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2023年2月7日(火)

強盗から「家」をどう守る 進化する“闇名簿”の実態

強盗から「家」をどう守る 進化する“闇名簿”の実態

容疑者の日本送還で、実態は明かされるのか―。広域強盗事件の最新情報、そして特殊詐欺が蔓延していた闇社会で起きている“変化”について緊急報告。“ルフィ”らを知る関係者が明かしたのは犯行に使われる“闇名簿の進化”です。「金融資産」「自宅預金」「住民の行動時間」…。かつてより“詳細な情報”が出回り、正確な名簿は高額で売買されているといいます。詐欺から強盗へ凶悪化する犯罪。家を強盗から守る対策は?徹底検証しました。

出演者

  • 濱田 宏彰さん (セコムIS研究所 研究員)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

強盗から家をどう守る 進化する"闇名簿"

桑子 真帆キャスター:
関東を中心に、2022年から2023年にかけて相次いだ広域強盗事件。同一グループの犯行とみられるものと関係が疑われる事件は分かっているだけで14都府県に広がっています。これらの事件の特徴のひとつが、被害者個人の詳細な情報を把握していたことです。

例えば、2022年10月の東京・稲城市の事件では「犯人は侵入するなり金庫が設置されていた2階に直行」。警察は、事前に金庫の位置を把握していたとみています。

一体どうやって情報を得ているのか。一連の広域強盗事件ではまだ分かっていません。

そこで私たちは、さまざまな犯罪グループについて独自に取材。個人の資産などを詳細に把握した"闇の名簿"が出回っていることが明らかになってきました。

家族・預金・性格まで… 進化する"闇名簿"

1月。強盗の被害にあい、現金を奪われた男性。犯行グループに事前に多くの情報を握られていたのではないかと感じています。

犯人は、施錠された1階の寝室の窓ガラスを破り、侵入してきたといいます。

強盗被害にあった男性
「この部屋で寝ていまして。ガタンといって数秒のうちに押さえられましたから。やっぱりここに寝ていたことを知っていたんですね」

事件の半年ほど前からは、不審な電話が何度もかかってきたといいます。

強盗被害にあった男性
「営業の電話が多いもんで、ここしばらく非通知とか見たこともない番号。目に見えないところで情報が飛び交っていると思うと、本当に恐ろしいですね」

ターゲットはどのように定められるのか。

取材を進めていくと、今回逮捕されたグループのことを知る人物にアプローチすることができました。

私たちの前に現れた人物は、渡邉優樹容疑者が首謀者とみられている特殊詐欺グループに関わったことがあるといいます。実行役が電話をかける様子を見学するように言われた際、彼らの手元にあったのは"ある名簿"でした。

犯罪グループに関わった男性
「A4用紙にびっしり住所、氏名、固定電話のナンバー。それが20~30枚と置かれる。見たところ、同じ町名がずっと並んでいました」

実行役は次々と名簿を取り替え、電話をかけ続けていたといいます。

犯罪グループに関わった男性
「名簿が入れ替わる更新頻度は、1日に3回くらいだったと思う。使い終わったものはバツ印全部入れて、これは使用しましたという意味。私らが帰ったあとに回収しているんだろう」

裏社会で広がっている"闇の名簿"。一体どんなものなのか。

犯罪グループに名簿を売り、服役していた男が取材に応じました。見せてきたのは、実際に犯罪に使われたという名簿。電話番号、氏名、住所、年齢、職業などの基本情報が記されていました。

"闇名簿"を売り服役した男
「家族構成も結構大事で、ひとり暮らしがいちばんいいですね」

集められているのは、主に所得が高いとみられる有名大学の同窓会や大企業の社員名簿。さらに最近では、町内会の名簿など身近なものも含まれているといいます。そこに加えていくのが、付加価値の高い預金や株、土地などの資産情報。

こうした情報はどうやって収集しているのか。

男が使用していたというのが、企業アンケートや世論調査などに使用されている「自動音声サービス」です。家族構成や年収など、あらかじめ設定した質問を指定した電話番号に一斉に発信。正式な調査だと勘違いした人たちに回答を入力させます。これにより、効率的に資産がある人物を抽出することができるといいます。

さらに、対象者の性格や、詐欺の被害の有無、健康状態、そしてタンス預金まで。自動音声サービスでは分かりえない情報が記されていました。こうした生々しい情報は、アルバイトで募集した一般人を使い、電話で収集するといいます。

"闇名簿"を売り服役した男
「『地域(役場)の安全課の者ですけど』みたいな感じで電話して。『おばあちゃん、ひとり暮らしで大丈夫?』『お金、家に置いたりしてないよね?』『子どもは家に来てる?』とか、相談の電話をかけてもらい、聞き出しています」

この他、男のもとにはお金欲しさから有名企業や役所の人間がみずから名簿を売り込んでくることもあったといいます。

"闇名簿"を売り服役した男
「ほぼ毎日持ち込みはありますね、一般の人から。高額納税者のリストも、税務署の人から。以外によかったのが、百貨店の外商リスト。その人の顧客名簿が意外と(金が)とれましたね。『うちの父がちょっと証券会社にいるんですけど、パソコンの中にこういった名簿があったんで持ってきました』とか」

こうした情報性の高い"闇の名簿"は、犯罪グループの首謀者に渡り、指示役などへ回っていくというのです。

強盗多発の裏で何が 出回る"詳細な情報"

闇名簿が高度化した背景には、振り込め詐欺など「特殊詐欺」の取り締まりが強化されたことがあるといいます。

2000年代から横行し始めた「特殊詐欺」。警察の取り締まりや、啓もう活動により検挙数は上昇。被害額も減少傾向にあります。

かつて特殊詐欺のリーダーだった男によると、収益が減り、追い詰められた犯罪グループが新たな選択肢としたのが「強盗」という強硬手段だといいます。

元特殊詐欺グループ リーダー
「警察とかの成果ではあると思うんですけど、方法がなくなっていって消去法ですよね。なくなっていったから、こっち(強盗)に寄っていった」

逮捕される可能性が格段に上がる、強盗犯罪。犯行グループにとっては、より確実に金品を奪うため精度の高い情報が必要になるというのです。

元特殊詐欺グループ リーダー
「そうですね、結構極限まで抽出された名簿。行って空振りというのは一番避けたいでしょうから」

多発する強盗事件。裏社会では今、名簿だけではないさらなる情報収集が行われている実態も浮かび上がってきました。

かつて強盗の実行グループに所属し、逮捕された男たちです。男たちには、首謀者を介して一部、名簿に掲載されていないより詳細な現場の情報が送られてきたといいます。

強盗グループに所属していた男
「テレグラムで(現場の)写真が送られてきて、どう?みたいな感じで。グーグルアースとかの映像とか、ここが倉庫でここが母屋でみたいな感じでメモが書いてあって。ここからたぶん入れるよ、みたいな感じのやつもありましたね」

情報伝達に使われるのは「テレグラム」。一定時間が過ぎるとメッセージが消え、証拠が残りにくいためです。

強盗グループに所属していた男
「全体が写っていて、ここが寝室で、リビングここで、みたいな感じで。手書きで間取りが来る時もありますよね」
取材班
「この家に金庫があるとか、そういう情報も入っている?」
強盗グループに所属していた男
「入ってます、入ってます」
強盗グループに所属していた男
「金庫の中に大体いくら入ってるっていう情報はもう流れてくるんで」

部屋の間取りや、現金のありか、正確な情報を把握したうえでさらに現場で下見を行っているといいます。

強盗グループに所属していた男
「リスクを回避するために下見に行ったり、防犯カメラの位置を把握したり、逃走経路をまず見たり、なるべくリスクを低くしていきますね」

さらに、こうした情報は、指示役を介して複数の実行グループで共有されていると明かしました。

強盗グループに所属していた男
「上に人がいて、情報を仕入れてきた人間から、その下の人間にいって、そこから何人かに声をかけるような感じ。(指示役が)何グループかに声をかけるじゃないですか、そのひとグループが『じゃあ俺ら先行くわ』みたいな感じで準備して行っちゃう感じ」

今回の一連の強盗事件で被害にあった人のうち、一部の情報はこの男たちのグループにも伝わっていたといいます。

強盗グループに所属していた男
「山口とか広島のやつは、だいぶ前から。あと狛江の方もそうですよね。だいぶ前から自分らの方にも。先にルパン(窃盗)ができないかって感じできたんですよね」

なぜ犯罪グループは犯行を繰り返すのか。最後に改めてただしました。

取材班
「いずれも犯罪なわけですよね?」
強盗グループに所属していた男
「なんだろう、刺激が欲しかったりとか、それに近いものがあるような気がします」
強盗グループに所属していた男
「いちビジネスとして、ドライに考えてますかね」

家の情報が筒抜けに 進化する"闇名簿"

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
私たちが取材で確認した、名簿の内容を改めて見ていきます。

「名前」、「年齢」、「職業」、「資産額」、そして「タンス預金」があるかどうか、さらに「株」や「土地」を持っているかどうか。また、「詐欺被害」にあったことがあるか、「家族」や「性格」についても記されています。

もととなっている情報
■町内会名簿
■流出した企業の顧客名簿
■アンケートを装った電話
など

もととなっているのが、町内会名簿など、さまざまあります。

2022年、詐欺の疑いで逮捕された消防隊員が、災害時に支援が必要な高齢者の個人情報リストを持ち出していたことが明らかになるなど、思いも寄らない形で情報が流出するケースも起きています。

こうした名簿の売買というのは「個人情報保護法」で制限されています。けれども専門家は、今の規制では犯罪を防ぎきれていないと指摘しています。

こうした詳細な情報が悪用される犯罪。今回の広域強盗事件の最新の捜査状況はどうなっているのでしょうか。警視庁クラブの古市記者に聞きます。

古市さん、犯行グループはどのように情報を集めたのかなど、分かってきているのでしょうか。

社会部 古市駿記者(警視庁 中継):
一連の事件の中には、実行役が指示役とみられる人物から電話で指示を受けながら室内で金品を物色していたケースもあり、かなり具体的な情報をもとに強盗に入っていることがうかがえます。

こうした情報は、さまざまな形で共有され、名簿として出回るケースもあるとみられていますが、今回の一連の事件において犯行グループがどのように情報を集めて集約していたかまでは分かっていません。

桑子:
捜査が本格化していくわけですが、今後どういうことが焦点になっていきますか。

古市:
これ以上被害を生まないためには末端の実行役だけではなく、指示役や首謀者の摘発が欠かせません。実行役を逮捕するだけでは、あくまでその携帯電話に一部の被害者の情報が送られてくるだけでグループが集めているターゲットの全体像は見えてきません。全体像が見えれば、例えばリストに載っている被害者に注意を呼びかけるなどして、被害を未然に防ぐことにもつながります。

そのうえで今回、4人の指示役が日本に送還されることになった機会を捉え、フィリピン当局から提供を受ける携帯電話の分析でどこまで指示系統を解明できるかが焦点となります。

仮に携帯電話に重要な情報が残されていたとしても、その端末を、いつ、誰が操作していたかまでを裏付ける必要があり、捜査には多くの時間を費やすとみられます。

捜査幹部は「4人の供述からは事態の進展は見込めないだろう」と話しており、いわば遠隔操作で犯罪を実行させていた指示役の実態解明は客観的な証拠をどこまで積み上げられるかにかかっているといえます。

桑子:
強盗被害にあわないために、私たちはどう備えたらいいか考えていきます。防犯の専門家に聞きました。

強盗から家を守るには 「有効な対策」とは

警視庁で20年以上テロ対策や警備の仕事に携わってきた、松丸俊彦さん。今回の一連の強盗事件でも、"闇名簿"が関わっているのではないかとみています。

元警視庁 防犯コンサルタント 松丸俊彦さん
「捜査情報の中でも、今回関東の中であった被害の1名、もしくは2名の被害者の方は名簿に載っていたという情報もあります。(闇名簿が)確実に使われていると思います」

被害にあわないために、私たちに何ができるのか。安易に個人情報を漏らさないだけでなく、個人的な志向や価値観にも気をつけるべきだと松丸さんは指摘します。

松丸俊彦さん
「『テレワークのアンケートを今実施しています』なんていうのを(犯人が)電話かけてですね。『ご夫婦でコロナ禍で大変ですね』という質問を当てると、『いえ、私は主人に先立たれて独りです』という確認なんかをする。『投資に回せるお金としたら、どれぐらいありますか』とかですね。100万円を投資できますかって言ったときに『え?』っと驚くようであれば、100万円を高い金額と見てる人ですよね。どうにかなりそうですということであれば、100万円を安く見ている人ですよね」

今回NHKが入手した"闇名簿"には、性格などの情報が記されていました。こうした一見ささいな情報も、犯行を実行する上で重要な判断材料になるといいます。

松丸俊彦さん
「穏やかで話をよく聞いてくれる人なんていうのは、話を進めやすいでしょうね。ここ(闇名簿)に一覧に書き出して、狙いやすい、襲いやすい人を絞り込んでいっている」

さらに松丸さんが指摘したのは、犯人の下見を見越してできる対策の重要性です。

松丸俊彦さん
「例えば毎日同じ時間に外出をして、同じルートを通って、同じ目的地というか方角に行くという生活をとっているとしたら、犯行計画が立てやすいですよね。複数のルートをとるとか、帰宅時間、出発時間を若干変えるとか、そのような工夫も必要なのかなと思います。リスト(闇名簿)に載せたとしても、最終の絞り込みの段階で、やっぱり狙いにくいからやめようと」

それでも実際に強盗にあってしまった場合、できることはあるのか。

アフリカでセキュリティー対策の仕事もしてきた松丸さん。携帯電話で助けを求めるための「逃げ場所の確保」が命を守る最後のとりでになるといいます。

松丸俊彦さん
「パニックルームとか、セーフヘブンという言い方もしてるんですが、主に寝室の前に鉄格子をつけて立てこもって助けを求めるという考え方があってですね。これが物理的に作れない構造の家もあったんですが、そういう場合はトイレです。そこに立てこもって時間を稼ぐという必要が生じた時には、通常の鍵のほかに補助鍵をかけて時間を稼ぐ、助けを待つ。普段は使う必要はないですが、立てこもったときにだけ使う鍵というのを設置しておく必要もあるのかなと思います」

専門家に聞く「防犯対策」

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
どんな防犯対策ができるのか。きょうのゲスト、濱田宏彰さんに伺っていきます。

誰もがリストに載っているかもしれないというおそれがある中で、注目すべきデータがあるということです。どういうものなのでしょうか。

スタジオゲスト
濱田 宏彰さん (セコムIS研究所)
「家」の防犯対策を研究

濱田さん:
強盗にしても、侵入盗にしても、家に入らせない対策というのが非常に重要です。ですので、なるべく時間をかけさせるという意味でも、できれば5分以上侵入できないようにする対策が非常に重要になってきます。

桑子:
犯人が侵入を諦める時間にかかるものとして「5分もたせる」。どれくらいの割合で諦めるのでしょうか。

濱田さん:
合計で7割ぐらいの泥棒は諦めるといわれています。ガラスであるとか、玄関の鍵であるとか、対策を十分していただきたいなと思います。

桑子:
具体的な対策を見ていきたいと思います。まず「防犯フィルム」です。これはどういうものでしょうか。

濱田さん:
侵入盗で侵入箇所としてかなり多いのは「ガラス」です。なので、簡単に割れないような対策ということで「防犯フィルム」を貼ることで割れにくくする対策。それによって、先ほどの「5分もたせる」という意味でも重要になってきます。

桑子:
「補助錠」というのは。

濱田さん:
玄関などで「ワンドア・ツーロック」というものがあります。窓ガラスについても同じように、真ん中にある「クレセント錠」とは別に、もう1個、できれば複数補助錠を設けるのが重要かと思います。

桑子:
付け方については何かありますか。

濱田さん:
下と上に丸があります。下にあると、泥棒にとってはかがんで都合がいい姿勢になります。上にある方が手が届きにくくなるので、できれば上のほうが防犯効果はより高いのかなと考えています。

桑子:
さらに「防犯カメラをつける」。これも重要ですし、在宅中に侵入する割合が今増えてきているということで、「在宅中でも施錠」をする。例えば、ごみ出しに少し出かけるときも鍵をかけることに気をつけていただきたいと思います。

そして、犯人が配達などを装ってくることもあるので「置き配」を利用する。さらには「チェーンをかけたまま対応する」のも1つあると思います。そして「イヤホンを外す」というのはどういうことでしょうか。

濱田さん:
昨今、押し込み強盗とかがありますので、家に帰るまでの間に誰かにつけられていないかとかいうことを注意しながら家まで帰っていただくということが必要です。音楽を聴きたいという気持ちは分かるのですが、せめて「最寄りの駅から自宅までの間」はイヤホンを外して、周りに気をつける。また、スマートフォンも見ながらではなく、ちゃんと周りを気をつけるということをしていただきたいと思います。

桑子:
視野が狭くなったりしますからね。あと、「自宅で大金は保管しない」ということでしょうか。

濱田さん:
はい。やはり金融機関等に預けていただくのがベストかなと思います。

桑子:
どうしても置きたいという場合は。

濱田さん:
普通の金庫ではなく、しっかりとした「防盗金庫」というものがあります。盗まれない対策をちゃんと施された金庫を準備していただくのが重要かと思います。

桑子:
強盗が相次ぎ、物騒になってしまったと私は感じるのですが、今の状況をどういうふうに捉えていますか。

濱田さん:
これまで犯罪がすごく減り続けてきたのですが、2022年の統計では20年ぶりに犯罪が増加したということになっております。これを機に、防犯対策、ちょっとしたことで防犯レベルというものは上がりますので十分な対策をしていただきたいなと考えています。

桑子:
これまでとは少し潮目が変わっていると捉えたほうがいいですか。

濱田さん:
そうですね。今回の強盗を含め、凶悪な犯罪、粗暴犯も増えております。今後しっかりと対策をしていただくのが非常に重要だと思います。

桑子:
ありがとうございます。「自分は大丈夫」。まず、この意識を変えるところから始めていただきたいと思います。

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