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新型コロナ“第8波” 急増する“後遺症” 検査・治療法は?医師に聞く

新型コロナウイルス“第8波”では、「第7波のピークを超える過去最大の感染」が起きているとも言われ、感染して亡くなった人の数が連日過去最多を記録。感染拡大が続いています。

2020年4月から取材を続けている川崎市の聖マリアンナ医科大学病院救命救急センターでいま、大きな課題になっているのが、増加し続ける“新型コロナ後遺症”の患者です。
コロナは軽症だったのにもかかわらず、「歩くだけで頭痛がひどくなり、大きな音を聞くと頭が締め付けられる」(40代女性)、「けん怠感だけでなくなぜか左手で持ったモノが落としやすくなる」(60代男性)などの症状に患者たちは悩まされ続けています。
現場ではいま、どのような治療が行われているのか。注意点は何か。聖マリアンナ医科大学病院の「後遺症外来」で、多くの患者の治療をしている佐々木信幸医師に話を聞きました。

3年間継続取材・聖マリアンナ医科大学病院 コロナ治療の最前線

聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)

3年前、クルーズ船での新型コロナウイルス感染が確認されたいわゆる“第0波”から、感染者の治療を続けている聖マリアンナ医科大学病院のコロナ病棟。
“第8波”との闘いが続く現在、重症患者数こそまだ少ない一方で、感染者数は高止まりし、死者数も最高レベルに達しているといいます。現在主流のオミクロン株は重症化率こそ低いものの、感染力は非常に高いため、感染者数の母数が大きくなれば医療崩壊のリスクも再び上がることが予想されています。

みんなでプラス「密着コロナ病棟」過去の記事は こちら

こうしたなか、「後遺症外来」を受診する患者の数は増加の一途をたどっています。一言に“コロナ後遺症”といってもその症状は様々です。大きく分けると、
・呼吸困難感などの循環呼吸症状を主とするもの、
・味覚嗅覚異常などの耳鼻咽喉症状を主とするもの、
そして
・認知機能障害、“ブレインフォグ”などの脳神経症状を主とするものがあります。

佐々木信幸医師(右)

“後遺症”の患者を治療するリハビリ科の佐々木医師によると、「オミクロン株は感染・増殖部位として肺よりも鼻咽腔が主戦場であり、咽頭痛や鼻汁などいわゆる風邪に近い症状を示す場合が多い」とのことです。
患者の中には、“ただの風邪”と思いきや実は新型コロナにり患しており、その後、長引く“後遺症”に悩まされる人も多いといいます。

患者の訴えの本質を探る 検査と治療は

「rTMS」治療を行う様子

佐々木医師ら「後遺症外来」では、脳神経症状、つまり記憶や注意力の低下、“ブレインフォグ”、それに伴う疲労感に対し「rTMS」という新しい治療を行っています。「rTMS」は頭の上から特殊な磁場を照射し、狙った脳内の局所の神経の働きを変化させる技術です。これまでに数百人の“コロナ後遺症”患者に「rTMS」治療を続けており、これまで私たちの記事でもお伝えしてきました。

その中で、佐々木医師らが直面しているのが、「患者の訴えの本質を探ること」だと言います。

佐々木医師

「“コロナ後遺症”の代表的な症状である“疲労感”や“ブレインフォグ” の解釈は非常に難しいです。どちらも様々な要因から複合的に生じた結果の訴えです。
例えば“疲労感”では、患者Aは『動こうとすると脈拍が上がってしまい疲労を感じて』いますが、患者Bは『何をするにも考えがまとまらず疲労を感じている』のかもしれない。患者Cは患者Bと全く同じ症状を“ブレインフォグ”と感じているかもしれないし、患者Dは『物を見てもそれが何であるかわからない状態』を“ブレインフォグ”と訴えるかもしれない」

取材に答える佐々木医師

こうした患者からの訴えをもとに、脳のどの部位に対して「rTMS」治療を行うのか。佐々木医師らは、より効果的な治療のために患者たちにある検査を受けてもらい、“後遺症”の症状を見極めようとしています。
それが以下のふたつ。

・「WAIS-Ⅳ検査」-青年および成人の知能を測定するための検査。全検査IQ(FSIQ)、言語理解指標(VCI)、知覚推理指標(PRI)、ワーキングメモリー指標(WMI)、処理速度指標(PSI)の得点を算出する 。

・「脳血流SPECT検査」-ごく微量の放射性物質を含む薬を体内に投与し、その薬剤の分布などから、部位別に脳の血流量を評価する検査。MRIやCTではとらえられない早期の脳血流障害や脳の機能評価、認知症の診断などにも使われる。

実際の治療例をもとにその詳細について語ってもらいました。

どの部位に「rTMS」治療をするか 詳細な検査で判断

ある50代男性は2021年の6月に新型コロナウイルスに感染。軽症で入院はせず、発熱やせきなどの症状は改善したものの、非常に強い疲労感が長期間持続し、運動することもできず仕事も制限されました。漢方薬やEAT(上咽頭擦過療法。鼻とのどの間の部分を薬剤を染み込ませた綿棒でこする治療法) などの治療でも改善せず、同年11月に聖マリアンナ医科大学病院の「後遺症外来」を受診しました。

佐々木医師

「この男性に『WAIS-Ⅳ』を施行したところ、一時的な情報保存能力(ワーキングメモリー・作動記憶)に著明な低下を認めました。作動記憶に最も関与する脳部位は前頭葉の外側です。
さらに『脳血流SPECT』の結果を見てみると、両前頭葉外側の血流低下も確かに認められたものの、最も目立つのは両後頭葉の血流低下でした。後頭葉は目に入った視覚情報を最初に受け取る部位です。
そこで、男性に改めて症状の詳細を確認しました。すると、『文字を読んだりTVを視聴したり、たくさんの商品が並ぶ陳列棚を視た際に、その情報を整理できない場合が多い』ことがわかりました。
そのため、両後頭葉および両前頭背外側の神経活動性を上げるような『rTMS』を施行したところ症状は著明に改善し、体が軽く運動もできるようになりました。
しかし、残念ながらこの男性は2022年8月に新型コロナウイルスに再感染し、仕事の疲労も重なり、症状が再発しました。今年から『rTMS』を再開する予定です」

ある40代女性は2021年7月に新型コロナウイルスに感染しました。この患者も軽症でしたが、記憶力の低下および“ブレインフォグ”が持続し、仕事もままならず休職することになりました。漢方薬などでは症状が改善せず、同年11月に「後遺症外来」を受診しました。

佐々木医師

「本患者の主訴は記憶力低下でしたが、『WAIS-Ⅳ』では全ての項目で低下はなく、むしろ標準以上の数値が出ました。そこで症状の詳細を評価すると、この女性はもともと記憶力が普通の人より高く、文字や記号を記憶する能力を高く要求される仕事をしていました。「WAIS-Ⅳ」の詳細をみると、確かに全て正常範囲ではあるものの、他に比べ言語処理に関する項目や作動記憶(ワーキングメモリー)は低い傾向にあり、もともと有していたと考えられる能力からすると違和感を覚えました。
そして『脳血流SPECT』は後頭葉で著明に血流が低下していました。
そこで文字情報の入力過程を賦活(活発に)するような脳の部位に「rTMS」を施行したところ、症状は著明に改善しました。再び施行した「WAIS-Ⅳ」では作動記憶を含め軒並み標準範囲を大きく超える認知能力を示しました。
この女性の職業は、非常に高い認知負荷がかかるものであるため、すぐに完全復職するのではなく、『rTMS』を低頻度で継続しつつ徐々に社会復帰していく予定です」

取材後記 “コロナ後遺症” その後

コロナ禍も長期化し社会が「ウィズ・コロナ」にシフトしようとしています。その中で、“後遺症”があっても、いつまでも休んでいるわけにいかず復学・復職する、という患者はとても多いと思います。しかし“コロナ後遺症”を始めとする「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群」では、無理をすると症状が増悪するという性質が知られています。これは学業や仕事が辛いためなどといった単純な話ではありません。そのため、復帰にあたっては十分な注意が必要です。
旅行や映画、コンサートなど、本人にとって楽しく満足する刺激であっても、肉体・精神的な負荷として大きければ、症状は増悪すると佐々木医師は指摘しています。復学や復職にあたっては短時間・低負荷からはじめ、いつでも自分のタイミングで休憩できるような環境から徐々に行うことが望ましいのではないでしょうか。

インタビューの最後に佐々木医師は次のように語りました。

佐々木医師

「(新型コロナで)重症化する多くは高齢者ですが、“コロナ後遺症”は軽症者にも高い確率で発生します。感染後には、このような症状を呈する患者が一定数いること、そして安易に元通りの生活を強いてはいけない場合があることを、社会として認識していただきたいと思います」

担当 松井ディレクターの
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この記事の執筆者

報道局 社会番組部 チーフディレクター
松井 大倫

1993年入局。2020年4月から聖マリアンナ医科大学病院コロナ重症者病棟の取材を続けている。

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