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2020年4月2日

“メキシコのフェイク王”を目指した男【デジタルVSリアル】

NHKスペシャル「デジタルVSリアル」
第1回 フェイクに奪われる“私”
 4月5日(日)午後9:00~9:49(総合テレビ)
第2回 さよならプライバシー
 4月12日(日)午後9:00~9:49(総合テレビ)

私たちが信じるリアル。それ、ホントに“リアル”!?SNSの投稿動画や検索履歴に残された個人情報、そして監視カメラの映像・・・今、デジタル世界に積み上げられていく膨大なデータが現実世界の私たちの行動に大きな影響を及ぼそうとしている。
テクノロジーの進化で生まれる新たな時代を見つめるシリーズ「デジタルVSリアル」。“シリーズアイコン”としてインスタグラムで大人気、渡辺直美さんが登場!

政治家を顧客にして、選挙を動かす

3ヶ月にわたる交渉のすえ、フェイクで世論操作をしてきた会社を取材することができました。代表は31歳のカルロス・メルロ氏。9年前に政治マーケティング会社を立ち上げました。メルロ氏が得意にしているのが、フェイクニュースの拡散です。

メルロ氏が活用してきたのは「ボット」です。まず、ネットにある別人の写真を使用して、実在する人物のようなアカウントを大量に作成します。そして、それらのアカウントから自動的にコメントを書いたり「いいね」をつけたりするのです。

このシステムを使って1秒間に150回のツイートを5分間続けることで、ツイッターのトレンド上位に入ることが出来るのだと言います。

 メルロ氏がビジネスチャンスだと感じたきっかけは、6年前。「事故で亡くなったポールウオーカーが実は生きていた」というフェイクニュースを拡散したときです。「一日に600万回も見てもらえたんだ。感動だったよ」と話します。

その後、ビジネスの軸足を選挙に移してきたメルロ氏。選挙期間中、何人もの政治家から依頼を受けたといいます。多いときで1日500万円も稼いだと言います。

アカウントを乗っ取り、世論操作をする

私たちはさらに、メルロ氏の下請け会社を取材することができました。ここでは本物のアカウントを乗っ取っての世論操作をしています。実際の手口をカメラの目の前で見せてくれました。

それは現役の政治家から依頼を受けたネットのアンケートです。得票数を増やして欲しいという依頼でした。

独自に開発したスマホ用のアプリの操作を始めます。このアプリは表向きは「いいね」や「コメント」の数を勝手に増やしてくれるという仕様になっています。しかし本当の目的は、フェイスブックとこのアプリをつなげ、「本物のアカウント」を乗っ取ることです。管理者は利用者のアカウントを自由に操作して、「いいね」や「コメント」をつけることができます。このとき、本物のアカウントを使っているため、削除されることはないのだと語っています。そして、このサービスにはメキシコだけでなく、ドミニカ共和国やボリビア、ペルー、アルゼンチンなど海外の政治家からの依頼も舞い込んでいます。

メキシコ国民に影響を与えた仕掛け

メルロ氏の下請け会社が選挙にどのような影響を与えたのでしょうか。私たちがインタビューしたのはフェイクニュースの拡散について分析をしているアルベルト・エスコルシアさんです。アルベルトさんが注目したのはメキシコ国内で大きな話題になったというひとつの記事です。

それは「ベネズエラのチャベス氏と大統領候補がつながっていた」というフェイクニュースです。

拡散のきっかけとなったのは、メルロ氏と一緒に仕事をしていたアカウントによるツイートです。この仕掛け人のツイートをメルロ氏らが動かせるアカウントで一斉に拡散します。ネットで話題になっていることに気づいた市民が、さらに拡散。ついにはテレビ局などのメディアが取り上げるまでになったのではないかと分析しています。

結果、4000万回もツイッター上で見られました。アルベルトさんは「何も起きていないのに、大事のように見せかけるというのが、彼らの手法です。一般市民は、お金がある人によって操作されます。これからはデジタル絶対主義の時代がやってきます。最悪な事態はこれからなのです。」と警鐘を鳴らします。

このようにフェイクニュースを拡散してきたメルロ氏は、社会への影響について、以下のように語っていました。

「仕事に関して後悔したことは一度もありません。それは無責任なのかもしれません。 しかし、SNSのユーザーは無責任に何かをシェアしたりしていました。人々が文章をもう1分だけでも読んでいたならば、私が投稿したものであったとしても、多くのフェイクニュースは何も影響を与えることは出来なかったでしょう。 みんながもう少し早くに気づいていたなら、このようなことは起こらなかったのです。ですから、これは自然に起こったことなのです。」

もはやフェイクニュースなしでは選挙に勝てない

 なぜ、彼らのビジネスは成長を続けてきたのか。私たちは、マーケティング会社を利用している政治家にも話を聞くことができました。とある市の市長のポロ・デスチャンプスさんは、自身のPR動画の作成と拡散を依頼しています。見せてくれた動画は、3万回もの再生回数を記録していました。

こうした拡散を行っている人たちは、全員がリアルな人物なのか。そう問うと、あっさりと、フェイクアカウントの存在を認めました。

「政治家は皆、ボットや偽のフォロワーを持っていますよ。私も、意図している訳ではありませんが、おそらくたくさん、偽のフォロワーなどが紛れ込んでいるのだと思います。」

 さらに、フェイクニュースを流したことはあるかと問うと、自身は意図して流したことはないとした上で、フェイクニュースを流す戦略的重要性は認めました。

「もはや、フェイクニュースなしで勝てる選挙なんてありません。なぜなら、拡散力がすさまじいからです。一度機能してしまった以上、問題があることであっても、続けられてしまうものなのです。」

こういった世論操作は、世界70の国や地域で行われているという分析結果も出ています。一方で、選挙や災害などで悪意を持って流されたフェイクニュースなどには、複数の国で罰則を設ける動きも出ています。




(資料:株式会社三菱総合研究所)

この番組は放送終了後(4/5(日)夜10時頃)~4/12(日)夜9:49まで配信します