放送した詳しい内容がテキスト&画像でご覧いただけます

Menu
2022年3月15日(火)
戦火の下の「自撮り」記録 〜緊迫ウクライナ・市民たちの闘い〜

戦火の下の「自撮り」記録
〜緊迫ウクライナ・市民たちの闘い〜

戦火のただ中にいるウクライナ市民たちが、避難も通信も困難になる中で、私たちのもとに“自撮り”でメッセージを送ってくれています。命の危険が迫る中で、この状況を世界に伝えたいと必死で訴える人々。『ウクライナからの声』を聞いてください。

出演者

  • 兵頭 慎治さん (防衛研究所政策研究部長)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

2400人の市民が犠牲に 東部マリウポリ

ロシア軍が掌握に向け攻撃を強める、ウクライナ東部のマリウポリ。

産科や小児科が入る病院が空爆されるなど2週間にわたって包囲されており、これまでに2,400人以上の市民が犠牲になったとされています。

現地で取材をしていたアルテムさんは、14日の夜、私たちに生まれ育った町の惨状について語りました。

ジャーナリスト アルテム・ポポヴさん
「埋葬も間に合っていません。死者数があまりにも多くて、集団墓地で埋葬していますが、放置された遺体は野良犬に食べられてしまっています。街で被害を受けていない建物はありません。消防署も爆撃されていて、火災があちこちで起きていても消火活動ができないのです」

マリウポリに救援物資を送ろうにも、ロシア側の妨害にあうといいます。

支援物資を届ける マクシム・テレシチェンコさん
「マリウポリまでの道路が完全に封鎖されています。地雷も仕掛けられているし、銃撃もあります。ウクライナ軍は一部の地雷を除去しましたが、ロシア軍は200台のバスの車列を砲撃しました。車列が動き出すと、攻撃してくるのです。それでバスが進めません。同じことが何回も繰り返されます」

避難できずにいる市民は数十万人に上るとされ、電気やガス、水道などのインフラも寸断。厳しい生活を強いられています。

10日前に避難したディアナさんは、現地の通信はほぼ遮断され、残された人の安否情報も得られなくなってきているといいます。

マリウポリから10日間前に避難 ディアナ・ベルグさん
「通信状態が悪く、ほとんど通話ができません。もう6日間、マリウポリに残っている親族や愛する友人たちと音信不通です」

ディアナさんが今情報を得るために活用しているのが、現地の動画や写真が投稿されるSNSのコミュニティーです。

マリウポリ国立大学の学長が映像を投稿していました。

<SNSに投稿された動画>

マリウポリ国立大学 ミコーラ・トロフィメンコ学長
「暖房施設が破壊されました。砲撃の破片はこの建物にも直撃しました。今も砲撃は続いています」

少しでも多くの人にマリウポリの実態を知ってほしい。激戦地から発信される記録です。

ディアナ・ベルグさん
「これが唯一の情報源でもあり、『マリウポリナウ』と名付けられています。ひどい夢を見ている感覚で、心配でたまりません。痛みと落胆と、怒りを感じます。そしてもちろん罪悪感も」

第2の都市ハリコフ 脱出するか否か

戦闘が長期化する中、脱出するか否かの決断のふちに立たされている街があります。第2の都市ハリコフです。

カメラマン ユーリ・コチュベイさん
「いまは戦闘機も飛んでいないので、急いで撮影に来ました」

ハリコフ在住カメラマンのユーリさんは、病院や学校が攻撃にさらされ、多くの民間人が亡くなる戦争の現実を世界に発信してきました。

ユーリ・コチュベイさん
「ハリコフの民間施設です。街は壊滅状態です。もはやこれは"第3次世界大戦"」

「私はこの目で事実を突き止めなければと決心しました。武器ではなく、カメラを手に携えて役に立とうと思ったんです」

「われわれは屈しない。絶対に」

先週の番組で私たちの取材に応えてくれたナターリャさんは、小児がんの子どもの医療支援を行っていました。子どもたちは病院の地下に避難し、十分な治療を受けることが難しい状況に置かれていました。

14日の夜、ナターリャさんから新たな動画が届きました。

子どもの医療支援を行う ナターリャ・クリヴォラポワさん
「私は今もハリコフにいます。戦闘が激しくなってきたので、地下で撮影しています」

ナターリャさんは包囲網が迫る激戦地にあえて残り、病院の地下にとどまる子どもたちに寄り添っていました。ここで、1人でも多く安全な場所に避難させる活動に取り組んでいます。

ナターリャ・クリヴォラポワさん
「病院にはまだ子どもが24人取り残されています。パンを買おうと列に並んでいたら爆弾が落ちて、目の前で人がバラバラになりました。こんなことは止めなければ」

ナターリャさんたちの支援で、先週、街の外に避難した女性に話を聞きました。小児がんの息子の命をつなぐことができたといいます。

支援を受け避難した女性
「私と息子をハリコフの駅まで車で送ってくれました。列車の中は治療が必要な重い病気の子どもたちであふれていました。街から長い間出られなかったけれど、おかげで脱出できたのです」

しかし、今もハリコフ郊外の自宅には夫と娘が避難できずにとどまっています。

支援を受け避難した女性
「30分前に娘と電話しました。銃撃戦の中で、まだ生きていました。一刻も早くすべてが終わってほしいです」

ハリコフで記録を続けるカメラマンのユーリさんは今、仲間と連携して生活必需品の配給にも乗り出しています。

ユーリ・コチュベイさん
「人道支援物資の倉庫に来ています。処方箋が必要な薬もあります。これは子ども服です」「もし、いまハリコフから逃げたら見捨てることと同じです。私はここにとどまって、助けて、助けて、助け続けます」

"無差別攻撃"の下で市民は

井上 裕貴キャスター:
ロシアによる軍事侵攻から20日。3月14日の夜に行われた停戦交渉はきょう(15日)も続けられる予定ですが、具体的な進展に結び付くか見通せない状況です。

一方で、ロシア軍は東部のハリコフやマリウポリへの攻勢を強め、さらに南部の黒海沿岸の州を掌握したと発表しました。市民の犠牲者は増え続けています。

さらに今、焦点となっているのが首都キエフ。侵攻を続けるロシア軍は3方向から包囲を進めています。総攻撃が間近に迫ると見られるキエフ市内には、いまだ200万人がとどまっているとされています。

人々は今どう過ごし、何を思っているのか。私たちに届いた4人の市民の声です。

ロシア軍が迫る"緊迫の首都" キエフ市民たちの闘い

至るところにバリケードが設けられた首都キエフ。

市民らで構成される、地域防衛部隊への志願者が相次いでいます。志願した男性に、匿名を条件に話を聞くことができました。

地域防衛部隊に所属する男性
「キエフはロシアの工作員グループによる活動のおそれがあるので、彼らをキエフに入れないのが私たちの仕事です」

男性は30代の研究者。キエフ市内ですでに任務に当たっていますが、防衛上の観点から詳しいことは話せないといいます。

地域防衛部隊に所属する男性
「必要に応じて敵と武力衝突することもあります。戦争が何日続いているのか、今日は何曜日なのか、何日なのかもわかりません」

キエフにとどまり続ける人々は今、何を思うのか。

公共ラジオ局に勤めるヴィオラさんは、キエフ南部にある自宅で母と夫、息子2人の5人で暮らしています。当初、キエフから避難することを考えましたが、脳性まひの長男は長時間の移動に耐えられないため、この街にとどまらざるをえませんでした。

公共ラジオ局に勤める ヴィオラ・ブルダさん
「私たち家族は健康面で不安があるので、避難すべきかどうか悩ましいのです」「外で起きていることを、そのまま見せますね」

空襲警報が鳴り響く首都キエフ。

ヴィオラさんはウクライナ軍が反撃する音に、勇気づけられているといいます。

ヴィオラ・ブルダさん
「キエフ周辺で、ウクライナ軍が戦闘機を2機墜落させました」「音を聞いただけで、ウクライナの地対空ミサイルを判別できるくらいになっています」

ヴィオラさんは今、各地の状況を伝えるために、自宅からラジオの発信を続けています。

自宅からラジオでの発信をするヴィオラ・ブルダさん
「ヴィオラ・ブルダがお伝えします。水、飲料、医薬品が不足しています。マリウポリは絶え間なく砲撃を浴びています」

間近に迫るといわれる首都への大規模攻撃。仕事を続けることで、なんとか不安を紛らわせています。

ヴィオラ・ブルダさん
「同僚たちと仕事ができて、とても助かっています。気晴らしにもなるし、社会のために何かすることが慰めにもなるんです」

自分の役割を果たしたいと、キエフにとどまり続ける人もいます。

市の中心部に暮らす大学教員のインナさんは、キエフから避難した人たちが飼っていたペットの世話をしています。

大学教員 インナ・コチカロワさん
「世話をする人がいないので、今、私が面倒を見ています」

ロシアによる軍事侵攻が長引く中、インナさんはある思いを強くしていました。始めたのは、買い物に出られない高齢者たちに薬や食料を届けるボランティアです。

インナ・コチカロワさん
「手術後の人々や病人、90歳の老人や歩けない人がたくさんいます。誰かがその人たちの世話をしなければなりません」「今から85歳のおばあちゃんに届ける食材をお見せします。パンにたまご。鶏肉は家から持ってきました。今は鶏肉がめったに買えないので」

キエフ市内では、スーパーや薬局の品揃えが十分とは言えない状況も出てきています。この日、みずからのお金で買った1週間分の食料を85歳の女性に届けました。

インナ・コチカロワさん
「頭ではここに残るのは危ないとわかっていますが、感じているのは私がここに必要だということです。戦争から逃げる自分を許せないので、ここにとどまっています」

市の中心部にも攻撃が及び始めたキエフ。市民の中には、あえてふだんどおりの生活を送ろうとする人もいます。

家族4人でキエフにとどまるカテリーナさんは、この日、友人の家を訪れていました。

企業向けの人材研修を行う カテリーナ・グルントさん
「母と母の友人がいるので紹介しますね。お花もあるし、晴れているし、猫もいます。みんなと一緒にいると怖くないです」

カテリーナさんは、これまでと変わらない日常を過ごすことで心の安定を保とうとしていました。

カテリーナ・グルントさん
「私の場合、人々の生活が止まっていないことを確認したり、キエフが都市として動いていることを自分自身も家族も理解するために散歩したり、いろんなところに出かけています」

14日から、息子の学校ではオンライン授業が始まりました。ただ、キエフに家族で残るという決断は正しかったのか、カテリーナさんは自問自答を繰り返しているといいます。

カテリーナ・グルントさん
「日々のニュースで危険が高まっているので、自分たちの選択を毎日確認しなければなりません。しかし、どんなに大変なことがあっても耐えられると毎日自分に言い聞かせています。私たち家族はキエフに残って、日常を守りたいと思っています」

緊迫の首都キエフ 現地からの報告

井上 裕貴キャスター:
では、中継です。ロシア軍が包囲しつつあるキエフに、15日の朝に入った日本人ジャーナリスト新田義貴さんに聞きます。新田さんは、今すぐに地下シェルターに避難できる場所にいらっしゃるということです。

新田さん、今のキエフ市内や市民の皆さんの様子はいかがでしょうか。

中継
新田 義貴さん(ユーラシアビジョン代表)
アフガニスタンや中東などで独自に取材を続ける

新田さん:
私は先週もキエフに来て取材していたんですが、15日は先週に比べてはるかに緊張が高まっていると感じます。街には至るところに市街戦に備えた土のうやバリケードが設置されていて、さながら街全体が要塞化していると感じます。

また、15日の朝4時ごろ地下鉄の駅のそばで爆撃があり、先ほど現場に行ってきました。現在のところ犠牲者は確認されていませんが、向かいにある工場が破壊され、爆風で吹き飛ばされたガラスの破片などが散乱していました。この地下鉄の駅は当面使用ができなくなったということです。

井上:
新田さん、キエフ市民の皆さんの戦い方や覚悟というのはどのように感じますか。

新田さん:
15日の朝、キエフに来る途中にヒッチハイクの女性を車に乗せました。彼女は看護師で、これから軍の病院で負傷した兵士の治療にボランティアで携わるとのことでした。なぜ避難しないのかと尋ねると、「ここは自分が生まれ育った愛する土地なのだから最後まで誇りを持って戦いたい」と語りました。このように、多くの人々が強い意思をもって団結していることに驚きを感じます。

日本人にはなかなか理解しづらい感情なのですが、彼らの心のうちをもっと知りたいと思うとともに、彼らが被害に遭うことのないよう戦争の一刻も早い終結を願っています。以上、キエフからでした。

井上:
新田さん、ありがとうございました。

新田さん:
ありがとうございました。

緊迫の首都キエフ 市民たちはいま

<スタジオトーク>

井上 裕貴キャスター:
きょうのゲストは、ロシアの軍事、安全保障に詳しい兵頭慎治さんです。

首都キエフへの侵攻が秒読みとされているわけですが、兵頭さんは今どう見ますか。

スタジオゲスト
兵頭 慎治さん (防衛省防衛研究所 政策研究部長)
ロシアの軍事・安全保障に詳しい

兵頭さん:
軍事的に見ますと、キエフ侵攻の準備は着実に整いつつあると思います。今のロシア軍の位置を確認しておきたいのですが、3方向からキエフ中心部に向かって進軍をしています。特におくれていた北西の主力部隊も、キエフから15キロの位置まで到達をしています。

ただ、ここ数日ロシア軍の攻撃というのは止まっていまして、今戦況の立て直しをしているのではないかと。具体的に言いますと補給の問題、燃料、弾薬、食料の確保の問題。それから、作戦計画の見直しも行っているようでありまして、その部隊の車列が分散して再配置を行っている。

このあと、キエフを取り囲むような形で軍を配置して、いわば兵糧攻めのような形の作戦を行うんではないかと見ています。

井上:
ロシア軍は11日にはそれまであまり攻撃のなかったウクライナ西部の2つの空港、また、ポーランド国境近くの軍事施設を攻撃するなどしています。

これはキエフ総攻撃に向けた布石というふうに見るのでしょうか。

兵頭さん:
その前段階の動きだと見ています。特にこのウクライナ東部の3か所の軍の拠点をなぜ、たたいたかというと2つ理由があると思います。

1つは、ロシア軍はまだ制空権を完全に勝ち取れていません。地上部隊を投入して作戦を行うには制空権をしっかりとる必要がありますので、2つのウクライナ軍の軍用空港を破壊して制空権をとろうとしている。

もう一つは、ポーランドに近い西部は、欧米諸国、特にNATOが軍事支援を行っている一つの補給拠点、供給ルートに当たっているのではないかと見られています。ロシア軍からすると、欧米から供与された対戦車ミサイルであるとか、地対空ミサイルがウクライナ軍側が善戦する大きな理由になっていると思うので、その補給路を断つという狙いもあったのではないかと見ています。

井上:
実際ロシア軍が包囲網を強化しつつある中で、同時に停戦協議というのも行われていると思うのですが、これはどういう関係性があると見たらいいでしょうか。

兵頭さん:
ロシア軍が行っている軍事行動と停戦協議というのは車の両輪のようなところがありまして、これからキエフに対する攻撃を行うに当たってプーチン大統領の最終的な目的というのはゼレンスキー政権を打倒するというところにあります。

ですから、どの程度軍事圧力を加え、どの程度攻撃をするのか。そして、どの程度圧力を加えればゼレンスキー政権がロシアに都合のいい形で降伏するのかというのを逆に停戦協議の場で相手の腹を探るという意味合いがあるのだろうと思います。

ですからプーチン大統領にしてみますと停戦協議を通じてウクライナ政権の意向、どの程度歩み寄る余地があるのか。ここを判断した上で最終的にキエフへの攻撃をどの程度激しいものにするのか。そこの見極めをして、最終的な政治決断をプーチン大統領も近いうちに行おうとしているのではないかと見ています。

井上:
実際停戦協議の行方が注目されるわけですが、今後国際社会というのはどんなことができると思いますか。

兵頭さん:
やれることは限られるのですが、結束して経済制裁を加えるということと、やはりわれわれの声をロシア国内につないで、そこからロシアの中からなんとかプーチン大統領の動きを止めてもらいたいと思います。

井上:
攻撃が激化しつつある、キエフ。最後まで希望を失わない市民の声です。

「戦火の今だからこそ…」 ある市民の行動とは

先週、キエフ中心部の独立広場で行われたコンサート。演奏したのは、地元の交響楽団。団員およそ70人のうち、20人ほどが今もキエフにとどまっています。

その1人、バイオリニストのユリアンさん。

バイオリニスト ユリアン・アレエフさん
「私たちにはバイオリンの弓しかなく、武器を持っていません。しかし、音楽が人々や自分自身の今の状況を乗り越える支えになると信じています」

インタビューの最後に弾いたのは、ウクライナ国歌「ウクライナは滅びず」でした。

ユリアン・アレエフさん
「私たちもここで生きていて、できることがあると見せることができました。私たちは明るい未来を信じています」

見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。