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2022年10月17日(月)

ウクライナ反転攻勢の裏で何が “追い詰められる”ロシア

ウクライナ反転攻勢の裏で何が “追い詰められる”ロシア

ロシア軍から要衝を奪還し反転攻勢を強めるウクライナ。一方、報復措置だとしてウクライナ各地へのミサイル攻撃を行ったロシア。情勢は重大な局面を迎えています。最前線の取材から浮かび上がるのは“追い詰められる"ロシアの姿。徴兵を逃れようと国外に脱出した人の数は70万人にものぼるとされています。現地で何が起きているのか?ロシアが核の使用に踏み切る恐れはないのか?最新情報とともに、今後の展望について徹底検証しました。

出演者

  • 山添 博史さん (防衛研究所)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

反転攻勢ウクライナ その裏でロシアは

桑子 真帆キャスター:
ロシアとウクライナを巡る、この2か月の情勢です。

8月まで戦線はこう着状態にありました。9月上旬、ウクライナが反転攻勢を始め、ウクライナ政府によるとこれまでに青い部分、600を超える集落を奪還したとしています。

これに対し、9月30日にロシアは、支配していた4つの州について、一方的に併合を宣言しました。そして、10月8日にロシアとクリミア半島をつなぐクリミア大橋で爆発。その2日後、ロシアは報復だとしてウクライナ全土にミサイル攻撃を開始。さらに、ロシアとベラルーシが合同部隊を編成すると表明しました。

激しい応酬は何を意味するのか。まずはウクライナの反転攻勢、その最前線です。

独自取材"作戦の舞台裏"

9月、東部ハルキウ州でウクライナ軍兵士が撮影した映像です。ロシア軍が放棄した戦車や大量の武器、弾薬を手に入れていました。

ウクライナ軍 兵士
「(ハルキウ州の)イジュームでは、2020年製のT-90戦車も手に入れました。ロシアは、ウクライナ軍にとって武器の大きな供給源になったのです」

ロシア軍によって占領されてきた、ハルキウ州。9月に入り、ウクライナ軍の反転攻勢で奪還が進みました。

今回、その奪還作戦に参加した前線の兵士や軍の関係者の話から、作戦の一端が見えてきました。

前線のウクライナ兵
「これは本部の大作戦だった」
前線のウクライナ兵
「すべては9月6日の早朝5時に始まった」
ウクライナ軍 広報官
「私たちの諜報部は、ロシア軍のすべての隊長たちの名前を把握していました。彼らの性格なども含めた詳細な情報に基づき、私たちは戦略を考えています」

きっかけは7月。ロシア軍が占領していた南部ヘルソン州の橋が、ウクライナ軍の攻撃で破壊されたことでした。

8月30日 ウクライナ ユナイテッドニュースより
「ウクライナ軍は、へルソン州にいるロシア軍の防衛ラインを突破しました」

ウクライナ軍は、ロシア軍の補給路を断ったうえで南部での大規模な攻撃を開始。ロシア軍をじりじりと押し返していきました。これに対しロシア軍は、東部ハルキウにいた部隊の一部を援軍として送ります。

東部ハルキウの前線で戦っていたウクライナの領土防衛部隊に所属するオレクサンドルさんは、この時、ロシア軍の動きを詳細に察知していたといいます。

ウクライナ領土防衛部隊 オレクサンドルさん
「われわれの部隊は、航空写真による偵察を実施した。それによって収集された情報を、本部の情報機関に送信しました。攻撃の決定は、キーウで行われました。私の知るかぎり、偵察は1か月以上行われたようです」

ロシア軍が手薄になった東部。そこにウクライナ軍は、ひそかに兵力を集めたといいます。

オレクサンドルさん
「8月の終わりには多数の部隊が集まり、大量の武器と兵士の準備が完了していました。ロシア軍は大量の武器が輸送されているのを見たかもしれませんが、何が起きようとしているかは、全く理解していませんでした。われわれは、あえてさまざまな方向から行動し、敵を欺くことに成功しました」

陸上自衛隊で数々の作戦計画を研究してきた松村五郎さんは、この時、ロシア軍が東部から南部に兵力を移したことが戦況を分けたと指摘します。

元陸上自衛隊 東北方面総監(陸将) 松村五郎さん
「東部の北の方にいた予備隊を、南部のヘルソン正面の方に向けて動かした。予備隊は非常に軍事的に大事なもので、第一線で部隊が戦っているときに敵の部隊に第一線が破られて侵入された場合に、すぐに予備隊が侵入されたところを塞ぐという役割を持っています。それが、南部が危ないということで予備隊を南部に動かした」

予備隊とは、前線で敵と向き合う正面部隊を後ろでカバーする役割を担っています。東部には5つのロシア軍部隊が展開していました。そのうち戦況が比較的安定していた北のエリアの予備隊が、南部に送られたと見られています。松村さんは、残された北から2番目の部隊に弱点があったと指摘します。

松村五郎さん
「2月24日からずっと戦っている部隊ですし、かなり大きな損耗を出している部隊ですので、物理的にも隊員の士気の面でもかなり疲弊している部隊であるということで、その正面が弱点であるということがいろいろな情報から分かっていたんだと思います」

東部に集結していた複数のウクライナ軍部隊が突如動き始めたのは、9月6日。

狙ったのは、予備隊が抜けて手薄になった北側の2つの部隊の隙間。ウクライナ軍の攻撃を受け、補給路を断たれた北から2番目の部隊は撤退を開始します。

ハルキウ州の最前線にいた一番北側のロシア軍部隊は、いなくなった予備隊の代わりにウクライナ軍を止めようと東に後退。

その結果、ウクライナ軍は1日に数十キロ進軍するという異例のペースで占領されていた町を奪還。1週間余りで、東京都ほどの面積の領土を取り返したと見られています。

オレクサンドルさん
「うれしかったです。占領下で何が起きているか分かっていましたから。数か月ぶりに人々を占領から解放することができ、本当によかったです」

その後も東部で反転攻勢を続けた、ウクライナ軍。10月1日にはドネツク州のリマンを奪還しました。

ここは、ロシア軍が東部エリアへの侵攻の拠点としてきた戦略上の要衝。ロシアに大きな衝撃を与えました。

反転攻勢を見せるウクライナ。ただ、松村さんは、今後の戦況は予断を許さないと指摘します。

松村五郎さん
「ウクライナ側が反転攻勢に出ていますので、ロシア側は東部地域をすべてウクライナ側に奪回されることがないように、防御の比率を最初のころよりも高めているのではないかと思います。東に行けば行くほどロシア国境と近づいて、ロシア側の補給線というのも短くなってロシアの補給もしやすくなる地域ですので、陣地が強化されていることと、ロシア側の本土に近くなるという2つのことを考えると、非常に難しい戦いになってくるのではないか」

検証・反転攻勢ウクライナ 今後の戦況は?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうののゲストは、防衛研究所でロシア安全保障を研究している山添博史さんです。

改めましてボードで戦局を見ますと、この1か月ほどでウクライナは青い部分を奪還したわけですが、ロシア軍はなぜここまでウクライナ軍の反撃を許してしまったのでしょうか。

スタジオゲスト
山添 博史さん (防衛研究所)
ロシアの安全保障に詳しい

山添さん:
松村陸将からもお話しがあったように、ウクライナの作戦の"すごさ"というのはありますよね、やはりロシアが予期できていなかった。

ウクライナとロシアを対比すると、ウクライナ軍がNATO流の訓練を受けていたこともあり、各部隊がかなり自分の判断で動きやすくなっていた、指揮統制について強みがあった。逆にロシアは驚いて、対応しないといけなかったわけです。

桑子:
劣勢になっていると。

山添さん:
臨機応変の対応がしにくい、上からの命令を聞くしかできない指揮統制になっていたと思います。

桑子:
混乱する中で、命令系統がうまく成り立っていなかったのではないかと。

山添さん:
そうですね。

桑子:
そうした中で、ロシア軍は今「防衛ライン」というものを作っています。深い溝が掘られ、戦車の侵攻を阻む巨大なコンクリートを置いています。こういうものがある中で、今後戦局というのはどうなると見ていますか。

山添さん:
次の防衛ラインとして、ロシアがこの先に備えようとしているもので、これは人数を使って防衛しようというものだと思います。

ただ、これが本当に使えるかどうかというのは、しっかり訓練された兵であればかなりの効果を持って防衛できるようになってくるのですが、先ほどの指揮統制の根本的な問題もありますし、動員されたばかりの兵を指揮する下士官もかなり不足しています。なので、ロシアはかなり立て直さないと、この防衛を十分にすることはできないかもしれません。

桑子:
ロシアは予備役の部分的動員を進めているわけですが、どのように見ていますか。

山添さん:
今、すぐに投入されている部分については、彼らはほとんど訓練されてない。ほぼ人的資源の無駄遣いであるわけなのですが、さらに、今30万人かそれ以上かもしれませんが、さらに控えている、次にしっかり訓練をしていく、冬から春に向けてしっかり投入していく部隊というのも考えていると思いますので、それによっては動員の効果というのが出てくる。少なくともロシアはそういう主張をしているはずです。

桑子:
春以降のことまで考えられているということですね。

山添さん:
そうですね、その先までですね。

桑子:
厳しい戦局に置い込まれているロシア。この状況は、プーチン政権やロシアの社会にどんな影響を与えているのでしょうか。

"劣勢"の裏でロシアは プーチン政権の思惑

ウクライナ国防省が9月に設置した、ロシア兵向けのホットライン。

ロシア兵
「私はロシアの兵士です。戦いたくない。すぐに捕虜にしてもらえますか?」

ホットラインの名前は「生きたい(Hochu Zhit)」。投降を希望するロシア兵から電話を受け、情報提供を行っています。問い合わせは、これまでに2,000件以上に上るといいます。

投降した兵士
「仲間はほとんど死んでしまいました」
投降した兵士
「電話で場所を教えてもらって投降しました」

動員によって戦場に送られることを恐れ、周辺の国々に逃れる人も後を絶ちません。その数は、数十万人に上るとされています。

フィンランドに逃れたロシア人(10代)
「学校にいるのに、ある日突然動員され、人を殺しに行くのは絶対に嫌です」
トルコに逃れたロシア人(20代)
「2月にウクライナとの戦争が始まって、日常は消えてなくなってしまいました」

ロシア国内でも動揺が広がっていました。大切な人の命が失われるかもしれない現実に直面した、ロシアの人々。プーチン大統領の支持率は、侵攻の開始以来、初めて8割を切りました。

こうした中、国営メディアでは国民の動揺に寄り添うかのような動きが。国営テレビの討論番組で、動員を迫られるような事態を招いたことを出演者が相次いで批判しました。

<9月25日放送 ロシア国営テレビ 討論番組より>

国営メディア編集長
「部分動員など、ないに越したことはない。2人の子どもがいる女性、シングルマザーがなぜ招集されなければならないのか」

一方で、その批判は政権そのものにではなく、本来は対象外の人たちまで動員しようとした現場の担当者などに向けられたものでした。

ロシア国営テレビ 討論番組 司会者
「丁寧に丁寧に言おう。国民をもてあそぶな。ロシア国民は愛国的で、賢く、思慮深い。もしプーチン大統領の信用を失墜させようとする者がいるなら、やめておけと強く言っておきたい」

国民の不満を受け止めながらも、批判の矛先をプーチン大統領からそらし、政権の安定を保つ。それこそが国営メディアの役割だと指摘する人がいます。

ファリダ・クルバンガレエワさんは、かつて国営テレビの看板番組の司会を務めてきましたが、政権のプロパガンダの一翼を担うことに疑問を感じ、8年前に退職。今は、ロシア国外でジャーナリストとして活動しています。

国営テレビ 元アナウンサー ファリダ・クルバンガレエワさん
「国営テレビの経営トップが毎週クレムリンの作戦会議に集められ、放送すべき内容について指示が与えられます。部分動員は極めて評判が悪いため、あえて批判の要素も入れることで国民に取り入るのが狙いでしょう。『プーチン大統領のせいではない』とすることが重要なのです」

さらに、戦況が悪化する中、国民の結束を固めるために強調され始めたのが"祖国を守る"という大義名分です。

9月、プーチン政権はウクライナ東部と南部、4州の一方的な併合を宣言。ウクライナ軍による奪還が進む中でのことでした。

そのねらいについて、プーチン政権に近い国際政治学者は。

政権に近い国際政治学者 アンドレイ・コルトゥノフ氏
「政権はこれまで『特別軍事作戦』としていたものを『祖国防衛の戦争』に変えようとしています。併合した地域で戦闘が起きればロシアの領土への侵害とみなし、相応の対応を取ることになるでしょう」

そのやさき、ロシアが8年前に一方的に併合したクリミアとロシアを結ぶ橋が爆破されます。

ロシア プーチン大統領
「『わが国の領土』でテロ攻撃の試みが続くなら、ロシアの対応は厳しくなる」

その後ロシアは、報復措置だとしてウクライナ各地に大規模なミサイル攻撃を実施。首都キーウなど複数の都市で、合わせて30人以上が亡くなりました。

一方、ロシアの人々はこの状況をどう受け止めているのか。直後にモスクワ市内で話を聞くと、報復攻撃を支持する人が少なくありませんでした。

「ロシア人が殺されるのは受け入れられません。報復は必要です」
「これは戦争です。ロシアが報復するのは当然です」

苦しい戦況の中、巧みに世論をコントロールするプーチン政権。政権から圧力を受けながらも独自の調査や分析を続けている調査機関の代表は、大統領への支持は当面揺るがないのではないかと見ています。

独立系世論調査機関レバダセンター デニス・ボルコフ所長
「経済の動向や戦況で新たな事態が起きないかぎり、今後半年は確実に世論に大きな変化は生じないでしょう」

プーチン掲げる"祖国防衛" ロシアはどう動く

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
当面はプーチン政権盤石なのではないかという見方もあるわけですが、山添さんはどう見ていますか。

山添さん:
確かに反対論という反対する人、逃げる人というのがいるわけですが、仮に100万人を超えたとしてもロシアの人口の1%にしかならないわけですので、まだではあるかと思います。

かつ、先ほど話がありましたように、大統領が動員という決断をして勝てる決断をしたけれども、動員の混乱は役人の失態であると。そういうふうにプーチン大統領がちゃんと命令し直せば直るような話ですから、それは落ち着いていくというような話かもしれません。

桑子:
プーチン大統領は「祖国防衛の戦い」ということを掲げ始めているわけですが、そうした中で今後、どういうふうに出てくると思いますか。

山添さん:
「祖国防衛」とは、動員をする少し前のころから、かなり強く言い始めていたのですが、動員をするのは、敵が強くなってきたからだ。ウクライナだけではなく、NATOが出てきたんだと。このウクライナでの戦いで勝てなければ、ロシアの精神世界まで崩されてしまう、ロシアの生き方が崩されてしまう、そういったことを言い始めたわけです。

そういう大きな戦いになっているので、国民が一丸となって動員に応じて勝たなければならない、そういう大きな話にしたわけです。動員によって兵力を補充し、訓練をして使える戦力にする。それによってウクライナとの戦いに勝つという。

桑子:
プーチン大統領が今後、国内で気をつける相手とは。

山添さん:
戦争反対論もありますが、少数派です。それは抑えつけるなり無視するなりすると。それよりも「もっとやれ」という強硬派が出てきたわけです。ここまで押されてきていて、なんでまだ動員しないんだ、なんで報復しないんだ、エネルギー施設を攻撃しないんだというような声が出てきていて、プーチン大統領は、それに応じた形で決断をしているというようにも見えます。

プーチン大統領としては、強いロシアを率いる強いリーダーであるということで、国民から見て弱く見えてはいけない。もっと強硬派がいて、そっちの方が元気であるよりは強硬で強い勢いはプーチン大統領が示す、だから動員の決断をしたと。強い敵と戦うためにわれわれは立ち向かう、みんなついてきてくれということをやっているわけですね。

桑子:
強い国、勝つ国でないといけないというこだわりが強くある中で、今後ロシアがさらに追い詰められていった時に私たちが気になるのは「ロシアが核兵器の使用をしてくるのか」。山添さんはどのように見ていますか。

山添さん:
これは常に考えておかなくてはいけないと思うのですが、今のところアメリカの当局がはっきり公に言いましたが、ロシアが核兵器を使えば、アメリカはかなり軍事的に対応するというようなことを言っています。ロシアにとっては、核兵器を使うとしたら、かなりリスクの高い決断になります。

桑子:
アメリカは、強いメッセージを発したわけですよね。

山添さん:
なので、勝てるかもしれないですし、大負けするかもしれない。その決断をできるだけ遅らせるほうがよいと。今はそれより先の決断として動員というのをやりましたので、30万人かそれ以上かの兵力をしっかり整えて、時間をかければ冬から春にかけてウクライナの戦況をロシアの本来の通常戦力で必ず勝てると。非常手段に訴えなくても勝てるとプーチン大統領は示しているので、まだ核兵器を使うまで追い詰められる段階ではないと思っています。ですが、本当に通常戦力というのがうまくいかない場合に追い詰められるという可能性は、考えないといけないかもしれません。

桑子:
今後、注目するポイントはどんなところでしょうか。

山添さん:
ロシアが戦いで追い詰められ、核兵器に訴えないといけないとなる恐れもありますし、あるいはロシアが内部から崩れることで大きな変化となる可能性もあると思っています。

桑子:
ありがとうございます。

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