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2021年2月3日(水)

コロナ禍の高校生
~ルポ“課題集中校”~

コロナ禍の高校生 ~ルポ“課題集中校”~

「親から暴力を受けた」「生活費のためアルバイトを強要される」「介護疲れで眠れない」…。 長引くコロナ禍が、高校生たちの生活を脅かしている。中でも大きな影響を受けているのが、学習や家庭環境などに困難を抱える生徒が多く通う、“課題集中校”。神奈川の県立高校のあるクラスでは、昨春に入学した生徒の4割がすでに中退。教師たちは個人面談などで生徒の悩みをくみ取り、生活状況の改善も含めた必死の支援に奔走している。 “課題集中校”の現実を見つめることで、日本における教育格差や、コロナ禍における教育問題を考える。

出演者

  • 石井光太さん (作家)
  • 武田真一 (キャスター)

コロナ禍の高校生 厳しい現実

神奈川県立田奈高校。およそ400人が学ぶ、普通科高校です。昨年(2020年)春に、2か月休校。その後現在まで、授業の短縮や部活動の自粛が続いています。

1年生の担任、社会科の菊地真祥さん。

生徒
「ねえ、菊地。トランプって誰だっけ?」

1年生 担任 社会科教諭 菊地真祥さん
「トランプさんだよ。」

生徒
「トランプ死んだんでしょ。会議に乱入して。」

菊地真祥さん
「トランプ大統領は死んでない。」

田奈高校の入学試験は、面接のみ。中学まで不登校だった生徒でも一から学び直せるよう、少人数クラスや柔軟なカリキュラムを取り入れています。

菊地真祥さん
「コロナウイルス、けっこう影響が出ている。それをみんながどういう風に考えているのか、書いてほしい。漢字とか気にせずに、平仮名が多くなってもいい。」

コロナで変わったことをテーマに、作文を書く課題。

女子生徒
「なんて言うの、うちのお母さんの仕事?足の不自由な人とか、体が動かない人の。」

「介護?」

女子生徒
「介護なんだけど、なんかちょっと医療に近いみたいな。」

「お母さんも、休みが多くなった?」

女子生徒
「しない。お母さんが、じんましんとかそういうの持ってて、やりすぎると倒れる。」

ひとり親家庭や就学援助を受けて通学する生徒も多い、田奈高校。家庭生活やアルバイトなど、さまざまな変化がつづられました。

“バイトのシフトがカットされ、お給料が全然もらえない。(女子生徒)”

“親はかいごの仕事をしていて、きき感をおぼえた。(男子生徒)”

“コロナで親といる時間が増え、ストレスがたまり、自分の部屋にこもるようになった。(男子生徒)”

廊下に出てみると…授業中だというのに生徒がくつろいでいます。

教師専用の休憩室にも、けだるそうな男子生徒の姿が。

「授業は?眠いの?」

男子生徒
「眠い。頭痛い。おなか痛い。」

「欠時(欠席)になっちゃうんじゃないの。」

男子生徒
「俺もう(授業に)出たから。」

教師
「出てないだろう、お前。」

学校には来たものの、授業に出たくないとだだをこねる生徒たち。手の空いている教師に付き添われ、教室に向かいます。
一見、放任主義のようにも見えるこの光景。あえて厳しくし過ぎず、校内のさまざまな場所に居場所を作ることで、学校を好きになってもらうねらいがあります。

1年生 担任
「(小中学校で)学校に来ていない子も多いので、1時間授業にいるのがしんどい子もいる。あとは人間関係がちょっとあって、(授業に)行くのが嫌だという子を1回話聞いて、落ち着いてから行こうかみたいな。」

取材を続けていると、1人の生徒が話しかけてきました。

ヒロトくん(仮名)
「iPhone12?誰の(携帯)ですか?俺NHKはあんま見ないです。というか、YouTubeすね。最近は。」

1年生のヒロト君(仮名)。その後、校内で会うたびに声をかけてくれるようになりました。

ある日の、お昼休み。

ヒロトくん
「こんにちは。」

「何買ったの?ポテチ?」

ヒロトくん
「ダイエット中なんで。」

自分でアルバイトしたお金から、食費を出しているヒロト君。お昼を、安いスナック菓子で済ませることも多いといいます。

放課後。廊下にヒロト君の姿が。
進路を話し合う、三者面談。しかし、来るはずの保護者が見当たりません。そのまま、1人で教室へ。

菊地真祥さん
「ちょっと遅刻が最近あるよね。」

ヒロトくん
「寒いじゃないですか、最近。(夜中に)起きちゃうんですよね。」

菊地真祥さん
「寒くて起きちゃう?(部屋に)ストーブないの?」

ヒロトくん
「ないっすね。」

菊地真祥さん
「バイトしてんだから買えばいいじゃん。」

ヒロトくん
「ムリ。一人暮らしの費用。」

菊地真祥さん
「一人暮らし?」

ヒロトくん
「家から離れたい。」

菊地真祥さん
「一人暮らしの費用として、ためておきたいってこと?家から離れたいって、家で困ることって何なの?」

ヒロトくん
「なんか、イラつく。」

幼いころから、母子家庭で育ったヒロト君。しかし2年前、母親が家を出たきり戻らなくなりました。保護者代わりの姉は、飲食店勤務。コロナで休業し、毎日顔を合わせるうち、衝突することが増えたといいます。

菊地真祥さん
「右手のケガ気になる。」

ヒロトくん
「イラついて壁を殴ったら、こうなりました。」

菊地真祥さん
「壁も大丈夫だし、手も大丈夫?」

ヒロトくん
「もう治りました。」

菊地真祥さん
「家のことでもストレスあるんだ?」

ヒロトくん
「まあ、多少はあるんですけど。」

一見、人なつこく見える田奈高校の生徒たち。その裏側で、複雑な事情を抱える子どもも多いといいます。

菊地真祥さん
「先生以外で支えてくれる大人が少ない環境にいる子も多いと思うので、友達の役割にもなりますし、先輩の役割にもなりますし、お父さんお母さんの役割にもなりますし。多くの教員が一致団結して、1つの学年団として、その学年の生徒を支えていっている。」

こうした支援の中で、苦しい生活から抜け出すことができた生徒もいます。幼いころから、家庭で虐待を受けてきたというエミさん(仮名)。高校に入るまでは、誰にも相談できなかったといいます。

エミさん(仮名)
「殴ったりとか蹴ったりとか、暴言だったり。自分的にもストレスかかっちゃって。ここ(家)だと自分が死んじゃうというのがあった。(高校は)いろんな人たちと話すことができるから、同級生に『先生に相談したら』って言われて、それで初めて(告白した)。」

エミさんから事情を聞かされた高校は、直ちに児童相談所へ通報。現在は親元を離れ、安全な環境で暮らしています。

エミさん
「最初は高校通う気、無かったけど、やっぱり相談して良かったというのがあって。今はいろんな人たちに支えてもらいながら、暮らせるようになった。ご飯3食きっちり食べられるようになったから、(学校に)通って良かったなって。」

ある日の、放課後。

「これから、どちらに?」

菊地真祥さん
「生徒の家まで。(欠席時数の)規定を超えてしまっているので、最近やっと(保護者と)連絡がとれたので。」

半年以上、ずっと学校に来ていない生徒の家に向かいます。

菊地真祥さん
「すいません。田奈高校の菊地と申しますが。…あっ、いた。どう?」

久しぶりの再会に、笑顔を見せた生徒。
しかし保護者から渡されたのは、退学届でした。保護者に代わって家の手伝いをするため、通学は難しいとの理由です。

菊地真祥さん
「無力さも感じるよね。俺たちのね。ちょっと授業を教えて、がんばれよって言っているだけじゃ。」

同僚の教師
「結局、僕らが見ている彼らは制服を着て(学校に)来ている姿だけ。それ以外の世界は見られない。学校だけが頼りという子もいますからね。そういう子に限って、欠時(欠席時数)あぶない。」

菊地真祥さん
「難しいな。」

入学時は18人だった、菊地さんのクラス。10か月で、3人が中退しています。田奈高校の1年間の中退率は、16%。全国平均の20倍に上ります。

教師たちの懸命な努力によって守られてきた、教育現場。しかし長引く感染拡大によって、その均衡が崩れつつあります。

3年生の教室には、秋以降ほとんど学校に来ていない女子生徒がいました。

3年生 担任 佐々木未央さん
「単純に寝坊とかだけじゃないんだろうと。そこが心配しています。」

生徒の携帯は解約され、電話は通じません。学校の専用チャットから、メッセージを送ります。

「これで連絡取っている?」

佐々木未央さん
「唯一、取れるのがこれ。」

「親御さんとかには?」

佐々木未央さん
「(電話に)出ないですよね。(連絡が)ついたら苦労しないんですけど。」

昼過ぎ。

佐々木未央さん
「よかった。」

生徒が、久しぶりに姿を現しました。

「あら、授業いなかったのに。」

心配していた教師たちが、かわるがわる声をかけます。

サオリさん(仮名)
「今月、毎日バイトが入っている。」

ずっとバイト漬けだったと話す、サオリさん。コロナで収入が減った親に代わり、生活費を稼いでいるといいます。

サオリさん
「学校は行かなくても(親に)ちょっと怒られるけど、バイトは休ませてくれない。お金が欲しいから、親が。」

生活が崩れ始めたのは、去年の春。学校の休校が、きっかけでした。アルバイトしていた焼き肉店も休業し、在宅時間が増えた家族とのけんかが絶えなくなったのです。

サオリさん
「ステイホームしていなかった。ずっと家にいたら、自分が壊れると思って。おかしくなる気がしたから(家を)出た。」

居場所のない家を出て、1人で夜通し町を歩く生活が始まりました。学校やアルバイトが再開してからも、家族との関係はぎくしゃくしたまま。

サオリさん
「こういう道なら、泣いていてもバレないし。」

孤独の中で支えとなったのは、ネットで知り合った異性たちでした。

サオリさん
「普通に『暇?』って言ったら、みんな暇らしいよ。」

「怪しいのもよく来る?」

サオリさん
「来る来る。キモいなと思うから返さない。」

「そういうので、何人か彼氏ができたり?」

サオリさん
「2人かな。別に出会いの場も、人それぞれじゃん。」

「このあと帰るの?」

サオリさん
「どうしようかな。家にいたくないから。」

今の目標は、なんとか高校を卒業し家を出ること。学校による懸命の努力でも支えきれない、コロナ禍の現実です。

“課題集中校” 生徒たちの居場所

武田:こうした厳しい現実を知ってほしいと、生徒や教職員の皆さんが今回取材を受けてくださいました。ありがとうございます。石井さんは、こうした課題集中校に講演で招かれることも多いそうですが、この田奈高校というのは決して特殊な例ではないと捉えているそうですね。

ゲスト石井光太さん (作家)

石井さん:そうですね。本当にこういったような学校というのは全国にありまして、高校3年生は勉強ではなく卒業後にサバイバルできる方法を教えたいということで僕もよく講演に呼ばれるのですが、1つの地域で4校、5校の学校を回るということもあります。それぐらいあるということなんです。この学校の特色というのは、ぐれている学校ということではなくて、貧困だとか、虐待だとか、ひきこもり、そういった問題を抱えている子どもたちがたくさんいるのです。こういった子どもたちが何を必要としているかというと、勉強ではなくて福祉。現代の写し鏡のような学校だな、と思っていますね。

武田:田奈高校がどのように生徒を支えているのかということですが、生徒の悩みを聞くスクールカウンセラーや、ソーシャルワーカーが通常より手厚く配置されています。さらに学校独自の取り組みとして、就職の相談に乗るキャリアカウンセラー、図書館ではNPOが居場所カフェを開いていました。

家で十分な食事がとれない子どものために、無料で食べ物や飲み物を提供していたのですが、緊急事態宣言が出ている間は休止しているということです。

石井さん、こうした学校は本当に大きな役割を果たしていると感じますが、コロナの影響もある中でその役割をどう感じていますか。

石井さん:この間、講演で別の学校に行ったのですが、コロナでお母様が仕事を失って、娘に夜の街で働かせていると。そのお金を全部吸い上げていると。私はどうすればいいですか、と質問を受けたんです。本人からすると恥ずかしい質問だと思うのですが、それを講演で言わないといけないぐらい周りに言う人がいないんですよ。こういったSOSを放置したらどうなるのかということを考えると本当に恐ろしいものがあるのですが、学校というのはそういった子どもたちにとってライフライン、本当に『命綱』なのです。だから学校だけでなくて、国もこういった学校がライフラインになっているのだという意識を持つことが大切だと思っています。

武田:コロナ禍の中で、生徒たちに必死に寄り添おうとしている教職員。
その取り組みは、生徒が卒業した後も続きます。

コロナ禍の“校内ハローワーク”

卒業後も、生徒に自立して生きていってほしい。そんな願いを込めて生まれた場所があります。

キャリアコンサルタントが常駐する、校内ハローワーク。履歴書の書き方から面接の作法まで、手取り足取り教えてくれます。

就職活動も大詰めの、12月。ファストフード店の求人票を写真に撮る、生徒がいました。

「自分で写真を撮って?」

ダイスケくん(仮名)
「家帰ってリストみたいなの作って、調べてお店の混雑状況を見る。お店いっぱい人が来たら嫌なんで。欲を言えば働きたくないので。」

3年生のダイスケくん。もとは進学希望でしたが、経済的理由から断念したといいます。

「就職活動する気、起きない?」

ダイスケくん
「そうですね。結構ブラックみたいな、バイトしたらブラックなところあったんで。」

「そのとき、すごい嫌な思いをした?」

ダイスケくん
「二度と働きたくないっていう。」

初めてアルバイトしたすし店で、早朝から深夜まで違法に働かされ、不信感を持ったといいます。

キャリアカウンセラーの、野坂さん。粘り強く、励まし続けます。

スクールキャリアカウンセラー 野坂浩美さん
「働くことにネガティブなイメージを持っていることは、大人の責任です。だから(働くことに)希望を持たせてあげることが、すごく大事。」

1月。駅に野坂さんの姿が。ダイスケ君と一緒に、会社の説明会に出席する約束です。

しかし待ち合わせ時間を過ぎても…。

野坂浩美さん
「(ダイスケくんが)来てくれるという期待と信頼があるんですけど、いざこうなると…。」

結局、ダイスケ君は現れませんでした。

「こういうことって、よくある?」

野坂浩美さん
「よくあっては、いけないことですね。ことしは(コロナで)募集が少ない。早めに今年度の採用活動を終えてしまう企業が多いので、生徒を1日でも早く動かしたいという気持ちです。」

2度目の緊急事態宣言で、企業の採用活動は一気に冷え込んだといいます。それでも生徒に、社会と向き合ってほしい。野坂さんの模索が続きます。

1週間後。校内ハローワークに来客が。

「2人とも、いま仕事は?」

「職人やってます。」

「無職です。辞めました。」

去年の卒業生。原宿にある専門店に就職しましたが、研修の課題がこなせず退職したといいます。

野坂浩美さん
「最初はね、耐えることが結構必要だからね。」

「介護やれば。お前に合うと思うよ、介護は。だって(高校のころ)介護のバイトして、ちゃんと行ってたんだから。」

野坂さん、卒業生でも応募できそうな求人を見つけました。

野坂浩美さん
「この会社なんだけど。」

「ムリだよ。こんな会社。」

紹介したのは、医療系の仕事。

野坂浩美さん
「アルバイトしてるから介護ってどんな仕事か、わかってるじゃない。」

「ちょっとね。本当にちょっとね。」

「めちゃくちゃいいじゃない。これ寮あるよ。」

「寮暮らし、いいね。楽しそう。」

「卒業後、連絡していいの?」

「いいんです。当たり前です。バリバリします。(野坂さんは)自分のことを、親の次くらいにわかってくれている。」

野坂浩美さん
「土屋さんはとりあえずケガもしてないし、なんとか仕事できているってことですね。」

「そう、塗装屋。今は夜勤やってんのよ。板橋なんだけど、現場が。高速道路で、すごいなんか楽しいのよ。みんな本当に大人だし、やっぱ男社会だから面白いじゃないですか。」

野坂浩美さん
「そっか。いい仕事になりましたね。」

「いい仕事だね。」

野坂浩美さん
「卒業式を境に、卒業生、在校生というわけではなく、少しずつ巣立っていく。進路を決定して、もちろんそこで、おめでとう、一区切りですけれども、そこからスタートを切って、学んでいくことも、成長していくことも、悩んでいくこともある。そこからが第二段階の支援の始まりと、私の立場ではそう思っている。」

生徒たちの“居場所”を守るには

武田:大人が奪った若者の働くことへの希望を、何とか取り戻そうとしている野坂さんの取り組みは、頭が下がる思いがします。石井さんはどうご覧になりましたか。

石井さん:考えなければいけないことは、社会がこれまで子どもたちに何を強いてきたのかということだと思うのです。1年間で19万件の虐待の相談件数だとか、7人に1人の子どもの貧困だとか、あるいは非正規雇用における雇用格差の問題、こういったことをずっと放置してきたのです。子どもたちにしわ寄せが行ってしまって、さらに学校にこういった尻ぬぐいをさせている。そうではなくて、社会がきちんと責任を持って子どもたちのために損をしないように、社会を変えることが必要だと思っています。

武田:コロナ禍の経験も踏まえて、国は高等学校の福祉的な役割が再認識されたとして、先週発表された中央教育審議会の答申にも明記されました。

しかし、予算の裏付けなどの具体的な施策は示されませんでした。こうした学校の取り組みをもっと多くの人に知ってもらい、バックアップをしていくことが必要だと思いますが、どうしたらいいとお考えですか。

石井さん:こういった学校の生徒たちというのは18歳になって卒業して、じゃあ社会に出てね、といってもなかなかうまくできないのです。いろんなハンディを背負っていますから、その中でしくじってしまうと貧困の連鎖だとか、虐待の連鎖だとか、あるいは夜の街に入ってしまいリスクを背負ってしまう。そういったことが起きかねないのです。だからこそ子どもたちを3年間卒業して切り離すのではなくて、この3年間をきっかけにずっとつながってどうやったら社会とうまくつながれるか、きちんとした会社に就職させてあげる、あるいは就職後も面倒を見てあげる、あるいは福祉が必要であれば福祉につないであげる。国はそういった観点からこのような学校の仕組みを作っていくべきだし、サポートしていく必要があると考えています。こういった学校が1人でも多くの人に知ってもらい、地域で支えることが必要だと思っています。

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