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2021年1月20日(水)
岐路に立つ居酒屋 雇用と日本型ビジネスの行方

岐路に立つ居酒屋
雇用と日本型ビジネスの行方

コロナ禍、日本独自の文化を築いてきた「居酒屋」が、厳しい状況に追い込まれている。従来のビジネスモデルでは立ち行かず、業態転換が求められているのだ。ある居酒屋チェーンは、都心の店舗を閉鎖し、郊外店を家族向け焼き肉店に転換。ロボットを導入しスタッフ削減するなどスリム化も狙う。別のチェーンは、本格料理を家庭に届けるデリバリー専門店に転換、巣ごもり需要に狙いを定めた。劇的な変化の一方で懸念されるのが、従業員の雇用。暮らしは守られるのか?生き残りをかける居酒屋に密着。コロナ禍が突きつけた日本型ビジネスモデルの“終えん”と新たな可能性を探る。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから ⇒https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/

出演者

  • 石井光太さん (作家)
  • 麻木久仁子さん (タレント)
  • NHKディレクター
  • 武田真一 (キャスター)

居酒屋の危機 苦悶する現場

「まだ7時半ですよ。」

「7時半でこの人の少なさは…」

去年(2020年)11月末。いつもならば、年末の書き入れ時でにぎわっているはずの繁華街。飲食店専門の不動産会社の社員が、空き店舗の調査を行っていました。

「閉店しているんだね。」

「そうですね。」

「これ1棟まるまるだよね。」

「ビル全部が閉まっていますね。」

オフィス街から新宿駅に続く超一等地でも、居酒屋の閉鎖が相次いでいました。

不動産会社 近藤裕二さん
「今までだったら、すぐ(次が)決まっています。何社も競合して、やりたい人たちが手をあげていたという物件になりますね。この仕事をやっていて初めてですね。こんなことが起きているのが。」

去年6月以降、ファミリーレストランなど他の飲食店は売り上げが回復していましたが、居酒屋だけは前年の6割台で低迷。テレワークの普及で仕事帰りの客が減ったほか、自炊やデリバリーなどへ消費スタイルが切り替わったことが要因だと考えられています。

居酒屋を経営する業者の倒産件数は、去年1年間で189件とほかの業態の2倍近くにのぼり、過去最多を更新。廃業や休業も相次いでいます。

業界大手のチェーン店も、瀬戸際に追い込まれていました。ワタミの創業者、渡邉美樹さんが訪れたのは、ピーク時には毎日100万円以上を売り上げたというドル箱店です。

ワタミ会長 渡邉美樹さん
「これ予約?」

この日は、忘年会シーズンの真っただ中でしたが…。

渡邉美樹さん
「2件だけですよ。しかも3と2って、3名・2名ってこと?」

「そうですね。」

「3名様、2名様です。」

渡邉美樹さん
「これが現実だね。」

その後も改善の見通しが立たず、この店は今月(1月)10日に閉店しました。この道36年、居酒屋業界のトップランナーまでも、かつてない危機に戸惑っていました。

日本で居酒屋チェーンが隆盛を誇ったのは、バブル景気に沸いた1980年代です。原動力となったのは、冷凍食材の大量仕入れと、学生アルバイトや主婦のパートを活用した低価格路線の追求でした。利便性のよい立地に、幅広い品ぞろえと驚くような安さ。サラリーマンのみならず、学生たちまで押し寄せるようになり、一気に流行しました。

ワタミも全国に約600店舗を展開し、年間930億円を売り上げる急成長を実現しました。しかしリーマンショック以降は、経済の停滞に端を発した苦難の連続に直面します。消費が落ち込む中、限界ぎりぎりの低価格競争が勃発。さらに、慢性的な人手不足によって労働問題が起きるなど、ビジネスモデルの課題があらわになっていきました。

こうした居酒屋チェーンの苦境に追い打ちをかけたのが、今回のコロナショック。ワタミは去年1年間で、113もの店舗を閉店する事態に陥りました。

去年10月。渡邉さんは、大きな方針転換に踏み切りました。全国に展開する居酒屋の3割にあたる、120店舗を焼き肉店に転換するというのです。

渡邉美樹さん
「今回、経営者人生、最大の勝負に出させていただくことになりました。」

大胆な路線変更を決めた背景には、何があるのか。業態転換からひと月後。焼き肉店の売り上げは居酒屋のときと比べ、3倍に伸びたといいます。

渡邉美樹さん
「平日に家族が来るというのは、ありがたい。これは焼き肉の強さですね。居酒屋にはない世界ですから。」

ディレクター
「なんで居酒屋がダメで、焼き肉だったらOKなんですか?」

渡邉美樹さん
「居酒屋の大体7割くらいのお客様はですね、なんとなく居酒屋を使われる。目的はないんです。きょう仕事が早く終わったから一杯行こうか。焼き肉は違うんです。“焼き肉食べる”。これは決定的に違うところ。」

大規模な業態転換を行うことで、コロナ禍で変わりゆく消費者のニーズをつかもうと考えていました。

渡邉美樹さん
「マーケットは間違いなく縮んで行くと思いますし、コロナの後も僕は7割で止まるだろうと思っています。つまりライフスタイルがすごく変わったと思います。いろんな物をみんなで食べたい。そのニーズがまさに居酒屋が応えたニーズなんですよ。その役目が少し終わってきたのかな。」

別の居酒屋チェーンでも、全く新しい業態で再出発を図る動きがありました。去年オープンしたこちらの店。目立つのは広いキッチン。テーブルは1つしかありません。

実はここは、テイクアウトとデリバリーに特化した店。テレワークや、外出自粛で家に籠もるようになったファミリー層を狙っています。塚田農場を運営する大手居酒屋チェーンが、コロナ禍を機に決断した業態転換です。

エー・ピーホールディングス社長 米山久さん
「また第3波で(感染者が)増えてきたから、(注文が増えて)今週末は忙しいですよね。家で主婦が作らない料理ってたくさん存在していて、手間がかかりますよね。主婦たちのサポーターをするというようなコンセプトでやっていますので。」

社長の米山久さんは背水の陣をしいて、この新たな事業にかけていました。港区にあった本社を手放し、去年閉店した店舗に事務所を移転。経費をぎりぎりまで切り詰め、捻出した資金を新たな業態の立ち上げにつぎ込みました。

さらに、米山さんは自身の役員報酬を返上。これが最後のチャンスという覚悟で、復活を目指していました。

米山久さん
「21年目にして、より経営の難しさを思い知らされているところで。今はとにかくもがいて、この新規事業を立ち上げ、みんなと一丸となって乗り越えていきたいなと思います。」

こうした苦闘のさなかに出されたのが、2度目の緊急事態宣言。

菅首相
「飲食店については、20時までの時間短縮を徹底します。」

居酒屋業界からは、悲鳴が上がりました。渡邉さんは急きょ、記者会見を開きました。

渡邉美樹さん
「当社の店舗は、1都3県に140店舗ございます。うち居酒屋業態は、ちょうど100店舗でございます。午後7時までの酒類提供では営業にならない、商売にならない店舗が(100店舗のうち)83店舗ございます。この83店舗におきましては緊急事態宣言中、休業することにいたしました。」

休業や時短営業によって、1か月で5億円から6億円の赤字になると試算しています。

ディレクター
「83店舗休業されるって大丈夫なんですか?」

渡邉美樹さん
「大丈夫じゃないでしょう。うちはいいんですよ。お弁当(の事業)を持っていますから。1日25万食配るお弁当(の事業)を持っている訳ですよ。この利益は30億円、40億円あるんですよ。だからなんとかなるんですよ。居酒屋だけとか、レストランだけとか、そういう業者は耐えられないですよ。たぶんもうあと半月、ひと月、緊急事態宣言があけるまで、もつか、もたないかじゃないですか。」

緊急事態宣言で…どうなる居酒屋

武田:各居酒屋チェーンの対応や、休業によって仕事を失った方への補償制度など、NHKがまとめた情報にアクセスすることができます。どうぞご利用ください。

麻木さん、私もすっかり足が遠のいてしまって改めて思うのですが、居酒屋はスタッフとの間の結束を固めたり本音で語り合ったり、本当に大事な場所だったんだなと思うんですよ。麻木さんにとってはどんな場所ですか。

ゲスト麻木久仁子さん (タレント)

麻木さん:いいことがあれば祝杯を挙げに行くし、嫌なことがあれば憂さを晴らしに行くし。ふと思い立ったとき、当たり前にそこにあるというような存在だったのが今、危機に瀕しているということで。居酒屋さんって、実は結構芸能界の仕事と共通するところがあって、お客様に足を運んでいただいて、集まっていただいて、盛り上がっていただいて、そういう時間と空間を提供することで皆さんの生活の潤いとか癒やしにしていただくという。なのに、コロナだから集まらないでください、盛り上がらないでください、こうなると本当にもうお手上げで、本来の仕事が何もできない。そうした中で町を歩いていて、ここも廃業しちゃった、ここも閉店しちゃった、という居酒屋さんを見かけると、胸がきゅんとしちゃって。人ごとじゃないな、という危機感は持っていますね。

武田:居酒屋の苦しい現場を取材した、産業分野の解説委員を務める片岡さん。コロナ禍でとりわけ居酒屋がダメージを受けている理由は何でしょうか。

片岡利文ディレクター:コロナ禍が居酒屋にもたらした衝撃は、大きく4つあると思うんですね。

1つは、感染への警戒感から人々の足が居酒屋から遠のいた。居酒屋というのは、とにかく飲んでしゃべるところですから。
それから2つ目が、インバウンド消費の消滅です。居酒屋ということばは、実は英語でもそのまま使われるほど、日本の食文化を体験できる場所として外国人旅行者の人気の場所だったんですが、その旅行者そのものが消えてしまった。
3つ目が、テレワークの普及です。居酒屋というのはいわば通勤を前提としたビジネスモデルなんですが、会社に来なくていいよということになったら、一杯帰りにどう?というのもなくなってしまうんです。
そして最後が、緊急事態宣言による営業時短要請。酒の提供は夜7時まで。それから夜8時には閉店してください。この要請に応じてくれれば1店舗当たり1日6万円の協力金を支給します、ということなんですが、当初東京都は大手居酒屋チェーンのような大企業には出さないという方針だったんです。そうすると大手が、厳しいよわれわれも、それだったら雇用を守りたいから要請に応じない、という話もあって、結局大企業にも支給することになりました。

武田:居酒屋だけではなくて、関連の業界にも影響は大きいですよね。

片岡ディレクター:そこなんですよね。例えばお酒とかおしぼりの取引ががくんと減って大変だ、という話もあるんですが、例えばある大手居酒屋チェーンの場合、全国の店で使う地鶏の一大飼育拠点を地方に設けたり、あるいは地方の漁港と契約を結んで毎日魚を大量に仕入れたりと、今や地方の経済を支える存在になっているんです。

実はコロナ禍の中で7割発注が減って、産地の皆さんはもう悲鳴を上げている話も聞いているんです。このように居酒屋の休業、廃業が続いていくと地方の地場産業にまで裾野が広がる、居酒屋生態系そのものが危うくなってしまうんじゃないか。ということで、この1月、もしくは2月の売り上げが前年同月比で半分以上減った納入業者に対しては、最大で40万円の一時金を出そうという方向で今、調整が進んでいるんです。それで支えきれるかどうかというところです。

武田:全国に行きつけの居酒屋があるという、居酒屋愛好家の石井さん。石井さんは、この居酒屋の危機をどう捉えていますか?

ゲスト石井光太さん (作家)

石井さん:本当に個人経営の小さな居酒屋の場合、1日6万円あればお店というのはある程度維持できると思うんです。ただ、小さな居酒屋さんの売りというのは大手チェーンと違って、店の空気感だと思うんです。例えば、おばあちゃんが家庭料理を出す居酒屋さんだとか、あるいはカープファンの常連客ばかりが集まるお店、そういったものがありますよね。例えば、麻木さんはどういうお店が好きですか?

麻木さん:この歳になりますと、ご夫婦でやっているようなお店のカウンターに、じっとり座るみたいなことが増えてきました。

石井さん:こうしたお店のご主人に聞くと、1か月間お店を維持できるかどうかというよりも、やはりコロナ禍によって店の生命線である“空気”というのが壊れてしまうということをすごく恐れているんですね。それを防ぐためにあるお店ではオンラインで常連客むけに地酒の講座を開いたり、あるいは原価割れでテイクアウトをやったり、つなぎ止めということに必死になっています。6万円というのは単に1か月間乗り越えるというためのお金ではなくて、コロナの後も店の常連客と空気をきちんと維持するために使うものだというふうに思っています。

武田:片岡さん、この居酒屋というビジネスモデル。どうなっていくんでしょうか。

片岡ディレクター:この4つの衝撃の中で、感染が収まっても元に戻らないものが1つあるんです。それは、テレワークの影響なんです。

というのも、厚生労働省が調査した結果によると、すでにテレワークを利用している会社従業員の87.2%が継続して使っていきたいと話しています。しかも、この効率性を知った会社側も働き方改革というのもあるので、どんどん進めていくと思います。そうなると、居酒屋チェーンなんかは都心の店を整理して、一方で郊外の居酒屋を家族向けの店に変えていくという動きがどんどん進んでいくと思うんです。すると居酒屋の市場は現在の大体7割ぐらいになるんじゃないか、もっと少なくなるんじゃないか、とおっしゃっている経営者もいました。

武田:倒産や休業、廃業が相次いでいる居酒屋ですが、気になるのは、居酒屋が支えてきた大量の雇用の行方です。

居酒屋の危機 雇用はどうなる?

「きょうまでお疲れさまでした。ありがとうございました。」

経営難から、この日で閉店することになった店舗です。ここでは、17人のアルバイトスタッフが働いていました。

夜遅くまで働ける居酒屋は、地方から出てきた学生などにとって貴重な働き口となってきました。

居酒屋の学生アルバイト
「大学で東京に上京してきたので、それで生活費を稼ぐために働き始めました。」

ある調査によれば、学生1人あたりの生活費は年間およそ191万円。一方、アルバイトで賄っているのは、およそ40万円。実家からの仕送りが十分に望めない場合は、アルバイトに依存する割合がさらに高まります。

何とかして雇用を守りたいと、居酒屋から業態転換したという焼き肉店。しかし…。

「64番テーブルのお客さま、大変お待たせしました。」

配膳を行っているのは、AIを搭載した最新鋭のロボット。店員が、客と接する機会を減らすために導入したといいます。居酒屋だったころには8人いた接客スタッフは、半分の4人に減りました。

ディレクター
「活躍しているのが、このAIロボットですか。」

ワタミ会長 渡邉美樹さん
「時給は300円ですけど、よく働いてくれています。」

ディレクター
「じゃあ、人の雇用ってどうなっちゃうのかなって。」

渡邉美樹さん
「アルバイトさんに、大体8割ぐらい頼っていた業態です。そのアルバイトさんのところは申し訳ないけれども、ひかせていただいて、社員の2割のところは確実に守っていく。」

ディレクター
「大学生とか主婦とか、ワタミでパートやアルバイトで働いてきた、生活をなりたたせてきた人は、これから期待できない?」

渡邉美樹さん
「その部分の今まで何千人、何万人雇用していた部分が厳しくなっているのは現実です。ただまずは、社員を守りたい。われわれ居酒屋業界は追い詰められているので、それは本音です。」

しかし、正社員の雇用を確保していくことも容易ではありません。

ワタミ社員 伊藤翔平さん
「いまバラ作っているんですね。いいですね。」

介護施設で働いている、伊藤翔平さん。実は居酒屋チェーンで接客業務を担当する正社員でした。働いていた店が休業することになり、本社からこの施設への出向を打診されました。

伊藤翔平さん
「正直なことを言うと飲食業界もどうなっていくか見えないところもありますし、せっかくなのでしっかり覚えさせてもらって、自分の身につけたいなと思っています。」

この居酒屋チェーンでは、他業種への出向を積極的に広げることで雇用を維持していこうと考えています。しかし、伊藤さんのように新たな仕事に適性があり、労働条件も折り合っている例はまだ一握り。今後、居酒屋の休業がさらに増えた場合、社員たちの出向先を用意できるのか見通しはまだ立っていないといいます。

渡邉美樹さん
「(感染拡大が)起きちゃっているんだから、しようがないよ。だから前を向くしかないよ。ただ前だけを見つめて丁寧に進んで行こうと。それは今、自分で心がけていることです。」

どうなる 日本の居酒屋

武田:この居酒屋従業員の8割はアルバイトやパートといった非正規雇用で、その数は最新のデータで31万人。飲食業の中で最も多くなっています。この人たちが居酒屋チェーンの発展を支えてきたといっても過言ではないんですが、麻木さん、雇用の問題をどうご覧になりましたか。

麻木さん:AIとか、ロボットへの転換というのはどっちみち徐々に起こったことだとは思うんです。ただ、このコロナで急速に進んでしまうだろうというときに、それでなくても今まで多くの労働人口をサービス業へ、あるいは非正規雇用という形へ促すような流れがずっとあった中で、水面下に潜んでいた社会のぜい弱さみたいなものが吸収し切れずにコロナで爆発してしまうというような心配をすごくしています。1日6万円というのも例えば、1階が店舗、2階が住居家族でやっています、というようなお店だと何とか頑張れると思いますが、高い家賃を払い、お給料も払い、という経営では本当に苦しい。そういうときに雇用を切らざるを得ない、ということもあると思います。そこをどう支援するのか、という話をしてほしいなと思います。

武田:石井さんはいかがでしょうか。

石井さん:コロナというのは、未来の問題を10年間前倒しにしたというふうに言われているんです。AIロボットが店のスタッフを駆逐するというのは、まさにそういった状況を表していると思います。ただ、大手がAIロボットでビジネスをするということは逆に、中小の居酒屋というのは接客だとか商品力、そういったアナログのところで勝負することにもなると思います。実際、コロナ禍ですごく人気がある居酒屋というのもあるんです。例えば、店主がミニコンサートを開いたり、あるいは特殊な発泡日本酒で開けてから30分待たないとあふれて出てきてしまうというような日本酒があったり、あるいはクラフトビールの専門店だったり、そういうような接待だとか接客だとか商品のレベル、そういったところは勝っているんです。そういうところも、1つのヒントになるのではないかと思っています。

武田:片岡さん、職を失う人たちをどう救えばいいんでしょうか。

片岡ディレクター:介護施設に出向した伊藤さんは、居酒屋時代のノウハウを生かして活躍されていましたよね。このように、日本のサービス業が誇る接客力を、人材を必要としている分野にどう展開して生かしていくかということが鍵だと思います。ちょっと大きな話になるのですが、思えばわれわれ日本人というのは米などの作物を丁寧に丁寧に育て上げる力を、今度はものを作る力に展開することでメイド・イン・ジャパンの黄金時代をつくり上げた。さらに、その力を今度は丁寧に丁寧に人をもてなす接客力に展開することで、まさに世界が称賛するサービス業を育て上げてきたんです。産業は変われども、丁寧に物事に向き合うこの力、これこそが日本の産業を切り開いてきた鍵だと思うんです。アフターコロナの時代もその力を生かして、どうやって新たな産業を生み出すか、そして雇用を生み出していくか、ということが最大のチャレンジだと思っています。

武田:私も学生時代ファミレスでバイトをしていたんですが、本当にたくさんのテーブルのお客さんに目を配りながら同時にいろんなことを考えないとできないんですよ。なので居酒屋の接客業って、ものすごいスキルだと思うんです。日本のサービス業に蓄積されたノウハウとかスキルというのは、どう社会で生かすかがとても大事だと思うのですが、麻木さん、いかがですか?

麻木さん:そういう形ってこれから起こると思うのですが、そのときに今コロナだからしょうがないじゃないか、というような形でそのスキルが買いたたかれることがないように、サービス業で培ったスキルが正当に評価されて生かされるように注視していきたいと思います。

武田:それにしても石井さん、この居酒屋の文化の火というのは本当に消したくないですよね。

石井さん:絶対消したくないですね。居酒屋というのは、僕は日本の仕事文化だったり、食文化を支える柱だと思っているんです。例えば会社ではエリート上司を演じているけど、酒場では野球好きなおじさんに戻れる。いいか悪いかではなくて、そうやって日常と非日常をうまくバランスを取っているということが言えると思うんです。食文化においても、串カツみたいなものというのは居酒屋を支えている料理だと思いますし、あるいはもつ鍋とか、どて煮とか、炉端とか…。

武田:ちょっと食べたいですね。

石井さん:そういったものというのは、本当に居酒屋を通して日本の全国に郷土料理が広がっていると思うんですよ。そうして見ると居酒屋というのは単なるお酒の場所ではなくて、日本の文化を支えてるんだと。だからこそコロナ禍では本当に不要不急かもしれないけど、日本文化を守るということで必要なんじゃないかと思っています。