放送した詳しい内容がテキスト&画像でご覧いただけます

Menu
2022年2月22日(火)
「トー横キッズ」 ~居場所なき子どもたちの声~

「トー横キッズ」
~居場所なき子どもたちの声~

新宿・歌舞伎町の一角、通称「トー横」。ここに「自分の居場所がない」という10代が集まってきます。家庭での虐待や学校でのいじめなどに悩む子どもも少なくありません。一刻も早い支援が必要ですが、大人への不信感もあり、既存の支援に結びつきにくい現実も。
子どもたちを支えるために、何が必要なのか考えました。

出演者

  • 湯浅誠さん (社会活動家・東京大学特任教授)
  • 岡野 有希子(NHK社会部記者)
  • 保里 小百合 (アナウンサー)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

トー横キッズ 密着4か月 居場所なき子どもたちの声

保里 小百合キャスター:
新宿歌舞伎町に集まる少年少女、「トー横キッズ」。去年、薬物摂取や自殺、傷害致死事件などが相次ぎ、警察も対策を強化していますが、子どもたちが巻き込まれる事件やトラブルが依然として続いています。

どうすれば子どもたちの状況が改善するのか。私たちは取材を始めました。未成年の取材にあたっては、NHKでは必要に応じて保護者の承諾を得ることとしていますが、「親に虐待を受けている」などと話す子どもも多く、専門家と相談したうえであえて保護者と連絡を取らずに取材を進めたケースもあります。

4か月にわたる密着取材で、ようやく子どもたちが語り始めたこととは。

なぜ子どもたちは歌舞伎町に?

キャバクラやホストクラブ、風俗店が数多く立ち並ぶ日本最大の歓楽街、新宿歌舞伎町。その中心にあるビルにちなみ名付けられた、通称「トー横」。3年ほど前から10代の子どもたちが集まるはやりの場所になっています。

モノトーンの洋服と厚底のブーツを合わせた地雷系と呼ばれるファッションに身を包み、軽快に踊る若者たち。その動画をSNSに投稿するのが大きなブームになっているのです。

中高生
「原宿に行ったときに、こういう格好で行くと『地雷系だ』って超バカにされるんで」
中高生
「こういう格好の友達ってなかなか周りにいないから、話しやすい子ができる」

<取材者と2人の女子高校生のやりとり>

高校生
「自分の自撮りを投稿するみたいな」
取材者
「投稿してどうするの?」
高校生
「友達増やす」

まだ、あどけなさが残る少女。この日、トー横に来るのが2回目だというユメさん(仮名)に出会いました。中学1年生、12歳だといいます。一緒にいる少女とはSNSで知り合い、直接会ったのはつい30分前でした。

ユメさん(仮名)
「トー横行く人を探してみたらコメント下さって。学校の人たちだと、ちょっとなんか『トー横行っているの?』みたいな感じで変なうわさが回りそうで怖いなと思って。ネッ友(ネットの友達)だったら新たな経験になるかなと思ったんで、ツイッターで誘いました」

子どもたちが集まるトー横は、夜になると大きく様変わりします。大きな荷物を手にやってくる、少年少女たち。なぜ帰らないのか尋ねると、それぞれの事情を語りました。

取材者
「中学校?」
中学生の少年(13歳)
「そうです。登校拒否です、登校拒否。だから家は閉め出し状態ですね。閉め出し放題。要するに児童館みたいな。だから知らない子たちと集まって仲良くする。しかたないじゃん、だって。居場所がなくて。うちら家出すればってなってもさ。独りじゃ心細いし」

17歳の少年は、通っていた高校でトラブルがあり、1か月前に退学したといいます。

高校を退学した少年(17歳)
「先生たちの対応が悪かったりとか、あんまり居心地がよくなくて、ここへ逃げてきて、行かなくなった。もう大人に頼りたくなかったっていうのが、いちばん」

トー横に集まってくる未成年は100人以上に上るとみられ、家出状態の子どもも少なくありません。路上で夜を明かしたり、近くのホテルに友人どうしで泊まったりして、その日暮らしを続けています。

少女(15歳)
「ホテルとか連れ込み、全然バレないから。みんな入れちゃって、みんなで割り勘とかしたりもするし、割り勘だと(1人)1,000円ぐらいでいける」

別の日の夜9時過ぎ。男性に声をかけられている少女がいました。以前、昼間にインタビューした中学1年生のユメさん(仮名)でした。

取材者
「前に取材したのは2週間前だね?」
ユメさん
「2週間前。あれから基本ずっといます」
取材者
「親は心配しないの?」
ユメさん
「大丈夫」

親には友人の家にいると言い、安いホテルに泊まったり野宿をしたりしているといいます。

次第にトー横で過ごす時間が長くなってきたユメさん。ここが唯一の居場所だと感じるようになったといいます。

ユメさん
「同じ悩みを抱えている子もいるし、今は普通に同じ界わいの人に相談しまくってしまった。ちゃんと最後まで聞いてくれるし、それこそそれで病んじゃっても、しっかりメンタルケアまでラストまでやってくれるからこそ、全然帰りたくない」

取材班が見た実像

<スタジオトーク>

保里 小百合キャスター:
取材に当たった岡野記者は今回、子どもたちと直接接する中でどんなことをいちばん感じましたか。

岡野有希子記者(社会部):
やはり最も感じたのは、私たち大人への不信感というものでした。最初は私たちが取材に入っても、なかなか話を聞かせてもらうことさえ難しくて。私たちの姿が見えると、子どもたちが逃げていってしまうというようなことも数多くありました。また話を聞かせてくれても、その話を聞かせてくれた相手が話してくれたことが、本当なのかどうかということも分かりませんでした。

ただ、共通していたのは学校ですとか、家庭に居場所がなくて孤独感ですとか、寂しさというものをみんな抱えていました。
子どもたちは最初はSNSをきっかけにつながっているのですが、やはり本当に求めているというのはリアルな人とのつながりですとか、ぬくもりといったもので、そういったものを求めてトー横に来ているんだと感じました。

保里:
長期間家出状態で、援助交際などをしている子どもたちを前にして、何かできることはないのか。その辺りはどうでしたか。

岡野:
子どもたちに家に帰れないのかと聞いたり、支援機関につなぐための窓口を紹介したりもしたのですが、なかなか難しいというのが実情でした。
というのは子どもたちはトー横にたどりつく前に、自分の親も含めた大人に虐待を受けていたりですとか、学校でいじめに遭っていても教師が助けてくれなかったと話す子どもたちもいました。

そうした中で子どもたちどうしが助け合いながら生活するというコミュニティーが出来上がってしまっていて、そこに社会の目がより一層入りにくくなっていることに危機感を持ちました。

保里:
トー横で過ごす子どもたちに、忍び寄る大人たちもいます。そうした存在が子どもたちの暮らしを成り立たせてしまっている、その皮肉な現実も見えてきました。

横行する援助交際 パパ活

トー横での取材中、私たちは10代の少女たちに声をかける大人の姿を何度も目撃しました。いわゆる援助交際や、パパ活目的だと見られています。

トー横周辺にたびたび来ているという男性(50代)です。

男性(50代)
「1人で立っている、携帯をいじっている子とか『一発どう?』と声をかけたら聞いてくれる子はいます。だいたいホ別(ホテル別)で、安い子は1.0(1万円)。僕は最後までしない」

子どもたちは、なぜ危うい場所にとどまり続けているのか。取材を重ねる中で、一人の少女が話を聞かせてくれました。
15歳だというミカさん(仮名)。年が明けたばかりの元日の未明、泊まっていたホテルに案内してくれました。5か月もの間、家にはほとんど帰っていないといいます。

ミカさん(仮名)
「『普通にかわいいから2万あげるよ』って言ってくれて、2万円もらいました。」

ホテル代などの生活費は、援助交際で得ているといいます。

ミカさん
「これは案件(援助交際)のアカウントのアイコン。これを5分以内に消さないと、アカバン(アカウント停止)されちゃうので」
ミカさん
「(返信が)来た来た。今2人来ています。こんな感じでいつも送っています」
送られてきたメッセージを読み上げるミカさん
「"お値段とお姉さんの雰囲気をいただいてもよろしいでしょうか"。プリクラでいいや。1万かな。1万ぐらいでできたらうれしいな」

ミカさんもまた、家や学校に自分の居場所を見つけられなかったといいます。

ミカさん
「ずっと友達いなかったから、私。学校は1か月くらい行って、もう全力で友達つくろうと頑張っていたんですよ。めっちゃラインして、電話とかもかけていたんですよ。そしたら『気持ち悪い』って言われるようになって。親も男と遊んだり、夜とか。夜いなかったりとかで寂しくて」

孤独に耐えられなくなり、市販の薬を大量に飲むこともあるといいます。

ミカさん(市販薬のビンを見せながら)
「OD(薬物過剰摂取)用です」
取材者
「全部飲んだの、これ?」
ミカさん
「いろいろフワフワして現実を忘れられるっていうか。それ以上飲むと、記憶がぶっ飛びます」
ミカさん
「カッター。リストカット用。体を売っていることも、自分がリストカットして体が汚くなっているのも気持ち悪いし、この世界がもう地獄だという、なんか嫌だという。こっちの世界にいるほうが苦しいということじゃん」

それでもミカさんは、この日もSNSで知り合った男のもとに向かいました。元日の朝7時のことでした。

ミカさん(SNSを見ながら)
「こんな朝から元気だな、このおじ。朝から元気かよ。本当にかわいそうなおじだ。私が相手をしてやるわ。1万円もらって」

事態を重く見た警察は、子どもたちへの声かけや補導の強化に乗り出しています。

<子どもに声をかける警察官>

警察官
「警視庁です。おいくつですか?」
少女
「2000年生まれの21歳。身分証持っていない。家出しているだけ」
警察官
「えっ、家出しているの?ここでウソをついてもしょうがないから、平成でいうと何年(生まれ)?」
少女
「いいや、2006年3月(生まれ)」
警察官
「じゃあ、今いくつだ?」
少女
「まだ誕生日来てないから、15歳。平成18年。めんどくさい!」

去年1年間、歌舞伎町での補導はおよそ180件。前の年の3倍近くに上ります。しかし、補導してもほとんどは家に帰すだけで、根本的な解決にはつながっていません。

取材を続けていた先月下旬、以前ホテルで話を聞かせてくれたミカさんが警察に補導されるのを目撃しました。

<ミカさん(仮名)と警察官のやりとり>

ミカさん
「待って、お願いだから。あなたは話を聞いてくれないの」

ところがその次の日。ミカさんの姿は再びトー横にありました。一度は自宅に連れ戻されましたが、すぐに家を出てきたといいます。

警視庁 担当者
「結局、何回も繰り返している子がいる。家出してせっかく見つけて確保して『(親が)保護してください』と言うから保護して、家に戻しても『また出ちゃいました』。親御さんに電話すると『何度言っても聞かない』。ちょっと諦めちゃっているような。大人とか警察に(子どもが)不信感をすごく持っている」

取材を始めて4か月。私たちは、以前取材した中学1年生のユメさん(仮名)に再び会いました。

ユメさん(仮名)
「この辺歩いていると、どっかでおじが声かけてくるけど超ひま」

最初に出会ったのは昼間のトー横。まだ、ユメさんがここに通い始めたばかりのころでした。以前はしていなかった化粧をするようになっていたユメさん。その言動にも変化が見られるようになっていました。

ユメさん
「コンビニでお酒買いたい」
取材者
「お酒はダメ。ここに来るまではお酒は?」
ユメさん
「飲んでなかった。みんな飲んでて、『飲む?』と言われたから興味本位で飲んでみた。酔わない。本当にお酒、強い。多分強いよ」

この日は気温は4度。所持金は1,000円ほどでしたが、ユメさんはこの場所に居続けたいと仲間のもとに戻っていきました。

ユメさん
「野宿する。きょうは。どうせあした、人集まるらしいし」
取材者
「トー横の何がいいんだろうね?」
ユメさん
「何がいいんだろうね。うちもよく分からない、何がいいのか」

子どもたちにどう寄り添えば?

<スタジオトーク>

保里 小百合キャスター:
補導されたあとも状況が改善せず、トー横が唯一の居場所になっている、そんな実態が見えてきました。

子どもたちが補導されたあと、どうなるのか。その現状をお伝えしていきます。原則、自宅に帰されますが、家庭の事情によっては児童相談所で一時的に保護されます。さらに、児童福祉施設に移されることもありますが、およそ半数は保護者との話し合いなどを経て自宅に帰されているのが現状です。ただ、家庭に問題を抱えているケースも多く、中には再び家を出てトー横に戻ってしまう子どもたちもいるんです。

きょうのゲストは、社会活動家の湯浅誠さんです。
今の仕組みが子どもたちを守る根本的な解決につながっていないわけですが、この問題についてどのように考えていますか。

スタジオゲスト
湯浅誠さん 社会活動家
貧困の解消や子どもの支援に取り組む。
NPO「全国こども食堂支援センター・むすびえ」理事長
東京大学先端科学技術研究センター 特任教授

湯浅さん:
大変深刻な課題だと思います。取り上げられたトー横という場所、とても危険に満ちている場所のようですけれども、そこが子どもたちにとっては唯一の居場所になっている。つまり、それ以外の子どもたちが生活している家庭とか学校とかがトー横に負けているということですよね。その全体の状況を変えていかないと、問題解決していかないだろうと思います。

保里:
子どもたちが生活する地域に、学校や家庭とはまた別の居場所が必要だということですか。

湯浅さん:
そうですね。もちろん家庭が居場所になればそれがいいです。学校が居場所になればそれがいいです。ですが、それができない。家庭も学校も居場所にならないという子は、じゃあ諦めるしかないのか。
そうではなくて、地域の居場所があればいいと。いろんな人たちが子どもを見守るような地域作りをやるということ、いわば第3の居場所と言われるような取り組みですね。

トー横が児童館みたいだと言っていた子がいました。児童館というのは地域にあるんです。なぜ地域の児童館がその子にとって児童館にならないのか。そういうことを考えていく必要があるだろうと思います。

保里:
湯浅さんが取り組んでいる子ども食堂などにも通じる、例えば一緒に話ができてごはんが食べられる、そんな場所でしょうか。

湯浅さん:
そうですね。問題は複雑ですけどもやるべきことはシンプルで、一緒に食事をして、気持ちがほぐれる中で身の上の話をしてくれたり、自分の課題に向きあう力を蓄える。自分の課題に向きあうって力が要りますから、そういう力を自分の中で蓄えられる。

そういう関係を紡げる大人、子ども食堂をやっている人たちも同じです。そういう人たちが全国にたくさんいるので、やはりそうした人たちが地域の第3の居場所を作る中で、その子たちのもともとの生活圏がその人たちにとっての居場所になることで、トー横に行かなくても自分は居場所があるという状態が作れるのが望ましいと思います。

※その後の取材に基づき、6月22日、記事を修正しました
見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。