、全ての方に知っていただきたい。そして、保育や教育の現場でしっかりと浸透させてほしい。痴漢は犯罪であることを。

今回、改めて過去を振り返ったところ、私自身も痴漢を犯罪ととらえず、具体的に通報などをしていないことに気づきました。これからは被害者が、“私は悪くない“と認識し、声を上げてほしいです。ただ、被害者は恐怖で声が出なくなり、“助けて!“が言いたくても言えないこともあります。痴漢は犯罪という常識が根づくことが急務であると思います。」




冒頭に紹介した60代女性も、痴漢に対する認識が変化したそうです。その理由は 「痴漢に“寛容”すぎる現代社会への危機感」だったといいます。

「ネットや本屋など、誰でも目にできる場に痴漢を扱った漫画や動画があふれ、痴漢が“娯楽”のジャンルのひとつになっています。その一方で、痴漢は犯罪であり、被害者を深く傷つける重い罪だということは教えられず、私をふくめ、誰もが痴漢がいることになれてしまっているのではないでしょうか。誰かが“嫌”という声を上げないと、加害者も被害者も増えるばかりだと感じ、初めてこの経験を話しました」と語ってくれました。

こうした声が多くの人の目に留まり、“痴漢は犯罪”という認識を少しずつ広めていくことが何よりも大切だと感じました。 “性暴力を考える”取材班は、来月も、皆さんの声を紹介し、埋もれてきた痴漢被害について伝えます。

あなたは“痴漢”について どう考えますか?
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2019年12月25日
【性暴力を考えるvol.44】高校生の思いが生んだ 痴漢抑止バッジ
女子高校生のアイデアをもとに作られた「痴漢抑止バッジ」。ユニークなデザインの中に書かれているのは 「痴漢は犯罪です」、「泣き寝入りしません」などの強いメッセージです。

バッジに込められた思いと 取り組みの広がりを取材した『首都圏ネットワーク』企画ニュースのテキストは、こちらからご覧いただけます。
https://www.nhk.or.jp/shutoken/net/report/20191223.html

※このリポートでは、性暴力の実態を伝えるため、被害の内容に触れています。フラッシュバックなどの症状のある方はご留意ください。

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2019年12月23日
 【性暴力を考えるvol.43】一徹さんと考える 「性的同意」とは?
女性向けAV俳優として人気を集める一徹さん。今年6月に著書『セックスのほんとう』を出版し、“性的同意は、今後、僕たちが女性とセックスをしようと思った時に避けては通れない話になっていく”という考えを記しました。性的な行為を行うとき、「同意」を確認することが当たり前になれば、性暴力に苦しむ人も減るのではないか。そんな思いから、一徹さんといっしょに性的同意について考えようと、インタビューをお願いしました。

(聞き手・ディレクター 神津善之 田邊幸)


<一徹さん(40歳)>
1979年生まれ。AV俳優歴16年目。現在は自ら、女性が嫌がる行為をしない、性教育にも使えるAVを制作しようと模索中。自身のオンラインサロンでは、セックスに苦しむ女性たちの悩みにも耳を傾けている。私生活では結婚して子育て中。


AVの世界はファンタジー 現実ではない
AVの世界で働く一徹さんにまず聞きたかったのは、「性的同意のない 性暴力が起きる背景に、AVの影響がある」という意見があることについて。こうした指摘をどのように受けとめているのか-



この仕事をやらせていただいて、少なからずAVはファンタジーとしてみんな楽しんでいるものなんだなと思ってたんですけれども、女性たちの生の声を聞くようになって「意外にそうでもないんだ」って。ファンタジーをファンタジーとして楽しむだけじゃなくて、相手の意見とか意思を尊重せず、おろそかにして自分の欲求をぶつけたいっていう方が多い、それで女性をまた我慢させちゃっているっていう状態が結構多いんだなって分かって。そうなると、なんか自分の作っているものが、たまに「とても罪深いもの」なんじゃないかなっていう、悲しい思いというか。なにかできないかなっていう思いはずっともってましたね。

一徹さんは著書『セックスのほんとう』で、AVはファンタジーだとあえて説明している。その理由はー

いわゆる裏側をあえて話す、せっかく工夫して驚かせようとしてやってるそばからバラすって、一緒にコンテンツを作っている人からすると たぶん「おもしろくない」と思われそうなので、すごく、書くときは考えたんですけど…。

いまはスマホで何でも検索できる時代で、18歳以上じゃなくても「はい」って押せば、その先の映像が見えちゃって、「これがエッチなんだ」と思ってしまう。一方で、「正しいエッチ」というか、「ファンタジーじゃないエッチ」ってどんなだろうというのを学ばないまま、話もしないまま、ずっと「こういうものなんだ」と思って進んでいっちゃう状態がある。だから、言った方がいいと思いました。

また、被害に遭われている、我慢されている方たちの思いがたまっていくと、それが巡り巡って ぼくたちの業界自体がなくなっちゃうかもしれないとも思っているんです。そうならないためにも、これはちゃんと言っていく必要はあるんだろうなって思いました。正直、死活問題だから発信しようという考えもありました。

「痴漢」を題材にしたAVの中には、“じっさいの電車の中?”と思わせるような映像もあるがー

最近、痴漢を題材にしたAVのお仕事を頂いていないので、あくまで聞いた話で申し訳ないですけども、実際にそういう電車のロケセットがあって。で、ロケ用の電車を借り切って、エキストラを呼んで、その中で撮影は行われ、本物の電車では行われていないって聞いていますね。

過去には、僕が、女優さんに満員電車の中で犯されてしまうっていうシチュエーションの撮影をしたことがあります。そのときは池袋にあるスタジオで、電車を輪切りにした半分だけのセットで撮りました。SNSを見ると「女の人も痴漢されたがっている」という発言があったりするんですけど、それは全然ウソで、本物の電車で、どこの誰とも知らない人にいきなり そんな行為をされることは、本当に恐怖でしかないと思います。実際にトラウマになっちゃって電車に乗るのが怖いって方もいらっしゃいます。ですから、痴漢をしている人は、すぐやめてください。相手の人が痴漢されたがっているなんてことはありませんから、今すぐ考え方を改めてください。



「性的同意」は いつでも、相手が誰でも 不可欠
「最低限のルールとして、僕たちは、これからする いかなるセックスにおいても、女性に強要をしたり、同意なしに行為に及んだりすることを避けなくてはなりません」(『セックスのほんとう』より)

一徹さんは「性的同意」をどのようなものと考えているのかー

いま考えている「性的同意」の定義は、シンプルに言うと、「相手が嫌がることはしちゃダメだよ」っていうことなんです。それが「いつでも、だれでも、嫌なら嫌だ」って言ってもいい。たとえ夫婦の間でも、彼氏彼女の間でも。「彼氏の家で2人きりになった」イコール「男女の仲になれるか」といったらそんなこともない。どんなに好きでも、「セックスが嫌なときは言ってもいいんだよ」っていうこと。一方、「セックスしたくない」と言われた側も、自分の人格が否定されたわけではないと理解して、「セックスしたくない」という相手の気持ちをちゃんと尊重してあげるっていうことが大事じゃないかなと思います。

ただ、何をもって同意とするのか明確な基準はなくて、すごく難しい。ちょっとさかのぼって「やっぱりあの時、雰囲気で同意しちゃったけど、あれはその場を収めるために我慢しただけで、じつは強要されていた」って言われたら、何も言えないなと。完璧な同意、みんなが納得できる同意のあかしって、どうやって残すことができるんだろうって思いますね。

例えば、記録として動画や契約書を残すのか。オンラインサロンにいただいた意見を見ると、セックス中に動画を撮影して、その時の楽しそうな様子を同意の証拠として残している人もいるらしいんですよ。まあ、お互いがいいんだったらいいんですけど、何か2人の間でトラブルがあった時、あるいはウイルス感染などで、ふとしたところで その動画がアップされてしまったとしたら…。1回SNSに流れると、記録削除しても残ってしまう。それってまた別の問題を生むんじゃない?って思います。

あとで問題が起きた時に、何をもって同意があったことを証明するかっていうのは、僕自身、まだこれっていう答えがなくて・・・。
同意の確認は、言葉が一番
相手の同意を確認するには、どうすればー

お互い納得して、相手の意思を尊重した状態にあることを示すためには、言葉が一番大切なんだろうなっていう感じはしますね。言葉に出すってすごく野暮(やぼ)だし、かっこ悪いし、「こう察してほしい」って文化って多分あると思うんですが、それは、もうやめた方がいい。素直に言っちゃった方がいいと思います、かっこ悪くても。

例えば「君としたい」って、そこはちゃんと言う。これまでは「恥ずかしいから」と、臭い物に蓋をしてきた人は多いと思うんですよね。なんとなく、お酒を飲ませて、なんとなくそういうことに及んで、相手の意志を確認しないで取り返しのつかないことになるよりも、最初から、ちゃんと言う。とっても大事なことなので、恥ずかしがらず、おしゃべりしてもらいたいですね。

セックスに至るまでにいろいろ確認したりするのは、面倒と感じるかもしれないですが、かけたほうがいい手間だと思います。結局、相手に同意の意思がないのに無理やりやっても、うれしいですか?僕はうれしくないので、できるんだったらお互いの意思が一致した状態でそういった行為をしたい。



頭で分かっていても、口に出せないと感じる人もいる。言葉にするためのアドバイスはー

どうしたら言葉にできるのか、それは「男らしさ」とか「女らしさ」の話になっていくと思うんですよ。「男は黙って何々」みたいなコマーシャルじゃないけど、「男の人もつらいことがいっぱいあるけど、いろいろ話すと言い訳っぽく聞こえてかっこ悪い。いちいち性について話をするのは情けない、女々しい」って思う人は少なくないかもしれません。何か悲しいすれ違いが起きてるのかなって思います。

でも、大事なことだから、やっぱり話した方が良いんですよ、絶対に。で、そのためにはちゃんとお互いを理解するためにコミュニケーションもしていかなきゃダメだと思います。また、時代によってどんどん変わっていきますからね、価値観って。だから やっぱり そのつど確認していかないとダメですよね。
誰もが対等につきあえる社会に
いま、性暴力の被害に遭った人たちが声を上げ始めている。そうした状況をどう思っているかー

「いままで 男性って下駄(げた)を履かされてきたんだよ、パートナーの我慢の上で自分の征服欲を満たしてきたんだよ」っていう声もたくさん聞こえてきています。実際、いままでは、男性、いわゆる対人関係で力を持っている方が、持っていない人に対して、下駄を履かせてもらっていたんだと思います。だから これからは、いい意味で対等になっていくんだろうなっていうことですね。きっと少しずつ、いい方向に向かっていくんじゃないかなと思っています。


取材を通して、一徹さんがセックスや性的同意について真剣に考え続けてきたということ、そしてその背景には、セックスや性の問題で苦しんでいる人たちへの深い思いもあるということを感じました。誰もが対等につきあえる社会になっていけば、性的同意も当たり前になっていくのではないか…そんなことを考えながら、まずは自分自身も、男らしさ・女らしさにとらわれてはいないか、身近な人と対等な関係を築けているのか、問い直したいと思いました。「性的同意」について、これからも取材を続けていきたいと思います。

みなさんは、一徹さんの話をどう受けとめますか?「性的同意」についてどう考えますか?
意見や感想を下に「コメントする」か、 ご意見募集ページに お寄せください。
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2019年12月20日
【性暴力を考えるvol.42】痴漢を見過ごしてきた社会
警察庁の調査(2010年)によると、痴漢行為を目撃したことがある人のうち、「どのような行動もとらなかった」という人は約45%にのぼります。その理由として挙げられていたのは、「犯人との確証が持てなかった」が約58%、次いで「関わり合いになるのが面倒だ」が約37%、「急いでいたので時間をとられるのがいやだった」が約32%でした(いずれも複数回答)。

“性暴力を考える”取材班は、痴漢を撲滅するためには、痴漢被害を これ以上 見て見ぬふりをしない社会が不可欠と考え、取材を継続しています。今回は、この冬に出版された2冊の本から、痴漢を見過ごしてきてしまった“周囲”について考えます。

※記事では、被害の実態を伝えるため、痴漢行為の内容に触れ、痴漢がどのように“娯楽”と一部の人たちの間で見られてきたか、具体例を紹介しています。フラッシュバックなどの症状がある方はご留意ください。

(クロ現+ディレクター 飛田陽子)

心配なのは“被害”か“えん罪”か


私自身は、痴漢被害に遭ったことはあっても、目撃したことはありません。もし目撃する機会があれば、すぐに被害に遭った人を助け、加害者を捕まえたいと考えています。でも、前述の警察庁の調査によると、痴漢被害を目撃したことがある人は、どのような行動もとらないという人が半数近く…。どうして、見て見ぬふりをして、被害に遭った人を孤立させてしまうのでしょう。同僚にこのデータを見せてみると、「この結果は妥当だと思う。被害に遭っていることがよっぽど分かりやすくないと動けないよ。だって、もし、えん罪だったら大変なことだから。」と言う男性がいました。

えん罪。確かに、あってはならないことだけれど…いやいや、待って、そもそも痴漢被害に遭うことだって、“大変なこと”なんだよ…。えん罪があるかもしれないからという懸念だけで、被害に遭っている人を見ても助けないという判断をしてしまうの? 同じ「痴漢」の話をしているはずなのに、私と同僚の間では「痴漢」の捉え方や、心配しているポイントが違うような気が…。妙に、モヤモヤした気持ちだけが残りました。
“痴漢観”のあゆみ 見つめ直すと…


そんな中、“そもそも痴漢がどういうものとして社会で捉えられてきたか”、これまでの流れをまとめた本と出会いました。『痴漢とはなにか 被害と冤罪(えんざい)をめぐる社会学』(エトセトラブックス)――元警察官という経歴を持ち、龍谷大学犯罪学研究センターで社会学・ジェンダーを専門に研究している牧野雅子さんが、3年がかりで書いた1冊です。

「メディアでは、痴漢被害をいかに防ぐか、痴漢えん罪に巻き込まれないためにはどうしたらいいのか、女性専用車両は男性差別ではないのかといったことが問題にされているが、対策を講じるためには、これまでに何が起こり、何が語られてきたのかという前提を共有する必要がある。」(「はじめに」より引用)

牧野さんが研究しているのは、日本社会の“痴漢観”のあゆみ。『痴漢とはなにか』は、警察統計などから、どの程度 痴漢被害の状況が公的機関に把握されてきたのか、もし事件として扱われる場合は、どのように捜査が進められるのか、具体的に書かれています。それだけでも、この本は今までどこにもなかった痴漢研究の書ですが、とくに注目したいのは第二部・第三部です。


(駅構内に貼られた痴漢撲滅キャンペーン・ポスター)

痴漢に対する社会の意識がどのようにつくられてきたのかを読み解くために、牧野さんは、痴漢撲滅を呼びかける各地域のポスターをはじめ、戦後から現在までの「痴漢」に関する話題が掲載された雑誌や新聞記事を分析しています。そして、痴漢が“性被害”として捉えられずに、あたかも“娯楽”のように軽視されてきた過去をあらわにしました。

11月下旬、都内で開かれた『痴漢とはなにか』について語るトークイベントで、牧野さんが分析のために集めてきた資料の一部を紹介すると聞いて、会場を訪ねました。
痴漢が“娯楽”だった時代 その先の“いま”

(トークイベントで語る牧野雅子さん)

「『痴漢』という言葉を知らない人はいないし、みんな えん罪だの いろんなことを言いますが、そもそも痴漢がどういうものか、社会で共有してきた情報や認識がないので、かみ合わない議論ばかりなのだと思う。被害をなくすための議論のたたき台になるようなものとして、私はこの本をまとめたかった」

イベント前にそう話してくれた牧野さん。スライドに映し出したのは、私が全く知らなかった、衝撃の史料の数々でした。


(ある雑誌に掲載された特集「快適通勤電車特集 ここまでならつかまらない スレスレ痴漢法とは何か?」


「感謝の気持ちでさわること」という小見出しが掲げられたページ)


「さてどの女をさわろうか。ウィヒヒヒヒ」という吹き出しのついた痴漢のイメージ写真)

性犯罪の手口を紹介しているというのに、後ろめたさが全く感じられないこの誌面。会場に集まっていた人たちから、落胆のため息や、あきれはてた失笑が聞こえてきました。さらに驚くことに、これは成人向け雑誌のページではないといいます。1982年に、当時の気鋭のクリエーターたちが集まって制作した、一般雑誌の創刊号なのです。

加えて、牧野さんの書籍『痴漢とはなにか』には、「私は、女性には、痴漢に襲われたいという願望があるのではないかとも考えている」とか「女性にとって、それほど不愉快な出来事ではないのではないかという気がする」とつづる直木賞受賞作家のエッセイの抜粋や、「『痴漢しなきゃ』っていう気持ち、青春の一過程で何かつかめるものがあるんじゃないかと思って触ったんだと思います」などと 高校時代の痴漢経験を語るミュージシャンの発言を、性に目覚めたばかりの若者のほほえましいエピソードかのように紹介したインタビュー記事の抜粋が掲載されています。

痴漢が許されざる犯罪であることや、被害に遭う人の尊厳を奪い、長く心を傷つける深刻な性暴力であることがまるで理解されず、“大衆の娯楽”のように みなされていた時代があったのです。

メディアはなんて身勝手な物言いを発信していたのだろう。痴漢に遭ったことがある一人としても、メディアに携わる者としても、ひどく残念な思いになりました。そして、このような記事や発言に接する中で、痴漢への誤解と軽視を深めた人が少なからずいたであろうことが恐ろしくなります。悲しいことですが、私たちは、そんな社会の延長線上で暮らしているのです。つい最近も、人気お笑い芸人コンビが痴漢を“笑いのネタ”として扱い、SNSで議論が起きました。
世界が“CHIKAN”に向ける 嫌悪のまなざし

(イギリス政府のHPより 2019年12月)

一方、痴漢は近年、海外では身近に潜む性暴力として問題視されています。イギリス政府は、日本への渡航情報のページに「通勤電車内で女性に対する不適切な接触行為、“CHIKAN(痴漢)”がかなり頻繁に報告されている」と記し、注意喚起を呼び掛けています。また、3年前には、中東最大手メディアのアルジャジーラが日本の痴漢被害について特集を組んで報道。「すべての少女は被害者だった」と題し、痴漢被害を経験した女性は少なくないということを、日本の恥ずべき実態として紹介しました。


(アルジャジーラの公式サイトより 2017年3月8日「国際女性デー」に掲載)


“私には自分の国を去りたい理由があった” ある日本人女性の告白
世界は日本の痴漢に驚きと怒りのまなざしを向けているのに、日本では、痴漢が相変わらず軽視され、娯楽のようにみなされる傾向がある中、“見て見ぬふり”してしまう人が多いまま…。このままでは、被害に遭った人が一方的に傷つけられ続けるばかりです。「被害者は、痴漢行為を受けただけでもつらいのに、周囲の冷ややかな対応によって どれだけ深刻なダメージを受けるものか、伝えなければ」という思いで書かれた本があります。『少女だった私に起きた、電車のなかでのすべてについて』(イースト・プレス)です。



この本は、中学1年生のときから高校3年生になるまで、6年間もの間 東京都内で痴漢被害に遭っていたという佐々木くみさん(30代・現在はパリ在住)と友人のエマニュエル・アルノーさんが、当時の佐々木さんの実体験に基づいて書きあげた小説です。佐々木さんは、かつて通学の途中、毎朝のように胸やお尻を触られたり、下着の中に指を入れられたりするなどの卑劣な痴漢被害に遭っていました。卑劣極まりない痴漢の実態を赤裸々につづったこの小説。もともとはフランス語で書かれ、タイトルも、フランス語で“チカン”と読む「TCHIKAN」でした。小説という手法を選んだのは、目には見えない、痴漢被害者の胸のうちを詳細につづるためだったといいます。

物語は、佐々木さんが自分を重ねて書いた主人公・クミさんのこんな語りから始まります。

「私はクミ。33歳で、パリのリュクサンブール公園の近くに住んでいる。私は日本人だけど、フランス語やパティスリー、モードを学ぶためにフランスに来たわけではない。私には自分の国を去りたい理由があった。」(「プロローグ」より引用)

自分の生まれ育った国を去りたくなるほど つらい体験だったと語る 痴漢被害者の切実な告白に基づいた小説は、#MeTooが大きなムーブメントになっていた2017年にフランスで話題になり、現地のテレビや新聞など、50以上のメディアに紹介されました。


(フランスで出版された『TCHIKAN』)
被害に遭った人の心に 寄り添わない日本社会
この本がフランスで注目された当初、私は「痴漢被害の実態を多くの人に伝えたい」と語る佐々木さんと、メールや国際電話で話を聞かせてもらいました。当時 私が抱いていた最大の疑問は、もともと東京の満員電車の事情に明るくないであろうフランスの人たちに、電車内の“痴漢”を“実際にあること”として受けとめてもらえるのだろうか・・・ということでした。

そんな懸念を佐々木さんにぶつけると、「フランスの読者の感想のほとんどが“よく頑張ったね”“話してくれてありがとう”“あなたは勇気のある女性”という、私の告白をありのまま受け入れる温かいものだった。被害者の告白に寄りそう姿勢がない傾向は、日本社会のほうが強いと思う」と答えてくれました。その言葉に、はっとさせられたことを強く覚えています。

小説のなかにも、主人公・クミに痴漢被害を告白された母親が、娘の言葉を受けとめずに、いきなり叱責する場面が書かれています。



「あなたも悪いのよ、わかってる?大体、あなたは不用心だから…」

(中略)痴漢が私をねらったのは、私のせいなのだ。
こんな目に遭わないように、自分が気をつけていなければならない。自分が悪いせいで被害に遭っても、母からは怒られるだけだ。嫌な目に遭ったうえに大好きな母から怒られるなんて、なんてつらいんだろう。

(第二章「母」より引用)



クミの告白を受けとめないのは、母親だけではありません。大学生になったクミは、勇気を振り絞って痴漢を捕まえ、警察官のところに連れて行くも、こう諭されます。

「彼は恋人がいて、もう2年、彼女と同棲(どうせい)しているそうです。彼はとっさの出来心で、つい痴漢行為をしてしまったと話していて、もちろん、とても反省しています…」

(第八章 「痴漢の手首をつかんで、それから」より引用)



被害に遭った自分の気持ちはそっちのけで、加害者をかばうような物言いをする警察官に、クミは落胆します。さらに、小説はこれだけでは終わりません。痴漢を捕まえていたせいで授業に遅刻したと説明するクミに、教授が笑いながらこう言うのです。

「え、そうだったのか!痴漢だって?」
「はい、それにその人は私と3歳しか違わなくて、警察によると、その人は恋人と同棲中なんです。信じられません!」
「ははは。でも知ってるだろ。男なんてみんなそんなものだよ!」

私は、三度被害に遭ったように感じた。たった3時間の間に。

(第八章 「痴漢の手首をつかんで、それから」より引用)




(『少女だった私に起きた、電車のなかでのすべてについて』より。佐々木さんが描いたイラスト)

痴漢被害そのものの つらさに加えて、無理解な周囲の態度への絶望を深めていくクミは、この経験のあと、“痴漢が存在しない国”に身を移すことを真剣に考え、フランスの大学院に進学します。

小説で紹介される母親も、警察官も、大学教授も、おそらく悪気はありません。でも、深くクミを傷つけます。このような周囲の態度が、より一層 被害者に声を上げにくくさせ、痴漢に都合のいい状態をつくりあげてしまっているのではないか・・・。本を読みながら、これまで自分が人から言われた言葉と、自分自身が友人たちに発してきた言葉を思い返し、私も遠回しに痴漢に加担してしまっていたのだと、自責の念に駆られました。
日本で暮らす読者へ いま伝えたいこと

(佐々木さんが暮らすパリ)

そんなやりとりから、3年。たとえ同じ電車に痴漢被害に遭った人がいても、“見て見ぬふり”してしまう人が多い日本の状況は、大きくは変わっていません。佐々木さんから「やっと日本語版を出版できることになりました」と連絡をもらった私は、改めて彼女に「いま2019年に、日本の読者に読んでもらえることの意味をどのように感じていますか?」と尋ねました。すると次のような答えが返ってきました。

「最近、世界に吹き荒れる#MeTooの嵐を対岸の火事のように扱ってきた日本でも、ようやく痴漢や性暴力の実態について報道されることが増えてきたと感じています。そのなかで自分の経験したことを出版し、実態を伝える機会に恵まれ、良かったと思っています。」

そして、佐々木さんは、子どもを持つすべての親に、まずは読んでほしいと考えているといいます。 「真面目に学校に通っている学生たちが毎日のように被害に遭う社会は、何かがおかしいと思います。痴漢被害は決して、軽んじられていいものではありません。どれだけ卑劣なことが毎日の日常生活の中で起きているかを知り、被害者だけの問題とせずに、迅速に“深刻な社会問題”と捉えてもらいたいです。」

これ以上 痴漢を見過ごさないために、私たちは何ができるのか。いきなり「やめなさい!」と痴漢に声をかけるような、勇気のいることでなくとも、周囲の人にできることは沢山あるのではないかと感じています。引き続き、皆さんと一緒に考えていきたいです。

※過去の「痴漢」に関するトピック
Vol.19 想像してほしい “声を上げられなかった”私の気持ち
Vol.23 “痴漢をさせない” ために…何が必要だと思いますか?

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2019年12月18日
伊藤詩織さんの性的被害 認める判決
ジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者・山口敬之氏に性的暴行を受けたと訴えた民事訴訟の裁判で、東京地方裁判所は、性行為に合意がなかったと判断し、山口氏に慰謝料など330万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。
↓↓↓
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/27884.html

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2019年12月13日
【性暴力を考えるvol.41】#性被害者のその後④ 治療で“新しい自分”を
“適切な支援や治療を受ければ、性被害者は新しい自分を生きることができる。そのことをもっと社会に知ってほしい”。「みんなでプラス 性暴力を考える」にメールを寄せてくれた、麻衣さん(30代)。一時期、深刻なPTSDで苦しんだが、性被害者の治療に効果があるといわれている「持続エクスポージャー(PE)療法」を受けて、今は自分らしく生きることができているといいます。麻衣さんの経験談を通じて、性被害のトラウマ治療について考えます。

(さいたま局記者・信藤敦子)

もう一つの「#その後」
「どうしても伝えたい、性被害者のその後があるんです。」
メールを受け、会いに行った私に麻衣さんは力強く語ってくれました。


(麻衣さん)

大学院を卒業後、24歳で社会人になった麻衣さん。女性が少なく、体を触られるなどのセクハラが日常的にある職場。新入社員の歓迎会でも50代の上司の隣に座らされ、延々と酒を注がれたといいます。「学生時代はあまり酒は飲むことはなかったが、俺の酒が飲めないのか、と言われて。新入社員の洗礼だと思って受け入れた」。途中から記憶がなくなり、気づいたらその上司と2人きりで自分の部屋に。性的な行為を無理やり迫られ、恐怖で体が動かず、抵抗などできなかったといいます。



記憶を失うまで飲んでしまったこと、断り切れなかったことなど、考えても整理がつかなかった。しかし、入社したばかりの会社をクビになることが一番怖かった麻衣さんは、その後も普通に出勤し、誰にも相談しませんでした。
「誰かに話すとか、どこかに伝えるとかは思いつかなかった。それ以前に、これが被害であることがわからなかった。」
仕事に慣れることに精一杯で、日々忙殺される中、その晩のことについて思い出すこともなくなっていきました。

事態が一変したのは、それから2年後。職場での懇親会がきっかけでした。
「会の前日か前々日の夜中に急に不安になった。とてもよくないことが起こる気がして、気がつくと突然、天井の上から部屋を見ている自分がいた。」
天井から、布団の上に横たわる自分と上司が見えたというのです。2年前の記憶がよみがえった瞬間でした。以来、夜中に目が覚めた時や加害者と同世代で似た背格好の男性を見た時など、ふとしたことからフラッシュバックに襲われるように。さらに、食欲がなくなったり、突然涙があふれたりしてくるなど、体調が優れなくなり、仕事を休みがちになりました。


(臨床心理士 齋藤 梓さん)

性被害者の心理を研究している臨床心理士で、目白大学専任講師の齋藤梓(あずさ)さんは、この状況を「とても自然なこと」と指摘します。「ショックの大きさから、人は被害の記憶を閉じ込めようとするが、ふとしたきっかけでフラッシュバックが起こることがある。例えば、幼い頃に性被害に遭った女性が、自分の子どもが同じ年齢になった時に被害を思い出すなど、被害と状況が類似しているときに起こることが多い」と話していました。
被害を受けても、諦めない
「このままでは死んでしまうと思った」という麻衣さんは、すぐに精神科を受診しました。最初は被害のことは言い出せませんでした。2回目の診察で思い切って打ち明けると、医師から親身に話を聞いてもらった上で、PTSDと診断されました。
「非難せずに信じてくれる人がいたこと、自分の体の不調が認められたことで、少しほっとした。」


その後、会社の総務課に被害のことを話しましたが、最初は「でっち上げでないのか」と言われ、取り合ってもらえなかったそうです。しかし、麻衣さんは、あきらめませんでした。「物的証拠もなく、不利なのは承知の上だったが、加害者と一緒にはこれ以上 働き続けられないし、自分が会社を辞めるのはおかしいと思った」。被害直後とは異なり、自分の被害は「性暴力」と認識した麻衣さんは、労働基準監督署や民間の性被害者の支援団体にも相談した上で、あらためて会社にかけあいました。そして、最初の訴えから3か月後、加害者は最終的に処分され、一緒に働くことはなくなりました。



当時、被害に対して整然と対応しているように見えた麻衣さんですが、加害者の処分が決まっても、気分はなかなか晴れなかったといいます。加害者を処分するという大きな目的が達成されたものの、体調はなかなか回復しませんでした。そして、「自分は十分にやり遂げた。もう死んでいいのでは・・・」と思い詰めるように。ついに会社も休職せざるを得なくなり、「働いていない自分は何者なんだ」と悶々(もんもん)とする日々だったといいます。


(麻衣さんが読んだ専門書)

しかし、休職している間に、次第に「何かしなければ」という焦燥感にかられ始める中、性被害やPTSDに関する専門書や論文を片っ端から読んでいきました。すると、今もっとも科学的に根拠のある治療法が、「持続エクスポージャー(PE)療法」だと知ったというのです。
性被害のトラウマ治療とは
PE療法は、性被害者のPTSDの治療法としてアメリカで開発されました。専門家のもとで、繰り返し自身の被害と向きあう中で、PTSDの症状を改善する方法です。被害者が避けていたトラウマにあえて向き合うため、覚悟を伴う治療でもあります。


(PE療法の専門書)

PE療法のスーパーバイザーの資格ももつ臨床心理士の齋藤梓さんによると、治療は週に1回90分、だいたい8回から15回ほど。主に2つの柱があり、1つは被害者が生活の中で避けていたことと向き合う「現実エクスポージャー」。例えば、ナイフで刺された人が、ナイフを見るだけで恐怖を感じていたとします。治療は、まずナイフの写真を見るところから始めて、写真で見るだけでは怖いことは起きないということを実感できるようにします。その次に、実物のナイフを遠くから眺める、少し近づいてナイフを眺める、ナイフを触る…というように進めて、徐々に恐怖を克服していくのです。



麻衣さんも、最初のうちは人混みが不安だったので、「ファーストフード店に入り、30分コーヒーを飲む」という課題から始めました。治療が進むと少しずつ難易度を上げていき、最終的に、「自宅の布団の上で、30分間あお向けになる」という、被害の時を再現する課題に挑みました。

「被害を思い起こして息が苦しくなり、冷や汗が出てきた。それと同時に、被害に対する後悔の念や加害者への憤り、それに、また被害に遭うのではないかという不安など、いろんな感情がこみ上げてきた。」
しかし、治療を続けていくと、被害に遭ったことは過去で、今ここにいる自分が被害に遭っているわけではないということが腑(ふ)に落ちたといいます。「続けていくと、それまで避けていた あお向けに寝ることや、自分の布団で寝ることができるようになった」。



もう1つは、自身のトラウマ体験を話す「想像エクスポージャー」。被害を受けたときの状況を思い出して、30~40分、専門家に話します。こうした内容を録音し、自宅で繰り返し聞く課題もあるといいます。

「普通の記憶が整理されてタンスにしまわれているとしたら、トラウマの記憶は整理されずにぐちゃぐちゃのまま、とりあえず箱の中に閉じ込めている状態。整理されていないので、突然 蓋が開いてしまうことがあります。しかし、体験を繰り返し話すことで記憶が整理され、記憶は記憶、“過去のこと”で、今は安全なんだと認識できるようになります。」(齋藤梓さん)

麻衣さんも、自分に何が起きているか、当時を振り返りながら、身体のどこが痛いか、どんな臭いだったか、どこをどう触られているかなどを、1つ1つ詳細に思い出していきました。麻衣さんは、これが一番大変だったと振り返ります。「そのときの感情をありありと感じることは楽なことではないが、信頼できる治療者から問いかけを受けながら自分の記憶を語ることで、初めて被害と向き合うことができた」。
被害の記憶は本棚に入った“過去”
「治療は地味だし、地道で大変なものでしたが、つらくはなかった。毎日課題に取り組んでいると悪夢を見ることも徐々に減っていったし、希死念慮も弱くなった。」
麻衣さんは、PE療法を半年続けて、日常生活に支障がない程度まで症状が回復したといいます。



そして治療を受けたことで一番大きかったことは、被害の記憶が整理されたことだと振り返りました。「意図しないのに突然記憶がよみがえったりしないし、まるで本棚に入れたように、思い出したいときに自由に記憶を取り出せるようになった。性被害はあくまで自分の過去の出来事の一部であり、自分が悪いわけでもなく、自分が汚れたわけではないこともわかった」。

臨床心理士の齋藤さんによると、「被害者は自分を責める傾向があるが、記憶が整理されると、“あのとき自分はこういう気持ちだったから逃げられなかったんだ。自分は自分を守るために精一杯がんばったんだ”というように、自分を責める感覚が和らいでいく。ただ、PE療法が良い人もいれば、他の治療法が向いている人もいるので、専門家とよく話し合ってほしい」と指摘しています。
「#その後」を生きる被害者が生きやすい社会に
麻衣さんは、今は復職し、自身の専門性を生かした仕事に励んでいます。社会復帰することで、回復も進んだといいます。また、仕事の傍ら、大学の通信教育課程で心理学を専攻し、被害者がよりよく生きるために社会はどうしたらいいか、学んでいるそうです。


(麻衣さん)

麻衣さんは、社会が持つ被害者のイメージは、相変わらずステレオタイプだと感じるといいます。
「笑っていると、『被害に遭ったなんてウソでしょ』『被害はたいしたことじゃなかったんでしょ』とよく言われる。この言葉のせいで、被害者は回復からは遠ざかっている。」
社会から求められる被害者像は、何十年も苦しみ続ける姿であり、被害者が回復した場合は、被害の存在自体が疑問視されたり、被害による傷つきが軽くみられたりするといいます。

麻衣さんに、最後に改めて一番伝えたいことを聞くと、こう話してくれました。
「被害から回復しても、加害者の犯した罪の重さも、被害者が受けた傷の深さも変わらない。でも適切な治療を受けることで、性被害者が新しい自分を生きられるということは、もっと知られてほしい。そして、そうしたその後を生きている被害者が偏見をもたれずに、自然と受け入れられる社会であってほしいと思う。」

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