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2022年5月24日(火)

トラブル急増!不正ローンで広がる”借金投資”

トラブル急増!不正ローンで広がる”借金投資”

必ずもうかる投資法という触れ込みの高額ソフトウエアに、数千万を超える投資用の不動産。サラリーマン・主婦・若者が不正なローン契約で購入し、手元に巨額の借金が残ってしまうトラブルが続出している。業者はマッチングアプリなどを入り口に信頼関係を築き、将来不安をあおり勧誘していく。なかには金融機関からローンの一括返済を求められ自己破産に追い込まれるケースも。トラブルに巻き込まれないためには?

出演者

  • 西田 公昭さん (立正大学 心理学部教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

トラブル急増! 不正ローンで"借金投資"

桑子 真帆キャスター:
今、資産のない人に、本来審査が通らないはずのローンを組ませ投資させるという"借金投資"のトラブルが急増しています。

国民生活センターが集計した、トラブルの件数です。

投資先は、仮想通貨やFXなどさまざまですが、近年増加傾向にあり、20代の若者からの相談が半数以上を占めています。まずは、その実態からご覧ください。

"お金が増える"投資ソフト 消費者金融で不正ローン

2年前、80万円のローンを組んで投資をした20代の男性です。

20代 男性
「お金を借りるカードを作った感じです。こっち(カード)が50万。こっち(カード)が27万」

購入したのは、確実にお金を増やせるとうたう投資用のソフトウエア。月収が13万円だった男性は収入を増やしたいと考えていたやさき、ある業者から勧誘を受けました。

20代 男性
「『将来、君が結婚とか子どもを産むときに(お金がないと)大変だから、だめだと思うよ』みたいな。ちょっと不安になって」

ソフトウエアを買うお金はないと一度は断ったものの、業者に消費者金融で借金するよう言われたといいます。

20代 男性
「『収入が低くなっていると(審査が)だめだから高めにしろ』みたいな」

ローンの審査に通るには収入が足りませんでした。しかし、業者から年収を100万円以上水増しするなど、虚偽の申請をするよう指示されたといいます。

20代 男性
「うそがばれたらどうするんだろって、本当に怖かったので」

こうしてソフトウエアが入ったUSBメモリーを80万円で購入したものの、それで利益を出せず、借金だけが残りました。

20代 男性
「結局詐欺だと分かって、自分は信じ込んでいたので、まじかよって。悔しいっていう気持ちです」

消費生活センターに寄せられる、こうしたトラブル。多いのは、投資のオンラインセミナーやファンド型投資商品など、将来の資産形成をうたうものに関する契約です。

"借金投資"で不動産まで!? 深刻な事態

中でも、金額が膨らむのが不動産です。

都内の病院に勤める30代の看護師は、1億円近い借金をして不動産に投資しました。業者に言われるがまま契約してしまったという女性。その一部始終を話してくれました。

始まりは、婚活のために利用していたマッチングアプリでした。

30代 看護師
「職場でも出会いもないので、年齢的にも親とかも『まだ結婚しないの?』と言われていたので」

女性が出会ったのは、飲食店の経営をしているという20代後半の男性でした。

30代 看護師
「見た目は爽やかな感じで清潔感のある、明るいような雰囲気の人でした」

何度か食事に行くうち、ふと家族の状況について尋ねられました。

<女性の証言をもとに再現>

20代後半 男性
「ご両親は今、どうしてるんだっけ?」
30代 看護師
「うち、母子家庭なんだよね」

そのときでした。

<女性の証言をもとに再現>

20代後半 男性
「実は俺も母子家庭なんだ。だからもしものときに母親を支えなきゃと思って、仕事のほかに『不動産投資』もやってるんだ。もしよかったら、教えようか?」

出会って3か月。彼が連れてきたのは、友人だという不動産業者。3人で会ううちに、次第に警戒心が薄れていきました。

勧められたのは、都内の5,000万円のデザイナーズマンションなど3軒。総額9,000万円でした。2軒目までは銀行で投資用のローンを組み、4,000万を借金。

「年収500万円の自分に、これ以上ローンが組めるのか」。

不安をよそに、業者は3軒目のローンを組むよう提案してきます。

<女性の証言をもとに再現>

金融機関担当者
「今回ご利用いただく『フラット35』の資料になります」

購入するために業者が提案してきたのは、住宅ローン「フラット35」での借り入れでした。フラット35とは、国が創設した長期固定金利の住宅ローン。居住用のマイホームを購入するためのローンであり、投資に使うことはできません。しかし、女性はそのことを知らなかったといいます。

<女性の証言をもとに再現>

金融機関担当者
「住民票を移していただいて、ご提出お願いいたします」
30代 看護師
「私…、ここには住まない…」
不動産業者
「それは後ほどこちらで手続きさせていただきますので、大丈夫です」

不審に感じましたが、言われるがまま5,000万円を借り入れました。その後、業者が代行して女性の住民票をマンションの所在地に移し、居住していると見せかけたのです。

30代 看護師
「『今回はちょっと住民票移すから、でも大丈夫だよ』みたいな。移して、また(元の住所に)戻せばいいからと言われていたので」

しかし、2年後。女性は窮地に追い込まれます。

実際にはマンションに住んでいないことを金融機関に把握され、契約にのっとり5,000万円のローンの一括返済を求められたのです。

結局、この女性だけが契約違反の責任を負わされ、その後、業者とは連絡がとれなくなりました。

30代 看護師
「最悪、自己破産。恋人もつくれないし、結婚にも踏み切れない。ずっと常に不安があります」

売却でローン返済を検討 売却は購入時の半分以下

今、同じように多額の借金を背負う人が相次いでいます。

30代のサラリーマンもまた、業者を介してフラット35を利用。4,000万近い投資用マンションを購入しました。後に不正と知り、売却したいと考えました。

借金をしてマンションに投資した 30代 会社員
「いちばんいいのは、リセットじゃないけど契約をなかったことにしたい」

この男性が相談を持ちかけたのは、住宅ローントラブルの解決をサポートする不動産業者らの団体。しかし…。

一般社団法人JKAS 中村悠樹さん
「これは平成×年×月の売却事例で、全く同じ部屋が1,870万円。やっぱり2,000万円は切ってないと、(売るのは)難しい物件だなとわれわれは判断する」

相場は、購入価格の半分以下。業者が多額の利益を上げる一方で、物件を売却しても男性には2,000万円以上の借金が残るという現実を突きつけられたのです。

不正ローンで"借金投資" 元手は金融機関から

桑子 真帆キャスター:
人々の将来の不安につけ込み、不正に借金をさせ、投資をさせる"借金投資"。改めて整理していきましょう。

業者はまず、若者など、生活に不安がある人たちにSNSや投資セミナーなどを通して接近をし、将来の資産形成をうたう投資話を持ちかけます。

とはいえ、投資には元手となるお金が必要です。そこで業者は、金融機関から不正にローンを引き出す「虚偽申請」を提案します。顧客は言われるがままに不正なローン申請をして、そこで引き出した多額のお金を投資します。

しかし、これら(ソフトウエアやマンション)は実際には金額に見合った価値がなく、業者はその差額を手にして巨額な利益を得ていると見られているんです。

こうした業者は責任を問われないのかと思うのですが、実は、取材を進めると業者が巧妙に関与を隠している実態が見えてきました。

不正申請の関与を証言 元業者が語る巧妙さ

私たちは、トラブルに巻き込まれた人たちからの情報提供をもとに、複数の業者への取材を試みました。

取材班
「××(不動産業者)さんが仲介として、そういう案件に関わられたことがあると」
不正利用に関わっていたとみられる 不動産業者
「今ちょっと大丈夫です。そういったものは大丈夫です。取材とか、そういうのは」

別の不動産業者では。

不正利用に関わっていたとみられる 不動産業者
「ぶっちゃけ、どこの会社も横行していたと思う。そこまでとりたてるほどのことなのかな」

多くの業者が口をつぐむ中、不正を行っていた不動産会社で働いていたという元社員が取材に応じました。

不正利用に関わっていた 不動産会社 元社員
「街頭アンケートで(勧誘を)したり、異業種交流会に行って、会社まで連れてくるのが仕事だった」

元社員が狙っていたのは、投資や金融の知識が乏しい若者たちでした。

不正利用に関わっていた 不動産会社 元社員
「自分の会社とか身分とか全部隠して、興味を持ってもらって、僕らは契約が決まったら(報酬として)100万円」

事務所に連れ込むと、社長がことば巧みに不動産投資をするよう勧誘。その際、ローンの規約は偽って説明したといいます。

不正利用に関わっていた 不動産会社 元社員
「『居住用(のローン)だけど住まなくて大丈夫だよ』、『どっちでもいいよ』みたいな感じで」

さらに、勤務先や年収の偽装も指示したといいます。

不正利用に関わっていた 不動産会社 元社員
「1軒(で利益が)2,000万~3,000万出ていたと思います」

この不動産会社は、1年で少なくとも30件の不正を行ったにもかかわらず、訴えられたことは一度もなかったといいます。

不正利用に関わっていた 不動産会社 元社員
「詐欺ですよね、やっていることは。でも全く恐れていなかったです、何にも」

なぜローン契約者だけ? 関係者が内実を語る

長年詐欺事件を取材し、ノンフィクションや漫画の原案を手がけてきたライターの夏原武さんは、業者は不正な借金を指示する際、みずからの関与を巧妙に隠しているといいます。

「クロサギ」「正直不動産」などの原案を手がける 夏原武さん
「彼らもそれなりのある意味プロですから、録音されていないかとか、自分が紙に書いて残すようなことも絶対にしないと。残るのは銀行と債務者になった人との契約しかない。自分(業者)はいないわけです。もう無関係者なんです。いくら『その人に言われたからやった』って契約者が言ったとしても、証拠がない。『契約したのはあなたでしょ』で終わってしまう。(ローン契約の)間に入ったやつが、いちばんたちが悪いと思ってます」

この問題に取り組んできた弁護士は、業者の指示で投資をした人が被害者ではなく、加害者とみなされる現実を指摘します。

加藤博太郎弁護士
「オーナー(契約者)が被害者だと言っても、金融機関をだました側と指摘されることがある。現状の刑法の詐欺という枠内で刑事事件化しようと思っても、簡単ではない」

不動産投資に悪用された住宅ローン「フラット35」。取り扱う住宅金融支援機構の調査によると、これまで375件の不正利用が明らかになっています。業者の関与がうかがえるにもかかわらず、なぜローン契約者だけが一括返済を求められるのか聞きました。

住宅金融支援機構 業務管理部 特別審査グループ 推進役 黒子博道さん
「まず一義的に契約の主体となるのは私どもとお客様になりますので。契約手続きまでの間に踏みとどまる機会は、それ相応にあったと理解しています。ただ、それにもかかわらず業者と口裏を合わせて自ら居住するということで申し込みいただいている。お客様にも一定に責任があると考えております」

不正ローンで"借金投資" 身を守るためには

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、消費者のトラブルや心理に詳しい西田公昭さんです。

確かに契約をした人も一定の責任が問われるのはしかたないかなと思うのですが、裏で指示をした業者が一切責任を問われない。これはなんとかならないのでしょうか。

スタジオゲスト
西田 公昭さん (立正大学 心理学部教授)
消費者トラブルや心理に詳しい

西田さん:
現行の法律では業者の責任は問えないんです。つまり立証できないのだと思います。だから裁判では勝てないのではないでしょうか。

桑子:
なぜ今、法律で問えないのでしょうか。

西田さん:
そもそも一般の消費者というものに対して、法律上の消費者のイメージとずれてしまっているんです。一般の成人になりますと、物を買うとか契約を結ぶという前にはしっかりと理性的に熟考して判断して、契約するなり買うなりする。それができるのが成人と考えているわけです、法律上では。

でも、実際のところの消費者というのはあまり知識がない場合が多いですし、経験も乏しいときがあります。それから、もっと感情的でもっと直感的な意思決定をする場面が一般的に「物を買う」という行為なんですね。

桑子:
実際の消費者像と、法律上の消費者像が違うことになっている。

西田さん:
そういうことなんです。

桑子:
法改正の動きなどはどうでしょうか。

西田さん:
少しずつ変化してきて、消費者を保護するほうに変わってきてはいるのですが、現状ではまだ業者のほうが有利かなと私は思います。

桑子:
VTRなどを見ると、冷静になれば踏みとどまれるのではないかと思うようなこともあるのですが、なぜ、だまされてしまうのでしょうか。

西田さん:
例えば、マッチングアプリで親密な関係を築こうとしている、結婚相手を探しているような人にとってみれば、どうしても前のめりになってしまって、自分自身と同じように、相手も真剣に結婚相手を探しているんだと思っているんですね。

まさかそんな投資のようなものに誘導しようとは考えていないので、とにかくまず相手を信じて、そして、おつきあいを始めてようやくやっと出会えた、そして結婚へと進んでいるというところで、お金の話が出てきたときに、この話を断ると同時におつきあいも終わってしまう。そういう「失いたくない」という心理が強く働いてしまうから、どうしても相手の言いなりになってしまいがちなんです。

桑子:
そこにつけ込むように業者は入ってくるわけですね。

西田さん:
そうです。不安とか恐怖、そして過度な期待をあおるわけですね。

桑子:
こうした消費者トラブルに巻き込まれないために、防衛策として西田さんが消費者庁と作成したチェックリストがあります。

実際にトラブルに巻き込まれた8,000人のケースを基にしています。実際のチェックリストを見ていきますと、「拝まれるようにお願いされると弱い」とか「おだてに乗りやすい」「自信たっぷりに言われると納得してしまう」「見かけの良い人だとつい信じてしまう」など、どれぐらい当てはまるのかを5点満点で丸をつけていきます。全部合計して、その合計点が高いほどトラブルに遭いやすいということですが、このチェックリストで大きく3つの傾向を見ることができるそうですね。

西田さん:
はい。1つは「他人を信じやすい」傾向です。

桑子:
他人を信じやすい傾向?

西田さん:
はい。

桑子:
具体的に、この5つということです。

西田さん:
そうですね。

桑子:
「見かけの良い人だとつい信じてしまう」というのは、分かる気がしますね。

西田さん:
2つ目は話のうまさですね。「売り口上に乗ってしまいやすい」ということなんです。

桑子:
マインドコントロールされやすいといいますか。

西田さん:
そうですね。一時的なマインドコントロール状態に陥って、契約に走ってしまうということです。

桑子:
「新しいダイエット法や美容法にはすぐ飛びつく」。「無料だったり返金保証があるならいろいろ試してみたい」。こういう人は注意が必要だということですね。

西田さん:
そして3つ目は、自分の欲望とか期待を抑えきれない「自己制御が苦手な人」になります。

桑子:
我慢ができないとか、「資格や能力アップにはお金を惜しまない」。「良いと思った募金にはすぐ応じている」。こういったことがある。

私、実際に先ほど計算してみたら46点なんです。これってどうなんでしょうか。

西田さん:
平均的な数字なのですが、過去のデータを見る限りにおいてはそれぐらいの点数の人というのは2人に1人ぐらいが被害に遭っているということなんです。

桑子:
平均的な人でも2人に1人は被害に遭う。

西田さん:
そうです。こういったチェックリストというのはそういうもので、いくら点数が低くても大丈夫ということはないんですよ。

桑子:
例えばどれぐらい低いと。

西田さん:
この項目ですと、30点未満の人というのであっても、4人に1人は被害に遭っています。逆に点数が高いと、7割8割の人が被害に遭っているということなんです。

桑子:
こうしたことを通じて、自分がどういうタイプなのかというのを自覚することが大切だと思うのですが、ほかに身を守るすべはどんなことがありますか。

西田さん:
とにかく「信じたい」とか「信じられる」という自分の感覚をあんまり信用しないほうがよくて、お金の話が出てきたらとにかく立ち止まってゆっくり考える。即断即決はまずだめなので、その場から離れてしかるべき人に相談して、それから買うなり契約するなりしていただきたいと思います。

桑子:
お金の話が出たら、まずアラートを出す。

西田さん:
そうですね。人はなかなか信用しないわけにはいかないので、それは大事なことなのですが、お金の話だけは警戒しないと危険だということがいえると思います。

桑子:
あと、もし信頼できる人からお金の話を持ちだされたときはどうしたらいいでしょうか。

西田さん:
とにかく、その場でオーケーは出さずに持ち帰って相談するということが大事かなと思います。

桑子:
すぐに判断しない。あとほかに気をつけることはありますか。

西田さん:
とにかく、前もって消費者契約についてを勉強したほうがいいですね。警戒するためには知識がないとだめなので、日頃から消費者教育というのに関心を持っていただきたいと思います。

桑子:
調べようと思ったらインターネットもありますし、いろいろ見ることができますからね。各地の消費生活センターでもこうした消費者トラブルの相談に応じています。相談窓口は、「消費者ホットライン 188(いやや)」で覚えてください。

クローズアップ現代では引き続きトラブルに巻き込まれたケース、それから内部情報などを募集しています。実は寄せられた声の中から、"借金投資"のさらなる深刻な事態も分かってきているんです。

元業者の意外な事実 後を絶たない"借金投資"

不正な投資を指示したと告白した、不動産会社の元社員。もう一つ思いもよらぬことを明かしました。

実は自分自身も会社から同じ方法でだまされ、借金返済のために勧誘する側に回るよう求められたと語ったのです。

不正利用に関わっていた 不動産会社 元社員
「(返済できないなら)『もう働くしかないでしょ』と言われて、『契約してお金いくらでも返せるでしょ』と言われました」

借金を背負った側が、逆に不正に加担する側に回るという負の連鎖。

私たちがSNSを使って情報提供を呼びかけたところ、業者がさまざまな手段で勧誘の手を広げている実態も見えてきました。

20代 男性
「マッチングアプリで知り合った女性から、勧誘グループに入るよう誘われた」
ファイナンシャルプランナーの女性
「業者からフラット35を活用した不動産投資を客に提案してほしいと持ちかけられ、100万円の報酬を提示された」

こうした情報をもとに、私たちはさらなる取材を続けています。


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