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2021年10月7日(木)

藤井聡太 最強への道
史上最年少“四冠”なるか

藤井聡太 最強への道 史上最年少“四冠”なるか

プロ入り以来、常識を覆す活躍を続けてきた藤井聡太三冠。10月8日からの竜王戦で「史上最年少の四冠」をかけた闘いが始まる。立ちはだかるのは豊島将之竜王だ。藤井がプロ入り後、6連敗を喫し、大きく負け越してきたライバル。二人は、この夏、互いのタイトルをかけ10局135時間に及ぶ“極限の闘い"を繰り広げた。そこには、名だたる棋士たちが息をのむ藤井の“一手"があった。羽生善治九段をはじめ藤井と激突したトップ棋士たちが、知られざる進化の秘密を解き明かす。 ※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから

出演者

  • 羽生善治九段 (プロ棋士)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー)

#藤井聡太 最強への道 史上最年少"四冠"なるか

井上:驚異的な進化を遂げる、藤井三冠。その強さ、どのように生み出されているのか。羽生善治九段とお伝えしていきます。どうぞよろしくお願いします。

羽生善治九段 (棋士)

羽生さん:よろしくお願いします。

井上:以下のリンクでは、藤井さんの歩みや、タイトル戦の基本情報を紹介しています。ぜひご覧ください。

この夏、豊島将之竜王と互いのタイトルをかけて闘った、10局135時間の激闘。そこから見えてきた藤井三冠の進化とは。

10局135時間の激闘に迫る

互いのタイトルを懸け、二人の戦いが始まったのは、ことし6月。将棋界のトップにどちらが上り詰めるのか。注目の戦いとなりました。

稲葉陽八段
「どちらが勝つかによって、この数年の将棋界の勢力図を占う」

青野照市九段
「今は絶対王者がいないかもしれない時代。そういうところに1つの決着をつける」

豊島は、藤井と同じ愛知県出身の31歳。16歳でプロ入りし、序盤・中盤・終盤、隙なしといわれる将棋で数々のタイトルを獲得してきました。二人が初めて対局したのは、7年前。藤井の師匠、杉本昌隆八段が豊島に声をかけ、実現しました。

藤井三冠の師匠 杉本昌隆八段
「まだ当時の藤井は(奨励会)初段ですから、これからどうなるか、わからない少年だったわけですが、それでもこの2人は必ずいつかタイトル戦で激突するだろうなという思いで見ていまして」

プロ入り直後、29連勝を果たした藤井について、豊島は4年前、こう話しています。

<撮影 2017年>

豊島将之八段(当時)
「将棋の力的にいうと、自分と同年代くらいの人で、あれくらいの感じの人はまあまあいるかな。でもまあ、29連勝を自分でやってみろと言われたら相当できないですけど」

これまで8割を超える驚異的な勝率を誇ってきた、藤井。しかし、豊島には1勝6敗と、ただひとり大きく負け越してきました。

今回の王位戦第1局。豊島は終始正確な指し回しで、藤井を圧倒します。

終盤での読みの早さと、正確さが武器の藤井。しかし…。

藤井聡太三冠
「負けました」

持ち時間を1時間40分以上残しての完敗でした。

なぜ藤井は、豊島に勝てないのか。これまでの対局すべてを独自に人工知能=AIで分析すると、ある共通点が浮かび上がりました。

対局中、どちらが優勢だったかその推移を表したグラフ。7回の対局のうち、実に5回で藤井が一度は優勢になるものの、得意としてきた終盤で豊島に逆転されていたのです。

杉本昌隆八段
「ほかのトップ棋士には互角以上に戦うことも多いのに、なぜか豊島竜王が相手だと、どうしても最後はひっくり返されてしまう。どんな展開でも勝てない」

藤井はやはり、豊島には勝てないのか。

この対局でも、豊島が優勢となり、藤井を追い詰めていきます。

立会人を務めた、前竜王の広瀬章人八段です。

王位戦第2局 立会人 広瀬章人八段
「いわば豊島さんの必勝パターンなんですけど、局面もよくて、持ち時間も多くて、あとは本当に着地を決めるだけという」

しかし終盤。藤井が攻めに出ます。突如、豊島の王を脅かす手を連発。

ところが、このまま攻め続けるかと思われた、直後の手。一転、守りの手を指し豊島に攻めのチャンスを渡します。

一気に攻め込む豊島。持ち駒を使い、藤井の王の守りを次々と崩していきます。

プロ入り前から豊島を指導してきた、畠山鎮(まもる)八段です。

関西奨励会 元幹事 畠山鎮八段
「(豊島竜王は)よほど大きなミスをしなければ、勝てるだろうと思ったと思いますね。(藤井三冠は)ただ逃げて、銀をただ逃げて、次は金をただ逃げて、次は玉をただ逃げるという順は、いわゆる指導対局みたいな手ですよね。指導対局で、こどもを相手に『偉いね』、『きれいに寄せたね』と。こんな手が勝負の将棋で成立するとは思わない」

しかしこのとき、豊島は逆に窮地に立たされていました。持ち駒の大半を使ってしまい、藤井の王を追い詰めることができなくなったのです。

元王座 中村太地七段
「局面が苦しくなってからの指し手は一番個性が表れるところで、藤井さんは相手にプレッシャーをかけつつ、一番逆転しやすい局面に誘導した」

畠山鎮八段
「藤井さんにしか見えていないんでしょうね。なんでそこで開き直れるんだ。なんでそこで、その若さで我慢できるんだ。将棋の最善手が藤井さんを呼んでいるようなことは、いっぱいありますよね」

藤井は一気に畳みかけます。

豊島将之竜王
「負けました」

終盤で負け続けてきた豊島相手に、大逆転を果たしたのです。

豊島将之竜王
「いろいろ考えたんですけど、ちょっとなんかよくわからない。全部明快ではなかったので」

藤井は、さらなる進化も見せることになります。王位戦と並行して始まった、叡王戦第1局。

互いに陣形を整える序盤。藤井の19手目。AIが示す候補は、どの手も自陣の駒を動かし、戦いに備えるものでした。

しかし、藤井が指したのは相手の陣地に仕掛ける、2四歩。陣形が整う前に仕掛ける、この一手。棋士の間では、指すことがためらわれてきた手だといいます。

前王座 今期 名人戦挑戦者 斎藤慎太郎八段
「2四歩の仕掛けは、みんなわりとほかのプロはなかなかうまくいかないケースも多かった手。藤井さんが考えがあったところだと思うので、すごい。準備もそうですし、決断というか、度胸のある仕掛けだった」

藤井が指した2四歩。将棋ソフトを開発する企業の協力のもと、独自に分析を行うと、この手の背景に最先端のAIの存在が見えてきました。

「これは『ディープラーニング系』将棋AI」

従来のAIでは、候補にすら挙がらなかった2四歩。しかし「ディープラーニング」という最新のAI技術を用いると、最善手となります。

5年前から研究にAIを使い始めた、藤井。

従来の将棋ソフトは、人間が情報を与えることで、候補となる手を導き出していました。一方、藤井が棋士の中でも、いち早く去年の秋ごろから導入したディープラーニング系将棋AI。人間が情報を与えなくてもみずから学習するため、先入観にとらわれない一手を導き出すことがあるのです。

将棋AI開発者 山口祐さん
「ディープラーニング系AIを使って、新しい序盤を藤井さんが開拓された。藤井さんは新しいことに興味を持って、なおかつそれを自分のものにする力が非常に強いのかなと」

棋士たちが豊島との一連の対局で目の当たりにしたのは、藤井の新たな進化でした。

中村太地七段
「(藤井さんは)人より明らかに精度の高い最新技術を使った羅針盤を手にして、航海をしている。海が広くて、何も目標物がないように見えるところでも、しっかりと進むべき方向を把握することができる」

10局135時間に及んだ激闘。豊島もまた、高みを目指していました。

叡王戦第2局。この対局でも藤井は、従来の常識にとらわれない積極的な攻撃を仕掛けます。

序盤から前例のない将棋に突入。藤井は着実にリードを広げていきます。

しかし、91手目。豊島が切り込みます。豊島の攻めの要、飛車が身動きをとれなくなったこの場面。指したのは、5四銀。持ち駒の銀を、歩の前に指すという大胆な一手。

銀をただで渡す代わりに、飛車を動かし、攻めの突破口を作り上げたのです。

中村太地七段
「迫力のある勝負術という感じで、みずから逆転をつかみ取りに行った指し手という印象です」

この勝負手から形勢は一気に逆転。AIの評価値でも、豊島優勢へと傾いていきました。

藤井聡太三冠
「負けました」

藤井聡太三冠
「流れとしては悪くないと思っていたんですけど、反撃されて上手く対応できなかった」

羽生善治九段
「プロでもお互いに間違えやすい局面というか、羅針盤がきかないという展開だったんで、2人のレベルの高さを感じさせる一局だったのかなと思います」

共に高みを目指す棋士として、二人は勝敗を超え、共鳴していきます。

藤井が勝利し、王位のタイトルを初防衛した第5局。

対局後、豊島はファンの前で頭を下げました。

豊島将之竜王
「全然、見どころのない将棋にしてしまいました。途中から一方的な感じになってしまい、見に来てくださった方にも申し訳なく思っています」

しかしこの対局、藤井は豊島の棋士としての姿勢に、ある思いを抱いていました。

中盤、豊島が攻め入ろうとしていた局面。藤井の攻め駒、角を奪いに行く積極的な一手を指します。

しかし、藤井の次の一手。豊島は飛車か銀、どちらかを取られる局面となってしまいます。

中村太地七段
「将棋はプロのトップレベルであると、歩1枚、一番弱い駒とされている歩1枚で勝負が決まることもざらにあります。(飛車や銀を)ほぼタダで相手にあげてしまうというのは、とてつもないことです」

大きなミスをした、豊島。一気に敗色濃厚な状況へ追い込まれたのです。

豊島はどうするのか。

多くの棋士が予想したのは、これまでの攻めの流れを重視し、銀を進める手。

飛車を取られますが、攻め合いの形にはなります。

しかし、ここで豊島は70分の長考に入ります。

考えていたのは、勝負を引き延ばすため飛車を下げ、銀を差し出す選択。棋士として、みずからのミスを認める一手でした。

広瀬章人八段
「つらい、つらすぎる時間だったと思います。もう取り返しのつかないことになっちゃったなというのは、まず思いますね」

豊島にとって、藤井との対決は特別なものでした。2年前、こう語っていました。

"5年後、10年後、彼が一番強くなるであろうときに戦いたい。そんなに長く活躍したいと思っていなかったけれど、彼がいるのでやっぱり戦いたい"

そして、豊島が指したのは…。みずからのミスを認めてでも、僅かな可能性を探る一手でした。

畠山鎮八段
「自分が全部間違っていました。反省しますという手。これは指せないですよ。ほんのわずかな(勝利の)可能性にかけているわけです」

広瀬章人八段
「もう投了してもおかしくないくらい差がついていたと思うんですけど、最後まで最善を尽くしますという姿勢ですね」

中村太地七段
「指し手の最善を超えたところでの、棋士としての生き方みたいなものが表れた手だと思います」

対局の翌日。藤井は豊島のこの一手に、棋士としての敬意を表しました。

藤井聡太三冠
「流れを断ち切っても、最善を追求するという姿勢が、豊島竜王の強さの一つなのかなと思いますし、自分も見習っていかなければいけない」

羽生善治九段が語る 藤井三冠の進化

井上:藤井三冠と豊島竜王、8日から竜王戦で再び相まみえます。以下のリンクでは、トップ棋士が見た藤井三冠を紹介しています。ぜひ、ご覧ください。

では、ここからは羽生善治さんと深く読み解いてまいります。羽生さん、よろしくお願いします。

羽生さん:よろしくお願いいたします。

井上:まず、藤井さんの進化、どの点に注目しますか。

羽生さん:そうですね。デビューしてからその時々のテーマといいますか、課題みたいなものがあって、それを突き詰めて指し続けていくというところに、1つ、藤井さんの将棋の特徴があるかなと思います。

井上:狭く、深くですか。

羽生さん:結構、藤井さんの作戦の選択というのは、この形のときはこうという、結構決まった形をある程度突き詰めてやって、ある段階まで行くとまた次のところに移っていくと、そういうスタイルが多いですね。

井上:しかし、この安定した強さを支えているものは何だと思いますか。

羽生さん:そうですね、まあ藤井さんの場合はいちばん最初にデビューしたときから非常に注目されるところで将棋を指し続けているというところがありますので、どんな大舞台といいますか、大きな対局でも自然体で持っている力を発揮されているのかなというふうにも思います。

井上:ぶれが少ないんですね。

羽生さん:そうですね。まあ、普通どんな棋士でもその一局の中とか、あるいは1年間の中で出来、不出来というのはあるんですけど、非常にそのぶれが少ないというか、小さいというような感じは受けております。

井上:羽生さんご自身は、藤井さんからどんな刺激を受けているのでしょうか。

羽生さん:そうですね、一局将棋を指していく中で新たな工夫とか、発想とか、そういうのを見て非常に参考になるところもありますし、刺激を受けるところも多々あります。

井上:ディープラーニング系AI将棋というものが出てきましたが、この可能性はどう見てますか。

羽生さん:将棋ソフトの進化というのは目覚ましく変わっていまして、また1年たつと、またがらっと違うものが出てくるということもあります。非常に優れたものがたくさん出ているんですが、それをいかにうまく吸収して消化して、自分のものにしていくかというのは人間側の課題としては常にあって、そこがいちばん難しいところというか、とても便利なものではあるんですけど、それを使いこなすというのは簡単なことではないと思います。

井上:やはりその情報量というものも膨大なわけですね。

羽生さん:人間の一生では経験できないような分析量というのをAIは短時間で行ってくれるので、その中から本当に必要なエッセンスを抜き出して、自分のものに取り入れていくということなんですが。言うのは簡単なんですけど、やるのは結構なかなかすごい困難な作業です。

井上:藤井さんを含めてですけど、AIというのはどう向き合っていくのがいいのでしょうか。

羽生さん:やりながら自分なりに試行錯誤していって、そのやり方を見つけていくしかないんじゃないかなと思います。要するに、これはまだ人類の誰も深くやったことがない未開のジャンルなので、これは多くの人たちがこれからやっていく、共通したテーマなのではないかなとは思います。

井上:8日から竜王戦、注目の2人ですけれども、どういう盤上の物語に期待していますか。

羽生さん:2人は本当に小さいときから、藤井さんが子どものときから顔を合わせているということもあって、またここで大きな舞台でお互いの最高のパフォーマンスを発揮して、歴史に残るような名勝負を繰り広げてほしいなと思っています。

井上:50代、羽生さんの偉業の続きも楽しみにしています。


※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから

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