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2022年11月2日(水)

王将社長射殺と工藤会 事件の“謎”に迫る

王将社長射殺と工藤会 事件の“謎”に迫る

闇に包まれていた事件が突然動き出しました。9年前、京都市山科区で「餃子の王将」で知られる王将フードサービスの大東隆行前社長が拳銃で撃たれて死亡した事件。逮捕されたのは工藤会系組幹部の田中幸雄容疑者でした。社長だった大東さんとの「接点」はどこにあったのか?社長が狙われた「背景」に何があったのか?そして田中容疑者に“何者かの依頼"はあったのか―。事件の深層を独自取材。残された多くの“謎"に迫りました。

出演者

  • 絹川 千晴 (NHK京都 記者)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

「王将」社長射殺事件 残された"謎"を追う

桑子 真帆キャスター:
長年、未解決だった事件が突然動き始めました。9年前に起きた、餃子の王将の社長が射殺された事件。当時、社長だった大東隆行さんを殺害したとして、京都府警は特定危険指定暴力団・工藤会系の幹部、田中幸雄容疑者を殺人などの疑いで逮捕しました。

ただ、事件の周辺には多くの謎が残されています。

まず、大東さんと田中容疑者の接点です。捜査でも、ここまで明らかになっていません。さらに、大東さんを狙った動機、これも大きな謎のままです。

また、警察は当時王将が特定の企業グループと行っていた不適切な取り引きの経緯についても、事件に関係がなかったか調べています。その企業グループの経営者だった男性が、私たちのインタビューに答えました。後半でお伝えします。

まずは、取材から明らかになった逮捕の舞台裏です。

犯人の計画的犯行に迫る

10月31日に行われた、王将フードサービスの会見。渡邊社長は容疑者の逮捕を受けて、心境を語りました。

社長 渡邊直人さん(10月31日の会見より)
「本当に長かったなということで、まだ全容は解明されたわけじゃないんですが、正直言ってほっとしています。当時の…(言葉に詰まりながら)すみません…」

渡邊社長は、常務時代、殺害された大東隆行さんを支える存在でした。

渡邊直人さん(10月31日の会見より)
「本当に納得してもらえるような解決をしていただけたらという思いで、本当に一番は、誰よりも一番悔しいのは大東社長だと思いますので、そのような形での解決を望んでいます」

今や734店舗、年間847億円を売り上げる餃子の王将。

大東さんは、創業の2年後に入社。2000年に4代目の社長に就任しました。当時、経営難に陥っていた会社を再建したカリスマ社長として知られていました。

亡くなる2年前、NHKの番組で経営に対する考えを語っていました。

前社長 大東隆行さん(2011年5月12日放送より)
「どこでも絶対、客層が違う。サラリーマン、学生、ファミリー、いろんなもの。よそのチェーン店は頭からおろしていきますよね。うちは逆三角形で、現場ありき、お客さんさんありき、底辺に僕らがいる、本部が」

毎朝、誰よりも早く出社し、本社の玄関前を掃除していた大東さん。実直な人柄が社員の信頼を集めていました。

先週、大東さんを射殺したとして殺人などの疑いで逮捕された、田中幸雄容疑者。周到に計画されたとみられる犯行の詳細が分かってきました。

事件当日の朝。大東さんは、いつものように車で出社しました。大東さんの行動パターンを調べ上げていた、実行犯。

車を降りた直後を狙い発砲。4発の銃弾が胸や腹に命中し、拳銃の扱いに慣れた素早い犯行でした。そして、近くに止めてあったバイクに乗り込み、逃走したとみられています。

捜査が進展したのは、事件の4か月後。現場から1.5キロ先で、逃走に使われたバイクが見つかったのです。盗難車であることが分かり、その盗難に田中容疑者が関わった疑いが浮上しました。

さらに、現場に残された2本のたばこの吸い殻が決め手になりました。検出されたDNAの型が、田中容疑者のものと一致したのです。

犯行直前は雨。吸い殻には水の影響による変色も見られました。田中容疑者がその場でたばこを吸いながら、大東さんを待ち伏せていたとみられています。

田中幸雄容疑者とは何者なのか

田中幸雄容疑者とは、どんな人物なのか。

田中容疑者が所属するのは、福岡県を拠点とする暴力団・工藤会。一般市民を標的にした凶悪事件を繰り返し、全国で唯一特定危険指定暴力団に指定されています。田中容疑者は、その二次団体の幹部。捜査関係者によると大学を中退後、サラリーマンも経験した異色の経歴の持ち主です。

福岡県警で工藤会の捜査を長年指揮した尾上芳信さんは、その人物像をこう語ります。

元福岡県警 刑事部長 尾上芳信さん
「(田中容疑者は)自分を暴力団の中で育ててくれた、組長なりに対する忠誠心は人一倍強いところがあると感じました」

田中容疑者を象徴する事件があるといいます。

暴力団の排除運動に取り組んでいた、大手ゼネコン・大林組の車に銃弾が撃ち込まれた事件。田中容疑者をはじめとする、工藤会の関係者らが逮捕されました。共犯者の証言によると、田中容疑者はこう語っていたといいます。


「特命(特別な命令)が来ました」「これは自分がやります」と(田中容疑者が)発信した。

共犯者の証言(判決文より)

当時、捜査幹部だった尾上さんは、田中容疑者に工藤会の特性がみられたと振り返ります。

尾上芳信さん
「私が在職時に、大林組の事件で(田中容疑者を)実行犯として検挙いたしました。その際も本人は自分の行ったことについても、上位の指示者についても、供述をしなかった。非常に暴力団の中でも口が堅いという印象はあります」

工藤会は、口を割らない鉄の結束があるといわれていました。この事件で田中容疑者は、関与を否定。幹部による指示などは明らかになりませんでした。そして事件のあと、田中容疑者は上席専務理事という役職に昇進したといいます。

王将の事件でも組織的関与の解明が捜査のポイントですが、田中容疑者はこれまでのところ黙秘を続けているとみられます。さらに、王将フードサービスと田中容疑者の関係、そして、工藤会との接点もまだ分かっていません。

尾上芳信さん
「被疑者と被害者の接点がないというのは、無差別テロみたいな事件以外はありえないわけで、最終的にどこかで被疑者と被害者の関係がつながっていくことがあるんだろうと。そこをどうやって解明していくかということだと思います」

田中容疑者の犯行動機 解明なるか

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、取材にあたってきた絹川記者です。

まずは接点です。大東さんと田中容疑者のつながりをどう解明していくかということで、逮捕された田中容疑者への捜査の進展というのはどうなっているのでしょうか。

スタジオゲスト
絹川 千晴 (NHK京都 記者)
京都府警担当

絹川:
捜査関係者によりますと、田中容疑者は福岡から京都への移送中など、雑談には応じています。

桑子:
雑談には応じているわけですね。

絹川:
はい。ただ一方で、事件については口を閉ざしていて、黙秘の状態が続いているとみられます。

警察はこうした状況も十分想定したうえで逮捕に踏み切っていて、周辺の関係者に話を聞いたり、関係先を捜索したりして捜査を進めています。

桑子:
続いて動機です。なぜ、大東さんを殺害したのか。この動機を解明していくにはどんなことが必要になってきますか。

絹川:
被害者との個人的なつながりがないことから、警察は田中容疑者はあくまで銃撃の実行犯だと見ています。暴力団組織の犯行では多くの場合、実行犯の背後には組織側の意思が存在します。田中容疑者にとっての動機は、組織の指示や、命令である可能性があります。しかし、そこを解明するには組織がどう関与しているのか背景を明らかにする必要があります。

桑子:
田中容疑者の直接的な動機と、さらに背景があるのであれば、大もとの動機がどうなのかというところも焦点になってきますよね。ただ、田中容疑者が所属している工藤会、鉄の結束と言われているんですね。

絹川:
はい、上意下達の厳格な組織として知られています。内部の証言を集めること自体が難しく、組織の関与の有無、そして動機の解明には高いハードルがあると考えられます。

ただ、今回これまで捜査してきた京都府警は、工藤会と長く対じしてきた福岡県警との合同の捜査本部を立ち上げました。福岡県警は工藤会の壊滅作戦を展開し、切り崩し方を熟知しています。工藤会を弱体化させる中で新たな証言を得て、長年未解決だった事件について次々に容疑者を検挙しています。

桑子:
そして、動機を解明する上で警察が手がかりとしているのが、事件の3年後に会社が公表した調査報告書の内容です。報告書は、創業家出身の役員が長年にわたって不動産売買などの不適切な取り引きを繰り返し、その取り引き額は数百億円にも上っていたと指摘しています。

この問題を解消しようと社長就任以来奔走していたのが、大東さんでした。当時何があったのか。関係者たちが取材に応じました。

王将"不適切取引" その実態とは

不適切な取り引きによる不良資産を、大東さんの下で整理していた元総務部長の長谷川憲幸さんは、当時不動産の売却に当たっていました。創業家出身の役員が取締役会の承認を経ずに独断で買ったビルの購入額は、5億3,000万円。しかし、売却金額は8,000万円でした。

元総務部長 長谷川憲幸さん
「赤字覚悟でもいいから、とにかく早く売れという感じでした。普通は外食やってて、こんなビル買いませんよ。店舗を出せるなら買いますけれども。なにも(会社には)プラスはないと思う。買わされたのかなという感じ」

会社の経営に暴力団が影響を及ぼしていなかったか、第三者の弁護士らがまとめた調査報告書です。「会社と反社会的勢力との関係の存在は確認されなかった」とした一方、「創業家が、経済合理性が明らかでない多額の貸し付けや不動産売買等の不適切な取り引きを繰り返していた」と指摘。取り引きの総額は、およそ260億円に上っていました。

調査報告書の作成に関わった竹内朗弁護士は、不適切な取り引きの背景に創業家への権限の集中があったと指摘します。

調査報告書を作成 竹内朗弁護士
「創業家の出身者が社長、専務になって、大株主であって、スーパーパワーですよね。(創業家が)経営を担っていた時代に、それだけの不適切な取引が独断専行で行われて、本来はそういう力をけん制するために社外取締役ですとか、社外監査役がいるわけですけれども、そういう方々も全く機能しなかった。それが全体として、ガバナンスが壊れていたということです」

さらに調査報告書が指摘したのは、会社と巨額の取り引きをしていた企業経営者の男性との関係です。男性との関係はなぜ始まり、長く続くことになったのか。

始まりは40年ほど前。京都に新店舗を開店させようとした時、行政との間に問題が起きました。その解決に頼ったのが、企業経営者の男性でした。

創業者が亡くなったあとに社長も務めた望月邦彦さんは、創業者が生前、男性に相当の謝礼を支払うべきだと語っていたといいます。

元社長(2代目) 望月邦彦さん
「『望月さん、どうだろう、300万円かね』って言うんですよ、最初。200万円か300万円、300万円というのを強調していました。私は100万ぐらいと思っていた。『ちょっと多くありませんか』って申し上げたら『望月さん、この店が1か月営業したらいくら利益が出ると思う?考えてみて』と。それで私も『それじゃ安いものですね』と」

大東さんが社長に就任した頃には、創業家出身の役員と男性側との取り引きが常態化。海外の不動産の購入や貸し付けなど巨額の資金が流出し、負債総額は452億円にも上っていました。

竹内朗弁護士
「大東さんは、きっちりコーポレートガバナンスを立て直していかないと、この会社の将来はないと思われたんだと思いますし、それにまい進する中で、創業家とのいろんなあつれき、確執のようなものが生まれたんだと思います」

不適切な取り引きを断ち切ろうと、大東さんは独自の内部調査を行い、亡くなる直前に文書にまとめていました。当時、取締役会でその文書を見せられた元役員は、その場で詳しい説明はなかったといいます。

元役員
「それ(文書)を見せられるために別室に行って、見せられて、すぐ回収させられました。10分弱だと記憶しています。(文書を)見せられないなと分かるから、見てほしくないんだなというようなところが一番心に残っています」

別の元役員は、大東さんが思い悩んでいたように見えたと証言します。

元役員
「亡くなる何日か前に、魚釣り行った。大東社長、魚釣り好きやから。あの時でも、表情、元気がなかった。けっこうなんて言うの、思い詰めたことでもあったんかな。なにかあったら、自分になにかあったらと、それはけっこう、ちらちらと言っていた」
長谷川憲幸さん
「大東社長、顔面神経痛みたいに顔がぴくぴく膨れるんです。借金の返済とかで、その面で気苦労があったのかなって。『これ解決せなあかんよな』とぽそっと出ますから、自分がやらないとあかんという使命感を大東社長は持っていたと思う」

今後の捜査は?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
この不適切な取り引きと事件との関連について、警察の捜査はどうなっているのでしょうか。

絹川:
関連があるのかないのか、分かっていません。警察は、決定的な証拠や証言がない中で、会社が公表した調査報告書の内容に注目しています。当時、大東さんの周りで何が起きていたのか、全容解明に向けた捜査を始めたばかりです。事件当時の複数の役員から改めて任意で事情を聴いた他、この取り引きを主導したと見られる創業家出身の元役員らの自宅を関係先として捜索するなどして慎重に調べています。

桑子:
私たちは、この不適切な取り引きをしていた企業グループの元代表を、2日の午後に取材することができました。警察から捜査を受けていることは認めた上で、事件との関連性については否定しました。

王将と取り引きがあった企業グループ 上杉昌也元代表
「金融機関も含めて取引先も離れていくような状態で、とにかく反論のしようがない、闘いようがない。こうして皆さんに意を決して、いま表に出るべきじゃないかなと。そう覚悟して、きょうはお会いしているわけです。

何が不適切なのか、取引方法なのか。これだけ高額な金額が一私企業の中から行方不明になっていて、当事者として指摘されている私に対して何の調査もない、何の確認もない、そういう書類の作成だったと思います」
取材班
「工藤会との接点は?」
上杉昌也元代表
「全くないわけではない。私は地元でゴルフ場を経営しておりましたので、どういう理由かはわかりませんが、ゴルフに何回かお見えになったことを認識しております。ただし、深いつきあいはありません。逮捕されているといわれる田中氏は面識はありませんし、なぜそういう事態になったのか、事実関係がはっきりしているのか、それについてはすごい疑問を思っております」
取材班
「事件との関わりは?」
上杉昌也元代表
「全くありません」

桑子:
事件との関与は全くないと断言していました。田中容疑者との接点もないということです。そして「不適な取り引きとされていること」を否定していましたね。

絹川:
上杉元代表は、取り引きがあったことは事実だとした上で「王将側から持ちかけられたもので金額も水増しされている。一方的に自分を悪く見せる内容の報告書が公表されたことで、警察に疑われてしまった。事件への関わりはない」などと話しています。

桑子:
この報告書は一方的な内容で、自分は事件には関わっていないということですね。

絹川:
一方で、上杉元代表との取り引きを主導したとされる創業家の元役員の弁護士に取材しました。弁護士は「事件や容疑者の逮捕についてコメントしない」としています。

桑子:
今後の捜査のポイントはどういうところになってきますか。

絹川:
京都府警は、これまでのべ26万人以上の捜査員を投入し、現場に残された資料の鑑定や流通ルート、防犯カメラの映像などをしらみつぶしに調べ、執念の捜査で逮捕にこぎつけました。状況証拠を積み重ね、田中容疑者の関与は立証できるという立場です。

桑子:
田中容疑者の関与は立証できる、それからその先ですね、事件そのものの捜査の焦点はどんなことになってきますか。

絹川:
ここからは、事件の背後関係をどう解明できるかが最大の焦点となります。今回、容疑者の逮捕という新たな局面に入ったことで、これまでに分かっていなかった証拠や証言が得られる可能性があります。暴力団組織の関与の有無や、9年という時間の経過を考えれば難しい捜査になることが考えられますが、企業のトップはなぜ殺害されたのか、警察がどこまで全容を解明できるかが注目されます。

桑子:
亡くなった大東さんの長男は、容疑者の逮捕後に次のようにコメントしています。

大東隆行さんの長男
「当たり前の日常が突然奪われたあの日から、9年がたとうとしています。ようやく逮捕の一報を聞きましたが、正直『やっと』という思いと『なぜこのような長い月日となったのか』と、いろいろな思いが交錯しています。なぜ、大切な父の命が奪われなければならなかったのか。しっかりと真実を明らかにしてもらいたい気持ちです」

一刻も早い事件の解決が望まれます。

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