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2022年10月3日(月)
値上げラッシュの秋 なぜ止まらない物価高

値上げラッシュの秋 なぜ止まらない物価高

10月に6700品目以上の食料品が値上げされ、家庭や企業を直撃。異例の物価高は、いつまで続くのか、どうすれば乗り越えられるのか、2夜連続で特集しました。第1夜は、物価高の原因を苦境であえぐ現場から探りました。食料品・飲食業界では、食用油の原料の需要が高まっているだけでなく、原産国が輸出制限に踏み切ったことで価格が高騰。“物価高倒産"は、過去最多を更新しています。物価高の先行きをエコノミストとともに深掘りしました。

出演者

  • 小林 俊介さん (みずほ証券 チーフエコノミスト)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

値上げ10円… から揚げ店の苦悩

こちらの、おいしそうなから揚げ。今回の値上げラッシュに大きな影響を受けています。

大分県中津市。人口8万の町に50以上の専門店が立ち並び、から揚げの聖地とも呼ばれています。

全国から客が来る人気店の店主、森山浩二さんは、2021年の秋から続く物価高の影響で、2022年の4月に商品を10円から20円値上げしました。

から揚げ店 店主 森山浩二さん
「主原料の鶏肉と一番使う油が高騰しているので、われわれとしては、きついところはある」

しかし、今も原材料の高騰は止まらず、経営にとって死活問題になっています。森山さんのから揚げの特徴は、油をたくさん使って揚げる調理法。1か月でおよそ500リットル使いますが、現在の仕入れ値は1年前に比べて4割もアップ。

森山浩二さん
「月にすると、10万円くらいは絶対に金額的な差は出てきていると思う。これ(油)でうちの味も変わってくるので、ここをケチることができない。価格で上がろうと、どうしようと、今まで通りの油の使用量になってしまうので、切実な問題というか、大変なところ」

さらに、こだわりの国産鶏肉も仕入れ値は1年前に比べて2割アップ。餌となる外国産の穀物が高騰しているのです。高くなる一方の原材料費を、どこまで商品の値段に反映していいのか。森山さんの悩みは尽きません。

森山浩二さん
「本音を言うと、これだけ物価が上がっているので(さらに)10円でも20円でも(値段を)上げたい。お客さんがひいてしまったら私たちも大変なんで、なかなかそこ(値上げ)はできない、できないですね」

食用油 値段が1.4倍! 値上げのカラクリとは

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
から揚げをはじめ、さまざまなものに影響が出る「食用油」。この1年間で1.4倍の値段まで上がりました。

なぜ値上げが起きたのか、少しさかのぼってみましょう。

2021年、世界経済はコロナによる落ち込みから回復して、一気に需要が拡大。さらに異常気象などの要因もあって、食料不足・モノ不足が深刻になります。

そこに2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻。すると、ウクライナからの流通が止まる中でウクライナ産の「ひまわり油」が高騰。代替品の「菜種油」も高騰しました。菜種油を多く使う日本の飲食店や消費者に大きな打撃となりました。さらに、菜種油の代替品になった「パーム油」も高騰します。

こうした中で、2022年3月、パーム油の最大生産国のインドネシアで、値上げに抗議するデモが起きました。インドネシアでは、国内の供給量を確保するため一時的に輸出が禁止されました。このパーム油は、日本ではもともとカップ麺やスナック菓子、洗剤やシャンプーなどに使われていたので、こういった商品も値上げしたわけです。

きょうのゲストは、みずほ証券チーフエコノミストの小林俊介さんです。なぜ、これほど多くの品目が一度に値上げしているのか。それをひもとくのに重要な数字があると小林さんはおっしゃっています。

「原価率(主な産業)」というものです。売り上げの中で、原価がどれだけの割合を占めているのかを示すものですが、日本の主な産業での割合です。

原価率が80.5%。つまり、売り上げの多くを原価が占めているということです。小林さん、なぜ日本はこの原価率が高いのでしょうか。

スタジオゲスト
小林 俊介さん (みずほ証券 チーフエコノミスト)
景気動向の分析が専門

小林さん:
日本企業は過去長い時代において、原価が上がってもそれを転嫁することができないという状況が続いてきたのです。バブル崩壊以降「失われた30年」という景気低迷の時代、この間に値上げするというのはとても難しかった。

そして、値上げがない時代が続けば続くほど、消費者はそれに慣れてしまう。結果として、少し企業が値上げをするだけで家計は他に流れてしまう。客足が同業他社に流れてしまう。

値上げをしない企業だけが生き残るという流れが続いた結果、高い原価率というのが温存されているのが現状かと思います。

桑子:
原価が上がったとしても、売値を変えないために利益や人件費などを削減して、なんとか売値を維持してきたという背景があるわけですよね。そこに今「円安」が加わっている。何が起きていると言えるでしょうか。

小林さん:
さすがに、これを企業努力で吸収するのは難しくなったということかと思います。もともと80%が原価ということですから、円安、それから資源価格の高騰、こういったもので原価率が90%、100%となってしまうと、これは利益が出ないということになってしまう、赤字になってしまいますから、さすがにやむにやまれず苦肉の策で値上げを始めたというのが現状かと思います。

桑子:
そうした現状を私たちは取材をしています。企業は大きな判断を迫られています。

"物価高で経営苦しい" 居酒屋からおにぎり店に

9月、10年続けてきた居酒屋を畳むことにした、倉持照男さんです。

飲食店経営 倉持照男さん
「うちの一番人気ですから、これが」

定番のオニオンリングなど、3か月前にほとんどのメニューを値上げ。さらに、一皿当たりの量も減らしましたが、収益はなかなか改善しませんでした。

最大の原因は、調達する具材の種類の多さ。お酒に合った多様なメニューを準備するため、廃棄を覚悟で食材を調達しなければならなかったのです。

倉持照男さん
「どうしても、メニューにあるものはすべて仕込んでおかないといけない。でも、全部が出るわけではない。なかなか難しいですよね」

コロナ禍の影響もあり、売り上げは以前の半分、月70万円にとどまる一方で、毎月50万円程度の赤字が続いていました。客足が戻る見込みもなく、物価高によってさらに赤字が膨らむと考え、閉店を決めたのです。

倉持照男さん
「どうしても価格がどの程度で止まるか、予測できない。傷口を広げる前に決断しようと」

倉持さんは、再スタートを切ることにしました。

着目したのは「米」。おにぎり店に業態転換することにしました。米は輸入に頼らない国産のため、価格が安定しているのです。

売り上げの目標は、居酒屋と同じ月70万円。一方、経費は半分の60万円に抑えられると見込んでいます。

倉持照男さん
「メインのお米の値段というのは固定できればいいし、こっちも安心しますし、お客様に安心して値段を提起できる」

この日は、オープンに向けた試験営業。調達する具材が少なくて済み、居酒屋と比べ、廃棄を減らすことができます。

倉持照男さん
「売り上げに関しては全然足りないですけど、物価上昇の影響を受けながら今までやってきたこと続けるよりは、新しいことにチャレンジしたほうがいい」

1杯1,000円の壁 ラーメン店は廃業決断

一方で、閉店を決断した飲食店もあります。都内のラーメン店です。

新型コロナの影響などで客足が減り、今は週末で1日およそ50組。厳しい業績が続いていました。さらに…

元ラーメン店 経営 白山健太さん
「モップのレンタル、原油の高騰で100円ほど上がりまして」

原材料費に加え、清掃道具のレンタル代や光熱費なども上がり続けています。

780円で提供してきた油そばは、これまで1杯当たり280円の利益がありましたが、物価高の今、133円まで減少。それでも…

白山健太さん
「正直1,000円は超えたいんですけど、やっぱりラーメンは庶民の食べ物で『1,000円の壁』がある。なかなか超えられないんですよ、1,000円を」

値段を上げれば客足が遠のき、売り上げがさらに減ると考え、のれんを下ろす決意をしました。

白山健太さん
「もうちょっとうまくやれたのかなと思う部分もあるんですけど。やっぱり悔しさはありますね」

閉店から2日後。店にはリサイクル業者の姿がありました。使わなくなった調理器具の買い取りを頼みましたが…

リサイクル業者
「買い取りができるものというのは、ちょっと厳しい。まるまる費用負担がお客様にかかる。だいたい費用が2万円くらいかかる」

値上げラッシュの秋 急増する"物価高倒産"

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
大手ちゅう房機器買い取り業者によりますと、

テンポスバスターズ 遠山貴史 営業統括本部長
「6月ごろから買い取り件数が例年の1.5倍に増加。傷の浅いうちに廃業を決断するケースも多いのではないか」

ということでした。

この物価高で倒産した企業の数は、民間の調査会社によりますと2020年は97件。2021年は138件と、少しずつ件数が増えています。2022年は、8月の時点ですでに過去最多の150件となっています。裁判所を通して倒産手続きをした企業の数字だけを数えているので、実際の数はもっと多い可能性もあります。

小林さん、2022年はなぜ早いペースで倒産件数というのが増えているのでしょうか。

小林さん:
それだけコストの上昇ペースが速いということです。過去になかったようなペースで進んでしまっている。

そして、コストの上昇に対して価格転嫁、販売価格に転嫁することができなければ、その分だけ企業の利益が減ってしまう。そして、利益が減ると2つの意味で資金繰りに窮してしまう企業が増える。まず、運転資金が利益が出ないとなくなってしまいますから、来月、再来月の資金繰りが難しくなる。

そうすると融資を受けてなんとかしようと思うわけですが、利益が出ないとなると収益性が低い、将来性が薄いと判断されかねないということで、融資もなかなか受けにくい。こういう状況の中で、倒産がなかなか少なくならないという状況に陥っているというのが現状です。

桑子:
今後、どういう推移をたどると見ていますか。

小林さん:
残念ながら、この傾向は続くと思います。もし消費者が価格転嫁を受け入れるということであれば、倒産は防げるかもしれません。しかし、その分だけ家計の負担は増えてしまう。

もし、家計がどうしても価格転嫁をのめないということであれば、今回のように倒産に陥ってしまう企業というのは今後も増える。そして、経済全体で見た時には所得も減ってしまうということになってしまいます。

桑子:
倒産を防ぐには、価格転嫁をするとよいということですが、商品や物のサービスの値段を価格に反映できればいいのだけれども、実はそう簡単にはいかないというデータです。

原材料の高騰を価格に反映できているのかという民間の調査会社のアンケートを見ますと、多少なりとも価格転嫁できていると答えた企業が70.6%あったのですが、ただ、どのくらい価格転嫁できているか。価格転嫁率を見ると、36.6%という数字でした。

これはどういうことかといいますと、例えば原材料の高騰で100円コストが上昇したとします。この100円のうち、売値として価格転嫁できるのは36.6円分にすぎず、残りの63.4円分というのは企業が負担することになることを表しています。

小林さん、36.6%という数字というのはどう見たらいいのでしょうか。

小林さん:
過去の日本と比べれば高いのですが、国際的に見ると決して高くない。どちらかといえば、低いと思います。

桑子:
36.6%しか、転嫁できていない。

小林さん:
そうなんです。3分の1しか転嫁できない。ということは、消費者が値上げをのめる状況にはないということです。

コロナ禍からの経済再開がおくれているぶんだけ、所得が伸びない。そして、値上げがのめない分だけ6割以上が企業の損失になってしまう。

そうなってくると目先は家計、3割負担でいいやと思うかもしれませんが、結局のところ2023年以降の賃金上昇率が下がるということ、企業の利益が下がるとなってしまいますので、そういう意味では家計の負担というのは遅れて出てくる可能性が高いとも言えます。

桑子:
本当は企業とすると、もっと価格転嫁したいというのが本音ではあるのですが、私たちは、まさにそこに踏み切った企業も今回取材しています。

おにぎり値上げ 次はお弁当も!?

先週、大手コンビニの本社で会議が開かれていました。

物価高を受けて結成された社長肝いりの戦略チームは、開発担当部署とともに商品の値上げをどう実現していくかを話し合ってきました。

9月から値上げに踏み切ったのが、コンビニの主力商品である「おにぎり」。10円程度、最大15円引き上げました。

デリカ食品部 米飯グループ マネジャー
「正直、値上げしたことがマイナスに出ていない」
価格戦略・販売計画グループ マネジャー
「売り上げに関しては想定以上についてきているので、価格は10円程度上がったが、その分お客様も価値の部分が伝わって買っていただいているという評価なので」

2021年を上回る売り上げを達成。そこには、ある戦略が。炊き方を工夫した米で、客の満足度を高める狙いです。

注目したのは、火加減などにこだわって炊いた時にできる「カニ穴」。一粒一粒が、芯までふっくら炊き上がった証しです。この会社では、追加の資金をかけずにプロが炊いたようなカニ穴を実現。その結果、原材料費が高騰した分を価格に反映させることができたのです。

価格戦略・販売計画グループ マネジャー
「結果的に価格が変わってしまうところがあると。そこの価格が変わったところに対して、それ以上にお客様がおいしくなったとか、どういう価値として満足を得られるのか、そこに注力する」

商品の値上げとともに、新たな付加価値を付ける戦略。次のターゲットは弁当です。米の炊き方を、さらに見直すことも検討しています。

価格戦略・販売計画グループ マネジャー
「原材料の高騰とか難しい部分はあると思うが、今後、ここの500円以上の価格帯のところを、どういった商品を?」
デリカ食品部 米飯グループ マネジャー
「分かりやすいメニューであること。食べておいしい、見て楽しいところを意識しながら648円にはチャレンジしたい」

値上げはいつまで続く? 家計負担はどうなる?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
この値上げは、一体いつまで続くのか。ある調査会社の試算をご紹介します。

これは物価の上昇率を示しているのですが、2022年内はこの上昇率は上がり続けますが、2023年になると下がっていくという見通しです。ただ、上昇率のグラフですので、値上げ自体は続くということを表しています。

小林さん、こういう見通しが出ているわけですが、小林さんご自身はこの先いつまで続くという見通しを持っていますか。

小林さん:
あと半年くらいは物価上昇につきあう必要があると思います。どうしてもコストが上昇してから企業が販売価格を変えるまでにタイムラグがありますから、恐らく2023年の4月、このあたりまでは値上げというのが続いてくる可能性が高いと思います。

桑子:
2023年の春というと、春闘の時期でもありますよね。

小林さん:
はい。この物価上昇に耐えられるだけの賃金上昇があるのかどうかというところが、2023年の春闘で問われることになります。

そして、それに先駆けて春闘でベースアップできるだけの余力を日本経済が回復できているのかというところも、今後3か月、6か月で問われてくるということになります。

桑子:
日本経済を立て直すために必要なのが、やはり「経済対策」。これも一つあると思います。政府は先週、新たな総合経済対策の柱というものを出しました。

新たな総合経済対策の柱
◆物価高騰・賃上げへの取り組み
◆円安を活かした地域の「稼ぐ力」の回復・強化
◆「新しい資本主義」の加速
◆国民の安全・安心の確保

小林さん、これを見た印象はいかがですか。

小林さん:
総論として、評価できるところが多いと思います。困っている方に補助金等で対応する、あるいは対症療法に加えて根治療法ということで円安をチャンスに変えるような政策、あるいは賃上げをどんどん促進するような政策が施行される。これは評価できるポイントかと思います。

ただ、重要なのは具体策ということになってきます。本当に円安をチャンスに変えるということであれば、例えばインバウンドを増やすために具体的に何ができるのかというところが問われてきますし、賃上げを促進するということであれば本当に効くような制度が今回入ってくるのかどうか。この具体案の実行というところに焦点が移ってきます。

桑子:
3日に召集された国会で議論がされていくと思いますが、今私たちの家計はどれぐらい負担があるのかというのを最後、ご紹介しようと思います。

試算ですが、10月以降、1ドル145円の円安が続いた場合、2022年度の家計負担額は平均で8万1,674円ということになっています。年収別で見ますと、負担率が年収に対して1.1%、300万円未満は2.7%ということで、収入が少ない家庭ほど物価高による負担感が大きいということになるわけです。

今回少し触れた政府の経済対策について、また、今後私たちはどうしていったらいいのか、4日はゲスト3人お招きして議論していきたいと思います。

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