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2023年1月25日(水)

急増なぜ?梅毒“過去最多”の衝撃 感染から身を守るには

急増なぜ?梅毒“過去最多”の衝撃 感染から身を守るには

最新のデータで、感染者数が1万3千人と現在の方法で統計を取り始めた1999年以降、過去最多となった「梅毒」。さらに、りん病やクラミジアなどの性感染症がじわじわ広がっています。一体なぜなのか?SNSやアプリなどで不特定多数の相手と性交渉する人で感染のリスクが高いことが調査で判明。さらに、配偶者など特定のパートナーとしか性交渉しない人にも感染が広がっている実態も。いま何が起きているのか?身を守る方法は?徹底解説しました。

出演者

  • 川名 敬さん (日本大学医学部主任教授・日本性感染症学会監事)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

“9人に1人”が経験あり 広がる性感染症

今、梅毒をはじめとする性感染症が広がっています。なぜなのかは詳細なデータがなく、分かっていません。

今回NHKは、専門家と共同で性行動や性感染症について、リサーチ会社に登録したおよそ1万人を対象にインターネットでアンケート調査を行い、4,650人から回答を得ました。すると、そのうち「9人に1人」が梅毒やクラミジア、りん病など、何らかの性感染症にかかったことがあることが分かりました。

性感染症にかかった経験がある人の性行為の相手を聞きますと、男性は49%、女性は84%の人が配偶者や恋人など、特定のパートナーとしか性行為をしていないと回答しました。

性に関する話題は避けがちかもしれません。しかし、もはや誰にとってもひと事ではなく、決して甘く見てはいけない問題です。

梅毒"まさか私が…" 身近に迫るリスク

関東地方に住む会社員のカオリさん(仮名)。2022年12月、梅毒と診断されました。2年ほど前から交際していた男性から感染したとみられています。

カオリさん(仮名)
「まさか自分が梅毒にかかるなんて、無縁なものだと思っていたのでこんなに身近にあるんだとショックが大きかったです」

きっかけは2022年10月、交際相手から届いたメッセージでした。性器にしこりができ、病院で「梅毒と診断された」というのです。さらに、男性が交際中に性風俗店を利用していたことも分かりました。カオリさんは、避妊のためにピルを服用していましたが、コンドームはつけずに性行為をしていたといいます。

カオリさん
「性病になることがありえないと思っていたので。お互いに他にお付き合いしている人がいないと思っていたので。いま思えば常に(性感染症の)リスクはあるのかなって思うんですけど、性病に対してのガードもかなり低かったなって思います」

症状はありませんでしたが、すぐにクリニックを受診。

銀座ヒカリクリニック 剣木憲文医師
「11月初旬のときは陰性だったんだよね?」
カオリさん
「そうですね」

検査を繰り返し、2か月後、陽性の結果が出ました。梅毒は潜伏期間が長く、感染してすぐは検査をしても陰性になるため、気付かずにうつしてしまうことがあります。

梅毒の主な症状は潰瘍や発疹などですが、無症状の人や症状が出たり消えたりする人もいます。

現場の医師は、梅毒が水面下でさらに広がっている可能性があるとして危機感を募らせています。

剣木憲文医師
「無症状の人とか症状が消えちゃった人とか、本当に疑わないと検査されないし見つけられないので。いま治療ができている人たちはいいけど、(治療が)できてなくて本当にそのまんま体の中で静かに進行していっちゃったら危ない未来があるかもしれないっていう危機感があります」

妊娠中に梅毒に感染し、子どもにまで影響が及んだという女性もいます。

30代のミキさん(仮名)です。

ミキさん(仮名)
「聞いたこともなかった病気なので、ショックがありました」

出産予定日を前に血液検査を受けたところ、自覚症状はありませんでしたが梅毒に感染していると告げられたのです。

ミキさんは初期の妊娠健診では陰性だったため、妊娠中に夫から感染したとみられます。おなかの赤ちゃんも梅毒に感染している可能性があり、命に関わるおそれがあったため緊急の帝王切開で出産しました。

ミキさん
「体じゅう赤くて、皮膚も手足の皮がただれていて。生まれてきたら泣いていなくて仮死状態だったので、(私は)放心状態でした」

出産直後、赤ちゃんは「先天梅毒」という深刻な状態であることが判明。新生児集中治療室で治療が続けられました。

1か月後、ようやく退院。その後は年1回の定期検査を続けてきましたが、異常はみつかりませんでした。

しかし半年前。小学生になった子どもが、目の異常を訴えるようになったのです。

ミキさん
「片方の目がまぶしいと、かゆいと、あまり見えないって。病院に行ったら角膜実質炎という病気になっていて、先天梅毒で生まれた子が幼少期になりやすいって」

先天梅毒は、子どもが成長する過程で視覚障害や難聴などの症状が出ることがあります。

子どもは今も視界がぼやける症状は残っていますが、治療を続け、回復してきています。

ミキさん
「これから先も違う病気が出てきたり発症したりしたらどうしようと思って。すごく申し訳なくて、代わってあげたいけど代われない」

性感染症 感染拡大の理由は?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、性感染症に詳しい産婦人科医の川名敬さんです。

知らぬ間に感染し、場合によっては深刻な事態にも陥ってしまう。実際に患者さんを診ていて、どんなことを感じていますか。

スタジオゲスト
川名 敬さん (日本大学医学部産婦人科 主任教授)
性感染症に詳しい

川名さん:
梅毒は特に自分だけの問題ではなくて、女性の場合は妊娠していると生まれてくる子どもに非常につらい後遺症を残してしまうものなのです。
「普通の性感染症」という安易な考え方では済まないことが起きうるわけです。例えばクラミジアなどの感染症や、りん病もそうですが、今度は不妊にもなりますので、特に女性には後遺症が残ることが大きな問題、ポイントだと思います。

桑子:
なぜ今、性感染症が拡大しているのか。今回、私たちの調査を川名さんに分析していただきました。

感染した人の中で、配偶者や恋人などの特定のパートナーとしか性行為をしていないと答えた人が男性が49%、女性が84%という。まず見た時にどんな印象でしたか。

川名さん:
これは本当にびっくりしました。性感染症というとどうしても不特定の方との性行為による、ある程度限られた方がなる感染症と思われている方が多いと思います。私もその1人だと思いますが、この結果を見ると特定の方からの感染症が実は起きているということで、決して安心してはいけないということを示していると思います。

桑子:
不特定の相手、男性のほうが多いという結果についてはどうでしょうか。

川名さん:
特に女性が特定の彼しかいなかったのに、これだけ性感染症が起きているということは、やはり普通の生活をしていても入ってくる感染症だと思わなくてはいけないということを示していると思います。

桑子:
男性側に何か責任があるともとられますかね、どうでしょうか。

川名さん:
比較的気軽に、自分のことではない、関係ないと思っている性行動もあるのだと思います。しかし、今はやっている中ではそう甘いことではないということを意味していると思います。

桑子:
背景に、どういうことがあると考えていますか。

川名さん:
1つは、マッチングアプリとかSNSのように、誰とでもすぐに出会えてしまうという今の文化。これがすごく大きく(影響)していると思います。

桑子:
性感染症、梅毒も含めた全般で、どういう特徴があるのかまとめました。

「感染経路」ですが、主に「性行為」で感染します。具体的には性器同士の接触、口や肛門の接触、それからキスによってうつることもあります。

そして「発症部位」ですが、口やのど、陰部などが多いですが、無症状、そして症状が見えにくい場合もある。川名さん、ここがやっかいですね。

川名さん:
性器ですので、なかなか自分の目にはつかないところでもあります。そもそも症状があっても、それを性感染症の症状と自覚しないわけです。例えば痛みがあればすぐに病院に行くと思うのですが、痛みがあるわけでもありませんので。

桑子:
症状が目に見えても、痛みがない場合もあると。

川名さん:
そうですね。そうすると放置してしまう。性感染症が広がる1つの理由になっていると思います。

桑子:
つまりは今、症状が性感染症なのかどうかが、なかなか分かっていないという状況ですか。

川名さん:
分かりにくいという面もありますし、知識がないと怪しむこともないということだと思います。

桑子:
知識がないと医療機関にもつながりにくいということになるわけですが、今回の調査でも検査や治療の遅れが感染を拡大させていることを示すデータがありました。

感染が疑われたときに医療機関を受診した人が、若い世代で半数以下にとどまっていたのです。そうした(医療機関につながっていない)人たちが、感染を広げるリスクの高い行動をしている実態も見えてきました。

"一夜限り""リスク軽視" 感染拡大の背景は

性感染症を疑う症状があったにもかかわらず、医療機関を受診しなかった20代の男性。

男性が体に異変を感じたのは、マッチングアプリや飲食店で知り合った女性とその場かぎりの性行為を繰り返す中でのことでした。

男性
「きっかけは、クラブでワンナイトした人。2、3週間後くらいに、めちゃめちゃおしっこするときに痛い」

トイレに行く度に性器に激痛が走ったという男性。診断を受けないまま、以前、別の病気で処方された抗菌薬を飲みました。

男性
「恥ずかしいっていうのもあるし、なんか自力で解決できるなと思って。ネットで調べて、そしたら抗生物質が効くって書いてあって。ちょうどその薬があったから飲んだ」

本来、別の用途で処方された抗菌薬を自己判断で飲むべきではありません。痛みが治まった男性は、その後も不特定の相手との出会いを続けたといいます。

男性
「めっちゃ広めていた可能性はある。ワンナイト続けているかぎり、かかってしまったらアンラッキーくらいの世の中」

調査では、不特定の相手と性行為をする人は、特定のパートナーとだけ性行為をする人に比べて、感染した経験のある割合がおよそ1.8倍に上りました。

SNSでの出会いを通じて性感染症になったという、会社員のユミさん(仮名)です。

SNSに自身の写真を投稿すると、すぐに男性からたくさんの反応が寄せられます。そうした相手と連絡を取り合い、関係を持っているといいます。

取材班
「(男性と)どういうところ行ったりするんですか?」
ユミさん(仮名)
「ご飯食べに行くか、そのままホテル行ったりとか。男性から女として見られているって感じ。承認欲求じゃないですけど、自分が求められていることに対しての満足感っていうか」

多い時には、週3回ほど複数の人と性行為をしています。

ユミさん
「やっぱり手軽さはありますよね。私の場合、そういう投稿しているから。気軽に声をかけられそうな感じがあると思うんですけど」

しかし2022年、入浴中に性器に違和感があり、クリニックを受診したところ性感染症の「尖圭(せんけい)コンジローマ」と診断。さらに、梅毒の感染も分かったのです。

ユミさん
「いわゆる潰瘍。もう歩くのもつらいし、トイレに行くのもつらいし、夜も眠れないくらい考え込んだりしてたので」

ユミさんは関係のあった男性に連絡し、検査をするよう伝えました。しかし…

ユミさん
「『症状が出てないから、俺は大丈夫だよ』みたいな感じで。一応、説得もしたんですけど」

誰から感染したのか分からず、誰に感染させたのかも分からないままです。

ユミさん
「ブロックして連絡とらなかったら、そこまでじゃないですか。別にお互いの家を知ってるわけでもないし、下手したら名前も知らない人もいるんで。例えばあっちが性病になっちゃって言わずに消える人もいるのかなって」

ユミさんは、今もこうした出会いを続けているといいます。

取材班
「やめられないものですかね?」
ユミさん
「やめられないかもしれないですね。やめたいとも思わないし、いいことだとも思わないし。定着しすぎちゃって、もう普通ですね」

性感染症から身を守るには

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:

今回私たちが行った調査からも、今ご覧いただいた実態と同じような傾向が見られました。

不特定の相手と性行為をしている人の感染経験について聞いたとき、アプリやSNSで出会っている人が「感染した経験がある」割合が高い傾向にあったのです。

これをご覧になって、川名さんはどんなことを感じますか。

川名さん:
まさに今の現代の文化というか、こういった社会がこういうことを起こしているというのがよく分かるデータだと思います。過去に経験のない梅毒の爆発的な急増、それをいちばん示す典型例なんだと思います。

桑子:
コロナ禍というのもやはり関係しているのでしょうか。

川名さん:
やはりコロナ禍で人と人との触れ合い、なかなか交流がない中でそういうものに走る。これはある程度しょうがないことなのかと思うのですが、その結果が今の状態だと思います。

桑子:
日本に限ったことだと思いますか。

川名さん:
実は、海外でアメリカなどでもコロナ禍で多くの性感染症が増えているというデータが出ております。

桑子:
こうした中で、私たちは自分、そして家族の体をどう守ればいいのか。性感染症の「予防」、そして「治療」について見ていきたいと思います。

まず「予防法」です。コンドームを使用する。避妊のためにピルを飲んでいる方がいるかもしれませんが、それでは性感染症は予防できません。ここが重要です。

そして「検査」です。血液検査、尿検査などが受けられますが、その場所は泌尿器科、婦人科、専門クリニック。そして保健所では梅毒、HIVの検査を無料で受けることもできます。

そして「治療法」。抗菌薬などで治療することができます。梅毒に関しては内服のほか、最近では1回の注射でも治療が可能になっています。

川名さん、VTRで自分で判断をして抗菌薬などを飲んでいる、取材をして他にも同じような例がありました。医療的な注意点、警戒点というとどういうことを感じますか。

川名さん:
まず、そもそも飲んでいる薬がその病気と合っているのか。診断を付けていないので。薬は性感染症の診断によって全部異なります。そこがずれていれば、治るわけがないということになります。量、服薬、内服の期間も全然合っていないと、治るものも治らないということになります。

桑子:
自分がどんな性感染症なのか、そもそも性感染症なのかどうか、診てもらう必要があるわけですね。

早めの受診は大事ですが、ただ、なかなか病院に行きづらいというような調査結果もあります。

性感染症で医療機関を受診するハードルについて聞きました。まず、「受診すべき症状かどうか分からない」。そして「恥ずかしい」。「どの医療機関にかかるべきか分からない」。「医療機関で嫌な思いをしたくない」という回答もありました。こういった中で、どうしていったらいいと考えていますか。

川名さん:
われわれ医師としては、やはり病気を診ているのであって、どこでうつったかということを別に聞いているわけではないですし、そこはあまり心配せず、病気を治すために来ていただきたいと思います。

あと、特別な病院ではなくても、普通の内科でもいいです。なので、まず行ってみるということも1つ手がかりになるのではないかと思います。

桑子:
例えば、女性だと婦人科に行くのはなかなかハードルが高いといった場合は、例えば掛かりつけ医の方とか。

川名さん:
そうですね。もしくは、今はオンラインの診療、あとは郵送検査、自分で調べる検査もあることはあります。そういうことの準備を今、学会でもやっているところです。

桑子:
やっているというのは?

川名さん:
郵送検査のためのガイドライン、指針みたいなものを作って、より安全に受けていただけるような準備をしようと思っています。

桑子:
最後に、性感染症から身を守るためには正しい知識を身に着けることが大切だと思うのですが、その課題について今どんなことを感じていますか。

川名さん:
性教育的なことはよく学校でもされているのですが、なかなか自分のこととは思えないことがあると思います。ところが、年ごろになればそういうことも起きるわけで、性感染症は性行為があっての感染症ですので、そのころになったらタイムリーに知識をしっかり得ていただきたいと思っています。

桑子:
性教育のタイミング、具体的にどういうタイミングで(知識を)身に着けていったらいいと思いますか。

川名さん:
今から性交渉が始まるぞという年頃になったときがいちばん(自分のこととして)入ってくるのではないかと思うので、そこでしっかり報道であったりで知っていただきたいと思います。

桑子:
知ってもらう機会を社会が作っていくということも大切ですね。

川名さん:
そういうことだと思います。

桑子:
ありがとうございます。最後にご覧いただくのは、今出会いや恋愛の形が多様化する中で、自分、そして大切な相手の体を守るための取り組みが始まっています。

"しかたなくない" 性の問題と向き合う

性や恋愛で問題に直面した時、どう対処すればいいのか。

マッチングアプリの運営会社などが、若者向けのワークショップを開いています。

「#しかたなくない」プロジェクト事務局 落葉えりかさん
「潜伏期間がありまして、性感染症には。ずっと症状が出ないってこともあるから気づかないって結構多くて。後々発覚したときにどう伝えたらいいだろうというのを考えてほしい」
学生
「1回、病院行こう」
学生
「1回病院へ行って、どういう経緯でうつっちゃったのか、ちゃんと整理する」

感染の不安がある時、パートナーとどう話すか。

落葉えりかさん
「性の話ってしないから、まずは身近な人から話してみて、自分の心地いい関係性をつくってほしい」
学生
「自分が陽性だったら、絶対に自分のパートナーにも言ったほうがいい」
学生
「打ち明けなきゃいけないことって人生あるよね」
学生
「やっぱり、話す。今の自分にとって何が一番大切か」
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