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2023年2月28日(火)

「どうなる離婚後の子育て 子どもの幸せのために」

「どうなる離婚後の子育て 子どもの幸せのために」

年間およそ18万組をこえる離婚。家族の形が多様化する今、離婚後の子育てに関わる議論が国の法制審議会で行われています。父母双方を親権者とする「共同親権」を導入か、一方のみの「単独親権」維持かです。今回、離婚家庭の父母や子どもの声を徹底取材。さらに海外の最新事情もルポし、離婚後も両親が子育てに関わるという考えが浸透しているオーストラリアでそのヒントを探りました。「子どもの最善の利益」をどう考えるか?

出演者

  • 棚村 政行さん (早稲田大学教授)
  • 岡村 晴美さん (弁護士)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

離婚後の子育て 子どもの幸せのために

桑子 真帆キャスター:
離婚後の「親権」、親が持つ権限と義務をどうするのか。そもそも親権とは子どもの「日常の世話」、進学先などを決める「教育」、どういう手術を受けるかなどの「医療」といった重要な決定を子どもの代わりに行うものです。

今、日本の法律では離婚するとこれらの決定を片方の親が行う"単独親権"のみです。

これを維持するのか、法律を改正して双方の親で決める"共同親権"も導入するか。国の法制審議会で議論が本格化しています。

親権を巡る議論、親や子どもたちはどう見ているのでしょうか。

どう考える?"共同親権"

"共同親権"に賛成している人たちは何を求めているのでしょうか。

2年前に離婚した男性です。2人の子どもの親権は元妻が持っています。

共同親権を求めている男性
「(長男が)部活を頑張っているかとか、勉強がどんなふうなのか、わからない。子どもがけがをしたり、病気をしたりというのがわからないのも、自分としてはつらい」

男性によると、子どもの受験のとき、志望校の決定に関われなかったといいます。今後大切なことを父母で決める"共同親権"が認められれば、進路の相談などにのれると考えています。

共同親権を求めている男性
「親権を持った親だけが決定権があるということになると、子どもと子どもの親権を持った親の意見が割れてしまったときに、子どもには誰も味方がいなくなってしまう。別居親とも子どもが関われたほうが、お互いの親の愛情を離婚後も受けて育っていけると思いますし、子どもの生きる力になると思う」

"共同親権"の導入を目指す親たちの団体(会員数600人)では、国会議員らを招き、勉強会を開催してきました。

導入を求める理由の1つが、主要国の多くで共同親権が導入されていることです。夫婦の別れが親子の別れにつながることを避けられると考えています。

共同養育支援議員連盟(超党派)会長 柴山昌彦元文化相
「日本の法律や制度を放置しておくことは許されない」
勉強会の参加者
「(父母は)同等、子どもにとっては、お父さん、お母さんは選べるものでもない。一方で全部を決めるのはおかしい」

一方、"共同親権"に懸念を示す家族もいます。

14年前に離婚したこの男性は、親権を持ち、3人の娘を育てています。

山田祐二さん(仮名)
「お母さんどうする?(卒業式に)呼ぶ?来られるなら来てほしいよね」
華さん(仮名・18)
「どっちでもいいけど、連絡がつくなら」

元妻とは疎遠になり、やりとりをしていない状態が1年以上続いているといいます。仮に"共同親権"になった場合、重要なことを決めるのに元妻の同意が必要になる可能性があります。その時"どう合意を得ていくのか"不安だといいます。

山田祐二さん
「そういう制度になってしまえば、向こうも協力せざるを得ないと思う。時間がかかる、意見が違った場合。現状よりも面倒くさくなるのは確かだと思う」

娘の華さんは、進路を決めようとするときなどで事情を知らない母親がもし反対したらと心配しています。

華さん
「きついですよね。一緒に住んでいない分、見えていない部分もあるし。もし一緒に住んでいない親が反対して、それが尊重されて子どもが夢を追えないってなったら違うなって思う」
山田祐二さん
「子どもが受け入れられる制度がベスト。子どもが傷つかない方向性に持っていってほしい」

DVや児童虐待を経験したという人たちからも心配する声があがっています。

「暴力や子どもの虐待を夫から受けて、この人が子どもに関わることが危険だと思って離婚を決意した。協力できるような関係性ではない」

さらに深刻な事態が起きるのではと心配する人もいます。

親権を持つこの女性は、元夫から子どもとの面会の頻度などをめぐり、20件以上裁判を起こされています。"共同親権"が導入された場合、子どもの養育をめぐり、意見が異なるとまた新たな裁判につながるのではないかと不安を抱いています。

元夫から裁判を起こされている女性
「(裁判を)申し立てられることが負担でしかない。費用も時間も費やされているわけで、(共同になったら)絶望しかない」

それぞれの家族の事情に合わせて、単独か共同かを選択すればいいのではないかという意見もありました。

4才で両親が離婚した和希さん(仮名・19)。ふだんは母親と暮らしていますが、離れて暮らす父親と月に一度食事などに出かけています。

父・宏さん(仮名)
「すげえじゃん、キン肉マンか」
和希さん(仮名)
「違うんだけど(笑)」

両親は離婚後も交流を続け、娘の成長を共に支えてきました。和希さんも大切なことは父親にも相談してきたといいます。

"共同親権"についてどう思うか。3人に集まってもらい、話を聞きました。

父・宏さん
「うちらは共同親権になったからって、今の関係が変わることはないと思う」

娘の和希さんは、両親が協力することは、離れて暮らす親が子どもをよく知ることにつながるのではと考えています。

和希さん
「子どものことをちゃんと把握できる」
母・みどりさん(仮名)
「子どもの気持ちを知ることができる?」
和希さん
「片方の親のほうで住んでいるけど、許可が両方必要なら、今後これをしていくんだなってわかってもらえるいい機会になるのかな」

両親の離婚を経験した子どもも、意見はさまざまです。

教育や就職に関して誰が決めるのが理想だったかを聞いたアンケートでは、17%が「父母が相談して」。41.5%が「同居親」でした。

母親は、必要な人だけが選べる選択式にすればよいのではと考えています。

母・みどりさん
「共同親権は、選択すればいんじゃないか。とりたい人は、とればいい。とりたくない人は、とらなくていいというのが一番いい」

どう考える?"共同親権" 子どもの幸せのために

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、親権についての議論を行う法制審議会の部会の委員である、棚村政行さんです。

VTRでもさまざまな意見がありましたが、共同親権への主な意見としては

<求める声>

「共同で関わる方が子どものためになる」
「主要国の多くがすでに導入」

など

<慎重な声>

「意見が対立したときに子どものためにならない」
「DV・児童虐待が離婚後も続く」

など、さまざまあるわけですが、棚村さん、今議論がこうして活発になっている背景にはどういうことがあるのでしょうか。

スタジオゲスト
棚村 政行さん (早稲田大学教授)
法制審議会 家族法制部会 委員

棚村さん:
1つは、やはり少子化ということでお子さんの数が減っている。それから共働きの夫婦が増えていて、お父さんが前よりも子育てに関わっているというのが増えてきました。

それから、DVや虐待というような深刻なケースが出てきています。お子さんの利益を大事にしようという流れはありますので、親子関係というものが離婚したあとどうあるべきかということについて今の法制度で果たしていいのだろうかという議論になっています。

桑子:
今、法制審議会では大きく4つの案を出しています。

<中間試案>

現行法のまま
◆単独親権のみ
法律改正した場合
◆原則"共同親権"
◆原則"単独親権"
◆原則は設けず"個別判断"

現行法のままである「単独親権」のみ。法律を改正した場合、原則"共同親権"とする、原則"単独親権"とする、原則は設けず"個別判断"とするといったことで議論が進められているわけですが、法律改正した場合でも3つ種類あります。それぞれどう違うのでしょうか。

棚村さん:
原則を立てているほうが、意見が対立した場合に判断の基準が示されて判断がしやすいというメリットがあります。ただ、やはり個別の事情に柔軟に対応できるという点ではあまり原則を設けないほうがいい場合もあります。ただ個別判断だと、今度は時間がかかったり、判断する人の価値観とか主観で左右される。なかなか難しいところです。

桑子:
今こういった案の中で議論が進められているわけですね。

棚村さん:
そうですね。

桑子:
今回の議論の前提になっているのが、「子どもの最善の利益を考慮するべきだ」ということです。子どもの利益が何なのかというところも含めて、議論というのはこれに基づいてしっかり行われているのでしょうか。

棚村さん:
お子さんの利益、幸せを守ろうという原理原則では争いはないんです。ただ、具体的にどんな事情を重く見ていくかと、それからどういう事情を明記するかということではやはり考え方の対立があります。

桑子:
子どもの利益をどう考えるのか、諸外国でも議論は続いています。およそ30年前に共同親権に近い制度を取り入れたオーストラリアでも試行錯誤が行われているんです。

離婚後の子育て オーストラリアの模索

マヤ・スキルトンさん、13歳。日本人の母親とオーストラリア人の父親との間に生まれました。両親は7年前に別居し、その後離婚。しかし、2人が平等に子育てに関わってきました。

マヤ・スキルトンさん
「これは2年前に生徒会長になった時です。ちょっとしたセレモニーがあり、父がバッジをつけてくれました」

この日、向かったのは母親の家から車で20分ほどのところにある父親の家です。母親はシフト制の看護師。マヤさんは両親の家を行き来し、均等に暮らしています。

マヤ・スキルトンさん
「(行き来するのが)大変な時もあります。でも、だんだんと慣れてきました。母はシフト制の仕事なので、母だけだったらもっと大変だったと思います。両親の意見が一致しているので、計画も立てやすいんです」

オーストラリアは、離婚後の養育をスムーズに行うための制度を時間をかけて整えてきました。

1975年から、離婚する前に12か月間の別居期間を設定。その間に、教育の方針や会う頻度など、子どもの養育についてさまざまな取り決めを行います。その後、離婚後の養育費を政府が自動徴収する仕組みも導入。両親が責任を持って養育に関われるようにするなど、修正を繰り返してきました。

そして2006年、大きな法改正が行われました。離婚後の養育方針を決めるにあたり、「両親が平等に関わることが子どもの利益にかなう」という理念を掲げることにしたのです。

マヤさんの両親も、学校の面談やスマホを持たせるタイミングなど、話し合って決めてきました。

母・幸子さん
「私たちが離婚したことでマヤにとって影響が最小限になるように。マヤにとっていい方になるようにお互い動いていこうねっていうのは納得して決めましたよ、2人で」

オーストラリアでは、マヤさんの両親のように離婚後も協力的な関係を築けているとする元夫婦が6割に上っています。

さらに、法律の改正に伴って家族関係を支援する機関も設置しました。

家族関係支援センター スーザン・ピシオネリさん
「ここは私たちの待合室です。待合室と入口はふたつあります。両親が同じ場所で待つのが適切でない場合もあるからです」

全国およそ100か所にあるこの施設。離婚後のことだけでなく結婚中の不仲など、一定の時間は無料で相談できます。

例えば、進学先をめぐって両親の意見が対立した場合、施設のスタッフが間に入り双方から意見を聞きとります。さらに、子どもとも個別にカウンセリング。気持ちを聞き出し、それを大切にした合意を目指します。

子ども専門のカウンセラー
「子どもはたくさんのことで板挟みになり、疲れ果てていて、両親には本心を言えないのです」

こうした施設を利用する家族は年間8万人(2012~2013年)を超えています。

スーザン・ピシオネリさん
「離婚には傷、痛み、怒りが伴います。それがコミュニケーション不足や断絶につながるのです。私たちのようなサービスを活用することでコミュニケーションを回復させ、長期的に子どものためにより良い意思決定ができるのです」

しかし今、オーストラリアでは2006年に行われた法改正を見直す動きが出ています。

きっかけのひとつは、ある事件でした。4歳の女の子が、離れて暮らす父親と会っているときに橋から転落させられ死亡。母親は、子どもへ危害を加える危険性を訴えていましたが、裁判所の命令で父親との面会が継続されていました。

法律上は、虐待やDVがある場合は共同の養育から除外すると決められていました。しかし実際は、虐待やDVを見抜くことができず、被害が防ぎきれていません。さらに、離婚後の両親の平等をうたったことで意見が対立した際に訴訟を乱発する人も出てきました。

「離婚後も両親が重要事項の決定に平等に関わることが子どもの利益にかなう」、その推定の適用をやめるかどうか議論が始まっているのです。

家族法に詳しいマードック大学 リサ・ヤング教授
「危険なのは、裁判所が共同の子育てを重視するあまり、虐待やDVを無視したり過小評価してしまうことです。制度によって誰が傷つき、どんな問題が起きるかを常に問い直していかなければなりません」

離婚後の子育て 子どもの幸せのために

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
オーストラリアでは制度を導入しても検証を繰り返していました。棚村さんはどのように評価されますか。

棚村さん:
やはりオーストラリアのFRC、家族関係支援センターです。予算とか人員とか施設とか、非常に充実させているというところが日本でも見習わなければならないなと思います。それから法律の制度を作る時も見直す時も、きちっと検証をする。うまくいっているかどうかということを検証しながら見直しをやっていくというのも日本でも見習うべきところだなと思います。

桑子:
DVや離婚問題に詳しい弁護士の岡村晴美さんにも加わっていただきます。オーストラリアの例を見て、どのような印象を持ちますか。

スタジオゲスト
岡村 晴美さん (弁護士)
DVや離婚問題に詳しい

岡村さん:
あれだけ予算をかけた支援策を持っていても、やはり同居している親や子どもたちにとって危険を生じさせてしまうことがあるんだなということは重視して、深刻に捉えなければいけないかなと思いました。

棚村先生もおっしゃいましたけど、日本の場合は支援策が非常に不十分で、例えば子どもの意見を聞くにしても、決定する時に裁判所の調査官が短時間で子どもの話を聞くことにとどまっているということがあり、支援策が不十分なまま"共同親権"というものだけ強制されてくということになると、子どもにとっては非常に過酷なことになるのではないかなと思っています。

桑子:
日本で今後議論が進んでいくわけですが、どう議論を進めていくべきなのか、岡村さんはどのようにお考えですか。

岡村さん:
法律を作ることで「誰に影響があるのか」を考える必要があると思うんです。協力的な関係の父母であれば、今の現行制度でも共同で養育するということができると。

先ほどVTRでもあったと思うのですが、意見が対立していて、そもそも離婚する時に子どもの決定権が一緒に決められないということで離婚してる人も多い中で、そこで共同で決定するということの合意すらできないのに共同で決定しなさいよということを法律や裁判所の命令で命じていくというようなことになると、それで人間関係が改善するとは思えないですし、むしろ対立を深めてしまうという危険性もあるかなと思っています。

あと現場の弁護士からしていちばん懸念に思っていることは、現在も面会交流という制度がありまして、裁判所は積極的に面会を認めて命令していくというような制度がある中で子どもたちにとって面会が強制されてしまっている事態があります。

DVや虐待は除外するというふうに言ってみたところで、面会するのは子どものためになるんだという理念が強いと、虐待やDVの主張というのは軽視されていく。先ほどオーストラリアのVTRにもあったかと思うのですが、それが今現状日本で起こっているということがあって。

桑子:
DV、虐待は除外すると理念としては掲げられているけれども、実態が伴っていないと。

岡村さん:
そうですね。面会が子どものためになるという理念が掲げられているので、それに反するように見えてしまう、虐待やDVの主張というのはできにくくなってしまうという面があります。

今現在そういうことが起こっているのに、さらに共同でいろいろ決めなきゃいけないという"共同親権"が命じられるということが、本当に現場からは恐怖に感じているところです。

今現状を苦しんでいる子どもや同居している親を見ている立場からすると、法律の改正が弱い立場に置かれた人たちが減るものであればいいのですが、そういう人たちを大切にする、安全を大切にするという法改正になってほしいなと思っています。

桑子:
棚村さんは、議論をどう進めていくべきだとお考えですか。

棚村さん:
今、法制度の見直しを中心にはしているのですが、法制度がうまく機能するためには支援ということは非常に重要になってきます。特に大人の争いの中で板挟みになっている子どもたち、子どもたちの思い、そういうものをやはりどう届けるか、どう確かめるかというようなことで、子どもを中心にした法整備、支援をしっかり議論していきたいと思います。

桑子:
ありがとうございます。この"共同親権"というテーマは賛成なのか反対なのか、二項対立になってしまいやすいテーマですが、家族、子どもの置かれた状況というのは実にさまざまです。この議論というのは真剣にかつ、子どもの視点を大切にした議論となっていくように私たちも注目していきたいと思います。

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