どう防ぐ?大人の食物アレルギー “意外な原因”を突き止めろ

サーファーに納豆アレルギーが多いのはなぜか?医療従事者は果物アレルギーになりやすい?かつて原因不明とされることが多かった大人の食物アレルギー。身近にある“意外な原因”と、そのメカニズムが近年明らかに。5月以降も油断できない“ある花粉症”と、野菜や果物のアレルギーの知られざる関係も。かゆみやじんましん、場合によっては命を脅かす恐れもある“大人のアレルギー”。リスクを回避するための対策とは?
出演者
- 矢上 晶子さん (藤田医科大学 ばんたね病院 教授)
- 桑子真帆 (キャスター)
※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。
大人の食物アレルギー 解明進む“意外な原因”
桑子 真帆キャスター:

食物アレルギーとは、本来は体に害はない食べ物に対し、体内の免疫が過剰に反応することです。症状は、じんましんやかゆみ、おう吐などの他、時には命に関わるアナフィラキシーショックが引き起こされることもあります。
食べ物のアレルギーといいますと、子どもに多いイメージあるかもしれません。今注目されているのは“大人”。成人になってから新たに発症する食物アレルギーです。このアレルギーを引き起こす食べ物は、実に多種多様です。

例えば、果物、野菜、小麦、お肉などなど、さまざまあります。しかもアレルギー体質になったり症状が出たりするきっかけとして、サーフィンをしている人、ペットを飼っている人などの生活習慣や医療従事者などの特定の職業が関わっていることが分かってきました。例えば運動をしている人は、小麦。そして医療従事者は、バナナやアボカド。そしてペットを飼っている人は、お肉。
さらに、サーファーの人は思いもよらないものでアレルギーになるんです。
サーファーに多い食物アレルギーとは
福島県に住む水野憲一さん、40歳。趣味はサーフィンです。これまで大きな病気などしたこともなく、健康が自慢でした。

しかし、2022年10月、突然食物アレルギーを発症しました。
「夕方4時頃に、じんましんが出まして、全身ですね。特にひどかったのは内ももとか、あとは背中がひどかったですね。すぐ医療機関に行きました」
その日の朝食は、ごはんに納豆とみそ汁、昼食もおにぎりとみそ汁と、ふだんからよく食べていたメニューでした。
病院で医師からは、意外な原因を指摘されました。
「サーフィンが原因ということは言われました。まさかって感じですよね」
サーファーに多い、このアレルギーを研究してきた医師の猪又直子さん。アレルギーの正体は、実は納豆。

猪又さんの調査では、納豆アレルギーの患者13人のうち、11人がサーファーだという結果が出ました。
「患者さんに1つの特徴があることに気づきました。小麦色の肌をして食物アレルギーに似つかわしくない、非常に体格がよく若くてすがすがしい男性ばかりで、みんなサーフィンをするということでしたので」
ではなぜ、サーファーが納豆アレルギーになるのか。発酵食品である納豆は、一般的にアレルギーを起こしにくいとされています。猪又さんは実験を繰り返し、アレルギーの原因となる物質“アレルゲン”を見つけました。

「このネバネバの中に、アレルゲンがあります。発酵していく過程で、どんどんアレルゲン性が高まることがわかりました」
納豆のネバネバ成分に含まれる、“PGA(ポリガンマグルタミン酸)”と呼ばれる物質です。このPGA、海外の文献などを調べると“ある生物”にも含まれていることが分かりました。
それが、“クラゲ”。クラゲの触手が標的に触れ、毒針を刺すときにPGAを生み出すと紹介されていたのです。

クラゲに繰り返し刺されたサーファーは、皮膚からPGAが体内へと入り、アレルギー反応が起きやすい体質になります。

そこに納豆を食べ、PGAが体内に入ると、体がアレルゲンが侵入したと認識してしまうのです。構造が似ているアレルゲンを体が異物と勘違いし、過剰な免疫反応を起こすことを“交差反応”といいます。
「予想もしなかった交差反応、自然のまか不思議だと思います。まだまだ未解決の食物アレルギーがたくさん眠っているのではないかと思います」
さまざまな組み合わせで起こる“交差反応”
桑子 真帆キャスター:

サーファーの納豆アレルギーの原因は“クラゲ”でした。ほかにもさまざまな組み合わせで起こります。
ペットを飼っている人のアレルギーの原因は“マダニ”。ペットに寄生した場合にマダニの唾液に含まれるアレルゲンと、牛肉や豚肉に含まれるアレルゲンが似ていることで交差反応を引き起こします。
そして、医療従事者のアレルギーの原因は“ラテックス”。天然ゴムの手袋に含まれますが、このラテックスが荒れた皮膚などから体内に入ることでバナナやアボカドなどの果物と反応を起こすようになります。
今見たように、大人の食物アレルギーでは「何」と「何」がアレルギーを引き起こすのかを特定することが治療の鍵となっています。
“原因”を突き止めろ!
原因不明の症状に悩む患者が、全国から訪れる病院があります。食物アレルギーの研究で多くの成果を上げている、島根大学医学部 附属病院です。専門医の千貫祐子さんは、原因解明に大切なのは患者への問診だといいます。
6年前、食物アレルギーを発症した50代の女性。就寝中、突然呼吸困難に陥りました。
「首、のどもキュッと締まるような感じで。本当にだめかもしれないと思ったぐらいのすごい症状で」
千貫さんがまず確認したのが、発症した日の食事でした。

「夕飯を食べて、6時間から7時間後に、じんましんが出ている。2回のエピソードがあって、共通するものが子持ちカレイです」
疑ったのは、“カレイの魚卵”。重症化した場合、命に関わる危険性もあります。
続いて、生活環境や習慣について尋ねます。注目したのは、女性が犬を飼っていることと、山あいの町に住んでいるという事実でした。
「犬を飼育してらっしゃったので、散歩もされたと思います。このような生活環境というのは、マダニにかまれやすい」
原因は、山や野原に生息し、犬にも寄生する“マダニ”。実は、マダニの唾液に含まれているアレルゲンとカレイの魚卵に含まれているアレルゲンの形が似ているため“交差反応”を起こしたと見られています。
原因が分かったことで、女性はマダニにかまれない生活を徹底。症状は徐々に改善されているといいます。
「何に気をつければいいか自分なりに理解できたので、2度ともうあんなになりたくないと思ってすごく気をつけていました」
大人の食物アレルギーは、想像以上に幅広い食材で起きると千貫さんはみています。

「ありとあらゆる可能性があることと、患者さんにすぐに対応できるように」
アレルギー反応を調べる皮膚テストを行うため、100種類以上の食材を準備。それでも原因を突き止められない症例も数多くあるといいます。
「この10年~20年で飛躍的に研究は進んだが、それでもまだまだ氷山の一角で。原因がわからない食物アレルギーの患者さんは、まだまだたくさんいらっしゃる」
食物アレルギーの原因が特定できないことは、患者の生活にも大きな影響を及ぼします。
山田さん(仮名・50代)は20年ほど前、突然重い症状が現れ、病院に運ばれました。
「入浴後にいつも豆乳を飲んでいたので、ごくごく飲んだところ、なんかすごく急にそのまま飲んで気持ち悪くなり、そのまま戻して、そのあとは座り込んじゃう状態で息ができなくなってきて」
なぜ豆乳で突然アレルギーになったのか、何人もの医師に診てもらいましたがはっきりしませんでした。さらに、リンゴやモモ、トマトやキュウリなど、食べると体調が悪くなる物が次々と増えていきました。

「なるべく果物のコーナーのほうは避けて通るようにはしています。においが強い果物は、じんましんが出ちゃうことがあるので。何が悪いのかがわからないから、何をやってもずっとおなかが痛くて気持ち悪くて」
倒れてから2年後、専門医にかかり、ようやく原因が分かりました。

原因は“花粉症”。実は、花粉と野菜や果物との間でも間違って免疫機能が働いてしまう“交差反応”が起きていたのです。山田さんの場合、春に多く飛散するハンノキの花粉に対して強いアレルギーがあることが判明。さらに、どの野菜や果物にアレルギー反応があるのか特定してもらうことができました。

「正直びっくりしました。花粉症でこんなに食べられなくなるものがたくさんあるんだと全然知らなかったので。気をつけて食べていこうと思っています」
症状起こす“組み合わせ”
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、長年アレルギー患者の診察や研究を行ってきた矢上晶子さんです。
それまで食物アレルギーと無縁だった人が突然発症する。これはどうしてなのでしょうか。

矢上 晶子さん (藤田医科大学 ばんたね病院 教授)
長年アレルギー患者の診察や研究を行う
矢上さん:
メカニズムが完全に明らかになっておりませんが、やはりアレルゲンというアレルギーを起こすものにさらされる量と頻度が上がると発症するといわれております。
桑子:
そこまでは分かってきている?
矢上さん:
成人の場合には、職業性、または日常的に触るものですね。頻回に触ることで発症することもありますし、遺伝的な背景もあるのではないかということが分かっております。
桑子:
遺伝的な背景もあるのではないか。
矢上さん:
はい。でも、それだけではないんです。遺伝的背景があったうえで、頻ぱんに触ったりすることが原因になっております。
桑子:
ここで見ていただきたい写真があります。矢上さんが診察された、患者さんの目元。かなり腫れていますが、これも食物アレルギーなんですか?

矢上さん:
食物アレルギーは、全身のじんましんもありますけれども、この方の場合は赤色の色素(コチニール)の入ったお菓子を食べて急に目が腫れました。原因は、もともとは恐らくアイシャドウなどメークに入っている赤色の色素でアレルギーになったことにより、今度赤色のもの、お菓子や飲み物を食べたり飲んだりしてしまったときにこのようなことが起こることが分かっております。
桑子:
赤色の色素によって、食べ物と化粧品の交差反応が起きているという。
矢上さん:
そうですね。両方に反応してしまう。近年、お化粧品を使う年代の女性に多いということが分かってきております。
桑子:
そして花粉症の私も気になったのが、花粉症と関係する食物アレルギーです。こちらに詳しくまとめました。

例えば、シラカンバやハンノキといった花粉では、リンゴ、モモ、サクランボ、大豆など。
そして、スギ花粉では、トマト。
他にも、イネ科、キク科のものも、さまざまな果物、そして野菜でアレルギーが起こるんです。
矢上さん、花粉症の方は日本でも多いですが、みんながみんな食物アレルギーになってしまうと思ったほうがいいのでしょうか。
矢上さん:
そんなことはないんです。全員が全員起こらないのですが、ただ、今花粉症が増えていて、そういう方々の全人口の1割ぐらいの方が何か食べるとイガイガするなどの症状を訴えるということが分かっております。
人口の1割 症状訴える(推定)
桑子:
1割ですか。
矢上さん:
その中でも今、カバノキ科のシラカンバ、ハンノキが特に多いといわれております。口がイガイガする、また、この中にも大豆とありますが、豆乳やもやしを食べるとショックまで行く方がみえるんです。
多くの方は口の症状、のどの症状で終わりますが、一部の方がショックまで行ってしまうところが問題です。そして表を見てみると、スギやヒノキが飛散する時期と、カバノキ科の飛散時期がほぼ同じなんです。その重なる時期に食物アレルギーの症状も多いといわれておりますので、今多いかもしれませんね。
矢上さん:
あとは、スギとトマトは実はこれまであんまりないといわれていたのですが、スギは今、新しい症例報告と研究の中で主にモモやリンゴ、またはオレンジなどと別のアレルゲンで交差反応、関係性があって、口以外の症状、ショックや顔が腫れるという重篤な症状を起こすことが分かっております。
ですので、スギと私たち国民との関係性がこれからまた新しく分かってくるのかなというところに今います。
桑子:
食物アレルギーは、いったんなったあとは治るのでしょうか。
矢上さん:
治しきることは難しいんですね。一方で食べられない野菜や果物がだんだん増えてくるんですね。
たとえば、最初リンゴだけ食べられなかった方が、だんだん食べられない物が増えてくることがあります。こういう一覧表もありますので、食べれるもの、食べられないものをアレルギーの専門医に見極めてもらうことが大切です。「これは食べれるもの」「食べられない」と分けていって、対応していく。
・食べられるもの、食べられないものを識別
・加熱すれば食べられる場合も
※花粉症以外が原因の大人の食物アレルギーは、アレルゲンを避けることで改善する場合があります
もう1つは、加熱をしたりすると食べられるものがありますので、全部を食べないのではなく、食べながら生活を楽しむことが大事だと思います。(自己判断ではなく、必ず医師の指導をうけて下さい)
桑子:
今まで見てきたのは、似た形のアレルゲンの交差反応によって引き起こされる食物アレルギーですが、これとは実は全く異なるメカニズムで発症するものもあるんです。それが、運動する人が引き起こす小麦アレルギーです。
原因は“ある行動”に…
島根県に住む徳島義孝さん、69歳。2年前、食物アレルギーが原因で突然意識を失いました。

「バターンとすごい音がしたんです。それですぐ飛んで来ました。『お父さん、お父さん』と言うだけです。何にも言いませんでした。本当に亡くなったと思いました」
その日、外出先で出された洋菓子を食べた徳島さん。原因は、食後にとった“ある行動”にありました。

「お茶と一緒にうっかり小指大ぐらいのバウムクーヘンを食べまして、15分ぐらい歩いて帰りまして、ほっとしてビールを飲んで、お手洗いに行きまして、その次は覚えがない」
徳島さんが食物アレルギーと診断されたのは4年前。小麦を食べたあとに、運動などをすると発症するというものでした。このアレルギー、小麦を食べただけでは発症しません。

食後、数時間の間に運動、飲酒、入浴、鎮痛剤を服用をすると症状が現れます。呼吸が困難になるなど重症化することも少なくありません。ふだん小麦を食べる際は薬を飲み、症状を抑えていた徳島さん。倒れた日は薬を飲んでいませんでした。
「前はラーメンとか袋で買いよったんですけど、そんなのもやめて、パンは本当食べませんわ」
万一に備え、小麦を使った食べ物を減らし、入浴を食事の前に済ませるなど、生活全般を見直しました。
「本当、年とってこんなこと心配なく、おいしいものをおいしいと食べてゆっくりやりたかったんですけど、日常生活でも元気ありすぎるぐらい元気ですので、本当信じられないですね」
対策は?始まった模索
大人の小麦アレルギーは、根本的な治療法がまだ見つかっていません。そんな中、新たな研究が始まっています。品種改良によってアレルゲンが少ない小麦を開発。

この小麦粉でつくったパンをアレルギー患者に少しずつ食べてもらい、反応が出ないかを確かめる臨床試験を行っています。
「食べながら治していくという治療法に使えないかどうか、慎重に少しでも大人の小麦アレルギーの方々の力になれるようにできる限り頑張っていきたいと思っています」
危険を回避する方法は
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
今見た運動や飲酒、入浴、鎮痛薬の服用などが誘発するタイプのアレルギーは、小麦のほかにもエビやカニ、果物でも起こることが分かっています。矢上さん、こうしたこともあるんですね。

矢上さん:
はい。比較的重篤な症状を起こします。ただ、絶対食べてはいけないわけではありません。食べたら大体2時間から4時間で消化されますので、その消化したあとに運動するとか、または運動する前は食べないということをすれば、個人差はありますが少しは食べられますので、全くということはありません。それは医師に相談だと思います。
桑子:
さまざまなものを見てきましたが、自分は食物アレルギーかもしれないと思ったとき、どうしたらいいのでしょうか。
矢上さん:
さまざまなアレルギーがあります。ですので、アレルギー専門医を受診すること。血液検査や皮膚テストを受けること。
ただ、血液検査で反応があったからといって、全部がアレルギーというわけではありません。ですから、診断する医師の指導のもと避けていくこと。いま、保険収載(適用)されていて、より精度が高い血液検査もあります。(※この血液検査で保険が適用されるアレルギーの種類は、現在11項目に限られています)アレルギー専門医に相談することが大事だと思います。
・アレルギー専門医を受診する
・血液検査や皮膚テストを受ける
桑子:
あと、血液検査と皮膚テストをすることでより詳細に分かってくるということですか。
矢上さん:
そうですね、分かってきます。ですので、過度に避け過ぎない。でも、食べられるものは食べていく。そこの指導というのは大事だと思います。
桑子:
最後に、食物アレルギーにならないことがいちばんいいと思うのですが、そのために気をつけるべきことはどういうことでしょうか。
矢上さん:
防ぎきれないものもあるのですが、1つは、やはり今の花粉症の時期でしたら花粉を自分で防御すること。ですから、マスクをするとか窓を開けないとか、布団を干さないとかありますけれども、そうすることが今日の花粉症の症状も抑えて緩和しますけれども、将来の花粉症の発症や食物アレルギーの発症を予防できる。
または、一方で「経皮感作」といって皮膚から入って来るアレルゲンは、皮膚を守るために手袋をするとか、手にクリームをつけるとかすることが大事です。
・いまの時期の花粉を防御する
・皮膚を守り、アレルゲンの侵入を防ぐ
ですので、マダニやクラゲなど、避けるべきことを避ければ、いつか耐えれるようになりますので、そこが大事だと思っております。
桑子:
まず、自分がどういうアレルギーを持っているのか、持っていないのかをしっかり知ることが大切でしょうか。
矢上さん:
そうですね。今、過度に避ける方もみえます。やはり診断を正しく受けることが大事だと考えます。
桑子:
これからさらに解明が進んでいくことを期待したいと思います。ありがとうございました。
