クローズアップ現代

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2021年10月5日(火)
工藤会と“91人の証言者” 暴力団トップ死刑判決の内幕

工藤会と“91人の証言者”
暴力団トップ死刑判決の内幕

史上初の指定暴力団トップへの死刑判決―。野村悟被告は「生涯、後悔する」と裁判長に言葉を残し、法廷は騒然となった。指定暴力団の中でも“特に危険”とされ、全国で唯一「特定危険指定暴力団」に指定される工藤会。市民をも対象にした数々の凶悪事件で、地域を恐怖に陥れてきた。その工藤会に突きつけられた判決の裏には、覚悟をもって証言した、のべ「91人」の存在があった。元関係者、被害者・・・組織の内実や被害の実態について語り、異例の判決へ至ったのだ。一方で野村被告は、具体的な指示内容が明らかにならず、推認の積み重ねによる極刑判決はおかしいと主張。知られざる内幕を独自取材で伝える。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから

出演者

  • 溝口敦さん (ノンフィクション作家)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー)

#工藤会と"91人の証言者" 暴力団トップ 死刑判決の内幕

井上:北九州を拠点に活動する、特定危険指定暴力団「工藤会」。一般市民を狙った4つの事件に関わったとして、総裁の野村悟被告に死刑、会長の田上不美夫(たのうえふみお)被告に無期懲役が言い渡されました。

史上初、暴力団トップへの死刑判決。舞台裏で何が起きていたのか。

複数の証言者が語る組織の内幕

元福岡県警刑事部長 尾上芳信さん
「(死刑判決は)長い闘いの終えんではありませんけど、一区切りの日というような」

元福岡県警の尾上芳信さん。長年捜査を指揮し、工藤会の壊滅を目指してきました。

尾上芳信さん
「悔しい思い、歯がゆい思いをしながら対策に当たっていた。少しでも被害者や遺族の方の思いに報いることができれば」

九州最大規模の暴力団、工藤会。ピーク時の構成員は730人。

一般市民をも手にかける攻撃性から全国で唯一、「特定危険指定暴力団」に指定されています。暴力団追放運動に関わった経営者の店に手りゅう弾を投げ込み、13人が重軽傷を負った事件。暴力団と手を切ろうと業界に呼びかけた会社役員が、自宅前で殺害された事件。しかし、いくら組員を逮捕しても、トップの関与は分からないまま事件は繰り返されました。

尾上芳信さん
「長年苦しめられてきた市民の方もそうですし、(トップは)本当に捕まるのかと厳しいおことばもいただいたこともありました。なんとかしなければならない」

暴力の根を断つには、トップの責任を問い、組織を壊滅させるしかない。狙いを定めたのは、工藤会の頂点に立つ2人。総裁の野村悟被告と会長の田上不美夫被告でした。尾上さんは過去の事件を洗い直し、4つの事件で2人を逮捕。攻防は法廷へ。

事件を指示した直接証拠がない中、証言を積み重ねて、暴力団トップの関与を立証するという異例の裁判が始まりました。

取材班は62回の裁判をすべて傍聴。さらに証言者を独自に取材し、史上初の死刑判決の全容に迫りました。法廷に立つことになったのは、のべ91人の証言者。事件の被害者や捜査に当たった関係者、さらに元組員も含まれていました。

まず検察が直面したのは、報復を恐れる被害者にどう証言してもらうかという課題でした。警察は専属の部署を設置し、危険性の高い人には24時間身辺警護を行うと約束。さらに、法廷で工藤会と直接顔を合わせず、リモートで証言できるシステムを採用しました。

その結果、被害に関する証言が得られ始めたのです。

91人の証言者の1人、医師の池田典昭さんです。2013年、野村被告が通うクリニックの担当看護師の女性が切り付けられた事件で、被害者の傷跡を鑑定しました。

証言者 法医学者 池田典昭教授
「看護師さん、お顔を切りつけられているんですよね。ちょうど耳の上から目の近くまで切りつけられた。命に関わるような状態だったと思います」

被害に遭った女性も、法廷で証言。今も続く苦しみを、赤裸々に語りました。

証言者 被害者の女性看護師
「外に出るのも控えるようになりました。主人からやつれてしまったと言われて、とても苦しいです。早く普通の生活に戻れるよう、努力したいと思います」

実行犯の組員らは看護師と接点がない一方、野村被告は看護師の接客や施術について、不満を漏らしていたことも判明。検察は、看護師や池田さんらの証言から、ただの傷害事件ではなく「殺意があり、野村被告の関与が明確」だと主張。しかし弁護側は、「実行犯が独断で起こしたことだ」と否定しました。

この事件について、工藤会の最高幹部は。

取材班
「女性が襲われた事件について、どう思いますか」

工藤会 最高幹部
「私たちの知らぬところであったにしても、その方たち(被害者)に対しては、私の個人でいえば申し訳ないなと。迷惑をかけないように、そして名が落ちることはしないように思っています」

組織の指揮命令系統を明らかにする必要に迫られた、検察。91人のうち、重要となったのが、3割を占めた工藤会の関係者でした。しかし工藤会には強固な組織性があり、証言を得るのは容易ではありませんでした。

尾上芳信さん
「"鉄の結束"とよく言われますけど、実行犯や中間の幹部たちが、上位の幹部の指示を供述することは皆無に等しい」

法廷に立った元組員に取材を試みましたが、多くが口を閉ざしました。ある証言者は、日常の何気ない音も報復ではないかとおびえ、生きた心地がしないと語りました。

「ドアの風の音でドキっとする。大きな音がすると怖い」

報復の可能性を感じていながら、元組員たちはなぜ法廷に立ったのか、91人の証言者の一人、元組員が今回初めてカメラの前で語りました。

証言者 元組員
「まさか堅気の女性を襲うとか、信じたくないというか、そこまでするかっていう、がっかりした気分が強かったですね。最低限してはいけないことはあるので、洗脳が解けたっていうのか」

鉄の結束を揺るがしていたのは、あの看護師が襲われた事件。一般女性までが被害者となったことで、複数の証言者が組織の内幕を語り始めたのです。法廷で証言者たちが明かしたのは、工藤会の知られざる仕組みでした。

証言者 元組員A
「毎月定額のカネを(実行犯の)受刑者の妻に渡していた」

証言者 元組員B
「服役している人の一部に、月に10万~20万円積み立てていた」

証言者 元組員C
「出所すると(昇格し)、4~500万円、野村被告から1,000万円受け取ることもあった」

組員が組織のために事件を起こして逮捕された場合、本人やその家族には金銭の支援が行われていたというのです。

証言者 元組員
「(実行犯の)家族に対する支援、生活費を持っていったり、いろいろなアフターケアですよね。そういうのがあると安心して、ジギリ(組織のための仕事)かけたりできる。福利厚生じゃないですけど、よくしてたほうじゃないですかね、組織的には」

さらに明らかになったのが、野村被告を神聖視する組織の実態。裁判に証拠として提出された、工藤会の内部映像を入手しました。本部事務所に集まった組員たち。

「総裁、会長、新年おめでとうございます」

上座に座る野村被告と田上被告。トップ2人の前に並ぶ組員たちの様子が記録されています。

組員
「さらなる組織発展拡充のため、粉骨砕身の覚悟で努めて参りますので、ご指導のほどよろしくお願い申し上げます」

証言者 組員D
「(野村総裁は)私からしたら神。そして象徴」

証言者 元組員E
「胸に野村悟という名前の入れ墨を入れ『おやじのためなら命も捨てられる』という組員もいた」

一方、弁護側は「野村被告は総裁に退いており、そもそも工藤会の運営に一切の権限がなかった」と反論しました。

91人の証言から浮かび上がる、組織の実態。しかし、事件への関与を示す直接的な証拠はありませんでした。そうした中、検察が鍵になると考えた事件がありました。1998年、地元の漁協組合長だった、梶原國弘さんが射殺された事件です。

巨額の港湾開発を巡る工藤会の組織的犯行と見られていましたが、当初は実行犯のみが有罪となっていました。今回初めて、殺された元組合長の長男が法廷に立ちました。「父と私は、野村被告や田上被告から便宜を図ってほしいと迫られていた」と明かしたのです。

証言者 元組合長の長男
「田上被告から電話があり、『野村と一緒に4人で食事がしたい』と言われ、京料理店で5万円の焼きふぐを食べました。その料理店で田上被告から『私と懇意にしてほしい』と言われました」

これまで直接の動きがほとんど見えなかった、トップ2人。検察にとって貴重な証言でした。さらに長男は、父が殺されたあとも田上被告から電話でこう告げられたと証言しました。

証言者 元組合長の長男
「『表を歩けるようになりたいなら、よく話し合って連絡をしてほしい』、『この事は警察、そして誰にも言ってはいけない』と言われました」

ほかの証言者たちも、殺された元組合長は、野村被告との交際を拒絶していたことを語りました。検察は、「トップ2人の殺人の動機につながる」と主張。一方で弁護側は、真っ向から否定。いずれの事件についても「間接証拠から2人の関与を推認することはできず、無罪である」と訴えました。

そして、ことし8月。

裁判所前で中継する記者
「指定暴力団トップに、死刑を言い渡しました」

福岡地裁は、野村被告は工藤会の組織力と指揮命令系統を利用し、4事件とも首謀者として関与したと認定。野村被告らの主張を退け、死刑判決を言い渡しました。被告の2人は判決を不服として、控訴。野村被告は先週、NHKの取材にこう答えました。

総裁 野村悟被告
「判決言い渡しの後の発言は、威嚇ではありません。私が犯行を指示したりすれば、必ず証拠があるはずです。しかし、そのような証拠は一切ありません。にも関わらず、私の立場だけで指示したと推認して、有罪としたのは納得できません」

史上初めての、暴力団トップへの死刑判決。工藤会は、どう受け止めているのか。

工藤会 最高幹部
「推認、推認、すべてが推認。あまりにもこじつけ。私たちからみたら、これも国策かなと」

取材班
「なぜ事件が起きたのか?」

工藤会 最高幹部
「その子たちの暴走もあったのかもしれないし、個人のですね、そう私たちは受け取ってますし、現実問題、上がこうやれ、ああやれと言うはずはないんですよ」

取材班
「工藤会を今後どうするのか?」

工藤会 最高幹部
「全国的にこの任侠団体というのは、今衰退しているのは事実です。しかし、世間からはじかれた人間、最後のよりどころに来ている者たちを誰があとは受け皿があるのだと。国でもない、誰でもない、お前たちだろうと。そういった中で私たちも、地域に信頼される組織にあらなくちゃいけないと考えております」

工藤会の壊滅作戦を指揮してきた、尾上芳信さん。今回の判決は、大きな一歩だと受け止める一方で、長い闘いの始まりに過ぎないと考えています。

尾上芳信さん
「まだまだ安心できる状況ではないのでは。未解決の事件もまだまだ多くありますので、本当の意味での壊滅になるまでは、工藤会対策をさらに進めていく必要がある」

ノンフィクション作家・溝口敦さんに聞く

井上:暴力団の取材をしてきた、溝口敦さんに聞いていきます。溝口さん、よろしくお願いします。

溝口さん:よろしくお願いします。

井上:今回の死刑判決、どのように受け止めましたか。

溝口敦さん (ノンフィクション作家)

溝口さん:異例な判決といいますか、びっくりしましたが、北九州市の市民にとっていい状況になっていくのではないかなと思いますね。

井上:今回の判決を専門家はどう見ているんでしょうか。甲南大学の園田寿名誉教授は「状況証拠に基づく『推認』を積み重ねることで出された死刑判決。危険性の高い工藤会という組織性の立証で補っている」、「社会全体で暴力団を追放したいという空気が裁判所の判断に影響したとも見られる」。

また、九州大学の田淵浩二教授は「具体的にどういう指示があったか、全く明らかにならないまま下された死刑判決は異例」、「今回の判決が暴力団以外にも適用される可能性もあるため、その危うさは認識すべき」と。

溝口さんはどういうふうに捉えていますか。

溝口さん:推認に推認を重ねてという判決ですね。これは、法的にちょっと異例すぎるんじゃないかと思います。暴力団はこういうものだから、そのトップは指示しているに決まっているみたいな形で判決。私も目を通しましたが、非常に説得性がない判決だと思います。まあ、しかたなかった面があると思います。というのは、北九州市は長いこと工藤会の災厄に見舞われてきた都市だと思います。これをなんとか警察、検察は逆転して普通の都市なんだよということを示す必要があった。それが今回の判決じゃないかなと思うんですよね。

井上:一方で、今回の判決というのは暴力団の暴力そのものを止めるものになると思いますか。

溝口さん:なるでしょう。それは暴力団にとっても一般人を殺傷することが工藤会のような事態を招く。工藤会のような厳しい判決を自分たちに招いてしまう。一般人は避けたほうがいいという意識ですね。それは強まっていくと思いますよ。それと同時に、警察はやろうと思えば組のトップである総裁とか、会長とか、そういう人たちに対しても、たとえ論理的に危うさを秘めながらも死刑とか無期懲役とかいう極刑を科すおそれがあるというですね。そういう気持ちは持つでしょう。

井上:こうした中で、私たち自身はどういうことが必要だと思いますか。

溝口さん:やはり、暴力団に頼らない。たとえもめごとが生じて、暴力団に頼めば手っ取り早く解決できるというような場合であっても、きちんと警察に相談するなり、あるいは弁護士に依頼するなり、場合によっては裁判に訴えるなり、そういう公的なルートを使う方法をしっかり実践していく。そういうことが必要なのではないかと思います。これからは暴力団対市民社会だと、まさしくそれが今後ますます現実化していくということじゃないかと思いますね。

井上:ありがとうございました。

溝口さん:どうもありがとうございます。


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