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2022年1月6日(木)

密着・羽田空港 検疫所
オミクロン “水際”の攻防

密着・羽田空港 検疫所 オミクロン “水際”の攻防

世界を襲った“オミクロン株”。今回、水際の対応に追われる羽田空港の検疫所に密着した。外国人の新規入国原則停止をはじめ、矢継ぎ早に対策を打ち出した日本。しかし、防疫の最前線は極限の状態にあった。渡航者の抗議、待機施設となるホテルの不足、空港での陽性者の急増・・・市中感染が起きるまでの2か月をカメラは記録した。日本はどのようにオミクロン株に対じするのか、検疫現場の密着ルポとともに専門家と考える。

出演者

  • 和田耕治さん (国際医療福祉大学 教授)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

密着・羽田空港 検疫所 オミクロン“水際"の攻防

東京の空の玄関口、羽田空港。私たちが取材を始めたのは11月末。オミクロン株への対応が始まるタイミングでした。

「陰性証明書をこちらで拝見しております」

水際対策を担うのは、厚生労働省が管轄する検疫所。医師や看護師などの免許を持つ検疫官が、24時間体制で勤務しています。

検疫官たちを統括する、小出由美子さん。水際対策への厳しい声もある中、取材に応じたのには理由がありました。

上席空港検疫管理官 小出由美子さん
「"ざる"と言われるのは、非常につらい。反論があるかもしれないんですけど、私たちは決してさぼっているわけではなくて、やるべきことはしっかりやっているとは言えると思う。ちゃんとした私たちの姿を見てほしい」

日本の水際対策は、4つのステップで行われています。まず、到着した乗客に出国前72時間以内の検査証明書の提出を求めます。

次に、唾液を用いた抗原定量検査を実施。PCR検査とほぼ同等の精度があるとされ、1時間ほどで結果が出ます。

結果が陰性であっても、滞在した国や地域によって3日から10日間ホテルなどでの待機を求めます。

入国後は、位置情報や健康状態を専用のアプリで把握します。世界的に見ても厳しい水際対策とされているのです。

政府が急きょ新しい対策を打ち出した翌日(11月30日)、現場は対応に追われていました。

「どこの国が3日(待機)なのか、どこが6日なのか」

「30日0時からスタートなんですよね?」

「相当ひっかかってくる、国数が多いから」

乗客への事前周知もままならない中での新たな方針に、懸念が広がっていました。

「知らないのに乗って帰ってきてしまった、どうするんだというところの対応がどんと増えるかなと思う」

このころ羽田空港で見込まれた入国者は、1日およそ1,500人。これらに20人ほどの検疫官と、委託先のスタッフなどで対応しなければなりません。

フランスからの帰国者
「俺ずっとこのまま朝まで主治医のドクターと連絡がつかないというだけで、ここに停留されるの?」

翌日、さっそく恐れていた事態が起きました。

フランスからの帰国者
「ホテル取ったからホテル行けって、狭い部屋にぶちこまれるわけ?結局連絡がつかなかったら。そこを言ってんだよ」

小出由美子さん
「感染を市中に拡大させないためにとっている政府の措置になりますので、強い要請です」

フランスからの帰国者
「強い要請だよね。じゃあ強い要請を断った場合は、入国を拒否する事由になるんですか?」

3日間のホテル待機の対象国に指定された、フランスからの帰国者。パニック障害があるとして、ホテルではなく自宅での待機を求めていました。医療上の必要性があると判断されれば、ホテル待機を免除することもできます。検疫官は、主治医に確認を取ることを求めました。

小出由美子さん
「(検疫所)のドクターが電話をして、確認が取れましたら入国という手続きになる」

フランスからの帰国者
「おかしくないかな。ちょっと筋が違っているように思う」

小出由美子さん
「お薬手帳の写真とか、何かないですか」

フランスからの帰国者
「そんなこと必要になる場になってから言われても困るよね。事前に言っといてくれたら公開していたのかね、君たちは」

小出由美子さん
「私の方から…」

フランスからの帰国者
「ちょっとあなたと話していて、ちょっと頭にきているから、ちょっと時間くれる。I wanna cool down」

説得すること5時間。男性はホテル待機を受け入れました。

さらに。

「お子様を死産されたらしんですね。体調の方が戻っていないので、人道的配慮ができないかと申し出があった」

イギリスから帰国した女性。渡航の前日に、イギリスは6日間の待機対象国になったばかりでした。

「ドクターとも話し合った結果、今回は人道的配慮は適用できない。苦しい部分はあります。いろんな事例があるので、われわれも苦慮するところはいっぱいあるんですけれども」

羽田検疫所のトップ、岩崎容子さん。それぞれの事情を抱える帰国者を前に、水際対策の理解を得る難しさを感じていました。

東京空港検疫所支所 岩崎容子支所長
「相手を思いやる気持ちもありつつ、国はちゃんと守りたい。正しくありたいけれど、優しくもありたい。そういう職員たちのジレンマはある」

"空港から出られない"

南アフリカでオミクロン株が初めて確認されて、10日余り。感染は42の国と地域に広がりました。ホテル待機の対象者は急増し、当初の1日60人が5日後には1,000人を超えました。

24時間の勤務を終えた朝の引き継ぎ。大きな問題が持ち上がっていました。

「全員ホテル搬送が終了したのが、明け方3時くらい。待機者があふれて」

前日、ホテルに輸送するためのバスが不足し、入国者を長時間待たせてしまったのです。入国者からは、強い不満の声が複数上がっていました。

<12月5日のTwitterより>

"すでに羽田に降り立って8時間…まだ空港から出れない"

"水も食べ物もなしで、コレはいかがなものか?"

"小さい子供は待ちくたびれて、泣いててかわいそうです"

同じ事態を避けるべく、検疫官たちはバスの確保に奔走していました。

小出由美子さん
「何時くらいに来てくれそうなんです?バス」

夕方には、大勢の乗客を乗せた飛行機の到着が迫っていました。

小出由美子さん
「運転手出ちゃってる?もうこの時点から来て欲しいんですよね。だからできるかぎり最大限何台か」

バスが足りなければ、また長時間待たせることになります。

小出由美子さん
「うちに段ボールベッドってなかった。赤ちゃんいる人とかは、そういうので」

岩崎容子支所長
「お水出せないですか」

入国者が空港で夜を明かす、最悪の事態も想定していました。

小出由美子さん
「もしもし小出です。2台は確実に来るんですね」

小出由美子さん
「きょう8台(バス確保)」

「本当ですか!うれしい~。やばい、よかったー」

夕方の便が到着する直前、バスの確保にめどがつきました。

小出由美子さん
「心の安定ですよ。バス何台かで」

岩崎容子支所長
「本当だよね」

しかし。

「今(ホテル輸送が)何便から止まってる?何便から送りだせなくなってる?」

今度は、肝心のホテルが大幅に不足しているというのです。

「ここまではギリギリ入っている。これ以降」

「200室(空きが)出たって聞いた」

「それ埋まってる」

「それ埋まったの?」

「埋まってます」

「これどういうこと。何が起きてるの」

「うちはきょう成田(空港)に(空室を)渡していないよね」

「渡していない」

「渡していなくて、何で起きるの」

ホテルの不足は、およそ200人分に上っていました。厚生労働省はホテルとの契約を進めていましたが、増え続ける待機対象者に準備が追いついていませんでした。

厚生労働省の担当部署に窮状を訴えますが、近隣の空港に連絡して融通しあってほしいとの返答でした。

小出由美子さん
「もちろん成田も(空室が)無いって言われた」

「じゃあここで空港でどうしろって言うの」

小出由美子さん
「とにかく上に諮るから、ちょっと待ってくれって」

「何時まで待てばいいんですかね」

小出由美子さん
「ここの危機感が伝わっていない」

小出由美子さん
「部屋を(成田と)お互いに調整してくれって」

「自転車操業してもだめですよね」

「もうわかってる話じゃん」

現場が混乱した最大の要因は、入国者の滞在歴が事前に分からないことでした。

例えば、トルコからの便。対象国に指定されていないため乗客はホテル待機が求められないはずです。

しかし中には対象国から出発し、トルコを経由して到着する人もいます。その場合、ホテル待機が必要となります。

実際に乗客が到着してからでないと、ホテル待機が何人いるのか分からないのです。さらに、入国者が家族連れなのか単身者なのかも到着まで分かりません。部屋の割り振りも難航しました。

岩崎容子支所長
「これからの便を考えて200人超。ここら辺にとどまることを考えて場所を確保するんだけれど、けさ言っていたお水とか」

この日はホテルに臨時の清掃を頼み込み、なんとか部屋を確保しました。最後の乗客が空港を出たのは、午前3時を過ぎていました。水際対策を徹底するという使命と、現実とのはざまで現場は限界に近づいていました。

国境を越える人たちの事情

オミクロン株の出現で、より厳しくなった出入国。その中で国境を越える人たちにはどんな事情があるのでしょうか。

取材者
「どちらからお戻りなんですか」

「アメリカのオハイオ州から」

孫の顔を見せるため、1年ぶりに帰国した家族。2週間の待機期間を考えると、長期の休みを取れる年末のこの時期しか帰国できなかったといいます。

高齢の母が入院したと聞き、緊急帰国した人もいました。

<アメリカから帰国した親子>

「私の母が入院していて、会える時に会っといた方がいいなと思って」

「結構年齢が高いので、今回が最後かなという感じでした。やっぱり帰ってきてよかったなと」

出国フロアのほうには、大勢の外国人の姿が。日本での実習を終え帰国する技能実習生たちです。

技能実習生の監理団体
「(2021年)1月から(技能実習生は)入ってこられないんで、帰る子だけですね、今は。全員帰られちゃったら仕事にならない。また(入国停止が)1年とか続いたらもう無理ですよね」

こちらは、これからロシアに一時帰国する在日20年の新体操の先生。

日本在住のロシア出身者
「私はお葬式。お父さんが死んだ。この3年会わなくて。会えずにバイバイ」

取材者
「3年戻れなかったのもコロナの関係?」

日本在住のロシア出身者
「うん、大体コロナで。そういうときもあるね。行かないとだめ」

オミクロン株に揺れる、日本の玄関口。それでも世界と切り離せない、それぞれの人生がありました。

世界で拡大するオミクロン株

その後もオミクロン株は世界中に拡大しました。

<12月10日 厚生労働大臣会見>

後藤厚生労働大臣
「本日(ホテルなど)1万室を超える対応が可能になる見込み」

しかし12月11日、年末を控え入国者がピークに。確保したホテルを上回る予想。

岩崎容子支所長
「きょうは大雪が降ったのと同じ気分でいきます」

空港の関係者が総出で長時間の滞在に備えます。

帰国者
「10時間飛行機乗って、今6時間近く待っているんだけど、大人は我慢したとしても、子どもの状況を考えて下さい。常識的に考えて」

連日深夜までの対応が続きました。

オミクロン株の出現から、およそ1か月。日本ではまだ、市中感染は確認されていませんでした。

一方、世界では。

<ABCワールドニュース・トゥナイト>

「4つの州を除いて、全ての州でオミクロン株が確認されました」

アメリカの医師
「本当に恐ろしい状況です。みんな疲れ切っています」

オランダ ルッテ首相
「再びロックダウンです」

100を超える国と地域に感染が拡大。イギリスでは1日の感染者が10万人を超えるなど、猛威を振るっていました。

その波は、羽田の検疫所にも押し寄せていました。

<12月22日>

「新しい陽性者情報伝えてもいいですか」

「陽性でた」

「またですか」

「すごい、もうひとり(検体番号)3501も」

「えっまた」

「もう信じられない」

空港の検査で陽性になる人が過去最多になっていたのです。さらに、空港では陰性だったものの、ホテルなどでの待機中に陽性になるケースも続出。

「"オミ確定"でた人に赤丸をつけといたので、ほぼ全部」

追加の解析で、ほとんどの人がオミクロン株に感染していることが明らかになったのです。この1週間、羽田空港からの入国者で陽性になる人は連日20人に上っていました。

入国者用のホテルはめどが立ったものの、今度は検疫所が確保する感染者の隔離施設がひっ迫し始めていました。

そして。

「市中感染初、大阪」

12月22日、初の市中感染が確認されたのです。

岩崎容子支所長
「検疫でできることはやるしかないだけですよね。もうそれ以上でも以下でもないので。市中感染もそのうち出るという覚悟はありつつも、だからといって水際を緩めるわけにはいかないので、そこは引き続きやります」

感染急拡大 オミクロン 水際対策 効果と限界

保里:厚生労働省の専門家会合のメンバーを務めている和田耕治さんが、会議を終えてすぐこちらにお越しいただきました。きょう(6日)も全国の感染者数が4,000人を超えるなど感染が急速に広がっている中で、専門家の間では今後どんな事態を危惧しているのでしょうか。

和田耕治さん (国際医療福祉大学 教授)

和田さん:きょう(6日)の数字は、まだクリスマスの直後ぐらいの感染が見えてきているような状態になります。そのため、年末年始かなり多くの方が接触する機会があったということで、今後多くの方が感染者として積み上がってくる可能性があるということが非常に危惧するポイントになります。その中でも、やはり感染の広がりが非常に速い。これまで以上に速いということを国内でも実感している状況にあります。それによって海外ですでに起きておりますけども、例えば医療や介護、そして社会機能の事業者にも大きく広がった場合にはかなり社会も混乱するのではないかという危惧ですね。そしてさらには今後、高齢者に波及するとどうなるか、そんな危惧があります。

保里:そうした事態を防ぐためには、どんな対策が必要だと見ているのでしょうか。

和田さん:直近で言うと連休がある、そして成人式を楽しみにしていらっしゃる方がおられる、これを中止するというのはなかなかできないだろうというところがあります。年を越えて状況が変わってきている中で、まだこの状況に気持ちが追いついていない方も多いのではないかなと思いますが、ここはやはり感染対策をしっかりとやっていただくという意識をどの程度変えていただけるかがポイントになります。ですので成人式をされるのはいいとは思いますけど、そのあとに多くの方が集まってパーティーをされるようなことはちょっと控えていただく。これは地方も含めて必要になってくるなと考えております。

井上:そして水際対策についてもお聞きしますが、実際現場が直面している難しさは理解できたのですが、市中感染が起きてしまったと。和田さんも実際、検疫現場で医師として対応された経験もあるということですが、やはり完全に侵入を防ぐというのは難しいでしょうか。

和田さん:新型コロナに関しては変異をするたびに感染拡大の速さが非常に速くなり、広がりやすくなっている。さらには無症状であっても感染を広げる可能性がある。そして潜伏期間がありますので、陰性であってもそのあとに発症するという方が一定数おられます。その中でも日本はいわゆる島国でありますので、入ってくる方に対して検査や対応をすることによって、いわゆる時間稼ぎといったものができる。ですので、今国内でも少し増えてきているのは決して失敗ではなくて、時間稼ぎがある程度1か月間、ほかの国と比べて時間が稼げたというのは日本にとって非常に大きかったと考えています。

井上:実際その点は、時間稼ぎ1か月ほどということですけど、どんなことが国内で対応できたんですか。

和田さん:まず海外のデータ、いろいろと入手ができたということがあります。感染に関しては非常に広がりやすいといったことも分かりましたので、そこをどうするのか。そして重症化のリスクは多少低いということはありますけど、やはりこれは高齢者に広がると分からないよねといったこと。それに応じて戦略が立ってきて、具体的な対策というものがすでに始まっております。
例えば3回目のワクチン接種。これは今医療従事者、介護の方に急いでやっている中で高齢者に対しての前倒しといったことが戦略として始まっています。そして治療体制の整備ですね。これをやっていくという中で飲み薬も今、全国の薬局に配備されて今後使えるようにしています。さらには検査機会の確保ということで、無料での検査といったものも始まっておりますので、こういった機会が確保できたといったことは日本にとって非常によかったと思っています。

ただ、やはりまだまだ足りてないところがありますので、ちょっとギアを入れ替えてアクセルを踏んでいくような早い対応をどんどん今後やっていかなければいけないという状況にはあります。

保里:政府は外国人の新規入国停止など、今も厳しい措置を続けているわけですが、これは同時に経済への影響も大きいと。すでに市中感染が広がっている中で今後どうあるべきか、そのかじ取りについてどのように考えますか。

和田さん:今国内でここまで広がりましたので、海外から戻ってこられる方だけに非常に厳しい行動制限をお願いするというのはだんだん合理的ではなくなってきています。イギリスやアメリカにおいては、南アフリカからの入国の方も含めてかなり緩和をしてきているというような状況にあります。一方で、日本は検疫で今も多くの感染者が見つかっているという状況です。今後技能実習生の方であったり留学生であったり、日本への入国を待っておられる方が非常に多いので、国内に入ってこられる際にはさまざまな対策を積み重ねることによって海外との往来ができるようにという形は目指していかなければいけない。そういった対策とともに、市民の皆さんの理解をいただきながらできるようにしていく必要があると考えています。


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