クローズアップ現代

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2021年1月7日(木)
緊急事態宣言 雇用を守る現場の模索

緊急事態宣言 雇用を守る現場の模索

「雇用の危機」が続く2021年、新たな雇用を生み出している現場がある。大阪市のお好み焼き専門店は「地方」進出で新たな客層をつかみ、社員5人だった福島県内のプラスチック部品メーカーは専門分野の異なる企業とM&Aをした結果、互いのノウハウを生かして新製品を生み出し、従業員数を6倍にまで増やしている。取材から見えてくるのは、社会の変化を的確に捉え、平時では思いつかなかった発想の転換で活路を見いだしている点だ。始まった模索から厳しい時代を生き抜くヒントを探る。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから ⇒https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/

出演者

  • 中村朱美さん (minitts代表取締役/国産牛ステーキ丼専門店「佰食屋」経営)
  • 武田真一 (キャスター)

緊急事態宣言 危機を乗り越えられるか

武田:首都圏の1都3県を対象に、緊急事態宣言が出されました。感染拡大を一刻も早く食い止めなければなりませんが、雇用への影響を懸念する声も強まっています。
新型コロナの影響で仕事を失った人は、きょう(1月7日)発表された最新のデータでは見込みも含めて8万人を超えます。

中でも大きな影響を受けているのが、製造業や飲食業の現場で働く人たちです。全国の飲食店の倒産は、去年(2020年)1年間で780件と過去最多となりました。
こうした中、何とか雇用を守ろうという苦闘がそれぞれの現場で続いています。

ボトムアップで新たな活路を

創業以来の経営方針を抜本的に見直すことで、危機を乗り切ろうとしている企業があります。大阪にある従業員200人のお好み焼きチェーンです。客席の鉄板での実演など高級感のあるお好み焼きをコンセプトに、都市部の繁華街で業績を伸ばしてきました。

しかし、新型コロナの影響で去年の売り上げは一時、前年の3割にまで落ち込みました。二代目社長の中井貫二さんは、会社の存続に影響しかねない状況に危機感を募らせていました。

お好み焼きチェーン社長 中井貫二さん
「現状維持では間違いなく衰退に向かってくると確信している。まだまだ赤字が続いていますし、黒字まではまだ遠いですね。」



危機を乗り越えるため、中井さんが打ち出したのが『リボーン会議』。現場のリーダー、一人一人に改革案を考えてもらうものです。

中井貫二さん
「最終ジャッジはもちろん僕が責任をとってやるんですけども、でもアイデアを出すのは皆さんなので。」

50年近くトップダウンで拡大させてきた方針を、大きく変えたのです。
すると、危機感を抱いていた社員から次々と意見が飛び出しました。

社員
「デリバリー専門の店舗にできないか検討してみました。」

社員
「『ネオ大衆居酒屋』とか、親しみのある雰囲気を想定しています。」

中井さんが注目したのは、出店エリアを従来の繁華街から地方に移すという提案でした。

社員
「コロナの影響も地方の方が少ない。(店を)今まで出したことがない地域で出していくイメージです。」

大阪府内での売り上げをエリア別に比較すると、繁華街の店舗では4月以降低い状態が続いているのに対し、郊外の店舗では大幅に回復。11月には前年を上回ったのです。

しかし、地方に進出する上で課題になると見られたのが価格です。これまでの高級路線ではコロナ禍に受け入れられないのではないか、という意見が相次ぎました。

社員
「若者による若者のための店舗。」

社員
「チープであってもかっこいいとか、居心地が良いところを目指して。」

およそ半年にわたった議論。
新たな戦略として採用されたのが、若者やファミリー層向けに低価格のお好み焼きを売り出すことでした。
ある民間の調査によるとコロナ禍で接待や社内の会食などビジネス目的が減る一方、デートや家族の会食は前年比を大きく上回っていました。

中井さんは現場が提案した経営方針の転換を信じ、任せることにしました。

中井貫二さん
「もう変えていかないといけない。トップダウンでというより、むしろみんなで意見を出し合って話し合いをする場を作りたいなと思っていた。」

去年11月。地方での出店が決まりました。場所は岐阜で最大規模のショッピングモール。その責任者からは、都市部での考え方は通用しないとハッパをかけられました。

ショッピングモール責任者
「都市型の客層と比べれば全然違う。完全にファミリー主体。固定客をつかめるかどうか。」

ファミリー層に受け入れやすい低価格帯にするため、思い切った手段が採用されました。それは、会社の売りだった実演用の鉄板テーブルの廃止です。

ほかにも内装コストを下げるなどして商品価格を100円から200円、何とか下げることができました。

逆境のいまこそ 人材育成を

現場の意見を基にした改革とともに進めているのが、人材の育成です。中井さんは岐阜の店舗の責任者に、あえて経験が浅い社員を抜てきしました。
入社2年目の月山祐輝さんです。従来のやり方に染まっていないフレッシュさに賭けたのです。

入社2年目 月山祐輝さん
「必ず会社に貢献できるようにいたします。よろしくお願いいたします。」

およそ1か月にわたって、開店の準備を進めてきた月山さん。
この日、本番を想定したリハーサルを行いました。しかし…。

上司
「これ頼んでないんですけど。」

「申し訳ございません。」

注文が立て込むと、連携がうまく取れません。上司からは厳しい指摘が。

上司
「混乱してる?何で混乱しているか把握している?どこのお客さんを待たせているか、ひと声かけないと。」

月山祐輝さん
「他の従業員が手いっぱいのときに自分がフォローしてあげられるか。正直、営業に対しては不安でいっぱい。」

最初にうまくいかないのは、会社の想定内。月山さんはプレッシャーを感じながらも、やりがいを感じていました。



もう一つ大胆な戦略を打ち出しました。去年10月、17人いるパートタイムの従業員を全員正社員にしました。経験豊富でスキルが高い従業員が、コロナ禍で雇用や収入に不安を感じて流出するのを防ぐことが狙いです。

パートタイムから正社員になった 香月愛華さん
「だいぶ(営業時間の)短縮があったりとか、お給料面も不安定になるので不安はあった。そのなかで正社員にしていただける。すごくありがたいことだと思います。」

パートタイムの正社員化で会社の負担は増えますが、赤字が続く2店舗を閉鎖することなどで対応しました。700人いるアルバイトも、雇用調整助成金を使って解雇していません。

お好み焼きチェーン社長 中井貫二さん
「われわれ飲食業の最大の資産は人なんです。飲食業はどんどん規模がシュリンク(縮小)していく。今の状況でやらないといけないのは、しっかりと人を囲い込むこと。」



岐阜の店舗を任された、入社2年目の月山さん。いよいよ開店の日を迎えました。

価格は下げてもサービスの質は下げないのが、月山さんの作戦。スタッフがそれぞれの仕事に集中できるよう、みずから客の対応に当たります。


「お好み焼きの店舗がなかったので、欲しいなと思っていた。」

月山祐輝さん
「そうなんですか。」

ランチタイムには行列ができるほどの盛況ぶり。月山さんの機転によって、ミスなくもてなすことができました。


「味も良かったけど、店長の対応がすごく良かったですよ。気に入りました。」

初日の売り上げは…。

「40万5,000円、いきました!」

目標を2倍近く上回る結果となりました。

「40万はどういう数字?」

月山祐輝さん
「そこそこの店舗でしたら正月の売り上げ。年間で1番売り上げているみたいな。40万円を超えると全然違いますね。」

苦境の中、現場にあえて任せ人材育成に力を注ぐ中井さんの戦略。会社の業績を立て直すことは容易ではありませんが、やるべきことが見えてきたといいます。

中井貫二さん
「全員が覚悟を決めている。腹決めてやってくれている。同じ方向を向いて、一枚岩になっている実感はある。コロナの状況をもし打開できたとすれば、このあと何が起こっても何も怖くない。それぐらいの経験値がたまってきている。自分たちをもう一度磨き直す機会をコロナは与えてくれた。」

異なる能力を合わせ 従業員6倍

製造業の現場では、わずか3か月で従業員の数を6倍に増やしたというところもあります。
福島県にある、プラスチック部品メーカー。おもちゃなどの注文が途切れることがなく、生産に追われる日々が続いています。

プラスチック部品メーカー 藤田信一さん
「周りが『コロナ禍 コロナ禍』って話しているなかで、これだけの仕事があって。仕事に打ち込めるっていう喜びには代えがたいものがあります。」

一見、順風満帆に見えるこの会社。しかし、数か月前までは売り上げが10分の1以下に落ち込み、廃業の瀬戸際に追い込まれていました。得意としてきた自動車や医療機器に使われる部品の需要が蒸発したためです。

復活のきっかけとなったのは去年10月。全く分野の異なるメーカーによる買収でした。
東京でアニメのキャラクターグッズを製造する会社の社長・金子弘行さんです。

福島の企業を買収したアニメグッズメーカー社長 金子弘行さん
「この仲間たちとやっていければ、明確に勝てる。会社ももっと大きくできるだろうなと気付きもありましたね。」

アニメのキャラクターをプリントしたキーホルダーなどの製造を請け負ってきた、金子さん。今、新型コロナで生まれた状況をチャンスと捉えています。

これまで大手おもちゃメーカーは、主に中国の企業に発注していました。ところが、新型コロナの影響でそれが滞るようになり金子さんの会社に注文が相次ぐようになったのです。しかし、中国企業と同じものを作っていては価格競争では負けてしまいます。
そこで注目したのが、福島にあるプラスチック部品メーカーでした。立体的なものを作る金型の技術を取り込むことで幅広い注文に応えられるようにし、収益拡大の足がかりを作ったのです。

金子弘行さん
「ちっちゃい会社だからこそ、いろいろなリソースを集めてくることによって強い組織をつくっていく。これこそがこれからの時代、中小企業が生き残る道。」

経営面だけでなく、従業員一人一人にもよい効果が表れています。
金子さんの会社の傘下に入った福島のメーカーで精密機械の部品を作ってきた小山武彦さん(62歳)。取り組んでいるのは、かぶとむしの幼虫のフィギュアを作るための金型です。

プラスチック部品メーカー 小山武彦さん
「『えっ?』っていうのがありました。全然畑違いの仕事ですから全員がそう思いました。『できんのかい』って。」

つなぎ目が見えない丸みを帯びた胴体や、なめらかな触角。熟練の技が生かされています。

「こうやって形になると?」

小山武彦さん
「いいっすね。」

以前は仕事がなく転職も考えていましたが、今かつてないやりがいを感じています。

小山武彦さん
「(買収前は)ただ会社を仕事しないで往復しているだけ。娘から『もう帰ってきたの?』、『きょうも仕事ないんだ』って。仕事ができる。それがいちばんやっぱり、われわれにとっては最大にうれしいこと。」

受注が増えたことによって、従業員の数を以前の5人から30人にまで増やしました。
その1人、先月採用された森田香織さんです。

森田香織さん
「コロナの影響で人員削減に遭いまして、7月に職を失いました。」

森田さんはこれまでたび重なる不況の影響で、不安定な仕事にしか就くことができませんでした。夫と息子の3人暮らし。正社員にもなれる可能性があると聞き、この会社に応募しました。

森田香織さん
「過去にリーマンショックとか震災とかがあって、その度に派遣の契約を切られてきて今回コロナでまた切られたので。」

夫・考次さん
「やっぱりこういう時期ですから(自分の)給料もやっぱり残業も何もない。先が見えないのがいちばん怖いんで。自分と妻と両方の柱があれば何とかやっていけるのかなって。」

失業保険が切れる前に新たな仕事を見つけ、安心して新年を迎えることができました。

森田香織さん
「私が今月(12月)働き始めたことによって、お正月に食べるものがちょっと豪華になるかなって。給料を見越して、ちょっと華やかないいお正月を迎えられそうな。」

仕事納めとなった先月29日。社長の金子さんは福島の工場を訪ね、2021年には新たな挑戦に打って出ようと現場の従業員に呼びかけました。

金子弘行さん
「これが卵子の凍結保存用の器具として、商品化できる見通しになりました。うちの力を結集して、来年モノにしていきます。」

ここで開発を進めてきた、不妊治療に使う『受精卵の凍結保存器具』。直径わずか0.3ミリ。受精卵を傷つけることなく確実に保存することができるという、プラスチック製の容器です。業績の悪化で計画を見送ってきましたがアニメグッズの販売収益で十分な予算を確保できたことから、商品化に乗り出すことができたのです。

経営を支えるアニメグッズと、不妊治療器具という2つの柱。異なる専門能力を併せ持つことで、見えてきた活路です。

金子弘行さん
「1個のことに集中していってしまうと、どうしても災害であったりとかコロナ禍において勝ち残れない可能性が高い。柱をどんどんつくっていって、中小零細ながらも強い会社を目指していきたいと思います。」

飲食業 生き残りへの模索

武田:私たちは、もう1人経営者に話を聞いてきました。去年9月、番組に出演していただいた中村朱美さんです。
2020年9月:中村朱美さん出演回

経営するステーキ丼専門店が大きな打撃を受け、店舗の一部閉鎖や従業員の解雇を迫られました。中村さんの新たな模索を去年の暮れ、取材してきました。

あれからおよそ4か月。中村さんのお店は、大勢の客でにぎわっていました。

閉鎖した店舗の再開や解雇した人たちの再雇用はせず、新たにアルバイトを4人採用するなどして店を運営しています。

武田
「前回伺ったときには従業員を解雇されたことに心を痛めていましたが、雇用の回復の道筋は?」

中村朱美さん
「まだそんなにたくさん採用を回復するところまでには至っていないですが、お店は忙しい状況に戻ってきていますので、このあともしかすると少し採用が増やせる道筋が見えてきたのかなと思っています。」

多くの人が自由に外食する機会を失う中、中村さんはこの状況をどう乗り越えようとしているのでしょうか。

中村朱美さん
「自由に外に行けなくなった制約のなかで、果たしてみんなが食においてどこにいちばん優先順位をつけていくのかとなったときに『応援したい』と思う企業、もしくはとても『特別感』があって、ちょっと高くてもいいからどうしても手に入れたいと思うもの。この2つの優先順位がコロナを経て、とても上がってきたなという実感はあります。」

特別であることの大切さに気がついたという中村さんは、重い決断をしました。実現まであと一歩というところまで進めていた、全国展開を取りやめたのです。

中村朱美さん
「どこでも食べられるいつでも食べられる商品は、どうしても絶対応援しようと思う対象になるかというとそこは少し薄れてくるんじゃないかなと。これがなくなったらもう二度と食べられないという背景が、より人の応援をいただけるんじゃないかというのもあってフランチャイズをやめることも決断しました。」

その上で、中村さんは新たな試みを始めています。コロナ禍で広がるデリバリーにどこまで可能性があるのか。それを探るため、地元の有名パン屋とカレーパンを共同で開発。

どんな広告にどれくらい経費をかければ売り上げに反映されるのか。費用対効果を分析し、結果をネット上で公開。ほかの飲食店にも参考にしてもらいたいと考えています。

中村朱美さん
「もう1回、飲食店が元気になるような取り組みができないだろうかというのをずっと考えていました。どういうふうにしたら今まで使っていなかった人がデリバリーを使うだろうということをこの短い期間でも検証する必要があるなと感じた。コロナを経てすごく思ったのは、もはや1つの企業だけで生き残っていけないんじゃないか。1つの企業で単独で頑張るには限界があって、そうではなく同じ業種が、本当だったらライバルだと言っていた業種が手をつないで、そこが一緒になって頑張ることがもしかすると未来をつくっていくんじゃないかと考え始めました。」

どう守る 女性と高齢者の雇用

お店の様子を見ていると、あることに気がつきました。生き生きと働く女性や、高齢者たちの姿です。

武田
「中村さんのお店では女性、あるいは高齢者といった、コロナ禍で最も影響を受けやすい人たちが数多く働いていらっしゃいますね。」

中村朱美さん
「男性従業員2人がたまたま休みだったら、全員残り女性しか出勤していない日がかなり頻繁に起こる。その日を実は私は心配していました、最初は。いざふたを開けてやってみると女性だけでもしっかりちゃんとやってくれるし、重たいものがあったら2人で運んでくれるし。みんなが思っている職業の男女の区別は必要ないんじゃないかなと。その気付きが、いますごくワクワクしたかたちで私の中で残っていて、これから先、女性の力はもっと発揮できる場所ができるんじゃないかなと思っています。
(コロナ禍で)いちばん最初に注目された業界、飲食業が明るい未来に転換できなかったら、このあとほかの業界だって悲しくなってしまう。だからこそ未来が見える、必ず復活できるんだという背中を世界に発信しないといけないなと思っています。」

緊急事態宣言 影響は

武田:今回の緊急事態宣言の影響を、エコノミストはこう試算しています。特に影響が大きいと見られる業界では、去年10月までに回復に向かっていた利益が飲食業で1割余り。旅客運送業で2割。宿泊業では4割近く再び落ち込むとしています。

試算をしたSMBC日興証券チーフマーケットエコノミストの丸山義正さんは、特効薬はないとしながら政府が雇用調整助成金などの『支援策を継続すること』、そして現場の人たちが希望を持てるよう宣言解除後の『ビジョンを明確に示すこと』が欠かせないと話していました。