クローズアップ現代

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2021年4月14日(水)
ダルビッシュ投手が!青学陸上部が! 能力伸ばす“オープン・シェア革命”

ダルビッシュ投手が!青学陸上部が!
能力伸ばす“オープン・シェア革命”

34歳で進化を続けるダルビッシュ有投手。箱根駅伝で“常勝軍団”に成長を遂げた青山学院大学陸上競技部。背景にあるのは、データの“オープン・シェア革命”。武器である変化球の投げ方や長距離に特化したトレーニング方法を惜しげもなく一般公開。そこから多くの選手が技術を学び、さらに進化した技術を学ぶという“成長の好循環”が生まれているのだ。また横浜DeNAでは、元選手中心だった人材登用を“オープン化”し、統計学やAIの専門家などを積極活用、選手強化に乗り出している。いかに個人や組織の能力を伸ばすか。企業の管理職や子育て中の親にもヒントとなる“スポーツ界の革命”を深掘りする。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから

出演者

  • 原晋さん (青山学院大学 陸上競技部 監督)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

能力伸ばす"オープン・シェア革命" 変化球の極意公開!ダルビッシュ投手

去年のシーズン開幕直前、ダルビッシュ投手は自身のSNSで新しい変化球を公表しました。名前は「スプリーム」。ストレートに近い球速で、右方向へ曲がりながら落ちる球です。映像だけでなく、変化の大きさやボールの回転数までも具体的な数値で明かしました。

アメリカの野球専門番組は、すぐに特集。ダルビッシュ投手がすべてをオープンにしたことで、誰でもまねできるようになり、一気に広まりました。

ダルビッシュ有投手
「一種の表現なので、変化球というのは。セットポジションから動き出すそのタイミングから、キャッチャーのグローブに収まるまでが一つの変化球。一つのアート。ピッチャーとして世界一になるというよりも、自分は変化球が好きだから自分が思い描く変化球を表現することが一番の喜びなんです」

ダルビッシュ投手のオープン化を支えているのが、近年登場した計測機器です。

ダルビッシュ有投手
「こんな機械なんですけど。見たことあると思うんですけど、ここにカメラがあって、全部自分が投げている球が見える化されて」

この機械にはボールの軌道を追うレーダーと、縫い目の動きを読み取る高性能カメラがついています。解析されたデータは、すぐにモニターに表示されます。球速やボールの回転数。回転の軸と方向。変化の大きさや軌道などが分かります。

客観的なデータとなったことで、共有するのが難しかった「感覚」がシェアできるようになったのです。

ダルビッシュ有投手
「こういうミスをしたらこういう回転軸になるとかがどんどんわかってきて、それでメモをし続けて、自分が投げている球がなんとなくイメージしやすくなって、さらにいろんな球を投げられるようになった。ちゃんとした正解があるので絶対、変化球って。誰かが投げられているという事は、自分でも同じような体の動きをしたり、ボールのどこに、どういうふうな形で力を与えるか、どういうふうに出してくるかということをわかれば、それは誰だって投げられる球なので。そこをより言語化して、具体的にして、すべての球がすべての投手に投げられるようになるのが僕の夢」

メジャーリーグで起きているオープン・シェア革命を加速させたのが、トレバー・バウアー投手です。

トレバー・バウアー投手
「僕はダルビッシュの大ファンなんだ。彼がメジャーデビューした年、変化球の映像を見て、まねしたいと思った」

去年、メジャーナンバーワン投手に贈られるサイ・ヤング賞を受賞。ほかのピッチャーの得意な球をまねすることで、力をつけました。バウアー投手が編み出したのが、ボールのデータとハイスピードカメラの映像を照らし合わせる練習方法。「ピッチデザイン」です。

2017年オフ、バウアー投手はピッチデザインを使って、チームメートの決め球をコピーしました。目をつけたのが、当時チームのエースだった、クルーバー投手のスライダーです。横に大きく曲がる球が相手バッターを封じ込めていました。ピッチデザインをする前は、横の変化量に大きな差がありました。

バウアー投手は、ハイスピードカメラの映像を見ながら手首の角度や握りを変え、一球ごとにデータを確かめました。投げた球は、およそ5000球。ピッチデザイン後の軌道は、クルーバー投手とほぼ同じになりました。僅か3か月で、ほぼ完璧にコピーしてみせたのです。

ところが、それで終わりません。バウアー投手は、このピッチデザインを他人とシェアしました。そのほうが自分の成長につながると考えたからです。

トレバー・バウアー投手
「共有しなければ、他人からフィードバックがもらえない。『こうじゃないのか?』という指摘や、『こうやってみたら?』という提案も得られない。共有をやめたら学ぶスピードが落ちる。それは損だと思う」

互いに技術をオープンにし、シェアすることで全体を高め合うオープン・シェア革命。そもそもこの流れのきっかけを作ったのは、メジャーリーグ機構。試合中のボールや、選手の動きのデータをすべてオープンにしたことでした。

バッターはすくい上げる打ち方で、ホームランが激増。打球速度158キロ以上で角度30度前後に打てばホームランになると分かり、多くのバッターがこのゾーンを狙い始めました。

すると、リーグ全体のホームラン数が史上初めて6000本を突破。「フライボール革命」と呼ばれています。

一方ピッチャーは、ボールの回転数や回転の質を上げるトレーニングの情報をシェア。浮き上がるようなストレートが投げられるようになり、メジャー全体の平均球速がついに150キロを突破しました。

大谷翔平選手も、この流れに乗って進化を続けています。3年前はメジャーリーグの平均レベルだったストレートが6.5センチ、およそボール1つ分浮き上がるようになりました。

これには、データ分析の専門家も驚いています。

MLB公式アナリスト デビッド・アドラーさん
「大谷のストレート回転数は、以前より約300回転増えています。これはすごいことです。回転数が増えればボールは浮き上がります。こんな球をコンスタントに投げられれば、三振の数も増える。期待しています」

能力伸ばす"オープン・シェア革命" 箱根駅伝 記録更新相次ぐ裏で

近年、記録更新が相次ぐ箱根駅伝。その背景にオープン・シェア革命があると考えているのが、青山学院大学・原晋監督です。

6年前、青学を初優勝に導いたその年。原監督は、チーム強化の土台である独自のメソッドを惜しげもなく公開しました。それは、走りに特化した体幹トレーニング。長い距離を、けがすることなく走り込む練習が可能となる極意でした。

保里
「本当にオープンにしていいの、それで追随されちゃうんじゃないの、どうしても思ってしまうのですが…」

青山学院大学 陸上競技部 原晋監督
「冷静に振り返ってみると、しらっとやっていたほうが、もっと箱根駅伝で勝てたかもしれない。いつの間にか他のチームが強くなってきたと感じる部分が正直あります。ある程度の勝利の方程式を作って、そこに自分だけがノウハウをもってやれば、確かに勝ち続けることができたのかもわからない。結果として業界の発展もないし、自分自身の監督としてのスキルアップもできてこないと感じたんです。今までは自分の感覚でやっていたものが、かみ砕いて論文化させている。それをきちっと形にしている、発信することによって、自分の頭脳と技術力がイコールになってさらに自分に磨きがかかる」

保里
「『公共の知』になりますもんね」

原晋監督
「結果として陸上界いま、楽しい雰囲気、醸し出していると思う。マラソン、5,000メートル、1万メートル、トラック競技、記録がどんどん伸びている。回りまわって青山学院に優秀な人材が入ってきたことは、結果として私がやってきたことは間違いじゃなかった」

"オープン・シェア革命" 個人も組織も能力伸ばす

井上:全体のレベルアップを図る、オープン・シェア革命。オープンにしているのはデータだけではありません。ほかの業種の知恵を取り入れる、人材のオープン化も進んでいます。さらに、若者のやる気を引き出す育成術についてもお伝えします。

保里:青学陸上部の原監督は、ライバルとの高め合いによって陸上界全体のレベルが上がって魅力が増す。そのことによって、サッカーや野球などで将来を有望視された才能が次々と陸上界に入ってきて、またさらにレベルが上がる。そうした好循環が生まれているんだと話していました。

井上:メジャーリーグではデータをオープンにしたことで、思わぬところから新しいアイデアが次々と生まれています。先ほどご紹介した、フライボール革命。実は考案者の1人は元バーのオーナーで、野球マニアのシェンクさんです。

ホームランの世界記録保持者(1シーズン73本)、バリー・ボンズの打法を趣味で分析しました。バットを下から上にすくい上げる打ち方の利点を発信して、フライボール革命につながりました。

保里:がらっと変わりまして、今度は検察で犯罪歴を調べるデータベースを作っていたという、ウィリアムさんです。

膨大なデータを見やすくまとめてきた経験を生かして、メジャーのあらゆるプレーのデータを閲覧できるサイトを作成しました。それによって、すべての投手がどこにどんな球を投げたのか。さらにホームランバッターの全ホームランの軌道に至るまで、誰でも簡単に調べることができるようになったのです。

井上:すごい時代です。こうした外部の知見を取り入れる動き。日本球界でも始まっています。

能力伸ばす"オープン・シェア革命" 統計学・AI専門家らがプロ野球に

横浜DeNAべイスターズのチーム戦略部長・壁谷周介さんです。大手電機メーカーやコンサルティング会社を経て9年前、球団に加わりました。新しい発想で、チームを優勝へ導くことを期待されています。

横浜DeNAべイスターズ チーム戦略部長 壁谷周介さん
「今、テクノロジーの進化によって、いろんなデータが取れるようになりました。データサイエンス、バイオメカニクス(動作分析)であったり、元プロ野球選手の視点であったり、いろんな視点を加えることによって、そのデータをより生かせる」

プロ野球界ではこれまで、チームスタッフは元選手で構成するのが一般的でした。しかし、ベイスターズは人材の門戸をオープンにして、野球界の外の力を取り入れています。

壁谷さんが立ち上げた、データ戦略に関わるメンバーです。データ分析の専門家や、動作解析の研究者、AIを使ったシステムのエンジニアなど。

多くが野球界の外から集まりました。それぞれの専門性を生かし、選手の強化に貢献しています。

先発投手陣の柱を担う、大貫晋一投手。今シーズン、初登板で7回1失点と好投。活躍の裏に、プロジェクトの力がありました。キーマンとなったのは、元銀行員で統計学が専門の吉川健一さん。スキルを生かし、大貫投手が去年投げた1600球すべての成果を分析。見えてきたのは、大貫投手の弱点でした。

横浜DeNAべイスターズ R&Dグループ リーダー 吉川健一さん
「大貫選手が投げた1球ごとのボールに対して、どのくらい価値があったのかを算出してみた。大貫選手のスライダーが、全体的に(価値が)低いんじゃないかと。1球単位で見ると出てきたので」

2月。吉川さんは、大貫投手の練習にハイスピードカメラと計測機器を持ち込みました。ボールの握りや手の角度を調整してもらい、1球ごとにデータをシェアします。ボールの回転軸や回転数を伝え、横に曲がるボールを目指しました。

すると、その効果が試合で表れます。大貫投手のスライダーは、空振り率が15%アップ。投球全体に占める割合も増え、価値あるボールに進化していたのです。

吉川健一さん
「選手の感覚と、われわれの分析がマッチしたのかなと。現場で起こっていることに対して、いち早く分析できるのかというところが、実のある分析につながる」

専門家たちの分析結果は、定期的に行われるグループ会議で選手やコーチにシェアされます。この日は、動作解析の専門家が計測データをもとに、球速が上がる投げ方をアドバイスしました。

大貫晋一投手
「(球速を上げるために)腰の回転速度を上げるにはどうすればいい?」

動作解析の専門家
「並進直後の回転の始まりのところが長いので、ここの分が並進に出てくると、腰の回転速度自体は上がると思います」

横浜DeNAべイスターズ 動作解析担当 八木快さん
「彼らが伸びていく。そこが一番、面白みがあるところだと思います。ぼくとしては、使命感を持ってやっている」

大貫晋一投手
「アナリストの方がうまく、くみ取ってくれるというか。すごく分かりやすく、かみ砕いて伝えてくれるので、つかんだなという感覚があるので本当に面白い」

能力伸ばす"オープン・シェア革命"

保里:スポーツ界で進むオープン・シェア革命ですが、実は若手社員の育成に悩む管理職の皆さんや、子育て中の親御さんのヒントにもなるのです。ポイントは、情報の見える化でやる気を引き出すことです。

能力伸ばす"オープン・シェア革命" やる気引き出す 新育成術

広島県の山あいに、練習時間が僅か50分ながらプロ野球選手を輩出した高校があります。私立武田高校です。

「うまくなる一日にしましょう」

行っているのは、ノックなど野球の練習ではなく、基礎体力を上げるトレーニング。体を鍛え基準をクリアするようになれば、必ず140キロの球を投げられるようになるといいます。

それが、140キロライン。監督と専門家が100人以上の選手データを分析し、必要な筋力や身体能力を20項目に分けて明示したものです。

例えば、ベンチプレスは80キロの重さを10回上げるが目標。体のばねを鍛えるボックスジャンプでは、110センチの箱に10回飛び乗ることが求められます。

「よし、5個更新した」

選手のデータは、全員が共有。目の前に明確な目標を提示することが、ねらいです。

武田高校 野球部 岡嵜雄介監督
「弱点が分かったりとかするし」

この指導法を編み出した、岡嵜雄介監督です。背景には、これまでの高校野球の指導に対する疑問がありました。監督の経験や感覚で練習が決められ、指導でも理由や目的が説明されないことが多かったといいます。

岡嵜雄介監督
「自分が現役の時は、なぜやっているのか疑問を持つ余裕さえもなかった。『もう少し頑張れ』と言われても、何をもう少し頑張ればいいかわからない」

そこで武田高校で目指したのは、課題と成果の見える化。納得して練習に取り組ませることで、やる気を引き出そうとしたのです。

岡嵜雄介監督
「指導者と選手が、同じように数字に向かってやっていくイメージ。現在地が分かるというので、ものすごくモチベーションにつながるんじゃないか」

重要なのは、データをオープン化すると、選手自身が解決策を考えるようになることです。

2年生の内野海斗くん。入部して10か月。なかなか、140キロの壁を打ち破れずにいました。課題とされたのは、上半身の筋力不足。ベンチプレスの数値が、140キロラインを大幅に下回っていました。

内野海斗くん
「140キロラインから離れているのはベンチプレスで、そこが自分の今、一番の課題でもあるので、そこの数値を上げていかないと、それより先はつながっていかない」

内野君がまず行ったのは、夜間の自主練の多くをベンチプレスに充てること。さらに筋肉がつきやすくするため、みずから食事も見直しました。

「なんのサプリメントですか?」

内野海斗くん
「消化酵素です。消化を助けて、吸収をよくするサプリメントです」

内野海斗くん
「自分の動きを見る機会が増えたことによって、考えることも増えたので良いことかな」

取り組みを始めて2か月。上半身の筋力が強化され、球速は140キロを超えました。

さらに岡嵜監督は、チーム全体のやる気を引き出すため、指導者の本音まで共有することに踏み出しました。監督とコーチのミーティングの音声を、SNSを通じて選手に公開したのです。

「ちょっと変える?メンバー」

メンバーの選考をトップダウンで決めるのではなく、過程を選手と共有。評価をガラス張りにしました。

「C(3軍)どうですか?頑張ってる子は」

「石田を(2軍に)上げてもいいかな」

「バッティングを見ていると違うね」

「そうですね。ウェイトとかも(頭ひとつ)抜けている感じ」

競争意識と納得感が高まり、チームは活性化したといいます。

出原一優くん
「他校では聞けないようなことですし、絶対あいつには勝ってやろうというモチベーションになってくるので、そこはいい効果がある」

岡嵜雄介監督
「自分はどういう評価をされているか知ることで、より次の評価に向けてのアプローチのしかたも変わってくる。(指導者と選手の)ずれをなくすのに、必要なものなのかなと思う」

能力伸ばす"オープン・シェア革命" 企業・家庭でも 育成のヒント

育成の現場でも始まった、オープン・シェア革命。ことしで就任18年目を迎えた、青学・原監督。若者と向き合う中で、こうした手法はどんな組織にも生かせると考えています。

青山学院大学 陸上競技部 原晋監督
「ビジネス界においても、人事評価が不透明な会社は、選手のやる気はなかなか出てきません。いつの間にか出世、いつの間にか左遷、そんな組織に発展はないと思う。スポーツ界における人事評価というものは、やはり選手選考だと思う。どうやったら選ばれるのか、監督に気に入られたから選ばれる、気に入られないから選ばれない。そんな組織では、そんなスポーツ界では、その組織は発展しないと思う」

保里
「こうした時代に指導者に求められる役割、果たす使命は変わってきているのでしょうか」

原晋監督
「情報化社会の中で、監督の経験則だけで指導していくっていうのは、もはや時代遅れです。いくら厳しく指導しても、論理的でまっとうな手法なら学生は頑張ります。でもそれが理論性もなく、ただ理不尽な指導だったら、学生やりません」

保里
「本当に納得できたら、それがどんなに大変でもできる」

原晋監督
「やる。自分でやる。だから具体的に数値化して、見える化して。頑張らせる指標を作ってあげること、枠組みを作ってあげることが大切だと思う」

能力伸ばす"オープン・シェア革命"

保里:原監督インタビューの詳細は、下記のリンクからもご覧いただけます。

井上:オープン・シェア革命の先駆者ダルビッシュ投手は、NHKの取材にこう語っています。

ダルビッシュ有投手
「技術を共有しないと、他の選手の可能性の芽を摘んでしまうことになり、野球界のためにならない。みんなが幸せになる可能性を自分が摘んでしまうのはいやだから、いろんなことを共有しています」