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2022年10月26日(水)

急増する盗撮 暮らしに潜む危険と対策

急増する盗撮 暮らしに潜む危険と対策

いつもの駅や電車、職場、学校、自宅にまで「盗撮」のリスクが…。公衆トイレの排水溝、銭湯のお風呂セットなど、生活のあらゆる場所に小型カメラが潜み、盗撮被害が急増しています。検挙数は10年前の2倍に。被害者は適応障害になるなど日常を奪われ、深刻な影響が。しかし盗撮を取り締まる直接的な法律がないため、多くが事件化されず被害者は泣き寝入りしているのが現状です。被害の実態を徹底追跡。対策について検証しました。

※この記事では、被害を未然に防ぎ加害をなくす動きにつなげるため、手口や加害者の心理などを具体的に伝えています。ご気分が悪くなるような表現があるかもしれません。あらかじめご留意ください。

出演者

  • 上谷 さくらさん (弁護士)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

学校やスーパー銭湯まで… 日常に潜む盗撮

20年以上にわたり、盗撮被害者の支援に取り組んできた平松直哉さんです。探偵業のかたわら被害者の相談を受け、盗撮現場の調査などを行ってきました。

見せてくれたのは、インターネット上にあふれている盗撮映像です。着替える様子や、スカートの中を撮った映像。盗撮をしたのは同級生の女子生徒だといいます。

全国盗撮犯罪防止ネットワーク代表 平松直哉さん
「友達が友達を撮影している」
取材班
「友達じゃなきゃ撮れない角度ですね」

次に見せてくれたのは、公衆浴場での盗撮映像。顔や体にモザイクはなく、さまざまな年代の女性がそのまま映っています。

平松直哉さん
「『私は年齢いってるから』、『私は胸がないから』とか、みんな『私は狙われない』という自信を持ってる。盗撮映像っていうのは、すべての人が性的な対象になっている商品なんですよ」

手口も巧妙になっています。

平松直哉さん
「ここにカメラがあるんです」

高画質の4K映像が撮影できるという、カメラ。

中には、バッテリーと記録媒体が仕込まれています。

平松さんたちは入浴施設を特定し、施設に伝えていますが、ほとんど対応されないといいます。

平松直哉さん
「女性は盗撮ビデオを見る機会がないので、被害実態に気づかないんですね。(施設側も)客足が落ちますから公表することもないですし、結局(インターネットに)流され放題っていうのが現状だと思います」

盗撮は、プライバシーが守られているはずの空間で、むしろ多く起きています。

2021年、最も多く検挙されたのは公衆浴場やトイレ、更衣室など「衣服をつけないことがある場所」。「商業施設」や「駅構内の階段・エスカレーター」の数を上回っているのです。

奪われる"安全な日常" 盗撮被害者の苦しみ

4年前、通っていた大学のトイレで盗撮被害に遭ったあずきさん(仮名)、24歳。自宅以外のトイレが怖くなり、カメラが隠されていないか隅々まで確かめなければ入ることができません。

あずきさん(仮名)
「緊張してしまって、また同じような被害に遭うんじゃないか」

被害に遭ったのは、勉強やアルバイトに打ち込んでいた大学3年生の時でした。

授業の前に入ったトイレで、扉の下からスマートフォンが向けられていることに気付き、恐怖で固まったといいます。盗撮したのは、同じ大学に通う男子学生でした。

あずきさん
「下着姿や裸の姿って、ちょっと親に見せるのもためらいませんか。顔見知り程度の人が見ようとしてくる。自分の安全を侵されるといいますか、その怖さが強かったです」

あずきさんは必死の思いで大学に訴え、被害の状況を説明しました。

あずきさんが録音していた音声
「(震えた声で)トイレに入ったら、3つ並んでいるのが見えるんですね」

しかし、担当者の対応からは男子学生を擁護するような印象を受け、中でも、ある言葉に深く傷ついたといいます。

大学の担当者(実際の音声)
「大学が警察を呼ぶっていうことは、よっぽどのかぎりにおいてじゃないと、ないのかなと」
あずきさん
「『よっぽどのことじゃない』って言えてしまうのが、すごいなと思っていて。盗撮行為って、やっちゃいけないことですし、犯罪じゃないですか。理解してくれない、寄り添ってくれない対応がいちばんきつかった」

あずきさんは、みずから警察に通報。男子学生は罰金刑になり、大学からは停学処分を受けました。

しかし、安心できる日常は戻っていません。あずきさんは適応障害と診断され、被害から4年たつ今も、薬が手放せずにいます。

あずきさん
「眠れなかったり、急に泣きたくなる。線路を見て、ここに入ったら楽になれるのかなって考えてしまったり。忘れられるものなら、忘れてしまいたいですよね」

取材班には、被害に遭ったという男性からの声も寄せられました。小学生の時、ショッピングモールのトイレで盗撮されたという拓也さん(仮名)です。背後から近寄ってきた男性に突然、性器の写真を撮影されたといいます。

拓也さん(仮名・20代)
「光ってシャッター音もしたので、そのときに写真撮られたって気づきました。かなり恥ずかしかったし、悔しかったです」

その後、カメラを向けられることに恐怖心を持つようになりましたが、20年近く被害について誰にも言えませんでした。

拓也さん
「まさか男の自分が(盗撮)被害に遭うとも思わなかったですし、ばかにされたり、笑われたりしそうなのかなって思ったりして。本当は吐き出したいなと思っていたんですけど、吐き出せなくて、ずっと苦しんできました。」

盗撮画像を性的コンテンツとしてSNSに流され、深く傷ついた人もいます。菜摘さん(仮名)、24歳です。

高校時代に盗撮された写真がネットに流されていることを、2年前、友人から知らされました。制服のスカートの中が見える写真で、教室で知らない間に撮られたものでした。

菜摘さん(仮名)
「疑いたくないんですよ、同級生だし。本当にそこがすごくショックで。そんなことする人が身近にいたんだっていう」

写真は、でたらめで卑わいな言葉とともに投稿されていました。そこには数十件の「いいね」と、もてあそぶようなコメントも。警察や弁護士に相談しましたが、投稿者のアカウントを凍結することしかできませんでした。

菜摘さん
「本当にただのコンテンツとしてしか見ていないんだろうな。あのさらされている画像の女性が本当に生きていて、ちゃんと意思があって、気持ちがあって、"生きている人間なんだ"っていうところまで気持ちが追いついてないというか」

盗撮なぜ急増? "軽視"の実態とは

これほど盗撮がはびこる背景には何があるのか。

加害者521人への調査で盗撮を始めた動機を聞いたところ、最も多かったのは「盗撮軽視」。興味本位の軽い気持ちで始めたというのです。

盗撮をしたという17歳の高校生。自分の行為への後悔から取材に応じました。中学生の頃からスマホを持ち、友人たちとこっそり写真を撮り合う遊びをしていたといいます。さらに、実際の盗撮写真やアダルトサイトに触れるうちに、盗撮は犯罪だという認識は薄くなっていったと明かしました。

盗撮をしたという高校生
「簡単に目に入るっていうか、手に入る。だからこそ自分の中でそれ(盗撮)は身近になってきて、自分でもできるんじゃないかとか、やってみたいっていう気持ちとがあった」

勉強などでストレスを感じていたある日、女子トイレに侵入。スマホで隣の個室の女性を撮影したといいます。気付いた女性が通報し、警察から指導を受けたという高校生。被害女性が苦しんでいることを聞き、初めて相手を深く傷つけたと気が付いたといいます。

盗撮をしたという高校生
「自分が日常生活の中で性的な目で見られるという経験自体もないですし、そういう生活の中で、どうしても被害者の感情をあまり考えにくかったり、被害者の感情とか声とかを聞けば、盗撮しようって思い自体が出ることはなかったかなと思います」

社会のデジタル化により、若い世代ほど盗撮に手を出しやすい状況があると指摘する人がいます。長年、性犯罪加害者の治療や研究をしてきた斉藤章佳さんです。

斉藤さんたちが加害者に行った調査によると、盗撮を開始した年齢は10代と20代が7割を占めています。スマートフォンの存在が身近な若い層が、罪の意識なく手を出しているとみています。

大船榎本クリニック 精神保健福祉士・社会福祉士 斉藤章佳さん
「例えばTikTokの動画で下着が見えるか見えないかの女子生徒の動画があって、(同じクラスの男子生徒が)『この子は下着を見せたがっているんだ』と認知して、(動画を)投稿した相手を盗撮するという行為があって。同意なく撮影することに対する暴力性とか、このへんは教わらないと子どもたちはわからないと思うんですね」

加害者の盗撮の頻度は、平均して週2~3回。受診につながるまで、平均7.2年。ひとりが1,000回以上の盗撮行為を重ねている計算になります。

斉藤章佳さん
「日本社会の中にある盗撮を軽視する風潮も相まって、非常に手軽に常習化しやすいという特徴もありますし、背景にあるところにちゃんと踏み込んで向き合っていかないと、この問題は減っていかないなと思います」

日常に潜む盗撮 対策は?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
もし、自分が同じことをされたらどう感じるでしょうか。ぜひ考えてみてほしいと思います。盗撮の犯罪がなくなることがいちばんですが、私たちが被害を未然に防げる方法もあります。

盗撮が起きやすい場所と対策
エスカレーター
前ではなく横を向いて乗る

盗撮の実態に詳しい平松直哉さんによると、エスカレーターにおいては「前ではなく横を向いて乗る」ことで、盗撮犯に「気付かれるかもしれない」という恐れを与えることができます。

トイレ
死角になりやすい場所やゴミなどチェック

そして、トイレです。貯水タンクや棚など死角になりやすい場所、紙コップやペットボトルなどのゴミに小型カメラが仕込まれている場合もあるので、こういった場所もチェックしてほしいということです。

銭湯・温泉
置きっぱなしの「お風呂セット」、不自然な人に注意

そして、銭湯や温泉施設。置きっ放しのお風呂セットだったり、長時間脱衣所にいたり、うろうろしたりする不自然な動きをする人に注意してほしいということでした。

どうすれば盗撮の被害を減らせるのか。きょうのゲストは、被害者の支援に取り組んでいる弁護士の上谷さくらさんです。

ここまで盗撮が広がっていることに衝撃を受けましたが、なぜここまで深刻になってしまっているのでしょうか。

スタジオゲスト
上谷 さくらさん (弁護士)
盗撮などの性暴力被害者を支援

上谷さん:
盗撮というのは「直接触らない犯罪」なんです。なので、被害者が被害に遭っていることに気付きづらい。そのため、加害者が罪の意識が非常に薄いということと、スマホの普及によって誰もが盗撮を簡単にできてしまうという環境が整ってしまったということがあります。

桑子:
これは重大な性犯罪ですよね。

上谷さん:
それはもちろんです。

桑子:
盗撮の検挙数を見ていきたいと思うのですが、この10年で倍増はしています。

ただ、これは氷山の一角だという指摘があります。というのも、非常に取り締まりにくい状況があるのです。

盗撮の法制度 課題は?
◆直接取り締まる法律がない(主に迷惑防止条例)
◆罰則が軽い
◆ネット上の映像 取締り困難
◆「私有地」違反にならないことも

盗撮の法制度にさまざまな課題があるということで、まず直接取り締まる方法がなく、主に各都道府県が定める「迷惑防止条例」が使われているということです。

上谷さん:
条例ですので、地域によってどういう犯罪行為が犯罪になるのか、ならないか、罰則の重さなどが異なっています。

桑子:
罰則が軽いということもあるのでしょうか。

上谷さん:
そうですね。初犯で起訴されるということは、まずないです。大体は、せいぜい略式起訴で罰金も10万円から20万円程度かと思います。

桑子:
そして、ネット上の映像の取締りは難しいのでしょうか。

上谷さん:
画像の数が多過ぎて取締りが追いつかないという現状と、海外のサイトに飛んでしまうと捜査が難しいということがあります。

桑子:
そして、私有地は違反にならないこともあるんですね。

上谷さん:
条例によるのですが、例えば会社の更衣室などの私有地は規制の対象外になっている条例もあります。

桑子:
どういうことでしょうか。

上谷さん:
もともとは、条例というのが「公の健全な風俗を守る」ということで作られているので、そもそも「公の場所での盗撮のみ」が規制の対象となっていたということですが、被害者としてはどこで撮られてもつらい気持ちは同じということで、いま改正が進んでいるところです。

桑子:
迷惑防止条例は自治体によって本当にさまざまです。もう一つ問題になっているのが、"移動中"に起きる盗撮を取り締まる難しさです。それを象徴する例があります。

"移動中"の盗撮 取締りの壁は

全国の空を移動する航空業界では、機内での盗撮が長年問題になってきました。

客室乗務員などで作る組合が行った調査では、機内で盗撮や無断撮影された経験が「ある」、「断定できないがあると思う」という回答が6割に上っています。

こうした中、組合は直接的に盗撮を取り締まる法律の制定を求めています。きっかけとなったのは、2012年に起きた"ある事件"です。

高松から羽田へ向かう機内で、乗客の男性が客室乗務員のスカートの中を盗撮。逮捕された男性は容疑を認め、複数の画像も見つかりましたが起訴されず、罪に問われませんでした。壁となったのは、盗撮した場所が特定できず「どの都道府県の条例を適用できるか分からない」ということでした。

航空会社のオペレーションセンターでは、高速で移動する飛行機の正確な位置を知るのは難しいといいます。

JALオペレーション本部 山﨑崇央さん
「ちょうど愛知県から三重県に入るところ、これから滋賀県に抜ける。おおむね30秒から1分で飛び越えてしまう。細かい単位で正確な時刻情報がないと、場所としては特定できない」

この問題は客室乗務員に限らず、乗客にも関わることだと組合は訴えます。

航空連合 副事務局長 皆川知果さん
「働く仲間が守られていないことにも悔しさを感じましたが、お客様も守れないと、機内の秩序を守れない。もっと重大に捉えなければいけないと感じております」

急増する盗撮 "新たな法律"の議論

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
さまざまな課題がある中で、都道府県ごとの条例ではなく、新たな法律を作って全国一律に盗撮を取り締まろうという議論が法務省で進んでいます。今週、試案が示されました。その一部をご紹介します。

まず「撮影罪」ということで、撮影行為そのものを罰しようというものです。さらに、「影像(えいぞう)送信罪」というのは、盗撮した映像などをインターネットに流した場合でも罰しようということです。

こういった案が出ているわけですが、上谷さんは長年厳しく盗撮を取り締まろうと訴えてこられて、どんな印象を持っていますか。

上谷さん:
まず「撮影すること自体」について、非常に重い罪、または罰金が定められています。

桑子:
「重い」という評価ですね。

上谷さん:
条例と比べると格段に重いですね。また「影像(えいぞう)送信罪」というのは、撮影されることも嫌なのですが、拡散されて世界中の誰が見ているか分からないという恐怖感は非常に強い重大な被害ですので、これがきちんと法律になって、しかも5年以下の拘禁刑、500万円以下の罰金という非常に重いというインパクトがあります。

桑子:
この中で、ちょっと不十分だなと思うところはありますか。

上谷さん:
「撮影罪」については、この条文ですと、いま問題になっているアスリートの盗撮ですね。ユニホーム姿の上から性的な画像を撮るということが対象外になってしまう。

桑子:
これは下着になっていますからね。

上谷さん:
そうですね。それから「500万円以下の罰金」というところですね。かなり盗撮画像で稼いでいる人たちがいるわけです。その人たちにとっては、少し安いかなと思います。

桑子:
もっと上げられるのではないかと。こうした試案をもとに、これからも議論がされていくということです。

先ほど、被害を未然に防ぐ方法もご紹介しましたが、もし自分が被害に遭ってしまったときにどうすればいいのか。

盗撮被害に遭ったら 目撃したら(警視庁)
◆声を上げたり、周囲に助けを求めたりしてすぐに110番通報を
◆盗撮現場を目撃した場合や盗撮カメラを発見した場合も、すぐ通報して
◆被疑者や被害者がいなくても、目撃者の証言で捜査可能

通報をためらうという方がいらっしゃるかもしれないのですが、警視庁はすぐに110番通報してほしいということです。

また、盗撮現場を目撃した場合や盗撮カメラを発見した場合も、すぐに通報してほしいということです。

さらに、目撃者の証言があれば、それだけで捜査ができるということも言っていました。他に私たちができることって何かありますか。

上谷さん:
もし被害に遭ったら、例えば「加害者の背中でもいいので、できたら写真を撮る」。それから、もし加害者がいなくなってしまっても「ここで盗撮された」という「現場の写真を撮っておけば捜査のヒント」になります。ぜひ、そういったことをしてほしいと思います。

桑子:
とにかく「記録に残す」という。動揺しているかもしれないですが、大事なことですね。これから、盗撮の加害者、それから被害者のどちらも出さないために、私たち一人一人ができることはどんなことでしょうか。

上谷さん:
まず、盗撮被害が非常に重大なことであるということを認識する必要があると思います。いま、特に子どもたちは気軽にたくさん撮っていると思いますので、まず小学校から、早い時期から「これは絶対にやってはいけない」と。今後、刑法で処罰される重大な犯罪であるよということをきちんと勉強することが必要です。

桑子:
実際に、小学生の間でもこういった盗撮というのは起きているのでしょうか。

上谷さん:
実は、いたずら半分ですがかなり起きていて、被害は本当に重大です。子どもだから許されるというわけではありません。親御さんも、スマホを渡すときには必ず「こういうことはだめですよ」ということを徹底して、渡していただきたいと思います。

桑子:
手軽にできてしまうからこそ、事の重大さを認識しづらいということもあるかもしれません。ただ繰り返し言いますが、盗撮というのは重大で深刻な性犯罪です。改めて一人一人認識したいと思います。大切な人が盗撮の被害に遭ったとき、友人や家族など周りの人たちもできることはあります。

もし盗撮に遭ったら 私たちにできること

大学のトイレで盗撮された、あずきさん(仮名)。

"よっぽどのことではない"と言われ、傷ついてきました。

支えになったのは、友人たちです。

あずきさん(仮名)
「私がお手洗いに行ってくるねって言ったときに、一緒についていこうかってさりげなく声がけをしてくれたり。折れてしまいそうになったこともあるんですけど、真剣に話を聴いてくれたので、それぐらい深刻に取り扱っていい話なんだと思えたので、すごく救われました」
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