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2023年5月9日(火)

家でも学校でもない第3の居場所 ヒントは昭和の長屋文化!?

家でも学校でもない第3の居場所 ヒントは昭和の長屋文化!?

住宅地の空き家が子どもが集う駄菓子屋に。渋谷の複合ビルでは親子やシングルなどさまざまな背景を持つ人たちが共同生活を送り、支え合いの関係を築く“拡張家族”という社会実験が行われています。“ありのままの自分でいられる居場所がない”と訴える子どもたちが増えるなか、学校でも家庭でもない“第3の居場所”作りが広がっています。家庭や学校の負担が増えるなかで、こども家庭庁も本腰を入れています。解決のヒントは“昭和の長屋文化”?

出演者

  • 青山 鉄兵さん (文教大学 准教授)
  • 桑子真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

家でも学校でもない 子どもの第3の居場所

桑子 真帆キャスター:

家や学校以外に安心できる居場所がほしい。つまり「第3の居場所」がほしい。そう考えている子どもや若者が全国で7割に上ることが、4月に発足したこども家庭庁の調査で分かりました。こうした居場所をどう作るのか。今、国を挙げた取り組みが始まっています。子どもたちの声をきっかけに生まれた、第3の居場所があるんです。どんな場所なんでしょうか。

駄菓子屋が居場所に

東京 八王子市の住宅街の一角に、たくさんの子どもたちが詰めかける駄菓子屋がありました。

手にしているのは、今どきの子どもにとっては珍しい駄菓子や、おまけ付きのくじ。下校する子どもに合わせ、午後2時に開店。遅い日は夜7時まで営業しています。

小学生
「来たら、そのときにスタンプを貼ってもらうの。12回来てる。一人でも来る」
取材班
「友達の家に行ったりはしない?」
小学生
「しない。ちょっと気遣っちゃう」

一見ごく普通の駄菓子屋ですが、なぜ子どもたちの心を引きつけるのか。店の許可を得て、日常を定点観測させてもらうことにしました。

午後2時、開店。

学校が終わって、子どもや親子連れがやってきます。中には、お菓子に目もくれず奥へ向かう子どもたちも。

店の奥には、自由に過ごせるスペースもあります。早速、宿題に取りかかりました。

夕方4時半、大勢の子どもたちが。

始まったのは、カードゲーム大会。学年や学校を超えた居場所になっていました。ここでは、一人でも自分の好きな時間を過ごすことができます。店を運営する、ボランティアの大人がサポートします。

訪れるのは1日平均30人。毎日通う子どももいます。実は、この駄菓子屋は子どもの声をもとに作られました。八王子市では20年前から子どもが主役の議会を開き、子どもの意見を政策に反映する取り組みを続けてきました。そうした中、2年前に子どもたち自身から居場所を求める声が多くあがったのです。

八王子市子ども家庭部 井垣利朗さん
「本屋がある町とか、自習ができる町とか、子どもの居場所を求める声っていうのは多くあったなと感じている」

子どもたちが何気なく過ごせる居場所は急速に減っています。例えば駄菓子屋の場合、1972年には13万6,000軒ありましたが、この50年で20分の1まで減りました。

中学生
「駄菓子屋を通してみんなが交流できるような空間というのが、すごくありがたいと思います」
中学生
「地域の人と話せることはあんまりないじゃないですか、こういう話せるフリーダムな場所があるといいと思っています」

この駄菓子屋で子どもたちが大きく変わったという人がいました。近所に住む山下洋子さん(仮名)。2人の子どもを育てるシングルマザーです。
コロナ禍で親子で家に引きこもるようになり、子どもたちの気持ちも不安定になりました。

山下洋子さん(仮名)
「娘に関しては一緒に心が荒れちゃうんで、ぐずるとかもすごい多かったですね。ぱっと見たら虐待してるんじゃないかという雰囲気が。私の身内からも言われるんですけど、そういう雰囲気がすごかったらしい」

今、山下さんの子どもたちは毎日のようにこの駄菓子屋に通っています。

長男
「ここでは集まって遊んだり、ゲームをしたりしている。全部楽しい」
山下洋子さん
「(駄菓子屋に行く前は)本当に暗い感じでしたよ。本当にこんな感じじゃなかった。きょうも楽しく過ごせるんだろうなって。そのまま大きくなっていければいいなとか、そういうことを覚えながら眺めちゃいます。もう心の支えですね、めちゃめちゃ存在でかいですね」

居場所は学校と職場!? 日本の子ども・若者

子どもが、家でも学校でもない居場所を求める背景には何があるのか。立命館大学の御旅屋達(おたやさとし)教授が注目するのは、こちらのデータ。

10代20代の悩み事の相談相手の国際比較です。親以外の相談相手として選ばれたのは、日本では「近所や学校の友だち」が特に多く「誰にも相談しない」という回答も際立っています。

立命館大学産業社会学部 教授 御旅屋達さん
「これだけ学校とか近所が友達作りに影響を与えているというのは、ともだち100人できるかなじゃないですけれども、学級でうまくやるということが非常に強く求められる。その中で人間関係を作っていかないと、生きる場所がないという構造が強く表れている」

さらに、こうした傾向は学校を卒業した後の職場にまで現れています。仕事をするうえで大切なものを比較した調査です。

他の国では「高い賃金や充実した福利厚生」など待遇面を重視する一方、日本では「良質な職場の人間関係」が最も高くなっているのです。

御旅屋達さん
「これまで日本社会において学校であるとか企業であるとかいう場所が、強く私たちを丸抱えしてきた。いったん外れた子たちはなかなか戻れない感覚が残されている。社会にどこにもいない、そういう存在の人たちが増えてきた」

第3の居場所の模索

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、国の審議会で「こどもの居場所部会」の委員を務めている青山鉄兵さんです。

こども家庭庁でも、こども・若者の居場所づくりというのが重要項目として挙げられているそうですが、今、彼ら彼女たちの居場所に何が起きていると見ていますか。

スタジオゲスト
青山 鉄兵さん (文教大学 准教授)
こども家庭庁こども家庭審議会こどもの居場所部会委員

青山さん:
先ほど駄菓子屋の映像もありましたが、ああいう地域のつながりがなくなる中で、家庭や家族や学校に期待される役割がどんどん増えていったという状況があります。

子どもの側から見ると、人間関係も居場所も「家」・「学校」、この2つにしかないというような子どもがたくさんいるという状況になるわけです。あるいは、親とか家族、学校の先生以外の大人とふだん会わないという子どもも多いかもしれません。そこで何かうまくいかないことが起きてしまうと、とたんに行き場を失ってしまったり、また、今のいわゆるいろんな生きづらさにもつながっていると言えると思うんです。例えば、トー横キッズなどの現象もこういった居場所のなさを反映していると言えると思うんです。

なので、やはり社会全体の中で子どもや若者の余暇ですとか、放課後をどう整えていくか、そんなことが課題になっていると思います。

桑子:
その1つが、まさに駄菓子屋と言えるわけですが、子どもたちが実際にどんな居場所を求めているのか。こども家庭庁のデータです。「居場所がない」と回答した子どもで、どういった場所だったら利用したいかというのを聞きました。

いずれの年代を見ても、大きく2つに特徴が分けられました。「自分の意見や希望を受け入れてもらえる」、「悩み事の相談に乗ってもらったり、一緒に遊んでくれる大人がいる」と答えた子どもたちよりも、「1人で過ごせたり、何もせずのんびりできる」、「好きなことをして自由に過ごせる」と答えた子たちのほうが多かった。ここから読み取れることは何でしょうか。

青山さん:
居場所といっても、大人が場所だけ用意してあげれば居場所に自動的になるというものではないわけです。やはりそこが子どもたちにとって安心できたり伸び伸びできたり、ここにいたいなと思えるというものとセットで初めて居場所になると思うんです。そういう意味では、いわゆる「居場所づくり」といったときに、大人たちはついつい成長ですとか変化ですとか、すごく教育的な期待をいっぱい込めてしまうようなこともよくあることなんですよね。

桑子:
何かしてあげたいというようなね。

青山さん:
そうです。でも、まずは1人でも過ごせるとか、何もしなくてもいいよということも含めて、子どもたちにとって安心できるということがすごく大事になると思うんです。

どうしても成果ですとか評価が大事にされる社会の中では居場所にすら「成果」を期待してしまう。そんな状況もあるような気がしています。

いろんな「体験」とか「つながり」とか、結果として変化や成長につながるものがたくさんあるわけです。それを大人が期待しすぎない。それが重要かなという気がします。

桑子:
こうした中で若者たちが中心となって子どもたちと新たな居場所を作ろうと、ある試みを始めています。

令和の長屋“拡張家族” 新たな居場所づくり

東京 渋谷にある複合ビルの13階。夜7時、夕食会が開かれていました。

集まっていたのは、20代の会社員や40代のクリエイター、30代の作家など。性別や年齢、職業まで多種多様な人たち。大手不動産会社と共同の新たな居場所づくりの社会実験です。実は、彼らはこのビルで共同生活を送っています。今は19の部屋で32人が暮らしています。

会社役員
「鍵もかけていない部屋も多いし。あんまり考えられない、今だと鍵をかけないでおうちを空けるとか」

大切にしているのは、血縁関係がなくても家族という意識を持つこと。育児の場合も、自分の子どもを育てる意識で支え合います。「拡張家族」と名付けられた、この社会実験。京都にも拠点を広げ、メンバーは総勢100人になります。

拡張家族Cift 石山アンジュさん
「(拡張家族は)新しい長屋的な新しい暮らしを実験してみようという試みの1つとして始まりました。現代の家族は核家族。少数で子育ても介護も、お互いの人生も支えあわなくてはいけない、そういった状況にいる人が多いと思うんですけれども、拡張家族は家族におけるあらゆる負担を複数の人たちでシェアできることだと思います」

3年前から拡張家族の一員として入居している、奥井奈南さんです。フリーランスで働きながら、2022年、ここで第一子を出産しました。パートナーは今は地元の三重県で働いています。

奥井奈南さん
「ハードですね。(仕事を)詰め込みすぎないと思っているけど、詰め込んじゃいます。もちろん子どもが優先的に最上位ですけど、ママに合ったスタイルが一番自然な愛情を注げると思うので、私はそれが仕事と育児の両立だった」

イベントやネット番組の司会を中心に仕事をしている奥井さん。仕事の合間をぬって、できる限り子どもとの時間を作ります。イベントの最中、奥井さんは会場にいた女性に子どもを預けました。

内田美希さん、共同生活をおくっている住民の一人です。この日は、奥井さんの子どもの世話を進んで引き受けました。入居して10か月。内田さんは多くの子どもを見てきました。互いに支え合う暮らしの中で、心地よさを感じるようになったといいます。

内田美希さん
「なんだろう、自分のライフワークって感じ。大人がいないと生きていけない命を一緒に育てるみたいな。
(拡張家族は)頼りたいときに頼れるとか、頼ってもらえるから頼りやすい。誰か助けてくれるみたいな安心感は大きいじゃないですか」

夜11時、仕事を終えた奥井さんが帰ってきました。

内田美希さん
「(小声で)おかえり。お疲れ様さま」
奥井奈南さん
「(小声で)マジで助かる。めっちゃすやすや寝てる。爆睡してる」
奥井奈南さん
「今みたいな第3の家族、第3の居場所があると、地域みんなでこの子を育てていくみたいな。(ここで)子育てしてみて、こういうことかと実感できた感じです」

これまで15人の子どもが周りの大人たちとの関わりの中で育ってきました。今では地域の子どもたちも遊びに来るようになり、より多様な人たちが関わり合う居場所になっています。

石山アンジュさん
「大人でも多様な意見があるんだとか、子どもが自分で気づけるきっかけになることは大きいと思いますし、子ども側の視点から見て自分の親以外にも何かあったときにSOSが出せるとか、誰かつながりを求められる環境という開かれた家族のあり方というのが、この拡張家族のいいところだと思います」

変わる家族の形 新たな居場所づくり

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
拡張家族の試み、どんな印象を持っていますか。

青山さん:
居場所というのは、大人にとっても大事なものだなということを実感しますね。

その上で居場所づくりという話になると、第3の居場所、ここの話題が多くなることも多いわけですが、これまでの背景を考えれば、この居場所を考えるということは第1や第2の居場所そのものを捉え直していく、そんな形になるのかなと思うんです。

なので、今の拡張家族の事例というのは第1の居場所と第3の居場所の境界線をアップデートするというか、家族自体を捉え直していく試みというふうに言えるかなと思いました。

桑子:
見ていると、子どもにとっては面倒を見てくれる大人がたくさんいて、私は経験してないですけど昭和の長屋のイメージを見たような気がしました。今、家族の形は当時とは変わっていますよね。
例えば「核家族化」が進んでいたり「ひとり親世帯」「共働き世帯」も増えています。こうした令和の今にどういうことが求められていると考えますか。

青山さん:
家族の変化がさまざまある中で、一方、家族に期待する役割というのは大きい状態がずっと続いてきたのではないかと思うわけです。今お話にもあったように家族の形はすごく多様ですよね。ですから、まずは多様な家族像を認めていくこと。その上で、親や保護者たちが孤立しないよう、みんなで社会や地域とつながりながら子育てをしていける環境をどう作っていくかが重要なのかなと思います。

桑子:
拡張家族のようなものがあるかもしれません。他にどういったものがあるでしょうか。

青山さん:
例えば、先ほどの駄菓子屋のケースも第1と第2と第3の線引きを変える1つの試みだと思うんです。地域の大人たちが、第3にああいう拠点を作っていくことで家族も支えられたりとか生きやすくなったりとか。そういうような試みが、第1の場所もそうですし、第3の場所にもあるということが大事ですね。第2もそうだと思いますけれども。

桑子:
地域で言うと、地域が持つ特性というのもありますよね。

青山さん:
例えば日本語が苦手な子どもたちが多くいる地域であったりとか、貧困家庭が多い地域などもあります。そういう地域ではそういった地域の特性に合わせた支援が必要になってくるでしょうし、例えば高校生とか大学生が近くにたくさんいるような地域であれば、彼らがお兄さん役、お姉さん役になったりしながら大学生も小学生も両方成長できるとか、そういう循環する仕組みなんかも地域によってはできるかもしれません。

桑子:
今回は駄菓子屋、そして拡張家族をご紹介しましたが、青山さんがどちらも大事だと思った共通点はどういうことですか。

青山さん:
2つ共通しているのは、当事者の声が届いている、よく反映されているということだと思います。八王子の駄菓子屋のケースも、子どもたちの会議の中からいろんな声が広がってきたということもありました。大人が「はい、居場所だよ」と言っても居場所になるわけではなくて、これが自分たちの場所だというふうな感覚がちゃんと持てることが、居場所の大きな条件だと思うんです。

その意味では、運営する時、あるいは立ち上げる時にも子どもたちや若者たちの声を十分に聞いて、それを反映できるような信頼とか構えを準備する側にできるといいなと思いますね。

桑子:
こどもの居場所部会の委員でいらっしゃいますが、国の議論に参加されていて本気度はどう感じますか。

青山さん:
もちろんこれから決まっていくこともあると思うのですが、4月からこども基本法が施行されて「こどもまんなか」というようなキーワードも今使われるようになってきています。

いろいろなものの決定プロセスの中に、子どもや若者の声もちゃんと届けようというようなところはこだわりどころとして大事にされている感覚があります。なので、これからいろんな形でそういうのが当たり前になるようなことを期待したいですよね。

桑子:
イメージだけではなく、実りある実効性のあるものをぜひ作っていってほしいなと思います。
これから居場所というものを作る上で、どういうものが大事になってくるのか。青山さんにキーワードを挙げていただきました。「ユニバーサル型・ターゲット型」があるのではないかと。

青山さん:
「ターゲット型」から説明すると、ターゲットのアプローチというのは特定のニーズや課題、例えば貧困、虐待、障害ですとか、いろいろなラベルがあると思うのですが、そういった特定の課題やニーズに向けてアプローチしていくのを「ターゲット型」と呼びます。

「ユニバーサル型」というのは、例えば児童館とか公民館が分かりやすいかもしれませんが「誰でも来れるところ」で行われるサービスのことをユニバーサル型と言うんですね。

サービスというか居場所なので、サービスという言葉も合わないかもしれませんが「ターゲット型」の緊急度が高いケースの支援も大事にしながら、もう一方でターゲット型では救えないニーズであったり、みんなにとっての居場所をちゃんと大事にしていくことが求められます。

例えば「誰々のための場所ですよ」というと行きにくかったりすることもあるので、ユニバーサルな取り組みの中にターゲット型のニーズもちゃんと包み込まれながら地域のいろんな人が巻き込まれて、ユニバーサルな場所が広がっていく。両方大事にできることが重要かなと思います。

桑子:
ユニバーサル型が醸成していけば、気づけばターゲット型も包み込むことができるのではないかと。

青山さん:
そういう両方を含む隙間というか、余裕のようなものが子どもたちの安心にもつながりますし、ただの場所の用意ではない居場所づくりみたいなものにつながっていくのかなと思います。

桑子:
隙間って大事なキーワードだなと思います。居場所ってこうだと定義づけるものではないです。みんなが心地よくいられる場所、増えていったらいいなと思います。

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