私たちが闘う“理由” 中国・言論統制と若者たち

「中国を愛している。少しでも変えたい…。」若者は胸中を明かしました。ゼロコロナ政策などに対し、白い紙を掲げ反対デモを展開した若者たち、いわゆる“白紙世代”。中国で一部の若者が姿を消したり、脅迫を受けたりする事態を問題視し、海外から祖国の言論統制に異を唱えています。しかし、若者たちは海外に渡っても“圧力”に直面していました。身の危険を感じながらも、声を上げ続ける理由とは―。知られざる若者たちの闘いに迫りました。
出演者
- 城山 英巳さん (北海道大学教授)
- 桑子 真帆 (キャスター)
※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。
中国・言論統制と若者 私たちが闘う“理由”
桑子 真帆キャスター:

言論統制が強まる中国。例えば、先週中国のSNSに投稿された「福島で排出されるトリチウムの年間総量は心配するに値しない」という書き込み。原子力の専門家を名乗る人物のアカウントでしたが、投稿後すぐにコメントは削除され、アカウントも閉鎖されました。
今の中国社会では監視が厳しいため、政府と異なる考えを持っていても声を上げにくい状況になっているのです。そうした中、中国を逃れ、海外からおかしいものはおかしいと意見を発する若者たちが増えています。
私たちはそうした、いわゆる「白紙世代」の若者たちに9か月密着。危険を冒しても危険を覚悟しても祖国を変えたいという強い思いが見えてきました。
世界各地で声を上げる“白紙世代”
2023年2月、東京・渋谷で行われていたデモ。中国人留学生の盧家煕さんです。

白紙運動以降、中国では政府によって拘束され、今も行方が分からない若者たちがいることを知ってほしいと訴えていました。

「たくさんの若者が逮捕されました。今もまだ(一部が)釈放されていません。こんなことは絶対に許せません。白い紙を掲げて声を出しただけの人に、何の罪があるというのでしょうか」
盧さんが日本に来たのは、2022年4月。中国の両親からの仕送りで暮らしながら日本で大学入学を目指しています。
「海外での1人暮らしはさみしくないですか?」
「最初は日本語が分からず友達もいなくて、さみしかったです。でも、住んでみたらいい所ですね」
身元を明かしてデモを行う盧さん。なぜ実名で活動するのか。私たちの問いに「姿をさらした方が身の安全を守れる」と語りました。
そして取材の中で見せてきたのが…

活動に参加するようになって以降、中国大使館の職員を名乗る人物から電話がかかってくるようになったといいます。
「誰が主催していますか?あなたが主催者ですか?目的は何ですか?」
さらに、警察の関係者を名乗る人物からも。
「こんにちは、盧家煕さん。外国では自分を大切にしなさいと言っているでしょう。勉強しなさい。自分を大切にしなさい」
「表面上は礼儀正しいですが、実際には警告です」

活動のきっかけは2022年。中国や海外で広がった、あの「白紙運動」だといいます。盧さんも東京で参加していました。
抗議の声が各地で高まると、中国政府はゼロコロナ政策を大幅に緩和。「声を上げれば政府も変わる」。この時、盧さんは希望を感じたといいます。
しかしその後、ある出来事が。

「中国の検索サイトで白紙革命で調べても、何も出てきません」
中国政府が白紙運動に関する情報を遮断。そして、中国国内で声を上げた若者を次々と拘束し始めたのです。
「中国国内で抵抗するのはとても難しいことです。抗議すれば、あすにも逮捕されるかもしれず、非常に危険です。でも海外では、きょうだけでなく、あすもあさっても声を上げ続けることができます。本当は中国に帰りたいけど、しばらく帰っていません。いつか帰れたとしても全て変わっているでしょうから、ふるさとを思い出すと悲しくなります」
白紙運動以降も声を上げ続ける動きは世界各地に広がっています。
オーストラリア有数の名門校シドニー大学。中国人留学生のアーロンさん(仮名)、23歳です。

「コンピューターサイエンスと生物化学を勉強しています。医薬品の開発がしたいです」
もともと物静かな性格でしたが、白紙運動をきっかけに初めて声を上げるようになったといいます。
習近平主席を風刺する着ぐるみをかぶるアーロンさん。「自由な発言を許さない」など強権的な政治に対し、抗議の意思を示してきました。

「とても暑いよ。きょうは20度以上。シドニーの日光はすごく強い。」
支持する仲間もできた一方で、抗議をやめさせようとする同じ中国からの留学生もいました。

「本当にばかだ。帰れ、撤去しろ」
さらに。
「あなたたちがどう感じているか分からないけど、これは私たちを完全に侮辱しています」
「なぜ?」
「あなたは言論の自由というけど、私の信じていることを侮辱している」
「では習近平が皇帝になりたいと思うことについてはどう思いますか?」
「聞いてください。それは本当に問題ではありません。証拠はあるんですか?証拠もなく思い込んでいるだけです。私はここで顔を出して話せる。でもあなたは顔を隠している。顔を出す勇気がない。よくないことをしているからだ」
「勇気あるぞ。(着ぐるみを)取ったぞ」
「僕は共産党の支持者だから彼を批判しています。中国は改革開放によって経済が急成長しました。彼1人の活動で、今までの功績を帳消しにしてはなりません」
「共産党はいいこともしたけど、よくないこともしました。人民には党をチェックする権利がなく、中国の体制は人々のためではありません。私は中国がよくなるためにやっています。共産党は好きじゃないけど、中国を愛しています。中国の大地と、そこに生きる人々を愛しています」

「今、電話大丈夫?」
「大丈夫」
「ご飯は食べた?」
「食べたよ」
「お母さんが言いたいのは…活動に参加しないでほしい。ちゃんと勉強して」
「勉強はしたいよ。科学が好きだから研究に集中したい。でも(中国の)社会が腐っている」
「息子よ。あなた一人の力では何も変わらないのよ」
「自分の力を尽くして少しでも変えたいんだ。お母さん、本当に申し訳ないです」
日本で声を上げている盧家煕さん。自分を取り巻く状況に異変が起きていると語りました。

「中国の銀行口座を止められました」
説明もなく突然、銀行口座が凍結され、親からの仕送りを受け取れなくなったというのです。
「今のあなたは、とても危険な状況にあると分かっていますか?」
「僕は…」
「あなた自身のためにもデモに行かない選択もあるんじゃないですか?」
「考えたけど、活動には意義があります。今やめたら諦めたと思われ、みんなを裏切ることになります」
中国の家族が実際に圧力を受けるケースも出ています。
大阪の日本語学校に通う李萍さんは、SNSを通じ、中国社会に対するみずからの考えを発信しています。

「意見を持つことは国への最大の愛情です。希望を抱くからこそ声を上げるんです」
この日は、中国でタブー視される天安門事件の追悼集会への参加を呼びかけていました。
「(天安門事件で)中国の民主主義と自由のために犠牲を払った人は記憶されるべきです」
34年前の6月4日に起きた天安門事件。言論の自由や選挙制度の導入などを求めたデモが武力で鎮圧され、大勢の死傷者を出した事件です。
集会の呼びかけから2日後、李萍さんに異変が。
「きのう、私は大阪でのイベントの中止を発表しました。とても大きな圧力を受けたためです」
いったい何があったのか。集会への呼びかけを行った直後、家族や親戚が中国当局によって連行されたと明かしました。

「日本で活動に参加しないで」
「どうしてだめなのか教えて」
「天安門事件はあなたと何の関係もないでしょ。活動を続けるなら私は死んでしまうわ」
「直接家族を脅迫するなんて思いもよりませんでした。家族が巻き込まれ、心が痛みます」
広がる抗議活動 背景に何が
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、中国の政治や現代社会に詳しい城山英巳さんです。今回番組で取材したディレクターによると、天安門事件以降ここまで多くの人が中国政府を批判することは考えられなかったということです。どんな印象を持たれましたか。

城山 英巳さん (北海道大学教授)
中国の政治・現代社会に詳しい
城山さん:
習近平体制になってから言論統制がどんどん強まっていく中で、これだけ大きな習近平体制に異を唱える抗議活動が全国一斉で行われたというのは本当に異例なことだと思います。
桑子:
その背景にどういうことがあるのでしょうか。
城山さん:
やはりいちばん大きかったのは「ゼロコロナ政策」だと思います。ゼロコロナ政策の中で非人道的かつ理不尽なことがたくさん行われるわけですが、それを中国の一人一人が身近な問題として捉えて「自分が今、声を上げなければこの国は変わらないんだ」という意識を、社会に対する意識を強めた結果だと思います。
桑子:
中国の言論統制。習近平氏が2013年に国家主席に就任して以降、強化の一途をたどっています。

ご覧のように、立て続けに法律が施行され、2023年7月1日に施行された改正反スパイ法では、改正前は「国家機密」に関する情報の提供などがスパイ行為とされていたのが、改正後は「国家の安全と利益」に関わる情報も含まれることになり、スパイ行為の定義が広がったのです。
城山さん、なぜここまで習近平政権というのは言論統制を強めるのでしょうか。
城山さん:
ひと言で言いますと、アメリカ、日本、ヨーロッパの民主主義国の価値観、影響力ですね。そういうものが中国国内に入ってきて、それが中国国内の民主派の人たちとつながって、政権が動揺する事態を恐れているからだと思います。
桑子:
こうした中で今、中国の若者が海外で声を上げる事態になっており、その1つに日本もあるということで日本はどういう存在になっているのでしょうか。
城山さん:
日本はアジアの民主主義の大国として海外で声を上げる人たちにとってみればすごく自由に物事を発信できる、声を上げられる拠点になっているのだと思います。
桑子:
他に香港や台湾という選択肢もある中でどうしてでしょうか。
城山さん:
香港はご存じのとおり、2020年に香港国家安全維持法ができまして、これまでデモとか表現が自由に保障されていたわけですが、これがかなり締め付けられて自由にものが言えなくなった。つまり自由に発信することが出来なくなったわけです。
台湾も2024年の総統選などを控えて中国との距離感を巡って極めて不安定な状況にある。そういう中で人やものが行き交う、自由に行き交って情報も行き交う、そういう日本の位置づけが彼らにとってみれば大きく評価される事態になっていると思います。
桑子:
驚いたのが家族にまで影響が及ぶというところですね。
城山さん:
VTRを見させていただきまして、本当に悲痛な感じがしました。中国人は家族をすごく大切にするんです。お父さん・お母さんの気持ちを大切にするのですが、中国共産党は家族に圧力を加えて息子・娘の海外での行動を抑えようとする。これは彼らにとって、若い人たちにとってみれば親のことをつつかれるのは極めて痛いのですが、それを乗り越えて、それでも海外で声を上げようというのは本当に勇気ある行動であって私もすごく感動しました。
桑子:
一方で、たとえ海外であっても声を上げるのは安全ではなくなってきているのではないかという懸念もあります。その原因の1つが、海外で警察のような動きをするいわゆる“警察拠点”の存在です。
中国・言論統制の実態 海外“警察拠点”とは?
アメリカ・ニューヨーク。

チャイナタウンの一角にある雑居ビルの中に、中国の“警察拠点”の一つがあると見られています。
私たちは建物の内部に入りました。
「こんにちは、入ってもいいですか」
この施設について、中国メディアは中国の運転免許の更新などを行う「公的サービスの出先機関」だとしています。しかし…
「FBI(連邦捜査局)は、中国政府の代表として反体制派に嫌がらせや威圧的な行為に及んでいると指摘しています」
2023年4月、施設の運営に携わっていたとみられる男2人をアメリカ司法当局が逮捕。起訴状によると男2人は反体制派の監視を行うため、中国公安当局から指示を受けていた容疑がかけられています。

こうした施設は日本を含め「少なくとも世界53か国102か所に存在する」とスペインの人権NGOは報告しています。
一方、中国政府は“警察拠点”の存在を真っ向から否定。
「“警察拠点”というものは根本的に存在しない。アメリカは在外中国人にサービスを提供する事務所と中国の外交官を悪意をもって関連づけた。根拠のないでっち上げだ」
アメリカ司法省が認定した“被害者”とされる人物に接触することができました。

「はっきり『お前を殺す』と書いています」
突然送られてきた殺害予告。3年前に中国のコロナ政策を批判する記事を執筆した、この男性。その後、脅迫やハッキングをたびたび受けてきたといいます。
「(“警察拠点”に対し)反発しなければ次は堂々と警察官を派遣し、中国人を逮捕し始めるかもしれません。各国でどこまでできるのか探っているのです」
若者たちの今後は
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:

赤く示したところが国際人権NGOが報告した、中国の“警察拠点”がある国です。国際法上、海外で警察活動を行うことは許されていません。中国政府は存在を否定しているわけですが、これを見ると日本も含まれているわけですよね。どこまで実態というのは分かっているのでしょうか。
城山さん:
実態はよく分かっていないのが現実だと思います。ただ、海外で抗議活動を行ったりデモを行ったりする中国人に対する監視活動や、場合によっては連れ戻しなどを目指しているものだと分析することができると思います。
桑子:
目的はどういうことが考えられますか。
城山さん:
最近、中国の習近平国家主席がよく言っているのは「国家の安全」なのですが、究極的には「習近平の安全」がいちばん重視される事態だと思われるんです。
例えば習近平さんは海外によく訪問されますが、もともと国内でものが言えなくなり、迫害されて海外に行っている人たちが海外で習近平主席に対する抗議活動を行っているわけです。これをなんとか取り締まる。習近平主席が行ったときに反習近平の抗議活動が行われないようにしていくのが1つのねらいと読み解くことができると思います。
桑子:
海外で声を上げる若者が各地に広まっているわけですが、今後こうした動きがどうなっていくのか。
改正反スパイ法の影響も…
・在外中国人にも法律適用の可能性
・密告者増加のおそれ
城山さんが注目されているのは、7月に施行された「改正反スパイ法」です。考えられることは2つあるということで、1つは在外中国人にも法律が適用される可能性があるということです。そしてもう一つ、密告者が増えるおそれだと。
城山さん:
2つ目の密告者のほうがより深刻だと思うんです。「ウィーチャット」というSNSがあるのですが、そこで8月に国家安全省のアカウントが開設されまして、国家・国民全体を動員してスパイを摘発しようという宣伝が行われているわけです。その中で密告者、つまりスパイを摘発した人を、貢献があればそれを奨励する、表彰するようなことも書かれているわけです。そういう中で密告というものが出てくると思うんです。
例えば、デモの中に中国共産党とつながっている人物がいて、デモをしている若者に対して彼は外国とつながっているぞというふうに密告すれば、これがデモをする側にとって恐怖になる。いわゆるデモ活動を萎縮させる効果を共産党が狙っているんだと思いますね。
桑子:
城山さん、少しでも安心して活動ができる場所として日本に来ている若者がいる。私たちはどう向き合っていけばいいでしょうか。
城山さん:
日本は民主主義国として中国で迫害されて日本国内に来ている若い人たち、声を上げようとする若い人たちを温かく迎えるべきだと思います。ゼロコロナ政策を突きつけられてさまざまな問題が出ているわけで、こういうことに対して社会の中に声を上げている若い人たちとともに議論することによって、真の成熟した日中関係ができるのではないのかと私自身思っています。
桑子:
ありがとうございます。真の日中関係というお話がありましたが、国家間の関係性が変わっても一人一人の考え、そして人となりをしっかり見て、それから自分は関係をどう築いていくかを考えることが求められているのではないでしょうか。
“それでも声を上げる” 国境と世代を越えて
たとえ言論統制が強まっても、盧家煕さんには心の支えがあるといいます。

インターネットでつながる、世界各地の仲間の存在です。
「今後、私たちは何ができるのか?常にみんなで考えていこう」
「天安門事件」が起きたこの日。世代を超えて祖国への思いを共有しました。

「自由と真実の追求は人間の本質であり、誰も変えられません」
「天安門事件の当時の人々の思いを今の若者に受け継がなくてはならない」
「私たちの声は必ず中国政府に届くはずです。中国人が必要としているのは人間として生きることです。人が言葉を失えば、ただの動物になってしまいます」