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2021年9月9日(木)

その校則、必要ですか?
密着!改革の最前線

その校則、必要ですか? 密着!改革の最前線

「下着の色は白」「ポニーテール禁止」など人権侵害まで指摘される校則。今、日本の管理教育の象徴ともされる校則の見直しが各地で広がっている。多様性が叫ばれる中、生徒や弁護士、教育委員会まで声を上げ、改革が加速しているのだ。生徒主体の校則改革は“最高の教材”との考えがある一方で、壁も・・・。「小遣いの額はいくら」「生徒だけの外食禁止」など保護者が学校にルール作りを頼み、新たな校則を積み上げてきた経緯から「簡単に変えるべきではない」という考えも根強いのだ。学校現場でいったい何が・・・知られざる最前線に密着。 ※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから

出演者

  • 神内聡さん (現役高校教員・弁護士)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

その校則、必要ですか? 密着!改革の最前線 先生の本音は

この春から校則の見直しに取り組んでいる、栃木県立足利清風高校。放課後、生徒たちが職員室から運んだものは…。

「携帯電話、忘れないように」

学校の中では携帯電話の使用が一切禁止されているため、下校時まで学校が預かる決まりになっています。校則が厳しいと知られる、この学校。独自に定めた校則は、およそ90項目に上ります。

下着の色は、白かベージュ。地毛が明るい色や、くせ毛の場合は「地毛申請書」を提出。さらに、宿泊を伴う旅行には「旅行届」を担任に提出しなければなりません。しかし、生徒や保護者の多くから不満の声が寄せられ、今年度から見直しに乗り出したのです。

「『こんなルールおかしい』と思うことがあったら、書いてみましょう」

NPOや大学の研究者の支援を受け、生徒と教員が話し合い、1年かけて新しい校則のあり方を考えていきます。

生徒
「なぜ下着の色まで、指定されているのか」

生徒
「これ(前髪)アウトなんですよ。これ、だめ。(前髪が)眉毛より下に出ちゃだめ」

髪型についての校則です。「前髪は眉毛にかかる程度まで」。

「おだんご」も禁止。「ツーブロック」は奇抜な髪型として禁止です。

生徒
「理想の髪型教えてほしいんですよ。七三わけ?」

生徒
「ルールを守るのが一番ですけど、個性は出せたらいいな」

さらに、校内の自動販売機は授業に遅刻する生徒が数人出たため、授業の間の10分休憩は使用禁止になっています。

生徒
「最近暑いんで、自動販売機。夏はあったらいい」

今回の校則見直しプロジェクトを進めているのが、教師歴28年の小瀧智美さん。ふだんは校則違反を取り締まる、生徒指導のトップです。廊下にある掲示板に、生徒たちはおかしいと感じる校則に次々と印をつけていました。

実は小瀧さんも、今の校則に疑問を持ちながら指導を続けてきたといいます。

生徒指導部長 小瀧智美教諭
「(疑問に思うのは)下着ですね。派手な下着つけてくる子、いないですから。(生徒は)おだんごのほうが涼しくていいと。ポニーテールだと下にたれるから。だけど『学校におしゃれはいらない』、私は(先輩から)聞きました。『自由になるとゆるくなる』、『ゆるくすると荒れる』みたいな考え方」

校則が全国的に厳しくなったのは、校内暴力が吹き荒れた1980年代といわれています。教員が生徒から殴られる事件が、日常風景ともいわれた時代。沈静化させる手段として、厳格な校則が用いられました。その後も、時代と共に新たな校則が各地の学校で次々と作られていったのです。

小瀧さん自身、校則の見直しが必要だと強く感じたのはコロナ禍で社会のさまざまな価値観が変化したことでした。

小瀧智美教諭
「コロナもあったので、いろんなことが急に進化してきているにも関わらず、学校は何も変わらないとすごく感じましたし、遅れている。それこそ昭和の教育を続けていると感じましたし。何か見直さなくちゃいけない思いが、強くなってきた」

この日、小瀧さんは校則見直しの検討会で、生徒に初めてみずからの本音を語りました。

小瀧智美教諭
「学校の何かを変える、校則にしても勇気がいることなんですよ、先生も。勇気がいるし、もし何か変わったとき学校が荒れたりすると、すごく怖い。それは絶対に嫌だと思ったから、そういうことがあるだろうなと思いつつ、その場をやり過ごしてきた自分がいたかなと」

生徒を指導するための校則が、逆に生徒の自主性を妨げてきたのではないか。小瀧さんは、そう考えるようになったといいます。

小瀧智美教諭
「表立っては不満はあるけれども、言わない、言えない。私たちが言えない雰囲気にしてきたんじゃないかと。生徒の意見をあまり聞かないで、『だめ、無理』と言ってきちゃったよなあと。だから生徒は言えなくなっちゃったなと、すごく反省しています」

問われる"学校依存"

校則の見直しが進む中で、学校だけでなく、保護者や地域社会が問われていることも見えてきました。

「下着の規制全般については、制限の目的が不明確」

佐賀県弁護士会では、情報公開請求で県内の学校の校則を集め分析。法律の観点から検証し、教育委員会に見直しを提言してきました。

ことし4月、県の教育委員会は県内46の学校で校則を見直したと発表。下着の色は白、地毛が赤毛や縮毛だった場合に行わせてきた「地毛申請」などを、人権上の観点から削除しました。

実際どの程度見直されたのか、弁護士たちは再び検証を行っています。

「次、**中学校です」

「ツーブロックとモヒカンを挙げて、『特異な髪型は禁止です』という解説があったんですけど、特に規制はなくなっています」

「**中が(今も)すごいと思って、眉毛をそったり抜いたりした場合は、『職員室でかきます』」

弁護士たちが懸念したのは、学校の外での生活を細かく定める「校外生活」という項目が残っていたことでした。生徒だけでの外食の禁止。校区の外に出るときには、プライベートでも制服を着用。さらには、保護者同伴でもビリヤード場やカラオケへの立入禁止。本来は保護者の責任であるはずの家庭の過ごし方まで、校則で定められていたのです。

佐賀県弁護士会 東島浩幸弁護士
「びっくりした。(親が)お小遣いの額を決めてくれとか、(親が)宿題をやる時間を学校の校則できちんと決めてもらいたいと。親の"学校で一律に決めてほしい"という願いも、行き過ぎている部分がある」

こうした背景には、子どもたちのあらゆる管理を学校に求める「学校依存社会」ともいえる状況があると専門家は指摘します。

名古屋大学 大学院 内田良准教授
「学校の厳しい目があることで、家の中でも落ち着いて生活してくれる。そういった期待を学校に対して保護者は持つわけです。本来は保護者、地域住民、福祉の分野が担うべき仕事を、先生が長時間労働によって担っている。これは『学校依存社会』。保護者や地域住民も、一緒に考えなければならない課題」

現役教師が語る"学校の本音"

井上:校則見直しについての記事は、関連リンクからもご覧いただけます。

ゲストは、高校教師歴10年以上で、今も教壇に立ちながら弁護士や大学の研究者として教育問題にも取り組んでいる。神内聡(じんないあきら)さんです。よろしくお願いします。
神内さんもクラス担任として生徒指導もされてきたということだが、校則について実際、現場ではどう感じていますか。

神内聡さん (現役高校教員・弁護士)

神内さん:本当に校則の問題というのは非常に難しくて、法律家の視点からすると子どもの人権の観点からはできるだけ校則というのは自由であるべきだなと思うのですが、実際に教師として現場に立ってみて指導をしていくと、本当にいろいろな生徒、いろいろな保護者の方がいて、学校の先生方もいろんな考え方を持っていらっしゃるんです。ですので、そういったいろんな考え方や意見を整理しながら校則という指導をしていくというのは非常に難しくて、私自身も何度もいろいろ失敗したりとかうまくいかなかったりしたこともあります。ほかの先生方も、きっといろいろと悩んでいらっしゃる先生は多いと思うんです。法律的に言えば人権保障の観点からすると、やはり校則というのは必要最小限であるべきだと思うのですが、一方では子どもと大人では法律自体が責任で区別していますし、それから校則自体が生徒の変化とかを観察するときの物差しとしての機能というのがあると思うんです。

井上:変化が分かるんですか。

神内さん:やはり髪型とか、服装が少し変わったとかいうことが、教師にとってみたら何か心情が変化しているんじゃないかという形で観察しやすいと思うところはあります。

井上:校則が作られる背景に、「学校依存社会」と。保護者だったり地域住民の関わり、この指摘に対してはどう思いますか。

神内さん:実際に学校というのは、今の学校は学校評価の制度の中で保護者とか地域住民の意見というのを結構反映していくことになっているんです。そうした中で、保護者や地域住民、いろいろな考えの方もいらっしゃいます。それから有力な保護者の方、例えばPTAの方であるとか、それから地域住民でも声の大きい方とかの意見というのは学校としても無視できないところがありまして、そういった方たちが例えば細かい指導を求めてくることはあると思います。

保里:そうした中で今回NHKが全国の教育委員会に行ったアンケートでは、校則を見直した、見直す予定だと答えた都道府県は、4割。学校単位の動きも含めると、全国に広がっていました。

神内さん、学校現場でも必要に応じて変わっていかなければいけない、こうした意識は生まれているということでしょうか。

神内さん:そうですね。多様化とグローバル化というのが学校現場で急速に進んでいるのもありまして、例えば東京ですとクラスに1人ぐらいは外国ルーツの生徒さんがいらっしゃるし、地域によっては1割ぐらいいらっしゃるところもある。それから性的マイノリティーの子どももそういった相談も受けたりしますので、多様化やグローバル化の中で、今までの校則の価値観で運用していくというのは非常に難しいのではないかと教師も肌で感じていると思います。特に、今まで比較的厳しい指導をされてきた生徒指導の担当の先生方も、そういった変化に応じて、今までの校則の運用ではちょっと難しいんじゃないかということは感じられているんじゃないかと思います。

井上:コロナ禍も影響がありますよね。

神内さん:そうですね。新型コロナの影響もあって、例えば登下校中の服装はもう割と臨機応変に対応せざるを得なかったりとか、そういった意味でしゃくし定規に校則を運用していくのでは、もうこれからはちょっと難しいと。ですので、柔軟な運用をしていかないと、新型コロナのような緊急の場面でやっていくのは難しいんじゃないかということは教師も感じているんだと思います。

井上:この校則の見直しは、子どもたちが社会で生きていくための最高の教材。そう考える地域も出てきています。

見直しは"最高の教材"

ことしから、市内の小・中・高合わせて137校で一斉に校則の見直しが始まった熊本市です。

熊本市立白川中学校 大橋英材(ひでき)校長
「自ら考え、自ら決定し、自ら実践することを君たちにお願いしたい」

この日、市内の中学校で初めて行われた校則検討会議。生徒たちは、日々の学校生活でいだく違和感を次々と挙げていきます。

生徒
「今プールがあるけど、男子は着替える場所が体育館入ってすぐ。この前僕たちが着替えてたとき、(女性の)体育の先生が、着替えてるところを見にこられた。異性に着替えるところを見られるのは、嫌だとかはあると思う」

生徒
「今のジェンダーレスとして女の子だけが特別扱いみたいな、確かに変えたほうがいい」

全ての学校での校則見直し。これを仕掛けたのが、4年前に市の教育委員会のトップになった遠藤洋路(ひろみち)さんです。

生徒
「生徒総会に提案するのが言いにくかったり」

熊本市教育委員会 遠藤洋路さん
「それは大事ですね。みんなの前で意見が言える人もいるし、言いにくい人もいるから」

実は、遠藤さんは異例の経歴の持ち主です。文部科学省のキャリア官僚を13年勤めたのち、国や自治体向けのコンサルティングを行う会社を起業。校則の見直しの背景には、官僚時代の反省がありました。

遠藤洋路さん
「(官僚時代は)学生の延長とまでは言わないが、あまりにも人に言われたことを守るとか、人のせいにするとか、今自分たちがやっていることは『本当にこれでいいの?』と誰も声を上げられない。自分のことも含めて、反省したところもありました」

子どもがみずから校則を考え、決める仕組みを作ることが日本の未来を変える原動力になるのではないか。遠藤さんは、そう考えています。

遠藤洋路さん
「これからどんどん人口が減って、経済も厳しくなって、ほかの国との競争ももっと激しくなったときに、言われたことやるだけの人間だと、日本みんながそうだと、これは国として大変だろうと。自分たちの責任で、自分たちの国を作っている、それが民主主義。それを子どものころから実感していかなきゃいけない」

みずから校則を見直していく生徒たち

校則の見直しをみずから行うことで、生徒たちの意識にどのような変化が生まれるのか。

県立岐阜北高校では、生徒会が創立から80年続く制服の一律着用の見直しに取り組んでいます。このプロジェクトのリーダー、安田穂乃香さん。試験的に私服での登校も認めてもらい、服装についての意識調査を行いました。

生徒
「毎日着替えるようになって心地いいし(制服より)軽くなったので、もっと勉強に集中出来るかなと思う」

生徒
「いつも同じ制服を着て、行きたくないなから朝が始まるんですけど、きょうはどれ着ていこうかなと決めていけるので、めちゃくちゃ楽しかった」

生徒たちの前向きな反応に、安田さんは手応えを感じていました。

生徒会 安田穂乃香さん
「思ったより私服の人が多くてよかった。生徒の意見を学校全体のものとして始めることができて、うれしい。」

しかし、アンケートの結果を取りまとめる中で難しい課題に直面しました。7割近い生徒が服装の自由化を希望する一方で、少数意見の中に切実な声が寄せられていたのです。

安田穂乃香さん
「(アンケートには)なぜ、私服を買う余裕のない生徒のことを考えなかったのか疑問」

「その子がいじめとか家計的なもので起こるトラブルを気にして、『もっと考えてよ』って言いたかったのなら、それはすごく重い意見になる」

安田穂乃香さん
「私服が多いと、制服ってちょっと浮く」

「そうなると、その子はすごくつらい思いをするんだろうなって」

こうした声がある中で、多数の意見に沿って方針を固めてしまってよいのか安田さんたちの考えも分かれました。

「こういうアンケートを通すと大きい数字に傾くし、(少数意見が)埋もれていってしまう」

安田穂乃香さん
「でもその人のことばかり考えると、何も起こらない。制服のままがいいのかなってなっていくから、どう組み込んでいくか」

生徒会としての結論を示す日が訪れました。校則をどう変えたいのか。活動を見守り続けてきた校長に、正式に申し入れる約束でした。ところが。

安田穂乃香さん
「変えたいという思いだけで動くのではなくて、いろんな人の意見をもとに基準を考えていきたい」

安田さんたちが出したのは、まだ決められないという結論。議論の輪を広げ、もっと対話を深めたいと要望しました。校長は生徒会の判断を尊重し、今後は学校側も意見を伝えていくと応じました。

県立岐阜北高校 鈴木健校長
「十分議論した上で生徒がこれが正しいと言ってもらえれば、真正面から大人どうしのつもりで回答を返していく。それが一番大事なことだと思う」

安田穂乃香さん
「生徒と教員が対話をしながら考えていくために、制服等検討委員会ワーキンググループを設置しました」

安田さんたちはルールを作る上で、生徒・教員一人一人が考え、そして納得することが大切だと考えています。

安田穂乃香さん
「正直大変だなとは思いますけど、こんな機会めったにないので。せっかく変えたのに制服のほうが過ごしやすかったとか、変わらなかったけど実はやっぱり制服は嫌だったとか、あとで後悔することがないように、できるだけみんなが過ごしやすくなったねと思ってもらえるような校則の変化にしていきたい」

現役教師が語る"改革の先には…"

保里:NHKのアンケートで見直しの動きがあると答えた都道府県の教育委員会のうち、見直してよかったと答えたのは29。生徒の主体性が向上したなど好影響があったと答えたのは、15。学校が荒れるなどの悪影響があったと答えたところは、ありませんでした。

このアンケートの結果などは関連リンクからもご覧いただけます。

クラス担任もされてきた神内さん、弁護士として各地で校則見直しの取り組みにも関わっていらっしゃいますが、実際やってみてどんなふうに感じていますか。

神内さん:本当に教育的意義をすごく感じていまして、校則の内容を変更するというところだけではなくて、内容を変更するプロセスのところも学べる、民主主義の実践を学べるという意味ですごくすばらしい意義があると思っています。
また、校則のゆるい学校というのはどちらかというと教師が生徒を信頼してゆるくしているところがあると思うのですが、そうであるならばそれ以外の学校でも教師がもっと生徒を信頼してあげて、生徒もその信頼を裏切らないように頑張るというふうな関係を築いていく。その中でいろんな校則のあり方というのを議論をしていけたら理想かな、というふうに思っています。

保里:こうした取り組みが多くの学校に広がっていくといいなと思いますが、その中での難しさはどんなところでしょうか。

神内さん:やはり学校によって事情が全然違いますので、ある学校でうまくいった取り組みがほかの学校でうまくいくとは限らないので、そういった意味で難しさはあるかなと思っています。

井上:まさに社会参加の練習とも言えると思うのですが、こうした取り組みから大人も案外学べることもありそうですね。気付けることというか。

神内さん:そうですね。本当にルールというのは守るという意識も大事だと思うのですが、時代や価値観の変化に応じて変えていくという意識も大事だと思うんです。そういったことをわれわれ大人も意識するという意味で、今の校則の議論というのはすごく意義があるかなと。言ってみたら民主主義のあり方をいろいろと大人も考えていける、そういった機会になっているのかなと思っています。

井上:まさに時代に合う校則はもちろんですけど、時代を変えていく校則というのも生まれてほしいですよね。

神内さん:そうですね。そういったふうに感じています。

保里:社会のあり方と共に、校則も見直していくということですね。ありがとうございました。

神内さん:どうもありがとうございました。

校則見直しを始めた学校のその後

ことしから校則見直しに動き始めた、栃木県立足利清風高校。授業の合間の休憩時間に使用禁止だった、自動販売機の校則。生徒たちが見直しを提案すると…。

「きょうから、この校則が変わります」

「よし、はがしましたー」

変えられないと思っていた校則。自分たちで考え、行動する力は着実に芽吹いています。


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