クローズアップ現代

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2021年11月18日(木)
ショパンコンクール 快挙の舞台裏 〜ピアニスト・反田恭平と小林愛実〜

ショパンコンクール 快挙の舞台裏
〜ピアニスト・反田恭平と小林愛実〜

10月に行われたショパン国際ピアノコンクールで、2位に反田恭平さん(27)が、4位に小林愛実さん(26)が入賞する快挙を達成した。2人は幼い頃から同じ音楽教室に通った"幼なじみ"。若き才能はいかにして花開いたのか。過酷なコンクールを乗り越えた2人の強さの秘密とコンクールの舞台裏に迫る。 スタジオでは、帰国したばかりの小林さんに演奏も披露していただく。

<小林愛実さんによる演奏 ショパン「24のプレリュード」23番・24番>
見逃し配信はこちら ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

出演者

  • 小林愛実さん (ピアニスト)
  • 保里 小百合 (アナウンサー)

ショパンコンクールW入賞 反田恭平&小林愛実

保里:激戦を終えて、先日帰国されたばかりの小林愛実さんにお越しいただきました。小林さん、世界三大ピアノコンクールの1つとされるショパンコンクールの入賞からまもなく1か月です。本当におめでとうございます。

小林愛実さん (ピアニスト)

小林さん:ありがとうございます。

保里:ほっとする日常を取り戻せましたか。

小林さん:そうですね。自分が知らないうちにコンクールですごく緊張していたみたいで、予備予選から朝起きたら胃がちょっとキリキリしてたんですけれども、終わったとたんそれから解放されて、もうもりもり食べてます。

保里:何を…?

小林さん:私はうどんがすごく好きなので、日本に帰ってきて一番にうどんを食べました。

保里:小林さんには、後ほど演奏も披露していただきます。そして、小林さんと幼なじみで、同じく今回入賞を果たした反田恭平さんにも滞在先のイスラエルから先週インタビューに応じてもらいました。

ショパンコンクール 2位入賞 反田恭平さん
「街を歩いているだけで3秒に1回くらい『サインちょうだい』、『おめでとう』と、いろいろな方に言われたのは本当にびっくりしました。どんなに周りから称賛を得ようが、変わらない自分であり続けたいなと」

保里:ショパンコンクールの参加資格は、30歳以下です。5年に1度、開かれますが、新型コロナウイルスの影響で1年越しの開催となりました。この決勝の舞台に立つためにはいくつもの予選を通過していかなければいけないんですが、特徴的なのは演奏する曲はすべてショパンの作品に限られるということです。

技術力のみならず、どういった曲を選ぶかという構成力、表現力など、あらゆる力が試されます。この険しい道のりにお二人はどう挑んだのか。そこにはピアニストとしての生き方を問い続けた、知られざる日々がありました。

世界最高峰ショパンコンクール 快挙への道のりに密着

10月。ポーランドの首都、ワルシャワで幕を開けたコンクール。今回はどんなスターが現れるのか。ここ、ショパンのふるさとは沸き立っていました。

「ショパンの音楽は私の情熱です」

世界各国から集まった87人の精鋭たちが、18日間にわたってしのぎを削ります。

初挑戦の反田さん。1次予選の朝です。

スタッフ
「おはようございます」

反田恭平さん
「おはようございます。絶好調。メンタルは絶好調。フィジカルはSO-SO(まあまあ)ですね。手がお風呂入りすぎてむくんじゃって」

反田さんは、4年前からワルシャワにあるショパン音楽大学に留学。この日のために、研さんを積んできました。

反田恭平さん
「僕もショパンは好きではあるけれども、好きと得意は別で、やっぱり自分で納得できるショパンというのは演奏ができなかったんですよね、ここに来るまでは。4年間で成長できた証しを、ここで何か残せたらいいよなっていうのは、本当に今、一番強い思いですよね」

反田さんが一躍脚光を浴びたのは、高校3年生で挑んだ日本で最も権威のあるコンクール。

研ぎ澄まされたリズム感と、色鮮やかな音色を武器に1位になったのです。

反田さんは、ことし27歳。ショパンコンクールに挑むには最後のチャンスです。

1次予選を通過。87人中、17位でした。

反田恭平さん
「やっぱり幼なじみがいてくれると、ほっとするし、次は彼女をサポートしたいなと思ってます」

小林さんは反田さんと高校も同じ音楽科で、15年以上、互いに切さたく磨してきました。前回のショパンコンクールで決勝まで進んだ、唯一の日本人です。

迎えた1次予選、想定外の事態が。いすの高さが合いません。身長149センチの小林さん。急きょ、いすの調整が必要になりました。

トラブルにも動じず弾ききり、87人中9位と、日本人トップで1次予選を通過しました。

3歳でピアノを始めた小林さん。その才能は、すぐに開花します。小林さんを幼いころから教えてきた、二宮裕子さん。子どもとは思えない演奏にどぎもを抜かれたといいます。

二宮裕子さん
「表現力が、えっこんなに小さいのに、それだけの表現ができるの。しかも指が正確なんですよ。速いところでも何でも。私が弾いてやるでしょ。そうすると、そのまねは早いです。そんなにやらなくてもいいわよっていうぐらいオーバーに表現したり。(本番直前の)最後の3日でそれができちゃう」

数々のコンクールで最年少記録を塗り替え、僅か14歳でプロデビューを果たしました。

6年前のショパンコンクールでは、入賞を逃していた小林さん。今回、特別な思いで挑んでいました。

小林愛実さん
「(前回は)ただのファイナリストなので、もう1回いってもいいかなって。他のコンクールに出るよりも、一番プレッシャーを感じるコンクールだなとは思うし。(2度目なので)リスクしかないですよ。分かってる、うん。でもちょっと追い込まれると、燃えてくるから」

2次予選に進んだ2人に、注目していた人がいます。ショパンの研究者、下田幸二さん。毎回コンクールを現地で見続けてきました。2人の高校の先生でもあります。

下田幸二さん
「小さな音だけれども、すごく長く呼吸を引っ張る。聴衆もみんな集中していくわけです、彼女の演奏に。まるで"魔法使い"のような感じがする」

一方の反田さん。

下田幸二さん
「タッチの切れ味、指の切れ味ですね。そういうものは大変優れている。1個1個の音が立っている」

2人はそれぞれの持ち味を存分に発揮して、3次予選への切符を手にしました。

生涯で200近い多彩な作品を残した、ピアノの詩人、ショパン。コンクールでは曲に込められた思いをどう解釈し、表現するのかが問われます。

この日、反田さんはショパン像のある公園を訪れていました。

反田恭平さん
「留学して、初めて来たときはさすがに感慨深かったですね」

ポーランドに生活の拠点を移して4年。どうすればショパンをより深く理解できるのか。一人、模索を続けてきました。

反田恭平さん
「ピアノだけ弾いていればいいというわけでは、きっとなくて。ショパン音楽大学の隣にショパン博物館というのがある。そこで自筆譜を見ていたり、彼が使用しなかったアイデアだったり、そういったことも残っているので、毎回発見があって」

3次予選では持ち時間が55分と、これまでの倍近くになります。どの曲を選び、どう構成するか。音楽家としての総合力が試されます。

反田さんが軸に据えようと考えた曲がありました。聖歌「ラルゴ」。ショパンの死後、90年近くたって発見された、埋もれた1曲でした。

反田恭平さん
「教会の前にある大理石のボタンを押すと鳴る椅子から『ラルゴ』が流れてきて、こんないい曲、すてきな曲あるんだって。留学しなきゃ知らなかった、出会わなかった曲のひとつ」

祖国・ポーランドへのショパンの思いが込められた「ラルゴ」を、3次予選でどう表現するべきか。

小林さんもまた、ショパンと向き合うことでピアニストとしての生き方を見いだそうとしていました。実は10代後半のとき、ピアノをやめようと思い詰めたことがありました。

小林愛実さん
「周りが期待してくれて、そこまで自分はすごくないのに、どうしたらいいんだろうという気持ちになって。周りに言われてやり続けているのか、それとも自分がやりたくてやっているのか、わからなくなって、ピアノを弾いていても楽しくなくて」

ピアノを弾く意味を見失いかけていたときに出会ったのが、前回のショパンコンクールでした。

小林愛実さん
「ショパンだけを演奏するということで、ショパンと向き合う時間が増えて、まだまだ勉強しなきゃいけないことがたくさんあるんだなと気づけて、楽しくなってきたというか。『ショパンらしい演奏がこうだから』というよりかは、ショパンとただ向き合って、『自分が思うショパン』を演奏すればいいのかなって」

それから6年。3次予選の1曲に選んだのは、24の異なる曲からなる「24のプレリュード」でした。

小林愛実さん
「痛みや苦しみ、憧れだったり、ロマンス。ショパンの感情を自分なりに解釈して、演奏しようと」

小林愛実さん
「なんで泣ける…疲れた。ちょっと楽しかった」

小林愛実さん
「どうしても楽しんで弾きたかった、自分の中で。それが楽しめたから、それで私はすごく、今はうれしい」

反田さんは、「ラルゴ」を壮大な構成の中に編み上げました。

始まりは"死"。大国から攻め込まれるポーランド。憂いや恐怖心を表現しました。

そして聖歌ラルゴ「神よ、ポーランドを」。ショパンの祖国への祈り。切なる願いを静かに表現しました。

天に届いた、その祈り。最後は"勝利"の曲で締めくくりました。

反田恭平さん
「すごい、まだずっと鳴ってる、拍手が。すごいね」

高評価を得た2人は、12人のファイナリストに選出。持てる力のすべてを注ぎ込みました。

4位、小林愛実。2位、反田恭平。幼なじみの二人でつかんだ栄冠でした。

ショパンコンクール入賞 小林さんが演奏披露

保里:コンクールの緊張感の中で表現し続けるのは本当に大変だったと思うんですけど、近くに今回反田さんがいて、心強さを感じましたか。

小林さん:そうですね。最初の2週間は本当にお互いに一人きりだったので、その時期がいちばん精神的に不安定で。1次、2次とあったので。そういうときによく知っている幼なじみの彼がいて、彼の顔を見たらほっとする瞬間はありました。

保里:反田さんも練習室の扉を開けて、真顔で小林さんに見つめられたりとか。でも、あえてそういうことをやって笑顔が絶えない空間になっていたとおっしゃっていましたよ。

小林さん:すごいびっくりしていました。

保里:驚かせたんですか。

小林さん:そうです。驚かせました。

保里:それで和んだ部分もあったんですね。一時はピアノをやめることも考えた。ただ、その日々を越えて、今回3次予選のあとに楽しかったと涙もこぼれていましたよね。今回「24のプレリュード」を弾いたときというのは、どんな気持ちが込み上げてきました?

小林さん:1次、2次と、やはりあまり心から100%楽しんで演奏することができなくて、3次が最後のソロのステージということもあって、あのすてきな場所で音楽家としてあのステージで楽しみたいという気持ちが強くて、その気持ちが24の前奏曲を弾いてるときにすごく感じることができて、たぶん泣いてしまったんだと思います。

保里:その演奏を聞いた反田さんも、これまでと違う小林さんの姿を見たそうです。

反田恭平さん
「言ってしまえば、展覧会みたいな。24種類の絵画があって、それをどう彼女がスケッチして、色を塗って表現するかというのがとても計算されて。私はこうでありたいというのをすごく演奏で示していましたし、未来につながるような新しい価値観、解釈も見受けられましたし、とにかくあの演奏はすばらしかったです」

保里:それでは、今の小林愛実さんだからこそ奏でられる「24のプレリュード」から、最後の2曲です。

<小林愛実さんによる演奏 ショパン「24のプレリュード」23番・24番>
本番収録後に小林さんと保里キャスターがアフタートーク。 演奏前の意外な”願掛け”や反田さんとの関係などを話してくれました。動画でご覧下さい
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