クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
2021年9月14日(火)
それでも子どもをもちたい 広がるSNS精子提供

それでも子どもをもちたい
広がるSNS精子提供

「#精子提供します」。いまSNS上に、精子を無償で提供するというアカウントがあふれている。提供者や依頼者を取材すると、「子どもをもちたい」と願いながらも、現在の制度では病院で精子提供を受けられない、同性カップルや選択的シングルマザーなど、多様化する家族の実態が浮き彫りになってきた。一方で、医学的なリスクや、提供で生まれた子どもの権利をどう守るのかという課題も。精子提供を受ける女性の葛藤を描いた「夏物語」で家族の在り方を問う、芥川賞作家の川上未映子さんとともに考える。

【関連記事】
SNS上で広がる「精子提供」 なぜ利用?リスクは?
SNS上で広がる「精子提供」 法律でどう整備?課題は?
広がるSNS精子提供 作家・川上未映子さん 放送後未公開トーク

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから

出演者

  • 川上未映子さん (作家)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

広がるSNS精子提供 多様なニーズ 制度のはざまで…

佐和子さん(仮名)、41歳です。3年前、インターネットで知り合った男性から精子提供を受け、男の子を産みました。パートナーは30歳の夏美さん(仮名)。佐和子さんが子どもを持ちたいと思うようになったきっかけは、母からの言葉でした。

佐和子さん(仮名)
「子どもを通して子どもが成長していくときに、子どもの運動会とか遠足とか、一緒にそういう行事に参加することで、自分の人生を思い出せるっていう話をされた。私は同性愛者だから、そういう楽しみは一生得られないんだなと思っていた。でもその話を母に聞いて、私の中では子どもを育ててみたい気持ちがずっとあった」

2人がまず考えたのが、病院で精子提供を受けることでした。しかし…。

佐和子さん
「夫が無精子症であることの証明書類。ないですね」

対象は、法的に婚姻している夫婦。そして、夫が無精子症の場合でした。

夏美さん(仮名)
「世の中的に排除されている存在というのは、今まで生きてきた中でずっと感じてきた。ここでも諦めなきゃいけないんだなっていう」

2人は海外にある精子バンクも検討しましたが、日本人の提供者がおらず、断念。

佐和子さん
「ネット検索で自分で調べてみたんですけど」

残された方法は、ネットしかなかったといいます。精子提供の掲示板で、提供者を募集。すると、すぐに30人以上の男性から連絡がありました。しかし、性行為をさせてほしいなどセクハラまがいな要求を数多く受けました。

一般的には「シリンジ」という針のない注射器を使い、精子を自分で体内に注入します。ところが…。

佐和子さん
「提供および、注入は確認させていただきたいと思います。注入するのを目の前でしてくれと言われたりしていた。純粋に気持ちが悪いなと思いました」

実際に会ってみても、不快な思いをすることがありました。

「私は性欲がありあまっているので、ぜひ分け与えたい」

カメラで盗撮するそぶりも見せたといいます。

さらに専門家は、医学的なリスクも大きいと指摘します。病院で行う場合は、集めた精子を半年間以上凍結保存し、感染症などがないか検査しているのです。

慶應義塾大学 医学部 田中守教授
「性行為感染症とか肝炎、HIV、そういうウイルスの感染症のリスク。次に考えられるのは、例えばそのドナーの方がある種の遺伝病をお持ちだった場合、その遺伝的な病気がお子様に引き継がれる可能性があります。SNS上での取り引きでは確認できない」

佐和子さん
「一番出会いが多いとか、可能性が高いのはネットで探すことだった。怖い思いをしても、ここしか選択肢がないというのが一番」

探し始めて3年。下心がなく、身元も明かすなど、信頼できると感じた男性から提供を受けることにしました。佐和子さんは、2回の提供で妊娠。男の子を産みました。

佐和子さん
「公的な機関が使えれば、心配は一切必要ないじゃないですか。性病のこともそうですし、お相手の方の身元がはっきりしているとか。私たちは運がよかったんですけど、『運がよかったね』で済ましていい話なのか。『運が悪かったね』で済ませられない。子どもが実際に産まれるのでどういう影響があるか分からないので、なんとかなればなとはすごく思います」

佐和子さんに提供した男性にも、話を聞くことができました。会社員の直樹さん(仮名)、50歳です。直樹さんはゲイ。結婚して子どもを持つことを諦めてきましたが、40歳を越えたころから心境に変化が出てきたといいます。

精子を提供 直樹さん(仮名)
「だんだん周りが結婚して、家庭を持って子どもを持ってというふうになってくると、だんだんとつきあいもなくなってきて、少しずつ少しずつ1人の時間が多くなった。孤独になってくる時間が多かった。もしかして自分も子どもが欲しいのかなとか、家族が欲しいのかな、それでこの寂しさがあるのかなって思っていた」

同性愛者が集うサイトで、佐和子さんの投稿を見つけた直樹さん。話し合いを重ね、2人の生き方に深く共感したといいます。

直樹さん
「同性で結婚して子どもを育てる人たちが、この世の中に本当に存在するのは知らなかった。だけど、彼女たちはそれをやろうとしている。もちろん並大抵のことじゃないと思う。でもそれを真剣に考えている彼女たちが、本当にすごく輝いて見えたんです。精子を提供をすることに至ったのは、本当に自然なことだったと思います」

提供者の中には、年に100回程度提供を行い、50人以上の子どもが生まれたという人もいます。

都内のIT企業で働く和人さん、28歳です。

この日は仕事帰り。

精子提供者 和人さん(仮名)
「容器です。これは滅菌済みのものでダイヤル式なので、こぼれずに使える」

待ち合わせたのは、九州からやってきたレズビアンの女性。ホテルの一室に向かいました。

和人さん
「一度で結果が出る方は多くはないので大変だと思いますけど、6周期くらいまでは続けていただいて、一緒に頑張っていきましょう」

和人さん
「トイレお借りします」

和人さんは性病など、感染症の検査を定期的に行い、依頼者に提示しています。

待つこと20分。

和人さん
「お待たせしました」

女性は、精子を入れた紙袋と引き換えに、交通費などの実費と感謝の手紙を渡しました。

レズビアンの女性
「希望です。ありがとうございますという感謝の気持ちと、前に進めているという実感」

和人さん
「お気持ちをすごい感じることができて、そういったところはすごくうれしいなと思います。大きなことができているんだなと思います」

和人さんは今回、提供者の真剣な思いを知ってほしいと取材に応じてくれました。6年前、仕事に追われ、結婚も諦めかける中、社会に生きた証しを残したいと提供を開始。すると想像以上に依頼が舞い込み、切実な思いに少しでも応えたいと考えるようになったといいます。

和人さん
「希望している人も多いというのも感じましたし、今の医療でカバーされている人の範囲が少ないのも、すごくひしひしと感じました」

和人さんの元には、同性カップル以外からの相談も相次いでいます。

和人さん
「事情をお話いただけたらなと思うんですけど」

相談者
「ちょっとまだ迷っているんですけど、1人で子どもを育てたいなって思っているんです」

結婚をせずに子どもを1人で産む、「選択的シングルマザー」です。今、未婚で子どもを産む女性が増加。15年間で3倍となっています。

選択的シングルマザーになることを決めた、公務員の奈津子さん(仮名)、41歳です。

両親の仲が悪く、父親からは暴力も振るわれていた奈津子さん。男性に対する警戒心が、強くなっていったといいます。しかし、40歳を前にして、結婚はできなくても子どもだけは欲しいと考えるようになりました。

奈津子さん(仮名)
「折り返し地点みたいな感じじゃないですか、人生80歳までだとしたら。ずっとこの生活でいいかと考えたときに、あと40年ずっと1人で生活しているのは寂しいというのであったり、むなしいというか。何かもっと、悔いのないように生きるのはどんなことがあるのかなと調べて、結婚とか家庭を持つのは難しいと考えて、選択的シングルマザーになって子どもを育てて、家庭を持って生活するというのも残りの40年の中で私がやりたいことなんじゃないかと思いました」

多様な生き方を選択する人たち。しかし、社会の制度は追いついていないのが現状です。

多様化する家族の"いま"

保里:作家の川上未映子さんです。著作「夏物語」では、第三者から精子提供を受けて、選択的シングルマザーとなる女性の葛藤を描いています。川上さん、VTRをどのようにご覧になりましたか。

川上未映子さん (作家)

川上さん:ぎりぎりの選択の中で、リスクもたくさんある中でそれぞれのベストだと思えるようなぎりぎりの選択をしてるんだなということが伝わってくる、本当に切実なVTRでしたね。

井上:今、多様な社会、多様な生き方を目指すと言いつつも、こうして子どもを持つという視点に立ったときに、制度も意識もなかなか追いついていないという現状があると感じたのですが、いかがですか。

川上さん:まず、このことに対する議論が共有されていないというのも大きいと思いますし、そういうのも背景にあると思うのですが、「夏物語」という小説は38歳のフリーランスの女性でパートナーもいない女性なんです。彼女が日本で1人で親になりたいと思ったとき、子に会いたいと思ったときにどういう困難があって、どういう選択が可能かということをリアリズムで書いた小説なんですけど、海外の読者も含めていろんな違いがありましたね。

井上:海外からはどういう反応があったのでしょうか。

川上さん:厳しい審査をちゃんと受けた精子バンクのシステムが出来上がっているというのがまず違うのですが、ベルリンの女性の取材を受けたんです。そのときに、主人公が持っている葛藤とか悩みというのが基本的に共有できないと言われ、すごくびっくりしたんです。どういうことかというと、女性が親になりたいと思ったときに、パートナーがいないからとか婚姻していないからということで諦めるということが、ちょっと考えられないと言われたんです。それは決してリベラルなコミュニティーだけの話ではなくて、女性の普通の生き方の選択肢の中に、精子バンクで選択をする、あるいはパートナー以外の人からというのも選択肢に含まれているということを聞いて、非常に印象深い違いだなと思いました。

保里:一方、生まれてくる子どもの権利をどう守るのか。精子提供を受けてまで子どもを持つことは「親のエゴだ」という意見もあり、様々な議論が起きています。

"親のエゴ"?葛藤と決断

清水尚雄さんです。心と体の性が一致しないトランスジェンダーで、女性の体で生まれました。

妻の彩香さんは精子提供を受け、妊娠9か月です。

妻・彩香さん
「元気いっぱいでした。よかったです。分かるかな?耳」

清水尚雄さん
「超かわいい」

妻・彩香さん
「女子の予定です」

6年前に結婚し、子どもを持ちたいと考えた2人。しかし、ネットで目にしたのは…。「親のエゴ」、「モラルハザード」、精子提供に対する多くの批判的な声でした。

一時は諦めた彩香さん。しかし、思いを抑えることができませんでした。

妻・彩香さん
「ネットとかでも、できないって分かっていて結婚したんだから、欲しがるのはエゴだとか、子どもがかわいそうだって見ていたんで。でも自分はやっぱり子どもが欲しい、自分に子どもがいれば。もう本当にグルグルグルグル、同じことばっか考えてました。自分でも何でこんなに泣いているのか分からないけど、もう涙が止まらなくて」

葛藤の末、SNSで知り合った男性から提供を受けました。先月下旬、無事に誕生。

生まれ方にかかわらず、子どもが幸せになるにはどうすればいいか。考え続けていきたいといいます。

妻・彩香さん
「命として、授かり方はいろいろ選択肢がある中でこの選択だったけど、その選択をしなかったら、今この子に会えていないから。間違いじゃなかったって胸を張って言えるように」

清水尚雄さん
「大切な命を授かったので、親としての責任だったり、これからちゃんと育てていかなきゃいけないと感じています」

子どもの権利 どう守る

親の葛藤がある一方、生まれてきた子どもたちが今、声を上げ始めています。自分がどのような経緯で生まれたのか。大人になるまで、その事実を親から伏せられてきた女性です。

精子提供で生まれた 石塚幸子さん
「自分の人生が、親のついたうその上に成り立ってきた。自分が何者なのか、分からなかくなってしまった」

さらに日本では、提供者が誰なのかという出自を知る権利が、子どもに保障されていません。この権利を法律で認めてほしいと、国に訴えています。

<衆議院 法務委員会 2020年12月>

石塚幸子さん
「私が提供者を知りたい最も大きな理由としては、自分が母親と精子という物から生まれていたという感覚があって、そこに非常に違和感を持っているからです。物ではなくて、きちんと人が介在したということを実感として感じたい。一度でもいいので、会いたい。その人が人として本当に実在していることを確認させてほしい」

精子提供によって生まれたことを、子どもが1歳のころから伝えている親がいます。トランスジェンダーの吉田孝治さん(仮名)と、妻・由佳さん(仮名)です。

妻・由佳さん(仮名)
「パパは、たねをもっていなかったの」


「そう?」

妻・由佳さん
「パパとママはたねをさがしたけど、みつからなかったんだ」

自分で絵本を作り、日常的に読み聞かせています。

妻・由佳さん
「大きくなって何かいろいろ分かるようになってから伝えると、え?みたいな、私って何かちょっと違う、みたいになるよりかは、小っちゃいときから自然に伝えるようにしてきました」

妻・由佳さん
「パパとママのあかちゃんになってくれて、ありがとう。うまれてきてくれて、ありがとう」

読み始めて3年。その思いが、娘にも伝わり始めているのではないかと感じています。

吉田孝治さん(仮名)
「普通に僕と話していて、『パパは種がなかったけど、持ってきてくれたんだよね』って話を理解していたりするんで、絵本を読んでいるだけで、こういうふうに生まれることもあるんだよって、なんとなく分かってくれたらいいな」

レズビアンのカップルに精子提供を行った、ゲイの直樹さんです。この日、提供をした佐和子さんと夏美さんのもとを訪ねました。生まれた後も、定期的に交流しています。

精子を提供 直樹さん(仮名)
「お久しぶり、元気?覚えてる?」

子どもは、現在1歳。将来、直樹さんに会いたいと思ったときに会える環境を、今から整えておきたいと考えています。

提供を受けた 佐和子さん(仮名)
「親は私たち2人で、父親という存在は必要ないと思っていたけど、子どもの意見もすごく大事で、子どもが将来会いたいと思ったときに会えない状態はよくはないって考えて。子ども自身に選択肢が持てるようにしておきたい」

直樹さん
「子どもが成長して、父親の顔が見たいという話になったら、それはお断りすることはないと思いますし、適度な距離感を持って。もちろん、こちらから会いたいなんてことは言わないので、彼(子ども)が望むことを自分は遠くからサポートできればいい」

広がるSNS精子提供 子どもの権利 どう守る

保里:子どもの権利をどう守るのか、川上さんはどうお考えですか。

川上さん:子どもを持つということに、みんなそれぞれいろんな考え方をお持ちだと思うんですが、私はもう、完全な他者を迎える行為だと思うんです。しかも、相談もせずに親の事情で登場させるわけですよね。それが自分の思いとか、自分の価値観を引き継いでくれるような、自分の自己の拡張された存在のような人を生み出すのではなくて、本当に他者なんです、他者を迎え入れる行為。違う時代を生きて、違う人生を生きていく他人なんです。そのときに、その非対称性の中で登場させた人、子どもと親の事情とか、幸福とかの思いをもし比べるならば、必ず私は子どもの権利と福祉、幸せを尊重するべき。そのことをまず一番に考えるべきだという考えを持っていますね。

保里:現状だと、親の側の事情と子どもの持つ気持ちというのが対立しているような。

川上さん:親には親の事情があって、「いつか分かってくれるだろう」、「子どもにはそれを知る権利がない」と。今すごく、この2つ、どちらをとるか対立というふうに見えるのですが、私は双方が幸せになる道を探るべきだと思っています。そのためには、ちゃんと第三者機関が間に入って、リスクをちゃんと周知したりとか、直接間のやり取りではなくて法整備、知る権利も含めて子どもが知りたいと思ったときに知れる。知りたくないと思ったときもそうできるという、とにかく生まれてくる、登場させられる子どもの幸せと思いを一番にまず考えて、双方が幸せになる道を探るべきだと強く思いますね。

井上:その一方で、「親のエゴではないか」という声に対して、葛藤したり自問自答する親の姿もありましたが、それに対してどう思いますか?

川上さん:すごく特殊な場合を除いて、出産というのはほぼ親のエゴだと思うんですよ。親の事情というか、思い。親の都合で子どもが登場させられると。

保里:親が産みたいから産む。

川上さん:そうです。それをやはり外側にいる人たち、例えばVTRに登場された方たちに対して、エゴだという批判は成り立たないです。私はそう思いますね。もしそういうふうに思ってしまう場合は、自分の子を持ちたいといういわゆる普通とされる人たち、それがエゴだと気付かないでいられるのは、マジョリティーという立場に守られているから気付かないでいられるだけで、エゴだという批判は成り立たないと思います。それで苦しまれる必要は私はないと思います。

保里:家族のあり方というのが多様化する中において、私たちは社会全体でどう理解を深めていったらいいと思いますか。

川上さん:今、親の立場では後ろめたさとか言えない事情があると。子どももそれに影響を受けていると。だから、全体で変えていく。いろんな出産がある、いろんな誕生の仕方がある。それはやはり、私たちがこういう話とかのリアクション1つ、反応1つで変わっていったり作られていくものですから、その意味で無関係な人はいないと思います。

保里:一人一人が、当事者として向き合っていくということですね。ありがとうございました。