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2022年11月14日(月)
親のお金をどう守る 認知症600万人の資産管理

親のお金をどう守る 認知症600万人の資産管理

今や認知症高齢者は600万人以上、その資産は250兆円超と推計されています。認知症になると資産が凍結され、家族が引き出すのが難しくなる可能性も。そこで弁護士や司法書士などが後見人となり、代わりに財産管理などをする成年後見制度がありますが、「本人のためにお金を使えない」「一度利用したら止められない」など課題が頻出。成年後見制度以外の選択肢を含め、本人の意思を尊重し、暮らしや財産を守る方策を探りました。

出演者

  • 水島 俊彦さん (弁護士)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

親のお金をどう守る 認知症600万人の資産

桑子 真帆キャスター:
日本の「成年後見制度」。成年後見人などが、認知症など判断能力が不十分な人の財産や権利を守る制度です。

具体的には、成年後見人と呼ばれる人が本人に代わって財産の管理や年金の受領、福祉サービスの契約などを行います。

どんな人が成年後見人になるのかといいますと、親族、あるいは弁護士や司法書士などの専門家です。この成年後見人は前もって本人が選ぶ場合と、本人が認知症などになったあとに裁判所が選ぶ場合があり、多くは裁判所が選ぶケースです。この場合、本人が不必要な高額商品の契約をしてしまっても取り消すことができます。

いいこともあるのですが、この制度、国連から差別的だと指摘を受けたんです。家庭裁判所から選ばれた成年後見人を利用する家族から多くの不満の声が上がっています。

本人のためのお金なのに… 成年後見に不満の声

成年後見人がついたことで、夫のお金が使えなくなったと訴える人がいます。大分市に住む阿南貞子さんです。小売の会社に勤めていた夫の浩直さんは11年前、長時間労働による過労で脳梗塞を発症し、まひが残り、認知症になりました。

当時、労災が認められず、今後の介護や医療の費用に不安を抱いた浩直さんと貞子さん。会社に対し、損害賠償を求める裁判を起こしました。すると、裁判所から「浩直さんの判断能力が不十分なため、成年後見人をつけてほしい」と求められたといいます。

阿南貞子さん
「裁判所の人が(請求額が)1,000万円以上になったときは、(成年)後見人を付けないといけませんと。だったらもう、しようがない。付けてもらうしかないのかなという感じで」

2015年、貞子さんと司法書士のA氏が後見人に選ばれ、貞子さんが医療や介護の契約などの身上監護を、A氏が財産管理を担うことになりました。

浩直さんの通帳もA氏が持ち、口座の名前も「アナンコウジ コウケン A」になりました。貞子さんが浩直さんのお金を使おうとすると、A氏に医療と介護以外の出費を厳しく管理されたといいます。

阿南貞子さん
「『お父さん今日はどこに行くの?』と、もう常に温泉ですよ。温泉行く、温泉行く、元々好きな人でしたから。(成年)後見人に『旅費を出してください』とお願いしたら『旅行に行ったから病気がよくなるんですか。よくなるんであれば、医者に証明をもらって提出してください』と。それから一度も連れて行っていないんです。(成年)後見人が付いてから」

成年後見人は、生活と財産の状況に応じて適切に財産管理をするよう求められていますが、その基準は決められていません。

後見が始まって3年がたった、2018年。会社から和解金を得た浩直さんと貞子さんは、成年後見制度の利用をやめようとしました。しかし、成年後見は原則として本人が判断能力を取り戻すか、亡くなるまで続くと決められているのです。

阿南さん一家は、昔から家族のお祝いやイべントを何より大切にしてきました。

浩直さんに成年後見人がつく直前の2014年に挙げた、娘の結婚式。浩直さんは、精いっぱい感謝の気持ちを伝えました。

2014年 阿南夫妻の娘の結婚式にて 浩直さん
「若い二人ですが、これからも見守ってやってください。よろしくお願いします」

しかし今は、孫の七五三の記念撮影も、予算や場所を自由に決められず、浩直さんの歯の治療代、入院費用、おむつ代まで成年後見人に請求しなければなりません。

成年後見人の報酬は、財産額や仕事内容に応じて月に2万円から6万円ほどが目安とされています。しかし、浩直さんと貞子さんは財産がいくら残っているか、そこから後見人にどれだけの報酬が支払われているか、知らされていないといいます。

阿南貞子さん
「主人の財産を守って、主人から報酬をもらっているんだったら、一度でもあいさつに来てもいいんじゃないかなと。(成年)後見制度って何?何なのと。ずっとこの7年、クエスチョンです。クエスチョンマーク」

私たちは、A氏が所属する司法書士の団体に取材を申し込みました。守秘義務があるため、個人情報は明かせないとした上で次のように答えました。

成年後見センター・リーガルサポート 田代政和専務理事
「原則として『月に1回程度、面談はしましょう』ということは周知してます。本人のためになるものであって、生活に影響がないということであれば、それに対して支出をしないということは基本的にはないと。(成年)後見人のご本人とかに対する説明不足ということもあるのかもしれないとは思っています」

本人のためのお金なのに… 財産をどう管理するか

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
成年後見制度によって、家族が思う「本人のため」、それから成年後見人が考える「本人のため」。ここにズレが生じてしまっていました。

きょうのゲストは、成年後見人を多く務めてこられた、弁護士の水島俊彦さんです。

成年後見制度は、高齢化が進む日本には大事なセーフティーネットだと思うのですが、今見たように本人や家族の意思と、後見人の意思がずれてしまうのはどうしてでしょうか。

スタジオゲスト
水島 俊彦さん (弁護士)
数多くの成年後見人を務める

水島さん:
「本人のため」というワードですが、いろいろな人によって見え方が違うわけですよね。つまり、ご家族が見る「本人のため」というもの、それからいわゆる専門職の後見人が見る「本人のため」というもの、これはやはりズレというものが非常にあると最近は指摘されています。

いわゆる一般的にご本人さんにとって正しいと思われること、これがどうしても「本人のため」という形で使われてしまう。このようなところが問題であるとは思っています。

桑子:
いちばん大切なのは「本人の意思の尊重」、まさに「本人のため」ということですが、ご家族の皆さんは第三者の専門家よりも自分たちのほうが共に長く生活しているわけですし、本人の意思を把握できると思っていらっしゃると思います。

実際に制度が始まったころの22年前というのは、親族による後見人が9割を占めていました。ただ、親族による不正流用などが相次いだため、親族以外の専門職の後見人を選ぶ傾向が強まりました。今では、親族以外の後見人が8割を占めるようになりました。不正は確かに減ったのですが、家族たちから見ると本人の意思を尊重していないと感じるケースが増えてしまっています。

番組や、家族に後見人がついている家族会にもさまざまな声が集まっています。

「身寄りのない人や、家族間に問題がある人にとっては良い制度だと感じる」(千葉・50代女性)
「市に、認知症だからと後見人がつけられたが必要ないと感じている」(岡山・90代男性)
「障害のある家族が利用する場合、後見人に毎年数十万円の報酬を支払うのは負担が大きい」(千葉・40代女性)
「認知症になってからでは自分で選んだ人に頼めるわけではなく、当たり外れがある」(千葉・50代女性)

水島さん、こういった声を聞きますと、利用者にとっては使い勝手がいいようにはなっていないのかなと。実際、全国に利用している方は23万人しかいないということもあるのですが、どうなのでしょうか。

水島さん:
使い勝手ということになりますと、ご家族や周囲の方もなかなか理解するのが難しい制度です。本人にとってみると、それがどういう制度なのか、どういう形で自分にとってメリットがあるのか、あるいは報酬はどうか、そのまま続けるのかどうなのかとか、さまざまなことがご本人にとっても非常に理解が難しい状況になっていると。

桑子:
説明がうまくされていないと。

水島さん:
そのとおりですね。

桑子:
そうした中で、国連がショッキングな勧告をしました。

代行的な意思決定の仕組みの廃止を視野に入れて、本人の意思決定支援の仕組みを確立するよう勧告したわけです。かなり重い指摘ですが、水島さんも厚生労働省の専門家会議の委員として制度の改革に関わっていますが、どういうふうに受け止めていますか。

水島さん:
専門家会議でも成年後見制度の見直しという部分については、議論が進んでいることは確かです。

ただし、国連の勧告で特に「代行的な意思決定の仕組みの廃止」と。こういったことはむしろ社会制度の転換といいますか、こういったところも含めて求められていくものでありまして、やはり今の見直しの議論だけで十分なのか。それとも、ご本人自身が支援を受けながら意思決定をしていく、そういった制度への転換のためにどんなことの議論がもっと必要なのかということも含めて話し合っていく必要があると思います。

桑子:
そうした中で、今の制度の中で本人の意思を尊重する支援に取り組んでいる後見人もいます。

"本人の意思を尊重" 高齢者の資産を守る

本人と向き合い、その意思をくみ取る成年後見が行われています。

20年に渡りおよそ140人の後見人などを務めてきた、司法書士の榊原秀剛さん(「榊」は、木へんに神)です。

当初はコミュニケーションの取り方も分からず、苦労したという榊原さん。福祉の専門知識を学び資格も取得。認知症への理解も深めました。

榊原さんが今支援している認知症の女性。ある被害に遭い、心を閉ざしていました。榊原さんは、女性の目を見ながら笑顔で話しかけることで悩みや希望をくみ取ってきました。

かつて女性は、パチンコ店で高齢者を狙った詐欺グループに多額の年金や貯金をだまし取られた経験がありました。女性は自治体に保護され、生活の支援を榊原さんが担当することになりました。榊原さんは女性の意思を確認しながら、住んでいた自宅を売却。そのお金で入所できる施設を探し出すことで、女性が安心して暮らせるようにしたのです。

司法書士 榊原秀剛さん
「今日は、ようしゃべってくれるな。また来月、顔出すわ」
80代の女性
「来て」
榊原秀剛さん
「元気で」
80代の女性
「頼りになってます」
榊原秀剛さん
「なってるか。ありがとう」
80代の女性
「またよろしくね」
榊原秀剛さん
「毎月顔出すから」
榊原秀剛さん
「その方がこれからの人生をどのように生きていきたいか。そこを察知する能力、難しいですけどね。そういうのを、感覚をちゃんと研ぎ澄ます。それでその方が喜ぶ、これからの人生を一緒に築いていってあげると」

資産管理をチームで支援

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
本人の意思を尊重することを実行するのは大変だと思うのですが、実際に後見人もされていて、どういうふうに感じますか。

水島さん:
私の専門職としては弁護士ですので、いわゆる紛争の対応は割と得意な部分もあるのですが、福祉的なご本人のサポート、日々のやり取り、こういったことについて、私自身が新潟県佐渡市や青森県、そういった過疎地域の弁護活動を続けていた経験からしますと、1人でやると非常に難しい状況に陥ってしまいます。

なのでチーム体制が重要で、私自身も自分が至らないところについては福祉の専門職、あるいは地域の方々、ご家族も含めてなんとかお願いしながらチームを支えていく。そのような活動で行っているところでございます。

桑子:
チーム体制は本当に大切なことですね。本人の意思を尊重するには事前に準備を進めておくことはもちろん大切ですが、本人が判断能力に不安を感じ始めた段階で支えられる仕組みというのもあります。

判断能力に不安が… 広がる支援事業・サービス

本人の意思を確認しながら資産管理や支援を行う事業を展開する、三重県伊賀市。

この日、社会福祉協議会の専門員が独り暮らしの70代の男性への定期訪問をしていました。料理人として働いてきた男性は、精神疾患に加え、物忘れなどの認知機能の障害もあります。男性が今悩まされているのは、身に覚えのない支払いの催促です。

伊賀市社会福祉協議会 専門員 橋本美智子さん
「もう、変な手紙来てない?今、何も問題はない?」
支援を受ける男性(77)
「問題は別に無いですな」
橋本美智子さん
「悪質な業者もあって、(支払いが)終わっているものを、またほじくり返してきて請求してくるような業者もいるので」

"日常生活自立支援事業"と呼ばれるこの事業では、年金の受け取りなどの「日常的な金銭管理」、「福祉サービスの利用援助」、不動産の権利書などの「重要書類の保管」も行います。

さらに、日々の支援とは別に定期的に利用内容や継続の意思を確認します。サービスの内容や支援体制、利用料金などを改めて一つ一つ伝え、不安や不満がないか聞き取ります。

専門員
「通帳を2つお預かりして、そこからお金を出し入れさせていただきます。こんな感じでよろしいですかね?」
支援を受ける女性(80代)
「はい、結構でございます」
支援を受ける女性(80代)
「お任せして、すべて信用して。続けさせてほしいです」

不正防止の取り組みも徹底。通帳や現金を出し入れする際は、必ず上司がチェックします。

利用料は1回およそ1,200円(※書類などの預かりは3,000円/年)。伊賀市では国と県から補助金を受け、160人の高齢者や障害者を支えていますが、予算や人員は厳しい状態が続いています。

伊賀市社会福祉協議会 田邊寿事務局長
「本人らしい納得をきちんと得ていただく。やってみてダメだったら、もう一度やり直してみる。納得感をきちんと得ないと、やっぱりご本人さんが最終的にはうまくいかないんじゃないかなというのが、これまでの私たちの経験です」

判断能力があるうちに備えるサービスの利用も広がっています。横浜市に住む80代と70代の夫婦。認知症などで判断能力が衰えると資産が凍結され、家族に迷惑をかけるのではと心配していました。

資産凍結を心配する男性
「判断能力を失うと(預貯金を)誰も下ろせない。緊急のお金が出ないとなると困ってしまうので」

そこで検討したのが、銀行の「認知症対応型信託」サービスです。

利用者は契約の際、銀行に財産を預け、家族などの代理人を前もって指定。認知症になったと申し出があると、代理人が医療や介護に必要な費用生活費などを引き出せるようになります。資産の出入りは銀行が常にチェックしているため、代理人の不正利用なども防げるといいます。手数料は、この銀行のサービスの場合、預けた財産の1%です。

この夫婦は、長男を代理人にして契約を結ぶことに決めました。

資産凍結を心配する男性
「私は自分なりに息子を信頼しているし、自分の方法を選ぶという安心感、信頼感、それがあったと思います」

判断能力に不安が… 家族が準備できること

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
成年後見制度以外にも、さまざまな支援策が出てきています。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんによると、家族でできる準備はいろいろあるということで、まず「家族信託」です。

金銭のみを扱う「認知症対応型信託」と違い、当事者同士で金銭以外にも有価証券や不動産などの財産まで信託できる制度です。さらに、本人が認知症になってしまってからではお金を引き出すのが難しくなるので、判断能力が衰え始めた段階でキャッシュカードの「代理人カード」を作るとか、預かり証を作って「預り金」として一部本人のお金を使えるようにするといったことがあります。

水島さん、本人の意思を尊重するために私たちができることはどういうことでしょうか。

水島さん:
チームを広げていくという発想を持つことですね。例えば、オーストラリアなどではご本人を中心としてチームが組まれる。ご本人の夢や希望、そういった思いをみんなで膨らませていく。専門職ばかりではなく、いろんな地域の人々がチームの中に入り、ご本人を応援していく。その中でご本人が「いろいろなことをやっていけるのではないか」という自己肯定感、自信をつけていくようなプロジェクトもあります。

桑子:
不動産屋さんや、ジムトレーナーの方もつくと。こういったチームで支えるのは大切だと思うのですが、私たちはどういう姿勢で、どういう考えでこの問題に向きあっていったらいいのでしょうか。

水島さん:
意思決定支援という考え方に関心を持っていただきたいです。目的としては、決定する、しないとかそういうことだけではなく、その前後、むしろ意思決定全体のプロセスの中でご本人自身が自己選択をしていく機会を持ち、そしてそれを周りが支えていく。そしてその中で自分の人生をコントロールしていく実感を持てる、そういったような社会のあり方を皆さんもわがこととして考えていただきたいです。

皆さんも、周りの人に決められる形がいいのか、それとも自分自身でいろんな人に支えられながらやっていくのがいい社会なのか、こういうあり方が問われていると思います。

桑子:
ありがとうございます。その人の幸せをみんなで考える。この模索は続きます。

ある独居男性の悩み 支援の模索が続く

成年後見人を務める、司法書士の榊原秀剛さん。この日、長年独り暮らしをしていた男性に付き添い、入所施設の見学に来ていました。

司法書士 榊原秀剛さん
「入所しはった後の(ご自身の)お金の管理とかな、どうしますか?しんどかったら私がやるし」
男性
「病院行ったときにお金いるし、やっぱり」

体調が悪くなった時のことを心配する男性。榊原さんは、施設の専門スタッフと一緒に男性の希望に沿った暮らし方を考えます。

榊原秀剛さん
「一人でそんなに歩かしたら危ない。ちょっと(みなさんに)見ていただいて。任せますから。『病院、行きはるよ』というときは、どうしたらいいですか?」
施設の専門スタッフ
「一緒に(榊原さんが)運転して行って」
榊原秀剛さん
「一緒に行きましょう。私の車で」
男性
「忙しいのに、ごめんな」

3週間後、この施設での男性の新しい生活がスタートしました。

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