クローズアップ現代

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2021年6月22日(火)
独自取材 再エネビジネスの“ゆがみ” ~脱炭素社会の裏で~

独自取材 再エネビジネスの“ゆがみ”
~脱炭素社会の裏で~

「再エネビジネスで億単位の不正に手を染めた…」ある企業の現役社員から内部告発が番組に寄せられた。いったい何が起きていたのか…。さらに取材を進めると再生可能エネルギーを普及させるための国の制度の構造的な課題も浮き彫りになってきた。また急速に再エネビジネスが拡大する中、土砂災害リスクのある場所に太陽光発電施設が次々と建てられ、住民や自治体とのトラブルが相次ぐ問題も。脱炭素社会へ大きく舵(かじ)を切った日本。持続的な“あるべき姿”にするためには何が必要か、考える。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから

出演者

  • NHK記者
  • 井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

独自取材 再エネビジネスの"ゆがみ" 脱炭素社会を目指す裏で…

井上:地球温暖化対策として普及が欠かせないのが、「太陽光」や「風力」、間伐材などを燃料とする「バイオマス」などの再生可能エネルギーです。

その発電量は、この10年近くで倍近くまで拡大しています。

保里:国は脱炭素社会の実現に向けて、さらに普及させようとしています。電力全体に占める再生可能エネルギーの割合は、2030年度の目標を30%台後半で調整していて、2050年は50~60%の参考値を示しています。

井上:こうした中で、活況を呈する「再エネビジネス」。その裏側で、不正が行われているという内部告発が私たちに寄せられました。

社員の内部告発 会社側の見解

『再エネビジネスで、多額の不正に手を染めてしまった』

そう内部告発をするのは、業界では名の知れた企業の現役社員です。

内部告発した現役社員
「あれですね。あれが私が勤めていたバイオマス発電所です」

全国に複数の発電所を持つ、この企業。間伐材や建築廃材などを燃料にした、「バイオマス発電」を行っています。男性が証言する不正とは一体、どのようなものなのか。

この企業では、複数の木材チップを混ぜて発電。その電力は、国の制度に基づいて電力会社が買い取ることになっています。

買い取り価格は、木材チップの種類に応じて一律に決められています。価格の高いチップで発電する割合が増えるほど、高く買い取ってもらえる仕組みです。

どのチップでどれだけ発電しているのか。外部の検査会社に送る、サンプルの燃えやすさなどから推計されます。そのサンプルを改ざんする、不正を行っていたというのです。

内部告発した現役社員
「より高い売電単価を取りたいために、サンプリングに手を加えているのが実態。やっていた手法としては、こうやって霧吹きで水分を加えるとか」

男性は、価格の安いチップには検査に出す前に水をかけ、一方、価格の高いチップは日に当てるなどして乾かしていたといいます。

例えば、高いチップと安いチップによって生み出される発電量の割合が同じだったとします。

価格の安いチップに水をかけると燃えにくくなるため、割合が少なかったと見せかけることができます。

一方、価格の高いチップを乾燥させると燃えやすくなり、割合を大きく見せかけられるのです。

こうすることで、売電価格をつり上げていたといいます。社内では、サンプルの改ざんを隠語で呼んでいたといいます。

内部告発した現役社員
「社長から、じきじきの指示があって、『乾かせ』あとは『漬け物にしろ(水をかけろ)』、あとは『マジックハンドを使え』と言われました。『やばいんじゃないですか』と言いましたが、社長からは『やれよ』と。やったもん勝ちだろう的な感覚で言われましたし、従うほかなかった」

さらに取材を進めると、別の発電所でもサンプルの改ざんが行われていたという証言も、複数の社員から得られました。そのうちの1人です。6年ほど前、サンプルを天日干しにしているのを見たといいます。

現役社員
「ばーっと、こういうふうに乾かして。『何をしているの?』と聞いたら、『上からの指示で乾かせと言われているんだよ』と苦い顔をして言っていたので。公然の秘密というか、上からの指示が当たり前に通っていた」

社員は、国の仕組みには隙があると打ち明けました。検査会社に送るサンプルは、発電事業者みずからが選びます。そして、国のチェックは通常及ばないというのです。

現役社員
「制度的な問題があるんです。善意のもとにサンプルを採取するということを、前提としている。自分たちで、いかにでも売り上げを操作できてしまう。これくらいやっても大丈夫ということを、事業者に隙を見せてしまっている」

私たちに内部告発をした、現役社員です。みずからが行ったという改ざんの結果を、詳細に記録していました。発電量当たりの単価は、仕入れ時点の手を加えていないチップに比べて、およそ1円高くなっています。

男性が関わったとする年間の水増し額は、1億円以上。総額は4年間で、4億1,000万円以上だといいます。

内部告発した現役社員
「社会的にいいとしているバイオマス発電事業で、悪いことやっていることに後ろめたさを感じていました。年間1億円、ある意味、電気(代)を払っている全国民に詐欺を働いているのと等しいことだと思いますので、非常に残念な気持ち」

この企業は私たちの取材に対して、『去年、サンプルの加工を行ったという情報提供があり、調査委員会を設置した』と明らかにしました。

調査の結果、『情報提供者本人による加工は積極的には否定できないが、具体的な供述を得られず、事実を認めるには至らなかった』としました。

また、『社内で不正はないと判断し、経営陣による指示もなかった』としています。

男性は、「不正を行った」と国にも通報しています。資源エネルギー庁は、『仮に不正な事実が明らかになった場合には、法律に基づいて厳正に対処する』としています。

太陽光発電施設の急拡大の裏で…

再生可能エネルギーの中で、最も急速に拡大を続ける「太陽光発電」。ここでも制度に隙があることが分かってきました。

自然豊かな景観を誇る、山梨県・北杜市(ほくとし)。太陽光発電の施設が次々とでき、今や2,000を超えています。

住民の中には、慣れ親しんだ風景が急速に変わっていくことに不安を感じる人もいます。

弘田由美子さん
「北杜市の財産は山岳景観であり、非常に森林が豊かなんですよ。全く説明もなしに突然、木が切られて、それで住民の方が木を切っている人に聞きに行って、『ここ何になるんですか?』、そして『実は太陽光ができるんです』」

2014年までに国に認可された、この発電施設。フェンスには多数の看板が掲げられていました。発電容量は、それぞれ49.5キロワットと書かれています。

1つの大規模な発電施設に見えた、この施設。実は、10以上に分かれていたのです。その理由を、別の場所で太陽光発電事業を行う、経営者が明かしました。

太陽光発電事業を行う経営者
「50キロ未満と50キロ以上で、高圧・低圧とそこでラインが引かれます。設備費用とランニングコスト、その辺にかかるコストが変わります」

50キロワット以上の高圧の発電施設の場合、国家資格を持つ保安監督者を置くことなどが義務づけられています。さらに変電設備も事業者が設置し、保守管理しなければなりません。

50キロ未満に分割することで、こうした義務はなくなります。分割すると、事業者が支払うべき保守管理や設備のコストを電力会社に負担させることができるため、うまみがあるといいます。

太陽光発電事業を行う経営者
「発電所の大きさにもよりますけど、数千万円の違いがコスト的には出てきます。不動産と比べると、マンションを1つ買って家賃収入と太陽光の発電事業を比べた場合、まず空室リスクがない。20年間は電力会社が買い取っていただけるという国の指針がありますので、非常に利回りが出るというところです」

国は、2014年度から大規模発電施設を意図的に分割することを原則禁止しました。保守管理といった、安全対策が十分に行われないおそれがあるなどとしたからです。

しかし取材を進めると、その後も分割して設置されるケースが相次いでいることが分かってきました。

2017年以降に国に認定された、北杜市内の発電施設。登記簿を調べてみると、5つの区画に分かれていました。

元は同じ業者が土地を購入し、それぞれに転売。

さらに、その業者が太陽光施設を施工していたことが分かりました。

当時、こうした手法を明確に禁止する規定はありませんでしたが、意図的に分割したのではないか、業者に問いました。

「ここは分割に当たるのではないかと思うのですが、そういう認識は?」

土地を購入した業者
「ないですね。うちは故意に分譲案件をして、認定逃れをやろうなんて意識は全く必要ないです。当然うちの認識としては、認定が下りなければできないわけですから、認定が下りたってことは分割案件ではない」

国は、『意図的な分割に対し、審査を厳しくして対応に当たっている』としています。禁止したあとも、疑われるケースが相次いだからです。

昨年度、『申請のおよそ25%が、疑わしいケースとして個別に確認を行った』とNHKの取材に回答しています。

太陽光発電事業を行う、経営者です。1年間に認定される発電施設は、数十万件。膨大な申請があるため、見過ごされているケースが少なくないと証言します。

太陽光発電事業を行う経営者
「経済産業省の目を盗んでといいますか、チェック体制の甘さ、制度不備があるのは間違いないですね。書面上は住所の中で一文字当て字を使うだけで、違う物件に表面上見えたりするんですよね。規制、審査の甘さを利用している業者がいる」

弘田由美子さん
「いくら住民が言っても、どうしようもない。自治体に言っても、これは経済産業省の管轄だから自分たちでは判断できない。別に太陽光発電自体が悪いとは思ってないですけど、太陽光パネルを見ると本当に人間の欲望の塊に見えてしまって、地球温暖化とは全く別物になってるなと感じます」

"制度は性善説で作った…"

急速に拡大する、再エネビジネス。なぜ問題が相次ぐのか。

制度の導入が決まった10年前、経済産業大臣だった海江田万里氏です。

元・経済産業相 海江田万里氏
「できるだけ多くの人に参加してもらいたいと思うし、発電量もたくさん発電してもらいたいという思いはあった」

2011年に起きた、原発事故。電力の需給が厳しくなる中、国は再エネの普及を進めようと、制度の導入を急いでいました。

事故から5か月後、再エネを固定価格で買い取る制度を定めた法律が、全会一致で可決されました。海江田氏は、事業者の参入を促すことが最優先で規制が後回しになり、そのことが今も見直しきれていないといいます。

海江田万里氏
「性善説であることは確かです。あの時は性善説に基づいて仕組みを作らなければ、それは制度自体が作れなかった。かなり急いで作った法律だと。作ることに大きなウエイトを割いていたことを忘れずに、そのフォロー、改良をやっていかなければいけないと。どこまでこの問題に国会全体が、政府が向き合ってきたかということになると思うんですね」

「功と罪、両方あると思いますが、どちらが大きい?」

海江田万里氏
「これは難しい質問ですね。功罪、6:4ですかね」

エネルギーの専門家として、国の委員会で制度の見直しに長年関わってきた、山地憲治氏です。対策が後手後手になってきたと、苦渋の思いを打ち明けました。

国の委員を務める 山地憲治 東京大学名誉教授
「いろんな種類の違う多種多様な問題が、どんどん出てきた。そこに十分、機動的に対処できなかった。今ようやく、本腰を入れて対処し始めている。あとから法律が決まって運用してから穴が開いていたと対応するのは、非常に手間がかかる。その間に被害も大きくなる。そこが一番、悔やまれる」

制度にどんな問題が?

井上:国の制度に基づく、再エネビジネスの仕組みをまず見ていきます。発電事業者の申請を、国が認定。発電した電力は、固定価格で電力会社が買い取ります。その費用の大半は、「賦課金」という形で電気料金に上乗せされ、それは私たち消費者が負担をしています。取材に当たりました、社会部の岡本記者に聞きます。岡本さん、なぜこの制度のもとで問題が相次いでいるのでしょうか。

岡本基良記者(社会部):国はこれまで、問題が起きるたびに認定審査を厳しくするなどの対応を取ってきました。しかし、1年間に認定される件数、これは数十万件と膨大です。事前のチェックが、十分に行き渡っていないのではないかと思います。また、制度の根幹となる買い取り価格ですが、バイオマス発電のように細かく分類をされていまして、複雑な仕組みとなっているのです。そうした制度の隙をつく、不適切なケースがあることが今回取材で分かってきました。

保里:再生可能エネルギーの去年までの買い取り額を見てみますと、累計で太陽光はおよそ12.8兆円、風力はおよそ1.1兆円。バイオマスは1.8兆円などとなっていて、その総額は16兆円を超えています。

この大半は、再生可能エネルギーの普及のために私たちが広く負担している、賦課金で賄われています。それが一体どれくらいの負担かといいますと、電気料金のおよそ1割、今年度、一般家庭で1万円を超える見通しです。

岡本さん、再生可能エネルギーの普及に必要だと受け止めながらも、こうして問題が相次いでいる現状を目の当たりにしますと、疑問が生じてしまいますよね。

岡本:この賦課金というのは皆さん、どなたでも電気料金の明細を見れば確認することができますので、ぜひ一度、確認をしてみてください。
この賦課金というのは、かつて再生可能エネルギーのコストが高かったために、そのコストを国民が負担することで、普及を進めようと導入されたものなのです。広く国民が負担しているという意味では、税金と同じようなお金です。しかし、今回の取材では税金を使った公共事業などと比べると、チェックが甘いようにも感じられました。ルールを明確にするとともに、透明性を高めて多くの人たちが納得できるような制度であるべきだと思います。

井上:制度の問題を見てきましたが、今回の取材では、もう一つ課題も見えてきました。暮らしを支えるはずの再エネの施設で、災害が相次いでいます。

災害リスクが…太陽光発電急拡大の裏で

埼玉県・越生町(おごせまち)。山あいの急斜面に、太陽光発電施設があります。2年前、施設の建設中に、この場所で2度にわたり土砂災害が発生しました。

1度目は、巨大な岩が落下。さらに7か月後、台風19号の大雨により、がけ崩れが発生。住民たちが生活に使う道路が丸1週間、通行止めとなりました。落石防止などの対策工事は、まだ終わっていません。

住民
「全部、下手すれば崩れるんじゃないかな。台風のときが一番怖い。なんか吐きそう。こういう場所につくることは、ちょっとね」

太陽光発電施設での災害は、各地で相次いでいます。3年前の西日本豪雨では、11件の土砂災害が発生。

神戸市では、山陽新幹線が一時不通になりました。

災害リスクの高い場所に、太陽光発電施設は一体どのくらい設置されているのか。

NHKは専門家からのデータを基に、太陽光発電施設9,809か所を分析。その結果、土砂災害警戒区域と一部でも重なる場所に位置していたのは、843か所。このうち249か所は、特に危険性の高い土砂災害特別警戒区域と重なる場所にありました。

国の法律では一部の例外を除き、土砂災害のリスクがある区域であっても設置は禁じられていないのです。太陽光発電が急速に拡大する中、高まる災害リスク。専門家は安全性が確保されているか、早急に把握する必要があると指摘します。

山梨大学大学院 土木環境工学 鈴木猛康教授
「まずは安全を確保してから、次にエネルギー問題とかに対処する姿勢だと思う。これだけ災害が多発しているから、(法規制の)守備範囲を広げないといけないのは自明の理。ここを怠ってきたのが、国の責任。(リスクに関する)全国のデータをちゃんと集積するような仕組みを作って、危険なところが出てきたならば、そこに対処するんだという方針を作るべき」

脱炭素社会を目指すために何が必要か

保里:土砂災害のリスクのある場所になぜ、これまでたくさんの施設がこうして造られてきてしまったのでしょうか。

岡本:山が多い日本では、災害リスクのある場所であっても、必ずしも立地をすべて規制できるわけではないのです。その上で、斜面というところは土地価格が比較的安く、また日当たりがいいために多くの施設ができてしまっているのです。

保里:そうしたことを踏まえて、これからどういった対策が必要となりますか。

岡本:中には、災害対策を取っている発電施設もあります。一方で、国も新たに土砂災害対策の基準を設けるなど、対策に乗り出しています。また、自治体の中には住民の不安の声を受けて、立地を規制する動きが今、広がっています。

岡本:はい。規制する条例を制定したのは3つの県と、146の市町村で、今後さらに増えるものと見られます。条例の内容は自治体ごとに異なるのですが、建設を禁止する区域を設けたり、設置する際に届け出や許可を求めたりする内容になっています。

井上:地球温暖化対策として欠かせないのが再エネになるわけですが、日本はどのように進んでいけばいいのでしょうか。国の委員も務める専門家は、長期的な視点が重要と指摘します。

国の委員を務める 松村敏弘 東京大学教授
「2050年にどんな社会を実現するのか。そのために2030年はどうあるのがもっとも低コストでサステイナブルな社会を築けるのか、ということを優先し、2030年の時点でむやみに増やすことだけを優先する制度設計はしてはいけない。コストを抑えていく、効率性を高めるということが、何よりも大切なことだと思います」

保里:計画的な制度設計が必要だという、ご指摘です。岡本さんは取材をしてきて、何が大切になると感じていますか。

岡本:来年度、国は不適切な事業者の参入を抑えるなど、制度の大きな見直しを行うのですが、今も現場にはかつての負の遺産が残り続けています。取材を通じて感じた大事なポイントというのは、3つあります。
1つは、国が事業者のチェック体制を強化して、住民の合意や理解を重視した制度を設けることです。そして、事業者がモラルのある形で再エネの導入を進めること。さらに、費用を負担している私たち消費者が、関心を持ち続けることが大事だと思っています。

脱炭素社会に向けて社会が大きく踏み出した今、再生可能エネルギーの在り方をもう一度立ち止まって、社会全体で考え直す必要があるのではないでしょうか。

井上:再エネの比重がこれから増えていく中で、持続できるだけでなくて納得できる制度、関心高く見ていかないといけないですね。