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クロ現+
2020年8月24日

「グリーンリカバリー」とは? コロナ後の経済復興で注目

8月になっても新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。医療崩壊が心配ですが、 自粛に伴う経済への影響も深刻です。こうした中、コロナからの経済復興のための一つの合言葉が注目されています。「グリーンリカバリー=緑の復興」です。 今回は、「グリーンリカバリー」とは何なのか?
また、そのカギを握る本当の“持続可能なエネルギー”とはどんなものかについて考えていきたいと思います。

(地球のミライ 取材班 プロデューサー 堅達京子)


グリーンリカバリー で経済を立て直せ!

「グリーンリカバリー」というのは、これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済に復興するのではなく、この苦難を逆バネにして、脱炭素で循環型の社会を目指すための投資を行うことで復興しようという経済刺激策です。

例えばEUは、「次世代EU」と名付けた90兆円規模の経済復興策を打ち出しました。その要となるのがグリーンリカバリーです。特に再生可能エネルギーの普及や電気自動車への転換のための巨額のインフラ支援などが盛り込まれました。フランス政府は、経営難に陥ったエールフランスに資金を融資するにあたって、列車など代替手段がある2時間半以内の国内路線を縮小することを条件にするなど、脱炭素化を促す方向性が明確になっています。

というのも、こうした方針がないと、2008年のリーマンショックの時のように、目先の経済復興を焦るあまり、二酸化炭素の排出量があっという間にリバウンドして、地球温暖化を加速させてしまう恐れがあるからです。今年は、感染拡大防止のためのロックダウンなどが行われた地域が多かったため、二酸化炭素の排出量が劇的に減っています。
しかし、これを一時的なものに終わらせず、経済を復興させながら、同時に二酸化炭素の排出量を減らし、2050年の実質排出ゼロを実現する起爆剤にしようというのが、グリーンリカバリーの狙いです。

残念ながら日本では、これまでのところ、コロナ対策・経済再生のための補正予算のうち、グリーンリカバリーの概念に入りそうなのは、環境省による脱炭素社会への転換支援事業の50億円だけです。
これは、企業が太陽光パネルや蓄電池などを設置する資金を支援する意義ある事業ですが、欧米の規模にはとても及びません。日本では、今回のコロナ危機と気候危機が実は同じ根っこを持つ問題であり、より持続可能な社会に転換するチャンスだという認識が弱いように感じています。

この夏は、九州地方をはじめとして各地で温暖化型の豪雨による激甚災害が相次ぎ、気候危機を食い止めることは待ったなしです。せっかく巨額のお金を投じるなら、未来世代のために役立つことに先行投資したいと考える人は少なくないはず。今後、日本でもグリーンリカバリーを意識した政策が打ち出されることに期待したいと思います。
カギを握るのは再生可能エネルギー



グリーンリカバリー のカギを握るのは、二酸化炭素を出さない太陽光や風力などの再生可能エネルギーです。最近では、企業自らが事業の使用電力を100%再エネでまかなうことを目指す国際的なイニシアティブ、RE100に参加する企業も増えてきました。
日本では現在、発電に占める再エネの割合は約17%ですが、政府は2030年には22−24%にする目標を立てています。しかしドイツの2020年上半期の発電に占める再エネの割合は、すでに55%を超えるなど海外ではその取り組みが進んでいます。

日本の目標は低すぎるとして、7月、経済三団体の一つで企業経営者の団体である経済同友会が「2030年の再エネ比率40%を目指すべき」だと提言。
こうした動きもあり、日本でも各地で大規模な太陽光発電所や洋上風力発電所の建設計画が進められています。しかし、再エネをグリーンリカバリーの主役となる“持続可能なエネルギー”にするためには、どうしても留意しておかなければならない大切なことがあります。それは、乱開発ではなく、地元で暮らす人々が“誇り”を持って進めていける計画かどうかということです。

本当に“持続可能な”再生可能エネルギーとは?

建設予定地に近い霧ヶ峰高原の湿地(天然記念物 踊場湿原)

そのことを考える上で、示唆に富む事例があります。長野県諏訪市の四賀地区。八ヶ岳中信高原国定公園となっている霧ヶ峰高原のすぐそばで、天然記念物になっている湿原がある地区からも遠くないこの地域に2014年頃からメガソーラーの計画が持ち上がっていました。196.5ヘクタール、東京ドーム約40個分と広大な山林の半分近くを伐採し、そこに太陽光パネル31万枚を設置するという国内でも有数の巨大計画です。
長年、再エネの普及について番組で訴えてきた私にとって、この件はとても気がかりで、 現地を案内してもらったことがありました。案内していただいた現場の沢沿いの一帯は、結構な急勾配の森も多く、正直、ここを切り開いてソーラーパネルを設置するイメージがつかみにくいところでした。

急勾配な山林を含むメガソーラーの建設予定地だった場所

すでにゴルフ場として開発されていた場所など特殊な条件なら別ですが今、目の前にあるこの森を伐採していちからパネルを設置することが本当に地球環境のためになるのか、疑問が湧いてきました。
そして、このところ相次いでいる豪雨の際には果たして大丈夫なのだろうか?という不安も頭をもたげました。いくら二酸化炭素を出さない太陽光発電に切り替えても、建設工事による負荷や、森林伐採によるトレードオフがあれば、元も子もないのではないかという思いにかられたのです。

計画に反対する近隣地域の住民の中には、自慢の水で米作りに精を出される方や諏訪湖半で日本酒の酒蔵を営む方もおられ、みなさん口々に、長年大事にしてきた水源や地下水への影響を心配していました。
霧ヶ峰のメガソーラー計画が撤退へ




つい2か月前の6月19日、このメガソーラー計画の撤退が決まりました。
霧ヶ峰高原がある長野県では、2016年に条例が改正され、太陽光発電所なども、事業者自らが事業の実施に伴う環境影響について評価を行う対象となり、この案件が第一号になりました。環境への悪影響が本当にないのか、専門家の目で審査されることになったのです。
今回のケースでは、事業者側から提出された書類に対し、地元の諏訪市や茅野市の市長からも調査が不十分だとする厳しい意見書が出されました。

さらに、今年4月からは一定規模以上の太陽光発電が国の環境アセスメントの審査対象になり、この案件も5月に適用されることが決まりました。まさにこれから審査という段階で、事業会社が撤退を発表したのです。

この事業会社は、NHKの取材に対し、「本年4月以降の諸制度の改定や今般の新型コロナウイルス感染症の拡大による影響等により、本計画を取り巻く環境は大きく変化しており、事業化に要する期間の長期化が見込まれ、総合的に勘案して事業化は困難であると判断した」と回答しています。
長期化して着工が遅れれば費用がかさむだけでなく、太陽光発電の買取価格が下落し、採算は見込めません。会社が開いた住民への撤退説明会では、「環境影響評価に対し厳しい意見が出され、国の許可が下りるめどが立たない」ことも、理由としてあげられていたということです。
“誇り”を持てる持続可能な再エネをめざして

個人的には、再エネの普及はとても大切だと思っていますが、それにはまず、乱開発を避けるための徹底したゾーニングをすることが必要です。再エネの普及が喫緊の課題であるからこそ、しっかりしたルールを作って、できればエネルギーの“地産地消”に役立つもので、地元の人々が“誇り”を持って建設し、その収益が地元にかえってくるようなものでなければ、持続可能な開発とは言えないと思うのです。
水源への影響や景観、防災上の問題もあるでしょう。しかし、全てのメガソーラーや風力発電を敵視する考え方では、より一層の気候変動を招いてしまい、違う意味で大切な故郷を失いかねません。よく精査すれば、すでに開発された土地の空いているスペースや、都市の建物の屋上や壁なども含め、まだまだ再エネのポテンシャルはたくさんあるはずです。洋上という新しい可能性もあります。故郷の風景に馴染ませながら再エネを導入していくことは、不可能ではないはずだと信じています。

きちんとしたアセスメントを行い、製造から廃棄までの行程全体で真に“地球に優しい”と言えるものなのかどうかを見極め、地元の住民が合意を形成した上で、地域に活気をもたらす再生可能エネルギーを作っていかなければ、長続きはしません。各地で「ご当地電力」と呼ばれる地元主導の再エネ電力会社も次々誕生しています。

大切なのは、住民との対話地域全体が共有するビジョンです。
メガソーラーの撤退が決まった後も、霧ヶ峰一帯では、荒廃した里山をどうよみがえらせ地域として生かしていくのか、という大きな課題が残されています。
コロナからの経済回復のためにグリーンリカバリーが求められている今だからこそ、より一層、それぞれの地域が目指すべき方向性を徹底的に議論し、地域の個々の状況を吟味しながら、持続可能で愛される再エネを増やす方策を模索してほしいと願っています。