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2021年4月27日(火)

与野党激突
“菅政権への審判”の裏側で何が

与野党激突 “菅政権への審判”の裏側で何が

衆議院選挙の「前哨戦」として与野党が総力をあげる3つの国政選挙。中でも注目は、異例の大型買収事件を受けて再選挙となった参議院広島選挙区の戦いだ。「信頼回復」を掲げる自民党に対し、「結集」を掲げて野党共闘の試金石としたい立憲民主党。菅内閣発足後初めての国政選挙に有権者が下す審判は。そして各党は秋までに行われる衆議院選挙にどう臨むのか。今後の政治の行方を展望する。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから

出演者

  • NHK記者
  • 井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

衆院選"前哨戦"の舞台裏 政権与党に逆風 何があったのか

再選挙となった、参議院広島選挙区。前回の衆議院選挙では、7選挙区中、6つを自民党が占めるなど、保守王国として知られています。

再選挙のきっかけとなったのは、おととしの参議院選挙を巡る、前例のない巨額買収事件です。党本部が主導して、河井案里氏を擁立。陣営に1億5,000万円が振り込まれるなど、党を挙げた支援が行われました。

この事件で河井夫妻から金銭を受け取っていた議員は、今回の選挙で活動できずにいました。藤田博之広島市議会議員です。河井克行元法務大臣から、70万円を受け取った買収事件の当事者です。

自民党 藤田博之広島市議
「国会議員が陣中見舞いをもってくりゃあ、『こんなもんはいるかい』と投げ返すわけに普通の付き合いだったらできないですね。偉い人に逆らうのは大変ですよ。どこでさじ加減、消されるやらわかりませんから」

これまで自民党の票集めを支えてきた地方議員が動けないことで、保守王国の強さを発揮できないジレンマに陥っていました。

藤田博之広島市議
「私も政治を始めて54年になりますが、(選挙活動に関わらないのは)初めての経験ですよ。渦中といえば、渦中の人物じゃから」

自民党で選挙の陣頭指揮を執ったのは、広島県連会長の岸田文雄氏でした。みずからが立候補に意欲を示す自民党総裁選挙に向けて、この再選挙で負けるわけにはいかないと危機感を持って臨んでいました。

自民党 岸田文雄広島県連会長
「この選挙は勝たなければならない。広島の政治の出直し、イコール、私のこれからにも大きく影響してくる選挙になっていくのではないか」

この日、岸田県連会長が訪ねたのは、長年自民党を支持してきた建設会社です。

岸田文雄広島県連会長
「この2年間、私たち自民党のありようを考えますと、ずいぶんおかしなことがいっぱいありました。自民党のありようを、いろいろ変えていかなければいけない。こういった選挙だと思います」

ところが、自民党の支持層にも不満がくすぶっていました。

中国電設工業 石川孟範代表取締役会長
「これは『桜を見る会』に行って毎年行ったときに、『ちょっとくださいや』って言って、一緒にもらったんや」

この建設会社の会長・石川孟範さんです。およそ40年にわたり、自民党を支援してきました。

「今の自民党は、この『至誠』という言葉どおりになっていますか?」

石川孟範代表取締役会長
「なっとらんでしょう。国民は信頼できないよね、本当」

会社の幹部たちが口々に語ったのは、政治とカネの問題に対する不信感でした。

社長
「また再選挙するって、本当に国民の税金の無駄遣いになっているという思いが強いんで」

石川孟範代表取締役会長
「ぶちまけて話をすれば憎しと」

専務
「本当に広島だけの問題なのか。何しよるんやと。自民党はもっとしっかりせえやと」

さらに、各地から応援に駆けつけた議員たちが感じていたのは、コロナ対策への不満でした。岸田派の若手、武井俊輔衆議院議員が訪ねたのは、観光業界の団体。

「コロナが始まって1年たつ中で、もう少し上手にできないのかなっていうのは。本当にスピードをもってやっていただきたい」

「広島の状況、ホテル旅館の状況、ほかの農業、畜産業、漁業とかだいぶ疲弊していると」

「政治とやはり国民の距離感、すごくかけ離れているなと感じましたので」

自民党 武井俊輔衆議院議員
「経済を回していかないといけない。回していくということは、感染症対策と並行して、やっていかなければいけない。われわれは結果でお返しするしかないので、そういう思いで取り組んでいきたいと思います」


武井俊輔衆議院議員
「政治不信といいますか、今まで応援してくださっていた方が、政治に対するあきらめみたいなものにつながっていないか、そういう危惧を持ちました。なかなか厳しいなと改めて実感しました」

一方、連立政権の一翼を担う公明党は、持ち前の強みを発揮できない事態に直面していました。選挙戦の指揮を執る、斉藤鉄夫副代表です。

この日行われた、地元議員との情勢会議。コロナ禍で公明党が得意としてきた、対面での支持を呼びかける活動が、ままならないという報告がありました。

「私は西区内をいま回ってるんですけれども、浸透ができていないと」

「会う機会がないので、人柄というか、誠実さがなかなか伝わりにくい」

「会う回数をどれだけ増やすかだと思います」

さらに、自民党への風当たりの強さから、公明党の存在意義について支持者から厳しい意見が相次ぎました。

「政治に対する嫌悪感と、あきらめ感がかなりあります。怒りを公明党から自民党にぶつけていただければ」

「自民党の政策に対して、色々とストップをかける役割とか。今後ともその立場を貫いていただきたいなと」

知名度の高い山口那津男代表が、いち早く広島に入り、足元の公明党支持層を固めようとしていました。

公明党 山口那津男代表
「早くワクチンが皆さんのもとに届くようにして、コロナを乗り越えてまいりたいと思います。やっぱり自公政権でなければだめだ。お一人お一人とお会いしてお願いする。そういう状況も限りがあります。どうぞ皆さん、勝たせてください」

菅総理大臣が就任する前は、頻繁に連絡を取り合っていた斉藤副代表。

この日、政策提言のために、久しぶりに総理大臣官邸を訪れました。10分余りの会談。話は選挙戦にも及びました。

「菅さんの反応はいかがでしたか」

公明党 斉藤鉄夫副代表
「大変お元気でした。実は、申し入れの最後に広島の再選挙のことも話題に出まして、自公でしっかり団結して、この再選挙を勝っていこうと」

菅政権発足から7か月。斉藤副代表は、以前に比べて官邸と緊密な連携が取りにくくなっていることを懸念していました。

斉藤鉄夫副代表
「入るべき情報が入っていないのかなと、思うこともありました。そういう中で本当に必要な情報、総理に耳の痛い情報が入らなくなって、そのことが総理の判断を鈍らせてしまう。私もできるだけ現場の情報、公明党の考え方を逐一報告したいなと、きょう改めて思ったとこです」

終盤になっても、報道各社で自民党候補の厳しい情勢が伝えられていました。地元広島県連は、河井夫妻から金銭を受け取り、選挙活動への関わりを控えていた地方議員に、協力を求めざるをえない状況に追い込まれていました。

自民党広島県連幹部
「河井氏から金銭を受領していた議員にも、水面下で頑張ってもらうようお願いをする。指示ではなく、あくまでも『あうんの呼吸』だ」

「残り1週間、党本部として、どう戦っていかれますでしょうか」

自民党 二階俊博幹事長
「選挙は最後まで、プロ野球でもそうですけど、ヘッドスライディングのつもりで、最後の最後まで戦っていかなきゃならんことですから」

「幹事長であったり、総裁であったり、広島入りというのは未定ということですか」

二階俊博幹事長
「地元の受け止めいかんによって、対応していきたいと思います」

結局、菅総理と二階幹事長が、広島に入ることはありませんでした。

衆院選"前哨戦"の舞台裏  野党共闘はどこまで?

対する野党。今回の選挙で問われたのは、野党共闘がどこまで進められるかでした。候補者を一本化し、立憲民主党、国民民主党、社民党が推薦。共産党は自主的に支援しました。選対本部長を務めたのは、地元選出の立憲民主党の、森本真治参議院議員です。

立憲民主党 森本真治参議院議員
「結集ひろしま、広島モデルとわれわれは思っていますけども。さまざまな考え方の違い等も、いま出てきている中で選挙戦に突入している」

どこまで結集が図れているのか。この日、立憲民主党の小沢一郎衆議院議員が、野党候補の事務所を訪れました。今回の選挙は、次の衆議院選挙に向けて、野党が幅広く結集できるかどうかの試金石になると、げきを飛ばしました。

立憲民主党 小沢一郎衆議院議員
「社民党や共産党も含めてですが、その根本の基本のところでは違いはありません」

支持者
「野党が1つになるようにお願いします」

小沢一郎衆議院議員
「ごたごた言ってないで、一緒になろう。一緒になれば負けないんだから。絶対勝つんだから」

課題となったのは、共産党との連携をどこまで進めるかでした。立憲民主党の最大の支持団体・連合が、目指すべき国家像が違うなどとして否定的な態度を示していたからです。

連合 神津里季生会長
「私どもは歴史的な経過もありますし、選挙において共産党を応援することはありえない」

選対本部長の森本議員も、連合広島の責任者と面会。

森本真治参議院議員
「連合の皆さまにも本当にご協力いただいて、ありがとうございます」

連合広島 久光博智会長
「しっかりとみんなで意思統一を図りながら、リスクも含めて共有化しながら、より効果的な取り組みができるように」

1時間におよぶ会談で森本議員は、野党連携の具体的な進め方について説明に追われました。

森本真治参議院議員
「ことばでは『野党統一候補』というのは簡単なんですけれども。野党がどう連携をしていくのか、できるところ、できないところというのが、まだまだやっぱり一歩ずつだと思う」

自主的な支援にとどまっていた共産党。選挙戦も最終盤になって、志位和夫委員長が広島に入りました。野党候補を支援する市民団体の集会で、候補への支援を改めて表明した上で、さらなる連携の必要性を訴えました。

共産党 志位和夫委員長
「違いは違いとして、お互いに尊重して、共闘の体制を作って政権交代を実現して、新しい政権を作る。そのために頑張りぬきたい」

しかしこの日、志位委員長が野党候補と一緒に並ぶことはありませんでした。

「いまの現状は、本気の共闘になっているか?」

志位和夫委員長
「一歩一歩、前進していると。必ずそういう方向にいくようにしたいと思っています」

今回の選挙戦でもう一つ課題となったのは、野党が政権の受け皿になれるのかということでした。この日、森本議員の事務所に集まった長年の支援者たちからは、厳しい声が相次ぎました。

支持者
「政治には腹が立つけどね。実際に野党が今度(政権に)乗りかわってというのを、皆がそこまで(期待を)持っているかというと、ちょっとね」

支持者
「たしかにね、弱いよ、野党もね。情けないよね、(国会中継を)見ていて。あまりにも目先のことばかり追いかけて」

森本真治参議院議員
「本当に力をつけないといけないなと。やっぱり政策もしっかり、もっともっと磨いていかなければいけないなと、いろいろご意見を伺うと思いますね。まだまだ努力、必要だなと」

衆院選"前哨戦"の舞台裏 下された審判 「次」への課題は?

そして迎えた、25日の投票日。結果は、3万4,000票差で野党候補が激戦を制しました。

立憲民主党 森本真治参議院議員
「これまでの歴史、政策理念を整理しない中で、一つでやっていくということについては、一方では野合ではないかとか、様々な批判もあると思います。自民党政治について、われわれの新しい政治を作りたいという思いはありますので、やっぱりそういう大義の中で、どう皆が一つになっていけるかという、そういう努力はしっかりやっていく必要があるかなと」

NHKの出口調査では、自民党は支持層を固めきれず、20%を超える人が野党候補に流れていました。

また無党派層でも、自民党候補への支持は20%余りにとどまりました。

26日、岸田県連会長は、有権者の自民党に対する視線は想像以上に厳しかったと率直に認めました。

自民党 岸田文雄広島県連会長
「政治とカネの問題。特に大きな敗因だったと思っていますが、それ以外にもコロナ対策に対する不満、さらには、いまの政権与党に対する不満、こういったものもあった。これが現実であったと。今後も選挙のたびに、こういった怒りが爆発する。こうしたことは十分考えられるわけですから、この問題について真剣に向き合い、基本的な姿勢として自民党があるべき姿を示していく努力、いっそう強めていかなればいけない」

衆院選"前哨戦" "自民党全敗"の波紋 与野党は?

井上:今回お伝えするのは、「自民党全敗の波紋、今後の政権運営は」。「解散総選挙はどうなる」。そして、「山積する課題に政治は」。政治部の徳丸記者とお伝えしていきます。

保里:徳丸さん、自民党全敗という選挙結果となりました。これを受けていま、与野党はどう動いている状況なのでしょうか。

徳丸政嗣記者(政治部):全敗した自民党からは、今回選挙ごとに政治とカネ、それから弔い選挙といった、いずれも個別の事情があったとして、政権運営に直接的な影響はないという見方が大勢です。しかし、若手議員の一部からは、"このまま衆議院選挙を戦えるのか不安だ"という危機感も示されています。党執行部は、"これを機会に次の衆議院選挙に向けて引き締めを図っていきたい"としてます。一方、全勝した野党ですが、候補者の一本化が効果を上げたと評価しています。立憲民主党の枝野代表は早速、27日に共産党、国民民主党と個別に党首会談を行いました。この中で次の衆議院選挙に向けて、選挙協力の協議を加速させる方針を確認しました。

保里:今後、政治の重要日程がめじろ押しとなっています。7月には、東京都議選。その後、東京オリンピック・パラリンピックの開催。9月末には、菅総理大臣の自民党総裁としての任期が満了。そして、10月に衆議院議員の任期満了を迎えて、秋までに衆議院選挙が行われます。

井上:今回の選挙結果を受けて、各党は次の衆議院選挙に向けてどう動くのでしょうか。各党の幹部の声です。

衆院選"前哨戦" 解散総選挙は?各党はどう動く

自民党 二階幹事長
「(政権運営への)影響はないとは言えませんが、この選挙の結果はこの選挙の結果として大いに反省しながら、ぞれぞれの地域においてしっかり頑張って、総選挙においては必ず勝利しうるように頑張りたい」

公明党 山口代表
「与党に対する厳しい審判だと受け止めることが、重要だと思います。当面のこのコロナの対策について、しっかり行っていく。着実に結果を出していくという、真摯(しんし)な取り組みがまず重要だと」

立憲民主党 枝野代表
「政権与党と1対1の構図を作っていくことが重要であるということは、今回の選挙でも明らかになったと思いますが。(野党共闘は)それぞれの経緯、立場を互いにしっかりと理解し合いながら、出来ることを最大限やっていくと」

日本維新の会 馬場幹事長
「選挙の時が、われわれの考え方を有権者の皆さまにご理解をいただく絶好のチャンスだと。日本の新しい形を国民の皆さまに投げかけていく、問いかけていく、総選挙に向けて盛り上げていきたい」

共産党 小池書記局長
「衆議院選挙、総選挙での選挙協力のあり方について、急いで野党間協議を進めていきたい。政策的な一致、同時に相互支援、対等平等な関係で、お互い本気の共闘をやっていく」

国民民主党 榛葉幹事長
「国民の皆さんに、この政党がどういう国家像を持っているかということを示していくのも大事だと思いますので、選挙で勝つためにどういう枠組みだけでなく、それぞれがどういう政策を持っているか。しっかり脇を締めて、次の衆議院総選挙に臨んでいくと」

衆院選"前哨戦" 山積する課題に政治は

井上:そのほか、社民党はジェンダーの平等や、暮らしと人権を守る政治の実現を掲げ、1人でも多くの候補者の当選を目指したいとしています。
れいわ新選組は、大胆な財政出動や消費減税などを通じて、厳しい状況にある人の支援を強化すると訴え、党勢の拡大を図るとしています。
NHK受信料を支払わない方法を教える党は、NHKのスクランブル放送の実現などを目指し、比例代表を中心に戦うとしています。

保里:徳丸さん、敗れた政権与党・菅総理大臣の今後の政権運営、そして解散戦略はどうなっていきそうですか。

徳丸:自民党内では、今回の選挙結果に加えて新型コロナの感染状況を考えますと、衆議院の解散総選挙は、東京オリンピック・パラリンピック後の9月以降になる可能性が高まったという見方が出ています。
与党内には、これまでの新型コロナ対策に対する国民の不満が高まったことが今回の敗因の1つになったという指摘もあり、感染対策の切り札と位置づけているワクチン接種を急ぐなどして、立て直しを図っていきたいという考えです。
一方で、菅総理大臣はこれまで野党が内閣不信任決議案を提出すれば、衆議院を解散する大義となるという認識も示しています。
菅総理大臣は、感染状況とともに野党側の出方も見極めながら、解散時期を探っていくことになると思います。

保里:野党は、今回は候補者を一本化することで全勝したわけですが、課題は多いわけですよね。次の衆議院選挙でも、同じような戦いができそうでしょうか。

徳丸:簡単にいくとは言いきれません。共産党への抵抗感というのは、広島に限らず3つの選挙に共通して見られたことです。立憲民主党からは、「共産党と一定の距離をおいたことで保守票も取り込み、勝利ができた」ということばも聞こえています。
立憲民主党は、70近い選挙区で候補者が競合している共産党とできるかぎり候補者を一本化したいとして、協力を呼びかけていく方針です。
これに対して共産党は、「協力には政策の一致が必要だ」と主張しているほか、今回の選挙での立憲民主党の対応について「リスペクトが欠けている」と不満を募らせています。
今後、野党間で強力な協議が本格化していくことになりますが、どこまで踏み込んだ共闘態勢が構築できるかが焦点となります。

井上:国民と政治の距離が、離れているという声もありました。コロナが長引く中で国民の生活に影響が深まっているということで、与野党はこれからどう対応しようとして、どんなことがポイントになりますか。

徳丸:新型コロナの感染状況がどうなっていくのか、この1点に尽きると言えます。菅政権は、感染状況が政権の支持率と連動してきた傾向があります。
菅政権として、ことばどおり7月末までを念頭に高齢者のワクチン接種を終えられるのか、また東京オリンピック・パラリンピックの開催できるのかなど、感染収束に向けて目に見える成果が上げられるかが問われます。
対応する野党側ですが、政府の対応を厳しくチェックするだけでなく、対策が行き届いてないところにも目を配って政策改善策を提言して、政権担当能力を示せるかが課題となります。

井上:いずれにしても待ったなしの状況で、やはり国民の声を真ん中に置いた政治を強く望みたいと思います。

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