クローズアップ現代

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2021年10月13日(水)
鉄道・バス大減便の先に くらしはどうなる?

鉄道・バス大減便の先に
くらしはどうなる?

コロナ禍の人流抑制で利用者が大きく減った公共交通。新幹線、観光路線、貸し切りバスなどの収益で生活路線の赤字分を補ってきた従来のモデルが崩壊している。「10年後の未来が1年で来たような状況」(JR西日本社長)で、全国の鉄道・バスでは大幅な減便が行われ始めた。事業者だけでは交通網の維持が難しい時代、住民や自治体はどう関わり、どれほどのコストを負担していけばいいのか。新しい公共交通のあり方について議論する。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから

出演者

  • 加藤 博和さん (名古屋大学大学院教授)
  • 秋池 玲子さん (ボストン・コンサルティング・グループ日本共同代表)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

鉄道・バス 大減便 買い物・通学に直撃!

コロナ禍で大きな影響を受けた路線バスのひとつ、長電バス。

長野駅前のターミナルでは、長時間バスを待つ人の姿が増えました。その理由を尋ねてみると…。

山口里子さん
「前はね、1時間に1本あったの。今はもう朝7時と9時と10時。昼間全然ないの。まったくね、不便で困っちゃう」

市内に住む、山口里子さん。去年12月に免許を返納したため、買い物や友人に会うときにバスを利用しています。

しかし、ことし7月のダイヤ改定で平日23本あったバスは9本へと大幅に減少。これまでは日中時間帯でも長野駅から自宅まで1本のバスで行くことができていましたが、今は2本のバスを乗り継いで大幅にう回するルートを使わなくてはなりません。

山口里子さん
「これに乗れなかったら、40分くらいない」

運賃も移動時間も、今までの2倍かかってしまうようになりました。

山口里子さん
「(以前は)9時のバスで来て、ちょっと用事済ませれば10時か11時で帰れたんですよ。今はもう、まるまる半日かかっちゃう」

取材班
「これ以上、今後バスが少なくなったら?」

山口里子さん
「もう、孤立だよね」

バスの減便は、若い世代も直撃しています。市の中心部にある高校では、全校生徒およそ870人のうち、100人以上がバスで通学しています。

高校2年の吉沢涼さんは、部活動があるため土日も学校へ通っています。

しかし通学に利用している路線は、31本あった休日ダイヤが僅か3本に減ってしまいました。そのため、今は両親に車で送り迎えをしてもらわなくてはいけません。

吉沢涼さん
「部活のあと、どのくらい残って練習するか日によって違う。そのつど親に連絡してというのは、申し訳ない。(平日も)短縮授業だったり、夏休み中はちょうどいいバスがないので、選択肢が限られちゃっているのが不便ですね」

長野市のバス会社では、ことしに入って2度も中心部の減便に踏み切りました。

長電バス 取締役 鈴木立彦さん
「これが、今回減便をした路線の時刻表。半分以上が黒い網掛けになっている。これだけいっぺんに減便した」

大幅な減便は4路線で5割以上におよび、一部の路線では土日の運行を廃止しました。

鈴木立彦さん
「もう、これぐらいやらないと、効果が出ない。苦渋の選択ということで、今回(減便を)やらせていただいた」

バス会社がここまで大規模な減便に踏み切った背景には、長引く観光の自粛があります。

鈴木立彦さん
「こちらは貸し切りバスの駐車スペースになります。ふだんは稼働していればここは1台もないんですが、全部が今、車庫の中に止まっている状況」

これまで路線バスの赤字分は、観光バスや高速バスの収入で補ってきました。しかし、コロナ禍で利用者が激減し、昨年度は過去最大3億円の赤字を計上しました。国や自治体から、およそ1億円の助成金が交付されましたが補てんしきれず、路線バスを減らさざるを得ませんでした。

鈴木立彦さん
「事業を維持することは事業者の責任でもあるが、事業者だけに維持しろと言われても対応できませんので、コロナが仮に回復したとしても立ち行かなくなってくる。ふだんの生活路線がなくなってしまうことを、わかっていただきたい」

国土交通省によると、ことし4月時点での乗客数はおととしに比べ、路線バスで24%。高速バスなどで59%減少。

鉄道では、JR・私鉄各社とも27%ほど減少しました。

鉄道やバスをカバーするタクシーでも利用者が大幅に落ち込み、全国で300社以上が休業・廃業に追い込まれました。

愛知県新城市では、市街地でただひとつ営業していたタクシー会社が、ことし3月に廃業。近隣のタクシー会社が事業を引き継いだものの、市内を走る台数は僅か7台です。

山間部で1人暮らしをしている、田中恭子さんです。去年10月、高齢のため免許の更新をやめてマイカーを手放しました。

田中恭子さん
「事故をしてからじゃ遅いからね。気をつけて乗っても、高齢者はいつどうなるかわからんし」

しかし頼りにしていたタクシーは台数が少なく、使いたいときにつかまらないことも。運よく予約できても、市街地までは往復1万円以上。買い物はまとめ買いをするようになったといいます。

田中恭子さん
「賞味期限(が長いもの)とか、すぐ使わなくてもいいようなものは、ちょっと多めに買っといて利用している。直通の車が欲しいけど、交通機関の関係もあったりして、それができないようですから、それは不便です」

"10年後の未来"がやってきた

井上:大きな曲がり角を迎えている、公共交通機関。以下のリンクからは、ネット限定の取材記事もご覧いただけます。

保里:ゲストと考えていきます。まずは交通政策がご専門で、全国を飛び回って事業者や自治体にアドバイスをされている、加藤博和さんです。よろしくお願いいたします。

加藤さん:よろしくお願いいたします。

保里:コロナ禍で減便や廃業が相次いでいるこの現状を見て、どんなことを感じられていますか。

加藤 博和さん (名古屋大学大学院教授)

加藤さん:本当に大変です。10年が一気に1年で来たということばが出ていましたけど本当にそのとおりでして、今までも公共交通の廃止だとか、減便だとかは行われてきたのですが、徐々に進んでいたのです。
ところが、今回はコロナ禍で一気に利用が減った。しかも、非常に利用の多い路線も減っているということで、その結果として減便をしなきゃいけないところが多く出ている。まだそれでも交通事業者がいろいろと工夫をして、なるべく地域に悪い影響を与えないようにということは考えているんですが、このままコロナ禍の状況が続いていくと、さらに非常に重要な路線であるとか、便であるとかが廃止になるとか、そういったことが起こってくると地域にとって非常に重大な影響になってくると懸念しています。

保里:例えば通学の路線なんかにも影響が出ているわけですよね。

加藤さん:先ほども例が出ていましたが、通学がきちんとできなくなるということは非常に子どもにとっては住みづらくなる、やりたいことができなくなると。そういうことがずっと続いていくと、その地域に子どもが住めなくなるような状況になってしまったら人口減少が一気に加速する。そういうことを考えると、やはり公共交通をきちんと守っていくことがいかに大切か理解できると考えます。

井上:そして、経営コンサルティングが専門の秋池玲子さんです。日本で初めてバス会社の再建に携わったご経験があります。どうぞよろしくお願いします。交通事業者の目線でいいますと、ここまで経営が厳しくなってしまった背景というのはどういうことがあるのでしょうか。

秋池 玲子さん (ボストン・コンサルティング・グループ)

秋池さん:公共交通というのは、コロナ禍のような急激な変化に即座に対応するのが難しいんです。一つには、公共交通を担っている事業者のマインドというものがあると思います。それはやはり地域の足を支えているのは自分たちなんだというある種の誇りでもありまして、ほんの少数でもお使いになる方がいらっしゃるのであれば撤退したくない、その路線をやめたくないと思ってしまう。

井上:それで赤字が増えると。

秋池さん:それからもう一つは、バスは鉄道に比べて柔軟に走っているように見えますが、実際にはダイヤを組んで、その時間にそこに走るということが決まっているわけで、そういう意味ではそこに時差が生じてしまうというか、そう簡単に即座に撤退をすることができないというところがあるかと思います。

井上:たくさんの難しさがあるわけですね。そういう中でどういうふうに公共交通機関を守っていけるのか、待ったなしの改革です。住民主体が鍵になりそうです。

住民が交通手段を確保

地域のタクシー会社が廃業してしまった、愛知県新城市の田中恭子さん。新たな交通手段を使って、再び遠出ができるようになっていました。

ことし4月、住民たちがみずから始めた送迎サービス「山吉田ふれあい交通」です。

住民ドライバー
「きょうは織田医院さん、ワクチン接種でいいですか?」

田中恭子さん
「ワクチン接種で」

住民ドライバー
「良かったですね」

田中恭子さん
「はい。きょうはあったかくて、いい日だね」

住民ドライバー
「そうですよね」

実は、運転手も同じ地区の住民が有償ボランティアで務めています。この送迎サービス、第二種免許がなくても自家用車で客を運ぶことができる国の制度を活用しました。

運転手は13人。すべて地区の住民が担当しています。行き先は既存の交通機関に配慮し、駅や病院などに限定しました。

保険や燃料などの費用は、新城市からの補助金を活用。さらにタクシー会社と連携し、車両整備や運転手の安全管理を任せています。

運転手には、検温やアルコールチェックを義務づけ、タクシー会社の担当者が確認します。

「(アルコールチェックは)0.0ですね。OKです」

料金は、目的地に応じた定額制になっています。

田中恭子さん
「本当に便利です。私にとって本当に、本当に助かります」

開始から半年での利用件数は、340件。今後も新たな運転手の確保などを目指したいとしています。

住民ドライバー
「(私も)この先お世話になる状況になっていくのではないかと。この活動を大事にして、後々の代まで残していきたい」

住民の意見を反映させて、公共交通の利便性を高めている地域があります。三重県菰野町です。こちらのコミュニティバスは、これまで町の全域に路線が敷かれていました。

その代わりに、1路線当たりのバス本数が少ないという弱点がありました。例えば、高校に向かうこの路線。登校の時間帯に乗れるバスがなかったため、利用したくてもできない状況でした。

こちらの生徒は、自転車で40分以上かけて通学していたといいます。

生徒
「(バスの場合は)本当に朝めっちゃ早く行くか、遅刻するかのどっちかだったので、自転車で行くしかなかった」

生徒
「夏だと暑くて汗かいちゃう。冬だとスカートなので、寒い。季節で結構しんどかった」

菰野町では、こうした声をバスのダイヤに反映させようと、町が「地域公共交通会議」を開催。

住民たちが交通各社と話し合い、路線やダイヤの見直しを実現させてきました。会議での話し合いの結果、全部で9つの路線があったコミュニティバスは利用者が多い7つに集約。それによって、高校に向かう路線の増便が実現しました。

朝7時台にバスが運行するようになり、通学で利用できるようになりました。

生徒
「座れて友達とも話す時間が増えたので、楽しんで登校できるようになった」

一方、コミュニティバスが廃止された地域では菰野町からの委託を受け、タクシー会社が新たなサービスを始めました。

バスの停留所のように決まった場所の間を割安な料金で送迎する、「デマンドタクシー」です。バスとは違い、客が事前に予約したときに運行します。

利用者
「のりあいタクシー予約。降りるところが、役場のところ」

予約は専用ホームページから。菰野町が大手通信企業と共に開発しました。高齢者でも使いやすくするために、スマホ教室を開いて普及に努めています。

利用者
「簡単にこういう形で、そんなに手間暇かからずに。僕も80超えてて高齢者なんですけど、一応できるということで」

町の会議での議論をきっかけに始まった、デマンドタクシー。月に平均で660人が利用するようになり、タクシー会社の収益改善にもつながりました。

タクシー会社 社長 位田寿雄さん
「去年から、普通だったらすごい落ち込みで会社は大変なんですけど、一般のお客さんが減った分を、乗合(デマンド)タクシーでカバーできるという、いい部分が今出ています」

菰野町 総務課 諸岡伸也さん
「町全体で公共交通の利用を増やすことと、どうすれば町民の皆さんが満足できるような交通体系になるか議論して、現在のような見直しを少しずつ図っている」

鉄道・バス 大減便 住民と地域の利益に

保里:少しずつヒントが見えてきました。今回の放送を最初から見たいというときには「NHKプラス」からもご覧いただけます。ご利用ください。

ご紹介しました地域での話し合い。加藤さん、実際に参加されたということなんですが、どんなところがポイントになるでしょうか。

加藤さん:先ほど「住民主体」ということばが出ましたが、そう言うと非常に敷居が高いのですが、まず大事なのは住民がその地域の公共交通がどういう状況で、どうしてこれが維持できているのか、あるいはどういうふうにしたらもっと使いやすくなるのかということを考えていただくという。認識ですね、ここがまず大事。

保里:現状を知るところから。

加藤さん:それが意外とできていないんです。その上で、交通事業者や自治体といった関係者とともに公共交通を考えるということをやっていくことが大事でして。そのときに難しいのは、何もないとその三者というのが一緒になって話をすることはなかなかできない状況なので、これはまさに自治体が主体的に公共交通について住民も事業者も一緒に入って考えて変えていく場を作るということが非常に大事で。今の法制度もそういうことを奨励するような仕組みになっているので、ぜひ活用していただきたいと考えてます。

井上:秋池さん、自治体が大事ということですが、事業者にとって自治体が入るというのはどういうメリットがあるのでしょうか。

秋池さん:自治体が町づくりのグランドデザインの中に医療や福祉や教育などと同様に公共交通を位置づけて、その大きな絵を見せてくださるということによって事業者としても取り組みがしやすくなるということがあると思いますし、地域の皆さまとの議論が進むところもあると思っています。ただ、自治体で考えるときには自分の地域に合ったものを取り込むということが重要だと思っていまして、そこもポイントになると思います。

井上:住民だけではなくて、自治体も事業者もニーズを把握すると。そこは共通しているんですね。バラバラの交通機関ですが、それをつなげて全体で運用していこうという取り組みが実は、海外で進んでいます。
こちら「MaaS(マース)」といいまして「Mobility as a Service」の略です。「移動をひとつのサービスとして考える」という仕組みなんです。例えばどこかへ行きたいというときに、現在だと飛行機だったり新幹線とかそれぞれバラバラで予約されていると思います。これをスマホやパソコン上でルート検索、予約、決済。これがすべて一括で行えるようにするというものなんです。

ですので、この1つのチケットで、すべての交通機関で乗り降りできるようになるなど、利便性がアップする。そして、利用データの一元管理で、その全体の効率運用に役立つとされているんです。

保里:このMaaSというサービス、日本も進めていこうと積極的にしているということなのですが、加藤さん、まずどんなことを感じられていますか。

加藤さん:MaaSは、絶対に進めていかなきゃいけないことだと思います。今の日本の場合ですと、各地域でやっていたりとか、あるいは各交通事業者でやっているということが見受けられるんですよ。それですと、先ほど説明があったような一体的にいろんな交通機関を通しで使うことができるというメリットが得られない。共通ICカードご存じだと思いますが、あれは全国いろんなところで使えるからとてもメリットがあるわけじゃないですか。

保里:そこがいちばんですね。

加藤さん:ですよね。それがなければ、それぞれのところでまたばらばらになってしまうんです。そこをまず改善していかなきゃいけないと思っています。

保里:こうしたサービスが広がっていけば、利用者にとっても便利だなというふうに感じますが、秋池さん、交通事業者にとって大事なことはどんなことでしょうか。

秋池さん:「競争から協調へ」ということがあると思うんですね。競争して切さたく磨することでよりよいサービスが生み出されることはあるんですが、このMaaSのような場合は協調して利用者にとって使いやすくすることがとても大切だと思っています。

井上:ICカードの話がありましたが、便利ですけど割引があるわけではない。それでもやはり使うという、その辺の意味合いが大きいわけですか。

加藤さん:あまり深く考えなくても、これを持っていれば使えるとか、調べられるとか、決済できるとか、そういうふうになっていればそれはとても大きなメリットで。それによって特にいろんな特典がなくても使っていただけるようになりますし、そうなれば公共交通の利用も大きく増やすことができるという面があります。

保里:海外でも広がっているこのサービスが、どうなっていくか注目ですね。

井上:最後、皆さんと話したいのが、今後コロナ禍であったりコロナの後を見据えた公共交通の在り方。これはどのように考えていらっしゃいますか。

加藤さん:まず、今回利用が大きく減った大きな理由というのは外出ができなくなったということですが、そのことをコロナ禍の後でも続かないようにするためには、新たに出かけたくなるようないろんな機会を作るであるとか、交通機関を魅力的にする。そういったことが非常に重要になると思います。それから、運賃だけで公共交通を維持するということ、これも考えていかないといけない。公共交通はいろんな地域のいろんなところに恩恵を与えている。例えば、先ほど学生の話が出ましたが、学生が自分たちで高校に通うことができるということは地域にとって住みやすくなる非常に大きな要素ですよね。それは地域全員で助けていかなきゃいけないことです。今、「交通税」というのが滋賀県のほうで検討されていますが、そういったものを入れていって、運賃だけで支えるということでないやり方を入れていく必要があると考えています。

井上:その交通税ですけど、例えばあんまり乗らないという人も払うということなのでしょうか。

加藤さん:あんまりというか、全く乗らない人も含めて払う。ただ、乗らなくてもそれがあることによって地域の暮らしがよくなるということがあるとすれば払っていただけることになるので。お年寄りであるとか学生であるとか、車で動くことができない方々にとって住んでいけるということは地域にとって非常に大きな価値だと考えます。

井上:秋池さんも新しい価値、今後どのようにしていくといちばんいいと思いますか。

秋池さん:公共交通の今までの価値というのは、定時に移動ができるということだったわけですけれども、新しい価値という視点でサービスを見つめ直して、利用する方がお金を払っても使いたいなというふうにしていくということが、事業者としては大切なんだと思っています。

井上:それは具体的にはどういうことがあるといいですか。

秋池さん:例えばより快適な空間が提供されるというのも一つではないかと思います。

保里:確かに以前よりも列車の中の人口が減った、ちょっと距離を保てるようになったということが新たな価値になったりとか、いろんな価値が再定義していけるということですよね。

加藤さん:そこは大きいです。

井上:今夜はこれで失礼します。

保里:ありがとうございました。


放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから