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2022年11月22日(火)

いよいよドイツ戦 日本代表ベスト8への“秘策”

いよいよドイツ戦 日本代表ベスト8への“秘策”

いよいよFIFAワールドカップが開幕。日本は23日に強豪ドイツとの初戦を迎えます。初のベスト8入りをめざす日本の戦術は、粘り強い守備から攻撃へのすばやい切り替え。選手同士同じイメージを共有することで高度な連係プレーで点を奪おうという作戦です。最新のデータ分析の結果、日本とドイツはほぼ互角の力を持つという数値も。日本が初戦を制するカギとは?現地からの最新情報もまじえ日本代表の秘策を解き明かしました。

出演者

  • 早野 宏史さん (サッカー解説者)
  • 松井 大輔さん (サッカー選手・元日本代表)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

日本の勝利の"カギ"は

中東・カタールで開催されている、FIFAワールドカップ。出場する32チームが8つのグループに分かれ、それぞれ総当たりで1次リーグを戦います。

日本はグループE。優勝経験のあるドイツとスペインがいる中で、決勝トーナメントに進出できるのは上位2チームだけです。

日本の代表メンバーは26人。そのうち19人がドイツやイングランドなどヨーロッパのクラブチームで活躍しています。

今回は、最新のデータから分析したドイツ戦の予想もお伝えします。まずは、日本代表の強豪を打ち破る秘策です。

日本代表の秘策 "ハイプレス"とは

日本の大きな武器の一つは、右サイド・伊東純也選手のドリブル突破です。圧倒的なスピードで相手ディフェンスを切り裂き、チャンスを生み出します。

チーム最年少の久保建英選手は、華麗なテクニックに注目。東京オリンピックで活躍し、スペインでさらなる成長を遂げました。

久保建英選手
「国を代表する戦いなので、威信や誇りをかけて、互角の勝負をして、しっかりそこで勝ちきりたい」

抜群の得点感覚を持つのは、鎌田大地選手。ドイツ1部リーグで今シーズン7得点と絶好調です。

鎌田大地選手
「いまは間違いなく過去最高のベストな状態にあると思うので、個人としてもチームとしても新しい歴史の一部になればいい」

史上初のワールドカップベスト8を目指す日本。強豪国と肩を並べるために森保監督が採用した戦術があります。

それは、前線の選手が相手に猛烈なプレッシャーをかけてボールを奪う「ハイプレス」。相手ゴールに近いエリアでボールを奪うことで、チャンスを作り出すのがねらいです。

9月のアメリカ戦では日本のハイプレスが次々と決まり、相手のゴールを脅かし続けました。

森保一監督
「アグレッシブに高い位置からプレッシャーをかけることで、試合を優位に進められるように強い強度で守備をしていく。ボールを奪って前向きのいい状態から、いい距離感から攻撃に移る。世界で勝つためにやってきた」

ワールドカップでも期待される日本のハイプレス。しかし、リスクもあります。

それが明らかになったのは、6月に行われた世界ランク1位ブラジルとの強化試合。積極的にハイプレスを仕掛ける日本でしたが、ボールが取れません。ことごとくかわされます。4人がプレスに行きましたが、1本のパスで置き去りにされてしまいました。ハイプレスに人数をかけた分、後ろの守りが手薄になった日本。カウンター攻撃を浴びました。

アジア予選では通用しても、世界の強豪相手には難しいことを思い知らされたのです。

キャプテン 吉田麻也選手
「試合が始まって、無理無理ってなりました。アジアの時、前から行けばとれる可能性が増えるんですけど、強豪国に対してそれをやると、待ってましたと言わんばかりにパスをつながれて、打開されて、失点してしまう。試合が終わったあとに、スペイン、ドイツの試合を見ても、同じことをされるんだろうなと」

それでも日本が選んだのは、リスクを恐れず、ハイプレスをさらにレベルアップさせることでした。前線の選手がプレッシャーをかけた際、周りの選手がどう連携するか、同じイメージを持てるよう何度も話し合ったといいます。

吉田麻也選手
「監督もそうですし、アシスタントコーチも分析員も、みんなとすごく話したなと思います。一日中話していた気がする。自分がこうじゃないかなと思っていることを話すことによって、それは合っているよね、それは違うかもしれないというのが明確になった」

9月に行われたアメリカ戦で、ハイプレスからその後の攻撃まで同じイメージを共有できたという場面があります。

ハイプレスをきっかけに相手ゴールを脅かした場面では、まずフォワードの前田選手が相手をピッチの外側に追い込むようにプレスをかけます。2つに残されたパスコースで内側に通してくると読んだ久保選手がカット。この時、手を挙げてパスを要求していたのは鎌田選手。この一連のプレーが、ゴール前に大きなスペースを生み出すことをチーム内で共有できていました。

鎌田大地選手
「チームとして、ここが空いているというのをしっかりミーティングで話していれば、ある程度見なくてもプレーできるし、そういう共通認識はチームとしてすごく大事になってくる」

ドイツとの初戦までに、どこまでハイプレスをレベルアップできるのか。

アメリカ戦とはメンバーを大幅に入れ替えて臨んだ最後の強化試合で、日本は積極的にハイプレスを仕掛けました。

日本が強豪に打ち勝つために磨いてきた、ハイプレス。この試合を解説した山本昌邦さんは、メンバーをがらりと変えても機能したことを評価しました。

NHKサッカー解説 山本昌邦さん
「全体が近い距離で連動してプレスをかけ続けられるような距離感、ねらい、ひとりひとりの守備範囲の広さ、こういうものが出ているシーンがいくつもあった。それを整理していけばいい」

4年前、あと一歩で初のワールドカップベスト8を逃した日本。決戦の時が近づいています。

吉田麻也選手
「もう1つ上のステージに行きたかったけど行けなかった。どうやったら行けるんだろうと考え、試行錯誤してきた4年間。しっかりと明確にやるべきことを共有して、ずっと目標にしているベスト8の壁を破りたい」

日本の秘策"ハイプレス" 強豪ドイツを倒せるか

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、NHKサッカー解説の早野宏史さんと、2010年の南アフリカ大会に日本代表として出場され、今も現役でプレーをされている松井大輔さんです。

まずはハイプレスという日本の戦術ですが、早野さんに詳しく説明していただこうと思います。

スタジオゲスト
早野 宏史さん
NHKサッカー解説者

早野さん:
ハイプレスというのは守備の戦術なのですが、相手のゴールの近いところ、高いところで守備をしてボールを奪って、ゴールをする。

例えば、ドイツがボールを回しているときに日本の選手が高い位置からボールを取りにいって、仮にこの時点で取れたらゴールが近いですから、このまま早くゴールを攻められるという戦術。守備と攻撃がリンクしてる戦術です。

ただタイミングが必要で、回されている時に1人が遅れたとします。そうすると、後ろにボールを出されてしまうとハイプレスが回避されて、逆に相手に攻撃されてしまう。

このように低いラインのままですと攻撃されてしまうので、ディフェンス陣のラインを上げる。(=ハイライン)
「ハイプレスとハイライン」をセットにして、後ろにボールを出されたとしてもプレスをかけられる状態を作って、守備と攻撃をリンクさせた戦術を使って攻撃をしていく。この「ハイプレス、ハイライン」という戦術を日本代表は取っています。

桑子:
ハイプレスをすると、勝ちにいけるチャンスも高まると考えていいですか。

早野さん:
そうですね。森保監督は就任当初から「いい守備からいい攻撃」という哲学を持ってやっていて、ここに来て世界と戦うときに具体的な例がハイプレス、ハイラインという戦術にたどりついたと僕は思うので、これで世界と戦って勝つべきだと思います。

桑子:
ただ、選手からすると常にプレスをかけ続けるのは相当大変だと思うのですが。

スタジオゲスト
松井 大輔さん (サッカー選手)
元日本代表 W杯南アフリカ大会出場

松井さん:
大変ですが、やはり4年に一度、選手は絶対に走りますから。僕も走りましたし。

桑子:
今回の代表メンバー26人であれば、しっかりとハイプレスはいけると、松井さんは考えていらっしゃいますか。

松井さん:
絶対に行かないといけないですよね。ハイプレスは大事ですが、いけなかったときにミッドブロックじゃないですが、後ろにちょっと下がる。またもう1個下がるというパターンもあるので、それは選手みんなが分かっていると思います。

なので、ハイプレスをしながら徐々に戦術を変えていったりもしますし、それは後ろの声かけ、吉田選手とか長友選手がしっかりと前の選手を誘導していくというか。でも、南アフリカのときは声が聞こえなかったので…。

桑子:
ブブゼラが結構…。

松井さん:
その時は後ろを見ながらプレスをかけていくという形ですね。

桑子:
今回皆さん「すごくしゃべった」という共通認識を持ったということですが、そこは大事だなとお考えですか。

松井さん:
一番大事ですよね。共通認識というか、隣の選手もそうですが、いろいろな選手がしゃべることによって相手の考え、意見が分かるので。そこはすり合わせて試合に出ていくことがいちばん大事ですね。

桑子:
今回の26人、森保監督は東京オリンピックの時のメンバーもかなり入れていますよね。長く選手たちを見てきたというのは大きいですか。

早野さん:
メリットあると思います。僕は2018年ごろ、(監督に就任したばかりの)森保監督と話す機会があって、「(原則24歳以下で構成される)東京オリンピックの代表とフル代表(日本代表)の監督。二足のわらじはきついんじゃないか」と聞いたんです。確かに2つの代表は厳しいと思う。森保監督は少し間を置いて「覚悟を決めました」と言ったんです。その時は意味があまり分かってなかったんですが、最近分かったのは、要は若い選手を伸ばして、そしてベテランも含めた融合チームを作る。そして、世界にもっと飛躍していくというねらいがあったんじゃないかな、じゃあこの26人かな。という感じがしましたね。

桑子:
まさに結実したメンバーということになりますよね。その日本が23日、初戦で戦うのが強豪ドイツです。過去4回の優勝を誇っていますが、等身大のドイツの選手たちを用意しました。

早野さん:
大きいですね。

桑子:
大きいんですよね。この人たちと戦うわけです。どんな戦いをドイツの選手たちは仕掛けてくるのでしょうか。この方が取材してくれました。

最新情報!強豪ドイツ 見えてきた"戦術"とは

ドイツ代表の取材に向かったのは、元日本代表の中澤佑二さん。練習拠点は、首都ドーハから100キロ以上も離れた場所にありました。

元日本代表 中澤佑二さん
「お城?要塞?迫力というか、こんなところで練習してるのか」

過去4回の優勝経験を誇るドイツ。相手にボールが渡った瞬間、ドイツの複数の選手が激しいプレッシャーをかける強力なプレスを軸にした戦術に力を入れています。この強力なプレスのねらいは、守りを固めるためだけではありません。

練習場に選手たちが姿を現しました。

中澤佑二さん
「でかい、みんな。緊張感がある感じが伝わってきますね」

攻守の要となる、司令塔・キミッヒ選手がいました。

ドイツがプレスを仕掛ける場面では、ドイツがボールを奪い、キミッヒ選手が前にパスを出します。その瞬間に攻撃のスイッチが入り、選手が一斉に前に動き、攻め上がります。

強力なプレスでボールを奪い、キミッヒ選手を軸に素早く攻撃へと転じる。ドイツが得意とする得点パターンです。

ドイツ代表を取材 ヤニック・ヒューバー記者
「キミッヒ選手はドイツの"心臓"です。ドイツの指揮者として攻撃のテンポを調整し、ボールを動かします。ドイツのすべての攻撃は彼を経由して起こるのです」

一方、日本のハイプレスに対してどう戦おうとしているのか。

中澤佑二さん
「ワンタッチパスが多いですよね。全部ワンタッチなのかな」

ドイツは、ワンタッチで素早くパスを回すことで日本が仕掛けるハイプレスをかわそうとしていると中澤さんは分析しました。

中澤佑二さん
「日本のプレスが速いからね。ワンタッチでしっかりとパスをしてさばく。ワンタッチパスの意識ってところがあるかもしれないですね」

そして、ドイツの守護神・ノイアー選手。一見、軽くウオーミングアップしているだけにも見えますが…

中澤佑二さん
「浮き球を出して、相手のプレスを回避するイメージ作りだと思います」

正確なキックが持ち味のノイアー選手。日本の頭上を飛び越えるボールを出し、ハイプレスをかわそうとしているといいます。

取材班
「日本のハイプレスも警戒してる?」
中澤佑二さん
「絶対してると思います。基本的に試合のための練習なので、試合で使わないことは練習でしないはず。どんな練習にも必ず意味がある」

ノイアー選手に、ハイプレス対策について直接聞きました。

中澤佑二さん
「日本代表はプレッシングが得意なんですけど、プレッシング対策はどういうことを?」
ドイツ代表 GK マヌエル・ノイアー選手
「大切なのは、プレスを受けても1対1になっても落ち着きを保つこと。初戦の日本戦で全力を出し切ることが最も重要です」

"ゲーゲンプレス"とは

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
見ていると、ドイツも日本もプレスをかける。どちらも似ているという感じがするのですが、どう違うのでしょうか。

早野さん:
ハイプレスをする日本は、相手にボールを持たれた時に組織的に構えて高い位置で取りに行こうという全体の戦術があります。

一方のドイツはゲーゲンプレス、これは「プレスに対抗するプレス」という意味で、取られた瞬間にボールを奪いに行く戦術です。

ゲーゲンプレス
奪われた瞬間にボールを奪い返すプレス

これは、どんな局面でも取られた瞬間に奪うということをやるので、ちょっとした隙で奪い返されると非常にピンチになると思います。

桑子:
ピッチ上のどんな場所でもそれが起こり得るということですよね。日本とドイツ、いずれも強力なプレスを武器にするチームですが、データをご覧いただきたいと思います。

「5秒以内でのボール奪取回数」ですが、早野さんがおっしゃったゲーゲンプレスのことですね。2022年6月から9月にかけて、両チームが行った6試合でボールを失ったあと、5秒以内にボールを奪い取った回数、日本は388回でドイツは390回。日本とドイツはほとんど変わりません。

分析をしたトム・グッドルさんによると、試合は「勝負は互角。白熱した展開になる」と予想しています。

早野さん:
ただ僕はここがポイントだと思っていて、5秒以内にボールを奪取ということは、失ったボールを取り返すわけですね。

桑子:
同時に失ってもいるわけですね。

早野さん:
失っているから取り返すわけですよね。失っている5秒以内に取られなければ、日本は勝つ回数が増えるのではないかなと僕は思って。ここがやっぱり、ボール際のところのポイントかなと思っていますね。

桑子:
ドイツのプレーに対して、松井さんならどんなプレーで返しますか。

松井さん:
ゲーゲンプレスがかかってくるので、ゲーゲンプレス返しみたいなのができればいいと思います。恐れずしっかり日本のパスサッカーをやってほしいですね。

あと、カウンターがすごく大事になってくるので。右サイドがちょっと空くので、そこにしっかりカウンターで行ければ1点取って欲しいですね。

桑子:
今回、日本代表が初戦に向けた準備の様子の映像が入ってきています。

現地時間21日の練習の様子ですが、試合実況を担当する曽根アナウンサーによりますと「初出場の選手が多いけれども、取材への受け答えからは落ち着きと自信が感じられる」と。曽根さんは今回で4大会目の実況となるのですが、その曽根さんが「新鮮な驚きだ」と話していました。

松井さん、初出場の選手が多いと緊張してかたくなってしまわないのかなと思うのですが。

松井さん:
後ろの選手はベテランが多いので、そこはしっかり落ち着かせてくれると思います。前の選手は何も考えずに行ってほしいなと。緊張しないほうがいいと思います。

桑子:
確かに若いからこその勢いというのを期待したいところです。

松井さん:
次の2戦目もありますし、行けると思うので。緊張しないこと。自分の力だけを出すということをフォーカスしてほしいです。

桑子:
では最後にドイツ戦がどうなるのか。お二人にスコアを予想していただきました。まず、松井さんからお願いいたします。

松井さん:
1対1です。

桑子:
その心は。

松井さん:
ノイアー選手から1点取れるというのはすごくみんな自信になると思いますし、勝ちたいというのはありますが、1対1で勝ち点1を稼いで次の2戦目、コスタリカ戦に向けてしっかりと準備ができるかなと。自信を持てると思うので。

桑子:
1点を取ることの意味合いはどうですか。チームにとって。

松井さん:
ノイアー選手から1点取るというのは、すごくみんな自信になると思います。世界最高のキーパーなので。そこから1点取って、2戦目に向けて。

桑子:
その次に次にと。

松井さん:
次に次に流れを持ってくるというのが大事ですね。

桑子:
早野さんは、2対1で日本が勝つ?

早野さん:
5秒以内の奪取回数が互角。「ゲーゲンプレス」を回避して「“軽減”プレス」にすれば、2対1になるのではないかと。特に東京オリンピックに出た選手は、野心を持っていると思います。オリンピックでメダルを取れなかったから(4位)、ワールドカップでこそという意欲もありますから。前向きな姿勢なんですよね。ハイプレスをかけて、相手を牛耳って点を取る。ノイアーから2点取る!勝つためには2点が必要です。ここがいちばん大切かなと思います。僕は期待を込めて、2対1で勝利。

桑子:
1つの戦術を熟成させるといいことがありますか。

早野さん:
チームというのは一つのものがうまくいくと他の部分も乗ってくる部分がありますので、それを期待したいですね。

桑子:
さあ、どうなるでしょうか。4年間積み上げてきた成果が花開くのか期待しましょう!

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