クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
2021年2月10日(水)
広がる「出生前検査」 その背景に何が?

広がる「出生前検査」 その背景に何が?

生まれる前の赤ちゃんに異常がないか調べる「出生前検査」。中でもダウン症など染色体の異常を調べるNIPT(新型出生前検査)は、妊婦の血液だけで検査できることから学会の認定を受けていない美容外科や皮膚科などのクリニックにも急速に普及。しかし認定外の施設の多くは検査への十分な説明やケアを行わないことから深刻な悩みに直面する家族も相次いでいる。検査を受けた家族や支援するNPOの活動を通して出生前検査の課題と対策について考える。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから ⇒https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/

出演者

  • 柘植あづみさん (明治学院大学教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)

広がる“出生前検査”その陰で…

本来NIPTは、日本医学会が認定した大学病院など全国109の施設で実施が認められています。認定施設に必要とされる条件の1つが、“遺伝カウンセリング”です。

NIPTは、遺伝子の検査。専門資格を持った医師とカウンセラーが、検査の前後にきめ細かな説明を行います。仮に結果が陽性であっても出産し、サポートを受けながら育てられることなど、さまざまな選択肢を丁寧に伝えます。

認定施設 宮城県立こども病院 産科 室月淳医師
「検査の結果の受け止めが、難しい場合が多い。きちんと説明しないと、ご本人にしても、パートナーの方にしても、妊娠をどういうふうにしていくか、産まれた後どう対応していくか、判断しようがない。」

さらに、NIPTの希望者にさまざまな条件を設けています。例えば、35歳以上であることや、夫婦で説明を受けることなどです。安易に受けられるようにすると、選択的な中絶、いわゆる命の選別につながりかねないとされているからです。

一方、認定施設と異なり利用条件を緩和しているのが、認定外のクリニック。その数はすでに120か所を超え、認定施設の数を上回っています。

NHKがウェブで行った調査では、認定外の施設を利用した人は認定施設の利用者と同じ割合に上ることが分かりました。

その理由を尋ねると、行く回数が一度で済むこと、ウェブで予約できることなど、その手軽さゆえ認定外の施設を選んでいる実態が見えてきました。

認定施設の産科医・室月淳さんは、手軽さゆえに認定外クリニックが広がる現状に危機感を抱いています。

室月淳医師
「検査の技術があるからやればいいんだとか、検査をどんどん広げたほうがいいというのは、明らかに間違い。(異常が)見つかったときに、どういうふうに赤ちゃんに病気がでてくるとか、どういうふうにしていくか、ということが非常に難しいこと。」

広がる“出生前検査”その課題は?

武田:生殖医療や不妊治療に詳しい、柘植さんに聞きます。新型出生前検査・NIPTの普及によって、おなかの赤ちゃんのことが分かるようになったのであれば知りたい、というニーズが高まっている現状。一方で、これは命の選択につながるのではないかという懸念も出ています。まず、柘植さんはこの現状、何が問題だと捉えていらっしゃいますか。

ゲスト柘植あづみさん (明治学院大学教授)

柘植さん:命の選択という問題点があるので、NIPTを始めるとき、施設にきちんとした認定の条件を設けましょうという話し合いをしました。その話し合いには産婦人科医だけではなく、小児科や遺伝の専門家や、法律や生命倫理の方、障害を持ったお子さん、障害のあるお子さんの親御さんたちも含めて議論をしました。議論で決まったのが、先ほどの遺伝カウンセラーを必須にすることでした。認定されていない施設では遺伝カウンセリングもしない、そして専門医もいない。検査をビジネス化して、営利のためにやっているというのがすごく問題になっています。

武田:そこがまさに今、問題ということですね。

栗原:さまざまな問題をはらむ中で広まってきた、NIPTを含む出生前検査。改めてですが、命に関わる判断を伴う大変デリケートなものなのです。本来は出産前に胎児の異常を把握して、分娩方法や産後の治療を行う準備のために行われるものです。
NIPTは今、認定施設だけで年間1万件以上行われていますが『非確定検査』と言われていまして、その検査だけで異常が確定するわけではありません。異常が疑われた場合でも、より精密な検査を受ける必要があります。受けられるのは、妊娠22週までです。検査の合間、前後に遺伝カウンセリングなどのきめ細かな説明を受けていくのが大切です。

しかし知らないまま検査を受けている人も多く、そうした中で検査で陽性が確定した人の多くが妊娠を中断、つまり中絶をしているということなのです。

武田:本来はきめ細かくカウンセリングを受けながら、さまざまな検査を組み合わせたうえで得られた結果をもとに選択をすべきもの。それを知らずにいる人がいる。ここがまさに問題だということですね。

柘植さん:遺伝カウンセリングとか検査の結果を受けて、このあとどうするのか。産むのか、それとも産むのを諦めるのかという選択には、専門家の相談や身近な人の相談というのが必要だと思います。特にパートナーのサポートが重要になってくると思うのですが、もとのところで医学情報がなければそれもできないと思います。

武田:今はその悩みというものが、全部当事者の方に行ってしまうということですね。

柘植さん:結局は女の人が産むか産まないか、ずっと孤立して考えて、悩んで、揺れながら決めていかないといけない。その責任を抱えないといけない、という状況になっていると思います。

武田:NIPTが認定外の施設で広がっている現状を受けまして、国もその運用を巡る議論を今始めています。柘植さんも厚生労働省の専門委員会のメンバーを務められているそうですが、議論の焦点というのは主にどんな点なのでしょうか。

柘植さん:とても簡単にできる検査なので、ただ単にこの検査がありますよというと、やはり多くの人が受けたいと思うと思います。なので、この検査がどういう検査なのか、何を決める大変な検査なのかということをどんなふうに妊婦さんに情報を伝えるのか。それをまず話し合っています。それから、ビジネス化している認定されていない施設のように検査結果の丁寧な説明もない、遺伝カウンセリングもされていないような事態をいかに防ぐか。そして、よりよい出生前検査の医療というのはどうやったらできるのか、というのを話し合っています。

武田:議論よりも検査が普及しているという現実が先に進んでいるという状況なわけですが、出生前検査を受けたとき、深刻な悩みに直面する人が少なくありません。

“出生前検査”重すぎる決断

埼玉に住む、ゆきさん一家です。4年前、不妊治療の末、長女の奈々ちゃんを授かりました。奈々ちゃんは妊婦健診のエコー検査で異常が疑われ、その後の確定検査でダウン症と診断されました。

ゆきさん
「ゆっくりながらも、確実に成長している。すごくうれしいですよね。よく笑うので、それだけでも幸せな気持ちになれますね。」

ゆきさん夫婦は子どもがダウン症と確定した当初、産むかどうか迷ったといいます。検査結果が出てから、決断の期限となる妊娠22週まで残り3週間を切っていました。

ゆきさん
「もう3週間もなかったんですけど、その3週間が苦しかったですね。時間が短すぎます。」

夫・裕さん(仮名)
「整理が全くついていなかったですね。考える時間もほとんどなかったですし。」

ゆきさんたちは共働き。2人とも職場まで、往復2時間の通勤をしなければなりません。障害のある子にきちんと向き合い、育てていく自信を持てませんでした。そんな中、ゆきさん夫婦の背中を押したのは、ダウン症の子どもを育てる家族との出会いでした。

ゆきさん
「自分が育てられるかってというところを実際に想像できないと、不安だけが大きくなって、実際に育てるとなったときにどういう生活スタイルになるのか、どういう人生をたどるのか。本当にいろんな情報をいただいて、悩みもひとつひとつ解決できたので。」

ゆきさんにダウン症の子どもを育てる家族を紹介したのは、千葉市にあるNPO法人です。産婦人科医や看護師、障害のある子どもの家族らが中心となり、出生前検査を受けた人のサポートを24時間体制で行っています。

NPO代表 産婦人科医 林伸彦さん
「相談自体が増えていて、1日、2~3件きます。」

NPOが特に力を入れているのが、掲示板『ゆりかご』。寄せられたさまざまな悩みに、同じ経験をした人が答えてくれます。相談に対応する経験者は、“ピアサポーター”と呼ばれています。出生前検査を受けて妊娠を継続した人、しなかった人、両者が相談に乗ってくれます。

林伸彦さん
「なかなか周りに言えない話なので、孤独を感じやすいですし、誰にも話せないものになりがち。自分たちの決断に後悔が生まれるとか、責めるような人たちができるだけ減るといいなと。」

妊娠を継続しなかったピアサポーターとして相談に乗っている、ひろみさん(33)です。ひろみさんのもとには、同じ経験をした人たちから相談が寄せられます。

「毎日遺骨を納めているペンダントに、『おはよう』とか『おやすみ』とか言うけど、自分の選択がよかったのか悪かったのか、一生続くだろうし。」

ひろみさん
「そうですね。私、最初の一年は、とにかくきつかったかも。」

「周りが出産ラッシュだったりとか。『子どもはいいよ~』とかね。心のないひと言とか、そういうのが怖いです、やっぱり。」

どんな声にも決して否定することなく、耳を傾けます。実はひろみさん自身、かつて孤独に悩み苦しんだ過去がありました。

ひろみさん夫婦が妊娠の継続を諦めたのは、今から3年前。妊婦健診のエコー検査で異常が見つかったとき、心配の1つは胎児の健康でした。

ひろみさん
「心臓の膜に穴があいているので。」

精密な検査で、おなかの赤ちゃんに心臓の疾患も見つかったのです。

夫の一也さん(仮名)の年齢は42歳。将来にわたって、子どもを責任を持って育てていく自信が持てませんでした。

夫・一也さん(仮名)
「自分はどう育てようっていう、不安しかなかった。」

同じ境遇の人はどう子育てをしているのか、相談相手が欲しいと病院にかけ合いました。しかし…。

ひろみさん
「(病院に)同じ経験をした人を紹介してほしいって言っても、『個人情報とかの関係で、それはできません』って言われてつながることができなくて。」

2人で悩み抜いた末、育てていくことは難しいのではと妊娠の継続を諦めました。

ひろみさん
「字、消えちゃった。パパのせいだよ。」

中絶をした日から、この日でちょうど3年。

ひろみさん
「開けていい?」

夫・一也さん
「どうぞ。」

ひろみさん
「つっくん、パパから絵本のプレゼントです。」

夫・一也さん
「3歳からって。」

2人は毎年この日に、子どもへの思いを語り合っています。

夫・一也さん
「泣いちゃうね。」

ひろみさん
「3歳のつっくんに読んであげたかった。」

夫・一也さん
「そうだね。」

ひろみさん
「やっぱりだめですなぁ。…泣かない日はくるのかな。」

夫・一也さん
「こないんじゃない?」

ひろみさん
「毎年なぐさめてね。」

夫・一也さん
「はい。」

どれだけ悩んでも、答えの出ない日々。それでも自分が生きてこられたのは、ある人がかけてくれたことばがあったからだといいます。

それはダウン症の子どもを出産した、ピアサポーターからのことば。

“勇気がいる決断だったと思います。頑張りましたね、私たち。”

ひろみさん
「私の中で“産む決断をした人”、“諦める決断をした人”って敵どうしじゃないけど、そのイメージが強かったので、『あっ、そうやって思ってもらえるんだ』と思って。悩む過程は、産む、産まないも一緒。最後の決断する部分だけが違っただけなので、『頑張ったね』って言われたことが、すごく救われたんですよね。」

ひろみさんにことばをかけたのは、NPOに支えられ奈々ちゃんを出産したゆきさんでした。出産後、ゆきさんもまたピアサポーターになりました。

奈々ちゃんは生まれてすぐに、心臓の手術を経験。それを乗り越え、元気に成長する娘の姿をゆきさんは見守っています。そんな毎日を支えているのも、NPOで出会った人々とのつながりだといいます。

ゆきさん
「つながりだったり情報も知ることで、先に進めるというのはある。ひとりじゃないんだな、みんなで助け合って、元気に生きていけると今は分かった。」

“出生前検査”にどう向き合うか

武田:この2組のご家族、本当に悩みに悩んだ末の選択だったということがよく分かりました。柘植さん、それだけにどうサポートしていくか、サポートのあり方もとても大切ですね。

柘植さん:ほとんどの人が子どもに病気や障害があったら、育てていけるよって言える人ってほとんどいないと思うのです。それから、病気や障害があったら、じゃあこの妊娠を諦めようとさらっと言える人もそんなにいないかと思います。だからすごく悩みながら、揺れながらの選択になっていくと。なので、誰がどう支えてくれるか。もちろんパートナーは支えてほしいですが、ピアサポーターという方たちが経験した上でサポートしてくれる、相談に乗ってくれるということはとても大きなことだと思います。

武田:身近にそういう方がいたら、私たちにも少し参考になるようなサポートの在り方だなと感じました。

柘植さん:ただ単に相談に乗るだけではなくて、産んでも産まなくてもあなたの選択をサポートするよっていう姿勢がすごくいいなと思いました。

栗原:迷いながらの選択を支える動きが、これから始まろうとしています。
NIPTなど、出生前検査を受けた人たちをサポートする相談支援体制の整備が、4月から始まる予定です。全国におよそ80か所にある女性健康支援センターなどで専門の相談支援を実施したり、例えば障害者福祉関連施設と連携するための費用を補助したりする予定です。

これまで見てきた議論や動きに対して、日本ダウン症協会もこういった見解を出しています。
“妊娠継続か中断かという選択が、妊婦あるいはカップルにとって決して安易なものでも安心なものでもないことを痛切に感じています。”、“検査に関する、第三者的な相談窓口の整備を要望しています。”、その上で仮に、“ダウン症のある方や、そのご家族が生きづらさを感じるとしたら、それは『社会的障壁』にもよると思います。”、“検査の運用が『社会的障壁』を強化するものとならないことを望みます”、というメッセージです。

武田:つまり、こういった検査が広がることで障害のある方や、そのご家族が生きづらさを感じるような社会になってほしくないという訴えだと思いました。こうした声もある中で私たち、あるいはこれから検査を受けてみたいという方、この出生前検査に、どう向き合えばいいのでしょうか。

柘植さん:実は検査を受けない、検査について知っているけれど受けない選択をする人たちは多くいます。
その方たちの声の中で私が伺ったのが、『検査を知ったが受けない、自分はどういう子が産まれてきても受け入れる』という決断をした。それを他人から否定されたくない。なんで受けなかったの?って言われたくない。なのでそれは、社会がそういう社会を作っていかないといけないなと思っています。
産むと決めた人も、障害があっても産むと決めた人も、産むのを諦めようとした人、それから検査を受けないという人も全部認めていく社会というのを作っていきたいと思っています。