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2022年3月8日(火)

“戦火の下”でいま何が
~最新報告・緊迫のウクライナ~

“戦火の下”でいま何が ~最新報告・緊迫のウクライナ~

ロシアの軍事侵攻が続くウクライナから、一般市民やジャーナリストたちが撮影した生々しい映像が、私たちの元に届きました。
そこに記録されていたのは、〝叫び〟ともいえる人々の悲痛な声。
戦火の下でいま何が起きているのか、報告しました。

出演者

  • 合六 強さん (二松学舎大学国際政治経済学部 専任講師)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

"戦火の下"でいま何が ウクライナ最新報告

井上 裕貴キャスター:
ロシア軍の侵攻から13日。現地時間の昨夜行われた3回目の停戦協議も合意に至らず、戦火の中の人々をどう安全なエリアに退避させるか、人道回廊といわれる避難ルートが確保できるかに関心が集まっています。

私たちは、ウクライナ国内に残る市民やジャーナリストたちに直接連絡を取り、命の危険が迫る中で撮影された映像や証言を集めました。

その中のひとつ、ロシア軍が迫る首都キエフ近郊の街、イルピンでは無差別な攻撃にさらされ、避難もままならない市民たちの姿が見えてきました。

市民やジャーナリストが訴えるウクライナの現状

首都キエフの近郊、イルピンで6日撮影された映像です。画面の奥に見えるのは、検問所を通過しようと集まってきた住民たち。

しかし、ロシア軍の攻撃で避難中の女性と子どもが亡くなりました。

この数時間後、同じ場所で撮影された映像には放置された遺体と傍らにはスーツケースがありました。イルピン市の市長によると、この日の攻撃で避難中の市民8人が死亡しました。

撮影した男性
「ここには家族の遺体があります。母、小さな子どもです。これは朝の攻撃の結果です。プーチン、これは人道回廊ですか?民間人を殺してるじゃないか。民間人が避難しようとする道も攻撃されている」

この動画を公開したウクライナ人ジャーナリストのアンドリー・ツァプリエンコさんは、戦地で通信が制限される中、私たちの質問に対し、8日の朝にメッセージを送ってくれました。

アンドリー・ツァプリエンコさん
「ロシア軍はイルピン市で、町から避難しようとした家族を殺しました。親と子どもを狙って殺したのです。ジャーナリストたちの目の前でした。その家族が見えていたから、わざとやったんでしょう。ウクライナ全域で起きていることはロシア軍による遊びか、一般市民を対象としたテロ行為のようです」

3日前までイルピンにいたという女性に、話を聞くことができました。

イルピンから避難 イリーナ・マクシメンコさん
「開戦初日から砲撃が続いています。毎日状況が悪化しました。ミサイルの下で眠りにつき、ミサイルの下で目が覚めるんです。この10日間で何度も夫にすがり、『もう終わりだ』と思った時がありました。ミサイルが私たちの方に飛んでくるんです」

ロシア軍の無差別の攻撃で、避難することさえままならない実態があるといいます。

イリーナ・マクシメンコさん
「橋はすべて壊れていて、車でイルピンを出ることは不可能です。家に自転車があったので、それで出発しました。道路を走りながら祈っていました。上空では砲撃が続いていたのです」

ロシア軍が迫りつつあるキエフ市内でも、人々の不安は高まっています。

夫と11歳の子どもと暮らす、カテリーナ・グルントさんです。

キエフ在住 カテリーナ・グルントさん
「窓はカーテンを覆って、夜は電気をつけません」

爆撃の被害を受けないように、寝る場所は建物の中で最も頑丈なつくりになっている風呂場です。

夫は、退役軍人や一般市民で作られる地域防衛部隊に参加を決めています。水や食料などの備蓄をしていますが、いつまで持ちこたえられるのか恐怖の中の生活が続いています。

カテリーナ・グルントさん
「このままだと、みんな衰弱し切ってしまいます。一般市民も、兵士も、政府も。話し合いが進んで、早く戦争が終わってくれるように願っています」

ウクライナ第二の都市、ハリコフでは議会や大学の建物が大きな被害を受けるなど、激しい攻撃にさらされています。

ユーリ・コチュベイさん
「これがロシアが求める世界です。私は防弾チョッキなんか着たくありません。この戦争を望んでいません」

電気やガスなどのライフラインが止まり、深刻な食料不足が報告されています。

小児がんの子どもたちの医療支援を行っている、ナターリャ・クリヴォラポワさんです。

子どもの医療支援を行う ナターリャ・クリヴォラポワさん
「ハリコフは、まるで世界から切り取られてしまったかのようです。私たちはそこに取り残されたのです」

当初、子どもたちが入院していたのはハリコフの北西部にある病院でしたが、ロシア軍の侵攻が始まると、砲撃によって廊下の窓が割れるなどの危険にさらされました。

ナターリャさんたちは重症の子どもたちを少しでも安全な場所にと、20キロ離れた病院に移動。子どもたちは今、その地下に避難しています。しかし薬も限られ、十分な治療を受けられない状態が続いているといいます。

ナターリャ・クリヴォラポワさん
「ここでは彼らは死を待つだけです。銃撃が続いていて、治療もできません。電気は通っておらず、医療機器も使えません。子どもたちはとても怖がっています。がんの治療だけでなく、精神的なケアも必要です。誰が彼らを救えるのでしょうか。銃撃の音で、子どもたちはずっと泣き叫んでいたんです。この現実をどのように伝えたらいいか…」

ナターリャさん自身、4人の子どもを育てる母親です。家族のために避難したくても、小児がんの子どもたちの現実を前に決断できずにいます。

ナターリャ・クリヴォラポワさん
「私は毎日混乱しています。(小児がんの)子どもたちを見捨てられません。逃げるのも留まるのも怖いんです。自分の子どもや他の子どもに何ができるのか、毎日泣いています。早く終わってほしい。21世紀になぜ、こんなことが起きているのでしょうか」

名ばかりの"人道回廊"

ロシア国防省は、8日までに首都キエフなど5つの都市で市民のための避難ルートを設置し、これらの地域で一時的に停戦すると発表。

しかし、戦闘がおさまらず、多くの市民の避難は実現できていません。

そのひとつ、東部の貿易拠点、マリウポリ。ロシア軍がウクライナの海上輸送を断つため、激しい攻撃を行っている場所です。

近くの町からマリウポリに食料などの支援物資を届けていたマクシム・テレシチェンコさんは、今は近づくことすらできない状況だといいます。

支援物資を届ける マクシム・テレシチェンコさん
「今、マリウポリは包囲されています。ロシア軍が事実上あらゆる方面から取り囲んでいるのです。食料や薬などをマリウポリに届けることは不可能です。ロシア軍は1台の車も通しません。マリウポリを離れる車も全て破壊されます。マリウポリから車で逃げようとした人がいました。残念ながら、その車は破壊されました。それは民間人で、母親と小さな子どもでした。電気もガスも水もありません。全てが止まっています。現在人々は文字どおり飢えています。何も食べるものがないのです」

命からがらマリウポリから脱出した、ディアナ・ベルグさんです。

ディアナ・ベルグさん
「車に乗って、何とか脱出できました。その時はロシア軍に包囲され始めたときだったので、死ぬ覚悟で逃げました。奇跡だったと思います。戦車の間を通って、本当に生きた心地がしませんでした。3日間もお風呂に入っていないし、着替えもしていない。精神的にも本当につらかったです」

ディアナさんがSNSに投稿した、マリウポリの住民の写真です。

通信手段が遮断される中でどう避難すればいいのか、十分な情報が伝えられない現実に直面しているといいます。

ディアナ・ベルグさん
「避難指示をどう知らせるのかが問題です。避難の情報を入手した人や警察は、直接『避難!』と叫んで伝えているような状況なのです。多くの人は、自分の町で何が起きているか分かっていません。銃撃への恐怖から外へ歩くことさえできないからです」

マリウポリには今も、親族や友人たちが取り残されたまま。安否は分かっていません。

ディアナ・ベルグさん
「ほかの都市のことも心が痛いですが、マリウポリを思うと本当に苦しくなります。避難ルートも攻撃されました。一般市民は爆撃され、子どもは血まみれだった。これは戦争ではなく、ウクライナ人のせん滅。大量虐殺です」

ウクライナ人ジャーナリストのツァプリエンコさんが今最も危機感を抱いているのが、プーチン大統領が核戦力を念頭に置いた発言をしていることです。

ジャーナリスト アンドリー・ツァプリエンコさん
「日本の方は広島と長崎に原爆が落とされた時の被害、心の傷や恐怖をよく覚えていらっしゃると思います。ロシアがいまウクライナで同じことをすれば、もっとひどい結果になるでしょう。欧米の各国はそのことを恐れています。われわれも恐れていますが、自由を守りたいのです」

「惨状を見過ごせない…」再びウクライナへ "志願兵"の決断

今、国外に住むウクライナ人が、志願兵に加わる動きが相次いでいます。

隣国ポーランドに住むオレグ・マルチェンコさんは、5年前から出稼ぎのため、妻とワルシャワで暮らしています。ロシアの侵攻以来悩んできたのは、みずからも志願兵に加わるかどうかです。

オレグ・マルチェンコさん
「ウクライナは僕の国だから、そこにいなければならないと感じている」

命の危険を冒してまでウクライナに戻るべきか。

オレグさんの母親と息子は、ロシアの侵攻が始まった直後、ウクライナから避難。オレグさんが戦場へ向かうことに反対しました。

母親
「怖くないと言った息子を誇りに思いますが、母親としては怖いです。恐れています」

「ショックでした。仕事の日でもずっと泣いていました」
オレグ・マルチェンコさん
「(家族の涙を見て)僕も胸が苦しくなり、心の中で泣いていた。(家族に)気付かれないように」

これまで、薬などの支援物資をウクライナに送り届けてきたオレグさん。葛藤の末、志願兵に加わる決意を固めています。

オレグ・マルチェンコさん
「もし今すぐ向こうへ行くように軍から要請があれば、すぐに出発します。準備はいつでもできている」

現地の最新状況は

<スタジオトーク>

井上 裕貴キャスター:
きょうのゲストは、二松学舎大学専任講師の合六強(ごうろくつよし)さんです。

ロシアは攻撃の対象を戦闘員だったり軍事施設にしているとしていますが、この現実を改めてどうご覧になりましたか。

スタジオゲスト
合六 強さん (二松学舎大学 専任講師)
NATOおよびウクライナ危機問題を研究

合六さん:
すでに多くの一般市民が犠牲になっているということで、特にお年寄りだったり子どもだったりと、社会的弱者にしわ寄せが行っていることに非常に心を痛めているという状況です。

井上:
こうした中で市民たちの安全なところへの避難というのが急務なわけですが、ロシアが新たに提示してきた、いわゆる人道回廊避難ルート。

キエフなどの5都市については、市民を主にロシアに移送する計画になっていまして、ウクライナ側はこれを受け入れられないとしています。

ただ、ウクライナメディアによる最新情報で、北東部のスムイからウクライナ国内の別の都市に移すルートでは市民の避難が始まった模様です。

合六さん、この人道回廊についてはいろんな情報がありますが、どう読み解きますか。

合六さん:
人道回廊と聞くと、聞こえは非常にソフトで優しいイメージですが、これをどういうふうに設置するか。これを巡っても両国の間で激しい駆け引きが今、繰り広げられていると思います。

ロシアとしては、人道面で精いっぱい配慮しているんだということをアピールすべく、より多くの回廊の設置を発表しています。

他方、ウクライナ側としては行き先がロシア領ということで、市民みずからがロシアに逃げ込んできているということを宣伝として使われたくないというふうに考えていると思います。

だからこそ確実に退避ができるように、ウクライナ側としては現段階で安全な別の都市に退避するよう、回廊を設けたというふうに見ていいのではないでしょうか。

井上:
これは実際どんなことを懸念されていますか。

合六さん:
過去にロシアは中東のシリアで同じような人道回廊を設置したことがあるのですが、退避が完了する前に攻撃を再開したこともあります。今回も恐らく多くの住民がその地でとどまるということが考えられますので、残った者は政府側の戦闘員だとか、あるいは政府側の手先、こういった口実を使って大規模な攻撃を都市に仕掛けてくるということは排除できないと思います。

井上:こうした厳しい現状の中、なんとか戦闘地域から逃れようとこれまで170万人を超える人が国外に避難し、そのうち半数が子どもだといいます。

ウクライナと国境を接するポーランド、メディカに別府記者がいます。別府さん、現地の最新の状況を伝えてください。

別府 正一郎記者:
私は今、国境近くの検問所にいます。ウクライナ側から国境を越えた人たちがこちらに集まっています。

そして、あちらをご覧ください。ここからおよそ10キロほど離れた、一時的な避難場所に向かうためのバスを待つ人たちです。

今、午前11時半を過ぎました。気温は2度。日中ですが、ぐっと冷え込んできました。人々の間では幼い子どもを連れた人たちの姿が目立ちます。また持っている荷物を見ますと、とても小さく、それだけ急いで逃れてきたことが分かります。誰もが疲れ切った表情をしています。

一方で、ポーランド側からウクライナ側に行くという人の流れもあります。近くの駅では、ウクライナに向かう列車を待つ人の列ができていました。

やはり自分の家に戻りたいと考える女性や、ふだんはポーランドで運転手をしているものの祖国をロシアから守るために戦うために戻るんだと話す男性もいました。また、ウクライナに行くことこそがロシアへの抵抗だと考える女性もいました。

「ロシアは、私たちの主権など考えていません。ロシア軍を追い出すために、何かしなければいけない。ウクライナは私たちの領土です。簡単に私たちを追い出すことはできない」

別府:
ある日、突然ほかの国に武力で攻め込まれるという事態に直面しているウクライナの人々。不安や憤りと共に、状況をなんとか変えたいという思いも強まっています。

どう止める ロシアの侵攻

<スタジオトーク>

井上 裕貴キャスター:
大きな焦点となるのが、ロシアの侵攻をどう止めるのかについてですけれども、これまでゼレンスキー大統領が繰り返し求めているのが、NATOによるウクライナ国内の飛行禁止区域の設定です。しかし、NATOはこれを拒否しています。

合六さん、かつてリビアの内戦の際に同じ飛行禁止区域というのを設定したと思うのですが、なぜ今回これができないのでしょうか。

合六さん:
やはり、今回の相手が核を大量に持っている大国ロシアだということに尽きるんだと思います。飛行禁止区域が設定されれば、ロシアが軍機をウクライナ上空に飛ばせばNATO側がこれを撃退する必要が出てきます。もし両者の間で衝突が起これば、一気に軍事的にエスカレーションしかねず、NATOとしてもちゅうちょせざるを得ない状況なんだろうと思います。

井上:
また、アメリカによる戦闘機供与の動き、これはどう見ていますか。

合六さん:
もしこれが実現すれば、ウクライナ側が制空権を取り戻す第一歩として非常に大きなものとなると思います。

ただし、実際にどのような方法でウクライナ側に戦闘機を渡すのかというロジスティック上の問題であるとか、もしポーランドの空港で引き渡すとなると、プーチン大統領がそれをNATO側の参戦と捉えて次の一手を出してくるかもしれないという危険もあって、NATOとしてもなかなか難しい、苦しい判断に迫られている状況だと思います。

井上:
今、私たちに何が求められているでしょうか。

合六さん:
今、われわれは世界史の大きな転換点に立たされていると思います。むき出しの力が物を言う世界に戻らないように、今取っている制裁を粘り強く各国と足並みをそろえて維持して、ロシアにプレッシャーをかける必要が出てくると思います。政治家も国民に対して、なぜ痛みを伴ってでもこの措置が必要かということを率直に語る必要があると思います。

井上:
ありがとうございました。

いま私たちにできることは 在日ウクライナ人の訴え

来日して20年になる、アマウリ・マリーナさん。横浜でダンススタジオを経営しています。

この日、ようやく両親と電話がつながりました。

マリーナさんの父親
「街は大変な状態。封鎖されていて、反撃する準備をしている」

両親が暮らすのは、原発への攻撃があったザポリージャ。避難したくても交通手段がないため、現地にとどまらざるをえません。

今、自分にできることは何か。この日、ダンスを披露してウクライナへの寄付金を募ることにしました。

アマウリ・マリーナさん
「ひとりでは何もできない。でも、みんなでアクションをしたら大きくなる。私はウクライナ人だから、ただ座って待っていることはできない。できることをやりたい」

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