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2022年6月6日(月)

静かなる侵略者“史上最強”アルゼンチンアリとの攻防

静かなる侵略者“史上最強”アルゼンチンアリとの攻防

南米原産の特定外来生物「アルゼンチンアリ」が日本各地で大量繁殖。ことし3月、大阪空港の敷地内のほか、周辺の住宅地でも多数確認されました。体長2.5ミリほどで毒針もなく、驚異的な繁殖力で生態系を破壊。海外では農作物に壊滅的な被害をもたらす例も。地下に形成される“巨大な巣の連なり"スーパーコロニーとは?知られざる脅威、研究者の最前線の闘い、そして家庭への侵入を防ぐ対策などを専門家とともにお伝えしました。

出演者

  • 五箇 公一さん (国立環境研究所 室長)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

「家に侵入」「眠れない」"最強"アルゼンチンアリ

年間およそ700万人が利用する、大阪空港。敷地内でのアルゼンチンアリの大量繁殖が、この春、明らかになりました。専門家は、電子機器やケーブルなどに入り込み、異常を起こす恐れもあると指摘。空港では、詳しい調査と防除作業が進められています。

アルゼンチンアリは、空港に隣接する住宅地にも広がっていました。

空港や自治体と協力して調査を進めている、兵庫県立大学の橋本佳明さん。ある家を調査したところ、庭のあちこちに巣ができていました。

住民
「先生、ここ、いっぱいいます。ここも巣です」
兵庫県立大学 特任教授 橋本佳明さん
「うわー、すごい。いますね。これはすごいわ」

一時は家の中にも大量に侵入し、不快感が募ることもあったといいます。

こちらの家では、電気製品が突然壊れてしまう異常が相次ぎました。

住民
「しょっちゅうピンポン鳴るんです。『はい』って出てきたら、誰もいない。主人に(中を)開けてもらったら、(アリが)もうすごかった」

さらに、浴室の操作パネルまで。

住民
「電気温水器もまるまる替えた。(費用が)80万くらいかかった」

専門家らのチームは、5月に被害に関する住民調査を実施。133世帯から回答を得ました。その結果、不快感を訴える住民は回答した人のうち、8割近くに上りました。睡眠に支障が出ているという住民は、そのうちのおよそ2割でした。

電気製品については、インターホンや防犯カメラ、エアコンの室外機などへの侵入が明らかになりました。

今、橋本さんたちが懸念しているのは、生息域がさらに拡大することです。

橋本佳明さん
「このメインの道路が、南側のわれわれの防衛ライン。(反対側には)公園もあり、住宅地も広がっているので、ここを突破されちゃうと」
取材班
「ここから先に行かせてはいけない?」
橋本佳明さん
「いけない」

これまでの調査では、大阪空港の西側、およそ25万平方メートルの範囲に生息しているとみられています。幹線道路を越えると密集した市街地が広がっているため、大規模な対策が取れず、根絶が難しくなるというのです。

橋本佳明さん
「いったん住宅地にアルゼンチンアリが入って、定着して繁殖すると、例えていうと、アリの巣の中で僕らは暮らしているようになってしまう。今はぎりぎり、ある区域の進撃の小さな巨人を食い止めている。この壁を突破させない。ぎりのところです」

アルゼンチンアリ 驚異の生態

専門家が日本への定着を懸念する、アルゼンチンアリ。その最大の脅威は、爆発的な繁殖力です。

アルゼンチンアリの生態を研究し、専用の殺虫剤を開発している企業です。

フマキラー 開発研究部 佐々木智基さん
「この中に、だいたい2,000匹くらいですかね。いた、女王いました。この大きいのが女王です」

脅威の源が、体長5ミリほどの女王アリです。

一般的なアリは、巣の中に女王は1匹。ところが、アルゼンチンアリは複数の女王がいる「多女王性」を特徴としています。繁殖が活発化する春から夏にかけて1匹の女王アリが産む卵は、1日に数十個。その中から新たな女王アリも生まれるため、アリの数は爆発的に増加するのです。

佐々木智基さん
「スピードが速すぎて、巣の一部が死んでも全然問題なく復活してしまうので、すごい大変ですね。女王をしっかり殺さないと、駆除できないところが課題」

さらに、アルゼンチンアリは巣と巣を互いにつなげ、支配地域を拡大する独特の性質があることも分かってきました。

それが「スーパーコロニー」と呼ばれる巣のネットワーク。巨大なものでは、イタリアからポルトガルまで6,000キロを超えるものも確認されています。

なぜ、こんなことができるのか。森林総合研究所の主任研究員である砂村栄力さんの研究がきっかけで、その秘密が明らかになりました。

一般的に違う巣に住むアリは、同じ種であっても餌や縄張りなどを巡って攻撃し合います。しかし、砂村さんが世界に広がったアルゼンチンアリどうしを観察したところ、なぜか互いを攻撃することはありませんでした。

森林総合研究所 主任研究員 砂村栄力さん
「同じ遺伝子型を持っている、つまり、もともと由来が同じ、ひとつの家族だったと想定できる」

世界中に広がるアルゼンチンアリの遺伝子解析によって、ほとんどが同じルーツを持っていることが分かりました。いわば、巨大な家族のようなアルゼンチンアリ。侵入した国々で、在来種を駆逐し、生態系に大きな影響を与えてしまうのです。

砂村栄力さん
「地球規模でスーパーコロニーが広がってしまうと、歯止めがきかなくなってしまう。みんな協力し合って、世界規模でコロニーを作ってしまいつつある。徒党を組んで襲ってくるというところが、本当にすさまじいものがある」

日本は大丈夫か? アルゼンチンアリ被害

巨大なスーパーコロニーによって、被害が相次ぐ場所があります。ニュージーランド北部のオークランドでは、春から夏にかけてアルゼンチンアリが大量に発生。駆除業者に依頼が殺到しています。

駆除業者 社長 ビブ・バン・ダイクさん
「宿泊施設の朝食会場では、20分もたつと食べ物がアリだらけでした。アリから食べ物を守る専任のスタッフを雇っていました」

主要な産業にも打撃が。養蜂業を営むピート・ジョンストンさんは、アルゼンチンアリによって養蜂ができなくなりました。

養蜂家 ピート・ジョンストンさん
「心底がっかりしました。蜂蜜は食べ尽くされ、蜂たちも殺されていたのです」

アリが上がってこないよう、巣箱の足には水を張る対策を取っていました。しかし、アルゼンチンアリは、わずかな隙をついてきたのです。

ピート・ジョンストンさん
「1本でも草が伸びていると、そこからアリは上がってきます。アリはいったんバラバラに散って、巣の仲間に知らせます。すると、あらゆる方向からアリが押し寄せてくるのです。やつらを止めるのは不可能です」

"最強の侵略者" アルゼンチンアリの実態

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
アルゼンチンアリをどのぐらい恐れて、どう対処すればいいのか。きょうのゲストは、国立環境研究所の室長、五箇公一さんです。

番組で気になるポイントをまとめました。特徴、主な被害、日本国内でどこまで拡大しているのか。さらに、もしアルゼンチンアリを見つけたらどうしたらいいのかを順々に見ていきます。

まず特徴です。外来種のアリというと、思い浮かべるのが「ヒアリ」。ヒアリは毒針を持っていますが、アルゼンチンアリは毒針を持たない特徴があります。あとは見分け方、どんなポイントがありますか。

スタジオゲスト
五箇 公一さん (国立環境研究所 室長)
外来種の生態・防除を研究

五箇さん:
基本的には小さなアリで、体長が2ミリから3ミリほどしかない。体は茶色で、体形はスマート。非常に高速で、2倍速ぐらいで歩く。普通のアリよりもすごく速く歩くというのが特徴になっています。

桑子:
あと、アルゼンチンアリが出たかなと思うのはどんなときでしょうか。

五箇さん:
異常な数で入ってくる。急に家の中で、やたらとアリが見かけるようになったときには、アルゼンチンアリが入ってきたかもしれないと疑うのがいちばん大事なところかなと。

桑子:
あるとき、急にばっと増えるわけですか。

五箇さん:
異常な数で来ているというときには、アルゼンチンアリかもしれないというサインになります。

桑子:
実際にどんな被害があるのか。集団で家の中に侵入したり、体をはいずり回ったりして、不快な思いをさせる。さらには、電子機器などに入りこんで機器などをショートさせることもある。

こういった被害はアルゼンチンアリ以外のアリでも生じるかなと思うのですが、どういったところが違うのでしょうか。

五箇さん:
田舎とかに住んでいれば日本のアリでも家の中に入ってくることはよくあるんですが、アルゼンチンアリの特徴は「侵入圧」ですね。プレッシャー、インベイシブプレッシャーというのですが、とにかく数が多くて、入ってくる量、速度が速いというところですね。その部分が、普通の日本のアリとは全然違う。つまり、やっつけても次から次へとやってくる。そのプレッシャーが強いアリです。

桑子:
しかも繁殖力が強いということで、数も膨大なわけですね。そして、農業被害、生態系への影響もあります。先ほどVTRではニュージーランドで養蜂家の方が被害を受けていましたが、ほかに挙げられるものとして「カンキツグリーニング病」というものがあります。これは、どういったものなのでしょうか。

五箇さん:
「ミカンキジラミ」という害虫が、こういった病気を引き起こすのですが、実はこの害虫自体は、甘露(カンロ)という甘い汁を出してアリをおびき寄せます。アルゼンチンアリがそういったものを欲しくて寄ってくることで、逆に害虫を保護するんです、ボディーガードをしてしまう。そうすることで、害虫の天敵とかが寄りつかなくなり、一層害虫が増えてしまうという悪循環が繰り返されるわけです。

桑子:
日本では今、どれくらい広がっているのでしょうか。

まず、最初に日本で初めて確認されたのが1993年、広島県の廿日市市(はつかいちし)でした。海外から来た貨物船に紛れて侵入したといわれています。

現在どこまで広がっているかといいますと、西は山口から、東は東京、神奈川まで、12都府県にわたって帯状に広がっているわけです。五箇さん、日本での広がりの特徴はどんなことがありますか。

五箇さん:
この地図で静岡県は白色になっていますが、静岡県はもともといたということで、特徴としては要は大きな港がある町ですね。そういったところから侵入してきて、船で運ばれてやってきて、港町から広がるという形で侵入が広がりました。しかし最近では、京都府の京都市や、岐阜県、こういった海から離れた町にも侵入が始まっているということで、内陸で物流に乗っかって分布を拡大し始めているというフェーズに入っているということですね。

桑子:
もともとは港から入っているものが、内陸に入ってきてしまっているということですね。では、どうすればアルゼンチンアリの拡大を食い止めることができるのか。取材を進めますと、大きな壁があることが見えてきました。

どうする 私有地への侵入 "攻防"アルゼンチンアリ

11年前からアルゼンチンアリの対策に取り組む愛知県豊橋市では、毎月駆除作業を続けていますが、その数はなかなか減りません。

アルゼンチンアリが最初に見つかったのは、海沿いの地域、工場など、民間の敷地が多いことが課題になりました。市の対策は道路沿いに限られ、私有地の中を調査したり、対策を強制したりすることはできなかったといいます。

豊橋市環境保全課 山﨑健さん
「各会社が持っている土地の中に(市が)入れないという問題がある。知らない間に(アリが)増えて、それがどんどん移動しているということもある。その部分を特定できないことが、理由の1つに挙げられるのではないか」

最初の発見から6年後。およそ10キロ離れた町の中心部でも、新たな大量繁殖が確認されます。市は対策費を4倍に増やし、住民に無料で毒餌を配るなど、取り組みを強化していますが…。

山﨑健さん
「頑張ってやってるつもりではあるが、拡大レベルが速すぎて、追いついていない部分もある」

一方3年前、アルゼンチンアリの根絶を宣言したのが静岡市。市のアドバイザーとして対策に携わった岸本年郎さんによると、決め手は地域の協力だったといいます。

アルゼンチンアリが見つかったのは、およそ14万平方メートルの区画。民間の工場や商業施設などが集まる地域でした。

ふじのくに地球環境史ミュージアム 岸本年郎さん
「このエリアは企業もあるし、民家もある。協力を得ることが非常に重要。地域の方の協力を得られた。そこがすごく大きい」

地元への説明を担った静岡市。住民説明会や企業への訪問を繰り返し、対策の必要性を訴えました。

静岡市環境局 環境創造課 伊熊良至さん
「被害がないので『なぜやるの?』とか、『もっと役所やることあるでしょ』という声もあった。でも、これを今やらないと、という説明をして、迅速に動かなければいけないという危機感は、みんなと共有できた」

こうして、すべての敷地で詳しい生息調査を実施。アリが集中する67か所を特定し、重点的な対策を打ち出すことができました。

対策を始めて3年目以降、アルゼンチンアリはほとんど見られなくなり、7年後には根絶を宣言。

今も再び発生する兆しがないか、監視を続けています。アルゼンチンアリが増え、一度は見られなくなっていた在来のアリの姿も。

岸本年郎さん
「在来のアリで『ウメマツオオアリ』。アルゼンチンアリがこの辺にいたときは、在来がほぼ見られない状況だった。在来アリが何種類も歩いているというのは、非常に感慨深い」

どう対策する? アルゼンチンアリの脅威

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
しっかり根絶をすれば、従来の生態系も戻ってくるというお話もありました。五箇さん、対策を進めるためには地域の理解が必要だというのを強く感じましたが、ふだん活動をされていて、どんなところに難しさを感じますか。

五箇さん:
まず、自治体自体がどれだけ危機感を持っているかというところと、あとはアリが侵入している私有地、あるいは危害を受けている民有地といったところに立ち入りして調査というのがなかなかできないというところで、見落としができてしまうところですね。その部分で初期の防除が遅れてしまうのが、やはりアルゼンチンアリの防除のいちばん難しいところだと思います。

桑子:
私有地に入りづらいというところ、何か対策として動きというのはあるのでしょうか。

五箇さん:
実は、環境省の外来生物法がことし改正を迎えるということで、その中の改正ポイントの1つに、これまで防除目的で私有地に入ることはできたけど、調査目的で入れなかった。それが、調査目的でも私有地に入ることができると。要は自治体なり、そういった防除事業者が、私有地に入って、立ち入りして調査することができるようになるということですね。

桑子:
かなり大きな一歩になりますよね。では、私たちがもし、このアルゼンチンアリを見つけたらどうしたらいいのか。対策を見ていきたいと思います。

まず、市販のアリ用の殺虫剤を使ってください。用途によってさまざまなものがあるのですが、使い方はどういったポイントがありますか。

五箇さん:
まず家の中でアリを見つけた場合は、スプレー型の家庭用の殺虫剤でやっつけていただければ、すぐにアリは殺すことはできます。ただ問題は、アルゼンチンアリの場合は、そのあとも何回も何回も侵入してくるということで、外にいる巣をやっつけなくてはならない。やはり地域全体で探して、どこまで分布しているのかを把握したうえで、ベイト剤といわれる有効成分が入った餌、あるいは液剤といわれるアリの体に薬を付着させる薬、こういったもので巣元をやっつけることが重要になってきます。

桑子:
アリが巣に持ち帰って、その巣を退治してくれるということですか。

五箇さん:
アリは巣の中で餌をシェアしますから、そういったことで有効成分を巣の中にまん延させる、充満させるということで巣をやっつけるという方式を取ります。

桑子:
建物の周りに、まくものもあるわけですか。

五箇さん:
とにかく家に侵入して来るのを防ぐためには、有機リン系を中心とした「忌避剤」ですね。あるいは寄りつきにくい薬もあるので、それを建物の周りに置くということで、アリの侵入をまず防ぐということ。あとは家の中の防除ですね。そういった形を取っていただければと思います。

桑子:
自分の家、自分一人で周りを駆除、退治しても意味はないということになりますね。

五箇さん:
アルゼンチンアリは非常に大きなコロニーで地域に広がっています。なので、1か所だけやっつけても全く効果はないと。地域全体で監視しながら防除していくということが重要で、本当に文字どおり連携していくことが大事ですね。

桑子:
連携に欠かせないのは、怪しいなと思ったら自治体の環境課などに連絡するということですね。

五箇さん:
基本的には外来生物法の特定外来生物に指定されていますから、自治体、行政としてもアルゼンチンアリを駆除することが義務づけられているので、まずは地域の自治体の環境課に相談いただいて、いち早く防除する態勢を整えていただくことが大事だと思います。

桑子:
今の日本の状況からすると、スーパーコロニーのようなものがどこかでありうるのか、それともまだ間に合うのか、どうなのでしょうか。

五箇さん:
これまで発見されているのは市町村単位で、スポット的に見つかっていることがほとんどで、まだヨーロッパのような非常に大きなコロニーができている状況ではありません。なので、今のうちであれば根絶というのは決して無理な話ではなく、今すぐとにかく防除というものを続ける、スタートすると。同時に新しく入ってくるというものをいち早く発見して、防除していくということが大事になってきます。

桑子:
ありがとうございます。さて、この春、アルゼンチンアリの大量繁殖が明らかになった兵庫県伊丹市。その後、どうなったのでしょうか。

住民vs.アルゼンチンアリ "防衛ライン"に異変が!?

アルゼンチンアリとの攻防が続く、伊丹市の住宅地。先週、懸念していた事態が起きました。拡大を防ぐ防衛ラインと考えていた幹線道路を越え、生息域が広がっていることが分かったのです。

今、専門家や国、自治体の対策検討会に地域住民も初めて参加し、議論が始まっています。

住民
「われわれ自治会としても、撲滅に向けて頑張っていきますので、よろしくお願いします」

対策チームでは住民に警戒を促し、毒餌の設置などを進めています。

兵庫県立大学 特任教授 橋本佳明さん
「いま伊丹市で起こっていることを、全国のみなさんが自分のことのように重大性を認識して取り組んでいかないと、手遅れな状態になってしまいます」

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