電気代値上げ、節電、脱炭素・・・どうなる“原発活用”の行方

12月から始まる“冬の節電要請”、相次ぐ電気料金の値上げ、実現が急がれる脱炭素社会・・・。エネルギーをめぐる状況が激変する今、活発化しているのが“原発活用”に向けた動きです。政府は、原発事故のあと繰り返し「想定しない」と説明してきた原発の新増設について、年末までに検討すると発表。「既存原発の再稼働」「運転期間の延長」などはどうなるのか?私たちの暮らしに直結するエネルギーの今後は?最前線からの報告。
出演者
- 山口 彰さん (原子力安全研究協会理事)
- 大島 堅一さん (龍谷大学政策学部教授)
- 桑子 真帆 (キャスター)
※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。
電気代値上げ、節電… どうなる?原発活用
桑子 真帆キャスター:
エネルギーを巡って、さまざまな疑問や不安を持たれている方、多いのではないでしょうか。
「電気代、どこまで上がるの?」「また節電要請。電力、大丈夫なの?」
こうした声と深く関係しているのが、原発をどうするのかという問題です。

日本の発電量の内訳を見ますと、いま原子力は6.9%です。事故のあと、原発への依存度が減る一方で、火力に多くを頼る状況が続いています。この火力の燃料がいま高騰し、電気代の値上げにつながっているわけですが、目の前の課題に対応しようと政府が打ち出したのが原発の「再稼働」の加速です。
どのような効果が見込まれるのか。そこに課題はないのか。取材しました。
電気代は?安全は? "原発再稼働"の行方
再稼働に向けて準備が進む、東京電力・柏崎刈羽原子力発電所。

6号機と7号機が2017年に審査に合格し、現在安全対策工事の完了に向けて最終確認が行われています。
原発事故の当事者である東京電力。重大事故を想定した訓練は年間120日。10年以上運転を停止しているため運転員の4割近くが原発を動かした経験がなく、技術を高めようとしています。
「運転員についてはシミュレーターの訓練だけでなく、火力発電所に派遣して動いている設備を体験することもやっている」

原発事故のあと再稼働した原発は10基。政府は2023年の夏以降、さらに7基の再稼働を目指すとしています。背景にあるのは、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた燃料費の高騰です。10月のLNG・液化天然ガスの輸入価格は2年前の5倍以上。専門家は、しばらく高値の水準が続くと見ています。
「化石エネルギー価格が上昇しているので、原子力を再稼働させれば、その分(電力)各社の経営は楽になるという関係にある」

大手電力会社の大半は、2022年度上半期の決算で赤字を計上。東京電力は最大の1,400億円余りの赤字となっています。
2023年度の料金改定(企業向け料金)には、柏崎刈羽原発7号機の再稼働を織り込み、年間2,000億円ほどの収支改善効果を見込んでいます。
「具体的に再稼働の時期をこの時期に目指せるということではないが、最大限、国難を乗り切るために(再稼働を)織り込んだと」
政府は、審査に合格した原発17基全てを動かした場合、海外から調達するLNG、およそ1.6兆円分を節約できるとしています。
再稼働にはさまざまな課題が
しかし、柏崎刈羽原発の再稼働に向けては大きな課題があります。その一つが「安全性の確保」です。

海水を通す配管におよそ10年ぶりに通水したところ、腐食が原因と見られる穴を確認。長期間運転が停止していたことで新たな不具合が見つかっています。
さらに2021年、テロ対策上の問題が相次いで明らかになり、原子力規制委員会から事実上の"運転禁止命令"を受けました。今も検査が続いています。
2022年9月まで原子力規制委員会の委員長を務めた更田豊志さん。長年停止する原発の再稼働には、細心の注意を払った安全対策が必要だと指摘します。

「そもそも、いったん動かして長期間止めて再び動かすことが建設や設計の段階で想定されていない。なかなか想像を働かせて細部までチェックしないと、どうしてもそういうこと(不具合)は起きるだろう。新設(の原発)を初めて動かすときと同様ないし、それ以上の注意深さが求められる」
もう一つの課題が「地元の理解」を得られるかです。
福島第一原発の事故前から続いている住民との会合で、東京電力は再稼働に向けた取り組みの状況を説明しました。

「現在、一つ一つ着実に改善を進め、一日も早く皆様にご信頼いただける発電所の実現を目指しているところ。原子力を再稼働し、エネルギーの需給状況を安定させることが当社の責務」
地元の住民はどのように受け止めているのか。会合に参加した一人、地区の町内会長を務める小野敏夫さんは、原発を再稼働し、地域の雇用を守るべきだと考えています。

「(地区の)1割ぐらいの人たちが原子力発電所に勤務している。人口減をとにかく食い止めることに応えていきたいし、原子力発電所があることは非常に大事なこと」
地元の市民団体で活動している竹内英子さんは、原発事故のあとも不祥事を繰り返す東京電力に再稼働をする資格はないと訴えます。

「これだけ不祥事を起こしている会社に核が管理できますかと、常に問いたい。柏崎刈羽原発は、もう再稼働できるような原発じゃないと私としては伝えていきたい」
再稼働の是非は最終的に地元自治体が判断しますが、新潟県は「まだ議論する段階にない」としています。
再稼働の加速で電気代の値上げは止まるのか。リスクはないのか。このあと徹底検証します。
原発再稼働で値上げは止まるのか リスクはないのか
<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、原発に関する政策について議論している経済産業省の審議会で委員長を務める山口彰さん。そして、原子力に批判的な立場から検証する市民団体の代表・大島堅一さんです。お二方のお話を聞いて、私たちも理解を深めていきたいと思います。

まず、そもそも「原発を再稼働して大丈夫なのか」という疑問ですが、山口さんは「厳しい規制基準はクリアしている。高い安全性も確保している」ということですが、これはどう確保しているのか教えてください。
山口 彰さん (原子力安全研究協会理事)
"原発活用"の立場 経産省 原子力小委員会 委員長
山口さん:
これまで福島第一原子力発電所の事故から11年余り、安全神話からの脱却ということを常に念頭に置いて安全向上に努めていったわけです。そこで新しい規制基準というものができたわけですが技術的な観点、それから制度的な観点から大きく前進していると思っています。
まず技術的な観点ですが、これまでの安全基準に加えて海外でのいろいろな規制要求を徹底的に調べました。さらに福島第一原子力発電所事故の調査報告書で述べられた教訓をすべて反映いたしました。そのようにしてできた規制基準は、高いレベルの安全を達成するに十分なものと考えてます。
それに加えて、電力会社が安全確保の試みを継続して実施できるような仕組み作りはいろんな形で進められました。ですから、安全対策・安全確保については多くの努力が重ねられてきて高い水準の安全が実現できていると考えています。
桑子:
一方、大島さんは「安全とは言い切れない。再稼働は不要」だというご意見ですね。
大島 堅一さん (龍谷大学政策学部教授)
"原発活用"に否定的 原子力市民員会 座長
大島さん:
はい。「原発は再稼働して大丈夫なのか」と聞かれると、やはりさまざまなトラブルが起こるほか、人々にとっては特に原子力発電所の周辺地域にお住まいの方々にとっては原発事故が起きた時に「避難」できるのかという話になります。「避難」は規制基準の対象になっていないので、まださまざまな不備があると考えています。東海第二原発の訴訟ではそのことが重大な問題とされて、原告側、住民側が勝訴ということになりました。
桑子:
電力の予備率についてはどうでしょうか。
大島さん:
2023年1月の冬が厳しいと言われていますが、対策が進みまして10年に一度の非常に寒い冬であっても十分な予備率が確保されてますと。4.1~7.9%確保されていて、安定供給に必要なものが必要最低限の3%を確保しているということになります。これは最も寒い冬であってもこの数字ということなので、安定供給については原発の再稼働がなくても大丈夫ということになります。
桑子:
仮に再稼働をして「電気代が本当に安くなるのか」という疑問についても伺いました。

山口さんは「安くなるだけでなく安定供給もできる」。一方の大島さんは「仮に動いてもほとんど安くならない」。大島さんから伺っていきます。
大島さん:
電力各社が30%ぐらい電気料金を値上げをしますとアナウンスしていますが、すでに再稼働を見込んで入れ込んでいますので、再稼働をしたとしても下がることはありません。また、もし本当に動いたとしても、ごくわずかな引き下げ率になると考えます。
桑子:
一方、山口さんは安くなるという考えなんですね。
山口さん:
はい。現在、日本は化石燃料で20兆円程度輸入しているわけです。これが70%を占める火力発電に使われています。これを原子力発電で代替できることが実現すれば、間違いなく安くなります。
今、電気料金が高い電力会社はすべて原子力発電所が再稼働できていない会社ということになります。したがって、まず安くなるということが言えます。
また、電気料金だけ考えていていいのか。われわれの生活に必要な電気というものは何かが起きても電気料金が簡単に上下しない。長期にわたって安定的に安い電気が供給される視点も合わせて、われわれは考える必要があります。
桑子:
今の目の前のエネルギーの問題だけでなく、私たちはもっと先のことも考えていかないといけないんですよね。国は、日本は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目指しています。そのために政府が打ち出したのが、運転時に二酸化炭素を排出しない原発の「運転期間の延長」と「新増設」です。
脱炭素とエネルギー どうなる?原発の今後
最長60年と定められている原発の運転期間。今のままだと運転可能な原発は2050年には3分の2に。2060年になると4分の1に減少します。

そのため、国は再稼働に向けた審査対応などで停止した期間を除外。その分を上乗せして実質的に60年を超えて運転できるようにする案を示しています。

さらに、将来の脱炭素化のけん引役と位置づけるのが「次世代型の原発」です。革新軽水炉など、現在の原発よりも安全性やコスト面で優れているとされています。国は、廃炉を決めた原発を対象に建て替えることを念頭に置いています。
原発が立地する自治体ではどう受け止められているのか。
全国で最も多くの原発を抱える福井県、立地自治体の一つ美浜町です。

関西電力・美浜原発は3号機が再稼働していますが、1号機、2号機は安全対策にかかるコストなどの理由で廃炉が決定。
関西電力は新増設の具体的な計画はないとしていますが、その候補地として美浜町がふさわしいと考える人がいます。3年前まで20年間にわたり町長を務めていた山口治太郎さんです。

2010年から11年にかけて、美浜町では老朽化した1号機にかわる新たな原発をつくるため関西電力による地質調査が実施されていました。その後、福島第一原発の事故を受けて調査は中断。山口さんは今こそ調査を再開し、新たな原発の建設につなげるべきだと考えています。
「新しい炉をつくっていくという理解のもとで関西電力やっとるし、県も町も、これ議会も含めてね、そういう方向で進んでいこうというのは理解しておったわけですから。美浜町が新しい炉を作っていく候補地に一番に挙がると。それで当然かなと思いますけどね」
新増設に期待する声は他の立地自治体からも上がっています。全国の立地自治体の議会から意見を集めた報告書には、複数の議会から新増設に前向きな意見が報告されました。
技術を維持するためにも原発の新増設が必要だとする人もいます。
美浜町で建設会社を経営する国川晃さんは、関西電力の協力企業として原子炉のフタの開閉などに使う特殊なクレーンの操縦を担っています。

40年以上前から福井県内の原発の建設に携わってきた国川さんの会社。しかし原発事故後、新規建設はなくなり、建設に携わった経験がある社員は60人中5人です。
「僕らからすると正直未知の世界ですし、職人さんも含め、例えばメーカーさんの技術者さんとか設計者さんも同じだと思うんですけど、もう新増設がずっとないので、経験がまずないんですよね。今の状況が続いたりすると、核となって実際の工事をする人材が足らなくなるやろなって思いますね」
一方で、立地自治体の中には新増設は時期尚早だと訴える声もあります。
福島第一原発が立地する大熊町の町議会議長、吉岡健太郎さんです。

町民の多くが原発に関わる仕事に携わり、事故前はおよそ1万1,000人が暮らしていた大熊町。しかし、原発事故によって今も町民の大部分が避難を続けています。吉岡さんは、原発事故の検証や復興が道半ばの状況で新増設に踏み出そうとすることに疑問を抱いています。
「町民の気持ちっていうのも、なかなか難しいところありますよ。事故前は仕事の方に従事をしてずいぶんお世話になってたって気持ちと、ただ、そういう気持ちも持ちながら、この原子力災害、こちらの検証がはっきり終わらない、まだ廃炉の工程が示されないうちに新設・増設っていうのは時期尚早だと考えますので、もう一度後ろを振り返って検証いただきたいなと考えています」
「脱炭素」実現に原発は必要か
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
国は、原発事故後想定していないと繰り返してきた新増設に今回初めて踏み込みました。ここから考えていきたいのが、「脱炭素社会」の実現に向けて原発が今後どの程度必要なのかという疑問です。
山口さんは「原発は30%ほど必要」。大島さんは「原発は不要。他の策で脱炭素を実現できる」ということで、まず大島さんからお願いします。

大島さん:
脱炭素実現に当たって、原子力に依存して実現することももちろんできると思います。けれども、再エネ100%で実現することもできます。再エネは今最も安い電源になっていますし、危険性もなく、また安定的に運用できるということでドイツでは2035年に100%を目指しています。日本も原発事故を踏まえて100%を目指すべきだと思っています。
桑子:
再生可能エネルギーの不安定さという懸念はされていないですか。
大島さん:
再生可能エネルギーというのは自然変動性電源ですが、自然変動性電源を組み合わせて電力を安定的に供給するということは可能ですし、他国でもそのように運用しています。
桑子:
一方、山口さんは原発は30%ほど必要なのではないかと。
山口さん:
脱炭素、それからエネルギーの安定供給、この2つを両立して実現するためにはあらゆるエネルギー源をしっかりと活用していく。よい組み合わせを追求していくことが大事です。
現実に、2011年以前には原子力発電は3割ぐらい。天然ガスも3割ぐらい。石炭・石油が25%程度。残りの15%程度が水力・再生可能エネルギーでした。これは極めてバランスのよい構成で、お互いがそれぞれの弱みを補い合うという構成だったと思います。まさにこの点がポイントで、ある変動電源、あるいは海外に依存する電源、これは一定水準の量を超えないようにうまく組み合わせるということが大事です。
フランスでは原子力の発電所を建設するという方針を出しましたが、これはいろいろな検討を行った結果、2050年は原子力50%、再生可能エネルギー50%、このシナリオが最も適していると結論づけたということになります。
桑子:
この原発に関して、次世代の原子炉の開発や建設を検討する方針について、政府が示したことをどう思うかNHKの世論調査で聞いています。

その結果、賛成が48%、反対32%という結果になりました。ほぼ半数の方が新たな検討に賛成している。大島さんはどのように考えますか。
大島さん:
次世代というと、新しくてスマートな原発だと思われるかもしれません。しかし、実際には新しい型の原発を導入した国では建設期間が延びたり、あるいはコストが何倍にもなるなど、コストや建設期間の面で大変な問題になっています。ですので新型炉開発、革新炉開発というのも非常に危ういことだに思っています。
桑子:
フランスやフィンランドでは、それぞれコストがかかったり、計画よりも遅れたりしていると。こういったコスト、それから計画よりも遅れてしまうことについて山口さんはどういうふうに考えますか。
山口さん:
その当時、ヨーロッパなどではしばらく原子力発電所の新設の経験がありませんでした。したがってサプライチェーンが劣化する。あるいは建設のノウハウが抜け落ちてしまう。そういうことで問題が生じたわけです。
現在、各国ともその事業の予見性を確保するためにさまざまな政策的な手段、国としてのエネルギー確保の問題、国民的議論を踏まえた上でそういう方針を打ち出している。それによって克服できると考えています。
桑子:
国民的議論という言葉がありましたが、大島さん、いかがですか。
大島さん:
私もとても大事だと思います。原発を今から新増設するとなると、建設期間は10年、20年かかり、60年以上運転するとなると100年の事業になってしまいます。簡単に言えば22世紀、23世紀をも縛るような電源です。そういった場合に、国民はこういった原子力に100年、200年依存するのかということがポイントです。
この数か月前まで、新増設しないと政府は言ってきました。たった3か月でこれを大きく転換するというのはやはり適切ではないと思います。やはり国民的な議論を踏まえて慎重に議論すべきだと考えます。
桑子:
今、電力を巡る切実な状況の中で政府は原発活用にかじを切ろうとしています。一方で原発事故の検証というのは終わっていません。そもそも日本のエネルギーに原発が必要なのか。この点も含めて議論を深める必要があります。
