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2022年1月4日(火)
新春インタビュー2022 社会を変える“一歩”を

新春インタビュー2022
社会を変える“一歩”を

2022年、世界が注目する人物に、キャスターの井上裕貴と保里小百合がインタビューで迫る。ひとりは、ノーベル平和賞を受賞したフィリピン人のジャーナリスト、マリア・レッサ氏。彼女が訴える世界が直面する危機とは何か。もうひとりは、アイスランドの女性リーダー、カトリン・ヤコブスドッティル首相。形だけではない男女平等や多様性を認め合う社会とはどのようなものか。時代を生き抜くヒントを探っていく。

出演者

  • マリア・レッサさん (ノーベル平和賞のフィリピン人ジャーナリスト)
  • カトリン・ヤコブスドッティルさん (アイスランド首相)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

2022年・世界注目の人物に聞く!

井上:「クローズアップ現代+」新年最初の放送です。これからの新時代、何が問われるのか。

保里:2022年、井上さん、どんなことを伝えていきたいですか。

井上:そうですね。パンデミックの中で2人でいろいろお伝えしましたけれども、今の日本の若い人たちの声だったり、弱い立場の人の声がなかなか上がらない、そしてなかなか届かない、こういう社会が気になっていますね。保里さんは?

保里:私は、ひとりの女性としてもどかしい思いを抱くことが多かったです。コロナ禍はもともと不安定な雇用環境にあった人、弱い立場にある人たち、多くの女性たちを直撃しましたよね。そうした中でジェンダー平等とか、さまざまな数値目標は掲げられるんですけれども、なかなか状況が改善する兆しを感じられない。そうした中で、日本の状況を前に進めるヒントを得たいと考えました。

井上:そうですね。どうすれば社会は一歩を踏み出せるのか。今回私たちは、世界が注目するキーパーソンにインタビューしました。

ノーベル平和賞 マリア・レッサ "権力に屈せず"伝える

世界が注目するジャーナリスト。まず聞きたいと思ったのは、どんな圧力にも屈しない原動力です。

ジャーナリスト マリア・レッサさん
「日本のことはよく知っています。意外かもしれないけれど、(1990年代後半)六本木で数か月過ごしたのです。CNNの支局があった場所です」

ノーベル平和賞を受賞したマリア・レッサさん。フィリピンにあるインターネットメディア「ラップラー」の代表で、100人余りのジャーナリストとともにニュースを伝えています。特に力を入れているのは、強権的な手法で知られるドゥテルテ大統領の報道です。ドゥテルテ政権は、麻薬の撲滅に向けて暴力も辞さない姿勢です。これに対し、ラップラーは地道な調査報道を基に、鋭く批判。取締りの過程で子どもまでが殺されている実態などを明らかにしてきました。大統領本人に対しても、厳しく問いただします。

<「ラップラー」より(2016年)>

マリア・レッサさん
「暴力は必要?統治に必要ですか?」

フィリピン ドゥテルテ大統領
「必要だと思う」

警察は名誉毀損などの容疑で、マリアさんを何度も逮捕。それでも声を上げ続けるのは、沈黙が社会の後退につながるからだと、みずからの信念を語ってくれました。

井上
「マリアさんは命の危険にさらされています。"ジャーナリスト"であり続けるためには、何が必要だと思いますか?」

マリア・レッサさん
「ドゥテルテ政権下、大きな憲法違反があり、私も権利を侵害されました。ジャーナリストとして嫌がらせを受けたり、威嚇されたりもしています。しかし、やるべきことはやり続けます。政府はジャーナリストを黙らせたいのです。でも、それは民主主義のためにも国民のためにもなりません。私は恐怖を受け入れています。ジャーナリストが攻撃されたとき、できることは事実を明らかにすることだけです。伝え続けなければ、私たちが負けてしまいます。"事実"を伝えなければ、ジャーナリストは負け、民主主義は失われます」

今、世界では強権的な指導者が力を強め、言論の自由が脅かされています。去年、当局の弾圧などで殺害されたジャーナリストは少なくとも24人。投獄されている人は300人近くにもなります。今まさに、民主主義のあり方が問われているのです。

ジャーナリスト保護委員会 副所長 ロバート・マホニー氏
「マリアは報道と道徳心という武器だけを手に、フィリピンで起きていることを世界に訴えました。勇気を持って報道を続ける、象徴的な存在です。マリアのようなジャーナリストが公に認められ、たたえられたことはとても重要です。彼女がスポットライトを浴びることで、同じように政府からの弾圧と闘っているほかのジャーナリストたちを助けることにもなるのですから」

マリア・レッサさん
「ノーベル賞のスポットライトがジャーナリストに当てられたことは、ここフィリピンだけでなく、世界中の人たちが勇気づけられたと思います。私はこのメダルをすべての闘うジャーナリストにささげます」

マリアさんはマルコス独裁政権の下、自由が制限されたフィリピンで育ちました。そしてマリアさんが10歳のとき、家族はアメリカに移住することを決意しました。

マリア・レッサさん
「恥ずがしがり屋で、内向的な子どもでした。英語もやっと話せる程度で、居場所がないと感じていました」

アメリカの大学を卒業し、ジャーナリストの道を志したマリアさん。母国フィリピンに戻り、アメリカのテレビ局で記者として働き、アジアの国々が民主化に向けて大きく動き出す姿を目の当たりにしました。

マリア・レッサさん
「(東南アジア諸国で)独裁政権から民主主義へと振り子が振れた時代を取材してきました。いまその振り子が、元に戻ることに危機感を感じています」

ノーベル平和賞 マリア・レッサ "SNSの功罪"を考える

その「振り子」を民主主義と逆方向に動かす恐れがあるのが、私たちが当たり前のように使っている「SNS」だとマリアさんは指摘します。

マリア・レッサさん
「にせの世論をつくることができる時代になりました。SNSを使って意見をねつ造できるようになったのです。この環境ではドゥテルテ支持者はより右寄りに、反対派はより左寄りになります。このように社会が分断されることは、民主主義に大きな害を及ぼすのです」

自分の聞きたい意見ばかりが自動的に入ってくる、SNS。使い方を誤れば、社会の分断がより深まるとマリアさんはいいます。

<2020年>

フィリピン ドゥテルテ大統領
「レッサは詐欺師だ。私に時間をくれ。うそを暴いてやる」

マリアさんにうそつきのレッテルを貼った、ドゥテルテ大統領。その主張はSNSを通じて広がっていきました。マリアさんのノーベル平和賞受賞を伝えるページにも、相次いで否定的なコメントが書き込まれました。

"この女はうそだらけだ"

"彼女がついてきたうそは、どうなんだ?"

"偏見のある人が真実を求められるのか?"

新聞記者としてマニラに駐在し、マリアさんを知る柴田直治(なおじ)教授は、情報を知る手段としてSNSが主流になっているフィリピンでは民主主義のあり方さえもSNSが変えようとしていると指摘します。

近畿大学国際学部(元 朝日新聞記者) 柴田直治教授
「政権を批判するメディアに対しては、SNSを使って大量にそれに対する反論、ひぼう中傷も含めたものがカウンターで出てきている。非常に国民の高い支持を得ているというのも、これも現実。ラップラーもがんばって対抗しているが、押されているというのが現状ではないか」

マリア・レッサさん
「いまは100万回うそをつけば事実になる時代です。多くのフィリピン人が"ジャーナリストは犯罪者"といううそを信じています。私はジャーナリストであって政治家ではないので、人気とりのために何かすることはありません。難しいのは、うそ対ジャーナリズムの対立構図が成り立たないということです。なぜなら事実は退屈なものだからです」

マリアさんは、誤った情報を拡散してしまうSNSの環境をもはや野放しにはできないと訴えます。

井上
「プラットフォームに関して、いまどんな議論が必要でしょうか?」

マリア・レッサさん
「遺伝子研究やゲノム編集の技術と同じことです。遺伝子研究は精度が高くなっていて、いまでは設計図どおりの赤ちゃんを作れます。いま、欧米ではそれを禁止するための規則があります。神がやることを人間がやってはいけないのです。神のようなテクノロジーには、神のような知恵が必要です。しかし人間には神のような知恵はありません。だから自滅を防ぐために、最低限のルールが必要ではないでしょうか。プラットフォームに責任を求めれば、うその拡散に歯止めがかかるでしょう。放送局や新聞社のように責任を問われる立場になれば、うその拡散を防ぐ対策をとるようになるからです」

誤った情報が氾濫し岐路に立つ民主主義。一歩でもいい方向へ進むためにはいま何が必要か聞きました。

マリア・レッサさん
「"沈黙は共謀に等しい"ということばを私は常々使っています。ひとりの意見は全体に影響します。一方で全体が少数派の意見を沈黙させることもあります。民主国家を機能させるには誰もが沈黙せず声をあげる必要があります。まず恐怖心を克服することです。世間がどうあろうと関係ありません。恐怖を克服することができれば前に進むことができます。ジャーナリストであってもそうでない市民であっても同じことです」

井上
「いまジャーナリズムは岐路に立っています。それはどんなことを意味すると思いますか?2022年をどのように展望されますか」

マリア・レッサさん
「いまフィリピンは存亡の危機にあります。このことは世界の民主国家に教訓をあたえるでしょう。ことしフィリピンでは選挙があります。そのあとにほかの国の選挙が続きます。フィリピンの民主主義が破綻すれば、ほかの国がそのあとに続くことになるでしょう。日本もまた変化から逃れることはできません。日本はどんな世界を望むのでしょうか。お願いです。どうかいま持っている民主主義を大切にして、手放さないでください」

世界一ジェンダー平等な国 注目の女性リーダーに聞く

私(保里)が話を聞いたのは、アイスランドのカトリン・ヤコブスドッティル首相。世界でもその手腕が注目されている女性リーダーです。

保里
「首相、こんにちは!お会いできてとてもうれしいです」

アイスランド カトリン・ヤコブスドッティル首相
「ええ、お会いできてうれしいです。カトリンです。いつか日本に行けたらいいなと思っています。まだ行ったことがありません」

日本から8,000キロ離れたアイスランド。人口36万人の小国でありながら世界で最もジェンダー平等な国として知られています。各国の男女の格差を測るジェンダーギャップ指数で日本は120位と格差が大きいのに対し、アイスランドは12年連続1位。

父親の育児休暇取得率は8割を超え、国会議員の割合も男女同数に迫っています。この国を率いるのが、カトリン・ヤコブスドッティル首相。夫と共に3人の子どもを育てています。首相になってからも市民と同じマンションで暮らし、徒歩や自転車で通勤することも珍しくありません。

アイスランド市民
「彼女は私たちの上ではなく、同じ場所にいる感じです」

アイスランド市民
「カトリン首相が好きです。お手本にしたいなと思います」

保里
「なぜ市民のすぐそばで暮らすことを大切にしているのでしょうか」

カトリン・ヤコブスドッティル首相
「それは政治家も市民の一員であるべきだと思うからです。政治家も市民の一人であり、市民の近くにいるべきです」

なぜ、世界一ジェンダー平等な国であり続けることができるのか。私は日本の倍近い男女の給与格差や、女性議員の割合が1割を切る現状を伝える中で、一歩でも前に進むためのヒントを得たいと考えました。

保里
「日本では大きなジェンダーギャップがあります。日本にも政治やビジネスにおいてジェンダー平等に関する目標がありますが、目先の数値目標では意味がないのではないか。そんなジレンマがあるのです。ジェンダー平等についてどんな信念を持って取り組んでいますか」

カトリン・ヤコブスドッティル首相
「ジェンダー平等を達成するためには、思い切った対策が必要です。私たちは、男女同一賃金の法律を施行しました。法律で定めるということが大事なのです。アイスランドでは、国の政策や法律がジェンダー平等を後押ししてきたのです」

世界一ジェンダー平等な国 "格差はあってはならないもの"

2017年に首相に就任後、すぐに取り組んだのが男女の賃金格差をなくすことでした。世界で初めて男女同一賃金の証明を義務づけ、違反した雇用主には罰金を科すという法律を施行しました。世界各国が性別による賃金格差を禁止しているにもかかわらず、実態が伴わない中で、法律によって実効性のあるものにしようとしたのです。

同一賃金の認証を受けたゲー厶制作会社は、法律が施行される前は採用する従業員の8割が男性でした。

ゲーム会社 人事担当者
「2017年の採用の際は、男女比は80対20でした。今は58対42に縮めることができました。私たちはより良い組織になろうとしています」

法律ができて以降、男女同一賃金の導入だけでなく、採用のあり方も見直し格差の解消に取り組んできました。

ゲーム会社 人事担当者
「男女の格差に焦点を当てて取り組んだことで、非常に短い期間で格差を縮めることができました。この2年間は、給与の差はゼロです。男女の格差はまったくありません」

男女同一賃金の証明は企業だけでなく、公的機関や教育現揚など、従業員25人を超える全ての組織に課されていて、これまでに認証を受けた組織は350近くにのぼります。

教師
「私たちが望むのは、このように性別を問わず活躍できる職場です」

生徒
「私たちの先生が男女同一賃金の認証を受けたことを知って、とても誇りに思います」

保里
「たとえ小さな差であっても、男女の賃金格差解消に努めなければならない。なぜそう考えるのでしょうか?」

カトリン・ヤコブスドッティル首相
「男性と女性が同じ仕事をしているなら同じ賃金をもらうべきです。それは女性の経済的自立にも密接に関わる、とても重要な問題です。賃金は平等であるべきです。その差の大小が問題なのではなく、そもそも差はあってはならないのです」

世界一ジェンダー平等な国 "社会を変えた声"

企業の自由を制限するなど反対の声もある中、法律を施行することを貫いた首相。その背景には、政治家としての信念を育てた原体験があったといいます。幼いときに見た、女性だけの政党の誕生。当時、アイスランドは政治や経済の中核を男性が占め、決して平等とはいえない状況でした。

カトリン・ヤコブスドッティル首相
「私が6歳か7歳の頃、アイスランドの政治は大きく変わりました。伝統的な政党までも"女性政治家も必要だ"と言い始めたのです。それはとても新鮮でした。女性だけの政党というのは突飛なアイディアのように思われましたが、それがアイスランドの政治情勢を変えたのです。女性が政治に参加することが当たり前になり、小さな変化が始まりました。政治や政策が一般の人々の価値観を変えていくことを私たちは実感をもって知ったのです」

さらに政治家としての信念を強くする出来事となったのが「リーマンショック」です。世界的な金融危機によって、アイスランドは財政破綻寸前まで追い込まれました。混乱の中、教育科学文化相になったカトリン・ヤコブスドッティル首相。大学などと連携して、性別を問わず仕事を失った人たちが再び学ぶことができるように後押ししたのです。こうした取り組みは、やがて社会の変化を生むことにつながっていきます。多様な人が大学で学ぶようになる中で多くの技術革新が生まれ、アイスランドの経済再生を支えたのです。

アイスランド大学 ヨゥーン・アトリ・ベネディクトソン学長
「男性にも女性にも同じチャンスが与えられました。すると、大学内の様々な活動の中心を女性が担うようになりました。男性優位ではなくなったのです。そして学生によるイノベーションが金融危機の中でも次々と生まれたのです」

カトリン・ヤコブスドッティル首相
「ジェンダー平等を実現すれば実際に社会が良くなり、経済も上向く事を目の当たりにしたのです。私たちが経験したことは、より平等な社会の方が、すべての人にとって良い社会だということです。家族にとっても、男の子と女の子にとっても、良い社会になるのです。労働市場における女性の参加率が高いことは、実際に経済にもいい影響を与えています。ただ、経済が良くなるというのは、正しいことを行った結果。あくまで副産物です。ジェンダー平等を目指す理由はシンプルにそれが公平なことであり、正しいことだからなのです」

去年、国政選挙を経て2期目に入った首相。選挙の投票率は80%。多くの国民が政治を動かす社会は、長い時間をかけて作られてきました。

<アイスランド国営放送「子どもニュース」>

子ども
「子ども選挙が行われました」

選挙の際に全国で行われてきた、子どもたちによる模擬選挙。

カトリン・ヤコブスドッティル首相は、子どもたちの対話を増やすことでそれをさらに進めたいと考えています。

<アイスランド国営放送「子どもニュース」>

子ども
「議会に参加すること、首相であることの面白さは何ですか?」

カトリン・ヤコブスドッティル首相
「議会では、考えの違う人々と意見をぶつけ合うことが面白いです。誰もが意見を言える場は大切なのです」

保里
「子どもや若者の声を大切にされていますが、若い世代の声を重視することは、どんな意味があるのでしょうか。将来作りたい社会につながっているのでしょうか」

カトリン・ヤコブスドッティル首相
「すべての世代、すべての国民が政治に積極的に参加することは、どの社会にとっても非常に重要なことだと思います。アイスランドの投票率はとても高いです。その高さは、健全な民主主義社会である安心できるサインでもあります。だからこそ私たちは子どもたちが声を上げられるように、国の政策決定にもその声が届くように、子どもたちの力を高めようとしてきました」

保里
「新年にあたり、日本へのメッセージをお願いします」

カトリン・ヤコブスドッティル首相
「私たちがやってきたことが誰かの参考になればうれしいですし、私たちもほかの国や人から学びたいと思っています。私たちも学ばなければいけないことがたくさんあります。多様性があり、平等な社会を目指すことは大きな挑戦ですが、それは私たちにとって何より大事な挑戦なのです」

社会を"一歩"前に進めるために

保里:アイスランドと日本とでは国を取り巻く環境は異なりますが、それでもカトリン・ヤコブスドッティル首相の話を聞いて実感したのは格差や不平等に対して人々が声を上げる、そして政策がそれを後押ししていけば平等で豊かな社会というのを実現していけるんだということです。

井上:マリアさんのお話は、同じ取材者として背筋が伸びる思いでした。たった1つの声でも国のありようだったり、社会の姿を変えうる力があるということを感じました。あとは、たとえ人と違っても自分の名前で責任を持って発信すること、そこに不屈であれということを教えられたような気がしました。2022年も取材を続けていきます。

保里:国内外の人の声を聞いて向き合って伝えていきます。


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