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2021年11月2日(火)

急増 現役世代コロナ後遺症
最前線で何が

急増 現役世代コロナ後遺症 最前線で何が

新型コロナ感染者が急減する今、増えているのが「コロナ後遺症」。今後、第5波で感染した人たちによる“後遺症の波"が来ると専門家たちは危機感を強めている。50代以下の現役世代では、仕事を失い、生活困窮に陥る人も相次ぐ。さらに運動部で活躍していた10代の高校生が、精神的に追い詰められるケースも。感染から半年後でも4人に1人が苦しめられる後遺症。原因や根本的な治療法も解明されない中、いかに後遺症患者を支えていくか。最前線からの報告。 ※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから

出演者

  • 森岡慎一郎さん (国立国際医療研究センター 総合感染症科医師)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

急増 現役世代コロナ後遺症 最前線で何が…

井上:今、新型コロナの感染者は減少傾向が続いていますが、その一方で、都内の後遺症の相談窓口に寄せられる件数は、8月から急増。9月には1,000件を超えています。

後遺症について現役世代が抱える課題や治療などは、以下のリンクから詳しくお伝えしています。

保里:そして、最新の研究で重症化するリスクと、後遺症のリスクでは傾向が異なるということも分かってきました。重症化リスクでは高齢者、基礎疾患のある人、そして肥満などがあげられますが、それぞれの症状の発生の頻度は異なるものの、味覚の異常では男性より女性のほうがおよそ1.6倍。嗅覚の異常やけん怠感では2倍程度など、後遺症のリスクは女性のほうが高く、症状によっては若く、痩せ型の人が出やすいことが分かってきました。

これから波を迎えるといわれる後遺症。最前線で何が起きているのでしょうか。

10代の若者も…

コロナ後遺症の専門外来がある、聖マリアンナ医科大学病院です。第5波以降、患者が急増。最近では、10代の患者も増えています。この日、訪れたのは16歳、高校1年生のさやかさん(仮名)。この半年、けん怠感やめまいなどの後遺症に悩まされてきました。

「心電図と血圧を測る検査をしますね。がばっと起き上がって、こちらにお立ちください」

さやかさんは今、立ち上がっただけで脈が急激に上がり、胸が苦しくなる症状に見舞われています。

さやかさん(仮名)
「立っているだけで汗が出てきちゃって」

この日も脈が30近く上昇し、1分間の脈拍数は100。これは、50メートルを全力疾走したときと同じくらいの感覚だといいます。

さやかさん
「心臓が絞めつけられる感じがある。1週間前ぐらいから」

さやかさんが新型コロナウイルスに感染したのは、ことし4月でした。スポーツ推薦で高校に入学。その部活でクラスターが発生しました。熱は37度台でとどまり、軽症だった、さやかさん。しかし、陰性が確認されたあとも体調不良が続き、学校を休まざるをえなくなりました。

さやかさん
「頭痛とめまいがずっと続いて、学校の先生に『耳鼻科ではないか』と言われて(病院に)行ったときに、そこで『精神科なのではないか』と言われたことが一番つらくて」

複数の病院で診察を受けても原因が分からない、さやかさんの症状。父親は当初、入学したばかりの高校になじめず精神的に悩んでいると考えていたといいます。

父親
「まずは学校に行きたくないというところから、『えっ』みたいな。とにかく怠けているだけだから、(学校に)連れて行くしかないみたいな。そんな話でいつも夫婦のなかでは夫婦げんかしていた」

症状が一向に改善せず、周囲にも理解されない日々。

さやかさん
「ずっと1人で誰にも会いたくなくて、家にいても部屋に閉じこもっている状態」

取材班
「お父さん、お母さんとも会いたくなかった?」

さやかさん
「はい。(具合が悪いのは)『何で、何で』と遠回しに聞かれているようで、こたえるのも苦痛だった」

父親
「毎晩泣きじゃくって、ベッドでも伏せている状態だったので、自殺するんじゃないかと。とにかく子どもを守らなければと。妻が仕事をしているときは僕が監視をして、家で常に(娘の)近くにいる」

医師
「体調はいかがですか?」

専門外来があるこの病院を受診し、初めてコロナの後遺症と診断。感染から3か月がたっていました。

さやかさん
「コロナのときよりも、コロナのあとのほうがつらかった。原因がわからないというのが一番つらかった」

退職や解雇も…

後遺症によって深刻な影響を受けているのが、働き盛りの世代です。世界56か国の後遺症患者を対象にした最新の研究では、およそ5人に1人が後遺症が原因で退職や解雇などに追い込まれていることが分かりました。

後遺症が長期化したことで仕事を失った山本恵子さん(仮名)、43歳です。どうきや息切れ、強いけん怠感などの症状が10か月以上続いています。

山本恵子さん(仮名)
「長いですね、本当に。こんな(10か月)になるとは思わなかった。段違いで後遺症のほうがつらいです」

病院で介護の仕事をしていた山本さん。去年12月にコロナに感染しました。後遺症に苦しみ休みがちになる中、上司から自主退職を何度も迫られ、ことし4月に退職を余儀なくされたといいます。

山本恵子さん
「歩くのも苦しいし、立っているのも大変だし、出勤はするが、まともに1日の仕事が出来ない。(職場で)『すごい周りに迷惑をかけたんだから、あんたもっと気を遣いなさいよ』と」

山本さんは、ろう学校に通う高校2年生の息子を1人で育てています。思うように家事ができない山本さんのために、息子が洗濯や料理などを手伝っています。

息子(17歳)
「コロナにかかる前は、(母は)活動的だった。家を出ることも多かった。ただ心配なのが、よくなってきてはいるけれど、長い距離歩くと疲れるというから心配」

症状が長期化することで、経済的にも追い込まれています。退職後は傷病手当や生活困窮者向けの無利子の貸し付けを受け、しのいできました。しかし、そうした支給も今月に期限を迎え、来月には収入が完全に断たれてしまうのです。貯蓄も少ないため、息子は部活を辞め、アルバイトをすると山本さんに伝えました。

息子
「家計を助けたいと思って、そのあたりの心配もあったので、自分で稼げる分は働いたらいいのかと思った」

山本恵子さん
「うれしいけど、ちょっとショック。バイトしないと、うちが困ってしまうというくらい不安を持っていたのだと。アルバイトはしないでほしい。勉強に集中してほしい」

息子の夢は、歯科技工士になること。山本さんは、後遺症に苦しむ中でも働かざるをえないと考えています。

山本恵子さん
「どうにかしないと、このままだと本当にだめになっちゃう」

原因は?治療法は?

今も原因が解明されていない、後遺症。そのメカニズムを明らかにしようという研究が進んでいます。京都大学で免疫の働きを研究する、上野英樹教授です。

先月、後遺症の患者11人の血液を集め、細胞を解析しました。すると、ウイルスを排除するなどの機能を持つ、T細胞に異常が起きていることが分かりました。

京都大学 免疫細胞生物学 上野英樹教授
「後遺症の症状によって、(T細胞の)パターンが違うことがわかってきました」

通常、私たちの体にウイルスが侵入すると、T細胞がウイルスに感染した細胞を排除します。

しかし、味覚や嗅覚に異常はあるものの、症状の軽い後遺症患者は、このT細胞が極端に少ないことが分かりました。

そのため、侵入したウイルスを十分に排除できず、その破片が体内に残って炎症が引き起こされ、症状が出ているとみています。

一方、強いけん怠感などが全身に現れている症状の重い患者は、逆にT細胞が多いことが分かりました。

そのT細胞が、健康な細胞に対しても過剰に攻撃を行っている可能性が考えられます。

さらに、その攻撃を防ごうと、免疫の反応を抑制する細胞が激しく働きます。

こうした免疫の乱れが、強いけん怠感などの症状を引き起こしているのではないかと上野教授は考えています。

上野英樹教授
「いわゆる(患者の)気のせいとか、怠けているとかそういうことではなくて、おそらくしんどさとか、全身けん怠感があるとか、そういうものの背後にあるものが、おそらく免疫系の乱れというのが関係しているんじゃないか。どのような免疫の応答の乱れが患者さんの症状とつながっていくのか。ゆくゆくはそういうことが、治療につながっていけるんじゃないかというふうに考えます」

根本的な治療法も分かっていない、後遺症。医療現場では模索が続いています。

教育関係の仕事に就く、40代の男性です。ことし1月に妻から感染。

その後、道に迷ったり物忘れがひどくなるなど記憶力が著しく低下し、仕事に支障をきたすようになりました。

医師
「はじめにやってもらった検査がある。10時10分を描いてもらったが、描けなかった」

40代男性
「お互い驚いた。どうしちゃったのだろうと。わかるはずが、感覚的にそれが全く飛んでしまって。理屈ではなくて、感覚的に本当に訳がわからなくなった」

感染から半年後のことし7月。脳を調べると、青で示した部分で血流が低下していることが分かりました。この部分は、記憶や視覚をつかさどる場所です。

この病院では記憶力などを改善させるため、新たな治療を始めています。

これまで脳卒中や脳梗塞のリハビリに使われてきた、「rTMS」という治療法です。使うのは、特殊な磁気を出す装置。脳に磁気を与え、脳の中に電気の渦を生じさせるなどして血流を活性化させます。

聖マリアンナ医科大学病院 佐々木信幸医師
「記憶の方、どうですか。この前買い物に行って失敗があったと」

40代男性
「ミスはあの後、今のところ起きてなくて改善しているのかな」

しかし、7回目の治療を行った先月中旬。

佐々木信幸医師
「10時10分描いてみて」

再び時計を描くテストを行うと、男性が描いたのは10時5分でした。

佐々木信幸医師
「微妙だね、これ」

佐々木信幸医師
「まだ全然わかっていない、(rTMSを)どのくらいやれば良くなるのか。まずは10回を区切りとしてやってみたい」

最新研究で迫る原因・治療法

井上:国立国際医療研究センターで、感染症が専門の森岡慎一郎さんです。森岡さんが行った調査では感染から半年後、何らかの症状が続いている人がおよそ4人に1人。そして、1年後も症状が続く人は8.8%いることが分かりました。

森岡さん、実際に現場で日々どんなことを今、感じていますか。

森岡慎一郎さん (国立国際医療研究センター 総合感染症科医師)

森岡さん:第5波以降、特に働き盛りの方を中心に相談の数が増えています。中には、仕事を休まざるを得ないという方もいらっしゃいます。さらに今後、そのような方々の数が増えていくのではないかと懸念をしています。

井上:今、具体的にはどういう人が来ているんでしょうか。

森岡さん:第5波だけではないんですが、私が担当させていただいた患者さんは、例えば若い女性の方で味覚障害がある方ですと、何を食べていてもこんにゃくを食べているようだと。人生の楽しみを奪われたようだとおっしゃっていました。また、医療者の方は長くけん怠感が続いていらっしゃって、なかなか思うように仕事に戻れない。そして、周囲に話してもなかなか理解していただけないと困っていらっしゃる方でした。

保里:さらに森岡さんの調査では、女性で若く、そして痩せ型の人で嗅覚や味覚の異常などの後遺症が出やすいことが分かってきたということですが、これはなぜだと捉えていらっしゃいますか。

森岡さん:明確な理由は今のところは分かっていないです。男性と比べると、いろんな症状で女性のほうが出やすいということは世界中でいわれていることだと思います。その仮説として1つは、同じように男性と女性で症状が出るのですが、女性のほうが症状が気になってしまうので報告してしまう。そのようなバイアスがあるのではないかといわれています。もう1つは、VTRにもありましたが、後遺症は免疫の異常によるものではないかという報告が世界中で上がってきています。一般的に自己免疫の病気というのは男性よりも女性のほうが出やすいですから、このことが後遺症は女性に多い理由の1つかなといわれてはいます。

井上:あと医療現場の模索でいいますと、脳に磁気を当てていたと思うんですが、実際、後遺症の治療というのは今、どんなことができるのでしょうか。

森岡さん:明確な治療、確立された治療はなくて、現場で模索が続いている状態だと思います。例えばわれわれの病院では、リハビリの専門の先生と協力をして相談をしながらコロナの肺炎で肺の機能が低下した方々にリハビリをして、一定の効果は得ていると思っています。リハビリに関して「慢性疲労症候群」という病態がありまして、そのような方々では逆にリハビリ、運動をすることによって症状が悪くなってしまうことが報告されています。ですのでわれわれも注意していますし、もしリハビリをご検討される際は、お医者さんにご相談いただくのがいいかなと思います。

井上:あと森岡さん、今ワクチンの接種が進んでいますが、実際ワクチンは効くのでしょうか。

森岡さん:最近大きな報告がありまして、ワクチンを2回しっかり打っている方は打っていない方と比較して、症状が28日以上続きにくい、つまり後遺症が出にくいということがいわれました。

ですので、ワクチンを2回打つということは、コロナの発症予防や重症化予防だけではなくて、後遺症予防にもつながる可能性があるということだと思います。
そして、1度コロナに感染してしまって後遺症が出た方が、その段階でワクチンが効くのか効かないかという話になりますと、それは今、検証段階だと思います。後遺症がある方がワクチンを打ってよくなったという報告もあれば、中には逆にワクチンを打つことで症状が悪くなった方もいらっしゃいますので、そこは今後の検証が必要だと思っています。

井上:一概にワクチンに頼りきりというのもよくないということですか。

森岡さん:そうですね。ワクチンは万能ではない。確かにいいことはたくさんあるんですが、やはりコロナの後遺症の最大の予防は、そもそもコロナにかからないことだと思います。ですので手洗い、マスク等々といった、基本的な感染対策を続けていくことが大事だと思います。

保里:そして、後遺症になって周囲に理解されないことですとか、経済的な悩みで苦しむという方も少なくありません。いかに支えていくのか、模索が始まっています。

どう支える?ポイントは?

後遺症の専門外来がある、聖マリアンナ医科大学病院。患者の生活面でのサポートを担うのが、「医療ソーシャルワーカー」です。

この日、病院を訪れた50代の女性。動くとどうきが止まらないため、職場復帰のめどが立っていませんでした。

50代女性
「ちょっと生活できない。家賃、光熱費支払うと、もう食費がほとんど残らない」

医療ソーシャルワーカー
「こちら、おかけ頂いて」

診察のあと、医療ソーシャルワーカーが相談に乗ります。女性は、勤務先から退職を迫られるかもしれないという不安を抱いていました。

50代女性
「『働けない方は難しい』という話が(職場で)出るかもしれないと、最悪な事態を考えています」

アドバイスしたのは、傷病手当を利用して当面の収入を確保し、まずは治療に専念すること。復職に向けて患者の職場に病院から連絡し、橋渡しを行うことも伝えました。

医療ソーシャルワーカー
「復帰の準備を病院と職場と、ご本人とが連携していけるといい。抱え込まないでください。抱えてしまいますけどね」

医療ソーシャルワーカー
「心理的に精神的にも追い込まれている方は多いので、なかなか自分では職場に連絡出来ない、ご相談が出来ないという方もいる。(第5波以降)どんどん対応が必要な方は増えてきてしまうと考えている」

この病院では、後遺症の患者への精神的なケアにも力を入れています。

後遺症に苦しみ、半年近く部屋に引きこもっていた高校1年生のさやかさん(仮名)。今、少しずつ変わり始めています。

きっかけとなったのは、看護師によるカウンセリングでした。

看護師
「考えて行動して、ここまできましたね。体力的なところがどう戻るかが、次の気がかりだね」

さやかさん(仮名)
「この動けない体だと、(学校に)いる意味がないのではと思っていた」

看護師は、今の自分の状態を受け入れて、焦らずに治療をしていこうと伝えました。

看護師
「私たちも、みんな応援団だから。自分の体と仲よくしていくことが、これからのところになるのかな。先生たちともいっぱい相談しながら、やっていけたらいいですね」

先月から本格的に学校に通えるようになった、さやかさん。看護師のアドバイスを受けて、クラスや部活の仲間に向けて、自分の病状を説明しました。

さやかさん
「皆さんと同じことが出来ないことも多くあるかと思います。脈拍がまだ安定していないので、急いで移動したり、階段を上ったりができません。すべての行動が皆さんより遅くなることで、迷惑をかけるなど自分でもわかっているんですけど、治るまでどうかお許しください」

取材班
「どうにか伝わった?」

さやかさん
「『うん、うん』って聞いてくれて。周りの先輩が気軽に声をかけてくれるようになり、言ってよかったなと思えた」

先日行われた体育祭では、種目を紹介するアナウンスを任されたさやかさん。少しずつ日常を取り戻そうとしています。

どう支える?ポイントは?

保里:この後遺症の研究、少なくともアメリカでは1,300億円、イギリスでは30億円をかけています。一方、厚生労働省に問い合わせたところ、日本ではおよそ2億円の研究費をつけるとしています。

森岡さん、後遺症の人を支えていくために、研究や医療の現場でどういったことが必要になるでしょうか。

森岡さん:研究に関しては国内でも研究は進んでいると思いますが、まだ報告数は海外と比べると少ないのが現状かなと思います。ですので、日本からもデータを出していくことが大事だと思います。
医療に関しては、やはりコロナは第5波まできてありふれた病気になりましたので、急性期も慢性期も地域で支えていくべき病気かなと個人的には考えています。
後遺症の診療も、急性期の診療と同じように大きな病院と開業医、クリニックの先生方がよりよく連携をして後遺症の患者さんも診ていくということが大事になっていくのではないかなと思っています。

井上:後遺症がさらに増えることが懸念されていると思うのですが、私たちの後遺症に対しての意識の向け方、どんなことがこれから求められると思いますか。

森岡さん:まず本当に大事なのは、後遺症に関して医療者も市民の方々も、皆さんが後遺症を認知をすること、理解することが大事かなと思います。その上でどういう症状がいつまで続くかがはっきりしてくると、患者さんのお友達ですとか、家族ですとか、会社の同僚の方々がよりサポートしやすくなるのではないかと思います。

井上:社会の無理解から二重の苦しみを生んではいけないですよね。

森岡さん:そのように思います。おっしゃるとおりだと思います。

保里:正しく理解して、みんなで支え合うということがまず必要となりますね。ありがとうございました。


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