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2022年6月13日(月)
ある日、電気が来なくなる!? どう切り抜ける“電力クライシス”

ある日、電気が来なくなる!? どう切り抜ける“電力クライシス”

猛暑の夏や、寒さ厳しい冬、突然「電気」が来なくなったら…。原油や天然ガスなどの資源高の直撃を受けて“新電力”事業者が相次いで撤退し、前触れなく「サービス停止」を突きつけられる個人や事業者が急増しています。さらに火力発電所が減少し、この夏や冬に「計画停電」が行われる可能性まで議論に。なぜ、いま電力が足りないのか?不足はいつまで続き、暮らしにどんな影響が?日本の“電力クライシス”の実態に迫りました。

出演者

  • 大橋 弘さん (東京大学 教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

値上げ、電力不足 電気にいま何が?

桑子 真帆キャスター:
今、日本は電力が足りなくなるかもしれないという現実に直面しています。その電気、私たちのもとにはこのような形で届けられます。

川の流れに例えると、川上に当たる発電会社が電気をつくります。そこから電線を通じて、川下の小売り会社を介して私たちのもとに届けられます。

ところが、このシステムに2つの問題が起きています。1つが、川上の発電で、そもそも電気をつくる能力=供給力が足りなくなっていること。もう1つが、川下の小売りで電気代が急激に上がっていることです。

一体、何が起きているのか。まずは川下の小売りでの実態を見ていきます。

電気代 値上げ 「新電力」撤退の深層

首都圏で1人暮らしをする大学生。3月、契約していた電力会社から思いも寄らないメールを受け取りました。

「契約は打ち切り。他の電力会社を探すように」という通告でした。

大学生
「何かの間違いじゃないかと思いました。何回見返しても私の名前と住所で」

契約していたのは、新たに電気の小売りに参入した「新電力」。電気代を少しでも抑えたいと、月に1,000円以上安くなる会社をネットで見つけました。

就職活動の真っただ中。電気を止めると通告された日には、採用面接が予定されていました。結局、期限ぎりぎりで新しい会社と契約できましたが、精神的にも追い込まれたといいます。

大学生
「(電気が)止まってしまうことが、どれくらい大変なのか身にしみて感じるとともに、なんで私が・・・こんなにいつも頑張っているのに、とこみ上げて涙が出ちゃって」

新規の会社が電力の小売り事業に参入できるきっかけとなったのが、6年前の「電力自由化」でした。

それまでは、発電から小売りまでを一貫して手がける、「大手電力会社」が事実上独占。価格競争がないため、電気代が高止まりする懸念がありました。

そこで国は、小売り事業に新たな会社を参入させることで競争を促し、料金の値下げやさまざまなサービスにつなげようとしました。その結果、700社以上の新電力が生まれたのです。

その新電力に今、何が起きているのか。

6年前、格安な電気料金を掲げて小売りに参入した電力会社のひとつは、3月、電気の調達で採算が取れなくなり、事業からの撤退を表明しました。多くの新電力は、発電事業者によってつくられた電気が取引されている「卸電力市場」から電気を仕入れています。この会社では、これまでkWh(キロワットアワー)当たり8円台で仕入れ、それを大手より安い11円ほどで顧客に販売。その差額を利益にしていました。

ところが去年6月、仕入れ価格がじわじわと上がり始めます。そして10月、発電燃料の天然ガスの価格高騰をうけ、仕入れ価格が販売価格を上回り、売れば売るほど赤字の状態に。価格が下がることを願っていたやさき、ウクライナ情勢が悪化。3月には仕入れ価格が1年前の4倍になってしまいました。

御所野縄文電力 小林直人社長
「2月が(赤字)1,500万円くらい。3月が3,300万円くらい。会社自体が倒産というか、廃業せざるをえない状況になりますので」

今、会社ではすべての契約者に連絡を取り、切り替えの説明を続けています。

小林直人社長
「撤退したかったわけではもちろんないし、われわれを信じて加入していただいたお客に申し訳ない気持ちと心苦しいかぎり」

新電力の経営悪化は、産業にも大きな影響を与えています。

リサイクル技術の開発や販売などを手がけるベンチャー企業では、開発用の設備が電気を多く使うため、新電力の安い電気代を前提に事業を進めてきました。しかし3月、電気代をおよそ30%値上げすると通告されたのです。

このままでは膨らむコストを賄いきれない。慌てて大手電力会社へ切り替えを申し込もうとしました。しかし、同じような申し込みが相次ぎ、受け入れる余裕はないと断られました。結局、電気代の値上げを受け入れるしかなく、設備を十分に稼働できないジレンマを抱えているのです。

アルハイテック 水木伸明社長
「装置がシーンとしているのは、感じたくない静けさですね。これから電気料金がこのまま落ち着くとは誰も言っている人がいなくて、そこが怖いです。利用者側としては、一体どういうことなんですかという話です」

これまでに事業から撤退した新電力は、全国で40社近く。その影響で、どの会社とも契約できない状態にある企業や病院などは1万を超えています。

こうした事態をどう受け止めているのか。政府の審議会で、電力自由化を議論した委員の一人に問いました。

東京大学社会科学研究所 松村敏弘教授
「経済学者も含めて、多くの人たちが(電気の)価格は下がると楽観的に予想していたのは事実だったと思います。その意味で、備えが多くの人に足りなかったことは、間違いない事実として反省しなければならない」

なぜこうなった? "電力クライシス"

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、電力のシステムに詳しい東京大学教授の大橋弘さんです。

こちらのボードで、今、何が起きているのかを整理していきたいと思います。

電力自由化によって市場が活発になり、私たちのところに安い電気代で届くはずが、逆に電気代が上がってしまったことによって参入した新事業が撤退しているという事態になっています。根本にはどういう問題があると考えますか。

スタジオゲスト
大橋 弘さん (東京大学 教授)
電力のシステムに詳しい

大橋さん:
2つの点が指摘できると思います。1つ目は、電力自由化した初期の電力システム改革の成功と裏腹の関係にあるということです。

VTRにもありましたが、700社の新電力が参入をした。当初、どれだけ新電力が参入するか、みんなが疑問視する中で、ある意味、大成功だったと言える数だと思います。わが国の電力市場の規模を勘案しても、恐らく世界的に見ても、かなりの数の新電力が参入したということなんだと思います。

桑子:
その意味では成功と言えるんですね。

大橋さん:
彼らのビジネスモデルは多くの場合、市場価格が当時安かったので、安い電力を調達し、大手の電力料金よりも安い価格で消費者に提供できたと。ある意味、非常にうまくいったシステムだったと言えると思います。

他方で、電力価格が高騰すると逆にロジックが働くことになります。市場価格が安いから安く売れたビジネスモデルだったのですが、市場価格が高くなると「逆ざや」になってしまうので赤字を抱えることになる。これがたぶん、電力システム改革の成功と裏腹にある関係だと言えると思います。

桑子:
そうした事態というのは想定できなかったのでしょうか。

大橋さん:
2つ目のポイントなのですが、恐らく今振り返ってみると、価格が安いときがあれば、高いときもあるじゃないかと思われると思うんです。

ただ、この高くなったスピードがかなり急激な勢いで、しかも非常に短期間に上がり続けているという状況が、新電力が市場調達以外のほかの多様な調達の仕方を検討する、いとまを与えなかったという意味で非常に厳しい事態を現在迎えているということだと思います。

桑子:
この「市場」に頼り過ぎてしまって、独自で調達する手だてというのが整っていない段階で起きてしまった事態。

大橋さん:
多様な調達のやり方の1つとしては、発電事業者と長期の相対の契約を結ぶ。発電の一部の供給力を、みずからの供給のために確保しておくという長期相対の形も取りえると思うんです。

ただ、市場価格よりも若干高くなります。ただ、現在の高騰した価格よりは安い価格で調達ができる。そうした形(発電事業者と長期の相対契約)を、本当は事前に価格が上がることが分かっていれば取れたんだろうけれども、取る時間を与えなかったということが大きかったのかなと思います。

桑子:
ここまで、川下の小売りでの問題を見た訳ですが、川上で電気の供給力不足、電気が発電でつくれなくなっているという現実もあるんです。

計画停電のおそれも 電力不足はなぜ?

ことし3月。日本の電力不足が露呈する出来事がありました。東北地方で震度6強の揺れを観測した地震によって、火力発電所が緊急停止。電力の供給力が落ちたやさきに、季節外れの寒波によって電力消費が急増したのです。東京電力と東北電力の管内では、「電力需給ひっ迫警報」が初めて発令され、首都圏は大規模停電の瀬戸際に立たされました。

そして今再び、同じ危機への警戒が高まっています。先週、政府は電力ひっ迫に備える関係閣僚会議を開催。7年ぶりに節電要請を行いました。

松野官房長官(6月7日)
「国民の皆様には、ことしの夏は全国で生活や経済活動に支障がないよう、できるかぎりの節電、省エネへのご協力をお願いいたします」

万が一に備え、計画停電の準備も進めると表明。実施されれば、11年前の東日本大震災以来のことです。

こうした危機感の背景には、日本の電力事情の構造的な課題があります。最も大きなものが、全体の7割以上を占める火力発電の供給力が減っていることです。

自由化に伴い、電力事業に参入した東京ガス。自前の火力発電を持ち、豊富な供給力で300万件の顧客を抱えています。しかし、これまで稼働していた5つの火力発電所のうち、2つが撤退。新たな稼働計画も中止となりました。

火力発電設備の廃止や計画中止は、ほかの会社でも起きています。

この5年間で火力発電の供給力は、およそ1,600万kW減少。これは、日本の世帯数の10分の1近く、543万世帯分に当たります。さらに、新たに動くはずだった1,000万kW分も計画中止となったことが取材で明らかになりました。

背景にあるのは、世界で急加速する「脱炭素」の流れ。二酸化炭素の排出量が多い火力発電の新規の建設や投資に、理解が得られにくくなっているといいます。

東京ガス 広瀬道明会長
「火力発電が時代に逆行するんではないかという見方もありますので、その先が読めないということかなと思いますね」

さらに、太陽光発電がこの10年で20倍というスピードで普及したことも大きな誤算となりました。太陽光は昼間の晴れている時間帯は発電量が増す一方、曇りや夜間には十分に発電できません。

そのため、時間帯や天候によっては需要を賄いきれないこともあります。その時、足りない部分を補っているのが、火力発電です。太陽光発電の供給量に合わせて出力を上げ下げし、調整弁を担っているのです。

十分な稼働ができない中でも人件費や設備の維持費はかかるため、コストに見合いません。電力の自由化によって導入された「競争原理」。電力会社は、採算の取れなくなった火力発電所を廃止せざるをえなくなっているのです。

そして、震災前は発電量の3割近くを占めていた原子力発電は、今はおよそ4%です。政府は原発の最大限の活用を掲げていますが、再稼働させるには厳しい安全基準をクリアしなければなりません。

300万の顧客を抱える東京ガスは、電力を外部から買うことで、この夏のひっ迫をなんとか切り抜けようとしています。

電力の調達担当者
「いろんな会社を回ったなかで、『電気いただけませんか?』といっても、『むしろ御社は余っていないですか』と逆に聞かれる状況で」
広瀬道明会長
「やっぱり今、やるべきことをきちんとやっておかないと、後々本当に供給責任とかを果たせなくなるんじゃないかなと」

電気が来なくなる!? 電力不足はなぜ

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
電力不足をどう解決していけばいいのか。大橋さんが指摘する大事な考え方と共に教えていただきたいのですが、どこに最大の問題があったのでしょうか。

大橋さん:
そもそもエネルギーの考え方の基本的な思想として、「S+3E」という考え方があります。

この考え方は70年代のオイルショックのころから徐々に形成されてきたものなんですが、当時石油が足りないという中において、やはり「安定供給(Energy security)」が重要だという1つの「E」が始まりました。そこを基軸にして、その後、電力システム改革がやはり「経済効率性(Economic Efficiency)」を高めていこうという、2つ目の「E」にかなり政策的な比重が置かれてきたということがあります。

最近はこれに加えて「脱炭素」、あるいは「カーボンニュートラル」とも言いますが、「環境への適合(Environment)」、再エネも含みますが、そうしたものを高めていこうという方向へ政策の比重が移ってきた歴史があります。

今のところ「経済効率性」と「環境への適合」、この2つはかなりの比重で今、政策的に取り組んでいます。これまで「安定供給」にはそれほどの支障がなかったということで、3つの中の比重でいうと、若干軽めだったかもしれないということが今回の需給ひっ迫の出来事を通じて感じられるところかなと思います。

桑子:
大前提には「安全性(Security)」という土台がもちろんあるわけですが、こうした状況を国はどう受け止めているのか、番組で経済産業省に聞きました。

経済産業省
「電力自由化などの改革は一定の成果が現れてきている一方で、『供給力不足』や『新電力の撤退』など、新たな課題が生じていることも事実」

その上で、「制度を見直していく」としています。では、この電力危機をどう切り抜ければよいのか。政府や電力会社の間で議論されている対策を見ていきます。「供給」と「需要」、それぞれありますが、まず「供給」についてどのように考えますか。

大橋さん:
「供給」で4つの点が国の政策として掲げられているわけですが、4つの点に通じるものとして恐らく発電における事業環境整備、あるいは事業の見通しをしっかり立てられるようにしようという点が共通としてあるのかなと思います。

国がしっかり供給を支えていく、あるいは事業をやる、あるいは発電投資をする、インセンティブを高めていく。あるいは収益を支えていくということが国でできることですし、事業者レベルでいうと、市場にこれまで若干偏ってきた新電力の供給力の確保については発電事業者と長期の相対契約と申し上げましたが、そうしたものを通じて売り先をしっかり確定させることで事業の見通しを立てるということにもつながると思います。

桑子:
「原発の再稼働」についてはどうお考えですか。

大橋さん:
需給ひっ迫の中で、原発を再稼働するという考え方も分からなくはないですが、やはり安全神話の中でこれから原発と長期につきあっていかなきゃならないわけですから、そうした議論はしっかりやっていくべきかなと思っています。

桑子:
そして「需要」でも大切になってくる考え方をお願いします。

大橋さん:
「需要」もインセンティブが重要で、需給ひっ迫の時間帯において、いかに消費者に需要を減らすようにしてもらうか。事業者としてインセンティブを提供する。例えばポイントをつけるとかがあり得ると思います。

桑子:
節電に協力したいと思えるような取り組みをするということですね。

大橋さん:
そうですね。

桑子:
ありがとうございます。今の電力不足、1~2年で解決する問題ではないといわれています。私たちは、これまでの電気の使い方を見直すときなのかもしれません。

限りある電気 "賢く使う"には?

福岡県のスタートアップ企業が着目しているのが、昼間に余ってしまう太陽光発電です。

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実証実験に参加している男性
「数字でこうやって把握することが出来るので、非常に便利ですね」
アークエルテクノロジーズ 宮脇良二CEO
「われわれはテクノロジーを使って、電気を皆さんがスマートに、しかも快適さを失わずに使えるような、そういう仕組みを作り上げたい」

迫ってきた「電力危機」。乗り越えるために何ができるのでしょうか。


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