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2022年11月29日(火)

ニッポンの温泉に異変!? 湯の“枯渇”を防ぐには

ニッポンの温泉に異変!? 湯の“枯渇”を防ぐには

各地で増え続ける日帰り温泉入浴施設。今や7800施設に上る一方、各地の温泉では、湯量の減少やお湯の温度の低下といった“異変”が報告されています。地下1000mから温泉をくみ上げてきた青森の入浴施設では十分な湯量が得られない状況に陥り、廃業を決断。さらに大分県別府市では、市内の温泉を調査したところ、広い範囲で湯温の低下が起きる可能性も明らかに。わき出る温泉を使いすぎず上手に利用するための策に迫りました。

出演者

  • 滝沢 英夫さん (中央温泉研究所 研究部長)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

住宅街にも温泉が! 可能にした掘削技術

東京都心から電車で30分、人口増加率が全国1位を記録した千葉県流山市。2022年4月、新たな街のシンボルとして誕生したのは天然温泉が自慢の入浴施設です。

地下1,200メートルからくみ上げられるのはナトリウム塩化物泉。保湿・保温効果があるといいます。常連客の多くは近隣の住民たちです。

入浴施設 支配人
「天然温泉というのはステータスですから、沸かし湯だけでは物足りないのはお客さんも感じているのかなと」

こうした日帰り入浴施設は全国におよそ7,800軒。この30年で2.5倍に増えました。

大幅な増加を支えてきたのは、ある技術です。

地下1,000メートル以上の深さにある地下水をくみ上げる「大深度掘削」。特殊なドリルで地下を掘り進め、井戸を作ります。

地下水の温度は100メートル掘るたびに2度から3度上がるといわれ、1,000メートルを越えれば40度前後の水が存在しています。その地下水をポンプを利用し、人工的にくみ上げる温泉は「大深度掘削泉」と呼ばれています。

今、掘削を行う業者にはコロナ後の需要を見越した依頼が次々と舞い込んでいます。

掘削業者営業部長 山本大さん
「リゾートホテルですとか、海外資本が温泉を掘るという引き合いも非常に多くなっています。温泉をつけると、当然集客にも関わってくる」

広がる"大深度掘削泉" 温泉に思わぬ異変が

全国に広がる「大深度掘削泉」。取材を進めると、一部の施設で思わぬ異変が起きていました。

青森県の八戸駅から徒歩10分の所にある入浴施設は、2022年5月に40年の歴史に幕を閉じました。施設を経営していた横田和広さんは、もうこれ以上お湯をくみ上げることができないと判断し、閉店を決めたといいます。

取材班
「これは?」
入浴施設 元経営者 横田和広さん
「源泉の井戸ですね。年々水位が下がって、ポンプを入れる場所がそれ以上深く入らないことが見えてきたので」

地下1,000メートルまで伸びる温泉の井戸。10年程前から水位が低下し始めたため、そのつどポンプの位置を下げて対応しましたが、2022年2月に限界に達したといいます。

横田和広さん
「決断するのは私なので、どこかで線を引かないと。寂しいですよね。皆さん、お風呂に入ってというのが生活の一部になっている人ばかりだと思う。申し訳ない」

環境省が作成した温泉保護に関するガイドラインで指摘されているのは、「大深度掘削泉」で過剰なくみ上げが数多くなっている実態です。

大深度掘削によってくみ上げられる地下水の多くは、太古の時代に取り込まれた海水や長い時間をかけて浸透した雨水といわれています。新たな地下水の浸透には100年を超える長い時間を必要とするため、温泉の需要に対し供給が追いつかないというのです。

ガイドラインの策定に携わった 板寺一洋さん
「10年、20年、30年と使っていくうちに、ある意味気がつかないうちになくなっていくということは十分あるんじゃないか。限られた資源だと考えるのが適切ではないか」

日本一の温泉地・別府 自噴がストップ

異変は、古くから続く有名な温泉地でも起きています。

源泉数・湧出量ともに日本一を誇る、大分県別府市。入浴施設が多い市内中心部にある天満温泉は、市街地で唯一100度以上の温泉が自然に湧き出る自噴泉です。別府を代表する源泉は入浴だけでなく、地域の人が食べ物をゆでたりするなど生活に利用されてきました。

しかし、16年前に自噴がストップ。その後、機械でくみ上げましたが従来の湯量は得られず、入浴以外での利用は禁止されました。

天満温泉元組合長 山内正治さん
「2年ぐらい前だと思います。くみあげる量が減ったから。量が少ないと入浴者が困るので」

市街地の温泉で起きた異変。その原因とは一体。

30年程前から調査を続ける温泉科学が専門の大沢信二教授が訪ねたのは、天満温泉から3キロ程離れた南立石地区。大沢さんは、郊外にあるこの地域に異変の原因があると指摘します。

京都大学 大沢信二教授
「あれが鶴見岳。鶴見岳の地下にはマグマだまりがあって、別府温泉の熱源になっている」

別府市は、鶴見岳を背景に別府湾に向けてなだらかに下る地形です。市街地の温泉の多くは、鶴見岳から南立石地区を経由して流れてくる高温の地下水によって支えられています。

しかし、高度経済成長期に南立石地区では大型ホテルや旅館が営業を開始。地下の熱水が大量にくみ上げられるようになりました。

このころから自然に湧き出る自噴泉は激減。現在では最盛期の3分の1になっています。

大沢さんは、かつて南立石地区で過剰に熱水が奪われたことが天満温泉の異変にもつながっていると考えています。

大沢信二教授
「高度経済成長期、1960年代に地下から温度の高い温泉を取り出すということが盛んに行われていた時期があって、その影響が数十年たって現れていると考えざるを得ない。最近になって現れたと考えています」

日本一の温泉地・別府 100年後 お湯の温度が…

熱水の減少は今後、市街地の温泉にさらなる打撃を与えると大沢さんは指摘します。少なくなった熱水の流れに冷たい地下水が混ざり込むことで、温泉の温度が低下するというのです。

これは、大沢さんが大分県と協力して作った市街地の温泉の温度予測です。現在40度から60度の温泉が湧き出している緑色のエリアが、100年後には20度から40度に低下。場合によっては、温泉の基準の一つである25度を下回ると示されたのです。

大沢信二教授
「温度が全体に低下していく。低地部が低温化していく。駅周辺部は温泉すら維持できないかもしれない。シミュレーションの結果が出た」

2022年4月。大分県は、南立石地区など鶴見岳に近い2つの地域で新規掘削の規制に踏み切りました。

大分県自然保護推進室 浜田みほ室長
「温泉があって当たり前と皆さん思われがちだと思うけども、温泉も限りある資源なので、将来にわたって使い続けていくために今いる私たちがきちっと注意をしていかないといけない」

温泉"枯渇"防ぐためには 表面化しにくい実態

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、長年全国の温泉を調査・分析してこられた滝沢英夫さんです。

温泉がなくなってしまうなんて考えたこともなかったのですが、どれぐらい深刻なことだと思いますか。

スタジオゲスト
滝沢 英夫さん (中央温泉研究所 研究部長)
長年全国各地で温泉の調査分析を行う

滝沢さん:
先ほどVTRにもありましたが、温泉地単位で規制をかけているのは大分県の別府であるとか、北海道の倶知安町、ニセコ地域ですね。こういったところがあります。

桑子:
開発が進んでいるところですね。

滝沢さん:
ただ、実は昭和の終わりから平成の初めにかけて竹下内閣で「ふるさと創生事業」というものが行われまして、この時に温泉地ではないところでいくつも温泉が開発されました。こういった温泉の中に枯渇化を見たような温泉もあったりして、全国で少し散見されるような状況になっています。

桑子:
実際に報告として上がってきているわけなんですよね。

滝沢さん:
はい。

桑子:
それぞれの温泉地では、どう現状を捉えているのでしょうか。番組では全国の源泉数、上位10の自治体に調査の実態を聞きました。

1位の大分県では5,102件のうち、33か所を月1回調査している。2位の鹿児島県では2,751件あるうち、8か所を常時、水位のみ調査しているなどという結果になりました。これを見てみますと限られた源泉でしか調査していなかったり、そもそも調査自体をしていないという県もあったわけです。

滝沢さん、なぜ調査が積極的に行われないのでしょうか。

滝沢さん:
基本的に各都道府県の温泉担当職員は数が限られています。それに対して源泉水が非常に膨大にあるので、人員的になかなか厳しい現状があります。

また、温泉に対して観光資源としての予算配分というのはかつてからされてきたのですが、資源保護の観点では予算配分をしてくれる都道府県があまりないというのが実情です。

桑子:
実際に報告している研究機関のようなものはあるのでしょうか。

滝沢さん:
あるにはあるのですが、かなり数が限られています。

桑子:
なかなか実態が見えにくいということになりますね。

滝沢さん:
公になってこないというところがあります。

桑子:
このまま調査が十分に行われていかないと、この先どうなってしまうのか。

温泉というのは基本的に地下水がもとになり、時間をかけて温められ、地上に温泉として湧き出てきます。このサイクルが自然に湧き出る「自噴泉」では、早くて数十年。地下1,000メートルを超えて掘削する「大深度掘削泉」は、岩盤が固いなどの理由で新たな水の供給はほとんどないといわれています。このまま温泉の過剰利用が続いてしまうと、枯渇のリスクがより高まるということになるわけです。

滝沢さん、こうしたリスク防ぐためにどうしていったらいいでしょうか。

滝沢さん:
都道府県によってはくみ上げの量の規制とか、新規源泉の掘削の本数を制限している都道府県があります。

例えば東京、大阪、群馬でもこういった規制を考えているのですが、規制が全国一律にあるわけではなく、さらにこういった規制というのは科学的な知見をもとに各地域で独自に決めなければいけないことですので。

桑子:
全国統一のというのはなかなか難しいのでしょうか。

滝沢さん:
はい。各地域で地質の状況とかが変わってきますので、統一ルールというよりは、その地域独自の規制というのを考えていかなければいけないということですね。

桑子:
その地域ごとの科学的な根拠をしっかり見ていく必要がある。そのために重要なのは、やはり現状をしっかり把握することですよね。

温泉守る最新技術 予想外の発見が…!

福島県にある二岐(ふたまた)温泉。標高800メートルの山中にある秘湯です。

川を眺めながらの温泉。切り傷などに効果があるという硫酸塩泉が自噴しています。

長年旅館を経営する佐藤好億さんは、最新のテクノロジーが温泉を支えているといいます。

旅館経営者 佐藤好億さん
「これがモニタリング装置そのものです。入ってきた温泉をこの機械を通すことで、いろんなデータが取れる」

国の研究機関やメーカーが共同で開発したモニタリング装置。従来モニタリングは事業者などが温度計やバケツを使って手作業で行うため、多くの労力がかかることが課題でした。

しかし、この装置は一度配管に取り付けてしまえば自動で湯量や温度、泉質に関わる成分量などを1分おきに計測することができます。さらにデータはネットを通じてサーバーにアップされ、リアルタイムで遠隔監視することも可能です。

8年前、全国に先駆けてこのモニタリングを始めた佐藤さん。湯量を確認することで、適正な利用量を保つことができています。

この装置の開発を行った産業技術総合研究所は、継続したモニタリングによって二岐温泉を保護するための貴重な情報が得られたといいます。

このデータは、2週間モニタリングをして得られたお湯の量の変化です。10月1日に急激に増えています。データに地域の降水量を重ね合わせると、湯量の増加と連動していることが明らかになりました。

雨が降ることで川の水量が多くなると、その圧力で温泉が押し出され湯量が増えます。つまり、川底から温泉が湧き出していることが分かったのです。

産業技術総合研究所 浅沼宏さん
「温泉の起源とか、その性質や状態まで分かるようになった。接続的に適正な量を採取する意味では非常に重要な意味をもっている」

旅館を経営する佐藤さんは、温泉が川底から湧き出ると分かったことで護岸工事などの開発は慎重に行うべきだと考えるようになりました。

佐藤好億さん
「小さなデータを取得する機械があって観察できれば、全然違います。ぜひ、そういう目線できちんとすべての源泉に、これがつけられる時代が来ることを望みます」

温泉"枯渇"防ぐには 求められる温泉の管理

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
モニタリングによって源泉のありか、それからどのように湧き出ているのかというメカニズムまで明らかになるわけですが、今後このモニタリングをどのように活用されていくべきだと考えていますか。

滝沢さん:
これまで温泉事業というのは経済的な面が重視されていまして、そもそも資源管理のためのモニタリング自体が行われていないとか、モニタリングは行っているけれどそれがしっかり解析されていない。

桑子:
それはどうしてなのでしょうか。

滝沢さん:
やはり研究機関が少ないことが主な原因になっています。さらにモニタリングで集められたデータというのは「泉温」であるとか「湧出量」のデータを含んでいますので、一部は資産情報に抵触することがありまして。

桑子:
資産ですか、どういうことでしょうか。

滝沢さん:
要するに温度が高い、もしくは量が多いという源泉はそれだけ優良な源泉です。価値のある源泉と判断ができます。例えば源泉を使っていろんな管理であるとか融資を受けるという時に、そういった情報が資産情報として扱われることもあります。

桑子:
資産として、価値があるものとしてみられると。

滝沢さん:
そうなると、そういった情報を一般の方に広く知らせるということが非常に難しくなってきます。知らせるということができないと、各源泉所有者が自分の源泉の状況は分かっていても、地域全体の資源の衰退とか、そういったことに気付かないまま状況が悪化していくことが起きてきます。

桑子:
今後は公開していくという方向にしたほうがいいですよね。

滝沢さん:
はい。もちろんそういった方向に進んでいって、皆さんに危機感を共有していただいて、資源保護の流れに移っていくのがいちばんだと思います。

桑子:
滝沢さんはこれから温泉を守るために2つ、大事なことがあるのではないかと指摘しています。

まず1つ目「集中管理」というものですが、たくさんある源泉を大きなタンクに1つにまとめて、複数ある場合もありますが、1つにまとめたものを旅館などに分配していくという仕組みだそうです。これはすでに実際に行われているところもあるわけですか。

滝沢さん:
はい。実は熱海やいろんな地域で、かつてから行われています。

桑子:
これにはどんなメリットがありますか。

滝沢さん:
皆さんが組合等を作って地域の温泉資源を共同で管理するという形が取れますので、資源保護の意識は高まりますし、更新もどんどん進んでいくということができています。

あと、最近集中管理の技術というのはどんどん進んでいまして、例えば北海道の洞爺湖温泉は資源量の制限を行いながらしっかりと供給を行うこともやっていまして、これを行うことで地域の温泉資源を守るということが実現できていると思います。

桑子:
1つ問題が起きた時の対処も楽かもしれないですね。

滝沢さん:
そうですね。例えば源泉が1本おかしくなったというときに、新たな源泉を掘るという時に当然掘削許可を取って掘らなければいけないですが、そういった流れも非常にスムーズに行きますので地域の温泉の安定供給ということに貢献できると思います。

桑子:
そして2つ目「地熱発電との共存」。温泉の蒸気や熱を使って地熱発電を行うわけですが、これとうまく共存することが大事だということですね。

滝沢さん:
別府地域でも温泉発電というものが盛んでして、小規模の地熱発電事業者がかなり多く出ています。

桑子:
今、国全体の流れとするとどういうことでしょうか。

滝沢さん:
国としても東日本大震災のあとに再生可能エネルギーの必要性というのを非常に重視していまして、その中でも特に「地熱発電」というものを今後も進めていこうということで取り組みを続けています。

桑子:
これをうまく共存すると、どういうことになるのでしょうか。

滝沢さん:
温泉の浴用であるとか、飲用に比べて発電というのは大量の熱水であるとか蒸気を必要としますので、温泉事業者の皆さんからすると非常に不安もあるということで地域でいろいろ問題が出ています。

そういった中でモニタリングということを重視していき、そのデータを皆さんで科学的に解析し、それを皆さんで共有していただく。こういったことによって温泉利用と地熱発電との共存ができ、地域の資源エネルギーを有効に活用できるということにつながっていくと思います。

桑子:
やはりここでもモニタリングが大事になってくるということですね。

滝沢さん:
いちばん大事です。

桑子:
みんなで温泉を管理するという時代に入ってきているようです。そして限りある資源であるということを私たちは認識しないといけません。

最後は、日本有数の温泉地、大分での新たな取り組みです。

貴重な別府の湯 世代を超えて受け継ぐ

別府市内の温泉街に新たにオープンする温泉ミュージアム。

売りは、雨水が地下にしみこみ温泉となる過程を体感するプロジェクションマッピングです。温泉がこの地域に恩恵をもたらしてきた歴史と、メカニズムを知ることができます。

この日の内覧会に来ていたのは、創業60年近いホテルを切り盛りするおかみ。温泉の貴重さを改めてかみしめていました。

おにやまホテル 上月明美さん
「これからいかに温泉を継続的に長く皆さんに癒していただける、それをこれから先、何世代も考えていかないといけない」

「湯水のごとく」ではなく、限られた資源としての温泉。お湯につかって思いを巡らせてみませんか。

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