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2020年4月1日

「ディープフェイク」偽ポルノ動画を拡散された被害女性の告白

ついに日本でも 忍び寄るディープフェイクの被害

最新のAI技術によって作られたフェイク動画=ディープフェイクが、私たちの社会の新たな脅威になりつつあります。2020年10月にはディープフェイク技術を使い、女性芸能人の偽のポルノ動画を作成し配信したとして、2人の男が国内で初めて逮捕されました。ディープフェイクは本物とほとんど見分けがつかず、ネットで拡散されるとその影響は計り知れません。実際にディープフェイクの偽ポルノ動画を流された経験のある女性に、話を聞くことができました。
(2020年4月放送 NHKスペシャル「デジタルVSリアル」より)

最新AIで作りだされた「ニセモノの自分」

取材班は、その被害にあったオーストラリアのノエル・マーティンさん(25)に話を聞きました。始まりは、ノエルさんが法学部の学生だったときのこと。グーグルの画像検索システムで、自分の写真を何気なく検索したところ、身に覚えのない自分の裸の写真がポルノサイトに出回っているのを偶然見つけたのです。



悪用されたのは、SNSで公開されていた写真でした。友人との旅行や食事、家族と撮影した写真、地元のバーで開かれたイベントに参加した時の写真など、何気なく投稿した日常の写真がポルノ女優の体と挿げ替えられていたのです。初めてフェイクポルノを見つけたとき、すでにネット上の様々なポルノサイトに拡散してしまっている状態だったというノエルさん。

拡散しているフェイクポルノには、本物の写真も一緒に投稿され、自分の名前や住所、学歴などの個人情報が添えられているものもありました。フェイスブックに公開されていた情報が悪用され、ノエルさん自身が投稿しているように見せかけていたのです。

「ショックでした。何が起こっているかわからなくて。胃がきりきりと痛み、吐き気がして・・・とにかく怖かったわ。私の容姿についてのコメントや私に何をしたいかなども書かれていました。ネットで広まっている私は私ではないわ。私は『本当の私』を取り戻したいだけなの・・」

誰がやったのか心当たりもなく、ノエルさんは弁護士や警察などに相談。ポルノサイトの運営者などにも削除を求めましたが拡散が止まることはありませんでした。

そこで、ノエルさんは意を決して被害をメディアの前で公表することにしたのです。

「ニセモノの自分」が拡散していく恐怖

しかし、この告白をきっかけに、事態は悪化します。SNSでノエルさんの告白を疑ったり、揶揄したりする投稿が拡散し、炎上する事態に発展したのです。

「お金が目的で、キミが自分でアップしたんじゃないの?」
「注目を浴びたいだけじゃないか?」
「太った醜い猫め!」

偽りの自分だと伝えれば伝えるほど、フェイクの自分が信じられていく。支えてくれたのは仲の良い友人だけだったといいます。

「私は思ったんです。『私はフェイクだとわかっているから、フェイクだと気づけているだけなんだ』と。誰かがこれを見たとき、会社の人や友達がこれを見たとき、これは私だと思うのではないでしょうか。将来の家族や子供が見るかもしれないし、私の子供の友達もみるかもしれない。人生に影響を及ぼし続けるのです。」

フェイク動画の96%は女性がターゲットに

こうした動画はAI=ディープラーニングで作られたフェイク動画であるため、「ディープフェイク」と呼ばれています。オランダのサイバーセキュリティー会社ディープトレースの調査では、こういった動画は半年間で倍増。このうち96%の動画が女性をターゲットにしたものだといいます。
どのように女性たちがディープフェイクに狙われているのか。私たちは、ディープフェイクの対策に乗り出している弁護士を訪ねました。カリフォルニアに住む、ドッジ弁護士が見せてくれたのは、ディープフェイクの作成依頼を受けつけているサイトです。そのサイトの掲示板を見てみると、

「知り合いの女性のディープフェイクを作ってほしい」
「作ってくれたら75$支払います」

といった依頼が書き込まれており、依頼したい女性の写真も添付されていました。

ノエルさんはSNSでの中傷にも屈せず、「本当の自分」を取り戻すため、市民1人1人に自らの経験を語り続け、オーストラリアのディープフェイク対策の法制化や同様の被害に遭った人たちへの支援を続けています。

アメリカやノエルさんが活動を続けているオーストラリアでは、ディープフェイクを規制する法律が制定され始めています。しかし、国境関係なく、依頼や作成が行われているデジタル世界では、規制が追いつかないのが現状だと、ドッジ弁護士は指摘します。 

では、被害を止める手立てはないのか。ドッジ弁護士は、誰もが被害者になりうる時代だということを認識することから始めなければならないと言います。

「私たちは何気なくSNSに写真や動画を投稿していますが、それが悪用されるということを考える必要があります。写真がオンライン上にある限り、皆、その危険にさらされていると言っても過言ではありません。事件を防ぐということ以外のことを考えなければいけません。なぜなら今のところ、事件を防ぐことはできないからです。」