ChatGPTの衝撃 異次元のAIとどう向き合う?

「ChatGPT」は、ネット上の膨大なデータを学習し、まるで人間が書いたように文章の要約、記事執筆、プログラムの作成などができるAI技術。今、世界中の企業でその技術を活用したシステムが導入され、業務の効率化が進められています。一方、AIに創作させた作品の乱発や著作権の問題などリスクも叫ばれ、著名な起業家や国家レベルでも規制を求める声が高まっています。革命的AIの登場に私たちはどう向き合うべきか考えました。
出演者
- 松尾 豊さん (東京大学大学院教授)
- 桑子真帆 (キャスター)
※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。
異次元のAI ChatGPTの衝撃
桑子 真帆キャスター:

この歌詞を作ってくれたのは、2022年11月、アメリカの企業OpenAIが発表した対話型AI・ChatGPTです。これまでのAIとは一線を画す能力を持つとされています。
例えば「質問への回答」、「翻訳」、そして「要約」はもちろんのこと、記事や小説などの「文書執筆」、「アイデア出し」に「プログラミングコードの作成」までできてしまうのです。
さらに驚くべきは、そのクオリティーです。例えば「心に響くラブレターを書いて」と尋ねてみますと、ものの数秒でまるで人間が書いたかのような文章が出来上がります。

などなど。このように従来のAIとは異次元の能力を持つ、ChatGPT。導入が進む現場を取材しました。
ChatGPT×IT企業 ビジネスで活用
システム開発を手がけるIT企業では、2023年2月、業務の生産性向上のため、社員1万2,500人を対象にChatGPTを活用した独自のAIシステムを導入しました。

「プレゼンテーションのスクリプトを作ったり、議事録の生成とかに使っています」
「とにかく、どんな質問でも基本的には返してくれます」
IT部門の担当者は、1,000件以上におよぶデータを分析するためプログラミングを行っています。コードの作成をAIにお願いしてみると…

ものの数秒で下書きを作ってくれました。
「かなり正確に出てきています。ものすごくきれいな構文で出てくるので、そのまま使うこともできますし。1時間かけて(書いて)いたものが10分以内に書ける」
法務部門の担当者が行っているのは、社内研修で使う問題の作成です。

「下請け法の取り組みに関するテストで、問題をChatGPTに作ってもらっています」
難しい法律も…

見事、4択問題にしてくれました。
「ChatGPTで助けてもらうと、こういう形でやってもいいのかなという、もうひとつのアイデアが生まれる」
もちろんAIは万能ではありません。

この会社では内容が正確でないことや未来予測ができないことなど、AIの限界を理解した上で使うよう社員に呼びかけています。
「当初われわれが思っていた使い方以上に、本当に千差万別な使い方をされている。人間、われわれ社員はもっともっと判断するとか、ブラッシュアップをかけるところに時間をかけていくことにシフトできる」
ChatGPT×アプリ AI搭載で性能アップ
ChatGPTを、日常のさまざまなサービスに組み込む動きも始まっています。
視覚障害がある内田智也さんが使っているのは、従来からある音声読み上げサービスです。例えば、お菓子の賞味期限を知るために箱の裏にスマホをかざすと…

スキャンした文字を音声で読み上げてくれます。
しかし、ただそのまま読み上げるだけなので、全盲の内田さんにとっては必要な情報になかなかたどり着けないのが悩みでした。
「やっぱり見つけにくい。まず項目が見つからないんですね。我慢強く読むしかない。修行ですね」
そんな悩みを解決しようと東京のベンチャー企業が開発したのが、ChatGPTを組み込んだ新しい音声読み上げサービスでした。

読み取った文字情報をもとに、ChatGPTが内容ごとに整理して目次を作ってくれるのです。読み上げられた目次を聞いて、知りたい項目をタップすればその情報に素早くたどり着けます。

「商品情報、おっ、原材料だけ見られるね。こりゃいいや」
なかなか見つけられなかった賞味期限も。

「23.06.27(23年6月27日)。こりゃしばらく食べられるね。精神的に楽になりますよ。ずいぶん違いますね、いままで方法がなかったんですよね。狭い世界のすそ野が広がるというか」
ChatGPT×旅行会社 旅行プランが瞬く間に
急速に広がるChatGPTの活用。いち早く普及が進むアメリカでは、その能力のすごさゆえ、波紋が広がっています。
コネティカット州で50年近く続く旅行会社のオーナー、オデッド・バタットさん。
「このAIは、旅行会社を衰退させたり、仕事を奪うかもしれません」
バタットさんたちは、普段行っている旅のプランを作る仕事をChatGPTにお願いしてみることにしました。

依頼したのは、パリへの旅。予算は、3人で5,000ドルです。

すると、有名な観光スポットはもちろん、お得な宿泊施設や交通チケットまで。予算を考慮しながら楽しめるプランを考えてくれました。
「これがさらに洗練されていけば、驚異的ですね」
「この技術を使いこなせば、お客さんをつかむことができるでしょう。しかし、時代の流れに乗り遅れれば、仕事を続けるのは難しいかもしれません」
ChatGPT 仕事へ影響は 専門家が解説
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、日本のAI研究の第一人者、松尾豊さんです。このChatGPT、ある研究によると80%近い人々の仕事に影響を与えるという結果も出ているわけですが、どんな印象を持たれていますか。

松尾 豊さん (東京大学大学院教授)
日本のAI研究第一人者
松尾さん:
まさに時代の変換点となるようなAIだと思います。今までAIは第3次AIブームと言われていたのですが、それが冬の時代を経ずして第4次AIブームに入ったというような印象ですね。
桑子:
これまで「仕事は奪われないんじゃないか」という印象を持っていらっしゃったんですよね、松尾さんは。
松尾さん:
そうですね。今までは「AI、そんなに仕事を奪いませんよ」と言っていたのですが、今回は「奪いますよ」というふうにいいます。ホワイトカラーの大部分に影響がありますし、特に高賃金、参入障壁の高い仕事に影響が大きいですね。
なぜかといいますと、我々の仕事のほとんどは言葉を使っているからなんです。言葉を使うAIの精度が急激に向上したと。だからこそ世の中の非常に広い範囲でこれから影響を与えていくということですね。
桑子:
その言葉を使ったAI、なぜあんなにきれいに、まるで人間が書いたような文章を作っているのかというのが気になります。せっかくなので私たち、ChatGPT自身に聞いてみました。
AIがVTRを制作 なぜ人間のような文章が?

桑子AI(桑子アナの映像・台本はAIで作成):
はじめまして。私はChatGPTです。今日は、桑子アナウンサーの姿で説明させていただきます。

ChatGPTのもととなった技術は、次に来る単語を予測するという技術です。文章の中で意味のある単語を理解し、どの単語が重要かAIが判断して予測を行い、より自然で適切な文章を生成することができるのです。
ChatGPTは、この技術を使ってインターネット上にある膨大なデータを学習しています。そのデータは、3,000億語以上ともいわれています。
ChatGPTは学習を重ねてどんどん賢くなっていきます。これによって、文脈まで考慮して、まるで人間が書いたかのような文章を生成することができるようになったのです。
ChatGPTの衝撃 なぜ急激に拡大
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
なんて明快な解説。試写の時にディレクターが書いてくれた台本よりも分かりやすいと正直思ってしまったのですが、ここまで社会に驚異的な広がりを見せている。これはどうしてなのでしょうか。
松尾さん:
インターネット上にあるたくさんのデータから学習している。まさにインターネット上には我々人類の英知が入っているわけですが、それを非常にコンパクトに学習して、分かりやすく教えてくれているということですね。
桑子:
このシステム、名前があるんですよね。
松尾さん:
「大規模言語モデル」と言われていまして、この技術は今、開発競争が激化しています。
桑子:
具体的には。
松尾さん:
マイクロソフトがChatGPTを作ったOpenAIに1兆円出資していますし、マイクロソフトの新しい発表がありまして、ワードとかエクセルにChatGPTが搭載されると。これに対してまたグーグルが警戒感を示していて、独自のAIを出したりしていますね。
Microsoft
ChatGPT開発企業に1兆円規模の投資
Office製品への導入も
対抗馬となる対話型AIを発表
桑子:
大規模言語モデルというのが、これからベースになっていくと考えていいのでしょうか。
松尾さん:
そのとおりですね。大規模言語モデルの技術の蓄積に加えて、いろんな使い方を人々が工夫し始めたということだと思っています。ソーシャルメディアで「こんな使い方もあるよ」「あんな使い方もあるよ」と人々が書いて、それを見た人がまた刺激を受けて、新しい使い方を作り出す。そういう意味では私はChatGPTというのは、ある種の社会現象じゃないかと思っています。
桑子:
まさに進化が止まらないわけですが、リスクというのも浮き彫りになってきています。こうした現状、開発企業はどう受け止めているのか。OpenAIの技術幹部に話を聞いています。
ChatGPTの衝撃 開発企業担当者が語る
ChatGPTの技術開発に携わる、シェイン・グウさんです。

「この1年は、AIの歴史において最もエキサイティングな年でした。今後はさらにAIによって生産性が向上する時代になることを私は本当に願っています」
開発が進む一方で、社内ではこの技術のリスクについても常に議論が行われていると打ち明けてくれました。
「この技術をどう広げていくかについて、非常に慎重になっています。政府、教育の専門家、そして一般市民と対話を重ねているところです。なぜならテクノロジーの乱用というリスクがかなり大きく、社会に大きな変化を与えてしまうからです」
“AI作品”の急増で…
すでにChatGPTのリスクが深刻になっている現場もあります。
SF雑誌の編集長を務めるニール・クラークさん。有名な文学賞も数多く輩出してきた雑誌ですが、ある変化が起きました。
「きっかけは、YoutubeやTikTokでChatGPTを使ったお金もうけの方法が取り上げられたことでした。ChatGPTで作品を書く方法や、その投稿先を紹介していたのです」

これはクラークさんの雑誌に寄せられた、AIが書いたと思われる作品の数です。ChatGPTの登場以降、その数は激増。2月には500件以上になりました。
クラークさんは、作品の募集を一時中止せざるを得なくなりました。
「気がめいりました。新しい作品を受け付けられないと、革新や変化は生まれません。同業者の中には『もう作品の公募はしない』と言う人もいます。そうやって扉が閉まっていくたびに、業界全体が打撃を受けるのです」
大学で使用禁止に?
教育現場でも懸念が広がっています。
ノーザン・ミシガン大学で哲学を教えるアントニー・オーマン教授は、AIによるリスクを感じる瞬間があったといいます。
「ある学生が提出したエッセーが完璧すぎて、おかしいなと思ったんです。そこでChatGPTに『これはあなたが書いたものか?』と尋ねました。すると『99.9%の確率で書いた』と答えたのです」
AIを禁止すべきかどうか。オーマン教授は学生に話を聞くことにしました。

「私はChatGPTを使ってレポートを書いています。とても賢くて知識も多いし、1人で作るよりずっといいものが作れるのです」
「僕は使い続けます。Googleを使うのと何が違うのですか。ChatGPTがなくてもカンニングする人はしますよね」
一方、教員たちからは禁止すべきという声も挙がっています。
「私は禁止すべきと思っています。歴史を教えていますが、資料については自分で読んで考えてほしいのです。自分の力でやり遂げることに意味があると思うのです」
「すごく葛藤しています。使わせたい気持ちもあります。これから当たり前になっていくのですから。一方でこれまでやってきたことが台なしになるのではという不安もありますし、自分には変化を起こす覚悟がありません」
強力なAIのリスク
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:

こちら、リスクの管理ができるようになるまで強力なAIの開発を一時停止するよう求めた署名です。すでに2万人を超える人が署名していて、中にはイーロン・マスク氏などの著名人も含まれています。

改めて、ChatGPTにどんなリスクがあるのかまとめてみました。まず「情報の正確性」です。AIが出した情報には間違いが含まれる場合があります。そのまま信じていいのかという問題。
さらにはVTRでもありました「教育への影響」ですね。実際にアメリカ・ニューヨーク市の公立学校ではChatGPTの利用を禁止していたり、日本でも文部科学省がガイドラインの作成を検討していたりします。
また、AIが抱える問題としては「データ利用」というのもあります。AIが学習するデータには個人情報ですとか機密情報が含まれることがあります。イタリア政府はそれを理由に、ChatGPTの国内利用を一時禁止することを発表しました。
また、「著作権」。AIが作り出したものが誰かの作品をもとにしていたり、誰かの作品にそっくりだったりした場合、その扱いはどうなるのかということも気になります。
さらに「悪用」ですね。悪意を持った人間がフェイクニュースを量産したりサイバー犯罪などに使ったりするリスクもあるのではないかと気になるわけですが、こういった懸念点について松尾さんはどのように考えていますか。
松尾さん:
技術で解決できる部分と、ルールを作らないといけない部分、両方あると思います。例えば「データ利用」でいうと、ChatGPTに自分のことをよく伝えたほうがいい回答がもらえるので、個人情報をついつい入れてしまう、あるいは機密情報を入れてしまう、そういった危険があります。
桑子:
詳しく聞けば詳しく返ってくるからということですね。
松尾さん:
そうですね。使い方には注意をする必要がある。一方で、そういった個人情報を入れても安心な技術の開発というのをOpenAIが頑張ってやっているということですね。
桑子:
ぜひそこはお願いしたいところですね。あと「著作権」に関しては今回、私たちも番組でAIに歌を作ってもらったりVTRを作ったわけですが、歌に関しては類似の作品がないことを確認していますし、VTRに関しても私自身が確認して制作をしたわけなんです。今後、考えられるリスクはどういうことがあると思いますか。
松尾さん:
AIが生成した作品がたまたま既存の作品に類似していると、著作権の侵害に該当するというような危険もありますよね。
桑子:
あと「悪用」のリスクについては?
松尾さん:
悪用もいろんなものが考えられるのですが、コンテンツの作成が非常に簡単になっていますので、例えば選挙ですね。選挙の際に特定の政治家、政党ばっかり応援するような記事を量産するとか。AIに、ユーザーにそうと知らせずに特定の政党、政治家に変更するようなものを入れてしまうとかも考えられますよね。
桑子:
となると、それらをやはり何かコントロールする必要というのが出てくるわけですよね。
松尾さん:
そういったルール作り、ガイドライン作りが必要になってくると思います。
桑子:
ルール作り、ガイドライン作りが求められるわけですが、この点について開発したOpenAIのCEOはどう考えているのか。4月10日、NHKの単独インタビューで聞きました。

「技術は進歩し続けます。同時に規制づくりも進むでしょう。私たちは進歩と規制の両方を望んでいます。開発者がすべきことは、リスクから目を背けず、対処する方法を考え、人々が大きな利益を享受できるようにすることです。この新しい技術を使えば驚くようなことが可能になり、今はまだ想像もつかないような方法で私たちの生活を豊かにしてくれるでしょう」
桑子:
私たち人間はこのAIにどう向き合っていけばいいのか。ここで1つご紹介したいものがあります。

これは、ある小学5年生が提出した読書感想文です。これ見ますと、例えば「主人公を守ろうとする姿勢に共感し、その命運に思わず涙しました」。
実は、ChatGPTを使って書いた感想文だったということです。
松尾さん、小学生もこうして当たり前にAIに触れられる時代になった今、どういうことが使ううえでいちばん大事になってくるでしょうか。
松尾さん:
使っていいのかどうかという議論もあると思いますが、僕は使わない未来はないと思います。
桑子:
断定しますか。
松尾さん:
どんなテクノロジーも、例えばインターネットも自動車も最初はやっぱりいろいろと問題があったんですよね。道路交通法もなかったし、信号もなかったという中で、自動車を開発して我々豊かになったわけです。同じように、こういったAIもしっかりルールを作りながら使っていくべきだと思いますよね。
桑子:
使う私たちが問われているという面もありますか。
松尾さん:
そうですね。ぜひ積極的に使っていってほしいと思います。
桑子:
最後は、AIがこれから当たり前になっていく未来を見据えて模索する現場をご覧いただきます。皆さんはどう考えますか。
異次元AIが広がる 最後に判断するのは誰?
山形県にある糠野目(ぬかのめ)小学校です。小学3年生の担任、近野洋平さんは子どもたちにAIとのつきあい方を学んでもらおうとChatGPTを取り入れた授業を始めました。
この日行われていたのは、道徳の授業。

「君のこと“お”をつけて『おかず』って呼ぼうかな」
題材は、かずやという少年が嫌なあだ名をつけられ悩んでいる物語です。
「友達との関係で悩んだときに、ChatGPTさんアドバイスくれないのかな」
「くれる」
「くれるかも」
早速、かずやの悩みをChatGPTに相談してみます。

まず、あなたがやるべきことは、友だちにそのあだ名が気に入らないと伝えることです。言い出すことが難しい場合は、友だちにメールや手紙を書いて、自分の気持ちを伝えても良いでしょう。
「もしこの物語にChatGPTがいたら、かずやは頼っていたかな?」
「頼ってた」
「頼ってなかったと思う」
児童によって意見が分かれました。
「私は頼ります。いろいろ教えてくれるし、解決策も教えてくれるから」
「まずお母さんやお父さんに言ってみて、だめだったらAIに相談する」
一方、頼らないという意見も。
「僕は頼りません。自分たちで解決したほうが自分の気持ちをしっかり伝えられると思ったからです」
「私は頼りません。だってAIに頼ったら、人生でずっとAIに頼るかもしれないからです」
「(AIの回答を)そうだなと思うのか、違うなって思うのは、判断するのは誰?最後?」
「自分」
「たぶんみんなが大人になるころは当たり前だと思うんだよね、AIがあるの。だから頼るんじゃなくて、使うという意識でつきあってほしいと先生は思った。みんなの考えを聞いてて」
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