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2023年4月3日(月)

追跡!令和の“地上げ”の実態 不動産高騰の裏で何が

追跡!令和の“地上げ”の実態 不動産高騰の裏で何が

バブル期に大きな社会問題となった悪質な“地上げ”が今、形を変えて各地で相次いでいる―。情報の真相を独自追跡。“地上げ"にまつわるトラブルの相談を受ける弁護士たちは、かつてとは異なる“新たな手口”に直面していました…。なぜ、令和の時代に地上げが?不動産業界の関係者たちが明かしたのは、現代に地上げが求められる“理由”でした。都市部を中心に価格高騰が続く不動産業界。その裏側で今なにが?深層に迫りました。

出演者

  • 夏原 武さん (ライター)
  • 桑子真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

追跡!令和の"地上げ" 不動産高騰の裏で何が

桑子 真帆キャスター:
地上げとは一体どんなものなのか。

例えば、このような土地があった場合、居住者や利用者を立ち退かせてそれぞれの土地をまとめて広い土地を確保する。これが“地上げ”です。こうすることでより大きな建物マンション、ビルを建設できるので新たな土地活用が期待できます。

一方で、居住者は不当に退去させられることがないよう、法律で住む権利を守られているため、地上げを行う際には本来、立ち退き料や退去の時期について丁寧に合意を取りながら進めていく必要があります。

しかし、今こうした手順を踏まず、半ば強引に退去を迫る地上げが相次いでいるんです。

“令和の新地上げ” 法律違反せず安い価格で

都心の一等地にある築49年の雑居ビルです。2022年7月、このビルは地元の地主から中小の不動産業者に売却されました。その直後、深夜に突然2人組が訪れ、2か月以内に退去するよう求められたといいます。

元住民
「夜の10時半とか11時くらいにスーツを着た男の人2人がきて、一応引っ越し代は出すみたいな。『いったん考えるので、また日を改めてやります』と言っても帰らなかった。『いや、今すぐやってください』と言って」

住民は、立ち退き料などの条件を検討できないまま、ハンコを押さざるをえなかったといいます。

元住民
「向こうの思うつぼだけど、ここで書類にハンコを押したほうが、また夜に何回も来られて闘っても嫌だしと思って」

男たちが立ち退きの期限とした2か月後。まだ一部の入居者が残っているビルに異変が起きました。

元住民
「生の魚ですね、干物じゃなくて。肉がつるしてあって、すごく臭かったです。腐ってて」

共用部であるビルの出入り口付近で突然、生の肉や魚がつるされたのです。一体、誰がこうした行為に及んだのか。

入居者や周辺住民が残した記録や証言から、ビルの新たな所有者である不動産業者の従業員らであることが分かりました。立ち退き料や、そのやり方に不満を抱えていた入居者も複数いましたが、4か月後にはすべての入居者が立ち退きました。

バブル期に横行した、悪質な“地上げ”。

1987年「NHKニュースハイライト」より
「住民を立ち退かせるための嫌がらせは、住宅の打ち壊しや放火へとエスカレートし、警察に摘発されるケースが相次ぎました」

提示した立ち退き料で応じなければ、時に暴力団が関与して力ずくで退去させるケースが相次ぎました。

しかし今、その“地上げ”は形を変えて広がっているといいます。地上げを巡るトラブルに対応している弁護士らの団体に寄せられる相談は年間およそ50件。

泣き寝入りするケースがほとんどで、氷山の一角と見ています。

「バブルのころは札束でほほをたたくお金の力でやってたんだけど」
「今は安く買いたたいてできるだけ下げてやってるんで、悪質性はこっちのほうが上じゃないか。“令和の新地上げ”みたいな感じで」

今、あからさまな法律違反はせず、なるべく安い価格で土地をまとめようとする不動産業者が目立つようになっているというのです。

地上げに悩む人を支援する 種田和敏弁護士
「一線を超えるぎりぎりのところで嫌がらせをして追い出したいと。そういう欲求は値上がりとともに増えている」

執ような“地上げ” その実態は

令和の“地上げ”。その実態とはどんなものなのか。

都内の駅から5分程の住宅街が執ような地上げの対象となっています。ここで60年以上暮らしてきた夫婦です。

妻(70代)
「これ2階から撮ったの。もう常にいたね、公園のところに座って」

半年余り前から黒い服を着た男たちが家の周りに居座るようになり、嫌がらせを受けています。隣の空き地にガスこんろなどを持ち込み、一晩中、酒を飲んで騒ぐこともあったといいます。

夫婦が住むこの一帯は、地主が所有する土地を借りた人がみずから住宅を建てるなどして暮らしていました。しかし、地主が亡くなったことをきっかけに、4年前、一帯の土地が不動産業者に売却されました。

土地の新たな所有者になった不動産業者は、立ち退きを要求。夫婦は2036年まで土地を借りる契約を結んでいたため、応じませんでした。すると、すでに立ち退きに応じた隣の土地に男たちが居座るようになったのです。


「たばことか」
取材班
「これは花火ですか?」

「そう花火。ネズミがでたり、ひどい。やることなすこと」

これらの迷惑行為が行われているのは、いずれも相手の敷地内。夫婦は警察や行政に何度も相談しましたが、解決しませんでした。


「簡単に逮捕もできない。嫌がらせの感じで暴力じゃないからね」

その行為は次第にエスカレート。1か月にわたり一晩中、家を電飾で照らされ、発電機の騒音にも悩まされました。

見かねた近隣の住民は警察に通報しました。しかし、男たちは自分の土地だと主張して聞く耳を持たなかったといいます。

近隣の住民
「『こういうことをしないでほしい』と警察が言うと、それに対して『ここは自分たちの土地なんだから関係ない』と。とにかく一歩でも入れないってどういうことなのか」

夫婦は不動産業者から立ち退き料や転居先を提示されましたが、今も嫌がらせは続いています。


「ひどい集団だなと思って。とんでもない。頑張るつもりでいるけど、果たしてそれができるかどうか」

取材を進めると、この一帯では執ような地上げのさなかにみずから命を絶った人がいることも分かりました。

2021年に亡くなった70代の女性。今回、その息子が取材に応じました。自宅はおよそ30年前、借地の上に両親が建てたものでした。

亡くなった女性の息子
「嫌がらせを受けているようなストレスを、ずっと感じながらいなきゃいけない。この家にいること自体が苦しい」

執ように退去を迫られる中、立ち退くか否かを巡って夫婦や親族で意見が分かれました。次第に関係が悪化していったといいます。

亡くなった女性の息子
「家族に溝ができて家族がバラバラになっていくような。日常が壊されていくというか、普通に暮らすことができなくなっていく」

母親は精神的に追い詰められ、体調も悪化。みずから命を絶ちました。

亡くなった女性の息子
「(男たちと)鉢合わせになって、僕も見た瞬間にすごく怒りが込み上げてきて『お前らのせいで母親が死んだぞ』と言っちゃった。でも向こうは慣れているのか『ああ?』みたいな。そんなの関係ねえよぐらいの感じで」

都内の雑居ビルや住宅街で明らかになった執ような“地上げ”。私たちの取材から、これらを行っていたのは同一の会社の従業員らであることが確認されました。会社のホームページによると社員は50人。東京の他、大阪や名古屋などにも拠点を構えています。主な取引先には、大手のデベロッパーの名前が複数記されていました。

この不動産業者から実際に大手デベロッパーに渡った土地があるという情報を得て、現場に向かいました。建てられていたのは、2024年竣工予定のブランドマンション。周辺の住民たちは、ここでも執ような地上げが行われていたと証言しました。

近隣の住民
「(住民の一部は)出ていきたくないという意思が強かったと思う。でもそれを強引にやったようなことは言っていた。もう疲れ切っていた。気の毒でした」

立ち退きに応じない住民の家の隣には家具などが野ざらしにされ、男たちが居座るなどしていたといいます。

近隣の住民
「いま不動産すごいじゃないですか。だからみんな得するようなことしか考えてないのかな。住んでいる人たちの気持ちとかおかまいなしで、ちょっと不動産屋さん、いい気になっている」

地上げトラブルの事例 業者の見解は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
私たちは、この一連の地上げ行為に特定の不動産業者の従業員らが関わっていることを確認しています。その業者に見解を問いました。

<不動産業者の回答>

Q.生の魚や肉をつり下げ 荷物が放置されたりしていることについて
社員のやったことではなく住民がやったことだ
Q.各地で執ような地上げをしていることについて
間違っている

などとしています。

また、この不動産業者から土地を購入してマンションを建設している大手デベロッパーに事実関係と見解を問うたところ、

<デベロッパーの回答>

Q.事実関係と見解は
・個別の取引に関してはコメントを控えさせていただきます
・当社では法令や企業倫理の順守などのコンプライアンスを重視しながら事業を推進してまいります

という回答でした。

この問題どう考えていったらいいのか。きょうのゲストは、長年不動産業界の実態や闇を取材し、社会に発信してきたライターの夏原武さんです。

まず思うのは、犯罪として立件できないかということですが、今回私たちは警察にも取材をしています。地元の警察に取材をしました。

捜査関係者によると、迷惑防止条例や軽犯罪法などの検討の対象にはなるが、嫌がらせと取られる行為は警察が入りにくい。自分の敷地でやっていて直ちに犯罪とは言い切れない。法律のスレスレを攻めてきている印象だということでした。

夏原さん、例えば迷惑防止条例を適用することは難しいのでしょうか。

スタジオゲスト
夏原 武さん (ライター)
長年不動産業界の実態を取材
漫画「正直不動産」の原案者

夏原さん:
やっぱり私有地の中で行われていることですので、証拠を集めることにまず時間がかかってしまうし、勝手に立ち入ることもできない。実態が見えないんですよね。VTRにもありましたけれどもブルーシートで囲ってしまっていて中が見えないようにしていたりする。その辺に、現在ではちょっと条例に限界があるのかなと。

桑子:
続いて、“地上げ”を巡る構図を整理していきたいと思います。

バブル期というのは“暴力団などによる地上げ”が社会問題、大きな問題として取り上げられましたが、その時に対策というのは打たれたはずですよね。

夏原さん:
バブル期、バブルが終わるのとほぼ同時期に暴力団の対策法ができましたよね、「暴対法」。これによって暴力団は排除されたんです。しかし、バブルが崩壊したことで自然と“地上げ”が収まってしまったので、特別な法的な対処というのは取られなかったんです。

桑子:
ただ、“地上げ”というのは行われているわけですよね。

夏原さん:
そうですね。現状では、かつて暴力団がやっていたようなことを不動産業者がやるようになる。当然法令には気をつけて、ひっかからないようにという中で行われています。

桑子:
もちろん丁寧な交渉を行ったうえで地上げを行っている業者もあると思うのですが、VTRで見たような執ような嫌がらせをするような業者が生まれてしまうのはどうしてでしょうか。

夏原さん:
基本的には彼らも融資を受けてやっていますので、当然利息が発生します。ですから早い短期間で土地をまとめないと、彼ら自身に負担がどんどん重くなっていく。さらにバブル期のように土地が右肩上がりではないので、早く売らないと利幅が少なくなってしまう。それも原因だと思います。

桑子:
地上げのトラブルに対する弁護士らの団体には他にも相談が寄せられています。

立ち退きを拒否したところ、借地料を何倍にも上げると一方的に通告された
(共用部の電気を消されるエレベーターを止められるなど)管理状態を悪化させられた
隣の空き部屋から大音量で音楽を流された

土地、建物の所有者としての立場を利用して立ち退きを迫るという事例が目立つといいます。

夏原さんも実際に取材をされていて、“地上げの手法”というのは変わってきているところがあるのでしょうか。

夏原さん:
バブル期に比べると強引な、有形の物理的な力でというのは減っているのですが、騒音を出すとか、共用部分を暗くするなんていうのは意外と昔からある手口ではありますね。

桑子:
今の時代で増えていく、これから増えていきそうというところで言うとどういうことが。

夏原さん:
やはりマンションの場合ですと、共有部分ですね。

桑子:
どうしてでしょうか。

夏原さん:
環境を悪化させて、そこに住んでいたくないと思わせる。周辺から攻めていくようなやり方、これは今後ますます増えるのではないかと思います。

桑子:
では、なぜこうした執ような“地上げ”を今行うのか。その背景を探りました。

知られざる裏事情とは

地上げや立ち退きを手がける現役の不動産業者です。

みずからは執ような地上げはしないと断ったうえで、不動産価格の高騰が続く都市部の裏事情を語り始めました。

地上げや立ち退きを手がける不動産業者
「実際のところ立ち退きの案件が増えた。権利がきれいな土地であれば何も問題ないが、そんな物件、東京にまずない」

男性が言及した“きれいな土地”。それは、権利関係が明白な土地のことです。これまでは社宅や工場の跡地がマンション用地の主力となってきましたが、すでに開発が進み、確保が難しくなっています。

こうした中、“種地”と呼ばれる小規模な土地を起点に周りをまとめ、マンションやビルの用地にする地上げの需要が高まっているといいます。

地上げや立ち退きを手がける不動産業者
「そしたら少しでも土地面積を広げたい動きをしますよね。ということは少しでも地上げする。立ち退きだなんだ、もう何でもやるしかないですよね。なぜなら売値がバカーンって跳ね上がるから」

そして、自分たちのような中小の不動産業者が都市部のマンション供給を支えていると語りました。

地上げや立ち退きを手がける不動産業者
「実は末端で汚いドブさらいみたいなのが動いている。不動産ひとつとってもね。それがあって初めて大きいところは『私たちキレイにやってます』と言えるわけであって。大手はやらない、やれない。コンプラだ、反社だ何だとか言ってるじゃないですか。イメージが悪い誰かが地上げして、誰かが立ち退きして、ちゃんと売り物に変身させないといけない。決して悪い仕事ではないし、そもそも悪いイメージを持ってほしくない」

令和の今、再び必要性を増しているという“地上げ”。マンションの開発を手がけるデベロッパーは、どう認識しているのか。現役の幹部が取材に応じました。

デベロッパー幹部
「やっぱりデベロッパーは大体上場もしているし、最終消費者であるお客様に販売していくわけだから、割とクリーンに運営していかなければならないが、土地の開発においてはそうではない場合もあるので、いわゆる“汚れ役”の方々が開発した土地を、程度によりますけど取得せざるをえないのも実情」

求められる対策は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
夏原さん、クリーン、きれい、汚い、汚れ役という言葉がたくさん出てきましたが、今業界を取り巻く状況はどうなっているのでしょうか。

夏原さん:
今はとにかくマンション用地が足りないので、大手のデベロッパーにとってみると、とにかくまとまった広い土地が欲しい。その情報は流れますので、それを使った不動産業者が中堅の不動産業者等にまた情報を流し、まとめてくれたら買い上げるよという情報を流していって地上げが行われていくと。

桑子:
まずデベロッパーのマンションなどを開発したいという思惑がある。それを受けてどんどん下に下りていくということなわけですね。一方で、地主・家主を取り巻く状況というのは時代とともにどうなのでしょうか。

夏原さん:
今いちばん目立つのは相続の問題ですね。相続の段階というのが発生すると、いちばん地上げがしやすい時がやってくると。

桑子:
実際にどのように動いていくわけですか。

夏原さん:
基本的に業者はどんな家族構成になっているかとかいろいろ調べていって相続人がその土地を売る可能性があるかどうか、常にそういう情報を集めていますね、彼らは。基本は人海戦術ですね。

桑子:
足を使ってといいますか。

夏原さん:
大勢のバイトを雇って一斉にある地区に散らばせて情報を上げてこいと。

桑子:
種地でもいいからとにかくそういう場所を探していくということですね。どうすればこの執ような地上げというのをなくせるのか。こうした執ような地上げに悩む人たちを支援している種田弁護士はこのようにおっしゃっています。

地上げに悩む人を支援する 種田和敏弁護士
「裁判所への差し止め請求や損害賠償請求など選択肢はある。ただ、時間と費用がかかるため行政が即座に対処できる法律が必要」

夏原さん、こういう指摘もありますが、地上げをすることによってその土地の価値が上がって町が活性化していく側面もあると思います。ただ、暮らしている方々がないがしろにされるのは絶対にあってはならない。このバランス、今どういう状況だと見ていますか。

夏原さん:
再開発が必要な土地はたくさんあります。ただ、今ルールなき再開発というか、ルールなき地上げが続いているので、本来「借地借家法」で守られるべき人たちが守られなくなってきている。

借地借家法
借地・借家に関する基本的な法律
住民の立ち退きには正当事由が必要

また、その法律自体も時代に合わなくなってきている。結局サブリース問題なんかが発生していますので、借りている人が弱い、守らなきゃいけないだけでは、もう社会的に尺度が合わなくなってきている。

最終的には法改正もきちっと頭に入れておかなければいけない。そして、自治体も再開発に関するルールをきちっと作っていく。この枠組みの中ならやっていいです、あるいはこういう対策を取ればやっていいですと、許可制にしたほうが僕はうまくいくんじゃないかと。

桑子:
現状は、そういった許可などを取る体制はととのっていないわけですか。

夏原さん:
現状は民間主導ですので、とにかく「土地をまとめれば大きな利益が得られる」と、それしか彼らの頭の中にはないですから。そしてデベロッパーは「建物を建てればまたそこで利益が大量に得られる」と。

桑子:
社会ができることというと、行政単位での枠組みというのが重要なのではないかと。

夏原さん:
そうですね。やはり自治体が中心となってどのようにまちをデザインしていくのか、その上でデベロッパーの開発許可を出す。そして、地上げにおいては徹底したルール作りをする。あらゆる迷惑防止条例にしても何にしてもそうですが、数値化するなり、あるいは科学的な尺度を設けてそれに従わないかぎりできませんよと、従わなければ中止にしますよ、そういう考えが欲しいです。

桑子:
それを監督する、さらに上の立場の存在も大きいのではないでしょうか。

夏原さん:
そうですね。最終的には法改正も必要ですから、国交省もそうですし、政治、議会、そういうところが中心になって動いてほしいなと。そうしないと変わらないのではないかと今の現状では思ってしまいます。

桑子:
今、価格が右肩上がりに高騰する不動産業界の中に見えた負の側面。利益が追求される裏で、ささやかな生活が翻弄されている人がいます。今こそ大きな方針を示す時ではないでしょうか。

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