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2020年12月18日(金)

急増 家庭内感染 家族の命をどう守るのか

急増 家庭内感染 家族の命をどう守るのか

新型コロナの第3波で今、広がっているのは「家庭内感染」だ。都内の感染者で感染経路が明らかな人のうち、家庭内で感染した人が11月に入って4割を超えた。大阪市で一家5人が感染したケースや自分が感染したため同居する80代の認知症の父親を濃厚接触者にしてしまったケース。同じ家族でも病状や後遺症が異なったり、収容先の施設で別れ別れになったりするなど、想定を超える事態に見舞われる。感染者家族を受け入れる施設をつくる行政の取り組みなどを通して命を守る手立てを考える。

出演者

  • 堀成美さん (感染症対策コンサルタント)
  • 武田真一 (キャスター) 、 小山 径 (アナウンサー)

一家5人が感染 次々と思わぬ事態が

家族5人全員が感染した、長谷部さん一家です。最初に感染が確認されたのは、59歳の元伸さん。一時は重症化し命の危険すらありました。しかし、発熱した当初は熱中症と思い込み、会社は休んだものの、自宅で家族と過ごしていました。

長谷川元伸さん
「自分がコロナにかかっていること自体が、想定していなかった。」

息子
「家の中だったら、マスクなんか絶対しない。」

発熱から3日後、元伸さんの熱は39度まで上昇し、救急搬送されました。元伸さんはコロナ陽性で入院が決まり、ここから一家は、予想外の出来事に次々と直面することになります。

妻の早苗さんは、着替えなど入院生活に必要な物を届けようとしましたが、病院からは「家族は来られない」と思わぬことを言われました。

妻・早苗さん
「家にあるものは、持ってこないでください。コロナウイルスがついているので、病院内に持ち込むことはできません。さらの物(新品)を買って、持ってきてください。ただ持ってくるのは、家の人以外の人が持ってきてください、ということだった。」

一家全員が「濃厚接触者」とされ、病院に行くことができず、離れて暮らす親戚に頼るしかありませんでした。

実は、新型コロナに感染した人は、発症の2日前から、発症後も7~10日程度は、ほかの人に感染させる可能性があるとされています。
全員コロナ陽性が確認された、長谷部さん一家。症状はそれぞれ異なりました。元伸さんは「発熱」。母親は「せき」の症状があり、2人の息子はそれぞれ「嗅覚」と「味覚」がなくなりました。一方、早苗さんは無症状でした。

保健所の指示で、発熱した元伸さんは入院。高齢の母親は別の病院へ入りました。軽症の息子2人は、病院ではなく療養施設へ。早苗さんも別の施設へ行くことになりました。一家はバラバラとなったのです。

離れ離れの中、お互いの状況を知る唯一の手段が、携帯でのやり取りでした。

“お袋が心配。後のこと頼む。”

“早く治してもらって。大丈夫やから。”

“すまん。”

しかし入院から5日後、元伸さんの容体が急変します。人工呼吸器を装着し、意識のない状態が続きました。早苗さんは病院から、元伸さんの症状に変化があれば連絡するので、問い合わせは控えてほしいと伝えられました。療養施設で1人過ごす日々。不安は増すばかりでした。

早苗さん
「みんながバラバラになっているから、何か、さみしいというか、不安というか。対面でいたら『お父さん、ああだね、こうだね。心配しないでも大丈夫じゃない?』とか励ましあえるけど。」

息子たちは、最悪の事態すら覚悟したといいます。

息子・健太さん
「骨になって帰ってくるのかな、と考えて。ニュースでも、お通夜もお葬式もできずに、そのまま骨になって帰ってくると聞いてたので。」

意識を失って1週間後。治療の結果、元伸さんは目を覚まし、家族も全員回復しました。みずからの経験から、元伸さんは、家族全員が感染する最悪の事態にも備えたほうがいいと感じています。

長谷部元伸さん
「本当は、かからないのが一番いいんでしょうけど、かかっちゃうケースがあると思うので。かかったあとのことも想定しておくのが大切なんじゃないかと思う。」

不安 高齢の親に感染させてしまうかも…

家庭内感染が広がる背景に何があるのか。その一つが、自宅療養の増加です。この1か月間で、およそ6倍にまで急増しています。

特に深刻な影響が出ているのが、高齢者と暮らす家庭です。
神奈川県に住む金井晃さんは、認知症の父親を自宅で介護しています。9月に感染し、思わぬ事態に直面しました。

(9月撮影)金井晃さん
「本日・午前10時半に、保健所から電話があって、私もコロナと診断されてしまいました。」

金井晃さん
「36度8分だ。」

金井さんは勤め先で感染したとみられ、同居する父親は濃厚接触者となりました。そのため、これまで週に5日通っていたデイサービスが、利用できなくなってしまったのです。

金井晃さん
「どこか預けられる場所だとか、対応不可能かどうかってことを…。見つからないですよね。」

父親の受け入れ先を探しましたが、すべて断られ、やむをえず金井さんみずから、自宅で療養しながら介護を続けることになりました。

金井晃さん
「あっち(食卓)では、しばらく食べない方がいい。うつっちゃうといけない。」

食事や排せつの処理など、接触が避けられない中で、家庭内感染への恐怖と闘い続けていたといいます。

金井晃さん
「殺してしまうんじゃないかと思うような感じでしたね。うつしたら死んでしまうと思っていましたので。やっぱり、かなり精神的には、負担は大きかったですね。」

幸い父親はウイルスに感染せず、金井さんも軽症で回復しました。しかし、部屋に閉じこもる生活が続いたため、認知症の症状が進んでしまったといいます。

金井晃さん
「朝は起きられなかったり、拒否があったり。リズムが乱れてしまうと、それを取り戻すのにやっぱり何か月か、かかってしまうという現状があります。」

親子で入院 母親の思い

幼い子どもを育てる親も、みずからが感染したとき厳しい状況に直面します。

「ここが感染症の病棟で、ここが親子で入院されている方がいらっしゃるところです。」

この病院には、新型ウイルスに感染した40代の女性と、その後、感染が分かった夫と娘が入院しています。

東京都立大塚病院 感染管理 看護師長
「ここのお部屋ですね。お母さんが陽性で入院されまして、そのあと、濃厚接触者であるご家族が。」

父親は別の病室に入院。母親は息苦しさと微熱が続いていますが、6歳の娘を1人にしておけないと、同じ病室で治療を受けることにしました。娘にさみしい思いをさせずにいられる安心感がある一方、病室で過ごす様子を間近で見て、ある思いにさいなまれているといいます。

母親
「感染させてしまったので、かわいそうな思いをさせたなと。私の今回の感染で、罪悪感というか、申し訳ないなっていう気持ちは、すごくあります。」

医療スタッフは母親が自分を追い詰めることを案じていますが、感染リスクもあるため、十分なケアができないことにもどかしさを感じています。

病棟 看護師長
「お母さん自身も、病気なんですよね。だから子どもさんの面倒も見つつ、自分も具合悪いっていうところは、やっぱり大変かなって。私たちも時間的に入れるのは限られておりますので、お母さんの言動とか気をつけてますけど、疲れているなと。」

病院では感染した家族を支える、懸命の取り組みが続いています。

東京都立大塚病院 小児科部長 安藏慎医師
「親御さんが感染してしまうと、お子様がたとえ軽症で済んだとしても、病気以外の点で、すごくさみしい思いをしたり、つらい思いをしなければいけないことがあったり。全力を尽くしてやらせていただくという以外にないとは思っております。」

家族でも異なる後遺症

家庭内感染による家族の苦悩。取材を進めると、実は治療が終わったあとにも別の悩みがあることが見えてきました。「コロナの後遺症」です。

夫婦ともに感染した、30代の女性です。感染直後は、夫婦2人とも高熱は出ましたが、軽症でした。夫は回復し、元の生活を送れるようになりましたが、女性は頭痛や食欲不振などの後遺症が続いています。

夫婦ともに感染 30代女性
「同じウイルスなのに、なんでこんなに症状も経過も違うんだろう。」

女性は家事が思うようにできなくなり、夫に負担をかけていると自責の念に駆られています。

30代女性
「本当に精神的にもつらい。早く治りたい。」

コロナ後遺症は「息切れ」や「けん怠感」、「嗅覚の異常」など、さまざまな症状が現れると報告されています。また、家庭内感染であっても、後遺症の症状は一人一人異なり、長引くケースも少なくないといいます。

長引く後遺症が、家族の人生を揺るがし始めています。この一家は、来年(2021年)に大学受験を控える長男と母親が、コロナ後遺症の疑いがあると診断されました。長男が症状について記録しているノートです。

コロナ後遺症疑いの長男
「11月10日だったら、1限目に物理のテストがあったんですけど、つらくて早退したっていうことと、この日は頭痛じゃなくて、けん怠感がひどかった。」

実は、長男と母親が、コロナと思われる症状に見舞われたのは3月下旬。しかし、発熱は4日以上続かず、PCR検査は受けられませんでした。その後も半年以上、長男と母親はけん怠感などが続いたため、専門外来を訪ねたところ、コロナ後遺症の疑いがあると診断されたのです。

なかなか回復しない中、母親は先月(11月)、とうとう離職に追い込まれました。そして、長男は登校することもままならず、目前に控えた大学受験に、不安を募らせています。

長男
「他の受験生と、同じ土俵に立てていないのが悲しいです。」

母親
「まさかこんな状態になるというのが、本当になかなか受け入れられないし、あと数か月後、どうなっているのかわからないことが一番不安ではあります。」

コロナ後遺症の治療に当たる平畑医師は、こうした家族が今後も増え続けるのではないかと懸念しています。

平畑光一医師
「後遺症で(家族の)人生が破壊されることは結構よくあるので、そこは本当に危惧しているところ。相当数の悲劇が生まれる。すでに生まれているといっても、過言ではない。」

家庭内感染が急増している“第3波”のいま、私たちは何をどう備えればいいのでしょうか。

家族で何ができるか

武田:このように家族の1人でも感染すれば、もたらされる苦悩は計り知れません。家庭にひとたびウイルスが持ち込まれますと、感染を防ぐのは容易ではないんです。対応を難しくしているのが、このウイルス特有の感染と発症の特徴です。

小山:感染した人が、ほかの人に感染させてしまう可能性がある期間は、どれぐらいあるのか。厚生労働省によりますと、「ウイルスの排出量」が特に多くなると考えられているのは発症の直前・直後です。ただ、このウイルスのやっかいなところは、発症する2日前から感染させる可能性があるという状況。さらに、発症後も7日から10日程度にわたって感染させてしまう可能性が続くとされているんです。

武田:まず、家族の誰かに疑わしい症状が出たとき、私たちはどんなことに気をつければよいのか。感染症対策の専門家に話を聞いてきました。

感染症対策コンサルタント 堀成美さん
「例えば、おうちにお部屋がいっぱいあれば、部屋を別にする。それがちょっと難しいというときも、ソファーとテーブルで別れられるなら別れる。寝るときも頭を並べないで、顔の位置を離して寝るなど、距離をとるといいと思います。」

堀成美さん
「お食事の時間をずらしてとっていただく、などの工夫があると思います。お風呂に入るとか、シャワーに入るときも、(具合が悪い人を)一番最後にするやり方もあります。一番最初に入るのなら、具合の悪い人が入ったあとは、触る場所などを洗剤で洗うといいかなと思います。」

武田:もし家族の誰かに症状が出たら、まず家の中でもマスクをつけること。さらに、部屋を別にする。それが難しい場合は、距離と時間差でなるべく接触を減らすことが有効だということです。
そして、感染前にもできる対策があります。感染することを前提にして、あらかじめ家族の間で相談して備えをしておくことです。

堀成美さん
「例えば、かかりつけの先生や、その人がどんなお薬をのんでいるかを把握している薬局の人など、意外といろんな人たちが連携しないと難しいことがあると私は思っています。ですので、ただ体だけ(病院やホテルに)預かってもらうだけじゃなくて、そのまま安心して生活できるように、毎日必要なこととか健康上のお約束事とか、時間で決まった何かやることなどをメモで置いておけるといいかなと思います。」

武田:このほかにも、ホテルや実家などの「避難場所」を決めておく。そして、例えばいつも食事を作っている人が感染したら、「誰が代わりに準備するのか」など、誰が感染したらどう行動するか、具体的に話し合っておくことが大事だということです。さらには、コップの使い回しや子どもの食べ残しを親が食べるなど、家庭内で共有している習慣も避けたほうがいいということです。

小山:さらにコロナは、ひとたびかかりますと、後遺症に悩む人も多いということで、「陰性」となった後も家族を守るための対策があるということです。
まずは、「動かない」こと。例えば、けん怠感が続いているというときに、体力が落ちているせいだと思って、体を動かそうという人もいるそうなんですけれども、医師によりますと、そのことが後遺症をより悪化させる可能性があるということなんです。
もう一つは、個人差を「理解し合う」こと。家族の中でも後遺症はさまざまです。元どおりの生活に戻れていなかったとしても、「後遺症かもしれない」と理解することが大事だということです。

武田:ひとたび新型コロナに感染しますと、長期間にわたって気の抜けない日々が続くわけですが、そうした家族を守ろうという取り組みが始まっています。

家族を“一時預かり” 不安を和らげる

神戸市に暮らす70代の男性です。認知症の妻の介護をしてきましたが8月、自身が感染。介護ができなくなりました。県内の別の町に暮らす長女のさやかさん(仮名)は、デイサービスの利用を考えました。しかし、母親は濃厚接触者という理由で、断られたといいます。

長女 さやかさん(仮名)
「母がこの状態だったから、とにかく母をどうにかしないといかんというのが一番でした。仕事を辞めるかまで考えたりとかもしたし。」

神戸市に相談したところ、家族の感染が原因で介護を受けられなくなった人のための施設を紹介されました。市が5月から始めたものです。さやかさんの母親は、父親が退院するまでのおよそ2週間、ここに滞在することができました。

さやかさん
「仕事も普通にそのままできた。母は施設に入れてもらえたっていう安心感がありました。連絡も密にとってくださったし、本当に助かりました。」

こうした取り組みは各地でも広がっています。
東京都港区では18歳未満の子どもを預かる施設が、岩手県陸前高田市では高齢者と障害者・子どもを受け入れる取り組みが始まっています。

埼玉県内にある特別養護老人ホームでは、10月、県がその駐車場の一角に一時受け入れ施設を設置しました。

「こちら、合わせて5棟になるんですけども、万が一のために、5人まで収容できるようになっています。」

個室には、トイレやシャワーなどのほか、介護用ベッドなどが整備されています。

小山
「隣に介護施設があって、システムとしては心強いところですか?」

設置に協力した介護団体 役員
「昔の長屋じゃないですけど、みんなで協力しながら、助け合いながら。」

県内に設置された施設は7か所。費用は全額、県が負担し、隣にある介護施設が3度の食事を提供します。さらに、介護施設が加盟する協議会がスタッフを募集し派遣。24時間態勢で、支援に当たることになっています。

埼玉県 福祉部・保健医療部 地域包括ケア 金子直史局長
「(介護している)自分がなったらどうしょうかと。誰もいなくなっちゃうとどうしたらいいんでしょうっていう不安を、“あそこがあるんだ”ということで、ちょっと安心するわけですよね。最後のセーフティーネットということで、この仕組みを活用していただきたい。」

何をする?医療現場の対策にヒント

家庭内感染を防ぐために、自分たちの取り組みを参考にしてほしい。新型コロナと闘う医療の最前線からは、そうした声が上がっています。

この病院では、とりわけ集中治療室で働くスタッフは、家族に感染を広げないため、また、病棟にウイルスを持ち込まないため、徹底した感染対策を行ってきました。

看護師
「小さい子どもがいるので、うつるわけにはいかないので、気は遣っています。手洗いうがいと、食卓を食べる前と食べる後で必ず消毒しています。」

「人混みにはあまり出歩かない。用事がないかぎり、外に出歩かないようにしています。」

唯一、一息つくことができる昼食の時間。この半年あまり、マスクを外しての会話は禁止されています。

妻と2人の子どもと暮らす臨床工学技士。主に人工心肺装置「ECMO(エクモ)」などの管理を担当しています。集中治療室での勤務が続く間は、病院が借り上げたアパートで家族と離れて過ごしました。

臨床工学技士
「テレビ電話をして、子どもと常に話していたり。僕もすごくさみしかったので、心が病んでしまって。家族に持ち込まないで、ここで医療の僕の責任を果たす。任務を果たす。」

こうした対策は、医療スタッフの大きな負担となっていますが、それを続けることが家庭内感染を防ぐカギになるといいます。

聖マリアンナ医科大学病院 救命救急センター長 藤谷茂樹医師
「われわれ医療従事者がどのような対策を講じているかというのを、一般の市民の人たちに知ってもらうことが、家庭内感染を低くしていくのに有効ではないかと思っています。」

家庭で何ができるか

小山:家族や医療体制を守っていくためにも、年末年始にかけて私たちができること。まずは、忘年会や新年会をするならば、ふだん一緒にいる人と少人数で。帰省は慎重に検討してください。そして、休暇の分散取得も推奨されています。

武田:きょう(18日)は東京で664人、全国ではこれまでに2,826人の感染が発表されています。

家庭内で感染する人が増え続け、医療崩壊の懸念が高まる中、私たちはどんな心積もりをしておくべきか、改めて専門家に聞きました。

感染症対策コンサルタント 堀成美さん
「“崩壊”とか“ひっ迫”というと、皆さんが恐怖を覚えてしまうと思うんです。もう少し具体的に考えると、皆さん、自分の家族がコロナウイルスに感染するとは思っていないかもしれませんが、体調が悪くなったとき、困ったときに『診てあげられませんよ』と言われたら困ると思うんです。なぜみんなが努力するのかというと、コロナに感染してしまう人がいるからではなくて、医療を必要とする人がたくさんいて、その人たちのために(努力する)と考えるのがいいと思います。」

武田:いつ自分や家族が感染してもおかしくない状況ですが、私たちにできることもあります。いま一度、一人一人の行動を見つめ直しましょう。そして、乗り切りましょう。