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2022年12月6日(火)

きこえますか?子どもの心のSOS コロナ禍のメンタルヘルス

きこえますか?子どもの心のSOS コロナ禍のメンタルヘルス

コロナ禍3年目、家庭や学校現場から子どもたちの異変について心配する声が相次いでいます。「自傷する子や『死にたい』と訴える子など学校だけで抱えきれない例が増えている」と訴える教育関係者も。しかし子どもの心を診る児童精神科は全国的に不足しており、初診は数か月待ちのケースも少なくありません。児童精神科病棟のルポ、学校現場や医療現場の新しい取り組みなどから、子どもにとって必要な支援について考えました。#君の声が聴きたい プロジェクト参加番組

出演者

  • 髙橋 聡美さん (中央大学客員研究員)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

いま子どもの心に何が 児童精神科の現場は

千葉県にある国立病院。中学生以下の子どもを専門に診る児童精神科があります。

朝10時。電話が一斉に鳴り始めます。この日は月に一度の初診の受付日です。わずか30分で1か月分の枠が埋まりました。

日本では、子どもの心を診る専門医や病院が全国的に不足しているといわれています。45床あるこの児童精神科病棟も、常に満床状態。緊急時には大人の病棟を借りています。摂食障害、自傷行為など命に危険がある子どもや家から離れた環境での治療が必要な子どもが入院しています。

児童精神科医の宇佐美政英さんです。コロナ禍以降、10代の摂食障害の患者が急増したといいます。

児童精神科 診療科長 宇佐美政英さん
「(この病院では)3倍ですね。摂食障害の数が。3倍くると、相当大変です」

摂食障害は、体重や体型への強いこだわりから必要な量の食事を取れなくなる病気です。栄養状態が悪化し、生命に深刻な影響をもたらすこともあります。

この日も、摂食障害の治療を続けている中学生が診察に訪れました。

宇佐美政英さん
「やせてないの?」
中学生
「うん」
宇佐美政英さん
「食事も」
中学生
「食べてるよね」

病院を初めて受診した時、体重は20キロ台と危険な状態でした。体の回復だけでなく、体重が増えることや食べることへの不安を克服するまで2年以上かかりました。

宇佐美政英さん
「摂食障害の子たちは、すごく真面目で競いやすい子たちが多い。ちゃんとやらなきゃという、この先の見えない世界にすごくそういう気持ちに拍車がかかるんじゃないかと思います」

今も数十名の子どもが入院を待っています。

この日は、緊急性の高い患者を検討する会議が行われていました。

医師
「(患者の)リスカがもうすごくて」
宇佐美政英さん
「早めに(病棟に)入れたほうがいい」

会議の最中、地域のクリニックから電話が。緊急で受け入れてほしいという要請です。

医師
「(受診を)早めてほしいという電話があって」
宇佐美政英さん
「病棟もいっぱいですし…」

支援が必要な子どもたちに十分応えられていない状況に、宇佐美医師は危機感を強めています。

教師から戸惑いの声も

学校現場からも子どもたちの心の異変を心配する声が上がっています。

学校での子どもの心理を研究する河村茂雄さんです。

河村さんが開発し、全国600近くの自治体が参加する心理テストQUでコロナの前後で結果がどう変化したのか分析を進めています。すると、子どもの孤立感を示す数値の増加が見えてきたといいます。

早稲田大学 教育・総合科学学術院教授 河村茂雄さん
「休み時間に一人でいるとか、あと友達の輪に入れないとか、そんな項目です」

河村さんの元には、これまでにない子どもの様子に戸惑う教師から相談が相次いでいます。

「漠然とした孤独感が増えてきています」
「静かに悩み、静かにフェードアウトしていきます」
河村茂雄さん
「全国の自治体から問い合わせがあって、(教員から見て)つらいことが何もないのに何となくふっと学校に来なくなる、こういう子が増えている。意欲が落ちるとか、無気力になってくるとか、実存的な満足感が感じられない。これは大きな問題だと思います」

「娘をどう支えれば…」

今回、小学校高学年の娘を持つ保護者が、コロナ禍で徐々に変わっていった娘の様子について語ってくれました。

保護者
「(マスクで)目だけしか出てないから、(友達が)本当に笑ってくれているのか、笑っていないのか分からない。いつも一人でいるって話をしてて、そこら辺からやっぱり『大丈夫』と言いつつも体の不調が出たり」

最初はそれほど深刻に見えなかったものの、2021年末から「死にたい」と口にし始めました。さらに自傷行為を思わせる絵を頻繁に描くようになりました。

保護者
「私はもう動揺してしまって、どうすればいいのか分からない状態で」
取材班
「死にたい気持ちがどうして出るのかに対して(娘さんは)なにか?」
保護者
「『分からない』しか言わないですね、いまだに」

半年待った末に児童精神科を受診。今も治療を続けています。

きこえますか? 子どもの心のSOS

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
家庭や学校など、さまざまな現場で聞こえてくる子どもたちのSOS。
NHKの「君の声が聴きたい」プロジェクトには多くの声が寄せられています。少しご紹介します。

「子どもの小さな変化に気付いてほしいです。少し話を聞いてくれるだけでも楽になれるから」(14歳)
「自分の心を殺さない学校、社会にいたい」(10歳)

きょうのゲストは、子どもの心の問題が専門で毎年全国70校以上の学校に足を運んでいる髙橋聡美さんです。

本当に切迫した切実な状況にあるわけですが、ふだん実際に子どもたちと接していて、コロナ禍の3年目の今の状況をどのように感じていますか。

スタジオゲスト
髙橋 聡美さん (中央大学客員研究員)
毎年全国70校以上の学校に足を運び 現場の状況に詳しい

髙橋さん:
まずこれは、急に起きた問題というより、元々あった不登校や自殺の増加といった問題が、コロナ禍でより悪化したというような感じでいます。あと、やはり3年間に及ぶ長期的なスパンなので、そこでふんばりが利かなくなってきたのかなという感じがしています。

桑子:
コロナ禍が長引いていく中で、特にどういったことが子どもたちに影響していると感じていますか。

髙橋さん:
いろんな要素があって一つには絞れないと思うのですが、複合的に起きているのだと思います。例えば楽しみにしていた修学旅行が中止になったり、あとは自分の力が発揮できる文化祭とか運動会とかそういうものがなくなったり、部活動がなくなったり、試合がなくなったり。そういう自分らしさを発見できるとか、自分らしさを発揮できる場所をことごとく失ってきたのかなと思っています。

桑子:
一つの行事といっても、大人にとってと子どもにとってはやはり違うものですか。

髙橋さん:
中学の間や高校の間でしかできないことがあるので、そういう意味では大人のイベントと子どものイベントというのは意味合いが違うのかなと感じています。

桑子:
心のケアが必要な子どもたち。いま、どう支えられているのか見ていきたいと思います。

まず、医療の現場です。希望してもすぐに診てもらえないなど、非常にひっ迫しています。一方、地域には、行政のさまざまな支援機関や支援団体があるほか、多くの学校では子どもの心のケアを専門に行う「スクールカウンセラー」が週に1回程度配置されるようになっています。

髙橋さん、こういったスクールカウンセラーも含めてニーズに応えられていると見ていますか。

髙橋さん:
実は、スクールカウンセラーの配置は地域格差がすごくありまして、2~3か月に1回しかスクールカウンセラーが来ないという学校も実際にあります。なので、スクールカウンセラーに関しては地域差があるということと、さまざまな専門職のマンパワーが日本全体的に不足している感じはしています。

桑子:
そうなると、学校の教員や家庭の保護者に大きく寄りかかってしまうような状況なのかもしれないですね。現場ではどんな声がありますか。

髙橋さん:
家庭も、コロナ禍でさまざまな行動制限があったり、子育てのお手伝いがしてもらえなくて孤立してしまっていたり、学校の先生方もふだんの業務にプラスしてコロナ対策があったり、急なカリキュラムの変更で対応に追われていたり、子どもを支える家庭と学校がすごくひっ迫している感じはしています。

桑子:
余裕がない状況の中で、保護者や先生もサポートしながら子どもたちを支えるという新たな仕組み作りが始まっています。

毎日子どものそばに スクールカウンセラー

名古屋市にある中学校では、毎朝校門で子どもたちを出迎えているスクールカウンセラーがいます。

臨床心理士の資格を持つ吉村朋子さんです。平日は毎日この学校で勤務しています。

名古屋市教育委員会では、市内すべての公立中学校に常勤のスクールカウンセラーを配置。全国でも珍しい取り組みです。

授業中の教室にも入っていき、生徒の様子を見ています。。

吉村朋子さん
「その子がどんな子か分かるので、(先生から)"この子心配なんです"と言われたときに、"あの子、ああいう子だよね"というのを理解できるので」

様子が気になる生徒にはすぐに声をかけます。

吉村朋子さん
「あたまパンクしそう?」
生徒
「あたまの中がぐるぐる」
吉村朋子さん
「ぐるぐるいってる?そうだね、ちょっと静かなところ行ったら落ち着くかな。行ける?」

保健室まで生徒を見送ったあと、こんどは教員に呼び止められました。

教員
「先生に相談したいんですけど、いま大丈夫?」
吉村朋子さん
「大丈夫」
教員
「どうしようかな」
吉村朋子さん
「『なんとかしてほしいと思ってるの?それとも聞いてほしいだけ?』どっちだろうみたいなのは聞いてもいいですね。『よく頑張ってるの分かったよ』と(伝えても)いいですね」

授業や部活で忙しい中、生徒の心のケアまで引き受けてきた教員たちの負担が減りました。

吉村朋子さん
「なんかいつもより元気がないなとか、いつも3人で登校しているのに今日だけ2人だなとか、ちょっとした変化にも毎日いると気づけるので、そこでアプローチができるというか未然防止ができる」

さらに名古屋市教育委員会ではスクールカウンセラーたちを週に一度地域ごとに集め、対応が難しいケースについて全員で話し合います。

スクールカウンセラー
「リストカットをやっているお子さんでもあったので、傷の様子をちょっと確認して最近いつやったという話をしました」
名古屋市教育委員会主任カウンセラー 阪口裕樹さん
「あんまり無理に聞き出すということは避けてもらうという形で先生にお願いして」

深刻なケースを学校や一人のカウンセラーだけに抱え込ませないことが、早期の支援につながるといいます。

阪口裕樹さん
「自傷行為だったり『死にたい』とか学校だけでは抱えきれない、そういうところをチームでサポートしながら即座に適切な対応に入れるというのはスピード感があるかなと思います」

子どもの日常を支える 訪問看護で心のケア

医療現場でも新たな取り組みが始まっています。

町を自転車で飛び回っているのは看護師。心のケアが必要な子どもの自宅を訪ねる「訪問看護」です。

ある男の子は週に1回訪問。心の状態を見守り、服薬の支援も行います。

看護師
「頓服は最近使ってる?」
男の子
「もう使っていない、腹減るから。1か月以上使っていない」
母親
「夜よくうなされて泣いていると相談したりとか、心強いですね」

看護師を派遣しているのは子どもに特化した精神科の訪問看護ステーション。2021年4月に開業しました。

医師の依頼を受け、ステーションの看護師や作業療法士が心のケアが必要な子を訪ねます。見ているのは80人程。自傷行為や発達障害など、さまざまなケースの子どもたちです。

代表の岡琢哉医師は、子どもを支えるには病院だけに頼らない仕組みが必要だと考えてきました。

児童精神科医 岡琢哉さん
「子どものメンタルヘルスの問題は、短期間で薬を飲んだらスパッと治るものではないので、ゆっくり時間をかけてやっていく。訪問で生活の場でやっていく方が適しているのかな」

子どもの日常に入り込む訪問看護。独自の強みも見えてきています。

この日に訪ねたのは、小学校高学年の自閉スペクトラム症の男の子。コロナ禍で不安感が強まり、外出も難しかったため、1年半前に訪問が始まりました。子どものふだんの様子を継続的に見ることで、ちょっとした心の変化に気付けます。

作業療法士
「(男の子とテレビゲームをしながら)負けるとイライラしない?」
男の子
「イライラ…する」
作業療法士
「それでも大丈夫なんだ」
男の子
「自分がイライラした分、相手をイライラさせればいい」
作業療法士
「なんちゅう前向きさだ。なるほどな、だいぶ心境変わってきているな」
取材班
「渡辺さん(作業療法士)はどんな人?」
男の子
「なんか、ちょっとのばかと、ちょっとのやさしさを詰め込んだような、生き物だった気がする」

訪問では親の状況にも気を配ります。家庭全体をサポートし、子どもの回復を後押しします。

母親
「(コロナ禍で)すごく不安感とか、家族の中でもそれが高まってしまって。本当にありがたいです。一緒に子育てをしてもらっている感じで」
岡琢哉さん
「子どもの心っていうと子どものことだけにフォーカスが当たるんですけど、子どもの周りにいろんな大人がいて、その外に社会があって子どもたちに関わっていくので、子どもの心も家族の心も一緒に診ていける。そういったところが、医療者がステーションで訪問で行く大きな意味かなと思っています」

子どもの心のSOS 大人はどうすれば?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
「訪問看護」や「常勤のスクールカウンセラー」、こういった方々が近くにいるとどんなに心強いかと思いましたが、髙橋さんはこういった方々の存在をどういうふうに考えていますか。

髙橋さん:
まずスクールカウンセラーだと、1対1でがっちりお話を聞いてあげられるという意味では、すごく大事な関わり方だなと思っています。先ほどスクールカウンセラーの事例も出ましたが、ああいうふうに先生方の相談に乗ってもらえるなど、いろんな活用ができるのですが、なかなか発揮しきれていないかなというところがあると思います。町の中にいる訪問看護の人たちだったり、保健師さんだったり、そういう人たちの人材活用というのもまだまだ活用の余地があるのかなと思っています。

桑子:
新たに生み出すのではなく、今ある人たちでもできることがあるのではないかと。

髙橋さん:
そうですね。もう1回整理してもらいたいなと思います。

桑子:
先ほどご紹介した声の中に、「大人にこうしてほしい」という声も多く寄せられています。

「『なんでなんで』と問い詰めないでほしい」(14歳)
「子どものつらさ、嫌なことについてもっと声を聞いてほしい」(10歳)

自分が今つらいとか、死にたいなどの声を上げてくれた時に、大人はどう答えたらいいでしょうか。

髙橋さん:
どうしても、励ましたりアドバイスをしたり、あと自分の体験談を話したりということをやりがちなので、まずは「そういう気持ちがあるんだね」、「つらい気持ちがあるんだね」とまるっと受け止めるということをやってもらいたいなと思います。

桑子:
まるっと受け止める、その気持ちはあるかもしれないのですが、自分の物差しがある以上なかなか難しかったりもしますよね。

髙橋さん:
そうですよね。どうしても「今どきの子どもたちは打たれ弱い」とか、そういう意見もいろんなところから聞くのですが、今の子どもたちはネット社会の中で大量の情報にさらされていて、ものすごいスピードで拡散されていて、その中でバッシングがあったり、ひぼう中傷があったり、とてもハードな社会を生きているなと私自身は思っています。

桑子:
大人ですらこんなに傷つくのに、子どもならどれだけ傷ついてしまうだろうと思いますよね。

髙橋さん:
そうですね。すごく頑張っているし、ふんばっているなということを感じているので、私たちの物差しとか経験からアドバイスをするのではなくて、まずは「そういう感じなんだね」、「そういう気持ちなんだね」とひたすら寄り添う。そういうことがまず大事なのかなと考えています。

桑子:
最後に、しんどいなどの気持ちを抱えている子どもやご家族の方々に、どんな言葉を伝えたいですか。

髙橋さん:
子どもや保護者、学校の先生もそうですが、「助けて」となかなか言えていないのかなという感じがしています。それは「自分がちゃんとできないからだ」とか、「自分のせいだ」とか自分の責任に感じていて、これは誰かに助けを求めるべきじゃないというような考えに至ってしまっていることがあるので、大人も子どもも誰かに相談するというのをまずはやってもらいたいなと感じます。

桑子:
自分が悩んでいる時に「今、自分のせいにしているな」と思うことが、一つきっかけになるということですか。

髙橋さん:
そうですね。「自分を責めているな」と思った時には一つのサインなので、「これは誰かに話を聞いてもらったほうがいいな」と感じてもらいたいし、踏ん張っている人とか頑張っている人こそ誰かに弱音を吐きながら頼りながら、サポートを受けながらやっていってほしいなと思います。やっぱり、子どもを支える人が誰かに支えられているということが非常に大事ではないかなと私自身は思っています。

桑子:
それが子どもの心の健康にもつながっていくということですよね。

髙橋さん:
まずはそういう子どもたちを支える家庭とか教育者、そういう人たちが誰かに支えられるということが大事だと思います。

桑子:
ありがとうございます。子どものSOSに応えるために大人ができることは何なのか。最後は現場からのメッセージをお聞きいただきます。

子どもを支える 医師からのメッセージ

10月。福島で児童精神科の病棟が新たにオープンしました。

副院長 児童精神科医 井上祐紀さん
「児童思春期の患者さんたちが治療していただくコナラ病棟です。(くまのぬいぐるみが)かわいいですよね、結構人気者です」

全部で20床。子どもが落ち着いて回復できるよう、医師が設計から関わりました。しかしすでに診療は4か月待ちです。

井上祐紀さん
「本当にギリギリまで普通に学校に行って、テストも受けて、部活動もやって、本当にギリギリまで"普通"をある意味装っている。"普通"を保っている子たちが、やっぱり多いと思います。子どもが本当はどんなこと感じているのかな?想像してくれる大人が増えてくれると、子どもたちは少し助けられるきっかけを作れるかもしれないですよね」
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