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クロ現+
2020年3月31日

SNSのフェイクニュースが起こした殺人【デジタルVSリアル】

NHKスペシャル「デジタルVSリアル」
第1回 フェイクに奪われる“私”
 4月5日(日)午後9:00~9:49(総合テレビ)
第2回 さよならプライバシー
 4月12日(日)午後9:00~9:49(総合テレビ)

私たちが信じるリアル。それ、ホントに“リアル”!?SNSの投稿動画や検索履歴に残された個人情報、そして監視カメラの映像・・・今、デジタル世界に積み上げられていく膨大なデータが現実世界の私たちの行動に大きな影響を及ぼそうとしている。
テクノロジーの進化で生まれる新たな時代を見つめるシリーズ「デジタルVSリアル」。“シリーズアイコン”としてインスタグラムで大人気、渡辺直美さんが登場!

大衆の「正義」は、ここまで暴走する

2018年.メキシコ中部の小さな街アカトランで、フェイクニュースによる殺人が起きました。亡くなったのは、リカルド・フロレスさん(21)と叔父のアルベルトさん(43)。「子供を誘拐した」という、無実の罪を着せられ、殺されたのです。



なぜ、無実の罪の人間が殺害されるにいたったのか。事の始まりは、SNSに投稿された、リカルドさんに関するフェイクでした。

「子どもを誘拐した男が捕まった」

「3人の子どもが連れ去られそうになっていたらしい 」

この投稿がされたとき、確かに、2人は警察署の中にいました。この村に作業用の資材を購入するためにやってきた2人、路上飲酒をしていたところを、警察に事情聴取を受けて警察署に連れて行かれていたのです。事情聴取を受けた理由は、誘拐とはまったく異なっていました。

なぜ、人々はこのフェイクを信じてしまったのか。背景にあったのは、人々の「不安」でした。メキシコは、年間で推計8万件もの誘拐事件が起きています。その中で、リカルドさんたちが殺害されるこの事件が起きる数日前には、

「臓器売買目的の誘拐があった」

「15人の誘拐された子どもの遺体が発見された」

というフェイクが流れ、不安はピークに達していたのです。
そして、不安を感じる市民を煽るような動画が、事態を深刻化させていきました。

「これは誘拐犯の車だ。中には酒の瓶や鎖がある。」

「これが証拠だ 」

この動画は、まさにリカルドさんたちが警察署にいるときに撮影されたものです。車の中に入っていた作業用の鎖が、誘拐の証拠だと指摘され、市民の正義感を駆り立てていったのです。

「もうこれ以上、子どもたちの誘拐事件が起きてはいけない」
「警察が、誘拐犯を解放しないために、皆さんの支援が必要だ」

 2人が事情聴取を受けている警察署の前には、150人の人が集まってきました。そして、釈放されるやいなや、大衆は、リカルドさんとアルベルトさんを引きずり出し、殴る蹴るを繰り返したのです。そして横たわっている2人にガソリンをかけて、焼き殺すという事態にまでエスカレートしました。

息子を失った母の慟哭

取材班は、リカルドさんの母、ロザリオさんに会って話を聞くことが出来ました。

当時、ロザリオさんは、子どもたちを養うためにアメリカに出稼ぎに出ていました。
事件の直前、SNSに流れてきた息子のニュースを目の当たりにしたロザリオさんは、すぐさま「息子は無実。危害を加えないで」と投稿。しかしその声はフェイクにかき消され、悲劇が起こってしまったのです。

さらに、ロザリオさんに追い打ちをかけるように、衝撃的な事実が判明しました。実は、息子たちを殴打した大衆の中に、自分たちの親族も含まれていたというのです。「なぜこんなことが起きてしまったのか。なぜ、フェイクを信じて拡散してしまったのか。本当に分からない」と、涙ながらに話してくれました。
 
事件から2年。街には、まるで事件などなかったかのような平穏な空気が流れていました。
そう、ロザリオさん家族を除いては。ロザリオさんは、事件後、出稼ぎをしていたアメリカからメキシコに帰国。事件が起きた現場には、毎日買い物で通るたびに、当時の思い出がよみがえり、今も苦しい気持ちになると言います。
さらに、生活も追い詰められていました。故郷で仕事を探していますが、いまだに定職を見つけることができずにいます。現在、夫と、母親、二人の子どもと暮らしていますが、すでに貯金は底をつき、今後、どのように養っていけばいいか、分からないと言います。

なぜこのような事件が起きたのか。私たちは、この事件についてファクトチェックを行った地元メディアに、取材を行いました。記者のモニカ・クルズさんは、ファクトチェック動画を投稿したところ、思わぬ反応が返ってきたと言います。

「亡くなったあの青年は、車を盗むことで有名だったのよ」
「あの青年は、大学で勉強もせずに、密輸に関わっていたんだ」

その根拠を問いただすと、「そういう噂を聞いただけ」など、根も葉もないフェイクニュースを信じていたと言います。事件後、警察が「亡くなった二人は、誘拐などしていない」という声明を発表したにも関わらず、真実よりも、「フェイクニュース」を信じる人が多いという現実がありました。モニカさんは「フェイクニュースは常に感情に訴えかけます。それはほぼネガティブな感情です。誘拐犯が来たというニュースで不安が煽られている中で、“こいつが犯人だ”というフェイクニュースが、火に油を注ぐ結果となってしまったのです。だからこそ、ニュースを拡散する前に、いかに私たちが冷静になって事実かどうかの判断をすることが、何より重要なのです」と言います。

この番組は放送終了後(4/5(日)夜10時頃)~4/12(日)夜9:49まで配信します