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2023年2月15日(水)

「体験」が景色を変える ~ゲームで学ぶ“世界”~

「体験」が景色を変える ~ゲームで学ぶ“世界”~

“体験”を通じて“景色”は変わるのか―。いま、ゲームの世界で新潮流が起きています。戦火の街に暮らす市民の恐怖や、性的マイノリティーのリアルな気持ちなど、当事者として体験し深く考えるゲームが続々ヒットしているのです。背景には、ゲーム制作の技術的なハードルが下がって、小さなクリエイター集団が市場に参入しやすくなり、切実なメッセージを表現する場が拡大したことも。作り手たちの思いや、体験者の“変化”を追いました。

出演者

  • 井上 明人さん (立命館大学講師)
  • 結さん (タレント)
  • 小山 径 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

「体験」が景色を変える 世界が注目!ゲーム新潮流

小山径キャスター:
商業用ビデオゲームが誕生して、およそ半世紀。
eスポーツやゲーム実況が盛り上がるなど、多様なゲーム文化が広がっています。

中でも最近注目されているのが、戦争や社会の分断をゲームを通して体験し、世界をもっと知ろうという動きです。

例えば「新聞社の編集長になるゲーム」では、何をどう報じるかで暴動が起きるなど社会に思わぬ影響も与えます。また、「1960年代の台湾を舞台にしたゲーム」は、実際に起きた言論弾圧をテーマにしたホラー作品です。

さらに、戦争ゲームの概念を変えたと言われる「This War of Mine」。世界で700万本を売り上げ、ロンドンの博物館にも展示されています。兵士ではなく一般市民の目線で戦争を描いた異色の作品。

一体どんなゲームなのでしょうか。

なぜ世界的ヒットに? 異色の戦争ゲームとは

ふだんは家族とパズルゲームの点数を競っている、小山径キャスター。戦争をテーマとするシリアスなゲームは初めてです。

小山径キャスター
「手を押すとそっちの方に人は進むわけですね」

操作するのは、戦争に巻き込まれ偶然廃屋に逃げ込んだ一般市民3人。彼らを終戦まで生き延びさせるのが目的です。

見ると、「寝不足」の文字が。粗末な廃屋にいて眠れていないようです。そこで、落ちているがらくたを使ってベッドを作ると寝不足を解消できました。

小山径キャスター
「本当にいちからのサバイバル生活を。おなかが空きますよね」

2日目、3人全員が空腹に。そこで、女性を操作して食べ物を探しに行きました。
すると、他の市民と遭遇。食べ物を貯蔵している倉庫に近づくと…

小山径キャスター
「『盗む気なのか』。えっ!なんでなんで。えっ?」

強盗だと勘違いされ、いきなり殺されてしまいました。残された2人は「悲しい」気持ちに。

小山径キャスター
「1人居なくなるって、すごい寂しいですね。もう悲しんでいる暇がない」

戦時下を生きる過酷さ。小山キャスターは次第にゲームに没頭していきました。

このゲームが生まれたのはポーランド。ドイツとロシアという2つの大国に挟まれ、苦難の歴史をたどってきました。第二次世界大戦では国民の6人に1人が犠牲になりました。

クリエイターは「自分たちだからこそ作れるゲーム」を模索したといいます。

11bit studios プシェミスワフ・マルシャウCEO
「“戦争は悪だ”と示したかったのです。銃撃や英雄のように、戦場を走り回ったり殺したりする、その視点はやめました。戦争では物理的な面だけでなく、精神的、道徳的にも身を守らなければなりません。そのためには兵士より一般市民のほうが、自分に重ねることができます」

ゲームを始めて1時間。

小山径キャスター
「食べ物が手に入らない。毎日空腹が解消できないですね」

市民が「とても空腹」の状態で、今にも力尽きそう。今度は慎重に食べ物を探します。

小山径キャスター
「ちょっと分けてもらえないかな」

現れたのは、老夫婦。向こうから襲ってくる様子はありません。そこで、冷蔵庫に近づくと「私たちの分を残しておいて…」と頼まれます。

仲間のために盗むか、それとも老夫婦を気遣い、飢え死にするか。小山キャスターは悩んだ末、食べ物を少しだけ自分のバッグに入れました。

小山径キャスター
「生活のためとはいえ、略奪してという」

2日後。再び老夫婦の家を訪ねるとそこには誰もいませんでした。

そして最後には、過酷な環境を生き抜くために行ったことが、悪事も含めてすべて画面で突きつけられるのです。

世界中で大きな反響を呼んだこのゲーム。母国ポーランドでは、政府がその教育価値を認め教材として正式に指定しました。教師や生徒は、政府のホームページから無料でゲームをダウンロードできるようになっています。

ある公立学校では、ゲームと講義を組み合わせることで、生徒が戦争について考えるきっかけを作ろうとしています。

生徒
「普通の授業だと積極的になれないけれど、ゲームを使う授業だと自分で考えられるし楽しめる」
生徒
「ウクライナで起きていることがもしポーランドで起きたとしても、何を優先すべきか考えられると思います」

デジタル技術を活用した教育開発を進めるポーランド。ゲームは、改革の有力なコンテンツと位置づけられています。

内閣技術革新センター ユスティナ・オルウォフスカ所長
「ゲームでは生徒はその出来事の参加者です。自分が参加しているので、それは永遠に記憶に残るものだと思います。『学問のための学問』だけではない教育。私たちは学校のためではなく「人生のために学ぶ」のです」

世界で話題のゲーム 社会へのメッセージ

<スタジオトーク>

小山径キャスター:
今回は、世界が注目するゲームの新潮流について考えていきます。

ゲームを年間100本以上プレーするというタレントの結さん。そして、ゲームと社会の関係を研究している井上明人さんです。

スタジオゲスト
結さん(タレント)
インディーゲームを年間100本プレイ

この「This War of Mine」というゲーム。結さんもプレーされたということなんですがいかがでしたか。

結さん:
極限状態における人間の心理を、嫌という程実感させられるゲームで、達成感や爽快感はないのですが「ただ生き延びた」という感覚だけが心にずしっと残るんですよね。ゲームというとファンタジーとかフィクションの世界をイメージされる方が多いと思いますが、このゲームは現実の痛みや苦しみを想像するゲームですね。

小山:
決してハッピーエンドというわけではないですよね。なぜこの異色のゲームが世界的にヒットしているのか、井上さんはどう考えていますか。

スタジオゲスト
井上明人さん(立命館大学 講師)
ゲームと社会の関係を研究

井上さん:
ヒットした要因はいろいろあると思います。大体ゲームで戦争を描くとなると前線の兵士が銃を持って戦う、というものだと思いますが、そこを外してアパートの中で怖い思いをしている人たちの苦労を描く、というところにフォーカスを当てる。そう来たか、という驚きがまず最初にありますよね。

それに加えて、実際にやってみるとゲームとしてはとても丁寧に作られていて、ゲーマーとしては「こんな仕組みを持ってきたな」など、細かく丁寧なつくりがすごく感心できる形になっていて、とても遊びやすい形になっているというのが大きいと思います。

小山:
新たな視点、そして作りもとても丁寧に作られているということなのですね。

さらに今、世界でどんなゲームが話題になっているのか、お2人と見ていきたいと思います。

1つ目は「Papers, Please」というゲーム。どのような作品でしょうか。

井上さん:
英国のアカデミー賞のゲーム部門を受賞した作品です。ゲームはいろいろなトレードオフを描くのが得意ですが、これは職業倫理をとるか、家族をとるか、それとも目の前の人を助けるのか、といったことを悩む役人を務めるゲームです。

小山:
役人を務めるのですね。結さんももちろん、やったことがあるのでしょうか。

結さん:
大好きなゲームの一つです。

小山:
では、どのようなゲームなのか見ていきましょう。

結さん:
主人公は入国審査官になって、パスポートを受け取って審査していきます。小山さんはこのパスポートを見て入国できると思いますか?

小山:
えっ、パスポートを持っていても入国できないのですか。

結さん:
そうです、怪しいところをチェックしてください。

小山:
写真ですか?ちょっと顔が違う。

結さん:
すごい。よく気付きましたね。顔写真が実際の人物と違います。この場合は入国拒否してください。

小山:
こういうのを続けていくのですか。次々といろいろ人が現れてくるのですか?

結さん:
そうなんです。他にも、賄賂が届いたりしますが、主人公はお金がなくて貧しいので甘い誘惑に打ち勝って、守るべき家族、養うべき家族と共に、どうやって正しい道を生き抜くのかというのが問われるゲームです。

小山:
ただの間違い探しみたいなものだけではなく、自分の貧しさと戦いながら賄賂が届いたときにどうしようかということを考えていく。それも体験ですね。

続いては「A YEAR OF SPRINGS」というゲームです。

作者は性的マイノリティーの当事者として、社会へのメッセージを込めてこのゲームを作ったそうです。

ゲームクリエイター npckcさん
「世界は優しくないから。優しくないところがある。当事者みんな普通に生きたいだけです。特別に当事者だから配慮しろとか、そういう気持ちは全くなくて。ただ、幸せに生きたいだけです」

結さん:
では、どのようなゲームか、実際に見ていきましょう。

主人公のハルちゃんという子が、ある日友達と一緒に温泉旅行に行くことになりました。なぜかハルちゃんは悩んでいたのですが、とりあえず旅行に行くことにしたのです。

<ゲーム内のやりとり>

フロント
「ご予約を承っております。宿泊者名簿にご記入いただけますか?」
ハル
「たぶん戸籍に書いてある名前じゃないと駄目…戸籍に書いてある性別もね」

結さん:
旅館に着いて宿泊名簿に書いた名前が、鈴木悠人。

ハルちゃんは体が男性で性自認は女性のトランスジェンダーなのです。ここで温泉に入ろうという誘いを友達から受けるのですが、小山さんはどちらを選びますか。

小山:
『行かない』。

<ゲーム内のやりとり>

エリカ
「ごめん」
ハル
「え?」
エリカ
「無神経だった。不快な思いをさせた。そのつもりはなかったけど。ちゃんと反省してるから……許してくれる?」
ハル
「……うん」

小山:
2人の仲が壊れることはないということですね。「お風呂に一緒に行く」を選んでいたらどうなるのでしょうか。

結さん:
見てみましょう。

エリカ
「私も女の子と付き合ったことあるし」
ハル
「ということは、エリカさんはバイ?」
エリカ
「バイって?」
ハル
「男も女も好きってこと」
エリカ
「そうかもね。こういうのにちょっと疎いので、正直よくわからないけど。とにかく、大丈夫だって言いたかっただけ」

小山:
どちらを選択しても、お互いの思いが通じ合うという結末になっていくというゲームなのですね。

続いては、さまざまなゲームの中で作品にはクリエイターの体験や願いというのが込められている、という話です。

分断が広がる世界で ゲームに込めた思い

都内の店で撮影を繰り返す男性。
ゲームクリエイターのディマ・シェンさんです。

取材班
「何を撮っているの?」
ディマ・シェンさん
「お店の雰囲気だよ」

1月に来日し、日本のコンビニを舞台とするゲームを制作しています。

プレーヤーは店員となり、次々やってくる買い物客に対応します。日々、淡々と繰り返されるコンビニの仕事。ディマさんにはこれをゲームにしようとする理由がありました。

ディマさんが生まれ育ったロシア中部の街、エカテリンブルク。この街で、ゲーム会社を経営し14人の社員と働いていました。しかし2022年の春、ロシアがウクライナに侵攻。経営の先行きが不透明となり、オフィスは閉鎖に追い込まれました。

ディマさんにはウクライナ人の親戚もいます。親しかった人たちとの分断やロシアからの徴兵の不安。孤立し、思い悩む日々が続いたといいます。

ディマ・シェンさん
「悲しいです。なんでこうなったんだろう。去年の春、戦争のことで頭がいっぱいになり、離れられない状態になってしまいました。戦争の情報から逃れて、いったん冷静になれる場所に身を置こうと思いました」

日本にやってきたディマさん。目にしたのは、たあいもない対話にあふれた暮らしでした。自動販売機を見ても…

ディマ・シェンさん
「この音いいなぁ。自販機は親友のようにいつもそばにいるよね」

ゲームクリエイターとして自分は何を描くべきか。たどりついたのがありふれた対話にあふれた日本のコンビニだったのです。

ディマ・シェンさん
「日常を当たり前だと考えていると、日常を大切に思えなくなります。コンビニは店員さんも淡々と働いていて、気が休まる理想的な場所。温かくて快適なイメージです」

ディマさんのゲームでは店員との対話によって客の生活が変わります。

ディマ・シェンさん
「このおじさんが求める商品の場所まで正しく案内できないと、おじさんは商品を買うことができず生活に影響が出ます。こうしてちゃんと案内できれば、商品が見つかり生活は豊かになります」

このゲームにはディマさんが伝えようとする一つのメッセージがありました。

ディマ・シェンさん
「一期一会には2つの意味があると思います。1つは単純に新しい人に出会うという意味です。もう1つは、一瞬一瞬は2度と繰り返されず貴重だという意味。このゲームでは、とてもささいなことが他人の人生を左右することに気づけます。世論を誘導するプロパガンダではなく、対話を通じて“何が正しいのか。真実はどこにあるのか”を自分で感じられるゲームを作ろうとしています」

さまざまな発想のゲーム これからの役割

<スタジオトーク>

小山径キャスター:
ディマさんのゲーム作り、結さんはどう見ましたか?

結さん:
戦争をきっかけに作ったゲームというものが、コンビニという我々のいちばん身近な存在にたどりつくという感受性と発想に驚きましたね。

小山:
自動販売機にも、とっても感銘を受けていましたが、もしかしたら今度自動販売機のゲームも作られるかもしれない。井上さん、どうしてこんなふうに個性的な、そしてさまざまな発想のゲームが次々と登場しているのでしょうか。

井上さん:
昔にももちろん個性的なゲームというのはあるにはあったのですが、やはりここ十数年で質的な変化というのがありまして。簡単に言うと少人数とか、1人で作りたいものを作って多くの人に届けるという環境がどんどん整備されてきている。それが大きいと思います。

技術的に言うと、それをサポートするような、ゲームを作りやすくするようなソフトウエアが出てきたりとか、多くの人に配布するための仕組みができてきたことに加えて、ビジネス的に言うと30人とか40人とかでゲームを作るとなった場合、「あまり冒険ができない」ところがどうしても出てきやすいと。やはり、ある程度売れ行きを見込めるものではないと厳しいということになるわけです。

小山:
しっかり"もうけ"も考えないといけないと?

井上さん:
そうですね。それが1人だったら、「最悪、まあ自分がなんとかなれば」という発想も正直あるにはあると思います。そこで変なものも、とがったものも作りやすいというのは大きいかなと思います。

小山:
自分の思いをぶつけて、挑戦しやすい環境が整っているということですね。これからゲームはどんなふうに進化していくと考えていますか。

井上さん:
かつて小説であるだとか、映画であるだとか、漫画であるだとか、そういったものがすでに非常に社会的な問題、哲学的な問題を描いた作品を数多く作っていると思うのですが、ゲームもまた、そういった流れに乗ってくるということが今回紹介したものを見ていただくとお分かりいただけるかなと思います。

例えば、今回紹介したゲームの中にはゲームクリエーターの方が非常にいろんな悩みを抱えながら生きているというのが紹介されたと思うのですが、悩みを抱えながら生きている時に、昔であればペンを執って多くの人に訴えかけるというのがあったと思うのですが、ゲームクリエーターの方々だったら、そこでペンを執るのではなく、自分たちの悩みとか問題というのを「これをゲームで表現しよう」となってきたら、そういうゲームは当然たくさん生まれてきますよね。その流れというのを、やはり今われわれは目にしてるんだと思います。

小山:
結さん、やりたいゲームがこのあともどんどん増えてくるかもしれませんね。

結さん:
そうですね。ゲームに込められたクリエーターさんの思いの純度の高さにもひかれますし、今まさにその体験というもののど真ん中にゲームが来てるということ、楽しいだけがゲームじゃないぞ、ゲームによって私はいろんな感情を教えてもらったので、それを知ってもらうということがゲームのことを次の時代に行くきっかけにしてもらえたらいいなと思います。

小山:
今回ご紹介した中でも、多様な職業とか立場を経験するという、本当に多様な立場をゲームで体験できるというのがこれからかなり役割としては大きくなってくるかもしれませんね。

結さん:
そうですね。

小山:
ありがとうございました。

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